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 とある時間、とある宇宙。様々な生命が生息し、様々な文明を営んでいる。そして異なった文明が出会ったとき、そこで共存、共栄、そして、衝突が起きることは常に繰り返されてきたことであった。

『もはや我が軍は惑星全土を掌握した。もはやこれ以上の抵抗は無意味と考える。速やかに投降したまえ』
「見くびらないで欲しいものだな。まだ、我々には戦う力が残っている」
『ちっぽけな衛星に逃げ込んで籠城とは、賢い選択とは言えぬな』
「我々人類は貴様らの軍門には下らぬ。命ある限り戦う。戦うぞ」

 軍司令部と呼ぶにはおこがましい、モニターや計器類が所狭しと並ぶ地下室。高位の階級章を付けた男が通信モニターに口角泡を飛ばして、姿の見えない通信相手に怒鳴り散らしていた。

 侵略軍との戦いの末、母星に攻め込まれ、やむなく衛星に撤退した軍の生き残り。だが、徹底抗戦する力が残っているというのは決して虚勢ではない。追い込まれてはいるが、この衛星にある軍の研究施設にはこの星の科学技術の粋が集められている。この基地にある全ての兵器を実戦投入すれば……形勢逆転も夢ではない。

『ここには、ここには入れさせん!……うわぁぁぁ!』
『死にたくなかったら、下がりなさい』
『このっ、このっ、このっ!!』
『無駄よ』
『ぎゃぁぁぁぁっっ!』

 部屋の外が騒がしくなったが、それも数刻。すぐに静かになった。闖入者を鎮圧できたか――もしくは、その逆か。その回答はドアを開ける者が誰かによってはっきりする。果たして入ってきたのは装甲服に身を包んだ少女兵士……侵略軍の兵士。可愛らしい顔立ちだが、この部屋に入ってきたという事は、自軍の兵士を沈黙させた実力を持つという事だ。

「衛星基地も我々が掌握しつつあるわ。これ以上の抵抗は無意味よ、降伏なさい」
「くそっ、貴様らの思い通りには……」
「なってもらうわよ」

 闖入者に対抗しようとする男だが、銃を向ける暇もなく相手の武器らしきものによって身動きを取れなくされてしまう。全身を絡め取られてしまったのだ。戒めを引きちぎろうにも、身体を縛り付ける強さの方が強い。

「ぐっ……白兵を見越してセルカバリィ隊を投入したはずなのに……」
「自慢のお人形さん達も起動前に制圧したわ。無駄な抵抗はやめる事ね」
「……こ、小娘がっ……貴様らには屈しないと言ったはずだ!」

 まだ自由になる指先でコンソールのスイッチを押す。侵略者どもの軍門に下るくらいなら、誇りと共に自刃した方がましだ。我が民族の名において、立派に滅びてみせる。男はニヤリと笑い、自分を拘束する相手の腕をがっしりと掴む。

「な、何を……」
「知る必要はない。永遠にな」

 ちょうどその時、侵略軍の旗艦で異変を掴みつつあった。そのきっかけはオペレーターにより、しっかりと観察されていた。

「艦長、衛星内部のエネルギーが上昇しています!」
「なに? 敵のエネルギー兵器か?」
「いえ、むしろ内部からの爆発です。臨界まであと156秒。艦長!」
「爆発だと!? 正気か?」
「間違いならいいのですが……」
「全軍に平文で通達! 出来る限り衛星軌道上から離れるよう。急げ!」

 そんな敵旗艦のブリッジの様子が見えるかのように、男はつぶやく。満足げなその表情は、まるで勝利を確信しているかのようにも見える。

「遅いな。我々の高貴さを保つため、全てを……」
「ば、馬鹿な。衛星を吹き飛ばしたら、母星もタダでは済まないわよ!」
「小娘ごときに解除は出来ん。全てを道連れに逝くのだ」
「狂ってるわね……上陸班! 全員転送帰還よ! 急いで!」
「無駄だ」

 やがて、襲いかかる轟音と振動。崩れゆく地下室の天井や壁。降り注ぐ瓦礫の中で、衛星爆発の余波に飲み込まれる敵艦隊の姿をみて、満足そうな高笑いを上げる男。一人の死土産としては十分過ぎるものだろうが、一つの惑星の死土産としては釣り合いが取れるものなのだろうか。そんな事を考える暇もなく、その部屋も瓦礫と爆発の炎に包まれたのであった。


 数刻後……侵略軍旗艦ブリッジ

「……生きてる?」
「……みたいね……」

 からくも生き残ったようだ。その事を確かめ合うクルーの声。そのクルーも無事ではなく、軍装備を自らの血で染めている者がほとんどだ。そんな中、艦長が疲れ切った声でクルーに命じる。

「艦隊の損失を報告」
「は、はい。艦艇残存14%、うち航行可能艦3%……」
「全滅ではないが、もはや手痛いとかいうレベルではないな、これは」

 侵略軍のほとんどの艦艇が衛星と道連れになってしまった。残存戦力では、もはや惑星に攻め込むことは出来ない。衛星基地の高位軍人が意図した通り、この惑星への侵攻は食い止められたのだ。だが、代償はとてつもなく大きいものとなってしまったのも事実であった。

「よくも最後に呪いをかけてくれたな……」
「呪い、ですか?」
「ああ、取り返しのつかない程のな。惑星本体への影響はどうか」
「正確な観測結果待ちですが、衛星の破片が地表に到達するのは少ないと思われます」
「壊滅的な打撃が無いのが救いか。だがこの星には未来はないな……」
「重力バランスの崩壊による長期的影響も無視できません」
「そういう事だ。ゆくゆくは移民船団を手配しなくてはな……」

 衛星の破片のいくつかは、惑星の重力を振り切って、深宇宙への二度と戻らない旅へと出た。残りはやがてリングとなり、惑星の周囲を巡ることになるだろう。こうして、自然のバランスを崩した惑星系には、深い傷跡が残ったのであった。



らいか大作戦
 Selfcavalies' Last-shine

〜第1話〜

作:かわねぎ
画:MONDO様・HIGE/J様




 現在、この宇宙。惑星連合宇宙軍駆逐艦『U.S.S.さんこう』がその宙域で、敵艦と相対していた。さんこうのブリッジから、敵艦が爆発に包まれるのを、クルー達がじっと見つめている。

 そのクルーは連合で最年少の少女士官、戸増頼香少尉と地球での協力員である庄司果穂、雲雀来栖の三人だ。彼女らは11歳という若さではあるが、とある事件で特殊能力が認められ、正式に『さんこう』のクルーとして認められている。さらに上官としてハムスターに似た宇宙人、プレラット星人の もけ と からめる が乗艦しており、三人と共に艦外の様子をじっと見つめていた。

「……結局解除できませんでした……」
「そんなぁ! これじゃ、自殺じゃない!」
「くそっ、こんな事になるくらいなら、最初から……」

 果穂が悔しそうに口を開くと、それに続く来栖と頼香も同じような口調で後を続ける。勝利ではあるが、勝利ではない。そんな雰囲気に包まれているのであった。それぞれが抱いているものは、後悔というのが最も近い感情かも知れない。

「……私達のために……」

 涙で潤む来栖の瞳の端に、その微かな輝きが捉えられた。爆発の余波の中、小破片とはまた違った輝きを放つそれが。

「あ、あれは……頼香ちゃん、果穂ちゃん、あれ!」
「どうした、来栖!」
「来栖さん!」
「あれ……絶対にあれを……きゃぁ!」

 その瞬間、さんこうの艦体が大きく傾く。シールドに吸収しきれなかった衝撃波の影響を直接受けてしまっているのだ。たまたまシートから立ち上がっていた来栖が、その衝撃で壁に叩きつけられる。痛みを堪えるため、きつく目を瞑る。頼香と果穂の心配する声が遠くに聞こえるようだ。

