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ハムスターと改名
巻之四十六と二分之一

作:かわねぎ



 忍風戦隊ハリケンジャーの秘密研究所。そこにはハリケンジャーとして戦っている鷹介、七海、吼太が、疾風流忍術「忍風館」の館長・日向無限斎の前に並び、その叱咤を受けていた。

「お主らは今のままでは御前様を守ることなどかなわん。前回の戦いもだな……」、

 だが、三人が並んでいるのはハムスターのケージの前。先程から説教をしているのは喋るハムスター。事情を知っている者ならば、それが日向無限斎の変化した姿だとわかることだろう。だが、その姿故に威厳までもがハムスター並の扱いを受けることもしばしば。

「あ、俺、派遣の仕事が〜」
「私も次のステージに遅れちゃう〜」
「鷹介、七海! まったく……吼太、お主はきちんと……」
「いやぁ〜、館長。介護師って大変なんですよ。じゃ、失礼します」
「吼太まで……」

 さすがに説教の時間が長かったのか、三人は頃合いを見て表の世界の仕事に出かける――要は逃げ出す事にした。残された無限斎の矛先は……娘でハリケンジャーの実質上の指揮官、日向おぼろに向けられることになる。

「まったくあやつら、ひよっこのくせに自信だけは一丁前じゃから……」
「まぁまぁお父ちゃん。鷹介も七海も吼太ももう立派に一人前やで」
「それは認めるが、もうちょっとこう、緊張感というものがあってもいいかと思うのじゃ」

 無限斎なハムスターが腕を組みながら難しい顔をする。ハムスターな短い前足を組むというのも、なかなか芸達者な館長である。おぼろはそんなハム館長が入っているケージを覗き込む。

「けど、お父ちゃんが言うと説得力あらへんなぁ」
「茶化すでない。御前様を実際にお守りするのはあやつらじゃ。ビシッと言わなくてはならぬ」

 無限斎にそう言われ、ちらりと後ろでお茶をすすっている御前様こと覚羅を見るおぼろ。巫女装束に身を包んだ彼女は、何事もなかったかのように落ち着いていた。さすがは宇宙統一忍者流の頭領たる御前様といったところか。

「あれ、お父ちゃん、毛並み変わってへん?」
「いつも通りじゃぞ」
「せやけどブチ模様が変わってるような……気のせいやろな……」
「昨日も元に戻る呪文を試してみたのじゃが……そのせいでもあるまいに」
「また無駄な努力をしとったんか。今度は何文字呪文を間違えたんや?」
『ビーッ、ビーッ、ビーッ』
「……って、なんや!」

 突如響き渡る警報に、慌てて指令用パソコンに向かうおぼろ。今度は御前も何事かとおぼろの方を見やる。おそらくは敵、宇宙忍軍ジャカンジャの出現だろう。

「お父ちゃん、ジャカンジャ出現や。しかもこの近くやで!」
「うむ、ハリケンジャーを呼び戻すのじゃ
「鷹介、七海、吼太。基地近くにジャカンジャ出現! はよう戻って来てや!」

 マイクを通して、ハリケンジャーの三人に呼びかける。すぐに応答があり、三人も急いで戻るよう答える。

『なんだって? みんな、聞いたか?』
『うん、みんな、急いで戻ろうよ!』
『おぼろさんは御前様と館長を安全なところにお願いします!』
「ああ、まかせとき」

 出て行ってから時間も経っていないので、すぐに戻ってくることだろう。その間に研究所を出て御前様とハム館長を安全なところに……だが、研究所を出たその時、目の前に手下の扇獣を従えた幹部、七の槍・サンダールが行く手を塞いだのであった。

「御前とやらを燻り出すまでもなかったな。やれ、デザーギ!」

 おぼろ達に襲いかかろうとした扇獣デザーギ。狙いはハリケンジャー達地球忍者の最高位に立つ御前。彼女を倒してしまえば、地球侵略もより容易になることだろう。あわやという瞬間、デザーギの足元に手裏剣が次々と突き刺さる。サンダールが近くを仰ぎ見る。

「何奴!」

 崖の上に立つ、赤、青、黄の原色スーツに身を包む三人。そして、深紅と深紺の二人の戦士も現れる。

「人も知らず」「世も知らず」「影となりて悪を討つ」
「「「忍風戦隊 ハリケンジャー!!」」」
「あ、参上〜」

「影に向かいて影を斬り」「光に向かいて光を斬る」
「「電光石火 ゴウライジャー!」」
「見参!」

 名乗り上げ、おぼろ達一行を庇うように立ち塞がるハリケンジャーとゴウライジャー。ゴウライジャーの二人も流派は違えども、まさに正義の戦士達だ。ハリケンレッドがハヤテ丸を、カブトライジャーがイカヅチ丸を構え、背中越しに叫ぶ。

