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「この町は初めてですね……ええと……あ、いましたいました。あの方です。さて……」


らいか大作戦・番外編11

〜180分のシンデレラ〜

作:かわねぎ




 昔々、とあるところに青年が住んでいました。青年はいつもいつも意地悪な姉にいじめられていました。

「頼之、帰りにきちんと買ってきてよ。今日のパーティーに付けていくんだから」
「相変わらず人使いが荒いな、美香姉は」
「ついでだからいいじゃない。頼んだわよ」
「へいへい」

 青年は今日も雑用を押しつけられ、休む暇もありません。文句の一つも言いたいのですが、悲しいかな、生まれてからこのかた、逆らって勝てた試しがありません。最後には決まって姉の言うことを聞かされてしまうのでした。

「これが美香姉が言っていたパーティーか」

 青年は姉に頼まれた買い物の帰り道、町内会の掲示板に貼られたポスターを見てつぶやきました。ポスターには優雅にダンスを踊る男女のシルエットが描かれ、場所と日時が書いてありました。日時は今晩。場所はホテル日東・鳳凰の間。

 このパーティーには王子様が来るというので、街の女性達の話題にのぼらない日はありませんでした。もちろん青年の姉も例外ではありません。一般枠のパーティーチケットの発売日に電話をかけまくって、めでたくチケットをゲットしたのでありました。ちなみに王子様FCに入っていれば、優先的にチケットが取れたのです。

「王子目当ての女の子も沢山来るんだろうなぁ」

 青年も年頃なので、女性が気になります。パーティーとなれば女性達は競って着飾り、綺麗な自分を王子様にアピールすることでしょう。ですが、全員が全員王子様の眼鏡に適う訳ではありません。当然、あぶれる女性も出てきます。というか、ほとんどが余ってしまうでしょう。

『端から王子様狙いじゃないの。良家の御曹司が沢山集まるのよ〜』

 などと姉が言っていたのを青年は思い出しました。街の男性達も同じように王子様を狙ってやってくる女性達を期待しているのですから、お互い様でしょう。青年も御多分に漏れずその口なのですが、チケットは手に入らなかったようです。

「ただいま〜」
「あ、頼之、買ってきた?」
「ほらよ、美香姉」
「ありがと。それじゃ行ってくるね〜♪」

 青年が買ってきたアクセサリーを受け取ると、姉は足も軽やかにパーティーに出かけて行きます。それを見送って後に残された青年は、残念そうにつぶやくのでした。

「あ〜あ、俺も行きたかったなぁ」

 そこへ、突然、オーラスティック魔法のホウキに乗った魔女が現れました。とんがり帽子をかぶって、眼鏡をかけた格好はまさに魔法使いのお婆……

「誰がお婆さんですか、誰が。使い魔としてネズミに姿を変えてあげましょうか?」

 い、いえ、プレラット人は大好きですけど、結構です。では……眼鏡っ娘な魔法少女が現れました。年の頃は小学生位ですが、実際の所はわかりません。

「ちょっと引っかかるナレーションですが、まあ、いいでしょう」
「ま、魔法使い? それに誰に向かって喋ってるんだ?」
「気にしないでください、頼之さん。それよりも、これを受け取ってください」

 魔法少女の出現に驚く青年でしたが、魔法少女の方は一向に気にしていません。ひらひらな魔法少女服のオプションになっているポシェットから、チケットを取り出して青年に渡します。ありがとうといった気持ちを顔一杯に表して、青年はチケットを受け取りました。確かに今晩のチケット、本物です。

「ダフ屋じゃありませんので、この券は差し上げます」
「ちょっと待て。このパー券は女性用じゃないか」
「あ、気づきましたか。でも使用には問題ないですよ」
「大ありだよ。入場チェックは厳しいんだ。女装でもさせる気か?」
「そんな小手先で入れるほど甘くありませんよ。まぁ、私に任せてください」