「来栖! 大丈夫か?」
「来栖さん!」

  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


「来栖! 大丈夫か?」
「来栖さん!」

 来栖は頼香と果穂の声によって、そして何よりも頭をぶつけた痛みで、現実に引き戻された。というよりも、目が覚めたといった方が正確だろう。『敵艦』の爆発もなければ、『U.S.S.さんこう』に受けた被弾の跡もない。いるのは自分を覗き込むポニーテールの少女とセミロングの眼鏡っ娘。何せ、ここは……

「あ……あれ? ここは……」

 いつの間にか立て肘付いてうたた寝していたようなのだが、勢い余って机に頭をぶつけたらしい。その音が派手だったようで、思わず頼香と果穂が心配して来栖の顔を覗き込む。その二人は惑星連合の制服ではなく、学校のセーラー服を着ていた。

「ここって……教室だぞ」

 わずかに呆れたような雰囲気を含んだ頼香の指摘に、辺りをきょろきょろと見回す来栖。確かに頼香の言う通り、一日の四分の一を過ごしている日東小学校5年1組の教室。決して宇宙艦のブリッジなんかではない。とすると、今のは……

「派手にぶつけたようだけど大丈夫か?」
「……痛い……」
「泣いちゃうほど痛かったんですね」
「泣くって?」

 果穂の指摘に、まぶたに手を添える来栖。いつの間にか涙を流していたらしい。頭をぶつけた痛みか、それともリアルなまでに見た『夢』のせいか。夢の中の自分は何かを失ったような、そんな気持ちを感じていて涙を流してはずだった。おそらく、その涙なんだろう。

「夢……だったんだ……大丈夫だよ。夢のせいだよ」
「夢? よっぽど悪い夢だったようだな」
「うん。はっきり覚えてないけど、何か悲しい夢」
「それでも話してしまえば、逆夢になりますよ」

 給食終わった5時間目。たまたま自習時間でプリントを渡されていたのだが、マス目を埋めているうちにいつの間にかうとうとしてしまったらしい。

「おいおい、話はいいけど、プリントは出来たのか?」
「あっ。まだ途中」
「ならやっちゃえよ。終わった連中はもう遊んでるぞ」
「うん。もうちょっとだから待ってて」

 頼香の指摘に慌ててプリントに向かう来栖。頼香も果穂も既にプリントは終わった様で、来栖の席を囲むように椅子の向きを変えて、問題を解き終わるのを待つことにした。それほど難しくないプリントという事もあるのだが、頼香と果穂はあっという間に終わらせてしまっている。なにせ二人は数ヶ月ほど前、ある事件によって成人男性から女子小学生の姿になってしまった身。大人の頭では小学校のプリントなんてお手の物である。

「……土天海冥っと。できた〜」
「お、終わったか。ちゃんと覚えてたか?」
「この前理科でやったばかりだもん。覚えてるよ」

 どうやらクラスで渡されていたのは理科のプリント、それも星に関する物。小学生なのでせいぜい惑星の名前を覚える位らしい。もっともこの三人は、地球人類よりもはるかに科学力の進んだ種族で構成される『惑星連合』の宇宙軍で働いているため、地球では知られていない主要惑星の名前も知っていたりもするのだが、それはここでは口外無用な事だ。

「忘れたとしても、週末には『復習』がありますからね」
「あ、それ楽しみなんだ」
「おいおい、俺たちは遊びで行くんじゃないんだぞ。冥王星には」
「私も楽しみですよ。この目で見られるどころか、衛星のカロンに降り立てますからね」

 そして彼女たちは光速を超える性能を有する宇宙艦『U.S.S.さんこう』のクルーでもある。普段は地球の保護・監視の為に衛星軌道上に待機しているのだが、任務で近隣の宇宙基地や恒星系へと航行する事も少なくない。今回もその任務の一つとして、冥王星へ行く事が命じられていた。理科の勉強にはこれ以上もないフィールドワークだろう。

「教科書では遠く離れた小さい星ですけど、さんこうではあっという間ですものね」
「行き帰りに他の木星とか土星とか見れないの?」
「コースが遠回りになるからな……任務が手早く終わったら寄り道出来ると思うぞ」
「わーい♪」

 女三人集まれば何とやら。連合の正式な士官である戸増頼香ことライカ・フレイクスも、自習時間の残りは、外見相応に女子小学生らしくお喋りに興じていたのだった。来栖も先程の夢の話は忘れて、終業のチャイムが鳴るまでお喋りモードだった。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


『まもなくソル9号星の軌道に入ります』

 U.S.S.さんこうのブリッジ。コンピューター音声に従って、頼香は操舵席のコンソールを操作していく。学校にいたときとは違い、今は惑星連合宇宙軍の制服を着ている。果穂と来栖も階級章こそ無いものの、同じ連合の制服だ。

 さんこうの現在位置はソル9号星――太陽系の9番惑星、冥王星である。地球から見上げる星々の中ではわずかな輝きしか放たないその星も、さんこうから見るとこの宇宙域の主であるかの様に佇んでいる。そして、衛星と呼ぶには大きすぎる星――カロンが側に控えていた。

「頼香ちゃん、あの衛星の周回軌道に乗せるでちゅ」
「了解」
「からめるしゃん、衛星表面をスキャンして場所を特定するでちゅ」
「わかった。果穂、来栖、データの確認は頼んだぞ」

 艦長のもけの指示により、にわかに慌ただしくなるブリッジ。操舵士の頼香がコンソールをてきぱきと叩いていく。宇宙艦を操縦するようになって数ヶ月しか経っていないのだが、訓練の成果か、手慣れた物だ。

 連合の軍人でない二人――技術分野に明るい果穂はもちろんのこと、普通の小学生である来栖にも出来る範囲での仕事が割り振られている。高度な技術を持たなくても、意外にこなせる仕事はあるものだ。決して三人娘を子供扱いしない もけ達によって、来栖を含めて様々な点で成長しているのであった。

「カロンの周回軌道到達。オートパイロットモード切り換え完了だ。来栖、いいぞ」
「全種スキャン開始……果穂ちゃん、OKだよ」
「逐次解析処理開始します。やはり内部は見えませんね。後は解析完了までオートに設定します」
「ご苦労様でちゅ。処理が終わる間、上陸調査の準備をしてくだちゃい」

 近年、古代文明の遺跡が惑星連合や近辺勢力の領域内でいくつか発見されていた。広範囲に点在している所から、他の宇宙域から漂着した物だと考えられている。漂着物のルートを予想して調査が進められており、そのルートの一つが太陽系をかすめていたのだった。

 太陽系での長距離センサー調査の結果、冥王星の衛星、カロンに漂着したらしいという事が判明したのだった。遺跡がスキャンを通さないため、それ以上のことは実際にカロンを調査してみなければ分からない。そういった経緯で地球駐在の『U.S.S.さんこう』クルーに調査の指令が下ったのである。

「さて、今のうちに装備の再点検をやっておくぞ」
「はい。でも噂通り古代文明の超技術かどうか、この目で見れるんですね〜」
「テレビでやってそうな話だね。果穂ちゃんって、そういうのも好きだったの?」
「ええ、古代に思いを馳せて……浪漫ですよねぇ。そう思いませんか、頼香さん」
「ロマンって……超技術なんて眉唾ものだろ。果穂って昔『ムー』とか買ってたか?」
「あら、よくご存じですね」
「やっぱり……」

