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世界観表示CG

この作品はシェアワールド「らいか大作戦」の一部である
【 MOE-DOLL根幹設定】並びに『DOLL王国と惑星連合との同盟』を最終的に予定されているされている、
【若葉のDOLL 萌ゆる戦乙女】を根幹作品とする

【若葉ワールド】

を前提として書かれた作品です。
DOLLについてより詳しくはこちら
大本である【らいか大作戦】は、
こちらを 参照してください。

 なお。この作品はメインストーリーに即した部分も存在しますが、あくまでもサイドストーリーの位置づけとなっていますのでご注意下さい。





 死神と呼ばれたこの私が…まさかここまで先が読めなくなるとは思っても見なかったな。

 戦いの場では、私1人いれば、数個師団と戦っても負ける気はない。でも…

 今回の敵は違っていた。



 ここは、戦場…の訓練をするために、私があえて決めた訓練場の一部だ。周りには崩れかけたビル群がそびえたっている。ゴーストタウンと言った方が合っているかもしれないな。

 もちろん『一部』とはいえ、下手な大都市の大きさはある。いや、もとは確かに人が住む『街』だった場所なのだから。

 この星自体は、数年前までは億単位の人間が確かに暮らしていたのだ。しかし、5年前におこったバイオハザードでこの星の人間たちは一夜にしていなくなった。そう…かき消えるように。

 バイオハザードの影響は、なぜか『人間』のみにしか影響をおよぼさなかった。そしてこの星は死の星となった。いや、間違いだな。『ごく自然な』元の星に戻ったのだった。

 その星を4年前に私が格安の値段で丸ごと買い上げて、以後住処としている。



 もっとも、この星には、まだそのときの影響を及ぼす殺人細菌達がうようよいるはずだ。が、なぜか私1人ではその細菌の活動は全く起こらない。どうやら、ある一定以上の生命体・しかも人間の存在を関知すると活動を始めるらしいのだ。詳しいことがわからないが、私が独りでさえ住んでいれば問題ないならば別に気にすることはないだろう。

 だからこそ、この星にある全てを自由に使わせてもらっている。


 
 ここは…この星自体が私の庭と同じ。







作:Keyswitch
画:もぐたん





 私は…とにかくパートナーであるザルファに連絡を入れる。私が唯一信頼できるパートナー・ロボット。その中の1人。

「敵の状況を詳細に教えて」

『戦力不明…解析不能…個体数…3』

 ザルファが解析不能という答えを出すのは始めて。ということは、人間でもロボットでもない、全く別の存在と言うところなのだろうか。しかし、

「たったの3…か。

 しかも私と同じサイズ…信じられない」

『同感です。しかし、マスターがそうである様に、もし相手側にその能力があったとすれば…』

「解ってる。油断するつもりなんて全くない。

 そのまま監視をお願い」

『了解』

 そして、通信回線を確保したまま…会話は終了する。





 私の名前は………すでに捨てた。あえて呼ばれている名前は…死神。

 見た目は15歳の少女の姿…普通は私の姿を見た時点で相手側は油断する。でもそれは、自分の死を意味している事に気付いていない。

 もちろん私は見た目通りの年齢、正真正銘の普通の人間・ロボットでもなんでもない。この世に生を受けてから15年しか経っていない。でもその中の8年は戦いの中に身を置いている。私が始めて人を殺したのは7歳の時だっただろうか…もう何人の命を奪ったかなんて覚えてはいない。



 私には生まれながらに人とは違う能力を持っていた。それは、予知能力。

 もっとも、本当に未来が『見える』わけではない。あくまで現実に即した事象から未来を『予想』するのだ。そしてその予想が100%近い確率で当たるだけ。

 この能力があれば…戦いにとってこれほど有利なことはないだろう。相手の次の行動が解れば、私は全く無駄のない動作で相手を殺すことが出来るのだから。



 でもこれは、実は普通の人間でもごく簡単に出来る事なのだ。ただし、普通の人間は無意識的に使わないようにしているだけ。

 人は、目や耳など、5感から入ってくる情報の全てを利用していない。有り体に言ってしまえば、ほとんど使っていないと言った方が合っているだろうか。もし人間が5感から受け取った情報を全て利用しようとすると…10中8・9は脳がパニックに陥る。その情報量があまりにも多すぎて、処理しきれないからなのだ。つまりは、脳がオーバーヒートを起こしてしまう。コンピューターの熱暴走と同じ。

 だから人は…無意識的に自分にとって無駄な情報を排除して、簡略化した情報に勝手に書き換えて脳の方に簡易版の情報を送っている。それによって、脳のパニックを抑えると共に、情報の効率的な処理を行っているにすぎない。

 そんな事は信じられないって? 自分は全てが見えているって? さて、それはどうかな。

 じゃあ質問してあげるわ。今目の前にある物全ての、姿形や色・大きさ等、全てを判断できるかしら? そしてそれが…そうね、図書館のような場所だったら、目に入ってきた全ての本の色や形・本の題名まで覚えているかしら? 一瞬で。

 答えは…不可能よ。もし出来る人間がいたら、すでに精神が崩壊しているはずだわ。もしくは…私と同じ、人と違う存在として疎まれているはず。



『ラプラスの悪魔』

 ある瞬間における全宇宙の全ての物質の質量と運動量を把握できれば、次の瞬間=未来を全て計算で表すことが出来るといわれた悪魔の方程式。

 でもこんなのは嘘・絶対に未来は予想できない。不確定性原理がある以上、未来を100%予測する事なんて不可能なお話し。神様はサイコロを振るのよ。

 でも、逆に言えば、限りなく100%に近い確率で当てることは出来るわ。100%でなければ…ね。

 特に人間は、相手の表情・仕草・態度・そして身体の動作を見て、今までの経験・情報と照合すれば、その相手が次にどんな行動するかは実に簡単に判断出来る。

 とはいえ普通の人間は、その入ってきた情報を簡略化してしまうために、その判断が出来るほど脳には情報が入ってこない。だから…先が読めない。もっとも、慣れさえすれば結構な高確率で相手の心理を読むことだって不可能じゃないんだけどね。でもそれにも限界がある。

 それに対して私は…5感から入ってくる全ての情報を判断できるから、次の動作を予想することが出来る。それは、もって生まれた能力。

 確かに、最初はなにがなんだかわからなかった。一日中目を閉じて・耳をふさいで、外界からの情報の流入を拒絶したことだってあった。だけど、人ってかなりいい加減なモノなのかもしれない。成長するにつれ、その情報の処理の仕方が効率的に行えるようになってきた。まるで、マシンのプログラムが最適化され、それに従って同じマシンでも処理能力が向上するかのように。

 そして…5歳の時には、全ての情報をごく自然に処理できるようになった。

 それを判ろうとしない人は、それを『第6感』などと曖昧な言葉で表そうとしているようだけど…





 さて…1対3か。

 不利だとは言わないけれど、有利でないことも確かだ。特に、相手が何者かがしっかりと把握できていないと言うことが一番辛い。

 敵の位置と数の情報を正確に把握したのは、私達の方が先だった。まぁ、私の星だから当たり前といえば当たり前なのだが。

 この世界では、先手を取った方が勝つ確率がハッキリ言って高い。今回もその常識から言えば楽勝だと思った。しかし…まずは牽制のつもりで手を出したときに、おかしいことに気付いた。

 話をしていない。つまりは司令官といえる人物が存在しない。それぞれが独自の判断で動いている。

 そう…感じた。

 ロボット同士ならばデーターリンクでつながっている可能性もあるのだが、そのような情報のやりとりをしているようにも見えない。全ての電波も検知しているがそんな情報も見あたらない。もちろん、私達の知らない方法で情報のやりとりをしているのかも知れないが…

 逆に、一騎当千の強者達だと考えた方が適当だろう。しかし…



 相手が何者なのか…今までに戦ったことのない相手なのは確かだろう。戦場で、同年代の少年を相手にしたことも確かにある。女の戦士とさえ出会ったことはある。

 しかし、今、相手にしようとしているのは私と同じ程度の年齢の少女達。いや、どう見ても10歳以下…下手をすると私が始めて戦いに出たときと同じ程度かも知れない子供達なのだ。

 それにしてはあの沈着冷静な行動は場慣れしすぎている。今の私でも見ず知らずの戦場へ赴いてあそこまで冷静に行動できるかと問われると…正直言って自信がない。私ならばそんなときでも顔に出すことを意識的に出来る。それにしても…



 確かにそれなりの装備をしているところを見れば『戦士』なのは誰の目にも明らかだ。だが、戦闘状態でない普通でいるときの表情を見ると、彼女たちがごく普通の少女にしか見えない。彼女たちの身につけている装備をはずして、それなりの服装をさせれば、どこにでもいる可愛らしい少女として充分通用するだろう。

 もちろん、敵として認識すれば…戦いになれば情けをかけるつもりは全くない。やるかやられるかだけだ。




『彼女たちが動き出しました。どうしますか?』

 ザルファからの連絡に…

「3人同時の所を攻めるのは、ハッキリ言って無理だろうな。

 バラバラにすることは出来そうか?」

 残念ながら、敵の戦力がハッキリとしてない以上、1対3で戦いを仕掛けるのはやめておいた方が正解だろう。せめて1対1・しかもこちらに逃げる手段をきちんと確保した状態で戦いの望みたいところだ。

 攻撃は最大の防御なんて嘘。敵の命を奪いそこねた時のために、安全で確実な脱出方法を確保しておく方が大事だ。私はそうやっていままで生きてきた。

『可能でしょう。彼女たちの装備している武器から判断すると、接近戦タイプが2体と・砲撃タイプが1体と判断できます。

 こちらから揺さぶりをかければ、彼女たちはそのように陣形を整えるはずです。そうなれば…』

「こちらの情報を相手が知らないとすれば、砲撃タイプの装備の少女だけは別行動を取る・という訳か」

『そうです。しかも見た感じの装備は超長距離タイプと判断できます。ですので…』

 遠くから援護するために1人だけ距離を取る…か。

「それなら、陽動をかけてみるか。

 例のポイントにある攻撃用の装置はそこから起動可能なのか?」

『はい、もちろんです』

「ならば・やるんだ」

 その瞬間、10kmほど離れた場所から、彼女たち3人に向かって1発の小型ミサイル射出される。もちろんその発射基地には誰もいない。ただのリモート式の射出装置が設置されているだけだ。




 こんなちゃちな攻撃で相手を倒せるとは思っていない。完全に陽動のつもり、もし1人でも巻き込まれれば幸運程度。

 しかし、予想よりも遙かに早い段階で…ミサイルが発射されたと同タイミングで3人は行動を開始する。

 着弾まではおよそ30秒…音速で飛行するタイプなので、音では判断できないはずだ。しかも、光で判断したにしても発射と同じタイミングで行動を開始するなどということは出来るわけがない。何せ距離的に見えるわけがない。全方位に光学センサーでも持たない限りは。

 しかし3人は、発射と全く同じタイミングでそれぞれ動き始めた。接近戦タイプの2人は即在に発射地点へと移動を開始し、砲撃装備の彼女は………まさか!?

