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私の大嫌いな唄
H2Oの「思い出がいっぱい」
少女の回顧録なんか聴いて、なにが楽しいのだろ?
少女は少女だから輝いているのに。
化粧や宝飾類で着飾るようになった女になんの魅力があるの?
それが今はとても切なく心に染みる。
思い出なんて大嫌い。
セピア色に染めたくないのに。


勝手に果穂ちゃん
少女の落日
(改訂版)

作:よっすぃーさん
画:MONDOさん



「はぁぁぁぁ……」
 リビングに盛大な溜め息が響き渡った。今日、28回目のため息である。ちなみに今月に入ってから12758回目(!)。とんでもない数のため息をついた。
 ため息の主は庄司果穂。芳紀17歳、花の高校2年生の乙女であった。
「しかし、どうしてかなぁ〜」
 この年代の常として、彼女もまた悩み多き年頃である。ただ彼女の場合は、同年代の女の子と悩みのベクトルが若干違うようだが……
「はぁ〜。また育っちゃった」
 そう言いながら、また深々と本日29回目のため息をつく。ちなみに彼女はリビングで下着姿で黄昏れていた。

果穂の悩みとは?
 普通の人は悩まない、成長期故に育っていく己の身体であった。
「また2センチも増えている。こんなもの欲しくもないのに……」
 白いブラジャーに包まれた、自分の胸を見ながらがっくりと肩を落とす。彼女の胸は、今年に入って6センチの増量。先月BカップからCカップへと昇進したのだ。
 このままのペースだとDカップへの発展も考えられる。
 と言って、果穂の身体は別段太っているわけではない。その体つきはむしろスレンダーな部類にはいるだろう。56センチというスリムなウエストからも判るように、女性としてとてもメリハリのあるボディラインを持っているのだ。加えて169センチという長身、整った顔立ちと相まってモデルと見まがうような容姿を持っていた。
ついでに言うと、悩んでいる胸だって綺麗なおわん型。トップが淡い桜色の美乳である。強いて言えば右側の乳房がほんの僅か大きいが、彼女が右利きであることを考慮すれば当然の内容で、誇ることすれ悩むような内容では断じてない。


「果穂ちゃんの悩みは贅沢すぎるのよ」
 肩を落とし落ち込んだ姿勢で歩く果穂に、長年の親友で同級生の来栖は、からかい半分ひがみ半分で、果穂のコンプレックスをののしる。
来栖は果穂のコンプレックスは、170近い長身故にだと思いこんでいるのだ。
「わたしなんて人並みだから、人並みのラブレターしか来ないのよ」
自身も標準レベルから見れば十分美少女なのだが、常に同行する果穂が超ど級の少女とあっては、太刀持ち露払いの扱いしかされない。
(教訓・上には上がいる)
「別にラブレターなんか、欲しいと思ったことありません!」
「え〜っ。来たら嬉しいじゃない?」
 恵まれた容姿にもかかわらず柔らかい物腰から、高校入学以来、果穂の下駄箱にはラブレターの入っていない日はない。しかも男性だけでなく同性の人気も高く、「ミス・ハイスクール」としてぶっちぎりの人気を誇っているのであった。
「私は興味がありませんから」
「そんな、勿体ない」
 そんなやりとりもまた毎日。全てのラブレターに、丁重に断り文を書いて送り返しているのは性格である。



