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元気印のコンサート

作:かわねぎ



「う〜ん……」
「う〜ん……」

 俺と友人の相沢がテーブルを挟んで腕組みしていた。考え込んでも唸っても、状況は改善しないことは分かり切っているのだけど、やはり受け入れがたい事というものはあるもんだ。

「厳しいな……」
「ハムふぇすサンまちゅりと同じ……だな」
「これは完全にヲタ排除にかかってるな」
「差別だ! 俺たちの方が金を落としてるはずだ!」

 俺たちは一枚のパンフレットを目の前にして悩んでいたのだ。パンフレット自体は俺たち二人にとってはこの上なく喜ばしい物。

『ぐっちゃん卒業式&新曲披露 ミニライズ。スペシャルライブ』

 そう、人気グループ『サンライズ嬢。』のグループ内ユニット、『ミニライズ。』の現メンバー最後のライブがあるのだ。それが俺たちにとっては嬉しい知らせ。だけど、申込資格と注意事項の文章が俺たち二人を奈落の底に突き落としてくれた。

『必ず小学生以下のお子様と、その保護者の方と一緒にお申し込み下さい』
『中学生以上の方のお申し込みはできません』

 お子様向けイベントだと? そりゃぁ、ミニライズの対象年齢は低くて小学生女子に人気がある。でも『大きなお友達』だってたくさんいるんだ。はっきり言って、大きなお友達の方が、DVDやらグッズやら、たくさん金を落としてくれているはずなんだ。え? サンヲタ? なんとでも言ってくれ。

「おい、お前はアテあるか?」
「俺は姪っ子を連れて行けばいいかな」
「困ったなぁ。俺は親戚にも子供はいないしなぁ……」

 俺は姉貴に何とかお願いして姪っ子を借りれば何とかなる。だけど相沢は手段が無いようだ。知り合いの子供に来てもらい「保護者」と称するしかないだろうな。その知り合いとその子供に理由を正直に話せれば、だけど。

 子供の手配はなんとかなっても、また関門がある。それがパンフの注意事項にも書かれているコレ。

『番組収録の演出上、お子様と保護者の方は離れたお席となります』

 要は、子供だけで一階席に集めて、保護者は2階以上の席で離れて見ていろという訳。もっと簡単に言うと、一番ミニライズを見たい俺が、ガキ共に阻まれて、遠くから見ていなきゃならないという、実に悔しい注意書きなんだ。事務所のヲタ排除、ガキ優遇、ここに極まれり。そういや年末年始の映画でも、子供にだけパンフ配ってたなぁ。俺も欲しい……ま、どうでもいいか。

「相沢、お前は子供の手配はどうする?」
「なんとかするさ。なんとかなるもんだよ」
「まあ、とりあえず申しこまないとな。抽選だし」

 そう、何はともあれ、チケットのゲットが優先だ。それが無いと始まらないからな。こうして、申し込みのハガキを書いて、姉貴へのお願いセリフを考えて、ライブに思いを馳せる俺だった。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


「来たか? 当選通知」
「ああ、来たよ。お前は?」
「当選♪」

 申し込みからしばらくして、ライブの当選通知が来た。俺と姪っ子の二人分。早速お金を振り込んでおいた。それにしても姉貴はともかく、姪っ子を説得するのが大変だった。ミニライズに興味がないのに無理矢理連れて行くんだからな。それ相当の犠牲を払わされたよ。高級ケーキに洋服に……

 そうそう、俺が当選したのは昼の部。ライブ公演は2回ある。姪っ子を家に送り届けたりケーキを買ったりで、夜の部には申し込めなかった。相沢はどうなんだろう。

「俺は昼の部だけど、お前は?」
「夜の部取れたぜ」
「夜の部か。いいなぁ。でも子供は調達できたのか?」
「う〜ん、それが何ともならなくてなぁ……」

 嬉しい反面、困ったような顔をする相沢。子供を連れて行くことが必須条件だから厳しいと言えば厳しい。まあ、俺は何とかなったけどさ。

「なあ、お前の姪っ子貸してくれないか?」
「無理言うなよ。昼の部に連れてくるだけでも大変なんだから」
「そっか……やっぱり何とかするしかないか……」
「アテが無いんだろ?」
「何とかするさ。何とかするのが真のライヲタというものさ」