 どうするのだろうという表情の青年に向けて、魔法少女はオーラスティック魔法のステッキを一振りしました。するとどうでしょう。青年はまばゆい光に包まれたのです。

「う、うわぁぁ?!」
「ふさわしい衣装に替えさせていただきますね。Tシャツにジーンズではさすがにつまみ出されますから」

 光の中で、青年のシルエットが徐々に変わっていくのが分かります。『ふさわしい衣装』のシルエットラインでしょう。やがて、光が収まっていき、青年の姿が露わになりました。そして自分の格好を確かめる青年でしたが、なんと、着ているのはパーティー用のドレス。しかも少女向けにデザインされた、フリルとレースがふんだんに使われた、可愛らしいものでした。

「おい、これは紛れもなく女装じゃないか!」
「女装とは男の人が女の人の格好をすることです。女の子が女の子のドレスを着ても女装とは言いません」
「へっ!?」

 ドレスを着た『青年』は、魔法少女の言葉に間の抜けたような声を出してしまいましたが、その声が青年と呼ぶにはほど遠い、可愛らしい声であったことは、本人はまだ気づいてないようです。

「よく分かるように鏡を用意しました」
「こ、これが俺……って、ちょっとまてぃ!」
「どうかされましたか?」

 鏡の中に映っていたのは、紛れもない女性。というよりもその魔法少女と同じくらいの背丈の『女の子』でした。しっとりとした長い黒髪が、白を基調としたドレスと対照的です。

「どうもこうもあるか。この格好は何だよ!」
「ですから、この姿なら女性用のパーティー券でも入れますよ」
「あのなぁ。それに何で子供なんだよ。これじゃ酒も飲めないし、誰からも相手にされないじゃないか!」
「あのですね、頼香さん」
「らいか?」
「ああ、お名前も女の子っぽく変えた方がよろしいかと思いまして。今からあなたは頼香さんです」
「勝手に決めるなよ……」

 自分にかけられた魔法に文句を言って、まさに掴みかからんばかりの元青年でしたが、そんなことは魔法少女には何処吹く風。あまつさえ、名前まで付けられてしまいました。

「いいですか。女性が最も美しく輝く時期というのはいつかご存じですか? 18? 25? いいえ。確かにその頃には女性として熟して来て、殿方の気をたやすく引けると言われています。ですが、本当にそれが魅力なのでしょうか。着飾ってお化粧までして殿方に媚びを売る。それでは女性が持つ本来のすばらしさ――言ってみれば素材が持つそのものの魅力――を殺しているとも言えるのです。無駄な装飾をせずに純粋に中身で勝負できる。その年齢は10代前半だけなのです。少女から女性へと変わっていく、そのわずかな時期の一瞬の輝き。それこそが何物にも勝る……」

 魔法少女はオーラスティックを握り締め、ちょいと眼鏡を直してから、明日の方をきっと見据えて演説を始めました。最初のうちは耳を傾けていた元青年も、聞いているうちに呆れた表情になり、生あくびをする始末。はっきり言って聞いていません。

「どーでもいいけどさ、俺は男なんだからそんなこと言われても……」
「どーでもよくありません。頼香さん、あなたは今、その少女なのですから、その自覚を持って……」

『ゴーン・ゴーン・ゴーン』

 魔法少女の言葉を遮って、鐘が鳴り響きます。そう、パーティーの開始の合図です。あっけに取られていた元青年も、はっと我に返ります。手にしたチケットに目を落として少し考え込んだ表情をすると、何かを決断したように、ホテル日東の方向に目を向けます。

「あー、もう時間がない。とにかくパーティーには行ってみる!」
「あ、頼香さん! くれぐれも12時には戻ってきてくださいね。さもないと元に……」
「わかったよ! じゃーな、魔法使いのお嬢ちゃん!」

 元青年――面倒くさいから「少女」と言いましょう――はドレスの裾を手で持ち上げつつ、パーティー会場へと駆け出していったのでした。後に残された魔法少女は、やれやれといった表情でつぶやきました。

「お嬢さんですか……見た目は同じ年なんですけどね……」


 カボチャの馬車……ならぬ二匹立てのカボチャの鼠車でパーティー会場に乗り付ける青年改め少女。もう既にパーティー客は集まっており、王子様のお出ましを今か今かと待っていました。少女も鼠車を降りて、会場に向かいます。それにしてもこのドレスという物は、車に乗り降りするのも大変です。

