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星躔戦隊 イクスレンジャー

作:かわねぎ



 ここは地方都市の日東市。人が行き交う繁華街。それは突然現れた。

「なるほど、この街なら我らの奴隷となる地球人どもを容易く集められそうだな」

 歩道橋の上から人の波を見下ろす女性。少々露出度が高めの衣装にマントを羽織って、子供向け特撮番組に出てくる、悪の組織の女幹部のようなイメージだ。そのいでたちは周りからもいろんな意味で浮いていた。例えば、後ろに控える人物。

「それでは、作戦開始といきますか」

 くぐもった声で女幹部の指示を仰ぐ人物。いや、人物と言うより異形の怪物とでも……むしろ特撮番組に出てくる着ぐるみの「怪人」と言った方が良いのかも知れない。その怪人の言葉に女幹部は仰々しく頷き、右手をさっと振って叫ぶ。

「うむ、ジージー兵、やれっ!!」
「ジィィ!!」

 女幹部の号令に答えて、さらに背後に控えていた全身黒タイツの怪しい人物……というより特撮番組に出てくる「戦闘員」がわらわらと出てくる。そして、怪しいポーズで歩道橋から人混みへと飛び降りていく。

「な、なんなんだ?」

 突然現れた戦闘員に戸惑う通行人達。戦闘員が無差別に襲いかかると、通行人達の当惑は、すぐに恐慌に取って変わった。

「うわぁぁぁ」
「きゃぁぁぁ」
「ジィィ!!」

 逃げまどう通行人を見下ろしながら、今回の任務が首尾良く行きそうな事に上機嫌になる女幹部。

「あはははは。恐れおののくがいい。我らのしもべになる事がお前達の幸せだ。あはははは」
「初の作戦が成功すれば総統もお喜びになるでしょう」

 怪人の表情は分からないが、くぐもった声からは、やはり上機嫌であることが分かる。おそらくは悪の組織であろうこの二人、作戦の成功は揺るぎない物と確信していた。だが……

「待て! そうはさせん!!!」

 突如として凛と響き渡る声。その方向、雑居ビルの屋上を見ると、太陽を背にして三つの影がたたずむ。

「何者!」

 女幹部の誰何の声に、ここぞとばかりに名乗りを上げる三人。

「イクスレッド」
「イクスブルー」
「イクスイエロー」

 それぞれポーズを取りながら、名乗る原色の強化服に身を包む戦士達。そう、特撮番組に出てくるような格好をした三人の男達だ。

「この世の正義を天から見守る星々の、天に輝く十字星……」
「星のやどりに満ちる力で悪を討ち取る!」
「きらめく、星躔戦隊……」
「「「イクスレンジャー」」」

 決めポーズと共に、背後で原色の爆発が起こる。何故雑居ビルの屋上に火薬が仕掛けられているのかは知らない。

「イクスレンジャーだと……こしゃくな。我々『暗黒銀河帝国ジーテス』に楯突く気か」
 聞かれてもいないのに、わざわざ組織の自己紹介をする女幹部。まあ、悪の組織の義務と言えば義務なのだが。

「暗黒銀河帝国ジーテス! なぜこの街を狙う!」
「東京を狙った組織はことごとく潰されてきた! 今回はその教訓を生かしたというのに邪魔が入るとは……」
「地方都市にも正義の戦士はいる! 俺たちのように!」

 どこかで聞いたような女幹部のセリフに答えるイクスレッド。実際はたまたま戦隊の基地本部、CLUXがこの街にあっただけの事なのだが、そこはそれ、正義の戦士のノリというものがある。そう言った方が相手も都合良く誤解してくれる物で……

「やはり世界征服には邪魔が入るのか。ジージー兵、やれっ!」
「ジィィ!!」
「とぉぉぉっ!」

 一気に地上に飛び降りて、戦闘員と対峙する。20数対3。その数の差を物ともせず、果敢に戦うイクスレンジャー。パンチ、キック、鍛えた技で戦闘員達をなぎ倒していく。

 逃げ惑っていた通行人達も、ヒーローの出現に落ち着きを取り戻して、成り行きを見守っている。中にはついさっきまで自分たちが危ないところだったのも忘れ、のんびりと観戦する通行人も。