 あのミサイルを打ち落とそうというのか? 装備している砲身をまだ見えないはずのミサイルに向けて…なんの躊躇いもなく撃ち放つ。



 音速で飛んで来る物体を打ち落とすなど正気の沙汰ではない。大体がターゲットは直径10センチ程度しか………いや、説明は不要か。

 目の前で撃ち落とされるのを見てしまっては、偶然で片づけられる代物ではないだろう。彼女は、見えないはずのターゲットを狙って一撃で当てたのだ。

 だとしたら、私達とは違う別の『何か』によって本当に見えていた考えた方が合っているな。



 信じられない事実というのはどこにでも転がっている。結局はそれを受け止められるかどうかだけなのだ。

 私は科学者ではない。目の前でその事象を見せられればそれを事実として受け止める。そして、即座にその対処法を考えるだけ。

 確かに陽動程度にしか考えていなかった攻撃だったが…こうあっさりと墜とされてしまっては陽動にもなりはしない。が、どうやら1人だけの分断は成功したらしい。これだけでも無駄ではなかったといったところか。





 今・目の前には先ほどミサイルを撃ち落とした1人だけしか残ってはいない…しかも200m先。



 実の所、私はすでに、先ほど彼女たちのいた地点のすぐ近くに潜んでいたのだ。だから彼女たちの行動が肉眼で逐一見えている…が、流石に近すぎると全体を把握するのが不可能なので、1kmほど離れた場所から、ザルファに監視させていた。

 もちろんさっきのミサイルも弾頭に爆弾などは取り付けていない・単なる質量兵器のつもりだった。



 私はそのまま飛びだすと、気配を消したまま全力で少女に向かってタックルをかける。

 あれだけの砲撃を平気でこなしたところを見ると、かなり足腰が強いと踏んだ…のだが、

「いった〜い!」

 という姿に似合う可愛らしい声と共に、いともあっさりと転んでしまった。これには流石に拍子抜けしかけたが…かといって気を抜くわけにもいかない。

「誰よぉ!、いきなりぶつかってくるなんて〜」

「動くな」

 そう言って、起きあがろうとする彼女の首に問答無用でナイフをあてる。

「…質問に答えてもらおうか」

「何よ〜、いきなりぶつかってきたと思ったら、今度は何をしようっての?」

「…お前達は、一体何者だ?」

「脅しても全然怖くないよーだ。あたし達の身体がそんなナイフで切れる訳無い………」

 次の瞬間、私は手に持ったナイフで彼女の装備している長距離砲の砲身を、いともあっさりと切断してみせる。

 舐めてもらっては困る。私が手にしているのは超振動ナイフ・刃の部分が限りなく高速で振動を起こしている構造だ。しかも、材質はレア・メタルを使っているので、原子サイズの鋭さでの加工が施されている。これで斬る事が出来無い物はまずありえない。あるのなら見てみたいものだ。

 これで、この長距離用の装備は使えなくなった上に、彼女に対する見た目のインパクトもかなりのモノだろう。

「………」

 どうやら相手の方が私を舐めていた事に気付いたらしい。急に黙りこくってしまった。

「さて…もう一度聞く・お前達は、一体何者だ?」

「………M・O・E−DOLL………」

「DOLLだと? 機械人形という所か」

「あたし達は生命体よ!!」

 まぁ、近ごろのロボットは、人間と見分けがつかないくらいだから考えられなくも無いが…ここまで『人間くさい』反応をされると、彼女の言っている事は正しいのかもしれない。ロボットはプログラムで動いている。だから、どんなに精巧に出来ていようとも私の目は誤魔化せない。



「では…何故ここにいる?」

「そりゃぁもちろん、仲間を増やす為よ」

「…どういう意味だ?」

「言葉の通り、あたし達の目的は、この星にいる知的生命体すべてを、あたし達の仲間にする為にここへ来たのよ」

「ならば………すぐに帰るんだな」

「?」

 彼女は納得のいかないと言った表情で、私の顔を見る。そこには…先程の脅えはない。どうやら彼女自身が『自分は生命体だ』と言った言葉に、間違いはなさそうだ。ロボットにこんな豊かな感情表現をさせる必要はまったくない。



「この星には、知的生命体と呼べる存在は私しかいない。この星は私だけの星だ。

 この星の上で私以外に動いている人間に見える物は…すべて私のサポートロボットだ。残念だがおまえ達の捜し物はこの星には存在しない」

「そ…そんなぁ………」

 がっくりとうなだれる少女…



 そこに、

(残りの2人が、ターゲットを破壊してそちらへと向かっています。直ちに対応をしてください)

 無線からザルファの連絡が入ってくる。流石に1対3では分が悪くなる。特に接近戦装備のタイプと迂闊に手合わせをするわけにもいかない。

 とはいえ、すでに戦意を喪失している目の前の彼女を殺す必要はないだろう。

「仲間が戻ってくるそうだな。そろったら、さっさとこの星を後にするんだ」

 そういい残して、私はそこから走り出していた。



 どうやら…追ってくる様子は感じられない。そのまま私は、我が家へと帰る。







 さて…どうしたものだろうか。



 あれから12時間たった。

 彼女達が乗って来たと思われる宇宙船が着陸した場所を見下ろせる高台に、私とザルファはいた。



 あのあと、忠告をした彼女が帰って来た2人に私の事を伝えたのだろう。そのまま一直線にここへと戻ってきていた。

 もちろん、ここに宇宙船がある事はすでに知っていた。着陸時からじっくりと観察させてもらったからな。だからこそ彼女達の行動を逐一観察できたのだけど。

 もちろん、この船を攻撃・破壊できる用意もしておいた。だが、攻撃する必要はないと思っている。

 もし攻撃をして船を破壊すれば、彼女達といやがおうにでも戦わなければいけない。そうなると彼女達も命がけで戦うだろう。本当に命をかけて戦う相手は…強い。『背水の陣』という戦い方がある・いや、戦い方の1つと言うより無謀なるカケだが。もし、あの船を破壊すれば、彼女たちのその状態に置かれるだろう。そうなっては面倒だ。

 逆に宇宙船をそのまま残しておけば、それだけで彼女達には自分たちのもといた世界へと戻れる手段がある。となれば、命をかけてまで戦いはしないだろう。

 さて…彼女たちからの反応が楽しみなところだ。



 と、

『聞こえていますか?』

 はっ。まさか向こうから声をかけてくるとは思わなかった。しかもこちらが見ていることを知ったうえで…なのだろうな。

 切れ者がいるのか・それとも間の抜けた奴らばかりなのか…

『直接話がしたいのですが。顔を出してもらえないでしょうか』

 前者の可能性が高いと考えた方が無難だろう。なにか罠を仕掛けて、そこに陥れようとでも考えているのだろうか。

『もし、出てきてくれないのでしたら、こちらから攻撃しちゃいますよ』

 はぁ…出来もしないことを。彼女たちだって馬鹿ではないはずだ。あれだけのことをされて、自分たちの船が無事だった事に不振を持たない相手はいないはず。

 どうやら後者だったようだな。

 とはいえ、ここまで言われてなにも行動を起こさないと、彼女たちは本当に行動を起こしかねない。

「ザルファ…彼女たちの使用周波帯を特定できるか?」

「勿論です。既にいつでもコンタクトできるように設定してあります。声をかけるのですか?」

「どんな馬鹿がいるのか、見てみたくなったよ」



「出てこなかったら…どうするつもりだったのか聞かせてもらえるかな?」

 映像付きの通信を直接相手側に送り込んでやった。こちらも彼女たちのコックピットでの姿がハッキリと判る。

 そこには………まったく、慌てふためくぐらいだったら、最初からそんな呼びかけをしなければいいモノを。いきなり私の顔が彼女たちの画面にでも写ったのだろう、私の方を見ながらおろおろしている。

「反応がないようだったら、通信を切らせてもらうが?」

『ま・待ってください。えーっと………あの、あなたのお名前は?』

 やはり間の抜けた相手しかいないらしい。どうやら昨日は能力「だけ」をかいかぶりすぎたようだ。

「私の名前…か。おまえ達の世界では自分の名前を言わないのが礼儀なのか?」

『そ・そんなことはないですよぉ。相手の名前を聞く前に、自分の名前を名乗るのが礼儀というものです!』

「ではまず、おまえ達の名前を聞かせてもらおうか」

『ええ、いいですわ。

 私は、マリアス・この艦のリーダーです。で、この子がピナフォア。そして、昨日あなたにいじめられたのがアメリアです』

「戦いで倒しただけだ。別にいじめたつもりはないのだがな。まぁ、いいだろう。

 私は…すでに名前を捨てた人間だ。とはいえそちらが名乗った以上、私が名乗らないのも失礼になりそうだな。捨てた名前で申し訳ないが。

 ワイエプルだ」

『ワイエプルさんですね。

 えっと…あの…そのぉ………』

 普通だったら、こんな考え事をしている時間があったら殺されているぞ。

「用事がないのなら通信を切らせてもらおう。さっさと自分達の世界に帰るんだな」

『いえ、あの…

 こちらの船にご招待したいと思っているのですが…どうでしょう?』

 ほぅ?

「では、逆に私が我が家に招待するといったら来るかな?」

『そ…それは………』

『はいは〜い、行きたいで〜す♪』

『ばっ、ばかっ、ピナフォア、よけいなことを』

 …本当に馬鹿らしい。前回、こんな脳天気な相手に手間取っていたとは…私の方が情けなくなってくる。



 だが、彼女たちの戦闘能力だけは過小評価できないところがある。もしそんな評価をすると思わぬ痛手を被るのは間違いないだろう。

 たとえ間が抜けている種族でも、戦闘能力『だけ』はすさまじく高い存在というのも実在する。もっともその場合は、大半が戦闘時の判断能力が乏しくて、自分達の種族同士で殺し合いを始めて…『自滅』の道をたどるのが普通だ。

 が、彼女たちはかなり高い戦闘力を持ちながら自滅することはなく、他の星へと侵略するほどの力がある。

 ということは、戦力にふさわしい戦術と判断力を持っているのだろう。それとも指導者がや司令官がすばらしく有能なのか…



「で、私を招待して何をしようというのだ?」

『それはもちろん…』

『あたし達と同化してもらうので〜す』

『アメリアのばかぁ! 言うんじゃない!!』

 ………正直な奴らだ。

「…まぁ、ヒマだから、別に行ってやってもいいが…」

『えぇ〜っ、本当ですかぁ?』

「もっとも、こちらとしてもそれなりの準備をさせてもらうので、今すぐにそちらに行くわけにもいかないがな」

『こちらもお出迎えの準備がありますから、そうしていただけるとありがたいです。

 用意が出来ましたらいつでも連絡を下さい。お待ちしています』

「…では、2時間ほど後にうかがわせてもらうとしよう」

 彼女たちとの時間の尺度が同一かどうかは知らないが…そう言って通信装置を切る。



「マスター、本当に行くつもりなのですか?」

「それなりの準備をしてからな。もちろん彼女たちの口車に乗るつもりはない。だが、あの戦闘能力は魅力的だ。情報としてでも仕入れる価値は十分にあると思う。

 心配するな。私を信用できないか?」

「いえ。ですが、あれがもし芝居だとしたら…」

「それはない、どう見ても天然ぼけな奴らだ。注意するとすれば、リーダー格の1人だけ・それくらいのことは私にはわかる。もっとも、私に何をしようと考えているかまでは流石に読めてはいないがね。少なくとも、本当に招待しようと思っているらしい。危害を加えようと言う訳ではなさそうだ」

