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70000ヒット記念SS ・ TS9ストーリー
ずれてる冷たい方程式
作:かわねぎ
原案:もぐたん様
キャラクター設定:SAL様、かわねぎ



「U.S.S.チャム、救援任務終了。これからTS9に帰投するにゃ」

 猫耳ヒューマノイドのキャロラット星人少女が、通信モニターをぷつりと切る。彼女の名は「みけね・こーな」。アカデミー卒業後、惑星連合ステーションTS9に着任したばかりの新米少尉(技術士官)である。

「よし、みけねちゃん、コース反転、TS9へワープ6でちゅ」
「了解。コースセット。ほな、あと3時間で到着にゃ」
「警戒態勢解除。帰投まで一息入れるでちゅ」

 司令席に座るのはプレラット星人のもけ。今回TS9近辺で民間宇宙船のトラブルがあり、その救援のために緊急にチームを組んで駆けつけたのである。みけねは基地常駐なので参加するのが当然として、もけは人員不足のために狩り出されていたのである。そして、緊急招集がかかった人物がもう一人。

「みけね少尉、今回の報告書は君が書いてくれな。これもスキルアップのためだ」
「了解にゃ、からめる大尉」

 同じくプレラット星人のからめる。技術士官という事で、先程までみけねと民間宇宙船の修理に当たっていたのである。仕事が一段落ついて、ほっとしているところなのだ。みけねも操縦をオートに切り替えて、うんっ、と軽く背伸びをする。お尻の尻尾もピンと伸びている。

「うちの冷蔵庫に特製フレッシュジュースがあるにゃ。大尉達もどうかにゃ」
「あ、お願いでちゅ」
「僕ももらおう」
「ほな、少し待ってにゃ。取ってくるにゃ」

 みけねが席を立とうとしたとき、警告の電子音と共に、宇宙艦ががくんと揺れる。バランスを崩してしりもちをついてしまうみけね。

「ど、どうしたにゃ」
「軽いイオン嵐だ。次はでかいのが来るぞ。みけね少尉、コントロールを頼む」
「は、はいですにゃ」

 からめるの指示に慌てて操舵席に座り直すみけね。両手をコンソールに添えて上官の指示を待つ。そのコンソールにはイオン嵐の本体のコースも示されている。このままでは直撃コース。

「みけねちゃん、回避でちゅ」
「無理にゃ。間に合わへん!」
「減速ワープ3。パワーをシールドに回すでちゅ」
「了解。シールド展開にゃ」
「全員、衝撃に備えるでちゅ!」

 自席で体をこわばらせる、もけ、からめる、みけねの三人。次の瞬間、大きな衝撃が『チャム』を襲ったのであった。


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「う〜ん、耳ぶつけたにゃぁ〜」

 みけねはちょっと涙目になりつつ、頭からぴょこんと飛び出ている猫耳をさする。見ると、もけもからめるも起きあがってきたところだ。

「いたた……みけねちゃん、被害報告でちゅ」
「あ、はいにゃ。ええと……ワープエンジン破損、エネルギー流出数カ所……なんやて!?」
「どうした、みけね少尉?」

 驚くみけねに続けるようにからめるが促す。

「生命維持装置破損にゃ……」
「まずいでちゅね。船は動かせないし生命維持は破損……みけねちゃん、救難信号を発信でちゅ。からめるしゃんはエネルギー流出を抑えるでちゅ」

 もけの指示通り、救難信号を発信するみけね。これを受信してくれれば救援に来てくれる可能性はある。ただ、それは救援に来てくれる宇宙艦がある事が前提である。

「これでTS9から救援が来はるにゃ」
「どうかな。TS9には宇宙艦が不足してるんだぞ」
「みけねちゃん、念のため近辺の連合宇宙艦の所在を確認するでちゅ」

 もけの指示で、みけねはビュワーに星図と近辺の宇宙艦の所在図、そしてその予定航路を表示させていく。その結果は芳しくないものであった。

「幸いU.S.S.さんこうの帰還ルート上でちゅね」
「でもランデブーできるのは20時間後だぞ」
「そっちのU.S.S.クオリスに戻ってもらうのは出来へんのかにゃ?」
「無理でちゅね。『クオリス』はワープ8で移動中でちゅ。緊急任務だと思うでちゅ」
「明日までこのままなのかにゃ。うう〜、今日の職員食堂の定食は刺身定食なんだにゃ〜。楽しみにしとったのに〜」

 命の危険より今日の夕食を心配するみけね。そんな心配に追い打ちをかけるように、からめるが状況が更に悪い事を告げる。

「生命維持は1日持たないぞ。残存酸素は三人で0.6日分だ」
「下手すると救援を待たずに全滅でちゅか……」

 腕組みをして考え込むもけ。みけねもどうして良いか分からないようだ。

「計算上二人で1日分とも言い換えられるな」

 からめるの一言にもけとみけねの視線が集まる。

「からめるしゃん、それって……」
「二人だけならば、確実に生き残れる」
「もう一人はどうなるにゃ?」

 当然のみけねの疑問には答えないからめる。それどころか、指揮官はお前だろうと、もけの方に視線を向ける。もけの腕組みがさらに続く。

「まるでアカデミーのゴドウィンシミュレーションでちゅね……」

 三人なら全滅。誰か一人を犠牲にするなら二人が助かる。このシチュエーションは指揮官養成コースで必ず履修しなければならないシミュレーションと同じである。これで指揮官適性を見られるのだが、もけの場合は……

