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 ――二十数年前 惑星ロッシーワッツ 第三シャトル発着場
 シャトルの発着場は大勢の人間でごった返していた。発着場が人でごった返すのは日常のことなのだが、日常と異なるのは、その賑わう人のほとんどが藍色の軍服に身を包んでいることだった。出征直前、前線基地の発着場の賑わいであった。
 長きに渡る惑星連合との戦争もこの決戦で終結しそうだという噂が将兵の間に流れていたこともあり、士気は高く、表情もいつものような疲弊したものではなく、幾分かの活気と明るさを含んでいた。
「狐都理(ことり)大佐」
 あわただしい発着場で大尉の階級章をつけたキャニアス人が高級士官の通路を行く一人のリサールナル人を呼び止めた。
「ランドル中尉、じゃなくて、大尉に昇進したんだったな。おめでとう」
 呼び止められた狐都理は親愛の笑顔を浮かべて振り返ったが、呼び止めた方は不機嫌極まりない表情を浮かべていた。彼の茶色い少しカールした尻尾は抑えてはいるが、威嚇の表情を浮かべていた。
「ありがとうございます。狐都理大佐もご昇進なされたそうで、お祝い申し上げます」
「ありがとう。だが、お祝いを言うために呼びためた、という顔じゃなさそうだね」
「狐都理大佐。どうしても、往かれるのですか?」
「司令部から出征命令が出たからね。私個人で決められることではないよ」
 狐都理は軽く肩をすくめた。軍人ならば命令とあらば行かなければならない。そんなことは、学校を出たての少尉候補生でも知っていることであった。
「しかし! しかし、狐都理大佐! あなたなら本部に転属願いを出せば聞き入れてくれたはずです。どうして、そうしなかったのですか!」
「なぜだろうね? 私はこう見えても血の気が多い方かもしれないね。最前線で戦わないと気がすまないのだよ。特に今回は最後の決戦になりそうだから、なおさらね。まあ、こうやって中年が前線にしゃしゃり出てきて、若者の昇進する機会を奪っていることは悪いとは思っているけどね」
 狐都理は激昂するランドルを軽くいなすように答え、妙に神妙な表情で腕組みした。
「そんなことを言っているのではありません」
「茶化してすまない。だが、これまで死んでいったものたちへの責任というのがあるんだよ。わかってくれ」
 狐都理はそれまでの笑顔の仮面を捨て、本気で真面目な表情になり、真剣にランドルを見詰め返した。
「わかっているつもりです。でも、賢成鳥居院(けんじょうとりいのいん)提督は――」
 ランドルは狐都理の視線に気圧されながらも反論しようとした。
「あの方は、あの方のいる所はいつも最前線だ」
 しかし、その途中で狐都理に押さえ込まれ、ランドルはそれ以上、何も言えずにいた。ただ、彼を恨めしそうに見るしか彼にできることはなかった。
「まあ、言いたいことはまだありそうな顔をしているが、あまりのんびり話している時間もない。大尉の意見は帰ってからゆっくり聞くことにするよ。もちろん、私が帰らないと思っているのなら、引き止めてもいいがね」
 狐都理はその視線に少し耐え切れず、やや強引に言い争いに幕を引いた。
「卑怯ですよ、師匠。そう言われては、私は何も言えません」
 ランドルはため息混じりに両手を挙げた。
「私もそう思う。難儀な師匠を持った君の不幸だな」
 狐都理はやや自嘲気味に笑った。
「ご武運を。帰ってきたら、とことん文句を言わせてもらいます」
「ありがとう。覚悟しておくよ。武神の加護を」
 最敬礼でお互いの無事を祈るとそのまま何事もなかったように二人は発着場の無個性な雑踏の中に埋もれていった。




ちーぷすぺーすないん 4

平和の旗を織しもの達
― 前編 ―

作者名:南文堂


――かわねぎ司令対歌恩大使シミュレーション戦より一週間後――

 TS9の中心に位置するセンターユニットには、士官たちの宿舎があり、とうぜん、れも副司令も彼女の部屋を与えられていた。
「今日はご馳走さまでした。本当に美味しかったですわ」
 れも副司令はほんのりと顔を赤く染めていた。服装もいつもの軍服ではなく、おしゃれに若草色のスーツを着こなしていた。
 かわねぎ司令が歌恩とのシミュレーション対決後、勝つことができたお礼という名目で彼女を食事に誘った。今はその帰りであった。
「気に入ってくれて嬉しいよ。また、機会があれば一緒に行こう」
 かわねぎ司令もダークグレーのジャケットを羽織って、私服はトレーナーばかりの彼にしてはお洒落な格好をしており、その服装に似合うように爽やかそうな微笑みを浮かべた。
 しかし、本人が思うほど、爽やかさは演出できなかったのは、彼の努力不足というよりも、彼自身の資質の問題なので、それを責めるのは少々気が引けることであった。
「はい。ありがとうございます。それじゃあ、おやすみなさい」
 れも副司令は屈託のない笑顔で軽くお辞儀をすると、自分の部屋にさっさと入っていってしまった。
「あ、……おやすみ、れも君」
 流れるようなれも副司令の一連の動作にかわねぎ司令は上陸作戦のタイミングを逃し、別れの挨拶をするだけで精一杯であった。
 彼女がかわねぎ司令の下心を見抜いたわけではなく、彼女ならではの色恋ごとに対する天性の鈍さ故の動作であった。
(なかなか、上手くいかないな)
 かわねぎ司令は艦隊戦などのように思いのままとはいかないことに自嘲気味の笑みを浮かべて、名将の名に恥じない潔さでこの場は撤退することにした。
 自分の部屋にたどり着いたかわねぎ司令はジャケットを脱ぎ捨て、軍服の上着を代わりに羽織ると、ドアを完全ロックして、外から鍵を使っても中に入れないようにした。さらに、盗聴防止装置を作動させ、メインコンピュータにアクセスして、自室の監視システムをオフにし、一息ついてからそれらをチェックし、通信機に向かった。
「さて……TS9司令官、かわねぎ中佐。パスワード、『もけもけぷれらっときゃぴぴびしょうじょ』。秘匿回線TSSオープン」
 かわねぎ司令の声に通信ディスプレイが暗転して、認証のための文字列が浮かび、その後ろにOKの文字が現れ、流れた。