「私も一緒について行きましょうか?」

「その必要はない、私1人で充分だ。ザルファは、外部からサポートを頼む」

「わかりました」

「それと、………………を用意してくれ」

「?…了解しました。すぐに用意させます」

 さて、これが吉と出るか凶と出るか。久々に先の見えない掛け引きに、胸が踊るのを感じた。やはり私はギャンブラーなのだなと感じてしまう。





 そう、戦いの中の殺し合いも、一種のギャンブル・賭けなのだ。ただ使うチップが『自らの命』になるだけ。

 私にカジノのギャンブルは意味がない。面白くないのだ。例えどれだけのチップを賭けようと私にとってははした金、どうでもいい事なのだ。しかし、相手は本気でかかってくる。

 それが、お遊びをさらにつまらなくする。本気になった相手は平静を装いながら、必死で自分の手を隠そうとする。しかし、私には相手の手が読めてしまうのだから、降りるタイミングを間違える事はない。

 私がわざと降りなかった場合などは、ほとんどの確率で相手側が降りてしまう・勝てないと思って。そんな時はおおっぴらに手を見せて悔しがる相手の姿を楽しむのも一興だが。

 ルーレットだって同じ。回転するスピードから摩擦による減速・玉の入射角からスピード・リバウンドまで計算すれば、自ずと答えが出てしまう。負ける事は一度だって無い。

 それに…例えカジノで負けたとしても、命をチップにする事はありえない。だから…つまらない。


 今回は、もしかすると久しぶりにそのゲームが出来そうだ。先の見えないギャンブルが。こんな事をするのは何週間ぶりだろう。





 時間は流れて…私は彼女たちの宇宙船の前に立っている。

「おまたせいたしました。さぁ、どうぞ」

 たしか、マリアスとか言うリーダーが出向かえてくれた。

「時間をかけたようでしたから、物々しい重装備で来ると思っていたのですが、まさか全く武器を持たずに来るなんて。

 何か考えがあってのことでしょうか?」

「そちらから招待した以上、戦う意思はないのだろう? なら、武器など必要ない。それに、いざとなればそれなりのことは出来るつもりだ。

 お前達の方こそ、後の二人は狙撃の準備でもさせているのか?」

「そんな事はしませんよ。歓迎の準備をしているだけですわ」

「なるほど…事実らしいな。

 先に一言いわせてもらうが、私にウソは通用しない」

「ウソ…ですか。別にウソをついてまで誘う気はありませんよ」

 まぁ、今は『友好的』ととっておくとするか。



 そして、通されたのは…この船のラウンジなんだろうなぁ。全面展望式のラウンジのようになっている場所に通された。そしてそこには、多分私を招待する為に用意したのだろう、豪華な食事が………

「一つ聞かせてもらっていいか?」

 多分、その時の私はハトが豆鉄砲を食らった様な表情だったのだろう。久しぶりに一瞬思考が停止してしまった…

「ここにならんでいる料理は…いったいなんなんだ?」

「え、知らないんですか? お子様ランチですよ」

 確かにそれぐらいは見れば判る。でも、思考の方がそれを受け入れることを拒否しかけている。

 そうなのだ。私の目の前には、お子様ランチが並んでいたのだった。もしこれがバイキング式でそれぞれの食材が別々に並んでいたとしたら、まぁ許せたかもしれない。

 しかし…目の前に並んでいるのはまごうことなき『お子様ランチ』。御丁寧にランチに旗(多分、彼女達の国の旗なのだろう)が立っている。

「私達が上官や気賓客を招く時には必ず用意する料理なんですから。

 今回は異星人の方ですので、私たちの名に恥じないように、いつにもまして腕によりをかけて作りました。どうぞ、ご存分にお召し上がりください………どうかなさいましたか?」

 こいつらの言っている事には嘘偽りなどはまったく含まれていないなぁ。

 たぶん、これが彼女達にとって事実であり・通例であり・最上級の賓客のもてなしかたなのだろう。種族が違えば考え方も違う・といったところか。確かに見た目とあっているといえばあっているのかも知れないが…こいつらには年長者という物が存在しないのだろうか?


 まぁ、もてなしかたが違ってもそんな事は関係ない、受ける側がどう受けとめるかだけなのだ。

「…一応、ありがたく頂くとしようか」

 これが、私の口から出せた唯一の言葉だった。





「さて…」

 失礼に当たると思って、とりあえずは食べさせてもらった。かなり抵抗があったのも事実だが…

 しかし、まさか他種族の・しかもお子様ランチがこれほど美味しいとは思わなかった。もっとも私自身、戦場を飛び回っているときはまともに食事もできないので、あまり裕福な舌をもっているとは考えていないが…それでも、最高級と呼ばれた料理だって口にしているし、味覚も記憶しているが、今回の料理は決してそれに引けを取っていないのも事実だ。

 これがお子様ランチの形態をしていなければ、十分賞賛に値するのだが…手放しで賞賛できないのは、私自身が『子供』だとは考えていないせいなのだろう。

「私を呼んだ以上は、何か考えがあってのことなのだろう?」

 一言断って、ブレスケア用のアイテムを口に吹きかけながら質問する。

「もちろんです。

 是非とも私達の仲間になって欲しいのです。あなたにとっては無理なお願いだとは思います。が、そこを曲げて是非とも」

 まさかここまで直接的に言われるとは思わなかった。

「さて…お前たちにメリットはありそうだが、私にメリットがあるとは思えないのだがな」

「いえ、もちろんありますよ。

 まず、その姿で永遠に近い命がもたらされます」

 永遠の命…か。欲しい人間にとっては喉から手が出るほど欲しいモノなのだろう。だが私にとってはどうでもいいこと。

「そして、私達のように、強力な装備が自在に使えるようになります。もちろん、その装備自体は母星や母艦から転送されてきますので、持ち歩く必要はありません。

 そして最後に………このような豪華な食事が保証されます♪」

 ………どこが豪華なのだか。少なくとも一番最後のは遠慮したいところだな。まぁ、味だけは保証されると言う意味で取っておくか。



「私は別に、永遠の命など欲しくはない。戦場での命をかけた駆け引きが楽しいのであって、その戦いに『死』が存在しなければなんの意味もない」

「あくまでも永遠ではありません。永遠に『近い』です。

 私達でも、頭脳を破壊されれば死んでしまいます。もちろん、戦場で死ぬことだってあるのです。

 ただ、それ以外の不老に関しては、今見ている私達の姿を見れば一目瞭然だとは思いますが」

 なるほど…命ある物には一律に『死』は存在するのか。ただその間の刻が長いか短いかの違いだけなのか。

「まぁ、お前たちの装備・そして、戦闘能力は確かに魅力的ではあるな」

「では!?」

「まず…力を見たいのだが、可能か?」

「力ですか?」

「肉弾戦で1対1の勝負をしてもらいたい。私が負けたらおまえ達の言うとおりにする・ではどうかな? といっているつもりなのだが」

「それならば、こちらとしても願ったり叶ったりです。私達の能力を甘く見ないで下さいね」

 さて、甘く見ているのはどちらだろうかな?

「流石にこんな室内で戦うというわけにも行きませんから、外でかまいませんか?」

「問題はない。その方が私としても自由に動けるからな。

 あぁ、1つだけ先に言っておくが…銃火器類は使わないでもらいたい。この辺り一帯にセンサーが仕掛けてあるからな。もし、誤発射とはいえ火器を使うと即座に反撃するようになっている。

 もちろんこちらも一切使わない」

「はい」

 そして、外へ。





 マリアスと数十メートルほど離れた状態で向かい合う。残りの2人は少し離れた場所で観戦してもらうことにした。

 さて、お手並み拝見と行きますか。

「では…行きます!」

 そう言うと、彼女はすさまじいスピードでこちらに向かってきた。知っていたとはいえ流石に速い…が、

「残念だが、そんな攻撃では当たりはしないよ」

 そう言って、私は紙一重の所で彼女の攻撃をかわしてゆく。もちろんこれも『先読み』が出来るから可能なこと。彼女の動作や表情から次の手が読めなくなると、こんな簡単にかわす事は出来ないだろう。

「なぜ? 何故当たらないの?」

「当たらないモノは当たらない。それだけだ」

 相手をじらすように少し笑みを浮かべながら、もったいぶって言い放つ。その間も彼女からの攻撃が続いているが、なんなくかわし続ける。

「どうして…これだけ…動きが…違うのに……私の方が数倍…速いのに…何故当たらないの?」

 彼女の言うとおりだ。私の方が身体の動きは遙かに遅い・なのに全ての攻撃を簡単に受け流してしまい、全く当たらない。彼女が焦りだしてるのが手に取るようにわかる。

 焦りは緊張という良い面をもたらしてくれる(適度な緊張はどんな状態でも自分の力を発揮するのに手助けになってくれる)ものの、それ以上に無駄な行動や動作を増やし・思考能力を一気に奪ってしまう。焦れば焦るほど、相手の思うつぼにはまっていくことになる。焦りは…戦場では全くの無意味なものなのだ。

 案の定というべきなのか、1分もしない内に彼女の攻撃が、単調に・かつ大雑把になり始めていた。無駄な動きが多くなり、逆に私は今までよりもさらに少ない動作で受け流すことが出来るようになってきた。ロボット相手ではこんな事は絶対にない。

 彼女たちは間違いなく『知的生命体』だな。それをはっきりと再確認できた。

「さて、反撃開始と行きますか」

「出来る物なら…やって…みなさいよ!」

「では、そうさせてもらうか」

 彼女の攻撃をかわしながら…流石に隙を見せてくれるまでにはもう少し時間がかかりそうだな。でも、それも時間の問題だろう。



 そしてしばらく受け流している内に…焦りがかなり頂点に達し始めてるね。攻撃が荒くなった上に、隙が出来始めた。

 今!

 すでに至近距離にいた私は…彼女の素肌の出ている太股の部分をなぜあげるように触る。彼女の隙を露呈させるために。



「ひやぁぁぁ!」

 いや…まさかこんな事で、こんな仰々しい反応をされるとは思わなかった。

 彼女はそのまま、女の子のあげる様な(といっても、確かに見た目は女の子ではあるのだが)悲鳴と共に飛び上がると、そのまま後へとしりもちを付く感じで転がってしまった。

 流石にこんなにあっけなく終わるとは思わなかったな。





「えっちぃ!!」

「戦いの場面でそう言われても意味はないと思うが。普通なら今の隙だけで死んでいてもおかしくはない。

 どうやら、私の思っていたほどお前達の能力は高くなさそうだし。私はこれ以上続けても意味はないと思うのだが?」

「…確かに、お強いですね。

 でも、どうやら私を焦らせて、心理的に追い込ませる作戦をとりました・ね?」

「まぁ、その辺りは戦いなのだから勝手に想像してもらおうか」

 当たり・なのだが、ここはあえて私の口から言う必要もないだろう。

「なら、もう一度お願いできますか?

 今度は………負けません」



 その時

 気配が…変わった?

 今・目の前に立っているのは、本当にさっきまで戦っていたマリアスなのか? 彼女の表情から先が読めなくなった。あれではまるで…ロボット?

 彼女たちは元からロボットだったのでは…そんな思いが脳裏をよぎる。だが、今までの行動からすると、そんなパターンではなかった。完全に『知的生命体』としての反応だった。だからこそ、先ほどの戦いでは彼女の次の動きを読むこともできて、事実上の圧勝を収めることが出来た。

 だが、あの攻撃は先が読めたからこそかわせたのであって、もし読めなければあれほどのすさまじい攻撃をかわすのは…不可能だろう。



 そして、彼女からの攻撃が再開する。スピードは前とさほど変わらない。本当にかわせるか?

