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この作品の設定は、『らいかワールド』の世界観に基づいています。設定詳細は http://www.ts9.jp/ をご覧ください。


 それは甲介の目の前で、なんの支えもなしに宙に浮かんでいた。
 長さはおよそ160センチ。一方の端に鳥の羽根の意匠が施されている、細長い棒状の物体である。
 太さは片手で握りしめられるくらいで、ぱっと見はずばり “魔法使いの空飛ぶホウキ”。
 だが、実はその通りの代物だったりする(……笑)。
「――というわけで、これが今回のために用意した新型のオーラスティック(※1)、『エンプラ2002』です」
 眼鏡をかけた、甲介より年下の少女が技術者然とした口調でそう説明する。
「試験運用段階のオーラ増幅器を搭載しているんでサイズは大き目になっちゃいましたけど、これなら甲介さんのようにオーラ能力(※2)が並の人でも、かなり自由に扱えるはずです」
「ふーん。確かに以前見せてもらったものは、もっと細かったよな。……乗ってみてもいいか? これ」
「いいですよ。……あ、念のため一応リミッターをかけてありますけど――」
 くれぐれも無茶はしないでくださいね……という少女の言葉を聞き流し、甲介は新しい玩具を与えられた子どものような表情を浮かべて、“ホウキ” に跨がった。
 お尻が当たる部分に衝撃緩衝フィールドが展開しているので、乗り心地は悪くない。
「慣れればオートバイのように身体を左右に倒して姿勢を制御できますけど、傾け過ぎるとローリングしちゃいますから気をつけてくださいね」
「りょーかいっ」
 中央あたりにあるグリップを右手で握り、「垂直に上昇っ」と思考する。
 オーラスティック『エンプラ2002』はそれに感応して、甲介の身体を一気に20メートルの高さへと運んだ。

「うわわっ! …………おおっ」

 足元に広がる、白鷺重工航宙研(※3)の実験場。
 どこらへんにリミッターがかかってるんだっ……と思いつつ、甲介は驚嘆の声を上げた。

※1「オーラスティック」 …… 頼香たちが対イーター戦で装備する、個人用戦闘/飛行デバイス。細長い棒状で、近接戦ではブレード、中距離戦では射撃武器として使用する。効果は使用者のオーラ能力に左右されるため、誰しも使えるわけではない。飛行能力はあくまでもオプション。
 今回使用する『エンプラ2002』は、実験段階のオーラ増幅器を組み込み、フライトツールとして再設計されたもの。
※2「オーラ能力」 …… 惑星連合で研究されている生体/精神エネルギーの総称。この能力が突出している人間は、普通見ることができないもの(幽霊?)が見えたり、手かざしでヒーリングがおこなえたりする。
※3「白鷺重工航宙研」 …… 果穂の父親、庄司紳二が統括する研究機関。惑星連合との接触があり、供与されたオーバーテクノロジーの管理等もおこなっているらしい。







―― 『らいか大作戦』vs『白塁学園高校女子ロボTRY部っ』 ――

魔法のホウキでチキン・ラン!?

原作 かわねぎさん  イラスト 南文堂さん

                  
CREATED BY MONDO





「……ところで、他の準備は?」
 がこんっ――と音がして、自販機からペットボトルが転がり出る。
「TS9(※4)には『新型オーラスティックの実働テスト』という名目で許可を得てます。……場所は “ここ” を使えば問題ないでしょう」
 甲介の問いに、眼鏡の少女はスポーツドリンクのペットボトルを受け取りながらそう答えた。
 日差しを避け、木陰へと場所を移す。
 何度かパラグライダーで「飛んだ」経験はあるが、それとは似て異なるオーラスティックの飛行感覚に、甲介は軽い興奮をおぼえていた。
「ここ――って、この航宙研のグラウンドで?」
「広さも申し分ないですし……それに、父に頼んで “部外秘” の使用申請を出してもらいました」
「へえ……」
 彼女の段取りの良さに感心しながら、手にしたもうひとつのペットボトルに口をつける。