 画面には、その大きさに対しては少々多すぎる――九人の人間がマルチ画面で映し出された。
「皆さん、おまたせしました。TS9司令、かわねぎ。ただいま戻りました」
 かわねぎ司令は画面に向かって敬礼をした。そして、画面の人物たちは、それぞれ、別々の艦に乗艦しているにも関わらず、見事なまでのユニゾンを彼に浴びせた。
「かわねこたんじゃない!」
 いつも言われていることなので予想していたとはいえ、実際にこうまで見事に言われると腹が立つやら、呆れるやらで、かわねぎ司令の顔面は神経痛の症状を起していた。しかし、そんな彼を気遣う人は画面の中にはおらず、口々に「わかっとらん」「不快だ」「おいおい、楽しみにしてたのに」「空気嫁」「退役してさっさと変われ」などと好き勝手放題文句をたれていた。
 知らない人がこれを見れば、画面の彼らが惑星連合TSナンバーステーションの各司令官と第九方面軍司令だとは思いもしないだろう。
 かわねぎ司令が秘密裏に彼らを緊急召集したのであった。通信波の速度の問題で、0.3光年以上離れると通信にタイムラグができ、会話に支障が生じるため、開催を呼びかけた基地の近辺まで各司令が出向くことになっていた。
 TSナンバーステーションは惑星連合の要所である。各司令官の間で情報交換をしておくことは有益なことで、本来は軍規に違反しているが、議会も軍中央部もその重要性を認め、黙認していた。
「うるさい! 私が司令なんです! かわねこが司令じゃありません」
 ――重要な会話で、なんだかんだの数分経過――
「とにかく! 話を聞かないのなら、通信を切りますよ」
 「誰が司令か?」を9対1で議論し疲れ、半ば肩で息をしながらかわねぎ司令はディスプレイの九人を睨みつけた。
「まあ、そう言うな。れも副司令にふられてご機嫌斜めなことはわかるが、短気を起すな」
 細身の温和そうな壮年司令官が苦笑を浮かべながら、彼をなだめた。
「ふられていません! 紳士的に一時退――って、どうしてそんなことを?!」
「どうしてかは、後でかわねこたんに教えてやるから気にするな、かわねぎ司令」
 穏和そうに見ええも司令職についているだけあって、一筋縄ではいかない。画面に写る笑顔の向こうは宇宙よりも深い闇である。
「気にするな、って……。こっちは、面倒な強敵をシミュレーションで必死の思いで苦労して倒しているというのに……」
 かわねぎ司令は苦労を強調するようにがっくりとうなだれた。
「嘘をつくな! 勝ちを譲ってもらったくせに」
 先ほどとは違う、今度は鬼軍曹と言っても通用しそうな強面のずんぐりがっしりした中年の男が機嫌悪そうに吐き捨てた。その意見に他の司令も同意の声があがった。
「な、何の証拠があって、そんなことを!」
 明らかな狼狽しているかわねぎ司令に画面の人々は失笑を浮かべた。わざとらしい、と。
「最後の魚雷は避けるはずなのに、避けなかったからだ」
 銀縁眼鏡をかけた、ビジュアル系の俳優でも充分通用しそうな美貌の男が代表して証拠を示した。
「何故そう言いきれる? 回避運動すれば、陣形が崩れる危険があるのに」
「あれを避けて陣形を崩しても、被害はせいぜい駆逐艦一隻。TS9は防壁修復に全力を注ぐだろうからな。そうしないのなら、多少の損害は出ても、光子機雷をありったけ叩きつけられて、TS9は地獄の門が開くことになる。違うか?」
 美貌ではあるが、その鋭すぎる刃物のような雰囲気が連合の『遠くから見て眺めていたい士官』ナンバーワンの地位を任官以来、連続防衛させていた。名誉なのか不名誉なのか微妙であるが、本人いわく、誉められているのだから不名誉でもない。変に言い寄られないのは面倒でなくて良い。ということらしく、喜んでいるのだが。
「そうそう。だいたい、あそこで実弾撃つなんて、『このあたりで勘弁して』と言っているようなものだぞ。しかも、それを読まれて、勘弁してもらっているなど情けない」
 鬼軍曹司令はさらに追い討ちをかけた。
「うっ……だが――」
「手を抜いてもらったのをいかにも苦労したかのように言いおってからに。わしの若い時はなかなか手を抜いてくれなかったぞ、あの御仁は」
 最年長であろう威厳に満ちた初老――というにはいささか、かくしゃくとして若々しい男が、目を閉じて顎を撫でながら気に食わんと顔に書いて止めを刺した。
「い、いいじゃないですか、ワイアード提督。ちょうど潮時でしたし、お互いに並ではないと見せるだけの応酬もありましたし」
「最近の並は値下がりしているからな」
 初老の男、ワイアード提督は言い訳を許さないと、片目を開いてかわねぎ司令を睨みつけた。
「第一、あれを手抜きといえる人間なんて、そんなにいませんよ。少なくともここにいる人間以外で気がつくのは同盟にいる十数人ぐらいですよ」
「十数人は充分多いと思うがな」
「そうだな」
 他の司令はかわねぎ司令を全く援護するつもりはないらしい。容赦のない集中砲火が浴びせられた。
「どんな結果や経緯になっても文句を言うつもりだったんでしょ」
「その通り。かわねこたんが出てこない限り、文句は言う。当然だろう。それを読みきれなかった貴官の無策を恥じるがいい」
「残念でした。この通信は司令でしか開けません♪」
 胸を反らして勝ち誇ったかわねぎ司令だったが、そんなことで譲る人々ではない。
「だから、早く交替しろと――」
 ――とっても重要な会話を、そんなこんなで十数分経過――
「――貴官も強情だな。この件は別の機会にゆっくりと話し合おう。で、実際のところ、かわねぎ司令。彼女に勝てるか?」
 温和な壮年司令が銀河の向こうまで続きそうな平行線を断ち切って、連合と同盟の間に引く線に戻した。
「あまり意味のない設問ですね」
「じゃあ、彼女が自由に動けるとして、かわねぎ司令が彼女を確実に勝つのに用意するのはどれぐらいいる?」
「完全に勝つには彼女と同じぐらい自由で2倍。勝つだけなら、1.25倍ってとこですかね」
 要するに、格はやや下だが油断はできない。
「なるほど。両手の指には余るが、尻尾には入るか。良将だな」
 かわねぎ司令の見積もりは他の司令たちも同じであったらしく、ほぼ全員が頷いた。
「そうですね。しかし、彼女も戦争するつもりはなさそうです」