 何か、努力するベクトルが明後日の方向に向きかけている相沢。なんとかすると言っても、どう、なんとかするのだろう。まさか、子作りしても間に合うわけないし。だとすると……心配になって一言だけ言っておいた。

「おいおい、誘拐とか、犯罪には走るなよ」
「するか!」


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 ライブ3日前になって、相沢から電話がかかってきた。どうやら子供の手配がついたらしい。その連絡はいいんだが、問題は相沢からの提案というかお願いというか。突拍子もないことを言い始めたんだ。

「え? 姪っ子を連れて行くのを断れって?」
「ああ。代わりに昼の部は俺の連れて行く子供の『保護者』になって欲しいんだ」
「なんでだよ。姪っ子連れ出すの、色々大変だったんだぜ」
「その子はミニライズの大ファンで、2回見たいそうなんだ」

 まあ、あまり乗り気じゃない姪っ子を連れて行くよりは、相沢の連れの『大ファン』とやらを連れて行った方が、その子にとってはいいのかもしれない。とは言っても、色々と姪っ子と約束させられちゃったからな。連れて行かなくても、こっちの約束は守らされるだろう。

「姪っ子連れ出すのに、結構金かかってるんだぜ。俺にメリット全然ないだろ」
「それもそうだな。夜の部の権利をお前にやるってのでどうだ?」
「何? チケットもう一枚あるのか?」
「まあ、ちょっと違うけどな。どうする? お前も2回見たいだろ?」

 相沢の提案に俺は驚く。昼の部と夜の部と、2回見られるって? それなら答えは決まっている。姪っ子にとっても一日潰されずに済む上、俺から色々買ってもらえるんだから、いい話だろう。その位の出費は、安い安い。何せ夜の部は、現メンバーの正真正銘、最後のライブになるんだから。

「よし、わかった。でも大丈夫なんだろうな。確実なんだろうな」
「心配するなって。じゃあ交渉成立だな」
「ああ。夜の部頼んだぞ」


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 ライブ当日。ミニライズグッズもしっかり準備してきた。だけど、だけど、普通の親子連ればかりではないか。無理矢理連れてこられた子供+ノッてる大人という組み合わせは、いないことはないが、少数だ。俺もそのうちに入るんだよな。でも、子供がいなくては始まらない。ええと、相沢の連れてくる子は……

 人混みの中から相沢を探していると、俺の腕をちょいちょいと引っ張る女の子がいた。オレンジ色のチェックのスカートに上着。肩掛けのポシェットももちろん、ミニライズメンバーと同じ衣装だ。もしかして、この子が?

「ええと、君が相沢と一緒に来た子かな?」
「うん。今日はよろしくお願いします♪」
「ああ、こっちこそよろしくね」

 なかなか元気そうな女の子。小学校3〜4年位かな。服装も全身ミニライズしてるし、相当気合いが入っている。それも結構可愛いから似合っているし。『ライズキッズ』のオーディションを受けたら、通りそうな感じだ。相沢のやつ、こんな隠し球を持っていたのか。後で小一時間問い詰めてやる。そういえば、相沢は?

「ところで相沢のおじちゃんは?」
「目の前」
「は?」
「だから、俺が相沢」

 その女の子が、可愛らしい顔に似合わない言葉遣いで答える。俺が探しているのは、相沢……君の『保護者』の方。

「いや、だから、君の名字も『相沢』なんだろうけど……俺が言ったのは『相沢誠』の方で……」
「俺がその相沢誠。って言っても信じられないだろうけどな」
「はぁ???」

 何と答えて良いか分からない俺。そりゃそうだろう。可愛い女の子が自分を30過ぎのおっさんだと言っても、下手な冗談にも聞こえない。そんな俺の戸惑いを感じ取ったのか、事情を話し始める女の子。