 ――よくそんな申請が…………いや、あの親父さんならそれもありか……

 そんなことを考えながら、甲介はさっきまで自分が飛び回っていた(……笑)夏の青空をまぶしそうに見上げた。
「……じゃあ、あとはチームの編成だけだよな」
「ええ。……で、そのことなんですけど甲介さん、魔法のホウキは女の子の方が絵になると思いませんか?」
「はいっ?」
 いきなりそう話を振られて、甲介の目が点になる。
「……ですから魔法の空飛ぶホウキには、男より女の子の方が似合うんです。
 ホウキに跨がり、スカートをひらひらさせて空を飛ぶ魔法少女…………う〜ん、やっぱりこうでないとっ♪」
 確固たる口調でそう断言すると、彼女は甲介の方に向き直り、首をかしげて意味ありげに微笑んだ。
「――というわけで、当日は『沙織』さんになって来てくださいねっ、甲介さん」

 ぶぼ・・・っ!! 「な…………なんでそれを知ってるっ?」

 飲んでいたスポーツドリンクを逆流させて驚く甲介に、眼鏡少女――庄司果穂(しょうじ・かほ)は涼しい顔で人差し指を立てた。
「……蛇の道はヘビです」

※4「TS9」 …… 正式名称はトランス・スペース・ナイン(Trans Space Nine)。惑星連合の宇宙ステーションで、地球から1.5光年の位置にあるトランスワープチューブの管理と、保護観察惑星である地球の監視が主な任務。頼香たちはここの所属。

 白鷺重工業(株)航空宇宙システム研究所、第三宇宙研究室屋外試験場。
 ちょっとしたサッカー場並の広さがあるその敷地の両端に、今日はてっぺんに丸いリングのついた高さ十六メートルのポールが三本ずつ、ゴールポストのように向かい合わせで立てられていた。
 ……もちろん、色は金色(笑)。



魔法のホウキの横乗りは危険です(笑)。(illust by 南文堂さん)




「果〜穂〜ちゃ〜んっ……」
「はい?」
 地の底から響いてくるようなその声に、果穂は『エンプラ2002』片手にくるりと振り向いた。
「……ちょっと〜っ、これってどうにかならないの?」
「えっ? でもそれ着ておかないと、万がいちオーラスティックから振り落とされたときに――」
「それは分かってるっ。……あたしが言いたいのは、この服のデザインの方なのっ」
「結構似合ってると思いますけど?」
 芝生を踏みつけワニ目で詰め寄ってきた年上の少女――藤原ほのかに、涼しい顔をして答える果穂。
「……高校生にお〇ャ魔女のコスプレは無理があるのっ」
 ほのかは両手を腰に当て、憮然とした表情を浮かべた。
 爪先がとんがった編み上げブーツに、花びらのように開いた膝上のフレアスカート。お姫様ドレスのような肩口のパフスリーブとリボン。
 確かに一介の女子高生には、ちょっと抵抗ある格好かもしれない(笑)。
 ……とは言うものの、背後では同じその服を着た後輩や友人たちが、嬌声を上げながら空中散歩を楽しんでいるのだが。
「どうせなら “原作” 本通り、ローブにすればよかったのに……」
「あれはいまいち可愛くありません」
 そう言う果穂は、惑星連合(※5)の制服をベースにした魔法少女風のプロテクトドレス(※6)を身につけている。
「可愛いとか可愛くないとかの問題じゃないわよ。……だいたい何? このひらひらスカートはっ」
 裾をつまみ上げ、すごむほのか。
「大丈夫です。今回は女子限定ですので下から覗かれることもありませんし。…………でも残念ですね、それ甲介さんに見てもらえなくて――」
「そ・う・い・う・いらんことを言うのはこの口かあああああっ!」
 一瞬酢を飲んだような顔つきになったほのかは、いきなり果穂を背中からはがい締めにして、その口に指を突っ込みぐにぐにと引っ張りまわす。
「ひゃっ、ひゃほ…………ひゃへへ、ひゅひゃひゃひっ、ひょひょひゃひゃ〜ん……っ!」
「あたしはひょひょひゃなんて名前じゃないわよ〜っ♪」
「ひ〜んっ……」
 じたばたもがく果穂だったが、ほのかの方が上背(と力)があるのでそう簡単には逃げられない。