 かわねぎ司令は狐耳の女性を脳裏に浮かべながら微笑んだ。
「彼女は、な」
「とりあえず、彼女の身辺警護を怠らないことだな」
 銀縁眼鏡の司令は人差し指で眼鏡を直すと、出かける前にちり紙を持ったかと確認するぐらいの軽さで注意した。
「何か?」
「確証はないが、随分ときな臭い連中が活発に動いている。今回のシミュレーション対戦の結果を知って警戒レベルは下げるかもしれないが、連中の中にも手抜きを見破る奴がいるかもしれないからな。そうなれば……」
「連中にそれができるとは思いませんが、警戒するに越したことはないでしょう。わかりました。それとなく、警護のレベルを上げておきます」
 かわねぎ司令は苦笑を浮かべつつ、真剣な目で素直に忠告を聞き入れた。
「気づかれぬようにな。と言いたいが、あの御仁に対してそれは猫の首に鈴をつけるより難しいな」
「でも、気づかぬふりはしてくれます。それで充分です。では、提督。以上で通信を終わりにいたします」
 ワイアード提督の忠告に今度こそ、本当の苦笑を浮かべ、かわねぎ司令は敬礼した。それに全員が敬礼で答えて、画面がブラックアウトした。

 テラン本星の首都であるリトン特別区。そこにある連合評議会ビルから車で十数分の場所にある高級シティホテルの最上階スイートルームで男が一人、ガウンを羽織って、一杯が並みの労働者の日当ほどするブランディーを不味そうに飲んでいた。
 連合中のグルメ評論家が絶賛するブランディーが不味いのは彼の舌がおかしいからでも、保存が悪かったからなどでもない。彼のテーブルの前に広げられた報告書の責任だった。
 報告書にはTSナンバーステーション司令たちの秘匿回線を使用して開かれた会議の内容が記載されており、その内容は彼の味覚に悪影響を与えるだけではなく、頭痛さえも引き起こそうとしていた。
「まったく、こんなものが出てきては、おいそれと戦端を開くのは無謀ではないか」
 タカ派で知られた彼だが、戦いはいかに勝つかが問題であって、勝てばよいというものではないということは知っていた。
 連合は同盟よりも国力が上ではあるが、それはただ単に国土が大きいという理由からであり、その差は優位を主張できるものではない。広い国土の安定を計るために割かなければならない軍事力と予算が同盟との差をほとんど無くしてしまっている。
 そういったわけで、ここで同盟と戦端を開くにしても、それはごく小規模な紛争程度にとどめる必要があり、決着も短時間でなければならない。戦争とは長くやるほど損になるのは常識である。
 彼は戦争の種を、タカ派の中で最たるタカの復権急進派が惑星クロムジーに仕込んでいるのを知っていた。そして、彼はそれを制御して、彼の思う規模で、彼の思う長さで終わるようにできると自信を持っていたので、そのことは知らないふりしていた。
 しかし、報告書を読んだ彼には、種が自分の思う通りの実をもたらすかどうか疑問を感じずにはいられなかった。
 歌恩は無能な指揮官ではない。しかし、同盟にとってはおそらく、見込んでいなかった戦力、忘れられていた老朽艦のようなものである。それを失ったところで、痛くはない。
 そのことからも、同盟はおそらく、彼女にある程度の戦力を渡して、彼女を捨て駒に使ってくるだろう。そうなれば、非常に厄介である。彼女の老獪さは連合の古参軍人たちの証言を三割増しと見ても、充分に面倒であり、彼女の得意な戦術で戦場を引っ掻き回しにかかるだろう。そうすることで戦争の長期化を匂わせ、連合はチップをビットするかしないかの決断を迫られる。
「戦争を長期化して、経済に消えない傷跡を残した無能な政治家として歴史に名を残すか、歴史に名を残さなくとも平凡に一生を過ごすか……レイモンド、おまえはどっちだ?」
 彼は窓ガラスに映る自分の影に問いかけてみたが、夜景を向こうに写した半透明の彼は何も答えなかった。
 彼は苦笑を浮かべて、立ち上がると部屋の据え付けられたヴィジフォンに触れた。画面の向こうに現れたのは、彼の第三秘書で、若くて優秀だが才走ったところがあり、あと十年ほど妖怪の巣窟で尖ったところを丸く磨けば、よい政治家になると彼が評した男であった。
「シューマッハ評議会対策委員長を……いや、党の三役全員を至急呼び出してくれたまえ。明日の連合評議会の打ち合わせをしたい」
 それだけ彼に告げると通信を切った。そして、窓ガラスに映った自分の影を目の端に捕らえた。
「悪いな、レイモンド。私は歴史書に載る自分よりも、今、生きている自分の方が好きなのだ。そう、戦争などいつでもできる。私が死んだ後でもな」
 彼は自分の影に勝ち誇った表情を見せると、部屋着のガウンをスーツに着替え、呼び出した三役を迎える準備に取り掛かった。

 ヨーカスは最高評議会議事堂があるリトン特別区からみて、惑星の真裏に位置し、リトン特別区とは昼夜逆転することから、裏首都などと呼ばれているテラン有数の大都市であった。
 ヨーカスは自然融合型の都市計画がされ、都市機能のほとんどが地下にあり、地表に建っているビルはそのごく一部であった。ビルとビルの間に広がる緑地には歩行者用の遊歩道しかなく、ビルの壁面にはバイオテクノロジーで改良された植物がその表面を覆っているので、知らない人間が見ればヨーカスは都市ではなく緑の森と勘違いするだろう。たとえ、ビルなどの姿を認めて、都市だと気がついても、テラン有数の都市とは思わない。そんな都市であった。
 そのヨーカスの西側に位置するブロックの地下通路をやや背の低い小太りの男が額の汗をぬぐいながら歩いていた。
 地下通路は快適温度に空調されているが、この男にとっては少々高めなのだろう。ハンカチはかなり湿り気を帯び、それを当てたところで期待するほどの活躍はしそうになかったが、それでも、男は汗をぬぐっていた。
「あら? 社長さん、今、お戻り?」
 エプロンドレスをつけた三十路過ぎのキャロラット人女性がお店の看板を出しながら、少し媚の入った笑顔を向けた。
「ええ、女将さん、今戻りました。リトンもよいですが、ヨーカスは落ち着きますね」
 男は人のよさそうな丸顔に笑顔を浮かべ、人当たりのよさそうな物腰で挨拶を返した。
