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この物語はおふざけの産物であり、内輪ネタが満載されています。
真面目なお話が読みたい方にはオススメ出来ませんのでご注意ください。



「お腹が空いたよぉ……ハチミツ食べたいよぉ……」

 一人の少女が力無く呟いた。

「このまま、死んじゃうのかなぁ………」

 悲しげな少女の呟きを聞く者は存在しない。なぜならここは漆黒の宇宙だし、この宇宙船の乗組員は少女一人だったのだから。

少女は優秀なアストロノーツだった。最年少天才パイロットとして故郷では知られた存在であり、もっとも適正が高かった為にワープシステム実験船のテストパイロットに選ばれたのだが…。

「まさかワープ装置が暴走するなんて」

 前世紀の外宇宙探査船にワープ航行で追いつき、状況をを確認して帰還する予定だったのだが、ワープエンジンが暴走してしまい未知の宙域を一人漂流する羽目になったのである。

「一人は怖いよぉ…寂しいよぉ…」

 アストロノーツ、つまり宇宙飛行士である以上は事故やミスで死ぬこともあると覚悟はしていた。しかし、誰にも知られることなく一人寂しく死ぬのかと思うと、とても悲しくなった。故郷の人々に別れの挨拶をしたい…お礼の言葉を伝えたい…せめて一言だけでも……。

 食料も水も尽きていた、生命維持装置も不調であり、そもそもエネルギーが尽きかけている。少女は何時死んでもおかしくない状況下にあった。餓えと寒さのせいだろうか? 酷く眠く、意識が朦朧としている。

『もうダメ…』

 心の中で呟く。迫り来る死に対して抗う術は無く、少女に出来るのはただ終わりの時を待つ事だけだった。

「はふぅ…」

 ため息を一つ吐くと、座席に座り直し、目を瞑る。疲れ切っていたのだろう、途端に少女の意識は薄れていった…。

 ………………。

 ………………。

 ………………。

「dztlr.i’! ej、qr:.i’!」 

 何かが聞こえた気がして少女は必死に目を開けた。

「天使さま?」

 視界が霞んで良く見えないが、誰かが自分を見ている、優しく抱きしめてくれている。

『一人で寂しく死ななくても良いんだ…だって天使が見守ってくれてるもの』

 少女は天使に微笑むと気を失った。


ドジで子グマな漂流者

作:OYAZI


「まずいのにゃ! きっとれも副司令が怒っているのにゃ!!」

 かわねこは慌てていた。彼女は【さんこう】で宇宙ステーションTS9に帰還する途中である。

「慌てても到着時間は変わらないぞ」

 そんなかわねこを頼香がたしなめるが…。

「何をのんびりしてるのにゃ!? 急がないとまずいのにゃ〜!!」

「だから、これ以上は無理だって! そもそも、かわねこが時間を忘れて遊んでたのが悪いんだろ!!」

 そう、かわねこはTS9の職員の癖に近隣の某惑星で遊んでいたのである。

「それは………頼香ちゃんも同罪にゃ♪」

 一緒に食事をした頼香に向かってかわねこはニッコリと笑った。もっとも、笑顔が引きつっているし、こめかみからは汗が流れていたりする。

「………おっ俺は休憩時間に同僚に奢ってもらっただけだぞ」

 頼香がそっぽを向いて呟く。かわねこと異なり、頼香の勤務地はその某惑星なので、任地を離れて遊びに行ったかわねこよりは言い訳がしやすい。たとえ事実は同僚に夕食を奢らせただけだったとしても。

「あ〜! 頼香ちゃんだけずるいにゃ!」

「事実だって」

 そう言いつつ頼香も汗をかいていたりする。やはり後ろめたい思いがあるのだろう。

「頼香ちゃん、冷たいにゃ…」

「しらん! 自分でなんとかしろ」

 こんな風に少女がじゃれている時にはそれを邪魔する事件が起こるのがお約束である。そして作者はお約束に忠実であった(マテ)。

 ビービービービービー!