「いやぁ、不思議な薬を入手しちゃってさ。俺も半信半疑だったけど、本当に子供になっちゃうんだよな」

 この女の子(相沢?)が言うには、とある筋から「若返る薬」という物を入手したらしい。なんでも、自由になりたい年齢になれるだとか。俺にとっては半信半疑どころか、全く信じられない話だ。まあ、話は話として聞いておこう。俺だってこの子を連れてライブ見たいし。

「それで君が相沢本人だとしても……なんで女の子なんだ?」
「グッズの対象相手は誰だよ。それに女の子だったらこんな格好まで出来るんだぜ」

 そう言って、その場でくるりと回る相沢。ミニのスカートがふわりと持ち上がり、ちらりとその中が見える。こんな子供のパンツが見えたってどうって事ないけれど、ちらりと見えたパンツは……

「ミニライズ キャラのぱんつ!」
「ば、バカ。何見てんだよ」

 慌ててスカートを押さえる相沢(?)。ちなみにミニライズはアニメキャラにもなっていて、小学校女子児童向けのグッズが色々と出ている。俺もシャープペンとか下敷きとかは使ってるけど。そのグッズの中でも収集難易度の高い物の一つ……それがミニライズキャラがプリントされた女児ショーツだ。あまつさえ、穿いてやがる……

「このパンツは140cm以下だから、完全武装出来るのは、この年齢が上限だな」

 なるほど。そこまで考えて小学校中学年の姿になっている訳か。確かにミニライズの衣装と同じ服装なんて、小学生でないと倫理的に許されない(本家ミニライズは二十歳でも可)。小学生でそこまで考えているなんて、まるで相沢だ。なるほど、この女の子は相沢本人だというのもなんとなく分かるような気がする。

 まあ、信じられようが信じられまいが、ライブに行くことが重要だ。そうこうしているうちに開場の時間になったので、一緒に入口へと向かったのだった。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


『会場のみんな〜 こ〜んにちはぁ〜〜〜』
「「「こんにちはぁ〜〜〜」」」
『今日は一緒に、盛り上がろう、ぜぃ〜』

 ライブが始まった。ミニライズメンバー4人が舞台に出てきて盛り上がってる……のは1階席の子供達だった。2階席にいる保護者達は大人しいもんだ。しかも、しかもだよ。誰一人として立ち上がって声援を送る大人がいない。目の前にミニライズがいるのに、大人しく座っていろだなんて、酷い仕打ちだ。

 そうこうして、曲のイントロが流れはじめる。ああ、全身がむずむずしてくる。こういう時はスタンディングが基本だろう、と思っていると、やはり後ろの方で立って熱い声援を送ろうとした大人二人(たぶんヲタ)がいた。おお、同士、と思いきや……

「あ、そこの人、立たないでください」

 後ろでスタッフの注意受けてる。う〜む、やっぱりガードが厳しいというか、何というか。大人しくしているしかないようだ。

『赤上げて〜♪』
「はいっ!」
『下げません〜♪』
「はいっ!」

 あ……ついつい無意識に叫び声が。もちろん俺だけじゃなくて、後ろのヲタ2名も一緒。すかさずスタッフの注意が入る。

「保護者として入ってもらってますので、いつもと違う応援をしてください!」

 幸い後ろの2名の方が目立っていたので、直接俺の方を向いての注意じゃなかったけど、当然俺も含まれているんだろうな。はい、すいません。もうしません。生殺しという言葉があるけど、それを身を持って実感しているよ。片や1階席の方では相沢だという女の子が……

『ぱぱぱでぴょ〜ん♪』

 くそ、一緒に振りまで付けて完璧に踊ってやがる。俺だって振り付けは完全にマスターしてるのに……ここで踊ったらつまみ出されるな。くぅ〜、楽しそう……俺も混ざりたい。つーか混ぜろ。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 今日のライブは、スクリーンイベントを挟みながら、ミニライズが一曲ずつ歌っていく構成になっている。スクリーンに映されるのはテレビから名シーンを集めた総集編。うんうん、結成初期はこんなこともあったねぇ。タイアップのハムアニメはいいよ、どうでも。

 スクリーンの時はさすがに大人しく見ているけど、本人達が出てきたときのトークではやはり身を乗り出してしまう。やっぱミニライズはいいよなぁ。それを間近で見れるガキ共……羨ましいと思っているうちに、次の曲になった。

『らぶらぶあいらぶゆ〜♪』

 口の中でもごもごと叫んでいる俺。無関心な保護者共の中じゃなかったら、夏コンの白鷺スーパーアリーナだったら、声を張り上げているんだけどな。あ〜、欲求不満が溜まってしまう。そして、それに追い打ちをかけるような仕打ちが……

ミニライズの4人が客席に降りてきてる!