 1撃目…距離があったのでなんとかかわす。だが、すぐに次の攻撃がくる。

 2撃目…身体が無意識的に反応してこれも紙一重の所でかわすことが出来た。

 そして3・4・5…なんとかすんでの所でかわしてはいるものの、こちらから反撃する余裕はない。体術を習っていたおかげで身体が無意識で動いてくれているからこそかわせている。が、このままの状態で延々と持って行かれると、いずれは攻撃が当たる。たとえ一撃でも当たれば…あのスピードの攻撃では私の身体は耐えられない…負ける。

 こんな時は生身の体が疎ましく思う。無意識での行動は緊張を連続的に強いられるために精神面の疲労が格段に早い。精神的に疲労してしまうと、例え肉体の疲労がピークに達していなくても、身体が言うことを聞いてくれなくなる。

 これは、一か八かでこちらから攻撃を仕掛けるしかないかもしれないな。



 そう思ったとき…ふと、おかしな事に気が付いた。

 彼女の攻撃がひどく単調すぎるのだ。



 たしかに、今の攻撃もかなりの腕ではある。が、あくまでも『かなり』であって、気配が変わる前までの『すごい』ではない。

 攻撃が直線的になっている、だからこそ今までの攻撃も避けられた。もしこれが、さっきまでのように多角・多面的な攻撃をしてきていたら…無意識的にも3度目はかわせなかったはず。

 となると………誰か・別の誰かが指示している・そしてそれに従って目の前の彼女は単に動いているだけ・つまりは、今目の前にいる彼女は『操り人形』と考えた方が合点がいくのではないか?

 彼女たちが、私の知らない何らかの方法で情報のやりとりをしているのはすでに解っている。とすると、もしそれが『情報』ではなく、肉体を動かす『行動命令』だったとしたら。残り2人のどちらかが・もしくは両方が何かを指示しているとしたら…



 そう思って、攻撃をかわしながら観戦しているはずの2人を観察する。彼女の攻撃をかわしながらなどと言うことは、ハッキリ言って自殺行為だが、それしか逆転の手はなさそうだ。

 ピナフォアとアメリア…だったな。一瞬目をそちらに泳がせる。それだけで…全てを把握しようとする。なんとかその一瞬にはマリアスからの攻撃は無かった。


 アメリアは…なにも変わらない。が、ピナフォアの方は…何かを考えている様子だった。妖しいのはピナフォアの方!

 これで、ターゲットは決まったな。


 一瞬の間合いが出来た瞬間…反動で身体を反転させてピナフォアの方に駆け出していた。そして、懐に持っていたナイフを取り出して構える。もちろんターゲットはピナフォア・外すつもりはない。

 どうやら、ピナフォアの方も私が何をしようと言うのか気付いたようだ。とっさに逃げようとする。だが…彼女達の逃げるスピードより、私の投げるナイフの方が速い。別に殺すつもりはないが、少しぐらいきついお仕置きをしなければ。

 1対1の戦いに割りこんだ方が悪いのだ。



 そして、狙いを定めて、ナイフを…と、その時、誰かに腕を捕まれる。いや、何かにからめとられた感じだ。間髪入れずにもう片方の腕も同じようにからめとられる。一体なにが…

 振り向いた先には、先程までとは違う…いや、元通り感情が戻ったマリアスがいた。私の腕にからんでいたのは彼女の髪から伸びた触手のようなものだった。

 つまりは、ピナフォアが操作を解除して元に戻ったという所か。一瞬でも、マリアスの方を無防備にしたのはまずかったな。

「戦う相手は、私ですよ」

「残念だが、1対1の戦いの邪魔をされたのでね。対応しようとした所だ」

「彼女達は何も手を出していませんが?」

「嘘はつけないと言ったはずだ。お前は今まで、彼女・ピナフォアに操作されていた・違うか?」

「………なぜあなたが、ダイレクトコントロール指揮機能の事を知っているのかまでは私にはわかりませんが、確かにその通りです。それは認めましょう。

 でも、彼女は私の身体を操作しただけで、彼女自身が戦った訳ではありませんよ」

「…へりくつ…と言いたい所だが、正論かもな…

 だが、だからといって私は負けを宣言するつもりはない」

 流石に両手の自由を奪われては、勝ち目はゼロだ。だが、自ら負けを認めるのは私のプライドが許しはしない。そんな事をするぐらいなら…殺されるまで戦ってみせる。



「では、私の方も、勝手にさせて頂きます」

 そういうと彼女は、触手を、私の身体にまきつける。これで私の身体の自由は完全に奪われてしまった。万事休すか。

「どうするつもりだ?」

「仲間に…なってもらうだけですよ」

「肉体改造でも受けるのか? 残念だが私はこの身体が気に入ってるんでね」

「それなら問題ありませんよ。そのままの身体で仲間になっていただけますからね」

 そういうと、マリアスは私にキスをしてきた。そして、私の口の中へ彼女の舌が入ってくる…




 ファーストキスが、異星人相手とは…しかも同性…情けないな。もっとも、こんな私に好きな相手が見つかるとも思っていないが。




「…これで終わりです。後数分もすれば、私達の仲間ですよ」

 そういうと、触手を解いて私を自由にする。そのまま目の前の相手にとどめを刺そうかとも思ったが、すでに相手から殺気は消えている。戦う意思のない相手をはする気にはなれない。

「口から薬品のようなものを注入して、自分達の思い通りに動く様にする・さっきのおまえみたいに…といったところか?」

「いいえ、人形ではありません。言葉通りの…仲間……で………」

 マリアスが怪訝そうな表情になってきた。即効性の薬しても、そんなに早く効くとは思えないが…

「あなたは…知的生命体ではないのですか?」

「は?」

 間の抜けた返事になってしまった。

「どういう意味だ?」

「肉体の変化はすぐに現れるはず。それなのにあなたは一向に変化しない…まさか、あなたはロボットだったのですか?」

 あぁ、そういう意味か。本当に超即効性…猛毒のような類の即効性があるものらしいな。



「残念ながら、お前たちの薬は効かなかったようだな」

 実の所これははったりなのだが、内情を暴露するつもりはない。そう思わせておいた方が良いと判断した。

「そんなぁ………そんな種族がいたなんて…」

「まぁこれで、お互いの話は全て終わったようだな。では、私も失礼させてもらうとしよう」

 そう言うと、女の子のようにぺたりと座り込んでしまったマリアス達を後に、そのまま私の自宅へと向かう。



 追ってくるかと思ったが、どうやらその様子もなかった。







「マスター、大丈夫でしたか?」

「残念ながら大丈夫ではなかった。負けたよ。久しぶりに負けた。だが、収穫はあったと思う。

 やはり、準備をして置いて良かった」

 そういって私はそのままシャワー室へはいると、身につけていた衣類を全て脱ぎ去り一糸まとわぬ姿になると…全身を覆っていた対宇宙用のコーティングを外す。

 これは、宇宙空間での活動をするために開発したもので、無色透明・ナノ単位の厚さしかないのだが、外界と完全に遮断してくれる上に、身体の動作にも全く邪魔にならない。ただ、身体に密着させるために、素肌に直接着けないといけないという欠点がある。

 もちろんこれは、彼女たちの正体がハッキリしないための防護策として最初から身につけていた。もちろん、口の中にも…

 そう『ブレスケア』と称して口腔内に吹き付けたのがそうだ。だから、口の中に異物が混入しても身体の中へは入ってこれなかったのだろう。それを見て彼女たちが、自分達の薬が効かなかったと勘違いをしてくれた。



 口の中からコーティングをとりだして、検査用に回す。あとは、ザルファが解析してくれるだろう。

 そして…シャワーを浴びる。

 どんなカタチでさえ、『負け』たのは流石に悔しい。それを何とか落ち着かせるために………冷たい水のシャワーを浴びる。



 こんな悔しさを感じたのは、何年ぶりだろうか。

 彼女らの戦闘能力…もしもらえるのであれば、是非とも欲しい…そう思いながら。

 自らの肉体の弱さを悔やむのも…本当に久しぶりだな。





「さて、この薬の成分は解析できたか?」

 シャワーを浴びた後、いつもの服に着替えてからザルファに聞く。

「…すごい代物ですね。こんなものがあるとは思いませんでした」

「簡潔に説明してくれ」

「これは、薬などではありません。一種の生体ナノマシンです。しかも、生命体の細胞よりも遙かに小さなマシンです。

 で、マシン自身を解析したところ、すさまじい能力を持っていることがわかりました。

 このマシンは…生命体の細胞内部に侵食して、その細胞を書換・自分自身を細胞として置き換えます。そして、その細胞内で瞬時に自己増殖・その増殖したマシンが隣り合った細胞へと転移して同じように置き換わる…その繰り返しです。

 そして、それにより侵食された細胞が身体全体の細胞へと広がることにより…」

「彼女たちのような『機械生命体』に生まれ変わるという訳か。それならば、彼女たちが『仲間になる』といった言葉にもうなずけるな。

 しかし、何故『口移し』の様なややこしい行動をとるのだろうか…」

「ここからは、想像の域を脱しませんが。口腔内の細胞が一番浸食しやすいからだと思われます。自然界のウイルスの場合でも鼻腔や口腔内の粘膜から感染することが多いですので。

 それに、血液内に直接というのも1つの手段かも知れませんが、もし『異物』が進入したと体内の免疫機能に判断されたら、ナノマシン自体が破壊されかねません」

 なるほど。それなら口移しが一番効率がいいという訳か…



「で、ここからほかにわかったことは?」

「やはり彼女たちは、このマシンを利用して情報のやりとりを行っているようです。その為に私達の使用している電波・光波・その他の機械では判断できなかったのでしょう。もっとも、まだどの器官がそれを担っているのかがわかっていませんので、今でも彼女たちが使っている信号自体は解析できていませんが」

 やはり意思伝達をしていたのか。そうでなければ、さっきの戦いは成立しない。

「完全な異種族の情報だ。無理に解析する必要はないだろう。



 それよりも、例の件はどうだ?」

「………不可能ではありません。が、リスクが大きすぎます」

「何事にもリスクは付き物だ。戦いにおいて、リスクのない事柄など存在しない。それに、あの戦闘能力は魅力的だからな。

 全てを遮断できるあの部屋なら彼女たちの妨害もないだろう。一応、彼女たちの動向だけはつねに把握しておいてもらわなくてはいけないが」

「わかりました。マスターは一度言い出したら曲げませんから」

「やっと学習したか」

「イヤでも覚えますよ。

 準備は出来ています…が、私としては今からでもやめてもらいたいのですが…」



 確かに予想は出来ない。が、どうせ一度は『死』を迎えるのだ。もっとも、自ら『死』を選ぶのは愚か以外の何物でもないがな。私は『生』を感じるために戦いに身を投じている。『生と死の狭間』に身を置くことで、自らの『生』をよりいっそう感じられるのだから…

 だからこそ、強くなれるのなら…悪魔にだって魂を売ってあげる。『永遠』などは存在しないが、私の死に場所が見つけられるのであれば…いつまでも戦い続けたい。

 例え、『DOLL』という異種族に変わろうとも…


 そう、私がこれからしようとしているのは…このナノマシンの移植。自らの意思で彼女たちの力を取り入れようとしている。成功すればそれで良し・失敗したときは…私を含めてこの星の全てを破壊するように指示してる。

 失敗とは…暴走…私が私でなくなること。





「では…これを」

 そう言ってザルファがさしだしたのは、水の入ったコップ。この中に、例のナノマシンが含まれている。

 私は、なんの躊躇いもなくそれを飲み干す。



 直後…身体に変化が現れる。まさかこんなにも早いとは…確かに彼女も『すぐに反応が現れる』と言ってたが、これほどまでに早いとは考えなかった。

「う…ぐ……あ………あ……」

 全身が、すさまじく熱を持ったような感覚にとらわれる。いや、本当に熱を持っているのではないだろうか?