「あ、12時には帰るから、正面に回しといてくれよ」
「はいでちゅ」

 少女は腰を落として、鼠車を引く鼠に一声かけていきます。鼠もきちんと応えてくれます。よほど頭の良い鼠さんのようです。

「な、なんでこんな役をさせられるんでちゅかね」
「文句言うな。出たいと言ったのはお前だろ」
「でも、この配役には抗議したいでちゅ」
「ま、それは僕も同じだけどな」

 ……文句を言うほど、頭が良い鼠さんのようです。それはさておき、少女が会場に入ると、そこは普段の生活とは別世界でした。きらびやかな照明、ふかふかな絨毯、そして並ぶ山海の珍味。オーケストラが厳かに奏でる音楽一つ取っても、少女が青年だった時のボロアパートとは比べようもありません。

「しかし……この格好でどうしろっていうんだよ」

 辺りを見回すと、ドレス姿の女性達やタキシード姿の男性達がたくさんいます。互いに視線を目配せ会うような雰囲気。そんな中での少女のような子供は浮きまくりです。当初の目的だった「ご婦人物色 → ナンパ」は、少女の姿では出来そうにもありません。

「ねぇ、初めまして。パーティーは初めて?」

 とはいえ、まったく子供がいないわけではありませんでした。どうしようかと迷っている少女に声をかけてきたのは、同じ年くらいのショートカットの女の子。どうやらお父さんと一緒に来ているようです。

「え、あ、ああ。そんなところだ」
「大人ばっかりでこんな所はつまんないよね」
「まぁな。ダンスで子供と一緒に踊る奴なんかいないだろうし、壁の花ってやつだな」
「私、来栖。よろしくね。あっちで一緒にジュース飲まない?」
「ああ、そうだな。せっかくだから料理でも食っていくか」

 大人達に構って貰えない少女二人は、意気投合して、料理のあるテーブルにやってきました。ワインやエールが並ぶ中、ジュースもきちんとあります。お酒に弱いご婦人方の為なのですが、少女達が飲めるのは、これしかないようです。ですが、料理はふんだんにあるようです。

「あ、ダンスが始まったよ」
「ん、でも俺たちには関係ないよ。食お食お」
「そだね。ん、美味しい♪」

 色気より食い気な年頃なのでしょうか。少女もその姿ではご婦人物色が出来ない以上、パーティー券の元を取ろうと食べる方に走っているのでありました。でも、パーティー券は魔法少女さんからタダでもらったやつですよね。

「あー、タダだろうが何だろうが、楽しまなくちゃ損だからな」
「頼香ちゃん、誰に向かって喋ってるの?」
「あ、いや、何でもない」

 少女はダンスなど関係ないとばかりに料理をたらふく食べていました。その時に、一人の男性が少女のテーブルにやってきました。唐揚げを口にくわえながら、ん? という表情で振り向く少女。

「マドモアゼル、よろしかったら、踊っていただけませんか?」
「え、お、俺?」

 戸惑う少女に、男性はこくりと頷いて、腰を屈めて右手を差し出します。突然の事に驚いたという事もありますが、なによりも少女は本当は男なのです。男なのに男と手を握って踊るなんて、そんな趣味は持ち合わせていませんでした。

 ふざけるな――そんなセリフと一緒に男性の手を振り払おうとした少女ですが、その男性と視線があった途端、思わず言葉を飲み込み、手を止めたのでした。どうしてかは、少女にもわかりません。

「こんな素敵な人と踊れるなんて、滅多にないよ。ね、頼香ちゃん、踊っちゃいなよ」
「ん、あ、ああ……でも……俺は……」
「ほらほら」

 一緒に料理を食べていた少女が、少女の背中を押すようにして、男性の誘いを受けるように促します。けしかける、と言った方が良いかもしれません。背中を押された少女は、思わずよろけてしまいます。なにせ履いているのはヒールの高い靴。慣れない上にバランスも取りにくいのです。

