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らいか大作戦・DOLL編
M・O・Eとの遭遇
作:かわねぎ
画:もぐたん様


 惑星連合宇宙艦「U.S.S.さんこう」。TS9での任務が終わり、地球へ向かう途中なのだが、「U.S.S.テクタス」とランデブーするという任務を合わせてこなしていた。「テクタス」へ着任するクルーを送るのがその任務である。

 ランデブーまでは自動操縦。その間はミーティングルームで頼香と来栖、そしてもけがが飲み物片手にくつろいでいた。当然果穂も一緒にさんこうに乗務しているのだが、今はあいにくからめると機関室で整備中である。

 そしてテーブルにはテラン人男性連合士官、ミナス・ゴーダ少尉が頼香に向かい合って唸っていた。まだ若い少尉で、17歳位か。彼が「U.S.S.テクタス」へ赴任するクルーなのである。

 手にはカードが5枚。向かい合う頼香や来栖、もけの手にもカードが5枚。違いがあるのは頼香の前にチップ代わりのナッツの粒が山積みになっている事か。どうやらポーカーの最中のようだ。

「俺はもうちょっと増やすかな」
「私降りる」
「僕もでちゅ」

 頼香がナッツをテーブルの中央にひょいと放り投げる。それを見て、来栖ともけが同時にカードをテーブルに伏せる。もけにとっては頼香とミナスのブラフに振り回されていたし、元々子供の来栖は表情がストレートに出てしまい、端から勝負にならない。

「さすが最年少のアカデミー卒業生。いい目をしているよ」

 そんなミナスの言葉を意に介さず、無造作にナッツを放り投げる頼香。もけに至っては手持ち無沙汰からか、ナッツを囓り出す始末。

「それに度胸もいい」
「ふーん、俺は子供だからそんな自信はないよ」

 頼香の涼しい顔からは、どこか自信ありげな雰囲気が伝わってくる。ミナスもナッツを積み上げているが、お互いそれを繰り返した後で……先に音を上げたのはミナスの方だった。

「これ以上は僕の方がシールドが持たないな。降りるよ」
「そうか。なら今回は俺の全取りだな。悪いな」

 そう言って、ナッツを手元に集め、ついでに手持ちのカードをミナスに見せる。ノーペアで、頼香の完全なブラフ。それを見てミナスは椅子に深く沈み込んでしまう。この辺の駆け引きはミナスよりも頼香の方が実年齢が上と言うところか。

「フレイクス少尉……次こそは……」
「無いみたいだな」

 意気込むミナスを、頼香が時計をちらりと見て制する。それと同時にコンピューターの声が響く。

『ランデブーポイントに接近』
「あちゃ、もう時間か……」
「そう言う事だ。ミナス少尉、これで終わりだな」
「ああ。フレイクス少尉も可愛い顔に似合わず、したたかだったね。僕の好みだ」
「おいおい、普通なら小学生な相手を口説き落とすのか。ロリコンの気でもあるのか?」
「ま、将来の手付けのつもりでどうかな?」

 ミナスが肩に手を回すのをするりとかわして立ち上がる頼香。もちろん祐樹という相手のいる頼香がこんな17歳の子供を相手にするつもりなどほとほと無い。残念がるミナスに果穂からの通信が追い打ちをかける。

『頼香さん、ミナスさん、ブリッジに来てください』
「ほら、ランデブー準備だぞ。転送に備えておけ」
「了解。荷物は貨物室から直接転送を頼むよ」

 ブリッジに集まった頼香達。早々とそれぞれの持ち場に着く。言ってみれば客であるミナスは手持ち無沙汰に扉の近くで立っていたりする。

「頼香ちゃん、『U.S.S.テクタス』と並進するでちゅ」
「ああ……そうしたいんだが……」
「どうしたんでちゅか?」
「テクタスの信号……じゃない、救難ブイの信号が出てるよ」

 もけの指示が飛ぶが、テクタスの艦影が見られない事に頼香が戸惑う。それを補足する形で来栖が状況を告げていく。

「来栖ちゃん、呼びかけるでちゅ」
「うん。こちら『U.S.S.さんこう』、応答願います」

 来栖の呼びかけも虚しく、返答はなく、空電音が流れるだけだった。そして果穂がセンサーを操作していく。

「映像をビュワーに出します」

 映し出された映像は、「U.S.S.テクタス」が何者かに攻撃された跡であった。それを見たミナスが呆然として呟く。

「テクタスが……僕が乗るはずだったテクタスが……」
「果穂ちゃん艦体をスキャンでちゅ。生存者の確認でちゅ」
「はい」

 今にも取り乱しそうなミナス少尉には構わず、指示を出していくもけ。この辺の落ち着きは任務で鍛えた経験が物を言うのだろう。スキャンの結果を読み上げていく果穂。

「生存者なし。いや、待ってください。何か生命体が……」
「誰か生きているのか?」
「頼香さん、エネルギー反応上昇! フェイザーです!」
「まだ武器が生きているだと? この距離だと危ない!」

