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 自転車が一台、夜道を走っている。
「あーあ、遅くなっちまったよ。飲み会にも行けなかったし」
 自転車に乗っている男は20歳くらいの大学生だろうか? ぶつぶつ言いながら走っている。食べ放題にありつけなかったのが余程悔しかったのだろう。
 近道に通る薄暗いM児童公園を横切るとき、2つの人影が見えた。片方は小学生位だろうか。

 襲われてる?

 無視することも出来ず、大きい方の影に走りより、後ろからねじ伏せようとした瞬間、手は中空を彷徨いすり抜けてしまった。
「な?」
 目の前に女の子が見えたが、すぐに全身の力が抜ける。
 女の子の声が遠くで聞こえる。
「もののけ! 転送収容2名! いいから早く!! きゃぁぁぁぁぁぁ」
 悲鳴とともに意識は闇に落ちた。




コンタックス大作戦


作:よっすぃー




「ん?」
 男が気がつくと、病室のようなところにいた。体が麻痺しているようで動かせない。かろうじて首が動かせる程度だ。
「気がついたようでちゅ。プログラム始動」
 目の前にはなぜかハムスターがいた。
 喋った? ハムスターが?
 驚きのあまり叫ぼうとしたが声が出ない。周りは自分が寝ているベッドの他には何もない広い空間。天井には強い照明がこうこうと燈り、壁には妙なオブジェ。まるで○ョッカーの秘密基地のような……
「まさか……」
 えもいわれぬ恐怖に男が慄いてたとき、小学生くらいの可愛い女の子が「あの〜っ」と、遠慮がちに声をかけてきた。
「よろしければ始めても構いませんか?」
「えっ、あっ。どうぞ」
 なんとなく自分の世界に浸っていた男だが、少女のお願いに我に帰る。
「よかった。ずっと無視されるかと思った。では」
 こほん。と、ひとつ咳払いをし、女の子が話を始める。
「椰子家頼之(やしかよりゆき)さんですね。あなたに起こった事故について説明します。その前に自己紹介しておきます。私はコンタックス・カールツアイスといいます。信じられない話かも知れませんが、これから話すことは事実です」
 コンタックスと名乗る少女は語った。何か棒読みのような口調だ。
「私は惑星連合所属のコンタックス。人工生命体UX−801を追っていました。
 あなたが公園で見たものです。あれは生命力、オーラを食物として生きています。
 私たちは『オーライーターコー』と呼んでいます。
 連合から追われた彼らは辺境の地球にやってきました。
 イーターコーの一体を追いつめたところにあなたが駆け込んできました。
 イーターコーには実体が無く、物理攻撃が効きません。
 あなたは瞬時に生命力を奪われ、私も強化されたイーターコーの手に掛かってしまいました。
 ここに転送収容しようとしましたが、あなたと私は既に瀕死の状態でした」

 コンタックスの話に混乱するなという方が無理だろう。
 宇宙人が謎の生命体を追ってきた?
 混乱する頼之に彼女はなおも続ける。
「二人の生命力と体組織の半分以上はイーターコーに吸収されました。
 もはや二人を治療するのは無理です。体組織もあなたを再生するのは無理です。
 やむなく、データバンクにある私の体構造を元にあなたを再生しました。
 大丈夫、地球人と体組成は全く同じです」
 どういうことだろうか。自分の体はどうなってしまったのか?
 そこまで聞いて意識がまた遠のきつつあった。
 少女の姿がかき消えるように見えたのは気のせいか……

「うん?」
「あ、気がついたでちゅね」
 目の前にはまたまたハムスター。しゃべれるのかこのハムスターは。
「頼之しゃん3日も眠ってたでちゅよ。体の調子はどうでちゅか?」
「ハムスター? ここにいた女の子は?」
「ハムスターじゃないでちゅ。「もののけ」っていう名前があるでちゅ。コンタックスちゃんは……彼女は……死んじゃいまちた……」
「俺に説明してただろ? 生命体がどうのこうのって」
 喋るハムスター「もののけ」にくってかかる。
「あれはコンタックスちゃんのホログラム映像でちゅ」
「そういうことです。わかっていただけました?」
 いつの間にか映像が再開し、ホログラム映像のコンタックスは尚も一方的に説明を続ける。
 今、自分は宇宙艦「かんこう」の艦内にいること。セーラー服スタイルの航宙艦で連合のポピュラーな巡視艇だということ。
 本当はイーターコーは普通の人の目に見えることはないこと。
 コンタックスの邪魔をしてしまい、イーターコーにボコボコにされたこと。
 転送装置がボロ……もとい、旧式のために二人を救えなかったこと。
 コンタックスが最後に自分を治療してくれたこと。
 ハムスターも本当はプレラット星の知的生命体らしい。
「そうだったのか……」
「そう、あなたが邪魔したのよ」
 ちょっと恨みがましく言うコンタックスだった。
「根に持つ性格なんでちゅ」
 もののけが一言解説を加えた。

