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この物語はフィクションです。登場する事件・人物・団体に見覚え、心当たりがあったとしても、それはすべて貴方の思い違いなのです♪

「ラルフ、見えるか?」
「ああ、フローリアン。実験棟の窓からも良く見える。なんとも自然の力というものは偉大だな」
「太平洋、広大な海洋だ。しかしそれをも食いつぶそうとでもいうくらいの大きさにまでなっている」
「そうだな。私もあれほどの規模のものは過去の資料写真でも目にした記憶がない」
「あの雲の中では、人類がいまだ制御できないほどの強大な力が渦巻いているというのに、我々はただ眺めているだけだ」
「悲観することはない。私達はこれまでも不可能を可能にしてきた。これからだってそうだ」
「ああ、そうだな。そのために我々がここにいるわけだしな」
「そうだ。私達が頑張らないといけない」
「しかし、せめてカール達にも見せてやりたかったものだ、あの彼女≠フ姿は」
「確かにそうだ。ただ信じられないことだが、彼女≠ヘ私にはとても神々しいものにも感じられてしかたがない」


猛女襲来

作 : 塵芥王


 暗い窓の外では風が大きく唸りを上げて暴れている。大きめの雨粒がそんな空気に押し流されて、時々ガラスに当たってばしゃばしゃと派手な音を立てたりする。深夜のテレビ放送は予定を変更して、天気図や衛星写真、それと各地の中継映像をずっと流し続けている。
「超大型で非常に強い台風13号は、勢力が衰えないまま西日本の南岸を進み、午前6時には近畿から東海地方にかけて最接近、もっとも北寄りのコースをとった場合には上陸する可能性もあります──」
 テレビ画面の中ではスタジオのアナウンサーが冷静に情報を伝えている。台風からはまだ遠く離れている、ここ日東市でも夜が更けるとともに風雨が強まってきていた。この部屋の住人は、明日の予定をどうするかを判断するために、終夜放送されるであろう番組をつけっぱなしにしたまま、布団の上で横になっていた。
「こちら、──町の岸壁にも、ひっきりなしに高い波が押し寄せて──ます。雨はほとんど横殴り────で、前を見るのも難し──な状態です」
 テレビ画面は台風が最接近している現地からの中継に変わっていた。ビニールのコートだけで暴風雨の中に立つ女性アナウンサーが手にするマイクには、雨や風や波の音が大きく回り込んでいて、なにを言っているのかがはっきりとしないこともある。それだけ過酷な中で仕事をしている。
「台風の進む速度が──ゆっくりなため、この状態はまだ2〜3時間は続くものと思われ──」
 それでも懸命に現場の状況を伝えようと女性アナウンサーだったが、中継の画像は突然にがくんとあらぬ方向を向いた。そのまま視野は急な動きで地面に落ち、アナウンサーの足下だろうか、ピントの合わない黄色い長靴を横倒しのまま映し出すだけになってしまう。
「菊池さん、菊池さん! 大丈夫ですか? 菊池さん!」
 アナウンサーの声に緊張が走る。画面の中では黄色い長靴が複雑な動きをしながら大きくなってくる。どうやらなにかが起こったカメラマンのところへ駆け寄っているらしい。
「菊池さん、どうしたんですか? 菊池さん────」
 女性の声の調子が明らかに仕事の時とは違っている。画面の中では黄色い長靴だけではなく、青色のビニール・コートの一部も大きく動いている。通常ではあり得ない映像に、この部屋の住人だけでなく、すべての視聴者が重大な事件を予感して画面の前に釘付けになった。
「──たいへん! 気密防護服が完全じゃなかったみたい! 菊池さんが、菊池さんが──始めちゃいました──」
 しかし、この半ば茫然とした叫びを最後に、この現場からは二度と映像が届くことはなかった。

「なんてことだ!」
「どこの局だ?」
「今から手を回せるか? なんとしても、もみ消すんだ!」
 台風が接近しはじめて以来、首相官邸に急遽設置された緊急対策室内は喧噪に満ちていた。無理もない。これまで政府の総力を挙げて全ての国民には伝わらないように隠蔽してきていた秘密の一角が漏れてしまったかもしれないからだ。
「ともかくだ! このことが無制御に国民に知れ渡ってしまうのは絶対に阻止するんだ。そのためには電波、自治、建設、ありとあらゆるルートで抑え込め」
 普段はおっとりした喋りしかしない緊急災害対策担当大臣が、うってかわった口調で檄を飛ばしていた。そう、これは一国滅亡の一大事が迫っているのにも等しいことだった。しかし本来の責任者たる内閣総理大臣は日頃の弁舌爽やかな勢いは何処へやら、机の前で頭を抱えたまま同じことをぶつぶつ呟き続けているだけだった。
「息子があの近くに……息子があの近くに……息子があの近くに……息子があの近くに……息子が……」