 次の瞬間、閃光と共に激震がさんこうのブリッジを襲う。シールドがあるので船体は無事だが、衝撃は直接受けるのであった。

「シールド68%。まだ持ちますが、至近距離ですから気を付けてください」
「くっ……ご挨拶だな……果穂、中にいるのはテラン人じゃないんだな」
「はい。未知の生命体です……」
「相手さんの出方を伺うか、こちらから踏み込むか……」

 頼香がビュワーの「U.S.S.テクタス」を睨み付けるように呟くと同時に、通信が割り込んできた。そこには12歳くらいの少女が無表情で映っていたのだった。耳の部分についているメカ飾りがアクセントになっている。

「『テクタス』からの通信? 何者だ?」
「可愛いですが、無表情なのが残念ですね」

 果穂はそう言いながらも、頼香達と同様にこの少女を警戒している。手元のコンソールを操作し、その少女をスキャンする事も忘れない。

「我々はM・O・E-DOLL。お前達を同化する。抵抗は無意味だ」

 抑揚の無い声で淡々と語る少女。可愛気のある表情と落ち着いた口調がミスマッチなのだが、自分の乗るべき艦を失ったミナスにとっては関係のない事だ。

「『テクタス』のクルーをどうした!」
「彼らの抵抗は我々の前では無意味だ」
「何の事だ! 誰だか知らないが勝手に僕の『テクタス』にのさばらせておくつもりはない!」

 勢いづくミナスを制するように、もけが頼香達に指示を出す。先程のDOLLと名乗る少女が「テクタス」に乗っているのは間違いがない。しかもその少女達が「テクタス」を襲ったような口ぶりだった。調査する必要がある。

「頼香ちゃん、ミナスしゃん、二人で行くでちゅ。注意は怠らないで欲しいでちゅ」
「分かってます。僕が乗るはずだった艦に何が起こったのか、調査したいんです」
「ああ、武装は怠らないつもりだ。果穂、2名転送頼む」


★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


 頼香とミナス、二人のテラン人士官が光に包まれ、「U.S.S.テクタス」へと転送される。同時に頼香は戦闘服を転送装着する。頼香達の戦闘服装備は連合の制式採用品ではないので、ミナスは普通の士官服のままだ。

 転送先は「テクタス」のブリッジ。そこは何者かに攻撃を受けたために滅茶苦茶にされていたのだった。

「ひどいね、これは……」
「誰も倒れていないな。ミナス、クルーは何人だったんだ?」
「4人だよ。僕が加わって5人になる予定だった」
「その4人は何処へ行った? それに通信の女の子も……」

 二人は艦内を捜索してみる事にした。何がいるか分からないから、二人で一緒に艦内を探し回る。艦内は非常灯のみで薄暗いが、歩くのに困難なほどではない。

「ああっ、ブリッジに転送波……急がなきゃ……あたし一人しかいないし……」

 頼香とミナスが通路を歩いていると、角からどたどたと誰かが走ってくる音がしたので、注意してひょいと覗いてみる。

「誰かいるな。この角か?」
「きゃぁぁ、ごめんなさーい」
「うわぁ!」

 突然飛び出してくる女の子が一人。派手に頼香とぶつかってしまった。しりもちをつく女の子と頼香。

「ごめんなさぁい……」
「いたたた……危ないなぁ、急に……」

 額をさする頼香と少女。少女の格好は、胸と腰に黒い装甲を付け、長手袋にブーツといったいでたちであった。それにバイザーをかぶり、全体的に機械を装着しているようなイメージである。そしてその顔はと言うと……

「あ! お前はさっきのDOLLとかいう……」
「あ、ええと、その……あたしは……」

 そう、さんこうのビュワーに映し出されたDOLLと名乗る少女であった。先程の冷酷さはどこへやら、恥ずかしがったり、慌てたりと大忙しである。しばらくあたふたした後、落ち着きを取り戻したのか、コホンと咳払いをして、頼香達二人に向かって告げる。

