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華代ちゃんシリーズ

ソルトレイク

作:かわねぎ

*「華代ちゃん」の公式設定については
http://www.geocities.co.jp/Playtown/7073/kayo_chan00.html を参照して下さい。




 こんにちは。私は真城華代と申します。

 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。

 報酬ですか?いえ。お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は…。



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 晴れ渡った空に引き締まるような冷たい空気。その冷たさにも負けないだけの熱気がこの17日間、この街を包む。4年に一度のスポーツの祭典、冬季オリンピックがここ、ソルトレイクシティーで行われているのだ。

「一番前で見ようと思ったんだけど、ちょっと早過ぎちゃたかな」

 日本人のまだ幼い少女が、まだ観客もいないジャンプ競技の会場でジャンプ台を眺めていた。競技開始までどうしようかな、と考え始めたとき、スタートの音がして、一人の選手が滑り出してきた。ウエアのラインからすると、女子選手のようだ。
 身を屈めて加速を付け、一気にジャンプ。空に舞ったその姿はまるで鳥が飛ぶよう。しばらくの滞空の後、スピードのそのままで着地をする。

「うわぁ〜、やっぱり近くで見るとすごいなぁ〜」

 選手がターンして減速する。ジャンプ台を見上げて軽くうなずいたところで、少女から声をかけられた。

「ね、お姉さん、練習なの?」
「あら、あなたは?」

 怪訝そうな表情で少女を見る女子選手に、少女が名刺を手渡す。そこには連絡先住所も電話番号も無く、ただ「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」と書かれている。もちろんオリンピックに備えて、英語で書いてある。

「Kayo Mashiroちゃん? なに、これ?」
「あたし、こう見えてもセールスレディーなんです」

 この少女がセールスレディー? もちろん女子選手は本気にせずに、日本では子供の間でこんな遊びが流行っているのかと思いながら、名刺をウエアのポケットにしまう。

「あたし日本人だけど、お姉さんのこと応援するね。アメリカだよね」
「あ、私ね、選手じゃないのよ。スタッフなの」
「でもジャンプしてたでしょ。今のすごかったよ」
「あれはね、実際に滑ってジャンプ台の様子を見てたのよ」

 女子スタッフの説明にどこか納得しない表情の少女だったが、寒さでおもわずくしゃみをしてしまい、会話が別の方向に行ってしまう。

「くしゅんっ!」
「あら、大丈夫? 競技開始までまだまだ時間があるから、中にいらっしゃい」
「え、でも、一番前で見たいし、場所取りもあるし……」
「風邪ひいちゃ困るでしょ。いらっしゃい」


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 大会スタッフルームに戻ってきた女子スタッフと一緒について来た少女。暖かいコーヒーをご馳走になりながら、世間話、というか女子スタッフの一方的な話を聞いていた。
 なんでも、10年前にこの街にジャンプ台が出来てから、ずっとジャンプ競技を続けているらしい。周りの男の子に混ざって競技を楽しみ、今では世界レベルの選手になっていた。

「じゃあ、お姉さんは競技に出ないの? さっきのジャンプも全然上手だったよ」
「こう見えても、ジャンプの全米大会2位なのよ」
「じゃ、どうして出ないの?」
「女子だからよ。ジャンプ競技に女子の種目はないの」

 そういえば、少女の持っている入場券も「ジャンプ競技」と書いてあるだけで女子とか男子とかは書いていない。

「どうして女子はないの?」
「ジャンプはまだ女子の競技人口が少ないから種目になってないのよ」
「そうなんだ。お姉さん、本当はオリンピックに出たいんだよね」
「それはもちろんそうよ。私が男だったら、なんても思ったけどね」

 女子スタッフは自分のマグカップのコーヒーを飲み干して、テーブルに置いた。ちょっと寂しいような、悔しいような目をしたのだが、その表情はすぐに消えて少女に微笑みかける。