 突然、船内にエマージェンシーコールが鳴り響く。その瞬間二人の顔がじゃれあう少女のモノから連合士官にふさわしい真面目なモノに変わった。

「何事だにゃ!?」

「………未確認の構造物を発見! どうやら宇宙船みたいだ」

「宇宙船かにゃ? 識別コードは?」

「識別コード無し、データに無い船形だ!」

「データに無いのかにゃ?」

「映像に出すぞ!」

 モニターに見たことの無い形の宇宙船が写る。どうやら大破したらしく、船尾が溶け落ちたように見える。

「酷いのにゃ…」

「あの船からの信号をキャッチした。連合のものじゃないな、短い周期で繰り返し同じ信号を発信しているけど…ひょっとして救難信号か?」

 未知の宇宙船が発信する信号は頼香が知るモノとは形式が異なっており意味が掴めない、しかし、宇宙船が大破した状態で発信する信号ならばSOSである可能性が高いだろう。

「未知の宇宙船ってことは未知の種族が乗ってるんだろうにゃ〜。ここはとりあえず通信を送ってみるにゃ!」

 かわねこはそう言うと、通信装置を操作する。相手の通信装置は単純なモノで簡単に割り込みをかけることが出来た。

「前方の宇宙船! ここはTS9の警戒領域にゃ! すぐさま停止して指示に従うにゃ! ………にゃにゃ!!」

 モニターに相手の宇宙船内部が映し出される。そこに写ったのは衰弱しきった未知の獣人の姿だった。気絶しているらしくピクリとも動かない、呼吸はしている様だがとても苦しそうだ。酸欠の危険もある、急いで救助しなければ命に関わるだろう。

「頼香ちゃん、急いで接舷するにゃ! 緊急事態だにゃ!」

「わかった!」

「ボクが乗り込むから頼香ちゃんは船に残って周囲の警戒をお願いするにゃ」

「了解! ついでにあの船の回収準備もしておく!」

 『これで遅れた言い訳が出来たにゃ(な)♪』こっそりとそんな事を考えつつ、二人は救助活動を開始した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 帰還したかわねこと頼香の二人は緊急会議に出席していた。救助の様子を報告するためである。ついでにかわねこは遅刻を正当化しようとしていた。

「………救助の為にTS9への帰還が遅れた…と?」

 れも副司令はかわねこを軽く睨んでいた。かわねこが某惑星に遊びに出かけていたことは複数の証言により確認済みの事だったからだ。

「その通りですにゃ」

 しかし、かわねこはれも副司令の視線にもめげずに平然と答えを返す。

「…まあ良いでしょう。人命救助をしたのは事実ですし」

 疲れたような表情でれも副司令が呟いた。【れも副司令】は本来の姿である【かわねぎ司令】の部下であり、【かわねこ少尉】の直属の上司である。二つの姿を持つがゆえの複雑な関係である。

「ドクター、少女の様子はどうなのですか?」

 れも副司令がドクターのライル・フォーレスト少佐に確認する。かわねぎ司令が不在なので、れも副司令がTS9の最高責任者として基地の安全に責任を持たねばならない。当然、会議を進行するのもれも副司令の仕事となる。

「クマの耳と尻尾を持つ、獣人型のヒューマノイドだな。おそらく年齢はライカ少尉やかわねこ少尉らと同年代だろう。衰弱している様子で今は医務室で眠っているぞ。船からも本人からもウィルスその他の危険は検出されていない」

「所持品のチェックはしましたか?」

「技術部で確認した所、個人の武装は無し、船首にレーザ砲が確認されましたが武装と言うよりはデブリを排除するための装備と推測されます」

 技術部のオヤンジュ中尉が発言する。

「そうですか、楽観は出来ませんが危険人物である可能性は低いようですね」

 異論は無いらしく会議に出席している全員が頷く。

「ドクター、少女が快復するのにどれくらいかかりますか?」

「そうだな、衰弱は栄養不足のせいだから、栄養と休養を十分に取ればすぐに快復するだろうが…正確な所は彼女が目覚めてくれないと判らんよ」

「では、少女が話せる程度に快復するのを待って、事情を聞きましょう」

「了解した」

「あの娘はどうなるんですか?」

 発言が途切れ、タイミングを計っていた頼香が質問した。

「とりあえず遭難者として処理するわよ。目が覚めて快復したらいろいろ聞いて、場合によっては国交を求める事になるかもしれないけど、その辺は辺境のステーションが考える事じゃないわね」

「そんなところですにゃ」

 れも副司令がそう答え、かわねこも頷いている。見た目は少女でも中身は基地司令の中佐であるから、政治的な判断もちゃんと出来るのである。

「では、ドクターはあの娘が目を覚ましたら連絡してください。ライカ少尉、かわねこ少尉は事情聴取に立ち会って貰うかもしれないから、そのつもりで」

「「了解しました(にゃ)!」」

 ドクターは黙って頷き、二人の少尉は敬礼して返答する。そして会議は解散となった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「がお? ここはどこ??」