「う、うわ、来栖、押すなよ……」
「おっと、大丈夫かい?」

 よろける少女を男性はしっかりと受け止めます。少女は、自分を抱き留める腕の力が決して強くはなく、優しく包み込むように感じました。少女の身長では男性の顔を見上げるようになってしまうのですが、そこには優しい微笑みがあったのでした。

「あ……」
「大丈夫そうでよかった。一緒に踊ってくれるかい?」
「……ああ……」

 誘いを断る理由はいくつも並べることはできたのでしょうけど、その時の少女の頭の中からは既にすっぽりと抜け落ちていました。自分でも訳が分からないまま、男性の微笑みに頬を染め、自分でも訳が分からないまま、誘いの手をためらいながら握ったのでした。

 音楽に合わせて舞う踊りの花。少女と男性も手を取り合って、その花の一つになったのでした。男としてリードする経験はあったものの、女性としてリードされるのは初めての少女。そんな不慣れな仕草も、男性がやさしくフォローしつつ、リードしていきます。

「名前聞いてなかったね」
「より……じゃない、頼香」
「いい名前だね。こんなパーティーは初めてかい?」
「うん、まぁ、そんなところ……」

 交わす言葉の数は少ないですが、気まずくなるような沈黙は音楽が埋めてくれます。ですので、少女はダンスに気持ちを向けることが出来、少女は握った手の暖かさに気持ちを向けることが出来たのでした。

『ボーン、ボーン、ボーン……』

 と、その時です。12時を告げる鐘が鳴ったのでした。うっとりと雰囲気に浸っていた少女は、はっと我に返ります。そして魔法使い魔法少女の言葉を思い出したのでした。12時までに帰らないと……慌てて男性の手を離す少女です。

「頼香さん、どうしたの?」
「あ、俺……ご、ごめん!」

 少女は慌てて出口へと向かいます。そんな少女の急変に、男性も慌てて後を追おうとします。ですが、男性の行く手を、黒服の男達が遮ります。

「離せ、お前達」
「これ以上のお戯れは困ります」
「あのお嬢さんを……」
「いけません、王子。今から挨拶のお言葉を述べていただきますので」

 少女はドレスの裾をちょいと持ち上げて階段を駆け下ります。足元に気を取られている少女は、後ろの方での男性達のやり取りには気が付いていないようでした。今一番の問題は、すぐに男性の前からいなくなること。この場で魔法が解けてしまったら、一大事です。

「ええい、ヒールは走りにくいな。どうせ魔法で出した奴だ」

 少女はそうつぶやくと、履いていたハイヒールを脱ぎ捨てます。自腹で買った物ではないので、なんの躊躇いもありません。後で魔法少女の人から怒られても知りませんよ。

「頼む、家まですぐ出してくれ」
「はいでちゅ」

 玄関口に乗り付けてあったカボチャの鼠車に飛び乗ると、車を引く鼠さんにそう告げたのでした。走り出す鼠車の中で、少女はやっと一息つくことができました。でも、走った疲れが取れてしまっても、心臓のドキドキが止まりません。

「どうしちゃったんだろ……俺……」


 家に帰って、自分の部屋に戻った少女は、腕組みをして考え込んでいました。12時を過ぎたというのに、魔法の解ける気配がありません。魔法少女が気を利かして、鐘が鳴った後に靴を置いてくるだけの余裕を持たせたのでしょうか。

「12時過ぎても元に戻らないじゃないか。ま、一晩寝れば戻るか……」

 そう言って、少女は慣れない手つきでドレスを脱ぎ、下着姿になります。さて、ここで困ってしまいました。子供な体の下着姿を見ても何とも思いませんが、今の体に合うパジャマは持っていません。もちろんここにある青年の服は大きすぎます。

「仕方ないな。これでも着ておくか」

 少女はワイシャツを取り出して羽織りました。だぶだぶな大きさがワンピースと言えるくらいの裾の長さになって、かえって寝間着として適しているようです。

「……」

 ベッドに入って目をつぶったものの、なかなか寝付けません。ついつい今日のこと、一緒に踊った男性のことを思い出してしまうのでした。

(お、俺は何を考えて……俺は男だぞ、男……男なんぞと一緒に……)