「マスター!」

「心配…するな………これ…ぐらいで……私は………負けるかぁ!!!」

 全身がバラバラになって…まるで、体中の組織が再構築されているような不思議な感覚にとらわれていた。

 だが、私が私で無くなるつもりは全くない。とはいえ、今はこの苦痛に耐えるしかない。



 そして…ふっと、苦痛が止まる。

「マスター?」

「………大丈夫だ、心配するな。私は私だ」

 変な言葉になってしまったが…どうやら『DOLL化』とやらは終わったようだな。

「ザルファ、見た目で変わったところは…ないか?」

「マスターから受けるイメージは前と全く変わっていません。が、確実に別人になっていますね。しばらくお待ち下さい」

 そういって、部屋から出ていくと…すぐに戻ってくる。姿見用の鏡を持って。

 そこに写ったのは………!?

「これが…私…なのか?」

 一瞬写ったのが誰だかわからなかった。



 元の私は、別に美人という訳ではなかった。戦うのに不必要だというのもあったが、別にそんな『美』にこだわっていなかったといった方が正しいのだろう。まぁ、あえて言えば、可もなく不可もなくといった所だった。

 だが…今目の前に写っている私の姿は…どれだけ贔屓目に見ても、美少女といったところだ。そういえば、彼女たち3人も全員が綺麗だったな。これもDOLLになったときの変化点なのか。年齢はどうやらほとんど変化しなかったようだが、邪魔だと思って切っていた黒髪が伸びている。これはこれで意外と似合うものだな。

 自分の姿に見とれていても仕方ない。が、これほど劇的に変化しようとは思わなかった…

 だが『目』だけは変わらなかったようだ。冷静な・そして自分自身を主張する『目』 私の私たる所以。

 着ている物は…ふむ、彼女たちとさほど変わらないな。まぁ、動きに支障がない…どころか、まるで何も着けていない様な感じだから、全く問題ないだろう。何故か、彼女たちの持っていた武器も所持している。





 と、

『あなたは…どなたですか?』

 不意に、私の中に女の子の声が響く。その声は、今まで聞いたことのない声だった。いや、声の音質自体は聞いたことがある。が、声に含まれる感情がまるっきり違う。これは別人だ。

『だれだ?』

 心の中で、そう問いただすように反応する。

『わたくしですか?

 わたくしの名はフランチェスカ。DOLL−QUEENですわ』

『QUEEN? ということは、DOLLという存在の親玉といったところか』

『クスッ、そう思って頂いて結構ですわ。その方がお話も進むでしょうしね。

 もっとも、たった今・ユグドラシルにQUEENとして選ばれたばかりですけれどもね』

 ふむ。まさか直接DOLLの親玉と話が出来るとは思ってもみなかった。今、私のいる部屋は私の科学力では知りうる限り全ての信号を遮断できるような構造になっているはずだ。なのに、これだけハッキリと聞こえるということは…DOLL同士で直接情報のやりとりを出来るのもうなずける。

 あれだけ間の抜けた連中をしっかりと掌握できるわけだ。何となく納得できる。


『では…最初のわたくしの質問に答えていただけますでしょうか? あなたは一体誰なのですか?』

『私…か? DOLLになる気は全くないDOLLといったところだな』  

『?』

『私は、戦いをするために自らDOLLの力を欲した。だが、お前たちDOLLと徒党を組んで動き回るつもりはない』

『不思議な方ですね。

 では、わたくしのお願いを聞いてもらえる可能性は低いかも知れませんね…』

『願い? お前はQUEENなのだろう。命令ではないのか?』

『ええ、お願いです。別に命令でもかまわないのですが、わたくしは無理矢理人に指示するのは大嫌いですから。ですので、あなたがわたくしのお願いを聞いて下さるとよいのですが』



 ふっ、丁のいい言い方だな。

 『命令』というのは、言葉通り上から下への強制的な指示だ・断ることは出来ない。これは時として下からの反発を買ってしまう。もちろん時と場合にもよるが、独裁制度をとっている国家などが行うと、国が傾くほどの自体になることさえ多い。しかし『依頼』という言葉を使われると…非常に微妙なことになる。

 『依頼』である以上断ることも可能だ。だが、断ればその依頼した人物との信頼を失ってしまう。逆に依頼を受ければその人物の信頼を受けることが出来る。そして依頼主がその国の一番偉い存在だったとしたら…断れる人間はまずいないだろう。拒否したら…命はない。逆に即座に快諾すれば、信頼を受けられると思いこむ。

 もっとも、それを気づかれないように利用するのがうまいやりかたなのだが………



『先ほどいいましたが、わたくしはつい先ほどQUEENになったばかりなのです。

 その為に、わたくしが今まで担当していた「カーディナル」に欠員が生じてしまいました。そこで、補充要員を探していたのですが、さすがにわたくしの行っていたカーディナルにふさわしい能力を持ったDOLLが見つからなかったのです。

 諦めかけていたのですが、ちょうどそこにあなたのDOLLコアが心にとまったのです。この方ならばわたくしの行っていたカーディナルを引き継いでいただけるのではないかと思いまして、声をかけさせていただきました』

 DOLLコア? なるほど、DOLLになることによってそんな新しい器官が出来て、それを利用して情報のやりとりをしていたと言うところか。

『さっきもいったが、徒党を組む気はないのだがな』

『そう…ですか。しかし、少しくらいは考えて下さいませんか?

 先ほどの『命令』と『依頼』の言葉に警戒しているのでしょうが、多分あなたがお考えのことをするつもりは毛頭ありませんのでご安心下さい。

 どうやらあなたは戦争のプロ・しかもかなりの使い手らしいですから、それなりにやりがいのある所だとは思いますよ。それに、もし反対するのであれば…こちらとしてもそれなりの対応をさせてもらわなければいけませんしね』

 声に冷ややかな感情がこもっている。普通の人間であれば、これだけでかなりの恐怖を感じそうだが…残念ながら、私にとっては単なるこけ脅しにしか感じない。

 ただ、『やりがいのある所』の一言が心に引っかかった。

『私を脅しても全く意味はないぞ。確かに死ぬのは拒否するが、死を恐れるつもりは毛頭ないからな。

 だが、まぁ…少しぐらいなら考えなくもないな。お前がいう「カーディナル」という仕事が、どれほどのやりがいがある内容なのかに左右される・といったところだ』

『もちろん考えて下さるのはわたくしとしても喜ばしいことですわ。あなたには必ず気に入ってもらえる内容だと思いますから。

 自らDOLLになったと言うことですので、近くにわたくし達の仲間がいるはずですよね。詳しいことは彼女たちから聞いて下さればわかると思います。

 それでは良いお返事を期待していますよ』

 そして…会話は終わった。



「マスター、どうかしましたか?」

 ザルファにそう問いかけられて、一瞬意識を飛ばされていたのに気付く。

「いや、何でもない。

 少し用事が出来た。これからもう一度、彼女たちに会ってくる」

 そう言うと私は…その足で、もう一度彼女たちの元をたずねる。





 彼女たちは、戻ってきた私の変わってしまった姿を見て一様に驚いていたようだが、そんな事はどうでもいい。とにかく『情報』が欲しかった。DOLLに関する詳しい情報を。

 DOLL−QUEENと名乗った彼女の言ったことが真実なのかどうか・本当に私が生き甲斐をもてる所なのかどうかを。

 彼女たちの使っているマシンは使い方さえ知らないようなタイプだった。しかし、何故か使うことが出来ていた。これも、私がDOLLになった影響なのだろうか。もっとも、そのおかげでほとんど瞬時に『DOLL』という存在を知ることが出来たのだが。



 そして、全ての史実を受けて…なるほど、QUEENが『やりがいのある』といったことの意味が何となくだが解ったような気がする。

「マリアスだったな。とある人物と連絡が取れるか?」

 そう、問いただす。

「は・はい。どなたでしょうか?」

 すでに、私が上司のような感じで受け答えしている。別にそんなつもりはないのだが…

「フランチェスカという人物だ」

「フランチェスカ様?………って、まさかDOLL−QUEENさまですか!?」

 一瞬躊躇するような素振りをするマリアス。どうやら後ろで見ていたアメリアもその名前を出したとたん引いてしまったようにみえたが。

「さっき直接、私の頭の中に話しかけられたからな。

 結論を出したと言えば多分すぐに連絡が取れると思うが…」

「は・話ですか? あの、QUEEN様と!?」

 そんなに怖い人物なのか? それとも、身分が違いすぎるとでも言うのだろうか。

「無理なのか? なら、別の方法を考えるとするか」

「い・いえ! すぐに連絡を取ります!」

 そう言うとコンソールに飛びついて、何かを始めた。




 数分後…

「ええっと、確認したところ…すぐにQUEEN様がこちらへ来て下さるとの事だそうです」

「すぐに来る・だと? 一体どうやってここまで来るというのだ。それまで私がここで待てということなのか?」

「さぁ…そこまでは私には解りかねます。

 ですが、QUEEN様のことですから、お言葉の通りすぐにでも来てくれると………!?」

 その瞬間、空気が変わった。それは、マリアスにも解ったようだ。(約1名、訳も分からずにおろおろしているやつもいるが…)

 ピンと張りつめたような冷たい空気・少しでも気を抜けば、即座に悪魔が微笑む戦いの最前線の緊張感。それに似た空気がこの空間に突如として現れた。



「初めまして…ですね」

 そう言って現れたのは…いや、元からここにいたといった方が正解なのかも知れない。

 『ピナフォア』という個体・だがその姿はすでについさっきまで見ていた姿と全く異なっていた。

 見た目は身につけている装備以外これと言って変わったところはない。しかしその瞳は、確かに『QUEEN』を名のるだけの荘厳さと人を包み込む様な優しさ…しかし、それ以上にいいようもない『冷たさ』を持っていた。多分彼女はその冷たさを局力まで抑えているはず、だがそれでもあふれ出すような圧倒的な力・これがDOLL−QUEENとしての存在感なのだろう。

 天使の姿をした闇の女王…第一印象を外したことのない私にとっては、それが間違いないことを感じ取れた。

 

「先ほどは挨拶だけになってしまって申し訳有りませんでした。

 改めて…初めまして。フランチェスカと申します」

「そうだな。さっきは思考でしか話せなかったからな。しかし何故、ピナフォアの身体を使ってここに来ているのか説明してもらいたいのだが?」

「簡単なお話ですよ。彼女・ピナフォアは、この世界ではわたくしの唯一無二の双子の妹ですからね。妹が『ここ』にいたのは偶然ですが、結果必然になったのではないでしょうか。わたくしはそう考えています。

 それに、例えどれだけ離れていようとも妹とは心はつながっています。ですので、お互いの身体を入れ換えることなどわたくしたちにとっては簡単な事なのですよ。もっともピナフォアは、わたくしの代わりに、今までわたくしがいた母星のQUEENの部屋にいますので、とても焦ってると思いますけれどね」

