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抵抗できない方程式?

作:かわねぎ



 俺は辺境宇宙を飛び回っている運び屋だ。愛用のナーサ級宇宙艦「T=アルター」を駆って東奔西走。この辺では知らない者はいない、って位に有名なんだ。何? 知らないって? そりゃ、連合中央のあんたらは知らなくても当然さ。俺だってテラン星とかには行くつもり無いしな。辺境は危険が多い分、報酬も大きいんだ。それなりの度胸さえあれば、実入りは大きいって事だ。

 で、今回の仕事も結構な額になるんだ。辺境の開拓星に補給物資と医療物資を届ける仕事だ。楽な仕事の割にギャラが高いなと思ったら、条件が付いていた。疫病の発生により住民が危険なため急を要する。まあ、開拓惑星にトラブルは付き物だから、驚きはしないけどね。驚いたのは期限の方。30時間以内に届けるには……ワープ8、下手するとワープ9で巡航しなくてはいけない。

 ワープ9!

 民間の宇宙艦は連合の規定でワープ5までのスピードしか認められていないんだ。まあ、俺たちの稼業だったら、愛機の違法改造は当たり前。ワープ7とか平気で出している。だけどワープ9の連続巡航なんて……正直言って民生品の宇宙艦にとっては無謀だ。俺の「T=アルター」にしても、ワープエンジンを換装したばかりだけどそんなスピードは出した事がない。スペック表ではワープ9.9まで加速可能となっているけど、いきなりエンジンをぶん回したくないからな。

 だけど報酬が魅力的だった。ペイロードとエネルギー容量と航続距離、全てを計算するとギリギリだが、やってやれない事はない。もちろん開拓星の住民達の事を考えると、失敗は許されない。高速での長時間巡航はエンジンにもの凄い負担がかかるのだが、全幅の信頼を寄せている「T=アルター」なら期待に応えてくれるだろう。


 さて、ワープ速度になれば後は問題ない限り、特に手を出す必要はない。着陸2時間前までの26時間、暇になる訳だ。一応機器類の監視のために、ほとんどブリッジにいなくてはならないのだが。本でも読んでいようか……

『オートパイロット切り替え。予定到着時刻は32時間後』

 あくびをしながらコンピューターの声を聞き流してみる。あと30時間だと一眠りして……ん!? 30時間!?

「コンピューター、予定到着時刻をもう一度」
『32時間後です』

 俺は思わずコンピューターに聞き返す。あと28時間以内に着かなくてはならないのに、既に4時間オーバーだなんて。速力計算、ペイロード計算、その他もろもろ完璧なはずだ。積み荷は1t程度と少ないのだが、ワープ9を安定して維持するために、可能な限り余分な荷物は下ろしてきたはずだった。

「シミュレーションとのズレの原因は、分かるか?」
『積載量の10%増加によるパワーロスです』
「おいおい、積み荷は目録通りだろ」
『チェックの結果、積載貨物の過不足はありません』

 要は重いから加速に時間とエネルギーがかかって、残りのエネルギー量ではワープ9を維持出来ないという事か。積み荷は目録通りなのに重いと言う事は……

「コンピューター、艦内で俺以外の生命反応はあるか?」
『探査中……貨物室に生命反応を確認』
「よ〜く分かった」

 コンピューターの回答に、俺はフェイザー銃を握り締めて貨物室に駆け込んだ。このT=アルターには俺一人しか乗っていないはず。それ以外の生命反応は招かざる客という訳だ。

 宇宙進出前の、海洋航海の時代から続く伝統という物がある。その中でもありがたくない物の一つがこれ、密航者だ。立ち入り禁止宙域に入るためだとか、単に恒星系外に出るための金がなかったり、色々な理由から後を絶たない。見つかった密航者は厳しく罰せられるか……誰の目も届かない深宇宙に葬られるかだ。

「出てこい!」

 貨物室の扉を開けるやいなや、俺はフェイザー銃を構えて何処かにいるはずの密航者を怒鳴った。何処にいる? 荷物の数は少ないから隠れる場所も限られているはずだ。結構丁寧に積んだから視界の陰になるところは……いたよ。その身体に容赦なくフェイザーを押しつける。

「さあて、密航者さんよ、出てきてもらおうか」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「なんだ、ガキか……」

 涙ながらに見上げたそいつは、14歳位の女の子だった。身なりの薄汚いおっさんだったら容赦なくフェイザーを「麻痺」にセットして撃つのだけど……保護欲をそそると言うか何と言うか、ついついためらってしまった。それが隙なんだろうけどさ。

「お前、俺の宇宙艦で何やってるんだ」
「ごめんなさい。許してください。開拓星には親戚がいるんです。お願いします」
「密航者は問答無用で宇宙に放りだしても構わないんだぞ」
「そ、そんな……お願いです、乗せていってください。何でもします」

 両手を胸の前で組み、涙を溜めて「お願い」ポーズを取る少女を目の前にすると、ついついフェイザーの銃口も下がってしまう。だが、ちょっと待て。この小娘を乗せている時間が長ければ長いほど開拓星への到着に支障が出るんだ。ここで甘い顔を見せてしまうと入植者達を見殺しにしてしまう事になってしまう。80人だっけ?