「今年からボブスレーにも女子が出来たし、ジャンプに女子が出来るまで待つわよ」
「ふうん」
「あ、そろそろ戻った方がいいわよ。アメリカの選手も応援してね」

 コーヒーをご馳走になたお礼を言って、スタッフルームを後にする少女。ドアを閉めるときに、女性スタッフに一言声をかけていく。

「お姉さん、きっとオリンピックに出場できるようになるよ」
「うん、ありがとうね、私も頑張るから」


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「う〜ん、そうは言ったものの……どうしようかな〜」

 ぶつぶつ呟きながら、廊下を歩く少女。さっきの女性スタッフの事が気になってしょうがないようだ。

「お姉さんを……するのは……ちょっと……」

 考えに夢中になって、廊下の角を曲がり忘れる少女。

「競技人口も……増やさなきゃならないし……アメリカだけじゃ……」

 出口へ通じるドアはここだったかな、とドアのノブに手をかけて思い切り開ける。外の冷たい空気が……入ってこなかった。代わりにどことなくピリピリとした空気を感じる。さすがの少女もしばし目を瞬いてしまう。

「おや、お嬢ちゃん。ここは選手以外立ち入り禁止だぞ」
「あ、あれ? ここって?」

 部屋の中を見回すと、ロッカーの前で静かに精神を落ち着けている選手、軽く体をほぐしている選手、同じ出身国で談笑している選手など、様々な国の男子選手が競技開始を今かと待っているのであった。
 たまたまドアの近くにいた選手が華代ちゃんに気が付いて、腰をかがめて優しく声をかけてきた。

「ここは選手控え室だよ。本番前でみんな気が立ってるんだ。ささ、帰った帰った」
「控え室……ってことは、いろんな国の選手がここにいるの?」
「ああ。さ、競技の時間も近い。警備員につまみ出される前に出て行った方がいいよ」

 口調は優しいながらも、控え室から少女の背中を押して出口に追いやる。素直に控え室を出ようとした華代ちゃんだったが、ふっと、ふり返って、もう一度中にいる選手達を見回す。

「そっか! こうすれば!」
「え?」
「そーれ!」

 突然叫んだ少女に目を丸くしている選手だったが、突然全身がむずむずとし始めたので、注意を少女に向けているどころではなくなっていた。

「な、なんだ?」

 疑問に思う間もなく、その選手の体つきが変わっていく。ウエストが引き締まり、手足が一回り細くなっていく。臀部が張り出し、全体が丸みを帯びてくる。胸はというと、膨らみが大きくなっているのだが、ウェアに締め付けられているようで、窮屈さが段々と増してくるのであった。
 そして股間にもウェアが密着する感覚が生まれる。思わず手を添えて確認するのだが、当然そこにあるべきはずの膨らみは消えていた。

「な、な、な……」

 伸びてしまった髪をかき上げて周りを見ると、自分だけじゃない、各国の選手達も同じように……女子選手へと変貌を遂げていたのであった。競技用のウェアは空気抵抗を少しでも少なくするために、体にフィットするものである。だからその上からでも体型が変わっていくのが手に取るように分かるのだ。

「ちょ、ちょっと、君!」

 茫然自失の状態から辛うじて声を絞り出す、今は女子選手。だが、既に少女の姿はそこにはなく、かわりに女性スタッフが入ってきたのだった。

「あの、皆さん、そろそろ競技場の方へお越しください」



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 あのスタッフのお姉さんの話だと、女子の競技人口が増えれば、女子ジャンプも正式な種目になるそうです。あの控え室にはいろんな国の選手がいたので、ちょうど良かったですね。しかも世界で指折りの実力者が揃ってるんですよ。これであのお姉さんもオリンピックに出場することが出来ますよね。
 また困った人を助けることが出来ました。今度ははあなたの街にお邪魔するかも知れませんけど、オリンピックを見終わってからになりますので、それまで待っててくださいね。

 でも、どうしてでしょう。ジャンプ競技が急に中止になっちゃったんです。楽しみにしてたのに残念ですね。一緒に見ていた観客からはブーイングの嵐でした。仕方がないので次の競技、えーと、ノルディック複合だったかな? それを見に行くことにしますね。楽しみだなぁ。



あとがき

 オリンピックのニュースを見てたら、ふと思いつきました。今年のオリンピックでは女子競技がない種目が二つあるんですね。女子部門がなければ作ってしまえ。作り方は……という事で華代ちゃんです。華代ちゃんワールドは初めて書きますので、雰囲気に合っているでしょうか。

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