「すげえな、ナマの戦隊物だよ」
「イクスレンジャーっていったっけ? いいセン行ってるな」
「でも3人戦隊なら1人が女であるべきだな」

 戦闘員は所詮戦闘員。数では圧倒的なのに、あっさりと倒されてしまう。その辺の描写はザコ戦なので割愛しても問題ないだろう。予想された結果なのだが、女幹部としては非常に腹立たしい。

「馬鹿な、ジージー兵をいとも簡単に……」
「ならば、ここは俺が……ふんっ!!!」

 怪人が一歩踏み出して、力を込めてポーズを取る。これが何かの技なのだろう。イクスレンジャーの三人の周りで爆発が起き、吹き飛ばされてしまう。さすがに怪人クラスは戦闘員と違って力量がある。その差は歴然、そう簡単には倒せない。

「見たか、これが我々ジーテスの力だ!」
「だが俺たちは負けない! 正義の力を見せてやるっ!」

 体勢を立て直して、3人で怪人に向き合うイクスレンジャー。スティック状の武器を取り出すイクスレッド。ブルーとイエローもレーザーガンを取り出す。それぞれの武器を構えて、それぞれの技を怪人に叩き込む。

「シューティングブルースターぁ!」
「イエローメテオキャノンっ!」
「レッドスターダストアタックぅ!」

 イクスレンジャーの活躍に喝采を送るギャラリー達。がんばれ。怪人を倒せ。そんな声が聞こえてくるようだった。中にはこういう声も……

「いつも思うんだけどさぁ。三対一とか五対一は卑怯だよなぁ……」
「でも最初に戦闘員をけしかけたのは敵の方だろ。トータルだと正義の方が数が少ない」
「これは子供達に協力の大切さを教えてるんだ」

 ギャラリーの「卑怯」の声に思わずぴくりと体を震わせるレッドだったが、好意的な意見にマスクの下でほっとする。そう、三つの心を合わせたら、信じた未来にがんばる事だって出来る。それはイクスレンジャーにとって、いや、我々人間にとって、最も大切な事なのだ。

「今だ! バイルイクスファイヤー!」

 怪人が弱ってきたところで、レッドが技の名前を叫んでスティックソードを構える。それに応じてブルーとイエローもレーザーガンをそのスティックに連結させる。必殺武器、イクスファイヤーだ。レッドのポーズと共に銃口からビームが迸る。

「う、うわ〜〜〜〜〜」

 ビームは狙い違わず怪人に命中する。巻き起こる爆発。その威力は並大抵ではない。ギャラリーからも歓声が起こる。そう、さすがの怪人もとどめを刺された……ように見えた。ギャラリーの中にも冷静に見ている連中もいるわけで……

「おい、この展開ってあれだよな」
「ああ。お約束に従えば……」
「「「巨大化!!」」」

 ギャラリーの言葉を待っていたかのように、女幹部が虚空にさっと右手を振り上げて叫ぶ。

「暗黒小動物、コミミン!」

 空間がねじれるようにして、小動物と言うには大きすぎる、人間大の生物が現れた。そして怪人の亡骸に向かって、ビームを照射する。怪人が光に包まれると、コミミンは力を使い果たしたのか五〇〇円玉くらいの大きさに縮んで、ころっと死んだようにひっくり返ってしまう。ちなみに死んだのではない。寝てるだけなのだ。そう、まるでピグミージェルボアのように(検索してみてね♪ かあいいよ♪)。

「いかん、レッド、巨大化するよ」
「参謀長にビッククルックスの出動要請です!」
「いや待て、見ろ!」

 光に包まれた怪人のシルエットは巨大化……せずに、逆に小柄になっていく。着ぐるみ怪人のだぶっとしたシルエットから、普通の人間のように……

「あははは、ジーテスの恐ろしさ、とくと味わうがよい!」

 女幹部の言葉にファイティングポーズを取って、怪人の周りの光が収まるのを待つイクスレンジャー。やがて光が収まると、そこには……

 美少女。

 そこに立っていたのは怪人ではなく、年の頃16歳くらいの美少女であった。怪人の面影すらない少女。ツインテールにまとめた髪が、ちょっと幼い顔立ちに似合っている。頭にサークレットのような物をかぶっているのだが、それが可愛らしさを引き立てるのに一役買っていたりもする。