「おぼろさん、御前様を連れて、早く!」
「ここは俺たちに任せるんだ!」
「みんな、それに一甲ちゃん一鍬ちゃん……頼んだでぇ」

 ハム館長を肩に乗せ、御前様の手を引くおぼろ。一刻もここを離れて安全なところに、ハリケンジャー達の邪魔にならないところに、隠れなければならない。だが、ジャカンジャもそう思い通りにさせないのであった。

「デザーギ、ザコはいい。狙いは御前とやらのみ!」

 サンダールの指示を受け、ハリケンジャーとゴウライジャーを無視し、御前へと攻撃の手を向けるデザーギ。無数の羽根を飛ばし、その一つ一つが小型の爆弾となっておぼろ達に降り注ぐ。

「「「きゃぁぁぁ!」」」

 爆風に吹き飛ばされる二人+一匹。助けに駆け寄ようとするハリケンジャーとゴウライジャーの前にはサンダールが立ち塞がり、宇宙忍術で五人を攻撃する。その爆発に吹き飛ばされる五人。

「ご、御前様……」
「おぼろさん……」
「館長……」

 ハリケンジャー達は苦しそうに立ち上がろうとするも、力が入らない。おぼろ達にトドメを刺そうとするデザーギを止めることすらかなわない。身体がわずかでも言うことを聞いてくれれば、この身に変えてでも守り抜くつもりなのに……

「死ねい、御前とやら」
「おおっと、ミーを忘れちゃいけないぜ」
「うぬっ、まだ邪魔だてする者が……」
「ボーイ達。御前様はミーが守り抜く」

 突如現れた第六の戦士がバット状の武器を回転させて、デザーギの攻撃を全てたたき落とす。誰あろう、謎の天空忍者、シュリケンジャーだ。デザーギの攻撃が防がれたことを見て、今度はサンダールがおぼろ達に向かっていく。土煙でよく見えないが、ぼんやりとうずくまる三人の姿が見えるので、おそらくおぼろ達は無事なのだろう。

「「「シュリケンジャー!」」」
「サンダールはミーに任せて、ボーイ達はデザーギを!」
「「「おう!!!」」」

 力を振り絞って立ち上がり、それぞれ必殺武器を構える。それらを砲身状に組み合わせ、五人での必殺技を炸裂させるのだ。

「五重連!」「ビクトリーガジェット!」

 かけ声と共にエネルギー波が発射され、狙い違わずデザーギに命中する。爆発に巻き込まれるデザーギ。これで倒すことが出来た。後は幹部のサンダールのみ。数の上では6対1。敵幹部だけあって実力ではひけを取らないのだが、相手の数が分散しているのは少々厄介である。

「地球忍者め、やるようになった。ここはひとまず引くとするか……」
「ここで決着を付けてやる! 待て、サンダール!」
「鷹介、深追いするな。今は御前様の無事を!」
「ああ、そうだな」

 シノビチェンジを解いて、おぼろ達がいるはずの所に集まる6人。シュリケンジャーは相変わらずシノビスーツのままだが。土煙が晴れると、瓦礫の下におぼろ達3人が。それをはね除けつつ、おぼろが起きあがる。

「まったく、こりゃ難儀やなぁ……」
「「「おぼろさん、無事だったんだ!!」」」
「「御前様は?」」
「うちも御前様もこの通り大丈夫や。うちかて疾風流の一員や。御前様は命に替えても守り抜くで」

 そう言いながら、おぼろは御前様の手を取り立ち上がらせる。どうやらどこも怪我はないようである。土埃まみれになってしまっただけ。おぼろと七海が巫女服についた土埃を払いおとす。

「ところで、館長はどうした?」
「そ、そうだ、お父ちゃん、どこや!」
「さ、探すんだ。上手く瓦礫の隙間に入ってるかもしれないぞ!」

 慌てて瓦礫の周りを探し出すハリケンジャー達。無限斎は身体がハムスターサイズだけあって、大きな瓦礫に下敷きになっていたら……そんな想像はしたくない。実の娘のおぼろはもとより、ハリケンジャーやゴウライジャーも必死に瓦礫を裏返している。