「……やれやれ」

 そんなルームメイトを横目で見ながら、豊かな黒髪をポニーテールにまとめた少女――戸増頼香(とます・らいか)は大きくため息をついた。
 まあ、ほのかも果穂も本気でやってるわけではない(?)。ひとりっ子のほのかは年下の女の子とじゃれ合うのが大好きだし、果穂の方は例によって、「お姉さんにいたずらされて可愛い悲鳴を上げる女の子」の自分に酔っている節がある。
 しばらく放っておこう――と、肩をすくめ、頼香はその場にいたもうひとりの方に向き直った。
「果穂の奴がまたなんか変なこと言ったみたいで、甲……いや、沙織さんにも迷惑かけちゃいましたね」
「……ま、まあね」
 笑顔を引きつらせながらそう答える沙織(甲介)は、ほのかと色違いのプロテクトドレスにその身を包んでいる。
 ちなみにこの服は、以前果穂が作って頼香に「ダメ出し」されたプロトタイプをリフォームしたものだ。
 二人で並ぶと、沙織の方が若干背が高い。
 小学五年生であると同時に惑星連合の少女士官でもある、戸増頼香ことライカ・フレイクス。
 かたや体内にインプラントされたナノマシンの力で、男から女に変身できる文月沙織。
「……沙織さんの秘密は、俺と果穂以外の人間には絶対漏らしませんから」
「あ、ああ……そ、そうしてもらえると助かる――よ」
 小声で耳打ちしてくる頼香と目が合って、思わず顔を赤らめ頬を掻く。
 彼女たちとはどちらかといえば『甲介』として会うことが多いので、この姿だとやはり恥ずかしさが先に立つのだ。

「あ、さおりんさんだ。こんにちは〜」
「え? あ、来栖ちゃん? え…………え〜っと、き……今日はよろしくねっ」

 近づいてきたショートカットの少女――雲雀来栖(ひばり・くるす)に、あわてて口調を変えて返事する。
 隣でくくっ……と笑いをかみ殺している頼香に、ちょっとムッとする沙織であった。

 ちなみに沙織(甲介)は、頼香と果穂が自分と “同じ” であることに…………全く気付いていない(笑)。
 もっとも頼香と果穂は、もう二度と元の姿には戻れないのだが。

※5「惑星連合」 …… 地球から215光年離れた宙域にある、「テラン」「プレラット」といった異星文明を中核とした星間国家連合体。宇宙開発初期の惑星を監視し、科学力がある一定に達した段階でその星に代表団を送り、連合への加盟を薦める。
 地球には50年前から非公式に接触を繰り返しており、日本にも彼らの存在を知る者は多い。ちなみに果穂と来栖には「現地協力員」という肩書がある。
※6「魔法少女風のプロテクトドレス」 …… 『らいか』本編では「防護服」「戦闘服」と表記されている。惑星連合の女性士官用ユニフォームをベースに、対衝撃、対オーラ攻撃への防御力を強化したもの。デザインはオーラスティック同様、果穂の趣味。

「オーラスティックを使ったら、某大人気ファンタジー小説に出てきた『あれ』ができるんじゃないかな?」

 ほのかのその一言が、そもそもの始まりだった。
 魔法のホウキで縦横無尽に空を駆け回りながらボールを奪い合う、あの競技を……である。
 そして惑星連合三人娘のひとり――メカニック担当である果穂が飛行能力を特化させたオーラスティックその他もろもろを用意し始め、その提案(?)はにわかに現実味を帯びていった。
 もっともその時点で、“仕切り” の主導権がほのかから彼女に移ったため、「女子限定」ということになってしまったのだが。