 一方で台風が接近しているある村の対策本部 (と書かれた大きな紙片を下げただけの役場の会議室) には、あきらめにも似た空気が広がっていた。
「橋の様子を見に行った細野班から報告が入っています」
 電話の受話器を手にした女子職員が振り返りながら大きな声で言った。
「貸せ! 私が出る!」
 少し離れたところで数人と打合せをしていた中年の職員が駆け寄ると、受話器をひったくるようにして耳に当てた。眼鏡の奥の目には、疲労が色濃く溜まっているように見える。
「……そうか、わかった。外の様子はもういい。戻ってきてくれ。気をつけてな」
 じっと電話の向こうの声に耳を傾けていた中年の職員は冷静を装った声で答えると、投げ出すようにして受話器を置いた。その場にいた全員が作業の手を止めて、職員の姿を見つめていた。窓の外からは暴風雨の響きがわずかに伝わって聞こえてきている。
「高橋と坂本が、車の外に出て、それで……変わってしまったそうです」
 職員がゆっくりと振り返り、会議室の奥、本部長の席に向かってゆっくりと言った。室内にしばらくの間、重い時間が流れ続けた。
「この未曾有の災害に、私達はなにも為す術を持たないというのか」
 対策本部長は椅子の背もたれに身をまかせ、そう嘆くことしかできなかった。

 首相官邸、緊急対策室では照明が落とされ、壁一面を埋めつくしたプロジェクタのスクリーンを皆が見つめていた。今もスクリーンの横に立つ、背広の上によれよれの白衣をひっかけた男が説明を続けている。
「……症例は冒頭にご説明したとおり。これまでに台風が接近した九州と四国南部で確認された例では、ほぼ確実に先の現象が発生しています。原因については現在分析を急いでいますが、台風のもたらす雨による作用が最大の要素であると予測しています」
「雨とはな」
「なんでそんなことに」
 ずらりと並んで座って聞いていた閣僚達が口々に呟く。そんな様子をそっと見渡すと、白衣の男は手元の資料を一枚めくってから説明を続けた。
「被害者の状況をまとめてみますと、いずれも降雨に直接触れたのが原因になっている可能性が高いです。まだ未確認ではありますが、今のところ河川下流域における被害報告がないことから、降水後ある程度の時間が経過すると効果が無くなっているものと思われます」
「それで、その直接の被害範囲はどの程度の規模になっているというのかね」
 問いかける総務大臣の目は憔悴しきっていた。
「観測と分析の結果を照らし合わせると、台風の中心から東側180km、西側260kmの円内で被害者の存在確率が激増します」
「そんなに広くはないわけだ」
「しかし台風は時間とともに移動します。それによって被害の範囲も広がっています。その範囲はほぼ暴風圏の大きさに一致しています」
「暴風雨だけだったら、まだ対策のしようもあるというものを……」
 そう言うと、総務大臣は大きく息を吐いて眼鏡を外し、シャツのポケットにさし込んだ。室内の誰も口を開こうとしなかった。閣僚達が白衣の男の説明の意味を重くとらえていると、唐突に部屋のドアが開かれ、別室にいた一人の事務次官が慌ただしく中に入ってきた。
「た、大変です」
「何事だ。まだレポートが終わっていないのだぞ」
「一大事が発生しました」
 緊急災害対策担当大臣からの叱責を意に介する様子もなく、事務次官は部屋の中央に進むとその場の者たちに血の気の引いた顔面をさらした。
「だから、どうしたというのだ」
「巨大匿名掲示板で、削除人の壁が突破されました」
 促され、事務次官が弱々しく報告した。閣僚達の反応はもっと弱々しいものでしかなかった。
「なんということが」
「事実が、事実が流れ出してしまう……」