「ええ、私も大好きです。でも、社長さん、いつ見ても、警備会社の社長さんにはとても見えないわね〜……あ、誤解しないでくださいね。社長さんみたいに温和な感じの人が、警備とかそう言った激しいお仕事だっていうのはすごく意外で、でも、あんな筋肉隆々の社員さんたちをまとめているのはすごいってことで……」
 女将はフォローしようとすればするほど何が言いたいのかわからなくなって、ころころと変わる瞳を回して、混乱していた。
「ええ、わかってますよ。私はどっちかというと、事務屋なんですがね、社員のみんなが協力してくれるんで、助かってます」
「あ、そ、そうなんですか♪ で、でも、このブロックに社長さんの警備会社が入ってくれて助かりますわ。最近、テラン至上主義過激派とか、テロが多いでしょ? 警備会社が同じブロックに入っていてくれると助かりますわ」
「はははは、女将さん、警備会社は自分の会社を警備しているわけではありませんよ」
「ええ。でも、あんな筋肉隆々の人たちが出入りしているんですもの、テロの人たちも逃げちゃいますわ」
「なるほど。では、女将さんのところからも警備費を取らねばなりませんな」
「いやですわ、社長さん♪ でも、ちゃんと、社長さんのところの社員さんには盛りを多くしてるんですよ」
「おや? そうなのですか。それはありがたい。うちの連中はよく食べますからね」
「はい♪ おかげで売り上げ向上させてもらってますわ」
「こりゃあ、女将さんの方が商売上手ですな。うちも見習わないと」
「そんなそんな。今だって、社長さん自らリトンに営業なんて、大きな契約は取れました?」
 女将の言葉に男は少し顔の表情が強張った。
「あっ! ごめんなさい。立ち入ったことを訊いてしまって……」
「あ、いやいや。失礼。契約ですか? ええ、取れましたよ、大きいのが。それを考えてしまってね、いや、気を使わせてしまいましたな」
 男は表情を和ませて、いつもの笑顔を浮かべた。
「そうですか。それはおめでとうございます。お仕事、うまくいきますように願ってますわ」
「ありがとうございます。それでは、そろそろ、行かねばなりませんので、この辺で」
「はい、いってらっしゃい♪」
 女将に見送られて、男は自分の会社に向かった。
 T&R警備保障株式会社。これが男の会社である。設立して書類上は5年ほど経っており、年間に何件か仕事はしていることになっているが、実際にしているわけではない。それはカモフラージュ用の、あくまで書類上の仕事であり、つまり、実際は実働していない幽霊会社であった。
 しかし、数ヶ月前にここ、ヨーカスに設立以来、はじめて人間のいる事務所を構えることになった。男は実質的な初代社長であった。
 男が会社のドアを開け、受付に全員を会議室に集めるようにいうと一人、先に会議室に向かった。
 会議室はかなりの広さがあり、四十脚ほどが机と椅子が置いてあるが、普通の会議室と違い、車座ではなく、どちらかというと教室のような机の並びであった。
 その会議室で待つこと数分で会議室は三十人ほどの男たちで埋まった。彼らは全員が屈強な体つきをしており、まだ人数的には余裕のあるはずの会議室が急に狭くも感じるほどであった。
「大きな契約が決まった」
 前置きなしに彼はいきなりそう言った。会議室の男たちは当然のように彼に注目して、姿勢を正した。
「今回のターゲットは、TS9司令官、かわねぎ中佐と、トマーク=タス同盟TS9大使、玉山霊泉院 歌恩だ。知っての通り、すでに準備はほぼ完了しているので、実行はすぐにでも行える。TS9に潜行させた工作員からも『問題なし』と報告を受けている」
 彼は映画のように飾ることなく、端的に表現した。それは仕事が大きいから緊張しているのではなく、ただ事務的に処理すればいい仕事だと思っているからであった。
「今回の作戦は先方の要望により、なるべく混乱を引き起こし、その混乱の中で殺害してほしいということだ。よって、我々はかねてよりの段取り通り、TS9に侵入し、騒ぎを起こす。あとは工作員が同時、または時間差で施設の確保を行う。混乱に乗じて、二人を暗殺する」
 彼が作戦の概略を述べると、一番前の席に座っていた一人の男に目で合図した。目で合図された男は立ち上がり、回れ右してその他大勢の方へ向いた。
「TS9で我々の計画実行の障害になりそうな組織は、保安部と強襲艦の海兵隊だが、保安部は、数は多いが装備が貧弱で、海兵隊は逆に装備はあるが数が少ない。陽動でほとんどが出払うことになるだろう」
 それだけ言うと、再び前を向き席に座った。
「なお、今回の作戦は、同時に別の組織と合同で作戦を行う。詳細は後に述べる。が、指揮権はこちらにあるので、問題はない。作戦暗号名は『ネズミ捕り』とする――以上だ」
 男たちは無言で彼に敬礼し、会議室を出て行った。
 彼は表で見せた人のよさそうな笑顔の仮面を脱ぎ、背筋の凍るような冷酷な微笑を浮かべた。
(さようなら、女狐とネズミ主義者くん)

 ――数ヶ月後――

 惑星連合最高評議会与党の評議会対策委員長、アルバート・シューマッハは自分の執務室の椅子に体を預け、天井を見上げていた。テラン人の標準体重を軽くオーバーして、ダブルスコアも夢ではない彼の体を支えるだけに、その椅子も特注品で少し軋む音がするだけで耐えていた。
 若い時から彼の体形は今と大差がなく、市販の椅子の背もたれにもたれ、何脚もの椅子を廃棄処分場へと送っていた。おかげで、『椅子壊し』なる異名をつけられていたりする。もっとも、彼がやや多くなりすぎた評議会員数を減らす政策を立案実行した方に対してのあだ名とも言えなくはないのだが、若い時の椅子壊しの実績があったからこそというのも事実であった。
 彼がこのポーズをするのは何かを考えている最中で、その邪魔をしてはいけないことを彼の秘書たちは知っていた。そのため、取次ぎを一切断り、溜まっていく仕事を心配しながらも、彼の静かな時間を彼らの忠誠心にかけて守っていた。
 しかし、秘書たちが懸命な努力をして作っている時間は、彼らが思うほど有効には使われてはいなかった。彼が考えていることは、どちらかと言うと、プライベートなことであり、仕事をサボっていると言えなくもなかった。
(どうしたものかな?)