「では、これからクィディッ…………もとい、特殊状況下における新型オーラスティックの実働試験をおこないます」

 “審判役” をかって出たれも副指令(※7)が、グラウンドの真ん中でそう宣言した。
 ほのかチームは、ほのか、沙織、舞香、かなめ、祥子の毎度おなじみ女子ロボTRY部の五人に、助っ人として御栗崎レオナ、先斗院レイナの眼鏡ネコ耳娘二人が加わるのだが、沙織(甲介)とほのか以外には惑星連合の存在は伏せられており、『エンプラ2002』も “天才少女” の果穂が航宙研の技術者と共同で開発したことにしてある。
「う〜んいまいち信じられない。……重力制御? 思考コントロール? 今の科学技術を完全に超えてるじゃない――」
「ちょっと祥子、さっきから何ぶつぶつ言ってんのよ?」
「……エイリアンテクノロジー? ううん、そんなはずはないわ。そもそも『ホウキに跨がって空を飛ぶ』なんて発想自体、めちゃくちゃ地球人的過ぎるし――」
「おーいしょーこちゃ〜ん、もしも〜し……」
 対する頼香チームは、頼香、果穂、来栖の三人に、頼香そっくりの容姿をもつ人工生命体(※8)キャメル、TS9のキャロラット人(※9)技術士官みけね・こーな(少尉)、元DOLL(※10)のミナス・ゴーダ(少尉)、そして頼香たちのクラスメイトにして秘密結社『果穂ちゃん倶楽部(※11)』を実質的に取り仕切っている信夫美優(しのぶ・みゆ)……
 あれっ? 彼女も惑星連合のことは知らないんじゃ――
「ボクは美優ちゃんであって、美優ちゃんじゃないでちゅよ」
 美優本人の意識は眠った状態になっており、その身体をプレラット人(※12)のもけが五感をシンクロさせて遠隔操作(笑)しているのだそうだ。
 人間の視線や「服を着た」感覚が物珍しいのか、しきりにキョロキョロしたり、ひらひらスカートの裾を気にしたりしている。
 どうやら頭に被ったヘッドギアが、受信機らしい。
「ひまわりの種(※13)は、ヒューマノイドの味覚ではどんな味がするんでちゅかね。あとで試してみるでちゅ」
「……いいのか、果穂?」
 プレラット訛り(笑)でしゃべるクラスメイトに違和感をおぼえながら、小声で隣に尋ねる頼香。
「こういうイベントだと、もけさんはいつもお留守番か裏方ですからね。たまには一緒に参加するのもいいでしょう。
 美優さんの方は、わたしがうまく誤魔化しておきますから……」
「でも、もけちゃん男の子でしょ? 女の子の身体になるなんて…………なんかエッチ――」

 来栖のその発言に、頼香、果穂、そして沙織の三人は同時に明後日の方へ視線を向けた。


>そんな事より○ーリ○グ女史よ、ちょいと聞いてくれよ。
>本編とあんま関係ないけどさ。
>昨日、近所の○グ○ーツ行ったんです。○グ○ーツ。
>そしたらなんかマ○ルがめちゃくちゃいっぱいで座れないんです。
>で、よく見たらなんか垂れ幕下がってて【映画公開記念】とか書いてあるんです。
>もうね、アホかと。馬鹿かと。
>お前らな、映画公開記念如きで普段来てない○グ○ーツに来てんじゃねーよ、ボケが。
>公開記念だよ、公開記念。
>なんか親子連れとかもいるし。一家4人で○グ○ーツか。おめでてーな。
>よーしパパはもおハー○イオ○ーたんハァハァ、とか言ってるの。もう見てらんない。
>お前らな、豊○天狗の試合チケットやるからその席空けろと。
>○グ○ーツってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
>隣にいる奴がヴォ○デ○ートの昔使ってた学用品でラリってまわりのマ○ル皆殺しにしてもおかしくない、
>刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。
>女子供は、すっこんでろ。



「……何? 上のやたらと伏せ字ばっかな書き込み」
「さ、さあ……」

※7「れも副指令」 …… TS9の副司令官。階級は少佐。「任務」と称してしょっちゅう不在になる指令官に代わってTS9の全指揮を担う、苦労性(?)な少女士官。
※8「人工生命体」 …… 「オーライーター」のこと。開発者はテラン人科学者ヌニエン(プラム)・スピナー博士。基本形態は不定形の流動体だが、知的生命体の「オーラ」を捕食することでその姿を人型に固定していく特質がある。キャメルは頼香そっくりになるように調整された個体。
※9「キャロラット人」 …… 惑星連合を構成する種族のひとつで、ネコ科から進化した知的生命体。ヒューマノイド体型でネコ耳ネコ尻尾を有する。なお、レオナ&レイナはキャロラット人ではない。……たぶん(笑)。
※10「DOLL」 …… 正式名称M・O・E−DOLL(Mecanical and Organic Exceed Doll)。機械/生体ハイブリット種族で、外見は金属装甲を身につけた10〜5歳くらいの少女の姿をしている。「DOLLナノマシン」と呼ばれる微小機械を口移しで他の知的生命体に取り込ませ、「同化」することで仲間を増やす。体内のナノマシンを休眠させることでDOLL集合意識とのリンクを切断し、元の自我を取り戻すことができるが、完全に元の姿に戻す方法は今のところ確立されていない。
※11「果穂ちゃん倶楽部」 …… 果穂のファンクラブ。オーナーは果穂パパこと庄司紳二。会長は謎の赤ジャージのヒト。だが実質はナンバー3である美優が取り仕切っている。
※12「プレラット人」 …… 惑星連合の中核を担う、げっし類から進化した知的生命体。見た目は「とっとこ某」。
※13「ひまわりの種」 …… プレラット人にとっては、強烈な嗜好性と常習性がある食物。ある意味“麻薬”に近い。