 交通量がほとんど無くなった未明の自動車専用道路を、暴風雨と併走するように走り続ける一台のマイクロバスがあった。スモークガラスに囲まれた車内の座席は、10代後半から40代までと、さまざまな年齢の乗客で満席だった。しかしいずれも男性ばかりの乗客には共通の空気が流れているようだった。それは言ってみれば一つの文化を創り出した者たちに共通するようなものだったのかもしれない。
 走り続けるバスの車内は、ここしばらくの間ずっと誰も口をきかない状態が続いていた。誰もがじっと静かに座席に腰を落ち着け、目的地に到着するのを待っていた。そんな中で、運転席の後ろに座る者が、膝に載せたノートパソコンの画面から顔を上げると、誰に言うのでもなく、そっと口にした。
「もうすぐだ。もうすぐだ! 57さんの書き込みが本当なら、この先で私達の長年の願いが叶うはずだーーーっ」
 しかし最後の方はほとんど叫んでいるのに等しい状態だった。その言葉が意味することは車内に素早く伝わった。全ての乗客、そして運転する者までが、すぐに全身から興奮したオーラをまき散らすように変化をする。
「いよいよだ」
「約束の時がやってくる」
「ついに」
「やっと」
「この日がぁっ!」
 皆が口々に己の欲望を語り始める中、リーダー格の男が運転席に身を乗り出して大声で伝える。
「良し。一般道に降りるんだ」
 運転手は即座に差し迫ってきていた傾斜路(ランプ)を降りると人気の無くなった海岸に近づき、荒れ狂う波が押し寄せる防波堤の見えるところにマイクロバスを停めた。
「いいか、みんな! 準備は、覚悟はできているな!」
 じっとフロントグラスからの光景を見据えていたリーダー格の男が振り返ると、車内に向かって叫んだ。乗客達は当然だといわんばかりの視線を男に返す。
「よおし。行くぞ! いざ続け、我らのために!」
 ひときわ大きな声で言い放つと、男はバスの扉を開け、勢いよく暴風雨の中を駆け出していった。
「おう!」
「万歳! 万歳!」
 乗客達と運転手が男の後に続いた。皆、興奮して思うがままに叫びながら男の後を追って駆けてゆく。誰も雨で全身が濡れるのを、気にしてもいなかった。

 再び灯りの点った首相官邸、特別対策室に一人の男が駆け込んできた。両手にプリントアウトを広げて持ったまま立ちつくす男に、文部科学大臣が面倒くさげに声をかけた。
「こんどは何事だね?」
「最新の台風情報が発表になりました」
「それで?」
「勢力、規模、ともに衰えることなく、3時間以内に紀伊半島に上陸します」
「紀伊半島……ということは」
「大阪府がほぼ確実に暴風圏内に入ることになります。その後、進路を東寄りに変え、京都市が暴風圏に入る確率は90%、名古屋市で70%、関東地方南部でも50%になります」
「終わりだ……一国の終わりだ……」
 生気の失せた顔をいっそう歪めながらため息をつく総務大臣に対し、まだ若い経済産業大臣は事も無げに言った。
「何を大袈裟なことを、そんなに悲観しなくても大丈夫でしょう」
「君はわかっていない! 我が国の就労人口が激減してしまうのだぞ! GDPに与える影響は甚大だ。一気に低迷した経済が復興するのにどれだけかかると思っている?」
 そんな二人の間に割って入ったのは財務大臣だった。とうに80を超えるというのに、血気盛んな言動はそろそろ夜明けが近い時間だというのにまだまだ衰えてはいない。
「そう言えば、昔、目≠ノ核爆弾をぶちこんで一気に消滅させるとか言う話を読んだことがあるが、そういうのはどうかね、出来ないのかね?」
「そんなことをしたら、国土が無事では済まないぞ! 爆発に伴う生成物がどれだけの範囲に広がると思っている?」
 部屋の反対側でも勝手な議論が始まっている。そんな室内で、ぽつんと呟くように声が上がった。
「せめて我々だけでもシェルターに非難するかね」
「なにを言ってるんだ、君は。この大事の中、我々だけがそんなのうのうとしていたら、ますます支持率が落ちてしまうではないか」
 とんでもないとばかりに総務大臣が大声で叱咤する。
「確かに近づいている選挙に向けて数字の低下は一大事です」それまでずっと沈黙を保っていた官房長官が両手で眼鏡をかけ直しながら顔を上げた。「そこで私に妙案があるのですが、皆さん、いかがでしょう? 政権の存命のためにも、ここはひとつ首相自らに貴い犠牲になって頂いてですね……」
 すべてを言い終わらないうちに、室内の視線は相変わらず頭を抱えて座ったままの内閣総理大臣に集中した。
「それは良いかもしれません。この際、親子そろってというのも話題性に富んでいますし」
 誰ともなしにその場に出された意見に、一人をのぞく室内のメンバーが大きくうなずいていた。