 所は変わって、医務室である。ドクターが考えたより遙かにタフだったクマ耳少女が目を覚ましていた。

「??? 天国じゃ無いよね?」

 辺りを見回して呟く。知らない装置ばかりではあるが、この場所の雰囲気は医療現場としか思えない。

「救助されたの? でも、いったい誰に??」

 少女の種族である【ポリノーク】がこの宙域に来ることはあり得ない。ポリノーク族の技術レベルは惑星間航行までで、恒星間航行が可能な船は少女の乗っていた実験艦だけだったのだから。

「まさかとは思うけど………異星人に救助されたって事?」

 信じられないが、そう考えるしかなさそうだ。とにかく状況を確認しないと始まらない。クマ耳少女はあたりの様子を伺い観察する事にした。



「やれやれ、ようやく会議が終わったか…面倒な会議なんかより少女の寝顔を見ている方が楽しいってのに」

「こんな所にいたんだ〜! ドクターがあたしを呼んでるって聞いたんだけど?」

 医務室に帰る途中のドクターを呼び止めたのは、DOLLであるピナフォアだった。ピナフォアは天井のダクトから逆さまに頭を出している。

「ああ、すまないな。ピナフォアに聞きたい事があったんだ」

「聞きたいこと?」

 ピナフォアがダクトから飛び降りライル少佐に歩み寄る。

「うん、かわねことライカが異星人の遭難者を救助したのは知ってるかな?」

「まあね、噂になってるし」

 ピナフォアが肩をすくめて答える。噂好きのTS9職員の事だから色々と尾鰭がついた噂が乱れ飛んでいるのだろう。ドクターはついてくるように促すと歩き始めた。

「ひょっとして君なら、遭難者の種族の事を知ってるんじゃないかと思ってね」

「あたしは色々見てきたからね〜♪ それで、どんな人なの?」

 二人は医務室に向かいながら会話を続ける。

「クマの様な耳と尻尾をもつ獣人型ヒューマノイドの少女だ。見た目は耳と尻尾以外、テラン人と変わらないな」

「ふむふむ、他には?」

 思わずドクターは苦笑する。

「衰弱しきった所を保護したのでね。今は眠っているし詳しい検査はマダなんだ、解ってるのはこれくらいなんだよ」

 そんな話をしている内に二人は医務室へ到着した。

「ともかく一度見てくれないか? もし知ってることがあったら教えてほしい。凶暴な種族だったりしたら危険だしな。ああ、勿論タダでとは言わんよ。食券5枚でどうだね?」

「ホント? それくらいお安いご用だよ〜♪」

 喜ぶピナフォア、彼女はこの調子で買収されることが良くある。これでも長命を誇るDOLLの中でも最年長クラスの人物なのだが…。

「と言ってもクマ耳な種族なんて知らないんだけどね」

 ペロリと舌を出してピナフォアが笑う。

「クマについて知ってる事と言えば…お鍋にすると美味しいって事とか右手が高級食材として珍重されてる事ぐらいかな?」

 そんなピナフォアに苦笑したドクターが答える。

「それでも、手がかりが何も無いんでね。無駄になるかもしれないが一応見てくれないか? お礼はちゃんとするから」

「良いよぉ〜、では早速♪」

 ピナフォアはスキップしながらドアを開けて医務室に入ろうとした。しかし…。

「がお〜!」

 小柄な影がピナフォアを両手で突き飛ばし、そのままの勢いで医務室から飛び出て来た。

「痛〜い…」

 壁に頭をぶつけたピナフォアが頭を押さえて苦しんでいる。壁がへこんでいるのに『痛い』で済むあたり、さすがDOLLと言えよう。

「力が強く、肉体的にタフであり回復力が強い………っと」

 逃げていく患者を呆然と見送りながら、ドクターはそれだけをカルテに記入した。



 ここは少々時間を遡った医務室の中である。辺りの音に耳を澄ませていた少女に会話が聞こえてきた。

「がお? お医者様が帰ってきたのかな?」

 話しながらこちらに近づいて来るようだ。少女の種族は聴覚に優れていた。防音されている医務室であっても、ドアの向こうの会話が辛うじて聞き取れる位には…。

「ん〜? 良く聞こえないな…」

 少女はベットを降りてドアに近づいた。少女は気づいていないが、少女には事情徴収に備えて言語の記憶移植がなされていた。そのために会話の内容が理解できたのである。

『クマ…………知ってる………………お鍋…………美味しい……………右手…高級食材…………珍重……………』

「がお!?」

 途端に聞こえて来た言葉に少女の顔が青ざめる。

『お鍋? 美味しい? つまり、ここの人はクマを食べる…ここの人はクマを食べる……ここの人はクマ(人)を食べる!!