 上陸装備を点検しながらお喋りを続ける頼香達三人。緊張感に欠けるきらいもあるが、頼香も果穂も真面目にすべき所はわきまえているし、ともすればはしゃぎ過ぎてしまうかもしれない来栖の事も二人が上手く扱ってくれるので、もけが咎める事もない。自然体に任せるのが もけのやり方らしい。仕事に対して生真面目な からめるだけは、苛つきからかヒゲがひくひく動いているが、直接文句を言うほどでもないのか、黙ったままだ。

「さて、三人とも準備は大丈夫でちゅか?」
「ああ。俺の方は万全だ」
「こちらも大丈夫です。トリコーダーも異常ありません」
「環境維持フィールド装置も大丈夫だよ。でも、武器なんているの?」
「何があるか分からないでちゅからね。念には念を入れるでちゅ」
「あまり世話になりたくないけどな」

 上陸に際して、三人には武器としてフェイザー銃が持たされていた。その中でも、正式な軍人である頼香の持つフェイザーは強力な物だ。更に接近戦用のフェイザーブレード。これで惑星連合宇宙軍の標準装備である。加えて三人はこの部隊の特殊装備であるオーラブレードという武器を持っているのだが、今回の任務ではおそらく活用する事は無いだろう。

「準備が出来たようだし、行ってくる」
「頼香、転送準備は完了してるぞ。遺跡内部からの転送は出来ないからな。気を付けろよ」
「分かった。コンピューター、3名転送!」

 構成物質の量子状態を走査して瞬間的に移動させる転送装置。頼香のかけ声と共に三人は淡い光に包まれ、わずかの後に光と共にその場から消え去っていた。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 衛星カロンの遺跡の通路と思われる場所に光と共に実体化した頼香達。それと同時に環境維持フィールドが展開し、宇宙服なしでも活動可能な環境となる。ヒューマノイドサイズの遺跡だけあって、プレラット人のもけとからめるは探索に加わらずに、『さんこう』から指揮を執ることにしていた。

「もけ、転送降下完了。これから遺跡内を調査する」
『了解でちゅ。十分気を付けるでちゅよ』
「ああ。とは言え死んでる遺跡なんだろ」
『機械は動いている可能性もありまちゅからね。気を付けるに越したことはないでちゅ』
「それは分かってる。遺跡の番人がいるわけないだろうからな」
「遺跡の幽霊がいるかもしれないよ……」
「来栖!!」

 頼香ともけが通信している脇で、来栖がぽつりと一言漏らす。それが頼香にとっては鋭い一言だったようで、思わず来栖を叱咤してしまう。来栖には悪気は全くないのだが、頼香は大の幽霊嫌い。探査の意気込みも削がれてしまう。だから大きな声を上げる事で、自分の気持ちを奮い起こす。

「ごめんごめん。もう大昔の遺跡だもんね」
「ああ。でも、何があるか分からないことは確かだ。二人とも気を付けるんだぞ」
「うん」
「はい」

 頼香の先導で、遺跡内に入っていく三人。ハンドライトで足元と行く手を照らしながら進んでいく。その間にも、スキャンデータはさんこうのコンピューターに送られていく。そこは技術担当の果穂の出番だ。

「からめるさん、からめるさん、通信状態は……ダメです。やはり内部からの通信も効きませんね」
「外からもダメ、中からもダメか。緊急時の転送が効かないのが痛いな」
「そうですね。気を付けて進むしか出来ることはありませんね」

 通路を進む三人は壁に突き当たるが、いきなり行き止まりというのも不自然である。おそらく扉だろう。現在の自動ドア――むしろ惑星連合の施設で使われている最新式の自動ドアに近い構造の物だ。ただし、それも動力があってこそ使う事の出来る物。遺跡ではただの重い鉄板でしかない。

「「「せーの!」」」

 三人がかりで重い扉をこじ開ける。長い間使われていなかったせいか、なかなかに開けるのに力がいる。渾身の力を込めること数回。少女の力でも、なんとかわずかな隙間を開けることに成功した。あとは隙間にオーラスティックを差し込んで、テコの原理で力をドアにかけていく。そして、なんとか人一人が通れる分は開けることが出来た。

「全然見えないよ」
「今ライトで照らすから待ってろ」
「暗くてよく分かんないけど、なんか機械とかパネルみたいだね」
「ほら、照らすぞ」

 頼香がハンドライトを向ける方向に合わせ、果穂と来栖も同じようにして照らし出す。学校の体育館くらいの広さはあるだろうか。その為にハンドライトが届く範囲というのは限られてしまっている。

「暗くてよく見えないな……」

 頼香はゆっくりとハンドライトの照らす先を壁から天井へと動かし、部屋の広さを把握しようとした。光が十分に届かないので壁に何があるかは分からないのだが、広さは掴める位だ。そして、天井の頂点を照らしたその時、頼香の視界が白く染まった。

「な、何だ!?」
「眩しい!」

 ある程度の薄暗さに慣れた目に、いきなり強烈な光が浴びせられる。頼香達は反射的に目をつぶって凌いだものの、視界は奪われてしまった。これでは視力が回復するまで身動きは取れない。

「ど、どうやら頼香さんのライトに反応したようですね……」
「動力が生きてるだと? 果穂、来栖、気を付けろ!」

 訓練の賜物か、さっと腰からフェイザーブレードを引き抜く頼香。何がいるかは分からないが、何かが起こったときの対処にはなる。果穂と来栖を後ろに守るようにして、光に立ち向かう。耐えられる程度に薄目を開けつつ、一刻も早く眩しさに慣れようとする頼香だった。


 どの位経っただろうか。ようやく慣れてきた頼香達の目に飛び込んできたのは、『遺跡』などではなく、一面にびっしりと並んだ機械の操作パネル。技術水準は連合の物よりも進んでいる様に見えた。まさに果穂の言っていた古代の超技術である。

「こ、これは……」
「……本当に大昔のやつなの? 基地? 宇宙船?」
「まさか……ミリーサス……こんな完全な物が……」
「え?」

 果穂の小さなつぶやきを頼香は聞き逃さなかった。

「何か知っているのか? 果穂」
「前に連合の科学誌で見たことがあります。古代にミリーサスという進んだ文明が存在したのではないかという話です」
「でもまだ解明されていないんだろ」
「ええ。ですが、その説だと連合宇宙域各地の遺跡についての説明がつくんです。裏付ける証拠はなかったのですが……」

 そのように説明する果穂も、信じられないといった表情で広い室内を見回していた。果穂もその学説を話半分でしか信じていないので、それを支持する証拠を見せられたのは驚きである。もしそのミリーサス文明を研究している考古学者がこの遺跡を見れば、保存状態の良さに狂喜する事だろう。

「明かりがついたという事は、動力とか生きているのか?」
「でも、壁の機械とか、何にも動いてないみたいだよ」
「そうですね……最低限の環境システムの一環で明かりがついたのでは無いでしょうか」
「……そうでなかったら、侵入者の排除システムの一環だな」

 予想もしなかった『遺跡』に圧倒されつつも、警戒は緩めない頼香。歓迎する為に動力が生きていれば良いのだが、そうでなかったら侵入者排除の為のシステム起動かもしれない。古代のミリーサス人とやらが、未来において頼香達を歓迎する様な事は考慮に入れていないだろうから、警戒しておくに越した事はない。

「果穂、どうだ? 分かりそうか?」
「ダメですね。手持ちのトリコーダーでは文字が読めません」
「考古学者が研究してるなら、解読とかしてないの?」
「ある程度は解読しているはずですが、中心はラファースの学会なんですよ」
「同盟か……確かに深いデータを持って来るのは手間だな」
「ですから、記録だけに留めておきます」

