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新性紀エヴァンゲンドウ

 


 真っ白な壁と天井、真っ白なカーテン。
 蝉の鳴き声とラジオ体操第二のアップテンポな音声と、それに併せてあがる、怪我人(リハビリ中)達のうめき声・・・・・・・
 
「知らない天井・・・・・・・・う!?」

 少女は自分の声に驚き、とっさに自分の口を押さえた。

 

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第一話『知りたくなかった天井』

 

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「どういう事なのかね?赤城博士!」

 冬月は退院してきた少女とリツコを前に、声を荒立てる。
 ここはネルフ本部にあるとある会議室。多少声を大きくしても、外に会話の内容が漏れることは無い。
 
「おちつけ・・・・冬月」

 少女が冬月を制止する。
 が、それは冬月の怒りに火を注ぐ結果となった。

「お前もお前だ。そもそも先程まであわてふためいていたのは誰かね?」
「はううう・・・・」

 真っ赤になってうつむく、少女なゲンドウ。
 今のゲンドウは、13歳ほどの少女の姿をしている。多少は元の面影も無いとは言い切れないが、40がらみの中年男性からローティーンの少女に変じた事で、その顔の構成パーツも、良い方向へと変化し、かつての目つきの悪い眼差しは、保護欲を相手に引き起こさせる様な柔らかな眼差しに、不適な笑みも小悪魔的で愛らしい笑みへと、その姿を変えている。
 そしてなにより、その容姿の愛らしさを損なわずむしろ高める縁なしの眼鏡と、美しく長い黒髪が、まさに美少女といった感じである。
 ある意味、彼の息子であるシンジに微妙に似ていないとも言えなくもない。
 もっとも、性格が同じこの親子の場合、多少仕草や表情が似てくるのも当然であろう。
 うつむくゲンドウにしばし見とれる冬月。
 ゲンドウがその視線に気づき冬月を見返す。
 リツコもまた、冷ややかな視線で、冬月を凝視していた。
 あわてて咳払いする冬月。
 
「ま、まあいい。とりあえずなぜ碇がこのような姿になってしまったのか、説明してくれたまえ。」

「では説明・・・・・・といいますか、ほとんど推論の域を出ないのですが、理屈としては、シンクロ率500%オーバーの状態で、一度初号機に取り込まれてしまった指令の肉体が再構成される際、コアに宿る意志が影響を与えたのだと思われます。」
「ユイ君の意志という事か・・・・・・」
「ああ冬月。ユイもその様な事を言っていたからな」

 冬月は『私を出し抜きおって、いい気味だ』と内心思いつつ、リツコに続きの説明を促す。
 
「元に戻るとなると、それこそ初号機の意志。つまりはユイさん次第という事になるのですが・・・・・
 現在、ある意味において指令の肉体は、チルドレンとして最適化された状態であるのも確かです。」
 

 沈黙







 最初に口を開いたのは冬月であった。
 
「ともかく、すぐには元に戻れない以上、最大のシンクロ率を出した碇には、チルドレンとして動いてもらうべきだろうな。ついでにいえば、正体が碇である事は隠し、他のチルドレン達には、普通の女の子の仲間として接してもらうべきだろう。」
「ええ、それが最良だと思われます。」

 腹に一物アリの冬月とリツコが、もはや決定事項とばかりにまくし立てる。ゲンドウ自身の反論など、端から聞く気は無いようである。
 
「シンジ君に似た部分がある以上、まるっきり他人という訳にもいくまい。だが、ユイ君の側の親類というには、いささか正体を隠蔽するには不適当だ。
 確か碇自身は天涯孤独だったはずだから、碇の兄弟の娘という事にして『六分儀』と名乗らせるのが適当だろうな。
 名前は、元の名前が『彦瞳』と書くから『ヒトミ』というのはどうだろうか?赤城博士。」
「ええ、それがベストですね、副指令。」


 すでに碇ゲンドウ改め六分儀ヒトミに自由は存在しなかった。

 

 
 

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 ゼーレ・・・・・・魂の座
 全世界の頂点に立つ 謎の秘密結社。
 そしてネルフの上位組織・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「碇、いや、今は六分儀ヒトミだったか。ネルフとエヴァだが、もう少し上手くは使えんのかね。」

 闇に浮かぶ黒衣の老人達・・・・ゼーレの評議会メンバーの一人がヒトミに対して強い口調で言い放ち、それをきっかけに他の委員達も口々にキツイ言葉をかける。

「零号機の損傷。初号機の破壊した施設。兵装ビルの補修。予算の範囲内とはいえ、ギリ
ギリだよ」
「聞けば、初号機は君の息子に与えたそうではないか?」
「息子の方はまだ、使徒撃退のためのチルドレンだからいいとしても、君まで乗ってその様な姿になるなど、シナリオを大きく逸脱して居るぞ!!」