「どうしよう! 人喰い人種に捕まった!? 私、食べられちゃうの? でも、治療してくれたんだよね? 元気になってるんだし。 ………まさか、太らせてから食べる気なの〜!!」

 少女の種族にとっては『熊』と『人』とは同じ意味の言葉であった。顔を蒼白にしてガタガタと震えだす。

「イヤ〜! 食べられるのはイヤ〜!!」

 少女はドアが開いた瞬間に入ろうとした人物を両手で突き飛ばして逃げ出した。目をつぶって後ろも見ずに必死に走る。とにかく走る。少女にとっては命がけの逃走であった。

 ………………。

 ………………。

 ………………。

「ここはどこ?」

 知らない場所を闇雲に走ったのである。恐怖に駆られて目を瞑ってもいた。当然の結果として………少女は道に迷った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「少女が逃げ出した!?」

 れも副司令は医務室からの連絡に驚いていた。

「ああ、すまないれも。とんでもなく回復力が強い種族だったらしい。医務室に戻ってドアを開けた途端に逃げ出したよ」

「そうですか。なにか問題は起こりましたか?」

「いや、ピナフォアが小さなたんこぶを作ったくらいだな。勿論すぐ治ったが」

「それくらいなら問題ないかしら?」

「おっと、そう言えば壁も凹んだんだっけ」

「えっ、どういう事ですか?」

「つまり、彼女が逃げ出す時にピナフォアが突き飛ばされて、勢い良く壁にぶつかってな。その時の衝撃でピナフォアは瘤を作り、壁が凹んだと…そう言う訳だ」

「はあ…また修理費がかかりますね………」

 れも副司令がため息をつく。

「おいおい、そう言う問題じゃないだろう」

 ドクターが苦笑する。

「DOLLのピナフォアにケガをさせるくらいに力が強い種族だって事なんだぞ」

「あっ!」

 確かに非常識に頑丈なDOLLにケガをさせる程の怪力は脅威である。突き飛ばされたのが一般職員なら大ケガをしていただろうし、下手をすると死んでいた可能性すらある。

「それは危険ですね…凶暴な種族だったのでしょうか?」

 れも副司令は基地の警戒レベルを上昇させるべきか悩みつつドクターに質問する。

「そうだな…これは私見なのだが……私には怯えていたように見えた」

「怯えて?」

「ああ、理由は不明だが…怖くて必死に逃げ出したって気がしてならない」

 ドクターは少女の後ろ姿を思い出していた。

「そうですか…でも職員の安全を考えると警戒態勢をとらざるを得ませんね」

「だろうな…出来れば手荒な事はしたくないが……」

「ともかく、保安部には警戒体制をとらせます。それにしても彼女は何がしたいのでしょう? 話し合いで済めは良いのですけど」

「要求なんて無いのかも知れんぞ? まだ子供に見えたし、パニックを起こして怯えているだけなのかも知れないからな」

 二人は同時にため息をついた。必要があるとはいえ武器を持たない怯えた少女を警戒しなければならないのだから。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「これからどうしよう?」

 暗がりでクマ耳少女は怯えていた。どうやら倉庫の中に隠れているらしい。

「お腹空いた…どこかに食べ物無いかな?」

 くくぅ〜とお腹が鳴る。点滴は受けたのだが胃の中は空っぽだから当然ではある。

「ここってどんな所なんだろう…」

 人造の構造物でかなりの広さを持つ事は推測出来るのだが…。

「窓が無いってことは、ここの外って宇宙空間なのかな? でも凄く広いだけなのかも知れないし…」

 不安なのだろう、独り言が多い。

「外が宇宙なら宇宙船を奪わないと脱出は出来ないよね? もし、これが巨大な宇宙船で小型機なんて無かったらどうしよう!?」

 小型宇宙船を奪取できても操縦出来るとは限らないのだが。

「何人乗ってるか知らないけど、こんな大きな船を一人で制圧なんか出来ないよぉ…」

 宇宙船ではなく、宇宙基地なのだが少女はここを巨大な宇宙船と決めつけてしまったようだ。

 カツン、カツン、カツン…

「誰か来る!」

 足音が聞こえて少女は慌てて隠れた。やって来たのは警備の人間らしく、二人一組でパトロール中だと思えた。とにかく必要なのは情報である、少女は慎重に隠れつつも会話を盗み聞く為に耳を澄ましていた。