 内部の様子をトリコーダーに記録していく果穂。ラファースとはかつて惑星連合と対立していた『トマーク=タス同盟』の貴族階級の種族。現在は友好関係にあるものの、貴族階級の誇り高さからか、惑星連合との同調を良しとしない風潮がラファース人の間では根強いのであった。そのため、公開文書ならともかく、直接ラファースの学会と接触するのには、大変な手間がかかるのであった。惑星連合の主星であるテラン星に行く必要があるだろうが、さすがにそこまでするほどの物ではないだろう。

「頼香ちゃん、奥にも部屋があるみたいだよ」
「果穂の記録が済んだら、そちらを調べよう」
「こちらの方はほとんど済みました。からめるさんの方へオンラインでデータを渡せないのが残念ですね」
「なら、先に進むぞ。いいな」


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


「「「よいしょ、よいしょ」」」

 動力は回復していないので、相変わらず自動ドアを手でこじ開ける三人。考古学者は机の上で発掘品でも転がしているイメージを持っていたようだが、身を持って認識を改めたようである。遺跡発掘というものはやってる事は肉体労働だ。

 それはさておき、ドアをこじ開けると今度は教室くらいの広さの部屋であった。ベッドが並び、医務室か何かの様である。3つを除いた全部に人が横たわっていた。

「わぁ♪」

 その様子を見て、驚きの声ではなく、思わず嬉しそうな声を上げる果穂。横たわっていたのは、果穂達位の歳の少女なのだから、さもありなん。キラリとその伊達眼鏡が輝く。薄手のキャミソール――というよりスリップに近い――の様な肌着を着た少女達。可愛い女の子が好きな果穂にとっては、どうぞお召し上がりくださいと言わんばかりの光景だ。

「女の子だと?」
「ですねぇ♪」
「眠ってるの?」
「確かめてみましょう♪♪」
「……寝てるところを撫で回すのはどうかと思うぞ……」

 嬉しそうに手近な一人に近づくと、果穂はその身体を肌着の上からなぞっていく。まだ幼さを残してはいるものの、少女から女へと変わっていく階段を上り始めた、そんな微妙な年頃。果穂にとっては一番萌える年頃の少女である。だが、その肌に触れた途端、さっと真面目な表情になる。

「……体温がありませんね」
「ま、まさか、死んでるの?」
「いや、人工冬眠か何かかも知れないな」
「いえ、それらしい装置はありません。ですが、死体でもないようです」
「それなら何なんだ? こいつらは」

 横たわる少女のさらさらのセミロングヘアを指で梳きながら、頼香の質問の答えを探すために考え込む果穂。確かに生きている証である体温は無いのだが、かといってこの状態で保存されている『死体』とも考えにくい。なにせ、果穂が触ったところ、肌の弾力は生きている人間そのものだったのだ。今梳いている髪の毛にしても、生きているかのようなしっとり感がある。

「ねぇ、ここって大昔の遺跡だよね。この子達、昔からいるの?」
「だと思います。そうすると、ますます謎なんです」
「何百年だか何千年だか知らないが、人間が過ごせる年月とは思えないな」
「じゃぁ、ロボットとかアンドロイドとか?」
「その可能性はありますが……こんな……隅々まで精巧な物に何の意味が……」

 確かに来栖の言うようにアンドロイドという可能性もある。だが、それにしても精巧過ぎるのだ。必要以上に身体――特に下着で隠れるような部分――の精巧さを求める用途という物はいつの世でも存在する物だろう。しかしその場合はもっとメリハリのある身体というか年齢で作るのが一般的かと考えられる。果穂のような特異な趣向を相手にしない限り。

「ねえ、これ何だろう」

 来栖がベッドが並ぶ部屋の中央にある机に並ぶ小さいプレートを見て首をかしげる。文字は読めないが、一枚一枚にナンバリングされているようで、同じ文字の物は無い。

「メモリーカードみたいだな」
「何かが記録されているのかも知れませんね」
「デジカメみたいに中身見れないの?」
「専用のビュワーがあれば良いのですが、手持ちのトリコーダーではちょっと無理ですね」
「とりあえず持ち帰って専門家に解析してもらうか」

 他にめぼしい物が無いかと部屋の中を探したが、目に付いた物は今のメモリカードのようなプレートのみ。それ以上この部屋で興味を引く『物』があるかといえば、ベッドに横たわる少女達そのもの位か。

「この娘の正体を調べるには、一度さんこうへ連れて行く必要がありますね」
「ああ。でもそれは最後だな。まだ調べる所があるならそっちが先だ」
「この先にまたドアがあるみたいだよ」
「では、後で隅々までじっくりと調べさせていただく事に……ううっ!!」
「果穂!!」
「果穂ちゃん!!」

 頼香と来栖が奥の部屋に続くらしいドアに手をかけた時、ベッドに横たわっている少女の着衣を整えていた果穂が苦しそうなうめき声を上げる。反射的にそちらの方を振り向くと、眠っているとばかり思っていた少女が、片手で果穂の首を掴み、軽々と持ち上げていた。その手を振り解こうとする果穂だが、よほど強い力なのか、苦しそうに顔を歪めるだけであった。

「こいつ!」

 腰のフェイザーブレードを引き抜き、果穂に駆け寄ろうとする頼香。力ずくでも果穂を引き離さなくてはならない。いきなり寝ていた少女が攻撃してくるのは予想外だったが、言ってみれば自分たちは遺跡荒らし。ここの主に襲われても文句は言えない立場だろう。

「果穂を離せ!」

 頼香がフェイザーブレードを構えて飛びかかろうとしたと同時に、少女は掴んでいた果穂を無造作に壁に投げつけ、さっとベッドから飛び起きる。放り投げられた果穂は背中を思い切り壁にぶつけ、その痛みと締め上げられた苦しさの両方で咳き込んでいる。衝撃吸収剤を織り込んだ戦闘服を着ているのだが、その吸収能力を上回る衝撃を受けてしまったようだ。眼鏡も持っていたトリコーダーも先程のプレートも、衝撃のために周りに散らばってしまう。

 少女は瞬発入れずに頼香へ向けて手刀を振り下ろそうとする。どうやら武器を持つ頼香の方を脅威として判断したらしい。頼香はそれをステップで素早くかわして、牽制の一振り。そしてフェイザーブレードを構え直す。

「来栖、果穂を頼む」
「うん。頼香ちゃんは?」
「こいつを抑えてる。その間に果穂を連れて扉の向こうへ戻れ」
「でも頼香ちゃんは……」
「向こう側からフェイザーで注意を逸らしてくれ。隙を見て逃げる」

 口早に伝えると、果穂を助けに行く来栖を守るような位置で少女に立ち向かう。相手の力量は分からないが、果穂を助け起こす時間だけ足止めを出来ればいい。フェイザーブレードを握り直して、少女へと一歩踏み込む。

「転送できないって時に……これかよ!」

 頼香が振るブレードを片手で易々と掴む少女。エネルギー波を収束させたブレードを素手で掴めるなど、人間技ではない。やはりロボットかアンドロイドの類か。力比べになってしまうのだが、時間を稼ぐには好都合だ。頼香は全身の力を込めてブレードを相手側に押し込む。

「くっ……」

 歯を食いしばってブレードに力を込めるものの、徐々に押し返される頼香。相手の少女は平然と……いや、表情という物を一切表さずに素手でフェイザーブレードを押し返している。

(Illust by HIGE/J様) 

「果穂ちゃん、大丈夫?」
「え……ええ……何とか……」
「頼香ちゃんが時間を稼ぐから、私達は扉まで下がれって」
「わかりました……トリコーダーとプレートを……」
「眼鏡は?」
「無くても構いません!」

 背後では来栖が果穂を助け起こして扉まで下がったようだ。押し返されて力負けする事を悟った頼香は、受け流して二撃目を相手の少女に向かって振るう。空いている方の手で受け止められるが、それをはね除けてさらに攻撃を繰り出す。

「てぇぃ!」
「……」

 幾度か攻撃を仕掛けるうちに、相手のパターンめいた物が見えてきた。きれいなまでに対応してくる相手は見事なまでなのだが、それも頼香がきれいに攻め込んでいるからという一面もある。

(……動きが単調だな……所詮ロボットか何かか?)