「それはそうと、治療のほうはもう終了しているでちゅ。起きてみてくだちゃい」
 もののけに促され、頼之はベッドから体を起こしてみる。確かに大丈夫だ。
「!」
 信じられない光景がそこにあった。鏡には自分の姿が無く、パジャマを着たロングヘアーの美少女が映っている。
 映像では髪を束ねていてブロンドだったはずだが、たしかにコンタックスだ。
「えっ、コンタックス?」
 鏡の中の少女も怪訝そうな顔をする。
 自分がほおを引っ張ると、鏡の中の少女も引っ張る。さらに自分が文字で書けないようなことをすると、放送倫理規定に引っかかってしまった。
 まさか……
「そう、今のあなたは私と同じ身体」
 ホログラムのコンタックスが言を継ぐ。
「コンタックスちゃんの体とおなじでちゅよ」
 すかさずもののけも肯定する。
「女の子じゃないか」
「そうでちゅね」
「『そうでちゅね』じゃない! 女の子だぞ!」
「私の身体は嫌?」
 まるでそこにいるようにコンタックスが尋ねる。
「……まあ、なんというか、悪くはないが。ところでコンタックスって何歳?」
「地球人換算11歳でちゅ」
 もののけが答える。
 11歳なら発育途上ってところか。うーむ、でも興味も無いと言えば嘘になる。
「発展途中のロリーな身体。まだ未熟な蕾だけど、立派な女の子の身体よ。でもあなたはきっと興味津々ね。私にはわかるわ。あなたが微かに膨らみかけた胸を触り、白い肌をほんのり上気させながら、いつしか息を弾ませて、ロリロリなボディを視姦しながら嘗め回し、股間に広がるクレバスに手をかけるのね。まるで潮が満ちてくるように、そこが湿地帯に変わるさまを確かめながら小さな吐息をあげるのね、私の声で。それだけでは溢れてくる好奇心と快楽の波にはあがらえず、私の華奢な指で湿地帯の探求を続け、未踏の聖域へ踏み込むに違いないわ……」
 表情一つ変えず、平板な描写でコンタックスが言葉を続ける。若干興味が無かったわけでもないが、その気力もすっかり萎えてしまった。
「付き合わなくていいでちゅ。コンタックスちゃんはレディコミのヘビーユーザーでちゅから」
 もののけも器用に天を仰ぐ。どうやら相当根が深いようだ。

「……そして、桃色に染まった私の身体は、弓なりに硬直してベットの上に突っ伏すの。息も絶え絶えだけど、恍惚と見た足りた表情に潤んだ瞳を輝かせ……」
 ホログラムのコンタックスはなおも一人で語っていた。昨日の衝撃から8時間あまり。完全に体調は回復し、頼之はコンタックスを無視してコンソールから眼下の地球を見つめていた。
「これからどうするんでちゅか」
「こっちが聞きたいくらいだ」
「そのことで話があるでちゅ。コンタックスちゃんが地球でしようとしたことでちゅ」
「しようとしたこと?」
 レディコミおたくのあいつがか? 怪訝そうなコンタックス(=頼之)を尻目にもののけは続ける。
 殉職したコンタックスの代わりに、イーターコーの残りを掃討するため地上で活動して欲しいこと。
 地上では小学生として身を隠して生活していくこと。その準備も完了しているそうだ。
 イーターコーには通常攻撃が効かず、オーラを使った攻撃でなくてはならないこと。
 コンタックスやある種の地球人にはオーラ使いとしての能力があること。
「頼之しゃんもオーラ使いの能力が高いんでちゅ。もともとのコンタックスちゃんの力とも合わせれば 強力なオーラ使いになるでちゅ」
「俺がオーラ使い? でもやり方なんか知らないぞ」
「体が覚えてるでちゅ」
「俺にあんなのと戦えっていうのか?」
「無論ただとは言わないでちゅ。軍からちゃんと給与が出まちゅ。僻地手当て込みでこれくらい」
 器用にソロバンを弾く。
「ちょっと安くないか?」
 命を賭けるには桁がひとつ足りないような。頼之は不満をあらわにした。
「ドル建てでちゅよ」
「喜んでやらさせていただきます」
 さっきまでの不機嫌はどこへやら。深々と頭を下げた。
「それは助かるでちゅ。戸籍とか学校への転入手続きとかは済んでるでちゅ」
「簡単に言うな」
「艦内コンピュターから自治体データベースにハッキングできるでちゅよ」
 一昨年から始まった政府、自治体の電子政府計画。高度な電脳社会を構築した人類だったが、より高度な知的生命体にとってはより積極的な介入が可能になったのだ。
「マンションから下着までこの通り、完全に調達完了しているのでちゅ」
 自慢げにもののけが答える。確かに一介のサラリーマンでは購入不可能な、立派なマンションがそこにあった。調度品の類も完璧に整っている。ただひとつの部屋だけは、薄暗い照明に、妙な器具と貼り付け台。壁には様々な鞭が陳列してあり。
「いやだなぁー。趣味でちゅよ……」
 笑って誤魔化すか? こいつは。
「名前はどうちまちゅ? まだ入力はしていないのでちゅ」
「それじゃ椰子家コンタックスってことにしといてくれ」
「漢字名は考えてないでちゅ。面倒臭がって作者が続きを考えていないから」
 ネタ明かしをするなよ。