「やれやれ、女の子が逃げ出したって言ってもなぁ…」

「まあ、そう言うなよ。結構可愛い娘じゃないか」

 一人がぼやき、もう一人が慰めているらしい。仮に保安部員A・Bと名付けておこう。『追っ手だ』会話からそう判断した少女は緊張し、いつでも逃げられるようにしていた。

「いくら可愛いと言っても、まだ若すぎるよ」

 保安部員達には少女の保護(捕縛?)の為に写真が公開されているのだ。

「そうだけど、男よりは良いだろ?」

「まあな…」

「それにお前、某最年少少尉のファンだっただろう」

「なっ、何故それを!」

「やっぱりそうか…」

 動揺した同僚を見て、保安部員Bがニヤリと笑う。

「つまり、この娘も守備範囲なんだな? 見つけても喰っちゃたりするなよ」

 保安部員Bがいやらしく笑った。勿論冗談であり、喰うと言っても別の意味で使っているのだが…こっそり聞いていた少女にはそんな事は判らなかった。

「わーん! 食べられるのはイヤ〜!!」

 あっさりパニックを起こした少女が積み上げられた荷物を崩しながら逃げ出す。どうやらトラウマになったらしく、慎重に見つかるまいと行動していたのに、『喰われる』と思った瞬間に形振りかまわず逃げ出していた。

「あっ!」

「おい、ちょっと待て! うわっ!!」

 追いかけようとした保安部員A・Bの悲鳴が聞こえて来る。少女を追いかけて来る様子は無いのだが…。

「イヤ、イヤ、イヤ〜!」

 それでも少女はただ逃げていた。



「それでケガの具合は?」

「ちょっとした捻挫だ。たいした事は無い」

「そう、それは不幸中の幸いですね」

 保安部から部品倉庫で少女を発見したものの逃げられたと司令部に報告が入った。彼らは逃走する少女を捕らえようとして失敗し軽いケガを負ったらしいが、どうやら軽傷だったようだ。

「でも、軽傷とは言え負傷者が出ましたか…」

 基地全体を警戒態勢にして少女を捕らえるべきだろうか? れも副司令は悩んでいた。

「どういう状況だったのですか?」

「ああ、純粋な事故だよ。彼女が故意にケガを負わせた訳じゃない」

「そうなのですか?」

「保安部員の話によると、彼らが冗談を言いながら、倉庫の点検をしていたら急に叫び声を上げて逃げ出したそうだ」

「逃げ出した? そこを捕らえようとして抵抗されたのですか? でも事故だと言いましたよね…」

 その状況で負傷する理由など他に思いつかない。

「いや、彼女が逃げるときに荷物にぶつかったらしい、それが原因で荷物が崩れたのだそうだ」

「すると荷物の崩落に巻き込まれたのですか? 良く軽傷で済みましたね」

 部品倉庫には重量物も多く、荷物に押しつぶされたなら重傷でも不思議は無い。しかし、ドクターはれも副司令の推測を否定した。

「違うよ、ヤツらは崩れた荷物に巻き込まれた訳じゃない。荷物を飛び越そうとして失敗して転んだだけだ。単なる不注意だよ!」

 ドクターのこめかみには血管が浮き出ている。どうやら怒っているらしい。

「全く、不注意で捻挫した程度で私を煩わせるなんて…れも、こいつらで実験しても良いか?」

「そんなどうでも良い事はともかく、逃げた少女の様子はどうだったのですか?」

 ドクターの問題発言をさらっと流してれも副司令が質問する。ドクターは実験体を手に入れた(爆)。

「イヤーと叫んで逃げたそうだ。やはりパニックを起こしているな」

 れも副司令は少しだけ安堵していた。どうやら、相手にこちらを傷つける意図は無さそうだ。ドクターの推測通り、怯えてパニックを起こしている可能性が高いだろう。闇雲に逃げている所も推測を裏付けていると判断できる。それにしても保安部員の癖にだらしない、大体、転んだくらいで任務を放り出すなんて…そう思うと怒りがこみ上げて来る。保安部は当てにならない、内密に処理をしたかったが、そうも言ってられないだろう。『こうなったら、毒を喰らわば皿までだわ』 れも副司令はある決断を下した。