「ようやく風が落ち着いてきたか」
 台風の強風域からやっと抜け出そうとしている地方の市役所で、ホワイトボードを見上げながらそっと呟く人物の姿があった。
「そうですね。まだ河川が増水したままですし、斜面の監視も怠ることはできませんが、とりあえず外に出られるようにはなります」
「皆、疲れているところ申し訳ないが、まだまだ気をゆるめることは出来ない。引き続きよろしく頼むよ」
 ホワイトボードの前の人物は振り返って、広い室内に向かって声をかけた。室内にいた面々は一瞬緊張を走らせたが、そろって表情をすぐに崩してしまう。
「だめです。やっぱり、変ですよ、市長」
 助役の一人が駆け寄ると、ホワイトボード前に置いた椅子の上から市長の体を抱えて床に降ろした。職員が苦労して庁舎の中から探し出した紺色のジャージを着た市長の姿はどことなく室内では浮いていた。それでも気丈に尊厳を保とうとする振る舞いに、とうとう周囲からは微笑むだけでなく、声に出してしまう者も現れた。
「笑うなぁ。頼むから笑わないでくれ。私だって孫娘にどんな顔をして会えば良いのか困ってるのだからなぁ」
 市長本人も室内の空気に巻き込まれ、真っ赤になりながら抗議の声を上げる。
「いっしょに学校に通ってあげれば、それだけで充分じゃないですか?」
 自宅が避難勧告の出た地域にあるために帰宅できなかった女子職員がすっと近づくと、ジャージの裾の乱れを直してあげながら市長に笑顔で告げた。
「きっと、お友達ともすぐに仲良くなれると思いますよ」
「こらこら、それでは冗談になってないではないか」
 ますます真っ赤になって抗議を続ける市長の姿を、室内の誰もが笑顔で見守っていた。

「徳さんや。儂は夢でも見ているのかのぉ」
「嫌だなぁ、茂さんや。それなら儂も同じ夢を見ているというのかいな」
 白々と明けてゆく空を、千切れた雨雲が足早に駆け去るのを並んで眺めている人影があった。ややバランスの崩れた衣服に身を包んだ二人は、雨上がりの湿気をたっぷり含んだ空気をゆっくりとかき混ぜる風に長い黒髪を漂わせていた。
「だって夢じゃろう。この歳になって人生をやり直せるなんて思ってもみなかったわい」
「そうじゃのぉ。そりゃぁ、夢のようじゃのぉ」
 そう語り合う二人の姿は、真上の雲を黄金色に染めながら上る太陽に正面から照らされて、光り輝いて見えた。

「どうした? ラルフ?」
「いや、地上からの極超短波の音声を聞いていた」
「下ではすごいことになっているみたいだな」
「東洋の奇跡か。まさか目の当たりにすることがあろうとは」
「タイフーン『果穂』、なにがこんなことを引き起こしているのだろう」
「かの国では言霊というものが存在するらしいが、まさか、な」
「誰がそんな名前をつけたのだろう」
「さあね。神の為されることは私達には推し量ることもできないというものだ」
「それはそうだが」
「うかない顔をして、どうした?」
「アレの影響はここまでは来ないのだよな」
「そうだ。安心しろ。私達はただ見守るだけだ」
「そうか。それは残念だ」
「フローリアン、なにか言ったか?」
「いいや。ラルフ、作業に戻る」


