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次元管理人フォスターシリーズ

ディレイド・バス

作:かわねぎ


※「フォスター」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www.geocities.co.jp/Playtown/7073/Novels-04-Foster-FormalSetup.htm
 これまでの作品はこちらです。
http://ts.novels.jp/novel/corrector/title.htm



私は次元管理人フォスターだ。
時空に暗躍する犯罪者を追って、今日も過去に未来に飛び回っている。
タイム・パラドックスを引き起こす犯罪者は許せない!
私はタイム・パトロールとして少々の「修正」を権限で認められている。
その時代、位置に相応しくない出来事にはその権限を行使する場合もあり得る。
私のモットーは「細かいことは気にするな」だ!
さて、今回の仕事は…



 朝。朝の準備も終わり、各家庭から通勤や通学で慌ただしくなる頃。ここ、とある団地近くのバス停にも駅へ向かう乗客がぽつぽつと集まっているのだった。

 バスを待つ行列には毎日同じバスに乗るという客も多い。通勤通学に使う電車の時間はたいがい決まっているし、それに接続するバスの時間もたいがい決まっている。各々の中で朝の「時刻表」が出来ているのである。

「藤田さん、おはようございます」
「あ、宮城さん、おはようございます」

 乗るバスが決まっているから、顔なじみも出来る。サラリーマン風の男性も、列に知った顔を見つけて挨拶を交わす。違う会社、乗る電車も別方向なのだが、同じバスの乗客同士。いつの間にか声をかけるようになってから、かれこれ4年にもなろうか。

「今日は降りそうですねぇ」
「おや、宮城さん、傘は?」
「いやぁ、昨日会社に置いて来ちゃってね……」

 バスの待ち時間と20分の乗車時間は世間話の時間となる。待ち時間も話し相手がいればそんなに長いとは感じない。その点はお互いありがたいと思っているところだ。まずは天気の話。世間話の枕としてはこれ以上最適な話題はないだろう。

「そう言えば、明日からバス時刻改正ですね」
「いつものバスも3分遅くなりますね」
「時刻表ではね。そうでなくてもいつも5分以上遅れるのに、大丈夫かな」
「今度は新しい時刻から5分遅れたりして」
「ああ、ありそうだね」

 二人が言うとおり、ここのバス路線は定刻にはなかなかやってこない。電車や地下鉄と違ってバスは道路の渋滞の影響を直接受ける。朝のラッシュという奴である。当然乗客達も慣れっこになっており、遅れを計算に入れて、駅までの時間を逆算してバス停に来ているのであった。実態から外れているのは時刻表だけ――全国どこにでもありそうな光景だった。

「そうそう、宮城さんは新しい時刻表はメモしましたか?」
「いえ、まだですけど」
「パソコンに入力したんで、よろしかったらコピーしますよ」
「ありがとうございます。しかし、藤田さんもマメですなぁ」
「ははは、そういう性分なもんで」

 そんな話をしているうちに、バスを待つ行列は少しずつ伸びていった。ほとんどが駅に向かう通勤のサラリーマン。家庭を持つサラリーマンがほとんどの団地なので、家の『ご主人』がほとんどだ。そしてわずかにOLがいる程度。だが買い物のおばちゃんはほとんどいない。定期券を持っているような乗客層だった。

「……今日はいつにも増して遅いですね」
「そうですねぇ。もう10分になりますよ……」

 なかなかバスが来ない。普段は5分程度の遅れなのだが、今日はどうも遅れが大きくなっているようだ。道路工事か事故でもあったか。多少の遅れを見込んでバス停に来ているのだが、やはり遅れていると精神衛生上よろしくない。この二人だけでなく、行列のほとんどがいらいらしていることだろう。

 そんなイライラを知ってか知らずか、バスが車体を軽く揺らしながらカーブの向こうからやってきた。外から見てもいつもより混雑しているのが分かる。遅れが出ると、各停留所で並んでいる人数が増えている所にバスが来るので、どんどん混雑が激しくなる。混雑と人数増で乗車に時間がかかり、遅れがますます大きくなると言う、悪循環なのだ。

「うわ、混んでますね……」
「仕方ないですねぇ」

 文句を言っても始まらないが、この混雑では文句の一つも言いたくなるというものだ。ぶつぶつ不平を言いながら、前扉から乗車して整理券を取る。今は良いが、これから次々に乗ってくるので、奥に詰めないと積み残しが出る。既に乗っていた立客も不平を顔に出しながら、少しずつ後ろの方に詰めていく。車内の圧力が段々と高まってくる。それと共に不満も高まってくるのだが、声に出さない不満という奴である。