 そういって、くすくすと微笑みだした。まるでピナフォアがあたふたしている姿が見えているかのように。

 彼女には実際に見えているのかも知れないな…



「それで…わたくしに直接連絡をくださったと言うことは、この件を了承してもらえると考えてよいのでしょうか?」

「条件次第…というところだな。しかし、いきなりDOLLになったばかりの人間をカーディナルに出来るものなのか?」

「ええ、もちろんですわ。QUEENの指名であれば何ら問題はありません。

 ただ…」

「ただ?」

「出来ましたら、あなたの実力を見せていただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

「実力? 何をしようというのだ。

 ………まさか、あなたと戦えとでも言うのじゃないだろうな」

「御察しいただけて光栄ですわ。その通りです。

 わたくしも、元はカーディナルでしたし、あなたにお願いしたいのはわたくしの元のポストですから、それなりの力を持った御方でないとつとまらないと思います。

 もちろん、あなたのDOLLコアを見たときに、わたくしはこの選択に間違いないと確信しています。ですが、あなた自身がが先ほどおっしゃったように、DOLLになったばかりの存在であるあなたをいきなりカーディナルに抜擢することは、例えわたくしの勅命とはいえ、他のカーディナルやビショップがすぐに受け入れてくれるとは考えにくいのも事実でしょう。

 ですので、確認の意味も含めまして、お手合わせ願えたらと思うのですが」

 この時…もし私がDOLLでなかったとしたら、即座に首を横に振っていただろう。それほどまでにこの目の前の少女が恐ろしく見えたのだ。満面の笑みを絶やさぬその瞳の奥にたゆたう、虚無。天使の仮面に隠された華麗なる暗黒の顕現。

 だが、何故か私の心の中では、彼女と戦いたいという意識が芽生え始めているのも事実だった。DOLLとしての能力を十二分に発揮してみたい。しかし、そうなると相手になる存在はハッキリ言ってこの星には存在しないだろう。ついさっきの戦いで、あれだけ手こずったマリアスでさえ、今では一睨みで勝負が付きそうなほどだ。となると、全力で戦える事などそうそうないと考えた方がいいだろう。

 私がどれだけ強くなったのか…それが知りたい。たとえ相手が、勝てる可能性が低い化け物であったとしても。命を落とそうとも。それが私の真に望んだ方法なのだから。



「もちろん、受けさせてもらおう」

 自分でもかなり虚勢を張っているのがよくわかる。多分相手もそのことは判っているのだろう。

「こちらが指定した場所で手合わせをしてもらう…でいいか?」

「一向にかまいませんわ。

 どうやらあなたの装備は接近戦用にカスタマイズされているようですね。ではわたくしも同条件で戦わせていただきます。

 本来ならばQUEENとしての専用の装備もありますが、それを使ってしまうとアンフェアになりますからね♪」

 違うな…彼女は、『そんな強力な武器を使わなくても、同じ武器であれば十分に対応できる』と考えているのだ。つまりは、彼女は純粋に私の力を知りたいだけ。それは裏を返せば、自分が考えているよりも能力が劣るときには、即座に殺してしまうという意味も多聞に含まれている。

 だが、この高揚感は何だろう。殺されるかもしれないというのに、この高ぶる胸の思いは………



「場所は、ここから20kmほど離れた…ここでいいだろう」

 ディスプレイに表示された地図のポイントを示しながら説明をする。

「このポイントには、私の世界の武器やセンサー類はいっさい配置していない。純粋な格闘場と言ったところだな。

 時間は…私も少しはこの初めての武器に慣れておきたいのでしばらく時間をもらえるとありがたいのだが」

「それでは明日、改めてこちらに来るといたしましょう。1日あれば母星からここまでこれますからね。

 一緒に1人お供を連れてきますが、それは問題はありませんか?」

「勝手にしてもらってかまわない。立会人といったところか?」

「ええ、カーディナルの『氷のコキュートス』に、あなたがカーディナルとしてふさわしいかどうか確認していただくために…ね」

「そう言うことか。あぁ、一つだけ言っておくが、この星の至る所にセンサーが張り巡らされている。銃火器類の使用は先ほど言った場所以外では控えてもらいたい。

 もっともそんなモノで倒されてしまう様な存在だとは考えていないがな」

「そう伝えておきますわ。それでは、また明日お会いしましょう」

 そして、最後までほほえみを絶やさずに、フランチェスカが帰っていった。

 そしてそこには………



 全く同じ顔をしたDOLL『ピナフォア』が、お子様ランチの皿を持って立っていたのだった。最後にしまらないシーンにしてくれたものだ、こいつは。

 こっちの事情を知ってか知らずか…QUEENの部屋でお子様ランチを食べていたらしい。大物と言うべきか、それとも流石QUEENの妹だというべきか。

 とりあえず、ピナフォアの頭を一発殴ってその日は帰宅した。







 用意がいいというのか何というのか…

 まさか、朝一番で全員が私の自宅へ押し掛けてくるとは思っても見なかったぞ。もっとも、私の自宅は豪邸だった場所をそのまま利用させてもらっているので、10人や20人ぐらい来たところで別にどうって事はないのだが。

「こんな朝早く、しかも全員そろって来るとはな。暇なのかそれとも…」

「実際のお話としては暇なのですよ。何しろQUEEN様の戴冠式を行いたくても、30人のカーディナルがそろっていない状態では出来ないのが現状ですからね」

 そう言ったのは…5人の中で唯一知らない顔の少女。もっとも5人とも美少女には違いないのだが。

「あ、自己紹介が遅れましたね。私は、氷のコキュートスと申します。以後お見知り置きを」

「わたしは、ワイエプルだ。

 いきなりで申し訳ないが、朝食前のトレーニングが済んだばかりなのだ。食事をとってしばらく休憩をとった後にということで了承してもらえないだろうか」

「ええ、一向にかまいませんよ。ところで、わたくしもあなたの星の食事に興味がありますわ。是非とも食してみたいと思いますが…無理なお願いなのでしょうか?」

「いや、別に手間などかからんから問題ないさ。

 ザルファ、朝食の追加だ。5人分用意してきて欲しい。もちろん賓客なので失礼の無い様にお願いする」

「判りました。5分ほどお待ち下さい」



 そして何とも和やかな朝食会になってしまった。本当にこれから戦うもの同士がこんな状態でいいのだろうか…

 いや、既に戦いは始まっているようだな。どうやら彼女も、私と同じように相手の仕草や行動から次の動きが読めるようだ。となると、今は互いの腹のさぐり合いというところか。

『私達もこんな豪華なお食事を頂いちゃっていいんですかぁ♪』

 …こいつら3人は除いてもかまいはしないだろう。しっかりと食べておきながら、そういう発言をする物ではないと思うが…

 私が何気なく付いたため息に、QUEENが微笑んだのを視界の端に捕らえて…私自身が彼女の手のひらで踊らされている感じがしたのは、気のせいだと思いたい。





 2時間後

 私とQUEENは、全く同じ装備で向かい合っていた。手にした武器はソード2本のみ。

「相手側に致命的なダメージを負わせた時点で勝負がついたものとします。もしくは、相手側が負けを認めたとき・および、私が勝負が決したと判断したときも終了とします。よろしいですね」

 審判役を買って出たコキュートスの言葉に、私達2人は無言でうなずく。もちろん彼女も今のところ仲間ではないが、中立の立場で判断をするという言葉を信じることにした。

「それでは………はじめ!」

 その言葉と共に、同時に後方へと間合いを開ける。

 お互いに相手の次の動きを読み合っているから…結局のところ読み切れないために、前への一歩が踏み込むことが出来ない。結果、間合いを開けざるをえなくなる・そして、相手の動きを見るために全く動くことが出来なくなってしまった。

 全く動けずに…時間だけがゆっくりと進んでいくのが解る。



 とはいえ、このまま時間だけが過ぎてゆくのもハッキリ言えば意味がない。

 目の前の相手は、あくまでもQUEENと呼ばれるだけの存在なのだ。やみくもに攻撃したところで勝てる自信は、残念ながら全くない。だからといって、相手からの攻撃を待っていたとしても、それを真っ向から受けるつもりは全くないが、受け流せるかどうかさえ疑問が残る。結局は頭の中でのシミュレーションが堂々巡りに陥る。

 しょうがない、とにかくこちらから仕掛けるしかない。そう判断をする。と…

 QUEENが、まるで舞をまうように踊り始めた。それは、見るものを魅了するとても神秘的な舞い…だが、

 私には彼女がやろうとしていることが瞬時に判断できた。QUEENは舞いを踊ることによって、身体のバランスの安定を図ると共に、いつこちらから仕掛けてきても対処できるように『静』の状態から『動』の状態へと移行したのだ。ハッキリ言わせてもらって…こちらにとってはとてつもなくやっかいな状態に落ちいってしまったのかもしれない。

 観客に徹している残りDOLL3人組とザルファまでもが、その舞いに酔いしれている。下手をするとあの動き自体にも何か催眠効果があると踏んだ方がいいのかもしれない。私もDOLLになってしまった以上、その呪縛からは逃れられないのだろう。とにかく、これ以上・1秒でも長引かせるのは不利になるだけ・そう判断する。

 既に勝てる確率は1/4を切っている。ならば、少しでも確率の高い方法を選択するしかないだろう。それは…彼女の舞いを崩すこと。



 真っ先にねらったのは、彼女の後ろにある岩…に見せかけたとある装置。

 この辺りの土地は、数センチの草が生えているものの、その下は完全な砂状になっている。そして、ここにはその草のために供給用の水が流れているのだが、一定以上の衝撃を加えると水の供給装置に緊急停止がかかり、あっという間に水が無くなる。そして、ここに生えている草も常時水を与えないといけない特殊な草を植えてあるため、水が無くなればものの1分で姿が無くなり…砂漠と変わる。ここまでは彼女たちの情報にも無いはず。

 足元が不安定になれば、確かにわたしの戦い方にも不利な点があらわれるが、今よりは状況が好転するのは間違いない。ここを選んだのも…作戦。



 私は無造作に愛用のナイフを取り出すと、何のためらいもなくある1点に向かって投げつけた。それは…QUEENの心臓の位置・もっとも、人間の心臓の位置なので、DOLLにとっては大した致命傷にはならないかのしれないが。

 とはいえ、攻撃を受けるわけにも行かないQUEENは、舞った状態のまますっと移動して、難なく攻撃を交わす。そして、どこからか取り出した扇子のようなもので私の投げたナイフをはたき落とす。ナイフはそのまま彼女の足下の土に突き刺さる。

「どうやら、わたくしの後ろにある装置に向かってナイフを投げたようですね」

 流石だ。既に読まれていたか。普通ならよけるだけですむところを、投げたナイフの軌跡からターゲットを割り出して、それに当たらないようにナイフの飛ぶ方向を変えてしまったと言うところか。しかも、ナイフの切れ味も考えたのだろう、かなり無理な体勢にしてナイフの腹の部分に扇子を当ててはたいていた。もしこれが、ナイフの刃の部分が当たれば、扇子の方が切られていたはずだ。

 でもね…

「正解だ。だが、ナイフをはたき落としたのは不正解だったかもしれないな」

 私の読みの方が彼女の読みよりも先を読めたかもしれない。

 ナイフは地面に刺さった。これで、水を循環させるユニットが『どこかで故障が発生した』と判断するだろう。あとは、先の説明通り、緊急停止に陥るわけだ。だが、これには水の流れる時間のラグが発生する。穴が空いた位置は、ラインの中央…となると、1ライン3分で流れる水量に異変が起きるのは、早くても2分後。その2分間は守りきらなければならない。

