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『この作品は シェアワールド MOE-DOLL の根幹設定を参考に書かれた作品です。本来のMOE−DOLLとは設定上異なる点があります。MOE-DOLL作品については、こちらに根幹設定が、こちらに全公開作品のリストが存在致します



燃えさかる炎
作:愛に死す




「アル・マグナス入ります」
 燃える様な赤い髪と瞳をしたアルは、上官のミハエル大尉の執務室を訪れた。そこでは、金髪の美女が山積みになった書類に目を通していた。ミハエル大尉は、惑星連合一の才女としてよく知られている。
「ご苦労、楽にしていいぞ」
「はっ、ありがとうございます」
 ミハエル大尉の言葉にアルは直立不動の姿勢を崩した。
「今日から君はこの惑星連合の少尉として任命される事になる。配属地について希望はあるか?」
「大尉殿、よっくぞ、聞いてくれました。俺じゃなくて私は、是非、大尉殿のような美しい方と一緒に働きたいと思っていたとこです」
 ミハエル大尉の質問に、アルは軽い調子で喋り始めた。その様子をミハエル大尉は冷ややかに見ている。
「いやぁ、私は肉体労働は苦手でして、はっはっは、頭を使うのはもっと苦手なんですが…」
「そうか…どれ、もう一度、士官学校からの報告書を読ませてもらうとしよう」
 机の上に置かれてある紙を、ミハエル大尉は手に取った。
「何々、アル・マグナス、学技はなんとか及第点といったところだな…ただ、猪突猛進でやや柔軟性が欠けるが、その戦略技術は目を見張るものがある。実技はパーフェクト。ただし、性格に問題あり…か」
 士官学校からの報告書をミハエル大尉は読み上げた。
「どうやら本当のようだな」
「照れるなぁ、そんなに褒めんで下さいよ」
 額に手を当て、アルは真っ白い歯を見せた。光を反射して、歯がキラリと輝く。
「君は面白い人間だな、よかろう、あとで任務先は追って連絡する」
「楽しみにしてますよ」
 アルはにやけ顔のまま、ミハエル大尉のもとを去った。
「やれやれ、問題児だな。さて、彼をどうするか…」
 ミハエル大尉は、形の良い顎に手をやり、しばらく考えていたが、しばらくして、コンピュータにデータを打ち込み始めた。

「わっはっは、いきなりこんな辺境の監視衛星に一人で派遣されるなんて俺もついてないよなぁ」
 少尉に任命されたアル・マグナスはぼやいていた。どうやら、彼の作戦は失敗したらしい。
「ああっ、せっかく士官学校を卒業して、これから色々と頑張ってやろうと思ったのにさ」
 アルの言う色々とは無論、女性を口説く事である。士官学校での渾名は、『野獣』だった。
「男ばかりの寒い所だったからな」
 士官学校の事を考え、アルは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、ここよりはましか…」
 この監視衛星にはアル以外、誰も知性ある存在はいない。生き物は唯一、アルの飼い猫、メサイアがいるのみだ。
「にゃーん」
 椅子にふんぞり返って座っていたアルの側に、ルビーのような輝きを放つ毛皮を持った猫が近付いてきた。
「メサイアか…なんだ、お前も雄猫の恋人でも欲しいのか?」
「うにゃ」
 メサイアは、アルの膝の上に跳び乗ると、スリスリと頭を擦りつけた。
「俺のこの寂しい心を慰めてくれるのはお前だけだよ」
 アルは自分と同じような赤色をしたメサイアの毛をゆっくりと撫でた。
「暇だなぁ」
「にゃーん」
「んっ、腹が減ったか、待ってろ、今、猫缶を開けてやるからな」
 アルは倉庫に歩き出した。一歩下がってメサイアも駆けて来る。
「お前とも長い付き合いだよなぁ。俺が幼稚園の時からか…唯一残された家族だよ」
 メサイアがハグハグと餌を食べているのを横目で見ながら、アルは微笑んだ。
「親父もお袋も俺を置いて何処かに行っちまったからな…」
「にゃーん」
「くすぐったい、おいっ、止めろよ、メサイア」
 アルの気持ちを感じ取ったのか、慰めるようにメサイアはアルの顔を舐めた。
「さて、今日も異常はなかったな、そろそろ定時連絡の時間か…」
ドオオォォォォン!!!