「だれも犠牲にするつもりはないでちゅ。体を極力動かさないようにして酸素消費を抑えるでちゅ」
「はいにゃ」

 みけねももけに従い、操舵席でおとなしくしている。からめるも従うが、ただ一言呟くのであった。

「そう出来ればいいんだけどな……」


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 8時間経過。もけは司令席の上で丸まった格好で眠っている。あまつさえ、高いびきをかいて。

「もけの奴、よくこんな時に眠れるな。大物というか何というか」
「少しでも酸素の消費量を下げようとしてはるんだと思うにゃ」
「ああ、理屈では合ってるけどな」

 こんな時でも寝ているもけに呆れながら、からめるはみけねの肩の上にぴょんと飛び乗る。そして耳打ち。

「みけね少尉、確実に二人が助かる方法がある」
「大尉! まさか! それはもけ大尉があかんって言ったにゃ」
「僕はもけと違って現実主義者だからな。君に頼みがある」

 それからいくつか言葉を交わした後、からめるを肩に乗せ、浮かない顔つきでブリッジを出て行くみけねだった。

「ん……あれ? みけねちゃん? からめるしゃん?」

 しばらくして目を覚ましたもけ。ブリッジを見回すと、みけねとからめるがいない。何処に行ったのかと、もけもブリッジを離れた。

『からめる大尉……うちにとって大切だったんだにゃ……』
『でも、みんなを助けるためにゃ。うちも心を鬼にするにゃ……』

 もけが耳を澄ますと、みけねの声が聞こえてくる。どうやらみけねの私室からのようだ。たたたっ、とみけねの部屋の前に走りよるもけ。

『いっただきま〜すにゃ♪』

 ちらりと覗くと、みけねが何かを頬張っているところだった。ふり返ったみけねと目があったもけは、みけねの口の端から、ピンク色の何かがちらりとはみ出ているのを見たのだった。

「んぐぅ、もけひゃいい!?」
「!!」

 なぜだか分からないが、もけはとっさにそこを離れた。後ろをふり返らずに全力で走ってブリッジに逃げこんだ。本能が危険を告げていたのだ。

 一方、口の中の物を飲み込んだみけねは、ため息をつきながらベッドに座り込んだ。

「からめる大尉の事、見られてもうたかも……」


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「な、何かの見間違いでちゅ。絶対そうでちゅ」

 司令席の上でがくがくぶるぶる震えながら、何とか落ち着こうとして毛づくろいをするもけ。みけねは確かに何かを口に入れていた。ふり返ったときの顔。はっきりとは思い出せないのだが、凄みのある表情だった。貪欲な肉食獣のような表情。プレラット人ならば忌まわしい歴史を思い出さざるを得ない。

 そうだ、その直前にからめると何か話していたはず。からめるに何があったのかを聞けばいいと思い、艦内コンピューターに呼びかける。

「こ、コンピューター、からめるしゃんの現在位置は?」
『艦内ニ生命反応ハ見ラレマセン』
「……」

 どういう事なのだろう。からめるの生命反応がない。みけねが何かを頬張っていた。その二点から考えられる事。さらに現在の「U.S.S.チャム」が置かれた状況。それを総合的に考えると、ある結論に達しざるを得ない。

「250年前じゃあるまいち……」

 キャロラット星とプレラット星。双子星のそれらは極めて友好的で、どちらも惑星連合に加盟している。だが、それも現在の事。250年前の宇宙開拓初期には、ある種の緊張関係にあったのだ。

「追いつめられると、本能が出るんでちゅかね……キャロラット人の本能が……」

 キャロラット星人がプレラット星に降り立った時、そこは天国だった。なにせ美味しそうなハムスター、もとい、プレラット人達が沢山いたのだから。

「でも、みけねちゃんだって連合の士官でちゅ。まさかそんなこと……」

 二種族のファーストコンタクトは最悪だった。戦争ならまだいい。キャロラット星人がやったこと……それは狩猟だった。それも「食料」として。もちろんキャロラット以上に科学力の進んだプレラット人も黙って手をこまねいてるわけではなかった。反撃。やがて星間戦争に発展していったのである。

「……やっぱり猫は怖いんでちゅかね……」

 双子星同士の戦争も、キャロラット側の停戦によって終結を見た。その原因はキャロラットの政変があったと言われている。以来、プレラットとの和解が進み、今では過去の歴史として乗り越えて来たはずだったのだ。

 警戒のポーズを取りながら、色々と考えるもけ。幸い、みけねは自室に籠もっていたので、その時間は十二分にあったのだった。


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 17時間経過。みけねもあの後すぐにブリッジに戻ってきた。だが、もけとの間でお互いに何も話さなかった。というよりも、話せなかったのである。みけねは行為を見られた罪悪感で。もけは純粋に恐怖感で。何も話すこともない、する事もない以上、二人は黙って体を休めていたのだった。少しでも酸素の消費を抑えるために。