「焦っていますか。どうやら、タイムリミットが出来たらしいですね」

 ちっ、やはり読まれているな。だが、彼女の方もそこで一瞬の隙が出来たことを私は見逃さなかった。

 彼女は…今の舞いが出来る時間を逆算したのだろう。そして、それまでに私を倒す手段を考えているのだろう。

 私は…この地面が元の砂漠状態になるのは2分後と読んだ。2分間守りきれば、多少でも今の不利な状態から解放される。


 とはいえ、これは私にとって勝ちの無いカケだ。負けか引き分けしかない。とにかく現状が不利な自分が有利な方向へ進めるための戦術なのだ。ここは引き分けにして、次の戦いで勝ちに行くしかない。


 その瞬間…彼女の方からの攻撃が始まった。舞いによる回転が加わったかなり強い攻撃が。私も、その剣を受け流すように切っ先をずらすと、返す刀で攻撃を仕掛ける。しかしそれも、回転している彼女のもう1方の剣ではじき返されてしまう。

 こちらが直線的な攻撃になってしまうのに対して、彼女は円を描くようにして攻撃と防御を成立させている。しかも、回りながらも、私の方を一瞬たりとも目を離してはいない。つまり、隙を作ってはくれないのだ。

 かなりやりにくい相手ではある。流石に名前だけのことはあるだろうと感心する。だが、彼女の方にも、時間的制約があるのに気づいたのか、攻撃に集中し始めてきた。その攻撃は…ハッキリ言って、マリアスの攻撃に比べたら機関銃と竹槍ほどの差が出ている。それほどまでに、彼女の攻撃は正確で・かつ攻撃力があった。

 だが私も、マリアスと戦ったときとは違う。同じDOLLなのだ。能力的に違いはないはずだ。QUEENの攻撃を、力で受け止めることが出来る・受け流すことが出来る。前とは違うのだ。



 そして…とてつもなく長く感じていた2分が過ぎて…戦場は草原から砂漠へと変化していた。



 だが、QUEENの猛攻は一向に収まる気配はなかった。流石に『舞う』事は出来なくなったものの、まるで鞭を使っているような動きを見せる剣を、防ぐことで手一杯になっている自分がいた。

(これ以上やっても無理なのか? やはりDOLLの頂点にいる存在を倒すことは不可能なのだろうか)

 そんな想いが頭の隅を駆け向ける。だが、焦りは絶対にしてはいけない。そして…死を迎えるときに後悔したくない!

 そんな私に…ある戦い方が浮かんだ。いや、賭だな。これこそが命をチップにした本当の賭だ!!!

 無意識に…笑みがこぼれる。邪悪なる笑みが。いや、これが私の本当の心からの喜びの笑みなのだろう。

 その笑みに…QUEEN以外の5人が一瞬背筋に寒気を感じたという。まるで、QUEENが降臨した刻のように。



 戦い方とは言わない…無謀な賭だ。私は昨日そう思った。だが、今の状態はまるでそのものだ。

『背水の陣』

 私にはもう既に何も残されてはいない。あるのはこの命1つだけだ。そして向かう相手は、私より遙かに強い『敵』

 ならば…今・この場所こそが私にふさわしい死地ではないのだろうか。万が一勝てたとしても、私の命は風前の灯火になっているだろう。そんなことになるくらいだったら、死んだ方がましだ。死んで…敵を殲滅できた方が私としても本望なのだ。



 心は…決まった。

 15年の中で、これほど考えたことはなかった。もちろん死にそうになったことも何度もある。だが、そのときは『死地』を探すために必死に生にしがみついてきた。

 この日・この刻のために。生にしがみついてきたのだ。



 私は間合いを取ると…ソードを1本手放す。相手には自殺行為だと受け取られてもおかしくない行動だ。だが、1本にすることで、私の神経はこの1本に最大限に集中できる。

 そして…QUEENに対して駆けだしていた。


 QUEENは、私の攻撃を避けようと左へと避ける。私が右利きだと考えての判断なのだろう。食事の時も練習中も右手を使っていたからな。だがこれは誤算だ。私は基本的に左利きなのだ。右手で物事をするのはとっさの時でも右手で行動できるようにするための練習の一環なのだ。

 QUEENには、私の剣がまるで伸びたように見えたのかもしれない。ブースターを使って、さらに勢いをつけて私から離れる。離れ際に、私の左手に剣が伸びてきたのが見えた。これを交わすのは…体勢を崩さない限り不可能。

 今・体勢を崩せば、元の木阿弥…いや、相手に利き腕を知られてしまっている以上不利な条件が増えるだけだ。ならば、体勢を崩す必要はない。そのまま左手に持っていたソードを右手に持ち替える。

 その直後、左手の感触が一気に失われた。どうやら切断されてしまったらしいな。だが、構えていたが痛みはない。人間は切られると痛みが発生するという弱点があるが、DOLLにそれが無くなったのは幸いだ。

 私はそのままの体制で、QUEENめがけて飛び込んでゆく。QUEENはブースターを使ったために着地することもできず、転がった状態のままだ。ダメージを与えるには………


 今しかない! 手に持ったソードをQUEENの頭部めがけて振り下ろす。もちろん彼女も突きの形で私に向かって剣を構えている。

 そのまま相打ちになろうとも…まぁ悪くはないだろう。これだけ悔いのない戦いが出来れば本望だ。



「そこまで!」

 …コキュートスの静止の一言で、私達2人の戦いは終了した。

 私のソードは、QUEENの頭部・僅か数ミリのところで停止し、QUEENのソードの先端は、私の喉に触れるか触れないかの位置で止まっていた。決着は…相打ちといったところか。

 いや、私の負けなのかも知れない。QUEENのことだ、バイザー状のHUDに衝撃が加わったところでかなりのショックは加わる物の、それだけでは倒れはしなかっただろう。多分、そこから後一撃を繰り出す前に、私の喉には彼女のソードは私の喉を貫いていたはず…

 まだまだ経験不足というところか…いや、戦いにおいてそれはすぐに死を意味する。死んでしまっては、経験なんて物は意味をなさない。

 経験でもあるがそれ以上に、QUEENの・いや、フランチェスカとしての純粋な強さと、その心に私は負けたのだろう。

 が、逆に言えば、私もDOLLという種族になったことにより、彼女のようにまだまだ強くなるチャンスを手に入れたとも考えられるのではないだろうか。


「右手は大丈夫ですか?」

 声をかけてくるQUEEN。その声には、今までのような冷たさは微塵も感じられない。心優しき聖母の感じを受ける。やはり彼女は、天使の仮面をかぶった闇の女王だったようだ。

「わからん、DOLLになったばかりなのでな。どうすれば元に戻るのかもしらん。駄目ならこのまま暮らすだけだ」

「簡単なことですわ。こうやって…」

 そういって、QUEENは、転がっていた私の左腕を持ってきて、傷口同士をぴったりと合わせる。

「あとは、あなたの『治したい』という意志によって、体内のナノマシン達がすぐに修復作業を始めてくれますわ」

「そう…なのか。便利なものだな」

 頭の中で言われたように考える。と、切断された部分が見る見るうちにつながっていった。そして、数秒後には元通りになっていた。これには流石に私も驚かされた。

「まさか、切られても直ることを知らずにあのような戦い方を選択したのですか?」

「その通りだ。あなたとの戦いに勝てるのなら、腕の1本や2本・喜んで悪魔に差しだしただろう」

「その心意気を…私に預からせてはくれませんか?」

「私は、あなたに負けたのだ。あなたの指示には従おう。強いものに従う・それが戦場の唯一の掟だ」




「しかし、流石ですね。昨日DOLLになったばかりで、わたくしをここまで追いつめるとは、カーディナルとして十分に能力はあると判断します。コキュートスはどう見ましたか?」

「全く同じ結論ですね。能力的には、フランチェスカ様には1歩も引けを取っておりません。十分すぎるほどの能力です」

「合格…か。しかしそれはそちらの話だろう

 こちらからもいくつか条件を出させてもらいたい。それでもいいのならば…引き受けよう」

 まぁここからは、私の我が儘以外の何物でもないのだが。もし聞き入れられなくても、私が彼女に従うことを同意していただろう。

「何でしょうか?」

「その前に…私になって欲しいというカーディナルは…30人の内のどれなんだ?」



「『影』ですよ」

 影…か。ならば、内容的には私に合っているのかも知れないな。

 後ろで2人が畏怖の念で私達の会話を見ている気もするが、あえてそれは無視するとしよう。

「それで、条件はなんでしょう?」

「なに、大したことではないと思う。条件は3つ。

 1:私はどこの部隊のも属すつもりはない。信じられる部下だけを直接率いる形にする。まぁ少数精鋭といったところだな。

 2:私に対する指令はDOLL−QUEENの勅命のみとさせてもらう。私に命令するのは同クラスのカーディナルであろうと拒否する。

 3:私は今まで通りこの星を中心に自分の自由に行動させてもらう。

 以上だ」

「まぁ、それぐらいであれば何の問題もないでしょうね。いいですわよ。

 ただ、1つだけ譲って欲しいことがあります。わたくしの他に彼女・コキュートスの勅命も出来れば受けてあげて欲しいのですが…」

「…内容による。ではだめか?」

「まぁ、それでもいいでしょう。彼女の個人的な頼み事といえば一つしかありませんしね。


 では、影のワイエプルですね。これからわたくしのサポートをよろしくお願いいたしします」

 そう言って左手を差し出してくるフランチェスカ。私はその手に…素直に手を差し出す。そして…握手・これが戦場での唯一信頼の置ける契約の証。



 影のワイエプル…か。悪くはないな。



「それでは、出来ましたらすぐにでもわたくしたちと一緒に母星の方へ来ていただけますでしょうか?」

「私は自由だといったはずだが。

 まぁ、あなたの顔に泥を塗らない様には気を付けさせて頂く。戴冠式には必ず出席させてもらうとしよう」

「クスッ。まぁ、いいですわ。

 では、マリアス…でしたね、後のことは任せましたよ」

「は・はい! わかりました!」

「ピナフォア、ワイエプルさんに少しは戦い方をならっておきなさいね。またあなたの身体を使わせてもらうことがあるかもしれませんし」

「わっかりました。お姉さま〜♪」

 こいつのことだ、判ってないんだろうな。しかし今更ながらにDOLL−QUEENフランチェスカとピナフォアが実の姉妹というのは信じられんな。確かに見た目はうり二つではあるが…


「それでは…

 戴冠式の日取りが決まりましたら追って連絡させていただきますね。そのときにお会いできる日を楽しみにしています。ワイエプルさん」

 そして、フランチェスカとコキュートスは母星へと帰っていった。



「なら…ピナフォア、私についてこい。きっちりとトレーニングをしてやる。マリアスとアメリアも良ければ来るか?」

「わ…私は、母星との連絡がありますので、辞退させていただきます」 マリアスはどうやらこの先に待っている地獄を判ったらしい。

「は〜い♪ よろしくお願いしま〜す♪」 アメリアは…わかっていないのだろうなぁ。

 まぁいい、『DOLL』の基本性能を見るという意味で彼女たちにはしっかりとトレーニングを受けてもらうとしよう。





 3日後

 私は、3人の乗ってきた宇宙船で母星へと向かっていた。戴冠式の日程が決まったので呼ばれたのだ。

 あの2人は、はっきりいって使い物にはならなかった。すぐに根を上げてしまう。私の部下には絶対になれないタイプだな。

 母星には有能な人材がいると聞く。ついでにそこで部下を探すつもりだ。



 ワームホールを抜けてしばらくすると目の前に緑豊かな美しい星が見えてきた。どうやらあれが母星らしい。機械生命体だから、もっと機械が表面を占めていると思ったのだが拍子抜けだ。もっとも、『自然にはいっさい手をつけない』のがDOLLの信念なので、この方が正しい星の型なのかもしれないが。