「問題有りません。わたしがこの姿、すなわちチルドレンとして最適化した肉体を持つ事によって、戦力の将来的発展の希望も見え、多少なりとも余裕をえられる事になったのですから。」

 うつむきながらそう答えるヒトミに、委員達が一層強い口調で叱責を加える。

「オモチャに金をつぎ込むのもいいが、肝心なことを忘れちゃ困る」
「人類補完計画。コレこそが、真に優先されるべき唯一の希望なのだ」

『それは絶望の間違いだろう?』とは思ったが、表情も変える事無くヒトミは委員達の糾弾に耐え続ける。その際、前もって冬月やリツコと練習した通りに『愛らしいやや怯えた表情』を一瞬見せる事や、隙をついて目薬を差し、嘘泣きする事も忘れない。
 美少女の頬をつたう一滴の輝きに、委員達に動揺が走る。

「か、・・・・・・可憐な・・・・・・」
「あの碇がマダムバタフライのようではないか・・・・・・」
「ジャパニーズゲイシャガール」
「フジヤマハラキリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 何下にその可憐さに触れ、錯乱する委員の老人達。
 そんな同胞達の姿を見、重鎮であるバイザーの老人、議長キール=ロレンツが口を開く。

「予算の方は検討しよう。
 六分儀・・もはや後戻りはできん。人類には時間がないのだ。・・・分かっているな、お前が新しいシナリオを作る必要は無い」
「・・・・・・わかっています。」

 キールが、念を押すように命じる。

「夜更かしは美容の大敵だ、・・・スキンケアをして早く寝ろ・・・・」

 しばしの沈黙の後に委員達の姿・・・・ホログラフは会場からかき消えた。
 ヒトミは闇の中で呟く。
 
「余計なお世話だ!!
ともかくすべてはユイの計画のままに・・・・・・・」

 ヒトミは今回の会議における演技に満足していたが、その演技が完璧すぎたが故に、後の災難を呼び込む事になろうとは思っても居ない。
 もっとも、脇に控えていた冬月は、その将来起こるであろう事態を予測していたが、その事を、あえてヒトミに教えるつもりなどなかったのだった。

 



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「フォースチルドレンの六分儀ヒトミです。よろしくおねがいします。」

 発令所でのヒトミの挨拶。それは好意的に受け止められた。
 まさか、この美少女が、あのイカツイ碇ゲンドウとは思わないオペレーター達
 調子に乗ったヒトミは、面白がって意図的に保護欲をそそるような仕草をしてみせたりしている。
 
「かっわいーよなー。さすがシンジ君の従姉妹だな」
「あと3年もしたら、イイ感じかもなあ・・・・・」
「うううううううううっ 好みだわ。
あーん、着せ替えとかしてみたい♪」

 最後の某女性オペレーター(百合)の言葉に、一瞬背筋に寒気が走り、リツコの方に救いを求めしがみつくヒトミ。
 捨てられた子犬の様な眼差し・・・

 『イイ、すごくいいわ。でもここはもう少しじらせるのもいいわね。くすっ』

 お姉さまなオーラ全開にリツコはそんな事を考えていたりする。
 ヒトミはそんなリツコの考えをつゆ知らず、肉体的恐怖のままに、リツコの腕にしがみつく。

『これよこれ(快感)
 女になって帰って来た以上は、それなりに楽しませてもらいましょ♪ 』

 もはや、策が決まりすぎて思わず一瞬ニヤケてしまうリツコ。
 
「ねえ、リツコぉ」

 その時ミサトが尋ねた。
 
「彼女はどこに住むの?一人暮らしだっていうなら、部屋空いてるし、うちで引き取ろうとおもうんだけど?」

 のんきな口調のミサトに、リツコはあわてる。
 『ヒトミちゃんはあたしと住むのよ』なーんて事を思っていたからそりゃあわてて当然だ。
 あまつさえ、すでにヒトミに着せて楽しもうと、ネグリジェやらなんやら揃えているリツコ 。
 昨夜などは、

『さあ、ヒトミちゃん女の子の良さをおしえてあげるわ』
『い、いやん』
『くすくす・・かわいいのね』

などという会話の妄想とそれを実現化させる為のシュミレーションで睡眠不足 になりかけていたりもする。

「あ、いや、あのだから・・・・ちょっと・・・・・」
「だーいじょびじょび♪ 折角従兄弟同士がそろってるんだし、一緒に過ごした方がいいと、あたしはおもうのよん♪」
「で・・・・・でも・・・・・・」
「でももヘチマもなーい!!。私には作戦部部長としてあの子達の精神面もフォローする義務って、もんもあんのよ。 」
「わ、・・・・・・・・わかったわ」