 心の中で色々考えているうちに、ぶつぶつ言うつぶやきがいつしか寝息に変わり、少女も夢の国へと落ちていくのでありました。



『ちゅんちゅん……ちゅんちゅん』

 朝の日差しと一緒にスズメの鳴き声も部屋の中に飛び込んできます。いつものように目を覚ましますと……まだ、少女のままでした。自分の体をワイシャツの上から触ってみますが、やはり、女の子の体です。体をぺたぺた触っていると、ふと、自分に向けられている視線に気が付きました。

「おはようございます、頼香さん」
「おはよう……って、なんで朝からお前がここにいるんだよ。それに魔法は解けてないし! それから……」
「これから説明しますので一度に言わないでください」

 昨夜の魔法使いじゃなかった、魔法少女が魔法のステッキに横座りになって、ふわふわと浮いていました。どうやら少女の寝顔を観察していたようです。まくし立てる少女をやんわりと制して、ステッキから降り立ちます。

「お話しする前に……その格好もかなりそそるものがあるのですが、着替えた方がいいでしょうね」
「着替えなんか……子供服なんか無いぞ」
「問題ないですよ。えいっ!」

 魔法少女がステッキを一振りすると、少女の着ていた男物のワイシャツは、可愛らしいブラウスとスカートに変わってしまいました。少女に似合いの格好です。髪も動きやすいようにポニーテールに結んであります。もう何をされても驚かないのか、少女は何も文句は言わないようです。

「頼之、入るわよ」

 その時です。姉がノックをして入ってきました。ですが、そこにいたのは弟の青年ではなくて、ロングヘアの少女と、いかにも魔法少女な格好の二人でした。驚く姉に、魔法少女は簡単に説明しはじめました。

「……というわけで、この娘が頼之さんです」
「あら、そうなの? 可愛くなったわねぇ」

 どうやら簡単に納得したようです。

「簡単に納得するなぁぁぁ!」



『こぽこぽこぽ……』
「ミルクティーで良かったかしら?」
「ああ」
「あ、お姉様、お構いなく」

 ティーポットから紅茶がカップに注がれていきます。お客さんの魔法少女もお礼を言ってミルクティーを一口含んでみますと、どうやら茶葉はロイヤルペコのようです。ほっとした時間が流れますが、そうはさせまいと少女が紅茶を一息で飲み干すと、魔法少女に畳みかけます。

「で? 何で俺は元に戻っていないんだ?」
「それはですね。昨日のパーティーで……」
「あら? 頼之……今は頼香ちゃんね。頼香もパーティー行ってたの?」
「ああ。こいつに頼んだら、この格好でな」

 せっかく魔法少女のお陰でパーティーに行けたのに、こいつ扱いです。親切を仇で返すようですが、少女、といいますか青年は、ご婦人方を目当てに行きたかったのです。かけられた魔法は問題外と言いたいくらいです。

「ああ、だから、王子様が小学生くらいの女の子を探していたのね」
「王子様?」
「あら、あなた知らなかったの? 12時過ぎてから一騒動あったのに」
「12時までに帰らないと魔法が解けるから、急いで帰ったから知らないぞ」
「あ、いや、頼香さん。その事なんですが……」
「なるほどね。王子様はあんたのことを探していたんだわ」
「お、俺を?」

 どうやら昨日は少女が慌ててパーティー会場を飛び出してから、一騒動あったようです。おっと、12時を過ぎていますから、今日ですね。姉の話では、王子様が一緒に踊っていた女の子を探していたとのことですが、どうやらそれは少女の事のようです。少女は相手が王子様と知ってびっくりです。

「まさか……あれ、王子だったのか……」
「あら、知らないで踊ってたの?」
「それどころじゃなかったんだよ……男と踊るなんて初めてだから……」

 少女の声がだんだんと小さくなっていきます。昨日の事を思い出すと、なぜか知りませんが、ドキドキしてしまうのです。男の人と初めて踊った恥ずかしさ。でも、それだけではないような気もします。そんなことを考えているときに、ほっぺがほんのり染まっているのは、本人も気が付かなかったようです。