 盛り上がっている子供達に揉みくちゃにされるミニライズの4人。もみくちゃにされている。ってことは、ガキ共がミニライズの4人をもみくちゃにしている訳であり、握手、タッチはおろか……相沢なんてどさくさに紛れて抱きついているし! そして、のんちゃんに頭なでなでされてるし!!

『ミニスカ穿いてミニライズ〜♪』

 俺みたいなヲタが抱きつけば、犯罪・即他のヲタに半殺しが当然なのに、子供だったら、許される。相沢の野郎、今の自分の姿を最大限に利用してやがる。確信犯だけにタチが悪いことこの上ない。ずるい、ずるすぎる。

俺も子供になりてぇよ〜〜!!!

 いつの間にか、俺は両手をきつく握り締めていた。場所が場所じゃなかったら、実際に声に出してそう叫んでいたかもしれない。今日ほど心からそう思ったことはない。ガキ共が0距離で熱狂しているのを、椅子に縛り付けられて見せつけられている俺にとっては、魂の叫びと言ってもいいだろう。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 終わった。楽しいはずのミニライズライブ、そして悲しいはずの卒業ライブ。何事もできずに終わってしまった。唯一の救いは、『あう〜ん体操』の時にミニライズからこう声がかかった事。

『客席のみんなもやってね〜!』
『お父さんお母さんも一緒にやってね〜!』

 もちろんやったさ、あう〜ん体操。周りのノーマルな親たちからの苦笑混じりの視線を受けながら。それしか鬱積を発散する場がなかった……

 暗く沈んでいる俺を見つけて、ミニライズ完全装備の少女版相沢が駆け寄ってくる。そっちは対照的に満面の笑顔。ライブの疲れがわずかに見えるものの、さすがに10代の身体、まだまだ余裕なようだ。

「いやー、楽しかったなぁ。保護者席はどうだった?」
「どうだったもこうだったもあるか!」

 保護者席の惨状を分かっていて聞いているのか、自分が熱中していて気が付かなかっただけなのか、そんなことを尋ねてくる相沢。思わず俺は怒鳴り返してしまう。大体相沢の奴……

「大体てめぇ、俺のぐっちゃんに抱きついてたろ!」
「あ、見てた? 柔らかかったな〜♪」
「しかも、のんちゃんになでなでされて!」
「この身長からだと、あののんちゃんもお姉さんに見えるからすごいよな」

 くぅー、羨ましい奴。悪魔に魂を売るって言葉があるけど、相沢の場合は何なんだ? 少女に魂を売ったとでも言えばいいのか? この調子で夜の部も盛り上がるんだろうな……俺はまたもや生殺し……

「夜の部は子供二人分の席取ってあるけど……お前はどうする?」

 相沢はそう言って、小さな手のひらにカプセルを一つ載せて俺の方に差し出す。それは俺とミニライズの間にそびえる、高くそして越えられない壁の向こう側へと俺を連れて行ってくれる物。

「……」

 俺は何のためらいもなく、カプセルをそっと摘み上げた。




あとがき

 モーニング娘。というかミニモニ。な話です。拙作「ティンクル」にちらりと出てきた「サンライズ嬢。」というグループを使っていますが、あきらかに類似です(笑)。このライブの話も、実際のミニモニで開催した物で、大きなお友達にとっては非常に非情な内容のライブだったのです。ヲタ^H^Hファンとしては、子供が羨ましい訳なのです。ということで、相沢君にはヲタの鏡とも言える行動を取って頂きました。子供になるだけで十分なのですが、やはりこのユニットのターゲットは小学生女子、TSしないと楽しさ半減なのです♪ 元ネタ分からない方、小一時間レクチャーしてあげますよ(マテ

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