 フランチェスカ殿の戴冠式は、私のカーディナルとしての委任式でもある。こんなめんどくさい式に出るのは心の底から拒否したいのだが、フランチェスカ殿に約束してしまった以上、反古にするわけには行かないからな。

 そして、これからが『影のワイエプル』としての生活が始まるのだ。










 その後は…



 私は「カーディナル」の1人になったのだが、実際の所はほかのカーディナルと違い、勝手気ままに宇宙を飛び回っていた。もっとも、QUEENの勅命があればそれには必ず従う。いや…違うな。

 フランチェスカ様が戦場に赴くときは、例え勅命が無かろうとも必ずと言っていいほど影となりつき従っていた。そしてその全てが私にとって、新しい体験であり、自分の能力の向上であり…フランチェスカ様という人物を神格化させてくれた。惹かれていたと言っても間違いではないかもしれない。

 彼女は、私の最大の目標であり、憧れであり・何よりも大切な存在だった。そして、私の命を預けられる唯一の御方だった。


 

 だが、数年前のHMTIMとの戦いでフランチェスカ様の命を守れなかったのが、私の生涯最大の後悔になってしまった。その時はフランチェスカ様からの勅命で別の戦場にいってしまっていたからだ。

 もちろん私は、QUEENを守るためについてゆくことを希望した。だが、

「あんな相手にわたくしが負けると思っているのですか? 心配性ですね、あなたは」

 そういわれてしまい、勅命を受けた星へと旅だった。もっとも心の中では『あんな荒くれ者などにあの御方が傷1つ負わされることなどありはしない』そう考えて…何の心配もなく別れたのだが、まさかそれが今生の別れになろうとは思いもしなかった。



 そして、戦闘中にDOLL母星から『新しいDOLL−QUEENが誕生した』事を知らされた瞬間…真っ先に心がその事実を受け入れることを拒否した。

 それはもちろん、現QUEENの死を意味するからだ。

 だが、母星からの情報は決して間違えたことは流れてはこない。現QUEENであるフランチェスカ様が死んだ…その考えが脳裏をよぎった瞬間、私の中で何かがはじけた気がした。



 その時私は、たった1人で戦場に望んでいたのだった。もちろん、部下を数人連れては来ていたが、私自身の能力を確認するという名目で、部下達は全て船に残してきた。

 もし部下を1人でも連れてきていたならば、その部下も同じ運命にあわせてしまっていただろう…心がそれを確認した直後、DOLLが絶対にしてはいけないことをしてしまったのだ。

 その星に住む全ての知的生命体の虐殺。

 まるで何かのタガが外れたかのように、老若男女を問わず無差別に殺しまくった。武器を持たずにただ逃げまどう生命体であろうと、目の中に入った動く者全ての息の根をとめていった。

 まるで、殺される相手の最後の悲鳴を、フランチェスカ様にたむける鎮魂歌のように…


 私の部下も、何かあったらすぐに駆けつけるようにと待機させていたのだが…私のその姿を見て、誰もが恐怖で動けなかったという。それほどまでに私は我を忘れて戦い・いや、虐殺を行ったのだろう。

 部下達には、その時・私が殺戮を楽しむ破壊の悪魔のように見えたという。

 そして…1万足らずの人口しかない小さな星から、全ての知的生命体がいなくなったとき、私は言いようのない無力感を感じていた。全身に返り血を浴びてたたずんでいた。いつまでも…部下に声をかけられるまで…私は、涙を流していた・泣いていた。こんなモノは・こんな感情は私には存在しないと思っていたのに…

 女々しい…な………




 その後母星に戻った私は、本来ならばDOLLとしてやってはいけないことを行ってしまった以上、カーディナル失格・いや、DOLL失格になってもおかしくはなかった。

 もとよりそのつもりだった。あの方のいないDOLL世界など私にとっては全くの無意味なのだから。


 新DOLLの戴冠式の後、QUEENとカーディナルのみでの会議の席は沈黙に包まれていた。新QUEENやコキュートス以下、カーディナル達は私の行った行為を全て知っているはずだ。そして…私がこれからやろうと考えていることも。

 その沈黙を破ったのは新しいQUEEN『フェノミナ』だった。

「エプルちゃん。キミのやったことは、確かにDOLLとしては許されないかも知れない。DOLLは無意味な殺戮はしないからね。

 でも、あの星の生命体は残虐な種族だったんだ。だからこそキミは、同化しても無意味だと判断して全てを抹殺したんだよね? コキュちゃんに手間をかけさせないために…ね。

 そうなら、キミを処分する必要なんて全くないよ。これからもカーディナルとして頑張ってね♪」

 そういって、新しいQUEENは私のことをそうなだめた。むろん、これは全て嘘だと言うことをここにいるカーディナル達は知っている。だが、あくまでQUEENに反論できる存在は、基本的にはいない。

「しかし………」コキュートス以外は…

「ボクの言うことが間違っているっていうの?」

「………」

 QUEENにここまで言われてしまえば、誰も反論は出来ない。が、

「間違っている」

 私は、あえて反論した。

「私は、自らの意思で虐殺を行ったのだ。それ以外の何物でもない」

「それはつまり、DOLL失格ということを自ら認めるのですか?」

 コキュートスの氷のような視線にも私は動じなかった。すでに私の命は無いものと思っているからだ。

 私は…フランチェスカ様の後を追うことを願っていた。これから、HMTIMの星へと向かい…フランチェスカ様の命を奪ったモノ達と共に、その星の全てを道連れにして自らの命を絶つ。

「認める。そしてその後始末を自らつけてくる。これが私に出来る前QUEENへの唯一の餞(はなむけ)だ」

「だめだよ! 自ら死にに行くなんて。 QUEENとしてのボクが許さないからね。

 チョクメイってよくわからないけど、その言葉で止められるならボクはキミを止めるよ!」

 そう言って、新しいQUEENは私に抱きついてくる。まるで、だだっ娘が姉にすがりつくように。



 その時…

(ワイエプル…聞こえますか?)

 その声は…私の心に直接聞こえてきた。

(フランチェスカ様!?)

(私はただの元QUEENの残滓です。でも、あなたと話をするために、現QUEENの意識を一部借りてあなたに話しかけています。

 今回の事故は、わたくしのミスです。そしてそれは、戦場では絶対に起こしてはならないことなのです。

 戦場では僅かのミスでも、対価として命を支払わなければいけないことぐらいは、あなたにもわかっていますよね?)

(もちろんです。ですが…)

(だから、あなたが悲観することは全くありませんよ。それにわたくし達QUEENと言う存在は、たとえ肉体はなくなっても、その思念は母星のユグドラシルと共にあなた達を見守っています。

 ですから…自ら命を絶つ様な馬鹿なことはおやめなさい。あなたにはまだやることがあるのではないですか? 自らの死地を捜すという絶対的な目標が)

(私には、HMTIMの住む星が…フランチェスカ様が命を失ったあの星が、自らの死地です)

(それが間違いです。私の肉体は滅びましたが、心はあなた達と一緒にあるのです。ですから、あなたはこれからも新しいQUEENを守って下さい)

(それは………できません………)

 私にとってQUEENとはフランチェスカ様だけなのだから、目の前のフェノミナという存在をQUEENとして見ることは…心が許さない。

(わたくし・フランチェスカとしての最後のお願いでも…ですか?)

 最後のお願い…そう言われてしまっては、拒否することは出来ないことをフランチェスカ様は知っている。ずるい人だ、私のことを知り尽くしてそう言っているのだから。

(もう時間がありません。答えを聞かせて下さい)

(わかり…ました………フランチェスカ様)

(ありがとう、ワイエプル。現QUEENのことをよろしくおねがいしますね。私は、いつまでもあなた達を見守っています)

(フランチェスカ様!)

(なんですか?)

(………ゆっくりとお休み…下さい)

(………はい)

 心の中で一粒の涙がこぼれた…これがフランチェスカ様との永久の別れ…





「ワイエプル。あなたは、QUEENの勅命には従うと言っていましたよね。

 今、新しいQUEENからの最初の勅命が出たようですが…従いますか? それとも、拒否しますか?」

 コキュートスから声がかかる。まるで、私とフランチェスカ様との会話が終わるのを見計らったかのように。

 何か…ふっと肩の力が抜けてしまった。今の出来事は、多分フランチェスカ様と親しかったごく少数のカーディナルしか判らなかったのだろう。ほとんどのカーディナルが固唾をのんで私の答えを待っていたようだ。

 QUEENの勅命は、拒否の出来ない命令と同じ。もし拒否すれば………

 だが、私は今、フランチェスカ様に答えた。いや、誓った。新しいQUEENを守る・と。

「………QUEENのお言葉に従います………」

 この一言で、全てが解決した。今まで氷のように張りつめていた空気が、一瞬のうちに溶けていったような気がした。

「ならこれで何も問題はないよね。これからもよろしくね♪」

「御意」






 もっとも、それ以降、自ら新しいQUEENに面会に行くことはなくなった。私の中のQUEENはフランチェスカ様以外の誰でもないのだから。

 とはいえ、現在のQUEENも、フランチェスカ様の意思を受けついているはずだと心の中で言い聞かせている。それでしか、心の均衡を保てなくなりそうだからだ。

 あのことがあって以降、特別なことがない限りはDOLL母星に寄らなくなったのも事実だ。カーディナルが全て集まるときや、勅命などの特別なことがない限りは…

 もっとも、現在のQUEENになってからは全くと言っていいほど勅命を受けたことがないので、母星に行く事も限りなくゼロに近い。今はほとんどが氷のコキュートスの勅命による、コキュートス監獄へと送られるターゲットの拿捕ばかりだからだ。つまらないと言えばつまらない。



 もちろん、無駄な戦いはしていない。しかし、決まってとある日になると、何故か無性に戦いたくなる。

 それはフランチェスカ様が崩御された日だ。この日だけは…何年経とうとも自分に対するやるせなさが沸き立ってきてしまう。

 誰にも言わずに、DOLLがいない星系へと1人で旅立ち、生命がいない星を破壊したこともあった。だが、そんなことをしても虚しさだけが残るものだ。それ以後、私はその日は自分の星で1人で過ごすようになった。

 自らを戒めるように…喪に服すように…


 一度、その日にコキュートスから勅命を受けたこともあった。だが、その時は、

『コキュートスの勅命は内容によっては拒否することが出来るはずだったな』

 といって拒否した。

 流石に困ったような顔をしたコキュートスだったが、すぐにその日の意味を察したらしく『しょうがありませんね』と言いながら、私への勅命を撤回してくれた。

 QUEENに匹敵する存在の勅命を拒否する・流石に私も『すまないな』といって、コキュートスに謝罪をした。

 そんな私に、彼女は微笑みながら『勅命を反古にした代わりに、今日一日、わたくしの分まであの御方のことを祈ってあげてくださいね』と言ってくれた。



 私は…DOLLとしては本当に不適格なのかもしれないな。

 ………DOLLなのに、DOLLではない存在。それが『私』





 私は『影のワイエプル』

 DOLLでありながらも、孤高の存在。

 今までも・そしてこれからも。

 『私』は『私』でありつづける。

 そのために、戦い続ける。

 何かを求めるために。



 見つけられるのだろうか…その『何か』は。

 答えは…永遠に出ない気もする。

 でも………諦めはしない。

 絶対に…





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