 れも副指令の手から、「赤の十点玉」が上空に向かってトスされ、ホイッスルが鳴り響く。
 十五本(審判を含めて)のオーラスティックが一気に垂直上昇……そしてたちまちボールの争奪戦が始まった。
 それを追いかけて「黒の暴れ玉」が二つ、一直線に飛び上がり、「金の百五十点玉」がきらめきをのこして宙に消えた。

 ……では、ここで各チームのオーダーを紹介しよう。

ポジションとその役割 ほのかチーム 頼香チーム
攻撃(chaser) 「赤の十点玉」を相手ゴールに投げ入れる。 新山舞香 古堂かなめ 加納祥子 庄司果穂 雲雀来栖 キャメル
守備(keeper) ゴールを守る。 藤原ほのか ミナス・ゴーダ
打撃(beater) プレイヤーを襲う「黒の暴れ玉」を打ち返す。 御栗崎レオナ 先斗院レイナ 信夫美優(もけ) みけね・こーな
探索(seeker) 高速で動く「金の百五十点玉」を捕まえる。 文月沙織 戸増頼香


 先手を取ったのは、舞香たちであった。
 巧みなパスワークで果穂と来栖のチェックをはずし、一気にゴールへと攻め込む。
 だが、キーパーのミナス少尉は動かなかった。……いや、動けずにいた。
 何故なら――

「うううっ、は……恥ずかしいよぉ……」

 真っ赤な顔をして、オーラスティックに跨がったままもじもじと太ももをこすり合わせる。
 今は頼香たちと同年代の少女士官であるミナスだが、つい最近まで―― DOLL化される以前は、れっきとしたテラン人(※14)の男性だったのだ。
 女性士官服のスカートにもまだ慣れていないのに、いきなりこの “魔法少女” な格好である……固まってしまうのも無理はない。
 そんなミナス少尉の横をすり抜け、ゴールに肉薄するほのかチームの三人。
 あわててゴール前に回り込んできたキャメルがフェイントをかけ、かなめの手から「十点玉」をはたき落とした。
「来栖ちゃん、パスっ!」
「はいっ」
 だが、受け取った来栖の背後から、「黒の暴れ玉」が猛スピードで迫るっ。
「うちにまかせるにゃっ!」
 それに気付いて素早く間に入ったみけねが、手にしたオーラハリセン(※15)をスイング。「暴れ玉」はほのかの方へと弾き飛ばされた。
 ちなみに彼女は、キャロラット星の関西方面出身らしい(笑)。
「……おわっ!!」
 およそ女の子らしからぬ叫び声を上げて “ホウキ” にしがみつき、よけるほのか。
 その間に果穂、来栖、キャメルの三人が、彼女をかわして「赤の十点玉」をゴール―― 金のポールの先端にあるリングの中へと投げ込んだ。
「やりぃっ!」
 オーラスティックでの空中機動は、もちろん頼香チームに一日の長がある。……だが、ほのかたちも負けてはいない。
「……まだまだっ! 舞香、かなめっ、Aクイックっ! 祥子は左からっ! レオナはみけねちゃんたちの動きに注意して!!」
 体勢を立て直し、矢継ぎ早に指示を出すと、ほのかはキーパーダッシュを仕掛けた。
 速攻でパスをつなぎ、敵陣深く入り込む舞香とかなめ。
 レオナの打ち返した「暴れ玉」が来栖たちの連携を崩し、左下から急上昇した祥子にパスが通る。
「しょーこちゃん、ナイスっ!」
 すかさずシュートっ。