「ほら、あんたもぼーっと突っ立ってないで、お父ちゃんを探す、探す」

 おぼろが手を動かしながらも、そばに立っている少女に声を投げつける。少しでも人手があった方が早く見つけることが出来るはず。ぼーっと突っ立っているくらいなら、手を動かしてもらいたいものだ。

「あのー、おぼろ……」
「何や。無駄口叩いてないで、手伝うくらい出来るやろ」
「ワシはこの通り無事なんじゃが……」
「はぁ、あんた、何言うてんねん」

 突拍子もないことを言う少女に、苛々としながらも突っ込みを入れるおぼろ。そう言えば、こんなところに何でこんな中学生位の少女がいるのだろうか。しかもついさっきの戦いまではいなかったはず。

「おぼろさん、この女の子、誰?」
「よく分からへんが、自分がお父ちゃんだって言いよって……」
「おぼろ、この通り姿が元に戻ったぞ。どうやら爆風のショックで術が解けたようじゃ」
「「「???」」」
「ん、皆、どうした?」

 少女の半ば得意げな説明に、どうリアクションを返して良いのか分からないおぼろ達8人。シュリケンジャーはもちろん、滅多なことでは動じないはずの御前様までもが言葉を失っていた。

「……フー? ユーは一体誰?」
「誰って、日向無限斎に決まっておろう。人間の姿も久方ぶりじゃのう」

 シュリケンジャーがやっとの事で問いかけるも、答えは先程と同じ。信じられないことではあるが、この少女が言っていることが真実という可能性も捨てきれない。それに忍者の神秘。無限斎が何かの呪文をまたどこかで間違えたのかもしれない。

「あんた、よ〜く鏡見いや……」
「鏡って?」

 おぼろ専用雑用ロボット、じゃなかった、黒子ロボがどこからともなく姿見を持ってくる。怪訝そうに鏡を覗き込む少女だったが、その表情はすぐに驚きの物に変わる。鏡を軽く叩いて確かに鏡であることを確認すると、驚きは一層深い物になる。

「え……え……これは確かに鏡……」
「そう、何の術も使うてへんで。それがあんたの今の姿や」
「こ……これが、儂?」

 鏡の中から見つめ返すショートカットの少女。確認の意味で自分の身体をぺたぺた触りながら、お約束のセリフをつぶやく。そんな少女をしり目に、鷹介がおぼろに詰め寄る。七海と吼太も一緒だ。

「おぼろさん、どういう事なんだ? この娘が館長ってどういうことだよ」
「あ! もしかしたら……そうかもしれへんな……」
「何一人で納得してるのよ。ね、説明して」

 3人から急かされ、おぼろは懐から何やら取り出す。おぼろとハムスター館長が一緒に写っている写真が二枚。その写真を覗き込む三人。

「これやこれ。半年前に撮った写真と昨日撮った写真や」
「これがどうかしたんですか?」
「この写真のお父ちゃんの事で何か気づいたことあらへんか?」
「何かって、どっちも館長だよなぁ」
「よ〜く見ぃや」
「ハムスターの違いなんてわからないわよ」

 首をかしげる三人に、おぼろが説明する。

「昨日撮った方のお父ちゃん、よ〜く見たら、メスや」
「「「は??」」」
「ほら、ここんとこ。小さいけどおっぱいがあるで」
「あ、ほんとだ」
「おそらく昨日の呪文の間違いのせいでメスになったんやな」
「それで人間に戻ったら女の子になったと……」

 おぼろの説明に驚く3人。遠巻きに聞いていたゴウライジャー兄弟はもちろん、顔が見えないシュリケンジャーも驚いているようだった。まぁ、一番ショックを受けているのは無限斎改め、少女本人だろう。ちなみにさすがは御前様、動じてはいないようだ。

「そ、そんな……元に戻ったと思ったらこんな格好だなんて……」
「おそらく解けたのは『人間からハムスターになる呪文』だけなんやろな。昨日の『メスになる呪文』は解けとらへんのやろ」
「よくわかんないけど、影響が残ってるわけ?」
「そや。不十分に術がかかってるけど、この方がハムスターの姿より暮らすのには不自由せんやろ」
「そうだな。元の館長より……こっちの方がずっといいよな。な、みんな」
「うんうん」
「うん。あの館長より美少女の方がいいよ」
「そやろ、そやろ」

 楽しんでいる口調のおぼろとハリケンな3人に、思わず詰め寄る少女な無限斎。人間の姿に戻れたのは嬉しいが、少女の姿になってしまったのではちょっと問題だ。ましてや教え子達にそんな風に思われてしまっては、師としての立場はあったものではない。