「悩んでいても仕方がないですね。着替えて出かけましょうか」
 そう呟くと、クローゼットを開き服を取り出す。
 右手にあるお気に入りの服を見つつ、不本意ながら左手の服を取り出す。
 中学生に進学した途端、一気に成長期に入った彼女は、子供らしい服がおよそ似合わなくなってしまったのだ。右手の服は、つまりそういう服だ。
で、彼女が選んだのは、紺のツーピースにシルク(調)のブラウス。いわいる秘書然としたものなのだが、理知的で凛とした雰囲気の漂う果穂には実によく似合っていた。
足元はちょっと背伸びした7センチのハイヒール。
 その姿をみて再びため息。
「3年前が懐かしいです」
そう呟きつつ想いはあの頃にタイムトリップする。
来栖や頼香やクラスのみんな(美少女に限る)と他愛の無い話をしては転げまわり、憧れの芸能人やクラスのカッコいい子の噂話をする。
膨らみかけた胸の蕾。どきどきしながらファーストブラを買いに出かけたあの日。
嬉しいやら恥ずかしいやら、赤飯のデコレーションケーキ?でお祝いをされた初潮の日。
楽しい修学旅行に林間学校。プールの授業はまさにパラダイスだったし、それからそれから……
果穂の脳裏に、楽しかった日々が走馬灯のように駆け巡る。
足元はちょっと背伸びした、7センチのハイヒール。
あれは12歳のとき。
頼香たちにからかわれながらデパートで買った靴だ。
「果穂。おまえさぁ、履けもしない靴、買ってどうするんだ?」
 ピンクのコンバースのバッシュを手に持ち頼香が首を傾げる。彼女にとっての靴の選考基準は、履き心地が良くて動きやすいこと。そりゃまぁ、ちょっとはおしゃれにも気を使い出したが(原因は推して知るべし)、それにしても上記の基準はクリアしないと購入意欲が湧かない。
「格好いいわね。でも、履けないし、私たちにはまだ似合わないわよ」
 年齢相応の革(合皮だけど)のローブーツを買った来栖が、ため息をつきつつ首を横に振る。
「そう、確かに今の私たちには似合いません。これを購入するのは一種の決意表明のようなものなんです」
「「決意表明?」」
「そうです。いいですか?確かに今の私たちは成長過程。つまり常に新陳代謝が行われ、なにもしなくても玉の肌が手に入り、素材だけでも十分輝いていると思います」
「いつも言ってるもんな」
「聞き飽きたわ」
「ですが、例えどんなに将来有望な花であっても、努力の無いところでは大輪の花は咲きません。プロのスポーツ選手にしても、その類稀な素質だけで世界に出るわけではないのです。裏ではそれこそ血の滲むような特訓。そう。例えば、インドの山奥にこもって修行したり、足でピアノを弾いたりと、みんな努力しているのです」
 それはちょっと違うと二人は思ったが、果穂の勢いに押されてそのまま静聴する。
「そして血の滲むような努力に加えて必要なのが鋼の意思です。つまり、「ぜったい大成するぞ」「この必殺技を身に付ける」といった気迫というか、根性です」
「それはなんとなく解るが……」
「私が言いたいのはその鋼の意思です。絶対にいい女になる。なってみせる。そういう強い意志をこのハイヒールに託しているのです。そしてそれを思う心が私たちの内面を綺麗にし、ひいては外見の美しさにつながるのです」
 ぜいぜいぜい……
 息を切らせて力説する。
「目が怖い」
 その勢いに来栖がちょっとひいてしまう。元が教師だけに講釈は得意な果穂だが、私情が入っているだけについつい演説にも力が入っている。
「……、前に言っていることと思い切り矛盾しているぞ」
 小声で頼香がポツリと漏らす。
 ちなみに以前演説していた内容はこうである。
「いいですか。女性が最も美しく輝く時期というのはいつかご存じですか? 18? 25? いいえ。確かにその頃には女性として熟して来て、殿方の気をたやすく引けると言われています。ですが、本当にそれが魅力なのでしょうか。着飾ってお化粧までして殿方に媚びを売る。それでは女性が持つ本来のすばらしさ――言ってみれば素材が持つそのものの魅力――を殺しているとも言えるのです。無駄な装飾をせずに純粋に中身で勝負できる。その年齢は10代前半だけなのです。少女から女性へと変わっていく、そのわずかな時期の一瞬の輝き。それこそが何物にも勝る……」