「そ、そうだ。我々はDOLL。お前達を同化する」
「同化って、どういう事だ」
「我々と同じ存在になると言う事だ。このように!」

 そう言って、ミナスに襲いかかろうとするDOLL少女。そうはさせまいと、すかさず足払いをかける頼香。転倒するDOLLの機械装甲が通路の床にぶつかり、派手な金属音を立てる。

「ミナス、ひとまず逃げるぞ」
「おい、フレイクス! チャンスじゃないのかい」
「冷静になれ。あのDOLLとかいう女の子は何者か分かっていないんだ」
「どうしようっていうんだよ」
「まずは情報だな。コンピュータールームで記録を調べてみよう」

 渋るミナスの手を引いて、倒れているDOLL少女を跨ぎ越える頼香。あとにはぽつんとDOLLが残されたのであった。

「いたいよぉ〜」


★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


 「U.S.S.テクタス」コンピュータールーム。そこで頼香達はコンソールで主記憶バンクにアクセスすることにした。

「ミナス、さっきのDOLLが入ってないようにロックしておいてくれ」
「わかった。コンピューター、レベル3のセキュリティ」

 軽い電子音を立ててドアがロックされる。少尉クラスが使える程度のセキュリティとはいえ、連合士官のアクセスコードを知らなければ解除されるまでは時間がかかるだろう。
「さて……少尉の俺たちが何処まで見られるかだな」
「フレイクス、アクセスは僕がやるよ」

 コンソールを叩いていくミナス。目的の情報はすぐに見つかった。最新の物で、セキュリティはかかっていない。連合に向けた警告の形を取っていたのだ。記録者は「テクタス」艦長のダイナ少佐だった。


『空間グリッド50-28に時空間の歪みを観測。不安定なワームホールである事を確認した。ワームホールより一隻の船籍不明宇宙艦が出現し、調査のために接触を試みた。だがそれは失敗だった。攻撃を受け、シールド消失。艦は航行不能に陥った。こちらの無力化と同時に相手の艦から兵士が転送されてきた。少女の姿の機械化兵士……彼女らは「DOLL」と自らを名乗っていた』


「なるほどな、このテクタスを襲った連中とさっきの少女が同じ種族な訳か」
「他のクルーはどうなったんだろう。戦ったのかな」


『我々も応戦したが、相手はフェイザーを無効化する。効果があるのは最初の数発だけで、フェイザーの周波数に同調したバリアーを張る事で攻撃を防がれてしまう。数名のDOLLは倒したものの、たった一名のDOLLのために我が方のクルー3人が犠牲になってしまった。同化されてしまったのである』


「同化か……あのDOLLもそう言っていたな」
「いったいどういう事なんだ? 同化って……」


『相手を一人まで減らしたつもりが4人に増えてしまった。同化……恐ろしい攻撃手段だ。不安定なワームホールが閉じる事で、DOLL達は帰り道を失った。そう思っていた。だがDOLLの目的は違っていたのだ。ワームホールの開いた先、すなわちこの宇宙域へ勢力を拡大する事だ。その為に同化が済むとシャトルを奪い、次の犠牲者を求めていったのだ』


「4人に増えた? どういう事だ?」
「これは仮定だけどさ、何らかの方法で増殖するんじゃないかな」


『DOLLの勢力が広がる事は、我々惑星連合に対する重大な脅威と認識する。だから私はシャトルの自爆コードを入力し、DOLLの企みを潰す事にしたのだ。間接的に私の部下をこの手で殺める事になってしまったが、惑星連合の平和のため、非難は甘んじて受けよう。この警告が速やかに連合に伝わるよう、超亜空間通信で発信する。同化された仲間は……くそっ、ここまで……』


「ここで終わってるな」
「この通信は発信されてないよね」
「それに、半径1光年以内にシャトルの残骸は発見されていない」
「どういう事なんだろう。それに同化というのが今一はっきりしないね」

 最後の方が中断されている記録を見終わった頼香とミナスはお互い首をかしげていた。艦長の話にあったシャトルの自爆は実際には行われていなかった。そして、同化。肝心な部分が不正確であったのだ。

 突然ミナスがうめき声を上げて、喉に手を押さえる。ツタ状の何かが絡みついているようだった。そしてその先を辿ると、先程のDOLL少女がコンピュータールームの入口に立っていたのだ。