 昼間に彼と会食した地方議会の若手議員の一人が彼の歓心を買おうと自分独自で仕入れた情報を披露した。内容は――
「TS9で大規模なテロ活動を起こそうとする動きがあるらしい」
 たったそれだけであった。彼はその情報に大して関心を示しはしなかった。
(どうせ、詳しく聞いてもそれだけしか知らないだろうし、今後どう動くかの予想もなければ、どう動けばその情報を有効に有益に使えるかの意見もないのだからな……確か、アダムス派の議員だったな。奴に一言いっておこう)
 興味を示せば逆に若手議員が恥をかくだけなので無関心を装ったのだ。そのことを彼の派閥のトップから伝えてもらうわけである。間接的に言うことで反感も買わない。心遣いをしたこともあわせていっておけば、恩を感じる。老獪な政治家の基本技であった。若手とはいえ、敵は少なく味方が多いに越したことはない。
(しかし、TS9でテロの動きがあるのはどうやら本当らしいな)
 今は情報局の局長をしている彼のアカデミー同期にそれとなく訊いたところ、事実であることをそれとなく漏らしてくれた。もっとも、TS9でテロが起こるかもしれないなど、しょっちゅうある情報なのだが、局長の言うには今回は妙らしい。
(同盟の過激派がかわねぎ司令を狙っている。これもわかる。連合のテラン復権過激派が同盟大使を狙っているのもわかる。しかし、犬猿の仲の二つが協力していると言うのはどういうことだ?)
 今まではかわねぎ司令をはじめとするTS9のスタッフの努力もあるが、複数の組織がお互いに邪魔しあって大規模なテロが実行できないでいたということも事実であった。それほど、TS9は政治的に複雑な立場でもあった。
(しかし、二つの組織が協力されるとそのバランスも崩れるな……クロムジー危機が回避されたら、内側がきな臭くなってきたか)
 先日、独立政府が誕生して紛争が解決された連合と同盟の緩衝地帯にある惑星を思い出した。あの事件にもTS9が一枚かんでいることは裏の報告で知っていた。彼は更に背もたれに体重をかけた。
(まあ、かわねぎが死ぬのは別に構わない。死ねばそれまでの男だ。プレラットと一時的に不和が生じるかもしれないが、プレラットもいつまでもそんなことに拘っているほどおろかじゃない。関係は修繕できる。狐の大使も死んだところで、問題ない。そんなことは外交でどうとでもできる……だが……)
 TS9には彼の甥がいた。彼は結婚しているが、子供はなく、弟の子供――甥っ子にかける期待は大きかった。そして、まだ若く荒削りだが、甥っ子はその期待に応えるだけの資質は持っていると感じていた。
(よりにもTS9とは……軍人にするのを反対すればよかったかな)
 彼は苦虫を潰した表情になり、椅子から身体を起こした。そして、隣の秘書のいる部屋につながるインターフォンに触れた。
「今日のスケジュールを教えてくれ。少し変更する。今夜にでも情報管理局のドビッシー局長と話がしたい。セッティングを頼む」

 士官居住区で若い独身男性ばかりで固めている区画があった。通称“独身寮”と呼ばれている区画だが、そこに若者の胃袋をとりあえず満たすための自動販売機の軽食スタンドが設置されているのは、独身寮の住人にとっても自販機業者にとっても、喜ばしいことであった。
 カール・シューマッハ少尉はその軽食スタンドでブラックのコーヒーを片手に椅子の背もたれに身体を預けて天井を見上げていた。
(そういえば、アルバート伯父さんもこうして考え事するのが癖だったな。うつったかな?)
 彼が苦笑を浮かべていると褐色の肌をした長身の連合士官が近寄ってきた。
「おい、シューマッハ。いつまで続けるんだ? どだい無理なんだ? コンピュータアシストなしで駆逐艦を動かすなんて」
 彼のアカデミー同期で同僚である、アームストロング少尉が飲み終えた紙コップを握りつぶした。彼のことを呼捨てにする数少ない同期である。
「当然、できるまでだよ。悔しくないのか? 彼女らにできて、俺たちにできないなんて」
 WONDO教官の特別再訓練を受けて、彼らは一緒に訓練に参加した頼香たちの本当の実力を思い知らされた。
「相手はスーパー飛び級少女だぞ。元が違う」
 その言葉には以前のような蔑みはない。しかも、彼女らには軍隊で一番信頼される勲章――実戦経験もあるのだ。アームストロングは頼香たちを別次元のエリートと割り切っていた。
 しかし、シューマッハは、彼自身、海賊戦艦アビス事件で頼香の実力を実際に目の当たりにしているにも関わらず諦め切れなかった。
「アカデミーを出たのは同じだ。それに成績も悪くない。俺たちにできないわけがない」
 妬むのではなく、追いつく追い越すために自主的に訓練をしているのであった。が、志ほど成果は芳しくない。
 何が足りないのか。その理由を考えると自然と顔が地面の方に向いた。
「だけど、俺はWONDO教官の再訓練だけでくたくたなんだ。オートバランサー抜いて操縦とか、砂浜を鉄下駄履いて走るとか、とにかく、普通の訓練じゃないぞ」
 俯いて考え込むシューマッハに呆れた声でアームストロングが話を続けた。
「わかってる」
 アームストロングの言葉に俯いていたまま、早口で言い捨てた。
「わかってないな。お前はいつもそうだ。いい加減、自分は特別だって思うのはよせよ。疲れるだけだぜ。もうちょっと楽に生きようぜ」
 海賊戦艦アビス事件で特権階級的な角が多少は取れたとはいえ、十八年育てた角はそう簡単に丸くならないものである。
「お前は気楽でいいな」
 シューマッハは顔を上げて苦笑した。
「それが俺の取り柄だ。だから、お前の自主練にも付き合えるんだ」
 アームストロングは困ったもんだと言いたげにわざとらしく眉間に皺を寄せた。
「そうだったな……。それじゃあ、まだ付き合ってくれるな」
「かわいい女の子にそういわれたら、一も二もなく二つ返事なんだがな。ま、仕方ないな。お前とは腐れ縁だ。だけど、代わりに今度、飯おごれよ」
「俺もかわいい女の子にそういわれたら、一も二もなく二つ返事なんだがな。ま、仕方ないな。おごってやるから、付き合ってくれよ」」
 二人は互いに笑いあうと、それぞれ、自室へと引き上げた。
 自室に戻ったシューマッハは部屋に入った途端、気が抜けたのか急に全身を疲れに襲われ、ベッドに倒れこんだ。ヴィジフォンの着信音が鳴ったのは間も悪く、ちょうど倒れこんだときだった。