 アルがコンソールに近づいたとき、激しい音と共に監視衛星が大きく揺れた。
「なんだ、隕石の直撃でも受けたか、そんな反応はなかったぞ!」
 急いで、監視衛星の内部と外部のチェックをする。
「こんな何もない場所に侵入者!?」
 衛星内に人影を発見し、アルは驚きの声をあげた。
「とりあえず、障壁を降ろしてどうするか考えるか…これで、しばらく時が稼げるはずだ」
 急いで、アルは装備を確認した。フェイザー銃とフェイザーソードのエネルギーはしっかりと充填されている。
「こういうのは使いたくないんだよな。俺って平和主義者だからさ」
 ぼやきながら、アルは侵入者に備えた。その直後、アルの命令を無視して、ロックされた扉が開かれた。
「おいおい、いったい何が起こっているんだよ!?」
 アルのいる部屋に黒い装甲をつけた少女が浸入してきた。美人だがどこか虚無的な雰囲気を身に纏っている。
「可愛子ちゃんは歓迎するけどね。ちょっと、俺の守備範囲外かな、出直してきてくれるとうれしいんだけど…」
「我々はM・O・E-DOLL。お前達を同化する。抵抗は無意味だ」
 少女は抑揚のない口調で喋り始めた。
「うーん、人の話は聞けってお母さんから習わなかったのかな?」
「………」
 アルの言葉にM・O・E-DOLLと名乗った少女は何の反応も示さない。
「おっ、こわ、美人は笑顔じゃないといけないよ」
「そ、そんな、美人だなんて…じゃなくて、抵抗は無意味だ」
 ポッとは恥じらいの表情を浮かべたが、すぐにDOLLは無表情に戻った。アルの体を拘束しようと、ゆっくりと近づいてくる。
「めんどくさいねぇ、それに手荒な事を女の子にしたくはないのだけど…」
 アルの手が一閃すると、少女の左腕が付け根からポトンと落ちた。
「あんまり、お兄さんを怒らせない方がいいよ」
 フェイザーソードが何時の間にかアルの右手に握られていた。
「今すぐ治療すれば早く治ると思うしさ」
「キャーッ!私の腕がぁ、ううっ、ひどいですぅ」
 DOLLはべそをかきながら、床にうずくまった。
「なんか表情の変化が激しいな」
 DOLLの豹変にアルは戸惑いを隠せない。
「でも、私もここで引き下がれないですぅ。そんな事をしたら、お姉様達に叱られちゃいますぅ」
「どうしようってんだ?」
 呆れたようにアルは呟いた。
「こうしますぅ」
 いきなりのDOLLの左腕が肘から切り離され、弾丸のようにアルを襲った。
「何だと!それは、伝説のロケットパンチ!」
 不意打ちであったが、ロケットパンチをアルはなんとかかわした。しかし、今度は切り落とされたDOLLの右腕が別の生き物のように動き、体勢を崩していたアルに襲いかかる。
「ゆ、油断したぜ…」
 右腕は少女のものとは思えぬ握力でアルの首を締め付ける。
「さぁ、我々の元へ」
 DOLLが顔を近づけた。その時、
「ウニャァ!」
 主人を守ろうとしてメサイアがDOLLに跳びかかった。戻ってきたDOLLの左腕に爪を立ててしがみつき、牙を突き刺そうとする。
「止めてよ!」
 DOLLは思わずメサイアを弾き飛ばした。激しく壁に叩きつけられて、そのままメサイアはピクリとも動かなくなる。
「あ、あなたが悪いんだからね」
「メサイアーっ!」
 呼吸ができず、意識が朦朧としながらも、アルは渾身の蹴りをDOLLに見舞った。DOLLはフラフラとよろめく。その隙に、アルはメサイアの元に駆け寄った。
「おい、しっかりしろ、お前は俺に残された唯一の家族なんだぞ!」
 アルの手の中でメサイアの体がどんどん冷たくなっていく。
「ううっ、痛いよぉ」
 頭を押さえながら、ヨロヨロとDOLLが立ち上がった。どうやら、アルに蹴られた時、頭もぶつけたらしい。泣きそうな顔をしている。それでも、使命を思い出したのか、仮面のような無表情さを取り戻した。
「抵抗は無意味だ」
 メサイアを抱きしめていたアルの首をDOLLの右腕がさらに強く締め付ける。
「ガァ、ガァァァ!」
「首が折れたとしても、我々の仲間になれば、すぐに修復される」
 DOLLは目をつむってアルの唇に優しく接吻をした。
「我々の元へ」
 DOLLの舌がアルの舌に絡まり、DOLLナノマシンを注入していく。これにより、速やかに知性体をDOLLに同化するのである。
「あっ、あああっ!」
 しばらくすると、アルは全く身動ぎしなくなった。体中の力が抜けてしまい、アルはピクリとも動けない。DOLLが離れると、糸の切れた人形のようにアルの体は崩れ落ちた。
「ゆ、許さねえぞ!」
 指一つ動かせない状況で、アルの瞳は燃え盛る炎のよう煌き、DOLLを睨みつけていた。荒い呼吸をしながら、ビクンビクンとアルの体が脈打つ。
「俺は負けない、負けるものか!」
「そんな考えは無意味だ」