「あははは、これなら手を出せまい! 地球人の弱点は調べ上げているのだ! やれっ!」

 女幹部の司令に従い、少女は可愛い顔に邪悪な笑いを浮かべ……ではなく、可愛く微笑んで首を軽くかしげる。ギャラリーもこの成り行きに唖然としてしまっている。というより、少女に魅了されていると言った方が良いかも知れない。

「か、かわいいじゃないか……萌え……そう、萌人だ!」
「確かにこれではイクスレンジャーも手が出せないな……やるな敵も……」
「あの娘を倒したりしら、許さんぞ、イクスレンジャー」

 ギャラリー達も現金な物である。外見で人を判断するというのは世の中よくある事なのだが、ここまで評価が変わる物なのだろうか。世論はもはや強化服男三人ではなく、少女化怪人、いや、萌人の方を支持しているようだった。先程まで自分たちが危ない目に遭うところだったのをすっかり忘れている。この国の国民性らしい。

 当然戸惑いはイクスレンジャーの三人をも捉えていた。悪を倒すために結成されたイクスレンジャー隊。怪人を倒したり、戦闘員を倒したりするのには何の罪悪感も感じないが、可愛い少女を目の前にすると倒してしまっていいものか、迷いが生じてしまうのであった。

「おにいちゃん達、ごめんね。倒さなくちゃいけないの」

 口調も姿通りの、怪人改め萌人がじりじりと歩み寄ってくる。その可愛らしい口調が迷いを増幅させる。だが、正義の使命の前に、イクスレッドは迷いを断ち切ったのであった。さすが星躔戦隊のリーダー。

「外見は女の子だが、中身はジーテスの怪人なんだ。騙されてはいけない!」

 ギャラリーにも聞こえるようにそう叫ぶと、レッドはスティックソードを手に少女を攻撃しようとする。まずは牽制の一撃。さっと宙を切る。

「……いたいよぉ。ぐすん……」

 立ち止まって、両手で涙を拭く仕草をする萌人。その仕草のせいで、同情的な、そしてイクスレンジャーへの非難的な眼差しがギャラリーから放たれる。当のイクスレッドもその視線に当惑して思わず大声で言い訳をしてしまう。

「い、今の当たってないぞ! 嘘泣きだ、嘘泣き!」
「てへっ、ばれちゃった?」

 さすが悪の萌人。萌人はぺろりと舌を出して、軽く握った拳で自分の頭をこつんと叩く。その仕草のせいで、容姿で騙すとはもってのほかとイクスレンジャーに戻りかけた世論が、再び萌人に傾くのである。

「自分の可愛らしさを武器にするのは、侮れないな」
「でも、可愛いから、許す!!」
「ど〜みても今のは泣かせたイクスレッドが悪い!!」

 理不尽なギャラリーの意見がイクスレンジャーに浴びせられる。このまま女の子の相手、じゃなかった、萌人と対峙するのは色々な意味で不利になる。まるでイクスレンジャーの方が悪人である。今まで地球を守ってきた戦隊とは違った危機に瀕しているといってもいいだろう。

「このままではまずい。一気に決めるぞ、ブルー、イエロー」
「いいんですか? レッド」
「ああ、もう一度バイルイクスファイヤーだ!」

 まさか中ボス戦を二回もやるとは思わなかったイクスレンジャー。先程使った必殺技なのだが、相手が人間サイズなのでやむを得まい。イクスファイヤーを萌人に向けるのだが、ギャラリーの目が何となく痛い。

「「「バイルイクスファイヤー!!」」」

 萌人の最後はあっけなかった。爆発に飲み込まれる少女。これで地球の平和は守られた。ありがとうイクスレンジャー。ただ、その背中にはギャラリーの冷たい視線が突き刺さっていたのだった……