「誰からだ? こんな時間に」
 その着信音からメールとわかったが、ここのメールアドレスを知っている人間は身内の人間だけなので、無視して寝るわけもいかず、彼はかなりの努力を要して身体を起こした。
「アルバート伯父さんからだ……珍しいな」
 政治家をしている彼の伯父は多忙という言葉を形にした人生を送っている。そのために、なかなかゆっくり話すことはないが、それでも色々と自分のことを気にかけてくれている。それだけに無碍にもできないと、シューマッハは残った気力を使ってメールを再生した。
『やあ、カール。元気にしてるか?』
「ああ、くたくただよ、伯父さん」
 メールに返事をしても仕方ないのに、シューマッハはおどけるように返事した。
『どうだ、そっちの生活は? 辺境の軍事基地など不便だろう? こっちに戻ってこないか? お前ぐらいの経歴を持っていれば、作戦本部に席を置くものだろうに。かわねぎなど所詮、現場の一司令だ。お前はもっと大きくなれる』
「そうもいかない。このまま、ここを去ったら、一生負け犬だ。ここの連中は凄すぎるんだ。だから、俺もここの連中に正面切って張り合えるようにならないと帰れない。名前だけの提督なんてなりたくもない」
 自分自身の決意を固めるように画面に向かって答えた。
『まあ、そう言って帰ってくるくらいなら、最初に引き止めた時に思いとどまっているだろうな。お前は強情だからな。それでいい。それがお前の持ち味だ』
「ありがとう、伯父さん。伯父さんは俺の唯一の理解者だよ」
 彼の両親はテランでも有数の企業の社長で、一族はテランの名家で筆頭にあげられる、シューマッハ一族である。しかも、名門を支える一角を担っている実力者でもあった。カール・シューマッハはそんな両親の間にできた一粒種であった。
 したがって、当然のごとく、彼の両親や親族は彼の軍隊入りには反対した。ましてや、辺境のTS9に赴任など気が狂わんばかりであった。その中で唯一味方してくれたのが、彼、アルバート伯父さんであった。
『だがな、そこはお前が思っているよりも危険な場所だ。自分の安全は自分で守れるようにしておけよ。危険には近づくな。逃げるのも重要な戦術だ。勇敢に死ぬより、卑怯に逃げろ。生き残ったものが勝者だ。間違えるなよ。生きていれば、どうにかなるが、死んだら、シューマッハでも生き返らせられない』
「……」
 アルバートは有力政治家だが、話す時にどことなくユーモラスな雰囲気を持っている。だが、このメールはいつになく真剣な表情で、ユーモラスさを感じさせない。
「本当にヤバイことになっているのか?」
 シューマッハはそこはかとない不安を感じながらも、何かこの情報を知っているのは自分だけという優越感と、この情報を知っている自分が先手を打って、何かを阻止して英雄になれるのではないかという期待も感じていた。
「とにかく、情報を収集しよう」
 彼は疲れも忘れ、自動検索エンジンやハッキングソフトで情報収集を始めた。

 カウンターラウンジの一角が個室になっており、そこは防音と盗聴に万全を期してあった。例えTS9を統べる司令官であろうとも、モニターするには政府の正式な許可がいる場所であった。そのため、大事な商談などに活用されている。そのVIPルームで歌恩はよく冷えた烏龍茶で喉を潤していた。
 同盟と連合の親睦を深めるための非公式の会食というのが表向きの理由だが、本当の目的は他にあった。
「じゃあ、同盟の過激派がかわねぎ司令を狙って、連合の過激派が歌恩大使を狙っているんですね」
 メン・ホーコリーの言葉にれも副司令が秀麗な顔に苦渋の表情を浮かべた。
「おそらくは間違いない。ただ、気になるのは、お互いにそれを知っておきながら、何も知らないふりをしているようなのだ」
 かわねぎ司令がメン・ホーコリー少尉の言葉を肯定し、更に首をひねった。これまでなら、お互いにそれを知れば、その妨害に走る。妙なバランス関係がTS9の治安維持に一役買っていたのであった。
「おそらくはそれぞれの利害が偶然に一致した結果でしょうね」
 歌恩はれも副司令とは対照的に表情も何も変えず、他人事のようであった。彼女にとって物心つく前から暗殺陰謀と付き合っていたのでごく日常なのだろう。
「利害?」
 メン・ホーコリーが首をかしげた。
「同盟の過激派にすれば、私が殺されれば、それは充分に戦う意味ができあがる。連合と非戦を決定した同盟閣議も動くでしょう。それが望みよ。連合の過激派とすれば、かわねぎ司令が一緒に殉職すれば言い訳も立つし、うまくすれば同盟の陰謀だと言い返すこともできる。どっちにしても戦争するのが両方の目的みたいよ。火薬庫の火も消えたことだし、新たに火をつけるのはTS9が妥当でしょうね」
 火薬庫というのは、先日、新体制化で沈静化したクロムジー星系のことで、沈静する前にスーパーエキノコックスが散布されかけたりするなど『クロムジー危機』と呼ばれている騒ぎがあったのであった。公表はされていないが、その沈静化にTS9が深く関わっていたので、その場の誰もがわかっていたが、物騒な話を歌恩は平然と言い放った。
「しかし、なんだか変な話ですね。連合としては、かわねぎ司令がいればこそ、後方の憂いは気にしなくてすんでいるのに。先日のアメフラード騒乱事件で実力を見たでしょうに……」
 メン・ホーコリーはさらに首をかしげた。確かにTS9は戦略上で意外にも重要拠点である。そこの守将の優劣は戦況を左右する。
「そう。それがいけなかったわね。かわねぎ司令は事件が闇に葬られたとはいえ、救国の英雄。本当ならば、大佐に昇進して、バケツで勲章を山盛りは貰っているはずよ」
 歌恩は少し意地の悪い笑顔を浮かべながら、ちらりとかわねぎ司令の方を見た。無かったことにされた騒乱事件であるから、勲章を渡すわけもいかない。紛争解決の立役者の名簿にも彼の名前は見えない。
「勲章もらっても、大使館予算は増えないから意味は無いですよ」
 視線を受けた本人は正真正銘の本心を披露して肩をすくめた。彼は騒乱事件が終わった後すぐに、プレラット大使館のための設備投資稟議書を何食わぬ顔で軍司令本部に提出していた。もちろん、それは認可されて、早速、彼は業者を入れて、現在プレラット大使館は工事中であった。