「…一般職員にも状況を知らせて目撃情報を募ります」

「おい! お祭り好きなうちの職員達に教えたらどうなるか判ってるか!?」

「ええ、これなら直ぐ見つかりますよ♪ きっとね♪」

 明るく笑うれも副司令を見てドクターは思った。『あの娘もかわいそうに、トラウマにならなければ良いが…』と。

「始めからこうすれば良かったんです! 大体うちの職員がそう簡単に死ぬ筈が無いんですから。そもそも転んだくらいで追跡を諦めるなんて弛んでるわ! どうせ仕事なら直ぐ諦める事でも、お遊びなら死ぬ寸前まで頑張るんでしょ! だいたい……」

「わかったわかった、そう興奮するな」

 延々と愚痴をこぼすれも副司令を宥めながら、ドクターは冷や汗を流す。

『どうやら、れももかなりストレスが貯まってるな。精神安定剤を用意しておくか。れもが使わなくてもあのクマ耳少女には必要になるだろうし』

 これからクマ耳少女を襲う災難を思いながら、ドクターはカウンセリングの準備もしておこうと心に決めていた。

 こうして少女は狩られるべき獲物となったのである。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「ううっ、なんなの〜? あの人達は? 怖いよぉ〜」

 クマ耳少女は相変わらず逃走していた。しかし、追っ手を撒くことが出来ない。追っ手の目は血走っており怖くてたまらない、しかもその数はどんどん増えているようだ。

「所員A! この辺りにいるはずだ! けも耳娘観測所の名に賭けて、我々の手で保護するぞ!!」

「当然です、所長〜!」

「ふっふっふ! 未だレアなクマ耳娘だ…逃しはせん! 逃しはせんぞぉ〜! 新たな萌えの為にも逃がしてなるものか!!」

「所長! 発見しました! こちらです!」

「良し! でかしたぞ所員B!」

「「「おお〜! けも耳娘マンセー!!」」」×たくさん

「あうあうあう〜…怖いよぉ〜!」

 ついに見つかったクマ耳少女は恐怖に駆られて逃げ出す。もう泣き出す寸前であった。

「はあ…はあ…はあ…助けて〜!」

 さすがに息が切れる。足がもつれる。食事も摂らずに走り回っていれば当然だ、しかも彼女は病み上がりだった訳だし。

「「「マンセ〜!」」」×たくさん

 それでも萌えに狂った修羅(ヲタ)の群に追われるこの状況では怖くて立ち止まることなど出来ない。少女は走り続けた。

「ひ〜ん………怖い…よぉ………」

 既に息も絶え絶えで悲鳴も力を失っている。それでも少女は走り続けた。隠れ場所を探す余裕もなく、体力の限界が近い。このままでは少女の不安とは別の意味で食べられてしまうかもしれない。

「はあ…はあ……はあ………もう、ダメ………」

 とうとうクマ耳少女は力尽き、通路にへたり込んでしまった。

「よ〜し! 我々の勝利は目前だ! いけー強者どもよ〜!」

「「「けも耳娘、マーンセーーー!!」」」

 所長の号令と共に所員達が殺到する。哀れクマ耳少女は美味しくいただかれてしまうのだろうか?

「そこまでにゃ!」

 『ヒロインはボクにゃ!』そう主張しているかのようなタイミングでかわねこが登場した。被害者であるクマ耳少女を庇い観測所の面々を睨み付ける。とても凛々しい姿だった。

「「「おおお〜!! かわねこたん、マンセー!!」」」×たくさん

 しかし、萌え狂った修羅(ヲタ)達は見境が無かった。もっとも彼らはかわねこの大ファンだったので、より好ましい目標を目指すのは当然かもしれない。あっさりとターゲットを変更しかわねこを追いかけ始めた。かわねこにとっては、助けようとしたクマ耳少女が気絶しているのが救いだろう。間抜けな姿を見られずに済んだのだから。

「なんでこうなるにゃ〜!」

「「「かわねこたん激ラブ〜♪」」」×たくさん

 この追いかけっこはれも副司令が乱入するまで続いたそうだ………。


  