「あ、頼香さん、もしかして、昨日靴を落としていきませんでしたか?」
「ん? 走るのに邪魔で脱ぎ捨ててきたけど」
「やはりそうですか。広場で親衛隊の方々が持ち主を捜していましたよ」

 どうやら少女は手がかりを残してきたようです。王子様は脱ぎ捨てた靴を頼りに少女を探すつもりのようです。パーティー会場に来ていた子供はほんの一握りなので、王宮の誰もが、程なく見つかると思ってるようでした。

「頼香、広場に行って自分だって言ってきなさいよ」
「え、でも、俺は本当は男……」
「顔赤くしてそんなこと言っても全然説得力無いわね」
「え゛……」
「自分に正直になっても、罰は当たらないわよ」

 さすがに姉だけあって、弟――今では妹――の気持ちはわかっているようでした。口に出さなくてもわかるのです。そのやさしい心遣いが、「妹が王族と結ばれれば、自分も王族の傍系。言い寄る殿方もよりどりみどり」との思いから出ていることも、口には出さなくてよいことなのです。そんな二人を見ていて、ふと、思い出したように魔法少女がぽつりとつぶやきます。

「あ、言い忘れましたけど」
「何だ?」
「あの靴は既製品ですから、サイズさえ合えば、誰でも履けるのですが……」
「それを先に言え!」

 そうです。同じサイズの靴なんて、どこにでも売っているのです。このままでは他の女の子が王子様と結ばれてしまう……そう思い至った少女は、慌てて家を出て広場へと向かうのでした。

「最初から素直になればいいのにね」
「そうですねぇ」

 そんな少女を、姉と魔法少女はお茶をすすりながら見送るのでありました。




 町の広場では人だかりが出来ていました。昨日パーティーに残された靴にピッタリの女性が王子様と結婚できる。そんな話が町中に広まっていたのです。我も我もと集まる女性達でしたが、靴に足を通すことの出来たのは、まだいませんでした。というのも……

「何よあれ。子供の靴じゃない」

 少女のサイズの靴では、大人の女性では足が入りません。まさか王子様の探しているのが子供だとは思いもよりませんでした。あわよくば玉の輿、と考えた女性達ですが、完全にアテが外れたようです。

「この町内も無理みたいですな」
「うむ……ここにもいなかったか……」

 うんざりした様子で、親衛隊の兵士が囁き合っています。朝から次々と町内を回っていたらしく、早く仕事を切り上げたい様子です。そんな時に、一人の少女が靴の前にやってきました。昨日のパーティーで一緒に料理を食べていた、ショートカットの少女です。この少女なら靴がピッタリ合うだろうと思った兵士達は、今日の仕事がこれで終わると思い、すぐに靴を履くように言ったのです。

「私じゃなくて、一緒にいた頼香ちゃんなんだけどなぁ……」

 この娘に違いない。そんな周りからの視線に戸惑いながら靴に足を通そうとしたその時です。広場に声が響き渡りました。

「ちょっと待ったーーーーーぁぁぁ」

 集まった人達の目がいっせいにそちらに向きました。全力で走ってきたのか、少女が息を切らしつつ、兵士の前にやってきます。

「頼香ちゃん!」
「はぁ、はぁ、その靴は俺のだよ。その証拠に……」
「待てっ!」

 靴を履こうとする少女を、兵士が止めます。どうやらパーティー券の半券が無いと靴を履くことにチャレンジできないようです。慌ててスカートのポケットからくしゃくしゃになった半券を取り出して、兵士に手渡します。