 そんなことを言っていた時代が懐かしい。
 同年代の女の子たちは思春期を迎え、話題の中心が身近な男性へと移りつつある。果穂自身もファッションや憧れの男性アイドルの話は好んでするが、ファッションはともかく異性の話は(そういうことに夢見る自分)が好きなのであって、そのアイドルが好きなのではない(そもそも彼女が好んで観る番組は他にある)。が、周りのみんなは夢を見るのではなく、現実を直視しつつあった。すでにオフレコの話では、初体験の話やもっとすごい事も話題の中にはあるし、実際に体験している子もいる。徐々に果穂の理想と現実は乖離しているのだ。
 もちろん頭脳明晰で聡明な彼女のことである。そのあたりの事情は当然理解できるし、肌でわかる。が、理解するのと納得できるのは大きな違いがある。出来れば永遠に少女でいたい果穂の意思と、成長期真っ只中の肉体とは、大きなギャップとなって現実に突きつけられているのだ。
「はぅぅぅ」
 セリフにならないため息が再び漏れる。
「なーに独りで落ち込んでいるんだ?」
 思いっきり明るい声がかかり、黄昏の時間は強制終了した。
「頼香さん……」
 声の主は戸増頼香。果穂の同居人にして連合の士官である。(それはどうでもいいことだが)
「いいですね。あなたは、悩み事が無くて」
元気いっぱいの彼女を羨ましそうに見つめる果穂。
「ばっきゃろう!生きている以上、悩み事が無いわけないだろう!悩んでうじうじしていても始まらないから、ポジティブに行動しているだけだ!」
 言葉使いは相変わらずの男言葉だが、裕樹とラブラブのためか、衣装についてはしっかり女の子している。ちなみに今日の彼女の服装は白のタートルネックのセーターにデニムのスカート(もちろん膝上20センチの超ミニ)。丈の短いレザージャケットをはおり、ボトムは編み上げブーツを履くことになっている。本人曰く、「活動的で清潔感が見えて、そこはかとなく大人の色気が見えるコーディネート」だそうだ。その成果は個々の判断に任せるとして、小柄ながら微かに膨らんだ胸元に歳相応の色気がなくも無い。
「悩み事?頼香さんが?」
 怪訝そうに見つめる。
「当然だろう」
「例えば?」
「祐樹はスカートが良いのかパンツルックのほうが気に入ってくれるのか。ポニーテールよりアップテールの方が好きなのか?それとも解いて後ろに流したほうがいいのかな?とか、もっとおっぱいがあったほうがいいのかな?俺のは形は良いと思うけど、ボリューム感に若干…………不本意ながらかなり乏しいし。おっぱいで(検閲削除)なんかして欲しいのかな?それとも(検閲削除)とか(検閲削除)や(検閲削除)なんか希望したらどうしよう?でもあいつが望むのならやっぱりしたほうが良いだろう?そのテクニックを磨くにはどうしたらいいんだろう?○○町の(検閲削除)とか(検閲削除)とか(以下、倫理規定により全て削除)………なんて考え出したら夜も眠れないし」
「………………………耳年増」
 聞こえるか聞こえないかの小声で小さくため息をつく。
 悩み事なんて大上段に構えて言っているが、誰が聞いても惚気にしか聞こえない。任務中は連合若手士官のホープなどと称えられているが、オフタイムは口の悪い少女以上の存在ではない。しかも出会った頃ならともかく、今の年齢なら相応(詳細は自主規制します)の交際も世間が許してくれる環境になったので、プライベートでは完全な色惚けと化していたのだった。
 本人は断固否定するだろうが。
「まぁ、いいです。頼香さんに相談しようとした私がばかなだけですから」
 ため息と羨望交じりに答える。民族性ゆえか本人の資質か、頼香の身長は148センチほどしかなく、加えてよく言えばスレンダー、ぶっちゃけて言えばメリハリの無い幼児体型は、中学生にしか見えず、それゆえに補導されかかったのも一度や二度ではない。
「で、今日はどこに行くって?」
 自身の行き先は既に決めている(というかエスコートされる)頼香が尋ねる。
「今日ですか?私がボランティアを務めている音楽教室の発表会です。日頃頑張ったみんなの成果を見てあげないと」
「って、ホントにそれだけか?」
「その前の時間に同じ小学生のバレエ発表会も……って、なに言わせるんですか!」
「気をつけろよ。「優しいお姉さん」の一線を超えたら立派な犯罪だぞ。今度は教師という隠れ蓑が無いぞ」
 言いたいことを言うと、頼香はとっとと出て行ってしまった。

「言われなくても……そんなことは分かってますよ」
 誰もいないリビングで独り毒づく果穂。
 恐ろしいほど良く似合うハイヒールを履き街に繰り出すと、ついつい10代前半の少女(可愛い娘限定)に目が行く。さすがに世間体があるので嘗め回すような視線ではないが、あまりよろしい視線でもない。
 可愛らしさと溌剌さが絶妙なバランスで融合したファッションは、10代前半の女の子にしか着れない独特のものだろう。正直、170近い果穂が着たら……
「羨ましいけど、今の私が着たら滑稽以外の何者でもないから」
 そう呟きつつ30回目のため息をついた。
 どうして人って成長するのでしょうね?出来れば一生ローティーンのままでいたかったのに。
 いつかは来ると思っていたが、予想以上の早さに、寂しさは隠せない。
 やっぱりもう一度小学校の教師になるしかないだろうか?
 この少子化の時代。狭き門だよなぁ〜と呟きながら、がっくりと肩を落とす果穂であった。
「いっそ思い切ってDOL………」
 人間やめますか?それとも少女をやめますか?
「微妙っ!」

おしまいっ



  お久し振りでございます。改訂番の「少女の落日」いかがでしたでしょうか?へっぽこな文章のリニューアル。「元から直せ!」という非難を回避するためにMONDOさんのイラストを差し込んだあざとさ。


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