「このバス停でこれだけだと、この先積み残しが出るかな」
「全員ぎゅうぎゅう詰めなら、なんとか……ですかね」

 窮屈な姿勢でつり革に掴まる二人。混雑といっても、まだ腕を動かす余裕はある程度なのでそんなことを言っていられるのだが、この先ますます混雑してくるのだろう。

 このバス停からの乗客がほとんど乗ったところで、その変な格好をした男が乗り込んできたのだ。銀色のコスチュームに身を包んだ奇妙ないでたちは、入口に近い乗客達の視線を集めるのには十分なものだった。変なモノを見るような視線を。

「な、なんだ? コスプレか?」
「新手のバスジャックか?」
「コミケには時期が違うぞ」

 そんな声に男はまるで自己紹介でもするかのように、答えた。もっともそれは名前だけのものであって、男が何者であるかは明らかになっていない。

「おう、私はフォスターだ」

 いきなりそんなことを言われても、フォスターなんて奴は知らない。唖然としている乗客達に変わって、運転手がフォスターに問いかける。バスを運転するプロの彼は、あっけに取られたいのはやまやま、たとえコスプレ風のイカレた相手であっても、客であればきちんと仕事をこなすのであった。

「お客さん、乗るの? 乗らないの?」
「うむ、この時間にここを通るバスとは行き先が違うな」
「遅れているんだよ」
「決められたスケジュールを乱すことは、小さな事とはいえ、感心できることではないな」
「……乗らないなら降りてよ」
「修正させてもらおう」

 運転士と入口付近の乗客の訝しげな視線には全く動じずに、奇妙な光線銃を取り出して、正面の方向幕と側面の方向幕、そして運賃表に狙いを定めてビビビと発射する。すると、運賃表の電光掲示が「次は安田2丁目」から「次は安田女子校前」に変わる。中からは見えないが、おそらく前面の方向幕も「安田女子校」になっている事だろう。

 その変化を見て、わずかに眉をひそめるフォスター。完璧な仕事の完遂を心がけている彼にとっては、あまり芳しくない状況らしい。車内の乗客を見回して、軽く腕組みをしつつ、つぶやく。

「うむ……女子高行きのバスがこれでは問題だな。人数が多いが、こちらも修正させてもらおう」

 そう言うと光線銃を構え直して乗客達に光線をビビビビと浴びさせる。混雑の中では乗客達は身動きが取れず、次々と光線の餌食になっていく。

「助けてくれぇ」
「な、なんだぁ……」
「うわぁ……」

 乗客達の悲鳴が段々と後ろに拡がっていく。殺されるのではないか、それとも放射能か何かに侵されるのではないか、という死を予想した野太い悲鳴。だが、それも前の方から悲鳴の質が変わってきた。

「う、うわ、む、胸が……」
「お、お前、髪がどんどん伸びてるぞ」
「服が、服がぁ……」
「す、すかぁとぉ!?」

 悲鳴の内容も変わってきているし、なにより悲鳴の声の質が段々と高い物に――「黄色い悲鳴」に変わってきている。いつしか車内は同じ制服を着た女子高生で混雑する、通学路線へと変わっていったのであった。

「うむ、君達の言葉遣いや知識は女子校での生活にはなんら支障がない様に変えているから心配しなくて良い。あ、今までの記憶も残しておいたから、安心してくれ。さて、駅行きのバスの時間があるから、私はこれで失礼する」

 バスの入口から降りるときに、ちらりとふり返って事の成り行きを呆然と見守っていた運転士に一声かけていくフォスター。

「これで時刻通りの安田女子校行きだ。何、運転士君、礼はいらん。当然の事をしたまでだ」

 騒然としていた車内はいつの間にか落ち着き、女子高生同士の会話が弾んでいたのであった。

「ねぇ、みっちゃんは宿題やってきた?」
「ううん、まだ……」
「よかったら後でノート見る?」
「ありがとう、ふーちゃん。恩に着るよ」





それにしても今回の仕事はタイムマシンを隠したところから離れた場所だっただけに、移動に難儀したな。
何が悲しくて、この時代の公共交通機関を使わなければならないのか。
第一、時刻表とバスの行き先が違うではないか。
あの後には安田女子校行が来たので、時間通りの安田駅行に「修正」しておいた。
お陰で目的の場所に行くことが出来たが、まったくもって時間にルーズな時代だ。
だが、こんな時代にも良いことを言う学者がいたな。
確か「ブロークン・ウインドウ理論」とか言ったか。
小さな時間の乱れが、大きな時空犯罪を産む。だから、小さな乱れも見逃さない。
歴史を守るため、私は今日も戦い続けるのだ!

























あとがき

 少年少女文庫の方へ投稿した作品です。真城さんのシェアワールドであるフォスターでは通算13作目になるそうです。今回の話はバスを待っているときに、ふっと思いついたネタです。こんなんで「修正」されてたらおちおちバスにも乗れませんねぇ。

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