「うむ、確かに昨日パーティーに来た証。では、靴を履いてみたまえ」
「ああ。ほら」
「「「「おおーーーーっ」」」」

 少女が靴を履くと、サイズがピッタリです。それを見た周りの人達から、どよめきがあがります。そうです、この少女こそが王子様が探していた相手だったのです。

「おお、とうとう見つかったか」

 そしてその騒ぎの中、王子様が現れました。その姿を見た少女は、思わず顔を赤らめます。確かに昨日、手を取って踊っていたその人なのです。

「そう、確かに君だ」
「まさか、本当に王子……」
「そう、僕は確かにこの国の王子、ユウキ・フォン・マクファーデンだけど、そんなことは問題じゃないよ」

 そう言って、手を少女に差し出す王子様。今度はためらいなくその手を取ります。昨日と同じぬくもりが伝わってきます。少女にとっても、相手が王子であろうがなかろうが、そんなことは問題ではないのでしょう。王子様は少女の体をやさしく抱き寄せます。

「王子……様……」
「頼香、だったね」
「うん」

 王子様のあたたかい腕の中で、少女は問いかけにそっとうなずき、そっと目を閉じました。ずっとこのままでいたい――そんな気持ちで心はいっぱいです。でも、少女には気になったことがあったのでした。

「ところでさ、王子」
「え?」
「名前も顔も分かっているのに、なんで靴なんかで探していたんだ?」
「いや……兵士達には似顔絵も渡したから一発で分かると思ったんだけどね……」

 そう言って王子様はポケットから一枚の絵を取り出しました。王子様直筆の似顔絵です。そういった物を描いてもらうのは、名誉この上ないことなのですが、それを見た少女は固まってしまいました。まるで子供の落書き……と言ったら、子供に失礼でしょうか。

「こんなんで……わかるかい!」

 思わずオーラハリセンでしばき倒そうと振りかぶった少女ですが、相手は王子様。そんな事をすれば手打ちになってしまいます。ここはぐっと我慢でしょう。もちろん、少女に王子様を叩くなんて、できっこないのですけどね。

 そんな様子を空の上からあの魔法少女が見下ろしていました。

「何かしっかりと女の子しているみたいですね。12時過ぎると元に戻らなくなる魔法でしたけど、結果オーライですね」

 元青年な少女にかけた魔法――それは誰も知らなくてよいことなのでしょう。魔法少女は小さく微笑むと、風と共に空高く飛び去っていったのでした。


おしまい



あとがき

 元ネタはおわかりの通り、シンデレラです。らいかキャラ出演による寸劇といったところでしょうか。頼香と美香、来栖、祐樹は名前が出ていますが、その他のキャラは、特に誰とは言いません(特に魔法使い(爆)。まあ、本編には全然関係ないお話しですけど、急にこんな電波を受信してしまったと言うことで♪ 福岡オフのお土産として、先行公開致しました。その時にアドバイスをいただいた、mk8426様、電波妖精様、南文堂様、ありがとうございました。あ、その前日の大阪駅見送りオフでも、お見せするんでした(汗)。



おまけ


「……これが今度の演劇コンクール用のシナリオです」
「……あのなぁ……普通こういう話を作るか?」
「え、何か問題でも?」
「大ありだ! 大体俺が元は男だなんて事がクラス全員にモロバレじゃないか」
「お話しですから、誰も本気にしませんよ」
「そうは言ってもなぁ。まずいと思うぞ、絶対」
「あ、台本読んだよ。面白そうだね」
「なぁ、来栖。面白いか?」
「うん。頼香ちゃんが男の人だったってのも面白いし」
「……(面白いどころか十分事実なんだけどな)」
「好評みたいですし、これで行きたいと思うのですけど、いかがでしょう?」
「でも、誰がこの『頼之さん』をやるの?」
「……あ゛……」
「役者がいないんじゃぁ、どうしようもないなぁ♪ ボツだボツ♪」
「え〜、このお話しボツなのぁ?」
「わ、わかりました。役者さん探してきます! ちょっと待っていてください」
「あ、果穂ちゃん、待って。そっちは……」
「さんこうのラボなんだけど……まさかまた妙な薬とか作らないだろうな。俺用の」
「(ぎくっ)い、いえ、その、忘れ物を取りに……」
「ふぅん。それじゃ、せいぜいがんばって役者を探して来いな」
「がんばってね〜」
「くっ……こうなったら学校の体育館にホロデッキシステムを作ってしまいましょうか……」


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