 余談だが、大使館改装の機会にプレラットの大使が一時本星に帰国するとなって、かわねぎ司令は過剰とも言える護衛艦をつけようとして、プレラットの大使に「肩入れしすぎるのはよくないですよ」とたしなめられたという、かわねぎ司令らしいエピソードがTスポで記事になって、みんなの失笑をしっかり買っていた。
「でも、このことを非公式で聞いて、かわねぎ司令に心寄せる士官も増えるかもしれない。非戦を主張しているかわねぎ司令の人気が上がるのは連中にすれば頭の痛いことだと思う」
 WONDOが過激派の思考を推測して肩をすくめた。
「ということだから、かわねぎ司令を暗殺させれば、厄介払いついでに、かわねぎ派の士官も味方につけて一気に開戦気運も盛り上がる♪ 連中にすれば、妙案なのよ」
 歌恩は物騒なことを楽しげに口にして、れも副司令はそれに控えめにだが、はっきりと不快な表情をあらわした。
「そんな短絡な人たちに支持してもらいたくないな〜」
「英雄はそういうものよ」
 歌恩はかすかに笑みを浮かべた。本人の望むも望まないも周囲というのは無関心に進めていくのだ、英雄などになれば尚更。
「それで、暗殺の実行グループとかの情報はないのか?」
「はい……あるのはあるのですが……」
「副司令にしては歯切れが悪いな?」
 シェリルが怪訝な表情でれも副司令の方を見た。
「どうも、シューマッハ少尉が絡んでいるようなんだ」
「なっ?!」
 かわねぎ司令の言葉に同席のものたちがほとんど腰を浮かした。座ったままなのは、れも副司令と歌恩ぐらいだった。
「昨日から彼の端末が妙な動きを見せているのだ。――れも君」
「はい。中央のコンピュータに少尉権限を越えたアクセスをしようとした形跡が報告されています。使用されているハッキングのソフトは闇市で売られている初歩的なものですから、アクセスには失敗しています。その他にも市販の情報収集ソフトでそれらしい情報を収集しているログが残っています」
 れも副司令がログを見せた。もちろん、瞬時でわかるわけがないが、れも副司令が言うのであれば、誰も疑わない。
「しかし、妙な話だな。バレバレの諜報活動を今の段階でするなんて」
「そうですね、多少の改造はされているようですけども、確かに馬鹿にしているようなことですね」
 れも副司令はシェリルの言葉に頷いた。
「ということは、シューマッハ少尉が事件に関与しているとして、これは彼の勇み足と考えるれるな」
「彼は確かにスタンドプレーに走る傾向があるようだが……」
 WONDOは彼の再訓練を預かる教官として、彼のことを思い起こした。しかし、そこまでひどい勇み足をするほど愚かではないように感じていた。しかし、それよりも多少、生意気ではあるが、そういったことに荷担するほどバカでもないと信じたかった。
「……ということは、彼は何も知らずに餌にされているわけか」
 WONDOの表情を読み取ってシェリルは顔をゆがめた。利用される方も利用される方だが、利用する方の性質も悪すぎる。士官学校を出たばっかりの子供にすることではない。
「おそらく、そうだと思う。捕まえて営倉に放り込んでも何も知らないだろな。しかも、放り込んだら、シューマッハ一族の反感を買うことになるから、敵にしたら、暗殺を失敗してもこちらの敵を増やすのに成功すれば、それだけでも儲けということか……よし! 彼は陽動と考えて、監視をつけて泳がせよう。こちらはその裏を探ることにする」
 かわねぎ司令はそう決断を下し、秘密会議を解散させようとしたが、歌恩が手を軽く挙げて、それを制した。
「でも、それが罠かもしれない。拙い手でこちらを警戒させて、こちらの動きを監視する。こちらの情報収集能力と分析力を測るためにね」
「そっちの囮ですか……じゃあ、せいぜい、大きく見せて敵を威嚇して動きにくくしましょう。れも君、できるか?」
「できなくはないですが、一つ問題があります、かわねぎ司令」
 れも副司令はかわねぎ司令の命令に少し顔を曇らせた。
「問題? 確かに難しいが、君にできないとは思えないのだが……何だね?」
 かわねぎ司令が怪訝に訊き返した。
「それをするためには私はそれに集中しないといけなくなります。基地運営の片手間ではできません。というわけで、司令がちゃんと司令の仕事をしてくれれば問題なく命令を遂行できます」
 れも副司令は悪魔の笑顔を浮かべた。
「うぐっ……」
 その言葉に言葉を詰まらせたかわねぎ司令に、WONDOがれも副司令の後押しをして、
「なんだ、かわねぎ司令が通常業務をこなせばいいだけじゃないか。もちろん、嫌とは言わないだろう?」
 シェリル艦長も大きく頷き、
「問題にならない問題だな。私は海兵隊と対テロの訓練をしておかなければいけないから、手伝ってはやれないが、毎日、こつこつやっていけば、手伝わなくてもよいだろう」
 そして、歌恩が止めを刺した。
「連合と同盟の命運をかけて、真面目に普段の仕事をこなしてくださいね。同盟大使よりお願いいたします」
 こうして、後に『かわねぎ司令が真面目になった奇跡の一ヶ月』と呼ばれた一ヶ月が始まったのであった。

 秘密の会合が終わり、同盟大使館に戻ってきた歌恩は座敷の回転座椅子に座って天井を見上げていた。
「歌恩様。何かしっくりこないことでもあるんですか?」
 ココが歌恩の前にお茶を出して、その脇に座った。
「何か変だった?」
「何、というわけじゃないのですけど、なんとなく歌恩様にしては歯切れの悪い感じだったので……」
 ココは自信なさげに黄色い耳をやや伏せた。
「さすがに、ココにはばれてたみたいね。ココの感じたとおり、何か釈然としない感じなのよね。とりあえず、シューマッハ少尉には悪いけど、ダシに使わせてもらったのよ」
 歌恩は苦笑を浮かべつつ、落ち着きなく回転座椅子を左右に回転させた。
「チック・ミヤア中尉がこの間、作業通路が何箇所か壊れていて、それが司令のせいだと言っていたらしいのよ。でも、かわねぎ司令はそのことを知らなかったらしいの。ということはプレラットがかわねぎ司令と完全に一枚じゃない。何かもう一枚あるかもしれない」
 歌恩は自分の考えをまとめる独り言のようにココに話した。
「あの、どうして、そうなるのですか? 歌恩様」
 推論を進める歌恩にココが疑問をはさんだ。