 俺にとっては80人の命を救うという倫理観と、それを上回る成功報酬への執着心の方がこの少女よりも優先するんだ。そう、今回の仕事は前金を少ししかもらっていない。急いで到着する事が開拓星入植者達の幸せ、ひいては俺の幸せに繋がるってことだ。

「そうは言ってもな、ぎりぎりのエネルギーなんだ。余分な荷物は載せられない」
「私一人増えてもダメなんですか……」
「ああ、ダメだ。今すぐ救命ポッドに乗せて放り投げ……」

 何かを捨てて艦体を軽くすれば何とかなるか。といっても余分な荷物は出発前に積み下ろしてしまっているし、それに遅れを回復するには、少女の体重以上の荷物を捨てなくてはならない。救命ポッドを捨ててしまえばどうだろう……

「とりあえずブリッジに来い。ゆっくりととっちめてやる」
「は、はい……」

 急いでブリッジに少女を連れて行く。コンピューターに残り時間と艦内積載量との計算をさせるためだ。その結果……救命ポッドを捨てたとしても、なお減らさなくてはならないとのことだ。

「おかしい……嬢ちゃん、でかい荷物を持ち込んだりしてないか?」
「いえ……手提げ鞄一つです」
「それを捨てても変わりないか。お前、体重重いとか?」
「わ、私は50キロないですよ!」

 さすがに体重を気にする年頃なんだろう。おどおどしつつも、そこだけは強調するもんだな。まあこの少女が100キロもあるような体格じゃないことは見れば分かる。余分な重量があと6〜70キロあるんだ。大人一人分か。

「もう一人密航者がいるとしか思えないな。おい、他に見なかったか?」
「わかりません……私が見つからないようにするので精一杯で……」
「お前さん一人位なら何とかなりそうだったんだけどな。二人じゃ無理だ」
「え、そうなんですか? なら探します。頑張って探します!」

 自分がこのまま乗せてもらえるかもしれない、と聞いたせいか、途端に張り切る少女。えらく現金な気もするが、それでは、と言う事で貨物室をもう一度探す事にした。もう一人の密航者。今度の相手はもっとタチが悪いかも知れない。なにせこの少女よりも大柄なはずだ。

 フェイザー銃を持つ手も緊張のためか汗ばんでいる。狩人というのは意外に獲物に怯えながら相手を追いつめていく物なのかも知れない。そして、獲物は少女の方が見つけてくれた。

「誰? 出てきなさい!」
「あちゃ〜、見つかっちゃった〜」

 第二の密航者への誰何の声に、ちょっと緊張感に欠ける少女の声が返ってくる。またガキか。そう思ったが、手に握ったフェイザー銃は脅しを効果的にするために握ったままだ。見せしめという訳ではないが、少しは怖い目に遭わせないとな。

「おい、密航者はどうなるか分かってるんだろうな」

 そう声をかけつつ、俺は頭の中で考えていた。開拓星には時間通りに着かなくちゃならない。その為には密航者のどちらかを放り出す必要がある。どちらかの命を選ぶ、冷酷な判断を下さなくてはならない訳だ。いっその事、公平に二人とも放り出すほうが後腐れがなくていいのかも知れない。もちろん俺自らが宇宙艦を降りるなんてのは論外だ。

「……する。……は……だ」

 だが、幸か不幸か、俺はその選択を迫られる事はなかった。別な解を選ばざるを得なかったから。新たな密航者少女のせいで……


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 宇宙艦「T=アルター」は予定時間通りに開拓星に到着した。なんとか積み荷を軽くして間に合わせたんだ。入植者達が見守る中、宇宙船ポート……というにはお粗末な、広場に着陸させる。

「助かった〜」
「政府はあてにならないから、礼を言うぜ」

 操縦者への挨拶もとばして、貨物室に群がる入植者達。ちょっと礼儀に欠けると思うけど、事態は急を要するから仕方がない。俺だってこうして貨物室で出迎えるという非礼をしているのだから。後からゆっくり礼を聞いても遅くはないだろう。俺はコンソールを操作して、貨物室のハッチを開けた。

「……ちょ、ちょっと待て、物資ががないぞ」
「ワクチンもだ。アレがないと俺たちは……」

 入植者のうち数人が先陣を切ってT=アルター艦内に入ってきたのだが、がらんどうの貨物室を見て、歓声は失望の声に変わった。そう、俺は艦体重量を軽くするために、積み荷を全部捨ててしまったのだ。

「誰だ、あんたら」
「いったいこれはどういう事だ」

 俺たち「3人」に詰め寄ってくる入植者達。そう。密航者少女二人を犠牲にする事はなかったんだ。もちろん入植者達を犠牲にしない事を考えた上での結論だった。まあ、広い意味ではみんなが少しずつ犠牲を払う事になるのかも知れないけれど。俺だって報酬を諦めて全員の命を助ける方に賭けたんだ。

「宇宙艦の責任者はだれだ! 俺たちを見殺しにするつもりなのか」

 方程式の解は、T=アルター内で終わる訳ではなかったんだ。開拓星の入植者達も重要なファクターだった。そして上手い具合に第二の少女というファクターが入って、全てを丸く収めることができたんだ。あの少女が乗り込んでくれた幸運に感謝しなくちゃならない。

「どけよ、ガキども。何処かに物資が積んであるはずだ」

 入植者の一人が俺を突き飛ばそうとした。焦る気持ちは分かるけど、俺の話も聞いて欲しいものだ。みんなを助けるための方法なんだから。だから、俺……あたしはその入植者の肩を押さえて、事情を説明したんだよ。極めて簡単に。


「我々はDOLL。お前達を同化する。抵抗は無意味だ」


 後は入植者達を疫病に侵されない身体……DOLLにすればいいだけね。




<あとがき>

 妖精さんの本だな「短編強化キャンペーン」への作品です。少ないジャンルの宇宙ものを書いてみました。前半のシチュエーションはもはや古典的とも言える「冷たい方程式」が元ネタになっています。そして後半は……アレ(笑)です。はい、一応TSものでもあったりしますけど、そちら方面の萌えはありませんm(__)m。



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