『ミサト・・・・・おぼえてらっしゃい』

 かくして勢いに押され、ヒトミはミサトの家で同居する事になってしまう。

『シンジ君は天然ジゴロなのに、
一緒に住んで大丈夫なのかしら・・・・・・・』

 リツコは、自分の欲望以前に、息子と住まなければならぬヒトミに、不安で一杯だった。。
 

 

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「たっだいまー♪、ほらヒトミちゃんも、今日からここはあなたの家でもあるんだからぁ♪」
「た、ただいま・・・・」

 真っ赤にうつむくヒトミ。正直照れくさいとしか言いようが無い気分だ。
 そうしているうちに、奥から誰か・・・・・いや一人しかいないのだが、その同居人が姿を現す。

「ミサトさん、今日は早いんですね・・・・・・あれ?その娘は?」

 突然の来客、それも自分と同じ年頃の美少女(眼鏡っ娘)に戸惑うシンジ。
 その姿を見て、ミサトが微笑みながら紹介する。
 
「そっか、シンジ君も初めて会うんだ。
 この娘は、六分儀ヒトミちゃんって言って、あなたの父方の従姉妹で、フォースチルドレンなのよ。
 ほら、ヒトミちゃんも堅くなっていないで、挨拶挨拶。」
「六分儀ヒトミです。シンジ君よろしく・・・」
「うん、こちらこそよろしく」

 手を差し出すシンジ。
 シンジのいつもの『女殺しの微笑み』が無意識に炸裂した。
 直撃を受けたヒトミの鼓動が急激に激しくなり、頬が真っ赤に染まる。
 動揺するヒトミ。
 リツコの予想、的中である。
 
『そんなばかな、息子なんだぞ相手は。い、いや、それ以前にわたしは男だ。
なんで、シンジの笑顔にこんなにも動揺せねばならん!!
 しかし、あの笑顔はイイかも・・・・って、一体わたしはどうしたんだ!!』

 ヒトミの思考はもうグチャグチャである。

「え、えっと・・・こ、こちらこそ・・・・・」

 『疎まれる事には慣れてます』が口癖だった彼女の事。
  正直どう反応していいのかも、こう混乱していては出てこない。
 そんな彼女に助け船を出したのは、奇しくもこの事態を無自覚に演出したミサトである。
 
「まあまあ、初めて会った従姉妹相手で、つもる話しもあるんでしょうけど、今日は彼女も来たばかりで疲れているだろうから、空いている部屋とお風呂に案内してあげて♪」
「うん、そうだね。ヒトミちゃん、一緒に来て」
「う、うん。」

 共に連れ添う二人を眺めつつミサトはこっそり呟いた。
 
「これはおもしろい展開になりそうね♪」


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 葛城家の浴槽で、ヒトミはくつろいでいた。
 
「15年ぶりの使徒の襲来、そしてこの肉体とシンジとの同居か・・・・・・」

 


















 


 真っ白な壁と天井、真っ白なカーテン。
 蝉の鳴き声とラジオ体操第二のアップテンポな音声と、それに併せてあがる、怪我人(リハビリ中)達のうめき声・・・・・・・
 
「知らない天井・・・・・・・・う!?」

 少女は自分の声に驚き、とっさに自分の口を押さえた。
 あわてて周囲を見渡すゲンドウ。
 どうやら個室だったらしく、周囲にだれも居ない事を知り、ほっと方をなで下ろす。
 
「一体何が起こったのだ??・・・」

 口を押さえていた手をまじまじと眺めるゲンドウ。
 だがその手は、自分のモノではありえない、華奢でなめらかな少女のモノ。
 ゲンドウは、心を静め、上半身を起こす。
 すると、胸に二つの慣れぬ重さを感じる。
 それは紛れもなく乳房である。
 あわてて股間に手を当てるゲンドウ

「な、ない!!!」

 血の引く感覚。気絶しそうな気分。
 だがすんでで気を取り直し、鏡を探すゲンドウ。
 鏡は、ベッドのすぐ脇にあった。

「13歳、・・・・大体シンジと同じぐらいか・・・」

 茶目っ気を起こし、そのまま百面相を始めてしまうゲンドウ、しばし己の顔に見いる。

「なかなかの美少女ではないか・・・・・。かなりイイセン行っているな」

 なにげに満足げである。
 そしておもむろに鏡をテーブルに戻し、ベッドを降りて、鏡の前でポーズを付けるゲンドウ。

「パパだーいすき♪」









 


「自分似の娘などダメダメだと思っていたが、かなりいいじゃないか、ふっふっふ」

 その時背後で、ガラスの様なモノが割れる音。
 驚き、振り返ったゲンドウが見たのは、硬直したリツコの姿であった。

『ふふふ・・・ははははははははは』

 二人は、いつまでも照れ隠しに笑い続けた。
 
 
 
 


続く


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