「おぼろ、何か戻る手はないのか!」
「何かって、お父ちゃんのかけた術やろ。それ以上の術者やないと、術は破れへんで」
「……」
「今の疾風流にはお父ちゃん以上の使い手なんかおらへんで」
「……そ、そうだ! 御前様がいらっしゃる! 御前様!」

 その場にいた全員の視線が御前様の方に集まる。彼女は一同の顔を見回すと、その表情から、それぞれの想いを読み取っていった。そしておもむろに口を開く。その間、シュリケンジャーはその場に跪き、臣下の礼を取っていた。

「お主の戸惑う気持ち、この覚羅も分かるぞ」
「御前様……ありがたきお言葉……」
「無限斎!」
「はっ」

 御前様の御言葉に、畏まる少女。疾風流忍術を初め、地球の忍術を統べる銀河統一忍者流の当主である御前様なら、きっと何らかの術を使ってくださるだろう。そう期待して、少女な無限斎は御前様の次の言葉を待った。だが、かけられた言葉は……

「可愛くなったな」

 凍り付く少女な無限斎と、沸き立つハリケン達。今の少女の姿は御前様にも好評なようだった。それまで無言だったゴウライな二人も、小声で囁き合う。

「兄者、なかなかイカスと思わないか?」
「うむ。守ってあげたいタイプだな」
「ほう、兄者の好みは……」
「い、いや、お守りするのは御前様のこと。その事を言ったまでだ」

 そんなゴウライな二人に頭を痛めながらも、少女な無限斎が御前様に詰め寄る。無礼は承知の上。何としてでも元に戻して頂かなくてはならない。だが、御前は落ち着いて、少女を諭すように言葉を紡ぎ出す。

「御前様!」
「無限斎。これからジャカンジャとの戦いも佳境に入る」
「はっ」
「その為にも我々は力を温存しておく必要があると私は思う」
「そこまでお考えであったとは。その深謀遠慮、この無限斎めには思い至りませんでした」
「この地球の為、今しばらく堪え忍んでもらえぬか」
「ははぁっ」

 御前様の言葉を噛みしめて、深々と頭を下げる少女。地球の平和がかかっているこの時分に、自分の事しか考えなかったことを恥じているようである。その頭越しに御前様がにっこりとVサインを他のみんなに送っていたことは、知らなくていいだろう。

 その場にいた全員が少女化したことは受け入れたことで、今度は次の問題が持ち上がってくる。この少女を「無限斎」と呼ぶのも語弊があるし、なにより今までのイメージが邪魔してしまうのだ。

「それはそうと、名前を決めなきゃね!」
「無限斎だけにさぁ……むっちゃん!」
「あ、賛成だ。兄者もそう思うだろ」
「ということで、お父ちゃん。今日からは『むっちゃん』や」
「御前様もむっちゃんも、俺たちがまとめて守ってやるぜ。な、一甲」
「ああ」

 吼太の提案は全員一致で受け入れられた。ただ一人無限斎改めむっちゃん本人が反対していたが、その反対はカウントされない事は言うまでもないだろう。

「お前達全員……儂はどうなるんじゃ……」

 力無く肩を落とすむっちゃん。それと対照的に気合いの入るハリケンジャーとゴウライジャー。正義の心は、守るべき者が増えればそれだけ強くなるのだ。地球の平和を守るため、愛する者を守るため、今、ハリケンジャーとゴウライジャーは誓いを新たにするのであった。



<次回予告>

むっちゃん「買い物じゃと?」
おぼろ「そや、お父ちゃん」
御前「ここが でぱあと と言う所か」
七海「これなんか似合うんじゃない〜」

 巻之四十六と三分之二 『デパートと買い物』

むっちゃん「勘弁してくれ〜」
御前・七海・おぼろ「「「「待ちなさい!!」」」




あとがき

 え〜、今度は忍風戦隊ハリケンジャーの二次創作です。とある朝、ハリケンジャーを見ていて思わずニヤリとしてしまいました。番組最高の役者さん(?)を見て「今回の生ハムちゃん、♀じゃん」と。別の話ではしっかりと♂ハムの時もありましたので、役者ハムは数匹いるのでしょうね。館長が♀ハムだったら元に戻ったときは……と、例によっての妄想から書いてみました。当然最終回はふつうに元に戻ってましたが、残念(ぉ)。ところで一コマだけでハムを♂か♀か見分けてしまった視聴者っているんだろうか……

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