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


「以上で報告を終わります」
「ご苦労」

 星躔戦隊本部CLUX(クルックス)会議室。女性秘書官が、イクスレンジャー隊の活躍を参謀長に報告していたところだ。戦いの様子を映し出していたプロジェクターが消え、室内に灯りがともる。

「それで、市民の反応はどうかね」
「芳しくありません。危機を救ったのに、です」
「う〜む、やはりあれかね。萌人のせいかね」
「はい、その件に対する投書、ファックス、Eメール。ご覧ください」

 紙束にざっと目を通していく参謀長。代表的な意見数件の他は、束ねてある。だから上の方だけ見ればよい。この辺は秘書官の心配りだ。

『女の子を倒すなんてひどい』
『可愛い女の子に悪人はいない。あの娘は何か事情があったんだ』
『あんたらには血も涙もないのか』
『話し合えば分かり合えると思います』
『おんなのこをいじめちゃだめって、ママにいわれたよ』

 ため息をつきながら、紙束をどさっとデスクに放り投げる参謀長。

「正義のヒーローがひどい言われようだな」
「同感です」
「戦隊に憧れてこのポストに就いたのだが、現実は厳しいな」
「他にもこういう意見もあります」

 秘書官に促されて、参謀長は別の紙束を読んでいく。

『なぜ女性はいないんですか』
『男女雇用機会均等法違反だぞ』
『ラ○ブマンやハリ○ンジャーだって1人は女性だ』

 今度はわなわなと震えながら紙束に力を込める参謀長。

「サン○ルカンを知らんのか! 男三人でしかも途中で五人にならないんだぞ!」
「参謀長の時とは時代が違います。今は巨大ロボも2〜3機以上は必要なのですから」
「う〜む、私が行動隊長として現場にいた時は巨大ロボもなかったのだぞ……」

 どうやらこの参謀長、若いときから色々と特撮物に憧れて活躍していたらしい。なんでもギターを担いで流れ歩いていた事もあったとか。ちなみにこの人、前職は特別救急警察隊の本部長だったそうだ。

 それはさておき、一般市民のイメージというのは実は大切な物である。今までの戦隊は「後○園ゆうえんちで僕たちと握手!」などという市民との触れ合いの場を設けたりしてイメージアップに取り組んでいた。

 だが、イクスレンジャーは違った。予想外の「怪人の少女化」のために、敵組織のイメージがストレートな「悪」では無くなってしまったのだ。すなわち登場から「正義のヒーロー」のイメージ作りに失敗してしまったのである。

「だが、この状況を打開する方法が無いわけでもない」
「まさか、参謀長……あのプロジェクトを……」
「うむ」
「そんな……本人達が納得しません!」
「させるまでだ。CLUXの総力を挙げ、イクスレンジャーを揺るぎない正義の戦士とするのだ!」

 その日、イクスレンジャー隊に緊急招集がかかったのであった。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 数日後、日東市繁華街。再び彼らは現れた。新たな怪人を引き連れて。

「ジージー兵、やれっ!!」
「ジィィ!!」

 女幹部の号令で、通行人に襲いかかる戦闘員達。逃げ惑う通行人達。先日の失敗もあるので、今回の作戦は成功させたいところだ。前回だって邪魔が入らなければなにも問題はなかったのだ。邪魔さえ入らなければ。

「待てっ!! これ以上好きにはさせない!」
「まさか、またしても……」
「「「星躔戦隊、イクスレンジャー!!」」」
「ええい、またしてもイクスレンジャーか。こしゃくな!」

 そう、今回も邪魔が入ってしまうのである。強化服姿の三人が名乗りを上げて戦闘員と戦っていく。ただイクスレンジャーの強化服がちょっと違っているのである。上腕部、膝、胸にアーマーを付けており、イメージは直線が目立つ、ちょっといかつい物になっている。ギャラリーの中には、そんな変化を見逃さない者も……。

「おいおい、まだ二回目の登場なのに強化パーツ付かよ。邪道だな」
「おもちゃ屋の都合なんじゃないのか。あれ? 背が小さくなってない?」
「気のせいだろ。それよりもイクスレンジャーの応援だ」