「果穂、これさ……」
 渋い顔をしたまま頼香はデータパッドをテーブルの上に置くと、ゆっくりとした調子で言った。
「どうですか、頼香さん。けっこう自信作なんですよ。後は普通のPCソフト用に変換してプリントアウトすればできあがりです」
 ティーポットからお茶を注いでいる果穂の姿をちらりと見るとテーブルの上に視線を戻し、頼香が続けた。
「いったいどこから、こんなとんでもない話が思いつくんだ」
「素直に書いただけですよ。世の中が美少女だけになったら、それは素晴らしいことだと思いませんか?」
「素晴らしいって、俺には法螺話としか読めないぞ」
 頼香の口調はすっかりあきれ果てている。だが果穂はまったく気にしている気配がない。
「良いじゃありませんか。小学生の夢の作文ですから、多少大袈裟なところがあったって」
「夢ねえ。こんなことを夢見る小学生が他にいるのやら」
「立派な夢ですよ。自然の驚異とミステリー。地上にはまだまだ不思議とドキドキするものが残っているのです」
「実際に成層圏の外まで飛び出してるようなのが口にするセリフかな」差し出されたティーカップをいったんテーブルに置き、頼香は多少皮肉っぽく口にした。「それにこのオチはなんだよ、あんまり過ぎないか?」
「そうですかねぇ。私はけっこう気に入ってますが」
 意外だ、という表情を見せて頼香の反対側に座ると、果穂は自分のカップに口をつけた。
「果穂はな、この間の劇のシナリオもそうだったけど、内容が小学生離れしすぎてるぞ」
「個性と言ってください。これくらい書く子どもがいても、ぜんぜんおかしくはないですよ」
「どこがだよ。だいたいこの文体のどこが小学生なんだか」
「ネットで探して勉強したのですけど、変ですかね」
 どういうところを探したんだと言いたい気分の頼香だったが、口を閉ざしていると果穂は相変わらずの調子で続けた。
「それにしても頼香さんは手厳しいですね。たかが作文程度にそこまでよく読みますよ」
「見くびるなよ。これでも文系で大学入試を乗り越えてるんだから、それなりには勉強してるぞ。入試科目に小論文のあるところもあったしな」
「わかりました。そういうことにしておきましょう」
 手にしていたカップを受け皿に戻し、果穂はお茶請けのソフトクッキーに手を伸ばす。
「なにかトゲがある言葉にも聞こえるけど、まあいいや。後は理由がきちんと説明されてないのが、俺には少し不満だけど」
「説明しても良かったんですけどね。あまりにもリアルになりすぎるからやめておきました」
「リアルって、いくら白鷺重工でもそこまではやっていないだろうに」
「そんなこともありませんよ」果穂の表情は、当然だと言わんばかりのものだった。「さすがに台風を作り上げるだけのエネルギー生成はまだまだ難しいですけども、進路の制御くらいはその気になればできなくもないですから。それに……」
「それに?」
「連合の技術を投入すれば、それすらも簡単なことかもしれませんね」
「おい、果穂」今は同級生で同僚の目の前の少女を頼香はしげしげと見つめた。「考えるだけにしておけよ。実行しようなんて、するなよな」
「なんですか?」
「いや、なんでもない」
 そう言ったところで、やるときはやってしまうのだろうな──心の中でそう思うと、頼香はそっとティーカップを口元に運んだ。
 窓の外は雨。少女達の午後の光景は、今日もゆっくりと時が流れていた。

(終わり)


後書き

 時節柄、不謹慎なものを感じつつも思いついてそのまま書き上げてしまいました。相変わらずの一発ネタで突っ走っていたりします。

 さて、皆さんは憶えていらっしゃいますでしょうか? 西太平洋北部で発生する台風にも「名前」がつけられるようになっていたことを。今回はそんなあたりが発端で思い浮かんだネタだったりします。
 元々は「華代」という名前にしようかと思ったのですが (またかい!)、それだとかなり「シェアワールドから外れた設定」になりかねないので、やめにしまして、妙に捻った結果がこれだったりします。
 それで実際には「華代」なんて名前が付くことは現在のところはありません。細かいところは次のページあたりを見て頂くとしまして……。(もうしわけありませんが、意図的にハイパーリンクの設定をしていません。)

気象庁の颱風の亜細亜名のページ
http://www.kishou.go.jp/know/typhoon/asianame/ty_name.html

googleで見つけたページ
http://www.mbc.co.jp/wthr/file/taifuunamae.htm
http://nt.sakura.ne.jp/~kishou/wtopics/asianname.html

 といった具合に、すでにリストアップされている140の名前を順番に使って行っているだけのことだったりします。しかし、リストの内容は変更が可能になっていますから、これからの未来はどうなるかは……神のみぞ知る、というわけです。

 作中で自虐的にキャラに語らせたように、構成が概出なものになってしまっていますし、少年少女文庫にある、いちろうさん作「RAINY」と似通った設定があったりと、どうしようもないヘタレな出来ではありますが、一時の時間つぶしにでもお役立てれたなら幸いです。

 しかしなぁ、またしても10kB前後に収められなかった自分って……。

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