 どうやら隙は作れそうである。奇手というわけでもないが、イレギュラーな攻撃を仕掛けてみてはどうなるか。そう思った頼香は、フェイザーブレードで少女の攻撃を受け止めつつ、空いた左手で腰のオーラブレードを引き抜く。生体相手以外だとこのオーラブレードは殆ど効かないのだが構わない。フェイントのごとく相手の注意を一瞬逸らすことが出来ればいいだけだ。

「せりゃぁ!」

 かけ声と共にメインのフェイザーブレードを振るう。かけ声は相手の注意を引く為だが、さらに注意を引くために少々難しい剣捌きをして揺さぶりをかける。わずかにパターンを変えてもきちんと対応してくるものの、その切り替え時には多少戸惑うような、引っかかるような感じがする。頼香から見れば、わずかな隙である。

(起き抜けでまだ寝ぼけてるって訳でもなさそうだ……なら……)

 フェイザーブレードで軽くフェイントをかけた上で、強撃を振るう。大振りになるが、相手は対応するので手一杯のはず。自分に隙が出来るのは致し方ない。フェイザーブレードを受け止めるその刹那、左手のオーラブレードを深く懐に潜り込ませる。棒切れを当てるだけの効果しか無いかも知れないが、そちらにも注意が向いてくれればこっちの物だ。後はフェイザーブレード側に隙が出来たのを見計らって、そのまま突き込めば……

「……!!!」
「え?」

 オーラブレードを突き出したまま、驚きの混じった、信じられないような声を出してしまう頼香。予想に反して、フェイントのはずのオーラブレードが一撃としてまともに決まってしまったのであった。がっくりと力が抜けたように頼香にもたれかかる少女。先程果穂が言ったのとは異なり、薄手の衣服越しにかすかなぬくもりを感じる。

「頼香ちゃん……終わったの?」
「おそらくな。こいつをどかすからちょっと手を貸してくれ。果穂、大丈夫だったか?」
「ええ、なんとか。しかし、驚きましたね」
「こいつら生きてた……動いたとはな」

 果穂と来栖が少女を床に横たえている間、頼香はフェイザーブレードとオーラブレードを納める。この少女、力だけで考えると戦闘能力は高いのだが、技術が備わっていないので助かったような物だ。もし学習型のAIを搭載しているとしたら、次はますます強力になるという事だろう。

「ねぇ、他の子も同じ様に襲ってこない?」
「その危険性はあるな……一度さんこうに戻った方が良いだろう」
「その娘はどうします?」
「放置するのも何だしな……何かの参考になるかもしれないから連れ帰るか」
「わぁ、精密検査ですね♪ 技術部に任せてください♪」
「懲りない奴だな……」

 先程手痛い目に遭ったことを、もう忘れたとでもいうような果穂の嬉しい声。半ば呆れながらも、少女をよいしょと背負う頼香。眠っているせいなのか、同年代にしては多少重く感じる。

「頼香ちゃん、重くない?」
「ちょっとな。最初の転送ポイントまで我慢するさ」
「頼香さん、急いでください! もう一人目を覚ましました!」

 横たわる少女達の中、もう一人が目を覚ましたのを見つけ、慌てて頼香を急かす果穂。当然一人背負っている頼香としては、そう速く走れる物ではない。頼香を先に行かせて、果穂と来栖の二人はフェイザーで威嚇射撃して足止めする。

「扉、閉めます!」
「うん。でも、凄い力で開けられちゃうんじゃない?」
「気休めでもないよりはマシです」

 渾身の力で扉を閉める果穂と来栖。あの少女の活動範囲がベッドの部屋に限られているとは思えない。少しでも足止めして、さんこうに転送する時間が稼げればいいだけだ。

「やっぱり扉開けて来るよ!」
「くそっ……来栖、替われ。俺が足止めする」
「あ、あれ? あの子、止まったよ?」
「なぜでしょう?」
「知るか! いまのうちに転送ポイントに戻るぞ」

 後ろを振り返りつつも、急いで転送降下したポイントへと走る三人。そこまで戻れば追っ手は振り切れる訳だ。何故だか分からないが、追っ手の少女は扉の前で立ち止まっているようである。必死に走った末、頼香達三人と拾い物の少女は、転送の光に包まれたのであった。

 新たに動き出した少女は、扉の前で果穂が散らばせたプレートを拾い上げると、広い部屋の向こう側で転送の光に包まれる一行を見つめていた。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 U.S.S.さんこう医療室。『遺跡内』で出会った少女が医療ベッドの上に横たわっており、検査のためにいくつかの電極のような物が身体の数カ所に貼り付けられていた。検査のために薄着のワンピースは脱がされており、全裸の状態。内部のスキャンは既に済んだらしく、結果が表示されているモニターを見ながら、からめると果穂が驚きのこもったため息をついていた。

「驚いたな」
「ええ、まさかこんな技術があるなんて……」
「こういうのを目の当たりにすると『機械』の定義とか『人間』の定義とか考えさせられるな」

 レプリケーターで複製した眼鏡のフレームをちょいと中指で押し上げて、モニターを見つめる果穂。伊達眼鏡なので別に眼鏡が無くても支障はないのだが、やはり習慣という物は変えられない。さんこうに戻って、早速レプリケーターで眼鏡を複製した。第一、眼鏡っ娘属性という萌え度が下がってしまうのは果穂の本意ではない。

 分析完了の報告をブリッジで受け取ったらしく、ちょうど もけを肩に乗せた頼香と来栖が入ってきた。ちらりと裸の少女の方を見てみると、先程自分たちを襲ってきたとは想像も付かない位に、可愛らしい寝顔をしていた。

「からめるしゃん、果穂ちゃん、何か分かったでちゅか?」
「ある程度だけな」
「分かった範囲で説明をお願いしまちゅ」

 からめるは もけの指示に軽く頷くと、一つ咳払いをして、コンソールに登って説明をし始めた。コンソールをちょいと踏むと、モニターに調査した『遺跡』が映し出される。

「まず、カロンの落着遺跡だが、こいつは古代ミリーサス文明として研究されているものと形状、文字、様々な点で酷似している。おそらくミリーサスで間違いないだろうな。データの解析は連合アカデミー経由で同盟にも送信済みだ。そう遠くないうちに結果が出るだろう」

 からめるが足踏みするにつれ、モニターにはトマーク=タス同盟で公開されている文献の文面や図が次々と切り替わる。トマークタスの文字が読めない来栖にとっては『遺跡』の写真と文献の図表が似ているという事しか分からない。

「次にこの娘っ子だけど……あえて言うならアンドロイドだな。だが、その構造は極めて人間に近い。通常僕たちが言っている『機械』とは違って……そうだな、微少サイズのユニットが細胞一個一個をエミュレートしているんだ。ミクロで見ると機械。極めて精巧なアンドロイドなんだが……人間にはるかに近い。マクロで見ると人間とどう違う?」

 からめるのステップで、画面は少女の検査報告へと変わる。表示されたのは内骨格スキャンニングデータ。いわゆるレントゲン写真に相当する物なのだが、そこには機械ではなく、いわゆる人間の骨格が映っていた。