※14「テラン人」 …… 惑星連合の中心勢力を誇る、地球人と同種のヒューマノイド。頼香のオリジナル、ライカ・フレイクスはテラン人と地球人のクォーター(祖母が地球人)。
※15「オーラハリセン」 …… 宇宙ステーションTS9で流行(?)しているツッコミデバイス。見た目は普通のハリセンだが、オーラを展開することでツラの皮の厚いDOLLたちにもツッコミを入れることができるすぐれもの。

 乱戦が続く中、沙織と頼香は前後左右上下を飛び回るチームメイトと相手プレイヤーの間をすり抜けながら、「金の百五十点玉」を探し続けた。
 現在の得点は百九十対八十で、頼香チームが大きくリード。
 お子さまランチ(※16)につられて立ち直った(開き直った?)ミナス少尉が、鉄壁のセービングで舞香たちのシュートを阻止しているのだ。
 ……だが、「金の百五十点玉」をキャッチすれば一気に得点をひっくり返すことができ、同時にその時点で試合が終了する。

「いい? 沙織ちゃん。オーラスティックは頼香ちゃんの方が慣れているんだから、絶対スニッ……もとい、『金の百五十点玉』を取りにいってよっ」

 極端な話、「相手に百五十点以上の差をつけられさえしなければ、逆転勝利が可能」というわけだ。
 その時……沙織(甲介)の視界の片隅で何かが光った。
「「見つけたっ!」」
 同時に叫ぶ沙織と頼香。次の瞬間、二人は弾かれたように飛び出した。
 プレイヤーの接近を感知した「金の百五十点玉」は、慣性を無視した動きで垂直に落下する!
「うわ……っ!」「……っとと!」
 正面衝突をすんでのところで回避。……沙織と頼香は一瞬視線を絡ませると、間髪入れずに急降下した。
 ツインテールとポニーテールが突風になびき、みるみる地面が迫ってくる……
「「く……っ」」
 互いに横目で相手をうかがい……そして同時に機首を引き起こす。

 ドウッ――!

 地面ぎりぎりのところで制動をかけ、ブーストON!!
 数瞬、ぐっと息が詰まり…………二人は一気に「金の百五十点玉」へと追いすがった。
「……もらった!」「させるかああっ!!」
 先を争うかのように手を伸ばす沙織と頼香。だが、その時――

「……さおりんさんっ、危ないですにゃっ!!」

 「黒の暴れ玉」の接近に気付いたレイナが、いきなり二人に突っ込んできた。
 そして、沙織の眼前で鮮やかに定点ターンをきめながら……手にしたオーラハリセンを大きく振り抜いた。

 ばっこおおおおおおお〜んっ――!

 ものの見事に空振りしたそれは、同じように頼香のガードにまわろうとした美優(もけ)の顔面をおもいっきりヒットするっ。
「ふみゅううっ……」
「あああああっ、ご……ごめんなさいですにゃっ! わ、わざとじゃないですにゃあああああっ!」
「「…………」」
 あまりに “お約束” なその展開に、目が点になる沙織と頼香。
 はっと我に返った二人は、半分気絶しかけてふらふらする美優(もけ)の元へオーラスティックの機首を巡らせた。
 だが……

「あ、あれ? ……ボク、なんでこんなところに――」

 がくんっ……と身を起こし、ぱちぱちと目をしばたたかせてあたりを見回す美優。
 どうやら今の一撃でもけとのリンクが切れてしまい、彼女本来の意識が覚醒してしまったらしい。
 そして――

「な・・・なんでボク、空飛んでるのおおおお〜っ!!??」

 次の瞬間、美優は三つ目の「暴れ玉」と化した……

※16「お子さまランチ」 …… 味覚がお子さまなDOLLたちにとって、お子さまランチは究極にして至高のメニュー。だが、料理の心得があるDOLLが作るそれは大人の食通をもうならせるという。