 戦闘員と戦うイクスレンジャー。もちろん所詮はザコ敵、器用に投げ飛ばしていく。その背中にギャラリーの声援がかかる。その声援は、戦闘員のふがいなさにしびれを切らした怪人が出てきたところで、一層盛り上がる。

「ねえレッド、批判の投書とか多かったはずですよね」
「それにしては、みんな応援してくれてるね……」
「みんなも正義を願っているんだ! 行くぞ、ブルー、イエロー」

 予想外のギャラリーの反応に当惑するブルーとイエローだが、熱血漢のレッドにはその声援でさらに力がみなぎる。もちろんブルーやイエローだって応援されて悪い気はしない。まあ、普通の戦隊ならば応援されて当然なのだが、よほど最初の批判がショックだったのだろう。少々自分の正義に自信がなくなってきたこともあった。

「よし、バイルイクスファイヤーだ!」

 弱ってきた怪人にとどめを刺すため、必殺技を繰り出すイクスレンジャーの三人。ビームが狙い違わず命中し、派手な爆発を上げる。もちろん怪人が倒された訳だ。ギャラリーもここぞとばかりに盛り上がる。

「よし、怪人を倒したぞ」
「よくやった、イクスレンジャー」
「いよいよだ!」

 怪人が倒されて、心中穏やかでないのは女幹部。前回に引き続き、今回もイクスレンジャーに作戦を阻止されたのである。一般人相手の作戦を、イクスレンジャー掃討作戦へと切り替える。世論も味方に付け、精神的にイクスレンジャーにダメージを与える事も忘れない。

「暗黒小動物、コミミン!」

 空間がねじれるようにして現れる巨大ピグミージェルボアならぬ、コミミン。怪人の亡骸にビームを照射して、力を使い果たしてしまう。ころっと転がったコミミンをそっとすくい上げる女幹部。

 怪人が光に包まれるのを、見守る女幹部とイクスレンジャー。そしてギャラリーも。やがて、光が収まり、異形の怪人は愛らしい少女、萌人へと姿を変える。今回はロングヘアーのお嬢様風。頭にかぶったやんやの歓声を上げるギャラリー達。気楽なものだ。

「う〜、今回の萌人も萌え〜」
「かわいいけど、俺は前回の方がツボだったな……」
「これが楽しみだったんだ。ここまで追いつめたイクスレンジャーに感謝だな」

 にこりと、ギャラリーに微笑みかける萌人。その後ろで、さっと右手を上げてイクスレンジャーを指し示す。

「行け、萌人、イクスレンジャーを倒すのだ!」
「そうはいくか! ブルー、イエロー、行くぞ!!」

 イクスレッドもやる気満々。いくら相手の外見が女の子であったとしても、中身は怪人。きっとギャラリーだって分かってくれるはずだ。それに今回から倒す方法も変わっている。一般市民の受けも悪くないはずだ。

 萌人相手にファイティングボーズを取るイクスレンジャー。強化服のお陰で強化されている聴力は、ギャラリーから届く声援の質が微妙に変化しているのを聞き逃さなかった。そう、かわいい萌人を倒すのを非難するような声を。思わず声を荒げるイクスレッド。

「みんな、外見に騙されちゃいけない。可愛い顔をしても地球征服をたくらむ悪の手先なんだ!」

 だが、レッドが正義感に訴えようとも、実際に可愛い少女が目の前に立っているのだ。それを倒すという行為は、いかに正義の戦隊とはいえ情け容赦ない物、いや、極悪非道とすら思えてくるのであった。当然ギャラリーのブーイングも大きくなる。

「また萌人を倒すつもりなのか。ひどい奴らだな。可愛い女の子には罪はないぞ」
「マスクかぶって正体隠してるからな。何やっても平気なんだろ。匿名掲示板と一緒だ」
「まさしく逝ってよしだな」

 世の中の正義という物は本質を見るのではないのか。外見だけなのか。先程の応援は、萌人を見たかっただけなのか。そんな思いがイクスレンジャー達に去来する。我々が正義を貫いている事を分かってもらいたい。だから強化服の改良にも協力したんだ。