 DOLLのその言葉が合図だったかのように、アルの体に変化が訪れた。まず、体全体が縮み始め、手足が短いものになっていく。鋼のように鍛えられていたはずの肉体が、白く柔らかいものに変わり、胸には僅かな谷間が作られた。真紅の髪が、ルビーのような煌きを見せながら、腰にかかるほど長く伸びていく。
「こ、こんな痛みに…メサイア…俺は、俺は…」
 うわ言のように、アルはメサイアの名を連呼した。少女のようになっていくアルの変化に伴い、アルが抱きかかえているメサイアは、溶けるように姿を消していく。その代わりに、アルに真紅の毛色をした耳と尻尾がピョコンと現れる。その耳と尻尾の形は、メサイアの物に非常によく似ていた。
「おかしい、何か異常を感じる…」
 DOLLは、アルの変化を見守りながらポツリと呟いた。
「はぁはぁはぁ」
 最後にアルの着ていた惑星連合の士官制服を破って、真紅の装甲が姿を現した。体の縮小に伴い発生した余剰な生体組織を、DOLLナノマシンが再構成したのである。数分後、アルの居た場所には、真紅のDOLLが、身動ぎもせずに立っていた。
「さあ、起動しなさい」
 DOLLは、触手を使ってアルの装甲に触れた。
「……オレ……私……我々はDOLL……」
「そう、我々の目的は」
「……我々…私…俺…俺の目的は…全DOLLの破壊と消滅…にゃ」
「何!?」
 驚きの声をあげてDOLLはアルから離れた。
「そう、俺の目的は全てのDOLLの破壊と消滅にゃ…」
 燃え盛っている炎のように、アルの髪がゆらゆらとなびく。
「馬鹿な!そんな事はあり得ない…」
 確かに通常では、起こり得ない事態だが、アルがメサイアを抱きかかえていた事により、アルとメサイアが融合、猫の遺伝子がアルの体内に取り込まれた事により、DOLLへの変化以外の現象がアルの身に起きたのだ。猫は知性体でない為、DOLLナノマシンの働きを正常に伝えなくなったらしい。
「まずはお前からにゃ…」
 アルは凄まじい速さでDOLLに接近すると右手をDOLLの黒い装甲に触れた。
「なに、全く反応できない!?」
「喰らうにゃぁ!」
 アルの右手が眩しいほどの光を放ち、灼熱する。
「キャァァァァ!」
 アルの手が触れた部分のDOLLの装甲は、ドロドロに溶解していた。
「DOLLとしての基本的な知識は吸収させてもらったにゃ!」
 アルはDOLLをそのまま持ち上げた。
「急激な変化からか腹が減ったにゃ…それに、俺はお前らと違ってDOLL母体から補充を受けられないようだにゃ。もっとも、影響力も受けてないようだがにゃぁ」
「り、理解できない…」
「俺の愛と怒りと悲しみをお前達に理解してもらおうとは思わないにゃん。さぁ、お喋りは終わりにゃっ!燃えつきろにゃぁぁ!」
  DOLLの体が、真紅の炎に包まれる。
「キャァァァ!」
「さて、喰わせてもらうにゃ!」
 そのまま、バリバリと強引にDOLLの装甲を剥がす。
「不味いにゃぁ…」
 アルはDOLLの装甲を喰らい始めた。ジタバタともがきながら、必死にDOLLは逃げようとする。
「逃がすわけないにゃん!」
 DOLLを押し倒し、四肢を押さえる。
「ウニャァァァ!」
 雄叫びをあげて、アルは口をDOLLの装甲につけ、ムシャムシャと食い荒らす。
「い、嫌だ、た、助けて…」
「ふぅ、少しは腹が満たされたにゃ」
 アルが離れると、そこには裸の少女だけがいた。
「えっ、ぐすん、いったい、何が起こったの!?えっ、こ、これが、ボ、僕の体!?」
 少女はシクシクと泣いている。その時、
「定期連絡の時間だ」
 モニターが起動し、ミハエル大尉の顔が画面に現れた。
「おっと、いけないにゃ」
 ミハエル大尉の顔を見たアルは、やっと正気を取り戻し急いでモニターに向かった。
「やぁ、大尉、今夜もお美しいですにゃ、じゃなくて、お美しいですね」
 いつもの調子でミハエル大尉に話しかける。
「そんな事を言うとは…貴官はまさか、アル少尉か!?」
「まぁ、どうやらそのようですにゃ」
 尻尾をクネクネと動かして、アルは猫耳の裏をかいた。
「貴官にそんな趣味があるとは知らなかった。で、あそこで泣いているのは…ふむ、状況はよくわかった、アル少尉、君らしいな」
 ミハエル大尉の冷ややかな視線がアルを射抜く。
「あの、ひどく誤解されているような気がしてならないにゃ…」
「お楽しみのところわるかったな」
「あの、大尉、ちょっと待ってにゃぁ!」
 画像はプツンと消えてしまった。
「あの、泣き出したいのは俺のほうにゃのですが、えっと、俺が悪いのにょか、そうにゃのか、本当にそうにゃのか!誰か答えて欲しいにゃーっ!」
 猫耳少女の可愛らしい悲鳴がしばらく止む事はなかった。


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