「うっ……何だよ……離せ……」
「DOLL! どうやってセキュリティを破った!」
「素体が連合のセキュリティコードを知っていれば問題ない」

 無表情な口調のDOLL少女がミナスに視線を移すと、ミナスを締め上げているツタ状の物がさらにきつくなる。そのツタ状の物はDOLLの髪から伸びているようで、どうやらDOLLの意志によって動かすことの出来る触手のような物らしい。

 DOLL触手の束縛からミナスを解放しようと頼香がDOLLに体当たりをかけて体勢を崩そうとした。だが、DOLLが無造作に片手を横に薙ぐと、頼香の体が壁にまで飛ばされてしまった。背中を強く壁に打ち付け、呼吸が出来なくなる頼香。衝撃吸収素材を織り込んでいる戦闘服を持ってしても、ダメージが残ってしまう。DOLLは少女の見かけによらず、パワーはあるようだ。

「くはっ……」
「同化とはこういう事と理解するがいい。抵抗は無意味だ」

 触手をたぐり寄せ、ミナスをその腕の中に納めるDOLL。抵抗が無意味だと言われて素直に無抵抗のままいるミナスではないが、懸命にもがいてもDOLLの触手から逃れることは出来なかった。DOLLがミナスの首周りに手を伸ばし、冷たい笑みを浮かべて抱き寄せる。

「我々の元へ」
「くっ……何をする気だ……」

 ミナスとDOLLのお互いの顔は文字通り目と鼻の先。真正面から見据えてくるDOLL少女から顔を逸らそうとするが、触手に押さえられてそれもかなわない。

「さあ」
「んあっ……」

 DOLL少女は瞳をつむって目の前の相手に優しくキスをした。優しいというのはそう見えるだけであって、ミナス本人にしてみれば体の自由を束縛された上に、無理矢理顔をつきあわされているのである。いくら相手が美少女であってもこのシチュエーションを良しと感じるほどずれた感性は持ち合わせていない。
 
 キスが続く最中もミナスは抵抗しようとしたが、DOLLの言うとおり、無意味な抵抗であった。きつく閉じた唇に割って入るのは少女の舌……そして、何かだった。この「何か」が同化の重要なプロセスなのである。その正体はDOLLナノマシン。これを相手の体内に入れるのである。

 そのうちに抵抗をしなくなったミナス。いや、手足の体の力が抜け、DOLLが手を離すと、どさりと体が崩れ落ちる。頼香はあわてて駆け寄り、ミナスの体を支える。四肢は動かせないが、その呼吸は荒い。

「ミナス!」
「……ううっ……体中が熱い……」
「DOLL、ミナスに何をした。ただキスしただけとは思えない」
「我々と同化したのだ。そのように」

 二人を見下ろしながら答えるDOLL。その言葉に応じたのか、ミナスの体がびくりと震える。そして頼香の手の中で変貌が始まる。体がふた周りも小さくなり、軍人として鍛えていたはずの筋肉もやわらかい脂肪へと変わっていき、胸にはわずかな膨らみが作られていく。四肢が短くなる一方で、髪が伸びてくる。いまやミナスは10歳くらいの少女へと変貌していったのだ。

「な……」

 そこまでは惑星連合の技術力を持ってすれば実現可能な変化だった。だが、DOLLナノマシンによる変化はそれだけに留まらなかった。ミナスが着ていた惑星連合の士官制服を破るように、機械装甲が現れたのだった。少女の体には余剰な生体組織を再構成して、DOLL装甲へと作り変えていく。数分後には機械と有機体のハイブリッド生命体、DOLLへの同化が完了したのであった。

「まさか、テクタスのクルーもこうやって同化したのか」
「その通りだ。我々は同化された側ではあるがな」
「お前も少女に変えられたクルーのなれの果てって訳か」
「同化前の個体はダイナと呼ばれていたが、我々DOLLには関心のないことだ」
「艦長……だからセキュリティも破れた訳か」

 目の前のDOLL少女はこの「U.S.S.テクタス」の艦長だった人物であった。同化された後にその知識を使って、DOLLに奪われたシャトルの自爆シークエンスを停止。DOLLをこの宇宙域に放った後、ランデブー予定の「さんこう」を待ち伏せしていたわけである。

「ミナスを……自分の部下を手にかけて、艦隊士官の誇りはどこへやった」
「誇りなど無意味だ。我々DOLLに同化するのが全ての生命体の幸福につながる」
「そんな勝手なこと、俺が許さない!」