「お兄ちゃん達、困ってるみたいね。楽にしてあげるわよ」

 余裕たっぷりの表情でイクスレンジャーににじり寄る萌人。これがギャラリーから見れば「優雅な微笑みをたたえたお嬢様」なのだから始末が悪い。

「ああっ、持ち帰りたい笑顔♪」
「あの可愛らしい女の子に手を挙げるなんて、それでも正義のヒーローか」
「せめて堂々と素顔で戦えよ」

 ギャラリーの非難が最高潮に達した時、イクスレッドが意を決して、一歩歩み出す。

「俺たちはマスクに隠れて戦うなんて事はしない!」

 イクスレッドのマスクのゴーグル部分が上に跳ね上がり、顔の部分が左右に開いて、素顔が晒し出される。同じようにブルー、イエローもマスクから素顔を晒している。その行為に息を呑むギャラリー達。

 それでは足りないとばかり、マスクを脱ぎ捨てるイクスレンジャーの三人。髪を風になびかせながら、その正体をギャラリー達にもジーテス達にも堂々と明らかにしたのである。非難を浴びせていたギャラリーも水を打ったように静かになっている。誰かがやっとの事で言葉を一言絞り出した。

「……か、可愛い……」

 そこに立っていたのは、強化服を着た可愛らしい少女が三人。ポニーテイルの少女、ロングヘアーの眼鏡をかけた少女、セミロングの少女が並んでいる。その姿に言葉を失ったギャラリーに、改めて名乗りを上げる三人の少女。

「イクスレッド」
「イクスブルー」
「イクスイエロー」

 アクションも前回と同じなのだが、なぜか新鮮に見えてしまう。

「きらめく、星躔戦隊……」
「「「イクスレンジャー」」」

 名乗りと共に、背後で同色の爆発が起こる。ポーズを決めるイクスレンジャーの少女達を見て、ギャラリーも再び活気を取り戻す。

「萌人よりかわいいぞ……俺、イエローの娘が好みだな」
「眼鏡っ娘萌え〜」
「レッドの娘は気が強そうだけど……俺っ娘……いい!」

 ギャラリーの雰囲気も先程とはうって変わって、イクスレンジャー支持に回っているようだ。美少女 vs 美少女のシチュエーションに、否が応でも盛り上がるのだ。萌人に向けていたビデオカメラを、イクスレンジャーに向け直すギャラリーも。

「萌人、お前の悪巧みもここまでだ」
「あら、お嬢ちゃんに私が倒せるかしら?」
「誰も倒すとは言ってない。行くぞ、ブルー、イエロー」

 少女の姿でも口調は以前のままのイクスレッド。姿とのギャップがあるのだが、本人は気にしていない。というか、たぶん女の子した口調が恥ずかしいのだろう。その辺については、

「可愛い姿で男言葉萌え〜」

というギャラリーもいるので、まあ、よしとしよう。とにかく、女の子同士のアクションが始まったのであった。

「ブルー、イエロー、アレをやるぞ」
「了解です」
「はい」

 敵の萌人が疲れてきたところで、とどめの必殺技を繰り出そうとするイクスレンジャー。それぞれの武器を構えて、技の名前を叫ぼうとする。

「またあの必殺技のなんとかファイヤーか?」
「う〜ん、女の子戦隊でも萌人を倒すのはやっぱり忍びないなぁ」
「相手も女の子なんだしな……」

 少女なイクスレンジャーを応援するものの、少女な萌人にも同情的なギャラリー。そんな矛盾した世論に呼びかけるように、レッドの高らかな声が響き渡る。

「俺たちが討つのは悪の心! 行くぞ、イクスコーブウェブ!」

 レッドのかけ声と共に、武器を構えるブルーとイエロー。そこから、ロープ状のビームが発射されて、萌人を絡め取ってしまう。

「こ、これでは動けませんわ……」
「「「エンド・スパーク!!」」」

 イクスレンジャーのかけ声が揃うと、それぞれの武器からビームが迸り、萌人を包む。その威力のためか、全身を硬直させ、やがて崩れ落ちるように倒れてしまう萌人。ギャラリーもその光景を固唾を呑んで見守っている。