 パニくった美優をオーラフェイザー(※17)で気絶させ、沙織と頼香の二人がかりでその身体をささえて地面に下ろす。
 そしてそのまま、研究棟の休憩室へと彼女を運び込む。
「美優ちゃん、大丈夫かな……?」
「ミニマムレベルで撃ってますから、三十分ほどで目を覚ますでしょう」
「そもそも誰のせいよ、誰の――」
 クラスメイトを心配する来栖と果穂、そしてほのかも小走りにそのあとを追う。
「ごめんなさいですにゃごめんなさいですにゃっ……でもほんとにわざとじゃないですにゃ…………」
 気が動転しているのかあわてているのか、涙目で誰彼構わず何度も何度もあやまり続けるレイナ。
「……はあ、なんだかどっと疲れたにゃ」「うちもだにゃ……」
 背中合わせでもたれ合い、口々にそうつぶやくレオナとみけね。
「あ〜でも、おもしろこわかったぁ〜」
「相変わらずマイペースよね、あんた……」
「…………やっぱり変だわ。あんな装備まであるなんて――」
 まだまだ元気いっぱいの舞香。あきれ顔のかなめ。しつこくこだわっている祥子。
 そして――
「オーラスティックを制式装備に採用するのは、やっぱり見送った方がいいようね……」
 最後まで任務(?)に忠実な、れも副指令だった。

 結局決着がうやむやなまま、第一回『魔法のホウキで縦横無尽に空を駆け回りながらボールを奪い合う』競技は終了となったのであった。

「おいおい……、『第二回』もするのかよ……」
「あっそうだ、『暴れ玉』の回収……忘れてるんじゃないのか?」
「…………」

※17「オーラフェイザー」 …… オーラエネルギーを“弾丸”として撃ち出す武装。生体にのみ効果がある。通常の「フェイザー」とは似て非なるものだが、いつの間にかこの名称が定着している。「ガン○ム」で機関砲のことを全て「バルカン」と称しているのと同じ。





 ビデオカメラ片手に頭にコブ作って気絶している庄司紳二氏が発見されたのは、それから小一時間たってからのことだった……

(おしまい)



 MONDOです。プロテクトドレスを着た美優ちゃん(中身はもけ……笑)

 このお話は、「少年少女文庫」に投稿を予定しているコラポレーション・ストーリー、『ロボTRY・EX−S さおりんとりびゅーと』の「らいか」パートを先行公開させていただいたものです。
 「TS9」のキャラ掲示板で、「オーラスティックで『ハリポタ』のクィ○ィッチができないかな?」と、うちのほのかに発言させてからはや一年。……ついにそれが日の目を見ることになりました。
 いかがでしたでしょうか? 文中の注釈は、「らいか」ファンの皆様には今更な代物だと思いますが、……まあ、おさらいということで(笑)。
 来栖ちゃんの出番が少なくなってしまったのが心残りです。オチだけに登場した果穂パパこと庄司紳二氏には悪いことしたかな〜、とか。

 チャットでこの話を改めて提案した時は、らいかチームには『みらくる☆ティンクル』のみるくくんとれもんちゃんの二人が参加することになっていたのですが、「らいか」本編では「ティンクル」はあくまでもTVアニメ(?)として存在しているみたいなので、この二人を登場させていいのか迷っていました。
 もっともそれ言い出したら、沙織(甲介)と頼香ちゃんを共演させること自体、そもそも無茶苦茶なのですが……。
 また、登場させたらさせたで、「女の子みるくを来栖ちゃんにどう説明するんだ?」というあたりがネックになってしまって、やむなく「ティンクル」の二人を断念、代わりにみけね少尉、ミナス少尉の二人に登場してもらいました。

 同じような理由で、美優ちゃんを登場させていいのかどうかもいろいろと思案したのですが(彼女が惑星連合のことを知っているとは思えなかったので……)、チャットの中でどなたかが「もけは(クィ○ィッチに)出られないのか?」と発言されていたのを思い出し、ならば――と、かなり変則的なやり方でこのあたりをクリアしてみたつもりです。


 沙織と頼香ちゃんたちの「共演」を快諾してくださったかわねぎさん、素敵なイラストを描いてくださった南文堂さん、そしてチャットでアイデアを出し合ってくださったみなさん、本当にありがとうございました。


2002.11.5 ドラマ版「逮捕しちゃうぞ」にストライク男は登場するのだろうか――と思う、MONDO

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