 頼香がオーラスティックを展開させようとした時、ミナスだったDOLL少女が目を覚ます。ダイナDOLLもそちらに歩み寄り、触手でミナスDOLLの装甲に触れていく。

「さあ、起動しなさい」
「……ボク……私……我々はDOLL……」
「そう、我々の目的は」
「……全生命体の同化……」

 頼香は敵が二人に増えた不利を悟り、ミナスDOLLの起動の隙にコンピュータールームを飛び出していた。走りながら「さんこう」へと通信を入れる。

『頼香ちゃん大丈夫?』
「俺は大丈夫だけど、ミナスが敵の手に落ちた」
『どうするの?』
「考えがある。協力頼むぞ。実はな……」


★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


 二人のDOLLが「U.S.S.テクタス」の通路を歩いていると分岐点にさしかかった。ただ歩き回っているわけではなく、頼香を捜し出して同化しようという訳だ。

「あたしはこっちを探すね」
「それじゃボクはこっち。両側から追いつめよう」

 そんな会話を聞いたのか、通路の向こうに人影がちらりと見える。DOLLバイザーにはテラン人の生命反応であることが表示される。おそらく頼香だ。

「あ、待って!」

 慌てて追いかけるダイナDOLL。次の角でも人影がさっと曲がるのが見えた。着実に距離は縮まっている。しばらく追いかけた後、頼香らしい影を居住区に追いつめたのである。ダイナDOLLは手始めに一番近い居室のドアを開けた。中は薄暗い。ちょっと怖そうなそぶりで中を覗く。

「あの……いるんでしょ? て、抵抗は無意味だから……って……きゃぁあ!」

 部屋に入ろうとした瞬間、何かにつまずいた拍子に、中に思いっきり飛び込んでしまう。暗がりで足下が見えなかったのだ。しばらくじたばたしていたダイナDOLLだが、がしっと頼香に足げにされてしまう。オーラフェイザーの銃口を生体部分のこめかみにしっかりと向けている。

「まさかこんなに簡単に引っかかるとはな……」
「いった〜い」
「少しは学習しろよ……果穂、転送だ。拘禁室にでもぶちこんどけ」

 半分あきれた口調で頼香が「さんこう」に通信を送ると、まもなくDOLLの姿が転送の光に包まれて、その場から消え去った。やれやれとため息を一つつく頼香。

「さて、後はミナスか。同じ手は通用しそうにないな」
「そう言う事だ。ボク……じゃない、我々に同化する」

 背後から頼香の首筋に、ミナスDOLLの触手がそっと触れる。どうやらダイナDOLLを相手にしているときに頼香の背後に潜んでいたらしい。なぜか引き寄せるような事はしない。頼香も触手の先を首筋に感じながら、ミナスDOLLへと向き合う。どうやら頼香の同化を確信しているような余裕から生まれた行動らしい。

「なるほど……抵抗は無意味だと?」
「理解が早いのは結構なことだ」
「でも大人しく同化されるほど俺も素直じゃないんでね」

 オーラスティックを構え、オーラブレードを展開する頼香。ダイナ少佐の記録ではフェイザーが無効化されるとの事だが、オーラブレードやオーラフェイザーならどうかは分からない。今のところ連合でもこの武器を持つのは頼香達の部隊しか無いのだ。

「DOLLもミナスもオーラブレードを受けた事はないだろう。生体が相手なら効果は十分にある」
「無意味だ。我々はブラフが通用する相手ではない事を認識すべきだな」
「だろうな。俺だってポーカーやってるつもりはない」
「では現実を直視してもらおう」

 触手を絡めて、頼香の体をたぐり寄せるミナスDOLL。頼香もさほど抵抗はしない。さすがにそれを疑問に思ったのか、一瞬同化を躊躇するミナス。

「なぜ抵抗しない?」
「俺はゆーき以外とキスしようなんてこれっぽっちも思っちゃいないんだが……」
「どういう意味だ?」

 ミナスDOLLの問いには答えず、至近距離でオーラフェイザーを暴発させる頼香。間近で受けるオーラの奔流は、DOLL装甲を持ってしても防ぐ事が出来ないはず……ミナスDOLLは無理矢理頼香を抱き寄せ、その唇を重ね合わせたのであった。フェイザーの暴発に耐えるためにきつく目を瞑りながら……