 数日後−市内のマンションの一室
「いってきまーす」
「コンタックスちゃん、これ持ってくでちゅ」
 小学校への転校初日、早速もののけに呼び止められた。
 手渡されたのは半月形の意匠を施されたバッジだった。
「これでいつでも通信できるでちゅ。転送の目標にもなるでちゅよ」
「ただ付けとけばいいのか?」
「そうでちゅ。あと、女の子らしくするでちゅよ。言っても無駄かもしれないでちゅけど」
「うるさい」
 学校指定のセーラー服が気恥ずかしい。
 スカートなんて初めてだし、どうも足元がすーすーする。
 まだ胸が小さいためブラと格闘することがなかったので、着替えはスムーズだったが。
 そんなことを考えながらポニーテールに結んだ髪をなびかせて走っていくコンタックスであった。

「今度、朝日が丘からリハウスしてきた、椰子家コンタックスです」
 し〜ん。ネタが古すぎて誰も理解できないようだ。
「席は……一番後ろの、雲雀さんの隣に座ってください」
 何事も無かったように担任の庄司先生に言われ、こそこそと席に座った。ま、隣の雲雀と呼んでいた子が受けていたのが救いだろうか?
「椰子家です。よろしくね」
「わたし雲雀美空(ひばり・みそら)。お嬢って呼んで」
「お嬢っ?」
「そっ。呼んでくれて、ありがと♪」
 独特の節回しでポーズを決める。頭が痛くなってきた。

 休憩時間は周りの子からの質問攻めだ。これは古今東西変わらないらしい。
 コンタックスも予想して、昨日シミュレーションを5回もやっておいたので、すらすら答えることが出来たが、スリーサイズや18禁に触れそうな項目が多いことに「小学生でか?」と突っ込みを入れたくなることも多々あったとか。

 放課後。
 あっという間だった。
 元が大学生のコンタックスなので聞いて無くても分かる……などと気安く考えていたら大間違い。小学生の算数は意外に難しいのだ。四苦八苦していたら授業が終わっていたというのが正直な感想だった。
 気が付いたら、「帰りの会」。最後に担任がみんなに注意する。
「最近、M児童公園近くで行方不明事件があったのは知ってますね。気をつけてなるべく二人以上で帰るようにしてください」
 行方不明ってのは、コンタックスというか頼之のことなのだが。そのあたりは小学生に知らせるべきニュースではない。性格はアレだが、庄司怜児先生。意外とまともだった。

 M児童公園の前。ここでコンタックスとお嬢の帰り道は別れる。
「それじゃねー」
「ああ、気をつけてな」
 お嬢と別れたコンタックスはひとり、ブランコをこいでみた。
 !!!
 突然悪寒が走る。棺おけが走っている訳ではないので間違えないように。前にも感じた「ある気配」が急に膨れ上がってきたのだた。
「なに?」
 ブランコから落ち、尻餅をついた。
 寸前まで頭のあったあたりを黒い陰が薙いでいく。
「クッ、ハズシタカ」
(この前のイーターコー?)
 反射的に胸の通信バッチを叩くコンタックス。
「出た! イーターコーだ」
「こんなことだろうと思って、今転送収用準備中でちゅ。武器はマッハ15で飛んでくるでちゅ」
「それまでどうすればいい?」
「行数をワープするでちゅ」


 ワープ
 うにょーん。
 うにょーん。
 うにょーん。
 ワープ完了



「捕獲完了」
 って、肝心の戦闘シーンはどうなったんだ? おぃ。


 翌日。コンタックスのマンションの一室。
「……そう。そこっ。あん♪」
 ホログラムのコンタックスが一人で悶え、もののけがせんべいをかじっている。平和だ。
「で、イーターコーってどのくらい地球に逃げてきたんだ?」
「だいたい100体でちゅね」
「そんなにいるのか?」
「気にしなくていいでちゅ。先のことは作者も考えていませんから」
 引きつったコンタックスの横で、もののけはまだせんべいをかじっていた。
 平和な午後だった。

 第1話 完



 次回予告

 コンタックスたちの担任、庄司玲児先生。得意科目は理科で、他の授業と熱の入れ方が違う。
「そこ聞いてますか?」
 そういって怪しげな壷を開く。
 次の瞬間、隣の児童の髪の毛が抜け、苦悶の表情を作る。
「放射線……」
「よくわかりましたね。今回はプロトニウムを作ってみました」
「んなもん生徒に向けるなーっ!」

「先生っ!」
「もののけ! 転送収容2名! いいから早く!!」
 瀕死の重症を負う玲児。

「これが、僕?」
「あのなぁ」
「お約束ですよ。お約束。あ、僕のことは敏江(としえ)って呼んでください」

 ぱこーん!!

「いたーいっ。どうしてどつくんですか?」
「いや、なにか。敏江と聞くと、ふつふつとどつきたくなる因子が。きっとDNAのせいだ!」
「ここは角座じゃないのに。ぐすん」

 次回、コンタックス大作戦をお楽しみに

 って、続きません。



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