 もけも艦隊に赴任してから数々の任務をこなしてきた。死と隣り合わせだったことだって少なくない。日々の訓練から死への恐怖感は抑えることが出来る……そう思っていた。近いうちに来るであろう死。だが酸欠の窒息死への恐怖よりもある種の恐怖の方が上回っていたのだ。


「みけねちゃん……」
「みにゃぁ……」

 もけが意を決してみけねの席のそばに移動する。みけねは眠っているようだった。残った酸素をなるべく消費しないためには、この方が適しているのだが、話を聞きたいもけにとっては都合が悪い。

「みけねちゃん、みけねちゃん」
「うにゃぁ……寝かしといてにゃ……」
「さっき、何を口に入れてたんでちゅか?」
「んにゃ?……ハム…ー…にゃ……」

 いまだ頭が寝てるのか、ぼんやり答えるみけね。頭の猫耳もぺたんと寝ていることがそれを裏付けている。

「ふあ〜ぁ〜」

 もけの話を聞いているのかいないのか、大きなあくびを一つする。ちらりと覗く八重歯が可愛らしい。だが、もけには肉食獣が持つ牙のように見えたのであった。


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 20時間経過。U.S.S.さんこうから依然応答なし。

「フレイクス先輩、来なかったにゃ……」
「まだ諦めるのは早いでちゅ! 頼香ちゃんはきっと来るでちゅ」
「でも生命維持も1時間しか持たないにゃ…」

 みけねがコンソールを叩いて残存酸素量をモニターに表示させる。その数字は二人の命のカウントダウンと言ってもいいだろう。

「二人で残り1時間でちゅね……」
「一人で2時間にゃ……」

 みけねがそう言いながらもけの方を振り向く。みけねの表情は凄みのある冷たい笑顔に見えた。さながら猫に睨まれた鼠のように、もけの動きが凍り付く。その隙をねらったかのように、みけねの手がもけの体をわしづかみにする。

「み、みけねちゃん! なにするでちゅか!」
「もけ大尉、暴れちゃだめにゃ! 酸素が減るにゃ」
「離すでちゅ! 二人で最後までがんばるんでちゅ!」
「からめる大尉だって理解してくれはったにゃ。生存時間を延ばす方法があるにゃ」

 喰われる。そう観念したもけは、きつく目をつむって最後の時を待った。部下が生き残るためとはいえ、残酷な最後に自分の運命を呪いつつ……




……ひと思いに食べるでちゅ……




……からめるしゃん、僕も今逝くでちゅ……




…………




……あ、あれ?……




「もけ、何してるんだ?」

 いつまで経っても何もおこらない。もけが恐る恐る目を開けると、そこには見知った連合士官が立っていたのだった。U.S.S.チャムは無事U.S.S.さんこうに救援されたのである。

「ら、頼香ちゃん!!」
「遅くなって悪い。救援信号を受信してワープ9で飛ばしたんだけどさ」
「助かったでちゅ〜」

 みけねの手から頼香の手に飛び乗る。暖かいパートナーの手。懐かしさすら覚えて、思わずすりすりしてしまう。

「そういえば、からめるはどうした?」
「からめるしゃんは……みけねちゃんが……」

 気まずそうにみけねの方を見るもけ。みけねも神妙そうな表情になる。

「からめる大尉は、うちらのために……」
「みけねちゃんが……」
「役に立ってくれたのにゃ……」
「犠牲になったでちゅ……」

 もけの言葉に、頼香とみけねが声を揃える。

「「犠牲って?」」
「ち、違うんでちゅか? みけねちゃんがてっきり……」
「うちがコールドスリープの手伝いをしたんだにゃ」

 みけねが自室の冷蔵庫を開けて、丸くなって眠っているからめるを取り出す。プレラット星人は気温が低くなると冬眠状態になって代謝を下げる事が出来る。からめるは冷蔵庫の中で強制的に冬眠状態になったのである。危険を伴う行為ではあるが、ある意味正解だったろう。

「じゃ、あの時食べてたのは何でちゅ? ハムを食べたと言ったでちゅよ」
「ここに入っていたボンレスハムの事にゃ。お歳暮で貰って、とっておきだったのににゃぁ〜」
「は、ハムって……食べるハムだったんでちゅか……」

 冷蔵庫の、からめるが入っていた空間を指さしながら、みけねが何事もなかったかのように答える。もけの緊張が一気に弛んで、その場にへたり込んでしまったのは言うまでもないだろう。

「フレイクス先輩、TS9に帰還するにゃ!」

 放心状態のもけを後目に、みけねは元気よく頼香に飛びついて、U.S.Sさんこうに転送されていったのであった。



あとがき

 もぐたん様原作のショートストーリーです。「冷たい方程式」が元ネタになっています。キャロラット星人のみけね・こーな少尉をキャラクターに加え、猫とネズミが一隻の宇宙艦の中で繰り広げられるお話です。もけの感じる恐怖(笑)をお楽しみください。

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