「ただ、人間には人格というのがあるよな。脳ももちろんエミュレートしているんだが、記憶領域はまっさらなんだな。果穂が持ち帰ってきてくれたプレート……これが言ってみれば基本人格が収まっているROMなんだ。こいつを首筋に挿入して初めて『人間』として『覚醒』する訳だ。学習した事柄もこのプレートに逐次バックアップしていくらしい。言ってみれば身体が破損すれば、プレートを移植するだけで任意に取り替えることが出来るわけだ。ホント、ものすごい技術だよ、ミリーサスってのは」

 からめるの説明を聞いていた頼香が、疑問を挟む。

「でもこいつが俺たちを襲ってきた時はそのプレートは入ってなかったんだろ? なぜ動ける?」
「自己防衛とか危機排除だろうな。最低限の動きは初めからプログラムしてあったんだろう」
「なるほど、確かに技量のない一本調子な攻撃だったな」

 一応納得した頼香は、軽く腕組みをして考え込む。からめるの説明が続いているのだが、どうも引っかかることがある。オーラブレードが効くのは「生命力」を有する相手。オーラが引き起こす微弱電流で精巧な機械に対して影響を与えることも出来るのだが、果たしてこのアンドロイド少女に効いたのはそのせいなのだろうか。

「……プレートを挿入してみる訳だが……頼香? おい、頼香!」
「ん、え、あ、すまない。この子を起こす訳だな」
「そういうことだ。果穂、頼む」

 からめるの注意で物思いから引き戻される頼香。どうやらアンドロイド少女に記憶プレートを差し込んで、『起動』するらしい。どれだけの永い眠りからの覚醒なのか正確なところは分からないが、貴重な瞬間だろう。

「プレートは損傷している物があり、完全な物は2枚だけでした」
「どちらを使うんでちゅか?」
「形状が同じですから、互換性があるのでどちらでも……来栖さん、どちらか選んでいただけますか?」
「え、私? う〜ん、それじゃ右の方」
「こちらですね。では、セットします」

 果穂が注意深くアンドロイド少女の髪をかき上げ、うなじにあるスロットにプレートを差し込む。スロットといっても巧妙に偽装されているので、相当注意して見たとしても分からないだろう。そこを含めて、外見はもはや人間の少女とは変わらない。

「差し込みましたが……」
「目を覚ますの?」
「上手くいくのか?」

 頼香達が静かに見守る中、少女はゆっくりと目を開けた。瞬きを一度して、ゆっくりと起きあがる。だが、それまでだった。

「起きたけど……どうなってるの?」
「さぁ……まだ起動段階なのかも知れません」
「まさか、また暴れたりはしないよな」
「あ、こっち向いた」

 三人がひそひそと話しているのに気づいたのか、そちらの方を向いたのだが、やはりそのまま頼香達を見つめているだけだった。

「俺たちをじっと見てるけど……何か問題でもあったのか?」
「もしかして言語形態を解析しているのかも……」
「つまり、私達が話してるのを聞いて日本語を勉強してるってこと?」
「確信は持てませんが、その可能性は高いと思います」
「しっ、何か話すぞ」

 ゆっくりと開いた少女の口から言葉が紡ぎ出される。果穂の推測を裏付けるかのように、たどたどしいながらもしっかりとした日本語だ。時折覗かせる八重歯が可愛らしい。

「……こ、ここは……?」
「惑星連合宇宙軍駆逐艦、U.S.S.さんこうの医療室だ」
「惑星……連合……?」
「そうだ」

 医療室の中をきょろきょろと見回す少女。ミリーサスの雰囲気とは違った惑星連合の室内様式に戸惑っているようだ。惑星連合という政府形態自体、彼女の知識には無いものなのだろう。頼香はしばらく彼女のその様子を見守っていた。

「君はミリーサスの出身か」
「はい……」
「君の名前はなんて言う?」
「名前……ボクは型式番号CLB-012。ナレッジ・セルカバリィです」
「セルカバリィ?」

 少女の口からの聞き慣れない言葉を繰り返す頼香。少女本体を指す固有名詞なのか、それとも少女が十分に日本語を覚えていないからなのか、翻訳されなかった単語だ。

「はい、あなた方の言葉では……『アンドロイド』が近いです」
「ねぇ、番号じゃなくて名前は無いの?」
「起動時には固有名詞は付けられていません」
「それじゃ呼びにくいよね」
「そう仰いましても、ボクにはCLB-012以外に呼び名はありませんので……」

 来栖が友達相手のように話しかけるが、名前が無いというのは何かと付けて不便だ。艦艇にさえ名前がついているのに、少女の姿をしているセルカバリィを『CLB-012』と型番で呼ぶのは違和感がある。なにせ可愛らしい少女。それなりの名前を付けないと果穂ならずとも納得いかないだろう。

「来栖、何か良いアイデアないか?」
「う〜ん……カロンで出会ったから『かろん』ってどう?」
「単純だが……語感は悪くないな」
「よろしいと思いますよ」

 本人の意向というのもあるかもしれないが、どうやら彼女には、名前を付けるという発想自体が無いらしい。むしろ彼女にとっては『CLB-012』というのが名前なのだろう。そういう意味では来栖の『かろん』というのは愛称と言った方が良いのだろうか。

「それじゃ、あなたの名前は『かろん』ね」
「かろん……ですか」
「気に入らなかった?」
「いえ、ありがとうございます。ボクをこれから『かろん』とお呼びください」

 名付け親とばかりに、かろんが呼び名を受け入れてくれたことを素直に喜ぶ来栖。今度は自分たちの自己紹介だ。来栖が先頭を切るのだが、この辺は純粋な小学生、新しい友達が出来た嬉しさ一杯だ。

「雲雀来栖だよ。よろしくね、かろんちゃん」
「俺は戸増頼香。よろしくな」
「私は庄司果穂です」
「雲雀様、戸増様、庄司様、ですね。今後ともよろしくお願いします」

 三人の名前を復唱して、ぺこりと頭を下げるかろん。かろんの丁寧で畏まった口調に対して、頼香だけでなく果穂や来栖も思わず苦笑する。同い年の外見の少女に敬語を使われると、面食らってしまうのだろう。

「あのさ……その『戸増様』っての変えてくれないか?」
「え? ボク何か失礼なことを……」
「そうじゃなくて、『頼香』でいいよ。気軽にさ」
「ですが、呼び捨ては畏れ多く……では、せめて『頼香さん』ではいかがでしょうか」
「まぁ、それくらいなら……同じように果穂と来栖もな」

 まだ納得のいかない表情をしながらも、頼香の言葉にうなずくかろん。このセルカバリィというのはアンドロイドだけに、従属するプログラムが設定されているのかも知れない。

「かろん、早速だけど」
「はい、頼香さん」
「いつまでも裸でいる訳にもいかんだろ。学校の制服だけど服を用意してあるから着替えたらどうだ?」
「え、裸? あ! し、失礼しました……」

 頼香に指摘されて、かろんは改めて自分の姿を見る。確かに裸だ。頬を染めて慌てて両手で股間を隠す。さすがに頼香達三人の視線に晒されるのは恥ずかしいのであろう。もちろん もけとからめるに対しても恥ずかしいのだが、種族形態が違いすぎるため、彼らが男性であることまでは思い至らないようだ。もちろん、目の前の頼香と果穂が本来男性であることなどは知る由もない。

「へっ?」

 かろんは間の抜けた声を出すと、今度は慌てて自分の身体をぺたぺた触っていく。そんな様子を不思議そうな顔で見ている頼香達。

「な、な……何でボクが……
女の子の身体に入っているんですかぁぁぁ!!!

