戻る

TS9緊急事態!極秘コンテナを守れ!
作:この市場


 通称TS9。正式にはTrans Space Nine。惑星連合の所管する宇宙基地であり、地球から1.5光年という距離にある。
 軍の管理下にあるとはいうものの、多くの勤務者を抱えた基地は、ひとつの小さな都市であるとも言える。特に、辺境に位置するTS9は、周辺に何もないだけに、「食」(食べる)・「遊」(遊ぶ)に関してもさまざまなものが揃っていた。ただし、あらゆるものがあるとは言っても、それらがすべての人々を満足させるに足る量があるわけではない。ここはリゾート施設ではないのだから。

 入港した貨物船から出てきたたくさんのコンテナが、自走台車に乗せられて行く。この中には非常に貴重な物も含まれている。
 だから、それらのコンテナは万一の盗難に備えて内容は記されていない。どれも行き先を記号化したプレートが貼ってあるだけだ。自走台車は、そのプレートに記録されている情報に基づいて目的地まで自走する。地球のAGV(無人搬送車)のようなものだと思ってもらえばいいだろう。

「いいかにゃ。この作戦には、ボクたちの未来がかかってるのにゃ」
 とささやくのは、猫耳の少女。キャロラット人だ。よく見れば、その周囲に固まっているのはすべてキャロラット人だ。10人ほどもいるだろうか。
 彼らは、リーダーの少女の言葉にいっせいにうなずいた。物騒なことを言っている割には、特に武器のようなものを持っているようには見えない。皆、手ブラだ。
 彼らがいる細い通路は人がかろうじてすれ違える程度の幅しかないが、すぐ近くで幅5メートルほどの通路と交差している。彼らの目的物は、その通路を通るはずなのだ。
 やがて、キャロラット人たちの目の前を、自走台車に乗ったコンテナが何台も通り過ぎていく。幸い、自分たちの他に人影はない。
 目を皿のようにしてコンテナを見ている彼らは、「OOS」と配送先が書かれているコンテナを見つけた。事前に得た情報によれば、その「OOS」という行き先こそが、彼らの欲する物の行き先のはず。
 しかし、目の色を変えて飛び出そうとする数人を、リーダーは黙ったまま身振りで制止した。
「待つにゃ。あれは違うにゃ。あれは何かのタネみたいにゃ」
 超能力のような鼻で、少女はその中身を嗅ぎ当てた。それは彼らの目的の物ではなかったのだ。

 「OOS」と書かれたコンテナの4台目がやってきた時、リーダーの少女の耳がぴくりと動いた。
「来たにゃ!コレにゃ!」
 リーダーの合図にキャロラット人たちは、いっせいに飛び出してコンテナの前を塞ぐ。
 びーっという警告音を発して、コンテナは止まった。危険を察知すると自動的に停止するようになっているのだ。
「まちがいない。こいつにゃ。さぁ、運ぶにゃ」
 一辺1メートルぐらいの立方体だったが、かなり重い。6人がかりでようやく持ち上がる。その間、残りの数人は周囲を見張る役だ。台車には経路追跡装置がついているから、台車ごと盗んでは足がつく。多少持ちにくくとも、上のコンテナだけを奪取する必要があったのだ。
「ずらかるにゃ」

 重い荷物を抱えてよたよたと走るキャロラット人たち。どうやら、警報も出なかったようだから、このままうまく逃げられそうだ。
 そう安心しかけた時だった。
「待てい!」
 その声のする方を見れば、ひとりの人物が立っていた。白色で統一されたその衣装を見て、キャロラット人たちは愕然とした。
「ま、まさか!そんなばかにゃ!」
 恐怖に引きつったリーダーの少女の声。
 コンテナの行き先の近くで待ち伏せれば中身がわかる可能性が高いにもかかわらず、あえて中身違いのリスクを冒してまで港に近いところで奪取したのは、こうなることを恐れていたからなのに。
 コンテナの行き先、すなわちこのコンテナの受取人には、絶対に遭遇してはならなかったのだ。なのに、なぜこんなところにいるのか。
 キャロラット人たちを恐慌に陥れたその人物は、あまり見慣れない妙な衣装を着ていた。エプロンに似た、体の前面を完全に覆う白い柔らかい繊維で作られたと思しき防護服。そして頭には白い布を三角形にしたものを乗せている。そして右手には銀色に輝く武器を持っていた。金属でできた柄の先に、中が空洞になった半球型のものが付いている。
 すさまじい怒りを発するその人物こそ・・・
「し、食堂のおばちゃんにゃっ!」
 そう言って後じさりするキャロラット人たち。
 この基地に住む人々すべての胃袋を満足させるといわれる食堂のおばちゃんは、短く厳しい言葉を投げつけてきた。
「おとなしく、それを置いていくか、さもなくば」
 その瞬間、手に持った不思議な武器から発するオーラが、リーダーにはハッキリと見えた。
 殺されるにゃっ!
 毛が逆立つほどの恐怖。ちりちりと胃も痛くなる。
 じりっじりっと近付いてくる食堂のおばちゃん。
「て、撤収にゃぁっ!」
 リーダーが叫ぶと、キャロラット人たちはコンテナを地面に投げるように置いて、我先にと逃げていった。
 あっという間に姿が見えなくなる。すさまじい逃げ足の速さである。食堂のおばちゃんは彼らを追いもせず、
「ふぅ」
 とため息をついた。そして、コンテナに近付くと「よいしょっ」と言いながら、そのコンテナを両手で持ち上げる。
「まったく困ったものだよ。梱包がきちんとしていないのかねぇ。魚の臭いが染み出してるじゃないか」
 コンテナを軽々と抱えながら、ぶつぶつ言いながら歩いていくおばちゃんであった。

「なんだ?食堂部からの苦情?」
 輸送部の自走台車係主任は、レポート用紙を束ねた分厚い苦情書を部下の手から受け取った。
「なんでいつも、わざわざ紙で苦情を言ってくるかね」
 文句を言いつつも、表紙をめくる主任。どう見ても50枚ぐらいありそうだ。
 部下が苦笑しながら、
「電子媒体や電子メールなんて信用できるかい、とおっしゃってますね」
 と答えると、
「いつの時代の人間だい。あいつはまったく」
 そう言いながらも一応は苦情書を読みすすめる。
 何かといえば、自走台車の警備についての苦情だった。警備がほとんどないのをいいことに、1台のコンテナがあやうく奪取されるところだったのだそうだ。
 そこまでで1ページ目が終わっている。
 主任はそこで苦情書を閉じた。
「2ページ目から後は読まないんですか?」
「どうせ、輸送の警備に対する嫌味が延々と並んでるだけだよ」
 そう言って、主任はその苦情書を自分の机にしまった。

 惑星連合宇宙軍の情報部に、TS9の近況報告が届いた。
「いつもながら、うまくやってくれるな。彼らは」
「そうですな。紙媒体というのは、検索されるおそれもありませんし、こうやって秘密にやり取りするためにはもってこいです」
 情報部からTS9に送り込まれているエージェントからの報告は、今回も非常に詳細だった。しかも、どうやって得たのかわからないような最高機密までも含んでいた。それは、レポート用紙49枚に、鉛筆でびっしりと書き込まれていたのだった。

◇◇◇おしまい◇◇◇


この作品の設定は、『らいかワールド』の世界観に基づいています。設定詳細は http://www.ts9.jp/ をご覧ください

戻る