…………



 待てど暮らせど襲ってこないオーラの圧力。ミナスDOLLが恐る恐る目を開けると、目の前の頼香は姿を消していた。代わりに頭の後ろをオーラスティックで小突かれる。

「ミナス、終わりだな」
「え、うそっ、ボクは確かに同化したはずなのに、なんで?」

 慌てて後ろを振り向くミナスDOLL。頼香が無傷で立っていたのだ。触手に絞められた痕もない。

「俺は最初からいなかったよ。ホログラム技術の知識は同化しなかったようだな」

 この居住区に誘い込んだのも、ダイナDOLLを相手にしたのも、ホログラムの頼香だったのである。そうと気づかないミナスDOLLがホログラム頼香と対峙していたわけだ。

「……そんな……ボクはどうなるの……」
「元のミナスに戻れるように医療部にも技術部にも手を尽くしてもらうさ」
「無理だよ……ボクはもうDOLLなんだ……」
「……果穂、転送頼む。念のため拘禁室にな」

 自分の負けを認めたのか、その場にへたり込むミナスDOLL。頼香の通信の後、その姿を転送の光が包んでいった。


★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


 1週間後。宇宙基地TS9。司令室に副司令官と「U.S.S.さんこう」の乗組員が集まっていた。副司令官にDOLLとの交戦を報告していく頼香。

「……報告は報告書も含め、以上です」
「さて、フレイクス少尉の報告にあったM・O・E-DOLLだが、本格的に侵攻があれば脅威だな」
「はい。今回はなんとか出し抜けましたが、いつもそうとは限りません」
「同化を防ぐ事が出来れば何も問題はないのだが、それは難しい相談だしな」

 難しい表情になる副司令官。偶然のDOLL生命体との遭遇だったが、異星人とのファーストコンタクトとしては最悪のものであった。しかも「U.S.S.テクタス」のシャトルで数体のDOLLが連合の勢力圏内に散らばっていったのである。

「今後も警戒を怠らないため、専属チームを発足させる事にした」
「ダイナ少佐とミナス少尉が適任かと思いますが……」
「うむ、あの二人は外科手術によってDOLL装甲を外す事が出来たからな。入りたまえ」

 副司令官の言葉に続いて、二人の少女が司令室に入ってくる。その二人は頼香と渡り合ったDOLL。だが、耳部以外の装甲は外され、連合士官の女子制服を着込んでいる。そのせいかどうかは分からないが、二人ともちょっと恥ずかしがっているようだ。

「あの、副司令官……二人とも元に戻ったのでは?」
「フレイクス少尉、言葉は正確にな。『DOLL装甲を外す事が出来た』と言ったのだよ」

 連合の医療部、技術部が懸命に二人を元の姿に戻そうとして、装甲を外して注入されたナノマシンを休眠させるところまでは出来た。だが、生体部分を元の男性に戻そうとすると、ナノマシンが活性状態になってしまい、結局は少女形態に戻ってしまうのである。噂では真っ先に技術部でさじを投げたのは果穂だったとか……

「そんなわけで、ボク達は女の子のままなんです……」
「あたし達の階級はそのままなんで、姿とはちぐはぐですけどね」

 この二人が少女の姿になってしまった事を聞かされた時は相当ショックだったそうである。それに追い打ちをかけるかのごとく、DOLL化したときの記憶はそのまま残っており、さらにその時の少女人格まで残ってしまっているので、本人としては二重三重の苦しみとなっているのであった。DOLLの悲劇といえよう。

「ボク達がこうなってしまったのは仕方ないです」
「これ以上犠牲を増やさないためにも、あたしたちの経験を生かしてもらいたいんです」

 二人の少女は悲劇を前向きに捉えているようだった。そして、誓いも新たにDOLL対策チームの中核としてこれからの艦隊生活を送っていく事だろう。DOLL種族による悲劇を繰り返さないために。二人は並んで敬礼をして、司令官室を後にしたのだった。


「きゃぁぁ、いった〜い」
「少佐ぁ〜、ボクの目の前に転ばないでください〜」


 多少の不安を残して……


あとがき

 らいかの世界観で、TSするボーグを作ろう。それが「M・O・E-DOLL」種族のはじまりでした。TS9チャットとジャージレッドさんところの妖精チャットで皆様の協力のもと、「DOLL」の設定が出来上がったのでありました。このかわねぎ作品はボーグっぽさを出しており、設定の「萌え人格」は抑えめになっています。「DOLL」の設定は「らいか大作戦」の世界設定と共に公開致しますので、この冷酷で萌える種族のお話が増えないかな〜などと妄想しているのであります。


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