「「「へ?」」」

 かろんの可愛らしい叫び声が医療室に響く。今度は頼香達が間の抜けた声を出す番だ。何を言っているのか、すぐには理解できない様子でかろんの方に注目する。すぐにパニックがおさまり、目をつぶって静かになった。一通り自分の身体を触って認識した事実を自分に言い聞かせているのだろうか。

「この身体…………CCX-006じゃないですかぁ!」

 どうやら、自分の身体の内部チェックをしていたようだ。身体側のデータを読み取ったのか、目を覚ましたときに告げた型式番号とは違う番号を口にする。軽くパニック状態に入っていそうな かろんに、恐る恐る頼香が尋ねる。

「えっと、一つ聞くけど……かろん、お前……男?」
「もちろんです! ボクのメモリーを何でCCX-006に入れたんですかぁ!!」

 どうやら、CCX-006という少女の身体にCLB-012のメモリープレートを入れてしまったようだ。プレートを見ただけで かろんの人格ともいうべきCLB-012が男の人格だと分かるはずもないし、大体プレートと身体の整合性なんて分かるわけがない。

 しかし、当のかろんにとっては身体の不整合は大問題である。何せ男性型の身体に最適化されている『人格』としては、何かと不都合があるのだろう。だいいち……恥ずかしい。片手で股間を片手で胸を覆い隠して、上目遣いにわずかに非難めいた視線を三人に送る。わずかに目が潤んでるのは、恥ずかしさの表れか。

(果穂、どうすんだよ……)
(でも、プレート選んだのは来栖さん……)
(え、私のせい??)
(誰のせいって訳でもないけどさ……)
(大体、あの部屋には男の子のセルカバリィはいなかったんですよ)
(とはいえ、どうやって納得させるかだな……)

 相談がひそひそ声になってしまう三人。別に責任をなすりつけ合うわけではないが、ついついお互いにどうにかしてよと言った話になってしまう。やはりここをまとめるのは連合の士官として責任を持つ頼香の役目だろう。

「まず、身体にタオルでも巻いておけ」
「あ、ありがとうございます」

 頼香が かろんにタオルを手渡す。さすがに裸のままというのは、周りにとっても本人にとっても何かと不都合だろう。来栖はともかく頼香にとっては見てる方も恥ずかしいと思ってしまう。果穂が残念という表情をしていたのは、どうでも良い話か。

「かろん、お前の本来の――男の身体はどこにも無かったけど……」
「ハンガールームにありませんでしたか? 10歳くらいの、男の子の身体」
「ハンガールーム? あの女の子達が寝てた部屋か」
「その奥なんですよ、ボクたちCLBシリーズの待機所は」

 どうやら かろん本来の少年の身体は頼香達がまだ探索していない部屋に置いてあったようだ。それ以上探索する前に、別のセルカバリィに妨害されたので、中断したのだった。

「かろんとは別のセルカバリィに襲われたから逃げてきたんだ。奥には行ってない」
「それは防衛としてCCXシリーズ本体にプログラムされているのです。侵入者は排除するように……」
「なるほどな。仮にかろんの身体を探しに行くにしても、次に調査をするのは……」
「2ヶ月後でちゅね」

 頼香は確認するように もけの方へ顔を向ける。もけの言うように調査スケジュールは既に決められている。非加盟惑星の領域なので、そう簡単にスケジュールは変更できない。手続きが何かと面倒になのだ。やむを得ない場合は多少の融通は利くというものの『遺跡発掘物』の『都合』がそれに該当するとは到底思えない。

「次回の日程は動かせないでちゅ。それまではその身体でいてもらうしかないでちゅ」
「2ヶ月ですか……そんなに……」
「不服なら停止させることになるでちゅね」
「……」
「もちろん再起動の保証はないし、本来のCCX-006でちゅか? そのプレートが見つかれば、それを使うことになって、かろんちゃんのプレートは……」
「!」

 起動してこの世に生を受けたはずなのに、入っていたのは別な身体。しかも本来の自分の身体に戻るまでには最低でも2ヶ月は女の子の身体で我慢しなくてはならない。さもなくば強制停止。『生まれた』ばかりの『彼女』にとっては過酷な運命なのだろう。下手をすると強制停止後、そのまま再起動させられなく――葬り去られることだって考えられる。

「おいおい、かろん。そう悲観するなよ。2ヶ月後には調査できるんだからな。それまでの我慢だ」
「そんな……女の子の頼香さんには、女の子になってしまったボクの気持ちなんて分からないんです!」
「……いや、身を持って分かってるんだけど……」

 さすがに大きな声では言えず、口の中でもごもごと言い返す頼香。数ヶ月前までは男だっただけに、女の子になってしまった気持ちはよく分かるのだが、秘密にしている来栖の手前、そんなことは言えない。ちなみに果穂も同じ立場なのだが、女の子が大好きな彼女については参考にしない方が良いだろう。

「まぁ、なんだ。2ヶ月辛抱して、あの部屋の戦闘用セルカバリィを何とか出来れば、晴れて元の身体に入れるわけだ」
「ちょっと待ってよ。その戦闘用って何人もいたよね」
「ああ。連中が全員起きあがると厄介だな。かろん一人ならなんとかなったけど……」

 来栖の指摘にしばし考え込む頼香。記憶プレートのないセルカバリィなら、戦闘用といえども技量が低いので本気を出した頼香の敵ではない。とはいえ、数が揃うとそうも言ってられない。見た目は少女でもかなりのパワーを持つセルカバリィ。数が多ければそれだけ脅威になるのであった。

「なら、ボクも連れて行ってください!」
「かろんを?」
「ボクが行けば、セキュリティの解除もできます 何せボクは情報処理はお手の物……です……し……」

 もう一度ミリーサスの『遺跡』に戻ってもらうように かろんが頼香に詰め寄ろうとしたが、その勢いがすぐに萎んでしまう。言葉も沈みがちに、肩を落として悔しそうな表情になる。

「おい、どうした?」
「……ボクの記憶している情報に……半分もアクセスできません……これではセキュリティ解除も無理……」
「記憶プレートの破損か?」
「いえ……自己診断では問題ないのですが……このCCXの身体ではアクセスに制限があるんです」

 『遺跡』のセキュリティが解除できなければ、かろん本来の身体を諦めるほかない。でなければ、セキュリティ――戦闘用セルカバリィ達を力ずくで突破するか。その他の方法を採るにせよ、一戦交える覚悟が必要であろう。

「でもさ、戦闘用の身体なら連中を強行突破できないか?」
「無理です……この身体での戦闘方法を知らないし、ボク自身戦闘なんて知らないんです」

 小さな拳を握り締めながら話す かろんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。自分本来の情報処理タイプの能力が使えない悔しさ、戦闘用の身体を使いこなせない悔しさ。そしてそこから導き出される、自分の身体を探しに行けないという事実に向き合う悔しさ。起動した――この世に生を受けたばかりの かろんにとっては、辛い事実を突き付けられたも同然だろう。

「結局……ボクは情報用としても戦闘用としても、セルカバリィとして全然役に立たないんですね……」

 泣き出したいのを必死に堪える かろん。人格が男性タイプであるから人前で泣くような真似をしないようにプログラムされているのか。それとも、かろんの持つ男性としてのプライドか。頼香もそんな気持ちは何となく分かるような気がする。なにせ頼香も元々は男性だっただけに、少年の気持ちは理解できるのである。

「そんなこと無いと思うぞ」
「え?」
「戦い方なんて訓練すれば覚えられる」
「でも、ボクにはそんな能力……」
「無いとは思えないな。お前がそう思い込んでるだけだろ?」
「……」

 この辺は体育会系な頼香の性格だろうか。要はうだうだ言う前にやってみろ、という事である。頼香自身、かろんの少女な身体――CCX-006と一戦交えているので、その身体が持つキャパシティは身を持って知っている。戦士として何ら遜色のない能力。問題は かろんがその身体を使いこなせるかどうかだ。