「やっちゃったか……」
「いくら女の子戦隊でも、倒しちゃうんだな……」
「いや、待て、萌人が気がついたぞ! 倒したんじゃない!」

 ギャラリーの1人が指摘すると、視線が倒れた萌人に集中する。萌人の体を優しく支えるイクスレッド。その腕の中で、ゆっくりと目を開いていく萌人。

「う、う〜ん……」
「気がついたか」
「あれ、私は今まで何を……あなた方は……」
「悪の手で操られていたんだ。もう大丈夫だ」

 萌人の手を取って立ち上がらせるイクスレッド。その目にはもはや悪の翳りはない、純粋な少女の物だ。その光景を眩しそうに見るギャラリー達。やはりイクスレンジャーは正義の味方だ。罪を憎んで人を憎まず。そう、この少女萌人が悪いのではない。悪いのは悪の枢軸、暗黒銀河帝国ジーテスなのだ。

 今日もジーテスの野望を打ち砕いたイクスレンジャー。だが、悪の魔の手はとどまるところを知らない。戦え、イクスレンジャー。地球を守れ、イクスレンジャー。悪を滅ぼすその日まで……


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


「参謀長! 約束が違います!」

 星躔戦隊本部CLUX。そこで3人の少女が参謀長に詰め寄っていた。

「イクスレンジャーの時だけ少女になるんじゃなかったんですか!」
「私達、まだ戻っていませんけど……」
「まさか、ずっとこのまま?」

 そう、少女戦士になるのはイクスレンジャーに変身している時だけということで、レッド達三人に説明していたのだが、強化服を脱いでも、そのまま少女になっているのであった。

「それがな、システムが未完成でな。戻れないんだよ……」

 詰め寄る三人にすまなそうな表情で答える参謀長。言い訳にしか聞こえないのを承知で、現状を説明していく。もちろんそれで納得のいくレッド達3人ではない。

「CLUXの技術陣が全力を挙げて元に戻れるようにする。それまで待って欲しい」
「それと、このような投書、ファックス、Eメールが来てます」

 参謀長の隣に控える女性秘書官が、レッド達3人に紙束を渡す。それをひろげるレッドと、覗き込むブルーにイエロー。しばらく読んでいると、レッドの肩がぷるぷると震え出す。その内容というのも……

『萌人を殺さない戦いが、すばらしいと思います』
『可愛い顔が隠れるので、マスクはかぶらないで戦ってください』
『女3人戦隊とは実に画期的だ。(・∀・) イイ!!』
『ブルーたん萌え〜』
『俺っ娘のレッドたん……(;´Д`)』
『胸アーマー邪魔だ!』

 投書の殆どが少女戦隊を褒め称えているものであった。ちょっとずれているものもあるが、否定的な物は無いと言っていいだろう。喜べないのは当人達だけだ。男のままで非難を浴びるのもイヤならば、少女の姿で絶賛されるのも釈然としない物がある。

「不満もあるだろうが、ジーテスを倒すまでの辛抱だ」
「平和が戻ったら、男に戻してくれるんですね」

 なおも詰め寄るレッドに、無言で頷く参謀長。そして、壁に貼ってあるポスターの方に向き直る。先の戦いでのレッド、ブルー、イエローが素顔になっているときの写真が図柄になっている。「イクスレンジャーショー。後○園ゆうえんちで私達と握手!」というキャッチコピーは普通の戦隊物であるのだが……

「さて、とりあえず市民との交流イベントがある。頑張ってくれたまえ」
「絶対子供だけじゃないような気がするな……」
「このポスターですと、年齢層が違うような気がします」
「たぶん、ね」

 悪の組織、ジーテスとの戦いの不安よりも、女の子としてすごす不安の方が大きいイクスレンジャーの三人であった。戦え、イクスレンジャー。負けるな、イクスレンジャー。男に戻れるその日まで……



あとがき

 え〜、戦隊物です。少女化してしまう怪人と戦う戦隊は、一般市民からもあまり良い印象を持たれなくなってしまいました。一般市民のイメージ戦略のために改良された戦隊メンバー達、戻れる日は来るのでしょうか。ところで、この参謀長、モデルはおわかりでしょうか。このお話が好評なら連載も……なんて考えてたりして……

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