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 かわねこは少女が目覚めるのを待っていた。今回の騒動の原因を突き止めたいし、基地司令かわねぎ中佐としての責任も果たさねばならないからだ。この所かわねぎ中佐の支持率は下がっているし、偶には真面目に仕事をしないと立場が危ないのである。

 もっとも、支持率の為ならかわねぎ中佐の姿で仕事をしないと意味がない…本人は気づいていないが誤解から怯えて逃げまどった可哀想な少女を看病する優しい娘として、かわねこの支持率がアップしていたりする。

「ううっ…」

「あっ、気がついたにゃ?」

「ここは…?」

「ここは宇宙基地TS9の医務室にゃ」

「はっはうっ! 逃げないと!」

「逃げる必要なんて無いにゃ。安心するにゃ」

 かわねこは少女に優しく微笑みかける。

「……ホント?」

「心配ないにゃ♪ 君のことはボクが守ってあげるにゃ♪」

 少女は優しい言葉に思わず泣き出した。君を守ると言う言葉が嬉しかったし、言葉だけではなく実際に庇ってくれたのを覚えていたからだ。もっとも、その後すぐに気絶してしまったのだが。

 かわねこは泣き出した少女を黙って優しく抱きしめていた。

『この感触…知ってる気がする……天使様?』

 少女はあの時、誰が助けてくれたのかを理解した。この人なら信じられる、自分を二度も助けてくれた恩人なのだから。

「ボクはかわねこ少尉にゃ、君の名前は?」

「………私の名前は緒耶美です」





 この事件の後、連合はこのクマ型ヒューマノイド【ポリノーク】の少女が何処から来たのか徹底的に調査したが、全くの不明であった。宇宙船の航行記録は失われていたし、少女が覚えていた星座も判別できず、少女の故郷は遙か彼方であるという事以外、方向すらわからなかったのである。

 連合はこの少女を仮に難民として扱うことに決定した。しかし、少女がTS9から離れたがらない事から基地司令かわねぎ中佐の保護下に置かれることとなる。もっとも、生活費は緒耶美個人の財産から出されているのだが…。

 実は修理不可能な為、廃棄されることになった少女の宇宙船【ホウカー号】を解体したところレアメタルがふんだんに使用されている事が判明したのである。これによって少女は働かなくても暮らしていけるだけの財産を所有する事となった。

 おそらく緒耶美はTS9で生活しつつ連合の事を学び自分の将来のことを考えることになるのだろう。





「ご主人様〜〜! どこですかぁ〜!?」

 TS9に泣きそうな少女の声が響きわたる。

「大変ですね、ご主人様♪」

「れも君、面白がっているだろう?」

 れも副司令と話しているのは久しぶりに元の姿になったかわねぎ中佐である。

「そんな事はありませんよ♪」

「本当かな?」

「勿論ですよ♪」

 あれから緒耶美はかわねこをご主人様と呼んでまとわりつくようになった。

 と言っても仕事の邪魔をする訳では無い。かわねこの私生活における雑務を引き受け、世話をするようになったのである。命の恩人に少しでも恩返しがしたいと言うのが理由であった。

「それにしては楽しげだけどね…」

「あら、司令も楽しんでいるんじゃありません? あんな格好までさせて」

 緒耶美はメイド服を着ていた。理由を聞くと『ご主人様の故郷の礼服だそうですし、お世話をするならこの格好が正式だと教わりました♪』との事。教えたのは某眼鏡っ娘だとの噂である。

「くすん…ご主人様〜? どこにいらっしゃるんですかぁ? 一緒にケーキ食べましょうよぉ〜」

「あらあら、早く行かないと泣いちゃいますよ? 良いんですか、ご主人様?」

「…………」

「女の子を泣かすんですか?」

「………くそう!」

 この後、TS9ではかわねこ少尉の出現率が高まったそうだ。 


あとがき

 緒耶美はれも副司令やかわねこちゃんと同様にチャットで生まれたキャラです。

 チャットではこのキャラで楽しく遊んでいたのですが、何故かそこそこ人気があるみたいで、お話が読みたいと言う希望が一部であったので、ついこんな馬鹿なお話を書いてしまいました。(他の作品はどうした!)

 最後の一文は………私の願望ですね(笑) 本当に作中での出現率が高まると良いなあ。 うおぉぉぉ、かわねこたんマンセー!


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