「それに戦闘用に特化してしまうと、ボクの蓄積メモリーは全くの無駄に……」
「なりませんよ」
「え?」

 今度は果穂が かろんに向かってきっぱりと言い切る。

「アクセス方法を見つければ良いんですよ。その辺は私の方で請け負います」
「ですが、ミリーサス人でないあなた方に、ボクを直す能力など……」
「無いかも知れません。でも、あなたがそう思い込んでるだけなのかもしれません」

 技術者としてのプライドがそうさせるのか、決して不可能ではないと――いや、必ず可能であるとばかりに言い切る果穂。惑星連合の技術部門を見くびっては困るとばかりに、伊達眼鏡をちょいと中指で押し上げる。

 もちろん果穂とてミリーサスという未知の技術に通じている訳ではない。むしろ全然知らないと言った方が近い。知っていることは公開されている文献で読んだ事柄程度。だが、何とか出来そうだという感触もまた持っている。何せ既に稼働してあるサンプルがあるのだ。ゼロから創り上げるわけではなく、手探りながらも解析をしていけばよい。以前の姿の頃からの技術者としての感触なのだ。

「惑星連合の技術力も捨てた物ではありませんよ」
「でも……」
「確かに かろんさん達のミリーサスに比べれば劣るかも知れません。ですが、出来る限りの事はしてみるつもりです」

 まだ不安げな様子の かろん。その姿を見て、来栖が間髪入れずに続ける。

「かろんちゃん。果穂ちゃんも頼香ちゃんも絶対頼りになるよ」
「疑っているわけではないのですが……」
「果穂ちゃんや頼香ちゃんを信じようよ。私達は友達なんだから」
「友達……ですか。セルカバリィのボクなんかを友達だなんて……」
「だよね、果穂ちゃん、頼香ちゃん」

 来栖が頼香と果穂の方へ向いて返事を促す。かろんも不安そうに頼香達の方へ目を向ける。何と言われるのだろうか。なにせ自分は戦闘用にせよ情報用にせよ、ミリーサス人に作られた存在。それが『友達』として同等の、いや、その言葉の意味するところではもっと親密な関係として接してくれるのだろうか。そんな事があるはずがないと、『常識』をプログラムされている位なのだ。

「ああ。かろんさえよければ」
「友達になってくださいますか?」

 承諾なり拒否なり返事をもらえると思っていた かろんの予想とは違って、微笑みながら 逆にかろんに対して答えを求める頼香と果穂。

「えっと……あの……よろしいんでしょうか?」

 おずおずと頼香達三人の顔色を窺うかろん。それに対する返事は、小さく、だが、しっかりとした頷き。もちろん承諾の笑顔でだ。

「ね、言った通りでしょ」
「ありがとうございます。でも変じゃないでしょうか……女の子の姿で『ボク』だなんて」
「女の子で『ボク』も変じゃないし、頼香ちゃんなんて『俺』だよ」
「……なんで俺を引き合いに出すんだよ……」
「こんな可愛い頼香さんだって『俺』って言ってるんだから、『ボク』なんて許容範囲です。萌えです」
「だから、俺を引き合いに出して力説しなくてもさ……」

 言葉遣いに困惑する かろんに対して、気にすることはないよといった感じの来栖と、何故か力説する果穂。引き合いに出される頼香は少し憮然とした表情。自分を『俺』という癖は直すつもりは無いとはいえ、恋人の前ならずとも何となく気にしてしまう。

「まぁ、それはさておき。タオル一枚じゃなんだからさ。服着ろよ」
「あ、はい。それで着替えは?」
「ここに用意してある。俺たちと同じサイズだけど、着られると思うぞ」

 着替え一式をかろんに手渡す頼香。受け取ったかろんは、何故かもじもじしていて着替えようとしない。不審に思った頼香が尋ねてみる。

「ん? 着替えないのか?」
「あの……恥ずかしいんですけど……」
「あ、そっか」
日東小学校の制服を着てみましたが……やっぱりスカートが気になります。

 頼香は今でこそ果穂や来栖をはじめ、クラスの女子児童と共に着替えているが、女の子になった当初は、恥ずかしかったものだ。そういう意味では、三人の中で最も かろんの気持ちに気が付くのが頼香なのである。

「男だったんだよな。それじゃ、着替え終わったら呼んでくれ」
「はい、すいません」

 頼香達三人が医療室を出て行く。ドアが閉まるのを見届けて、かろんは小さくつぶやく。

「ボク、セルカバリィなのに友達だなんて……人間扱いしてくださるんですか?」

 かろんはタオルの合わせ目をぎゅっと握り、自分を起動してくれた人間達について考えてみる。自分の記憶している『人間像』とは違った女の子達。ミリーサス人と惑星連合人の性格の違いなのか、無邪気な少女故の親しみなのか、そのどちらかは分からない。

「信じられないですけど……信じていいですよね。ボクの身体を探すのを手伝ってくれる人達を……」

 自分なりの結論に達したのか、物思いに耽るのをふっとやめ、タオルをばさりと床に落とす かろん。今の身体はCCX-006、女の子の身体。男の意識を持つため、直視するのは恥ずかしい。だから、服を身につけた方がいいだろう。

 頼香から渡された衣服を手に取ってみる。ショウガッコウの制服と言っていたが、そのガッコウとは何なのだろうか。惑星連合という異文化もまた、かろんにとって試練の一つとして立ちはだかるのかもしれない。だけど、あの人達なら手助けしてくれる……そう考えながら、衣服に袖を通したのであった。







「何でスカートなんですかぁぁぁ!!!」







 そんな少女の声を艦内に響かせつつ、『U.S.S.さんこう』は静かな宇宙空間を地球に向けて進んでいたのであった。




<あとがき>


 らいか本編の最終回から約一年。続編の「らいか大作戦 Selfcavalies' Last-shine」をお送りします。作中では前作から数ヶ月後。仲良し三人娘がいつものように学校生活と連合の生活を楽しく送っているなか、新キャラを迎えての長編の幕開けです。女の子な身体のアンドロイド……よくあるキャラですが、かろんを「友達」として迎え入れた三人娘。さて、再探索に行くまでの2ヶ月間、どんな生活を送っていくのでしょうか。ご期待ください。

 連載に先立ち、MONDOさんが かろんを可愛く描いてくれました。本文の挿絵と共に、人物紹介もぜひご覧になってください。



<おまけ>


「ふぅ、収録終わった終わった。久しぶりって感じがしないな」
「今まで番外編や短編の収録もありましたからね」
「でも、地球とTS9の他にロケに行ったのは久しぶりだよね」
「冥王星ロケか。結構遠かったよな」
「エキストラの女の子がたくさんいらっしゃって♪♪」
「あのなぁ……」
「そうそう、女の子といえば新人の かろんちゃん」
「ああ。これから一緒に活躍するんでよろしくな。そんなところに立ってないで入って来いよ」
「あの……頼香さん……ボクってロボットなんですよね……」
「つーか、アンドロイドって事になってるけど」
「やっぱりそうなんですよね……3クール目から主役メカ交代なんですよね ・゜・(つд⊂)・゜・」
「はぁ?」
「果穂さんと見ていたビデオで言ってました」
「……何見てたんだ? 果穂」
「いや、某トミノなアニメをですね……」
「あのなぁ……いいか、かろん。mkIIだとかZだとかは無いと思うぞ……たぶん」
「そうなんでしょうか……」
「それはスポンサーの意向次第ですね」
「スポンサーって、何処だよ」
「長くなりそうなんで、このへんでね♪ これからもよろしくね〜」
「それじゃ、第2話でまた会おうぜ」
「ボクのこともよろしくお願いします m(__)m」


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