「んーと、このTS9で作業用通路を完全に把握しているのは、DOLLのピナフォアちゃんとチック・ミヤア中尉、それとかわねぎ司令。この三人だけなのは知っているわね?」
 ココは歌恩の問いに頷いた。
「ピナフォアちゃんとチック・ミヤア中尉は、狭い通路でも動き回れる柔軟性があるし、もし通路が崩れるようなことがあっても生き埋めにはならない俊敏性もある。データに残っていない破棄された通路なのだから、危険はつきもの。通路探索は柔軟性と俊敏性は必要不可欠なの。だけど、かわねぎ司令はお世辞にもその二つに長けてるとはいいがたいでしょ?」
 ココは全く失礼とは思わずに再び頷いた。
「その理由は、通路の地図を作成しているのがプレラットの特殊任務部隊なのよ。その地図を全て暗記しているかわねぎ司令も只者じゃないけど、使用不可能になった通路や危険な通路は連絡があるはず。それがされていないということは、何かあると考えてもいいのじゃないかなと思えるのよ」
 しかし、歌恩はいつものように断言できずに唇を軽くかんだ。
「でも、それだったら、使えるのを使えないと連絡する方がよいと思うんですが」
「かわねぎ司令だけならね。でも、ピナフォアちゃんはともかく、チック・ミヤア中尉はかわねぎ司令の部下なのよ。その彼女が通れないはずの通路を通って、何かを見つかられると、それは非常にまずいことになるでしょ」
「でも、それだと普通に報告すればいいような気がしますね。わざわざ、危ない橋を渡る必要性がないですし」
 ココは当然の疑問を口にし、歌恩は一つ大きなため息をついた。
「そこがわからないところなのよ。ばれてしまえば疑問をもたれてしまうのに。ばれにくいとはいえ、こうやって実際にばれてしまっているのだから……」
 歌恩の頭の中で色々なケースが想定していったが、どれも釈然としない。相手が単なる間抜けとするのが一番楽であるが、そんな楽観は彼女の一番きらいな行動であったし、相手を間抜けとはいえないことは充分に知っていた。
「それでシューマッハ少尉に疑惑をかけたということですか」
 おそらく、何かするにしても情報の移動は必ず行われる。シューマッハに焦点を合わしているが、そのほかにも監視の網は張られることになる。その網に引っかかるのを待つのが歌恩の狙いであった。そのためにはれも副司令の情報分析能力が必要となり、彼女が専任してもらわないと無意味なのであった。
「れも副司令が知ったら、どうしてそう言ってくれないのですか? と怒るでしょうね」
 ココはれも副司令の性格を思い出して苦笑を浮かべた。情報のプロだが、そういうところは妙に情に流されるのが彼女の欠点であり、魅力であった。
「悪いとは思ってるけど、さすがに言えないものね。ブンドがいれば、ブンドにさせたんだけど、出稼ぎ中だものね」
 歌恩は黄色い耳の後ろを軽くかきながら苦笑を浮かべた。
「歌恩様、ブンドさんは情報のプロじゃないですよ」
 すでになんでも屋さんになっている彼に少し同情した。
「でも、ブンドなら何とかするでしょう。器用の上に貧乏がつくほどだもの」
「確かに……それだと、やっぱりシェリル艦長と引き分けたのが……」
 ココは自分の落ち度を見つけ、少し耳を垂れさせた。
 歌恩たちは、ココとシェリルが対戦し、その勝負を賭けにして胴元で儲ける計画を立てていたが、ココとシェリルが引き分けてしまったので、掛け金払い戻しになったのであった。
「賭けの収益はなかったけど、あったとしてもアレの開発費を賄うにはかなり足りないから、ブンドの出稼ぎは決定だったのよ。ココが気に病む必要はありません。それに――」
 歌恩は来月のカレンダーに丸がされた親善使節団来訪の予定日を見ながら、
「きっと、れも副司令なら何かを見つけてくれるはずよ」
 彼女は自分に言い聞かせるように言って、話を打ち切った。

 司令本部で真面目に仕事をする羽目になったかわねぎ司令は、司令本部の卓上ディスプレイに映し出された面倒な仕事を嫌々こなしていた。嫌々ながらも、やるとなれば手抜きはなく、れも副司令以上の厳しいチェックがされて、司令本部はいつにもなく程よい緊張感に包まれていた。
 れも副司令がこの理想的な司令本部の様子を見て、思わず嬉し涙を浮かべたのは、彼女の苦労が今までいかほどであったかを雄弁に物語っていた。
「司令、クレイソン代表が面会を求めて来られているのですが、いかがいたしましょう?」
 仕事に集中しているかわねぎ司令の邪魔はしたくなかったが、相手が相手だけに無碍にもできず、司令の仕事の手を止めることにした。
「クレイソン代表が? アポは明日だったはずだが、まあ、いい。会おう。民間と協調するのも司令の重要な役目だからな」
 そういいつつ、仕事を中断できることがよほど嬉しいのか、鼻歌交じりに軍服の上着に袖を通した。
 しかし、クレイソンの持ってきた話は全く嬉しくない内容だった。
「クレイソン代表。こんなことがまかり通ると思っていらっしゃるのですか?」
 クレイソンの話を聞き終わって、れも副司令が呆れかえってそう言った。もちろん、かわねぎ司令もれも副司令と同じ意見であった。
「私たちは本気です。だって、そうでしょう? 私たちの安全を保証してくれるはずの司令はときどき行方が知れなくなる。基地にいる時間なんてホンのわずかじゃありませんか。れも副司令が代理司令の時はともかく、年端も行かないキャロラットの少女を司令代理にしている時もあるそうじゃないですか。そんなわけもわからない人間に安全なんて任せていられますか? 一体どうなっているのですか? わかるように説明してもらわないと私たちも安心できません」
 クレイソンは無茶苦茶をしているのはそっちの方だと一歩も引かないつもりで、いつもより強硬な態度で二人に対峙していた。
「それはですね……」
「軍事秘密です」
 何かいいかけるれも副司令を制して、かわねぎ司令は真面目な顔でクレイソンの疑惑をシャットアウトした。ここのところシリアスモードで仕事をしていたおかげで、なかなかに迫力のある表情を作れていたが、クレイソンの方も今度ばかりは譲らない。
「何でもそれで済ませようというのは軍の悪い癖だ。そんなことで騙されて、泣きを見るのはいつも民間人だ」
 クレイソンの言い分にも一理も二理もあるために、かわねぎ司令もこれ以上強くは言えない。しかし、軍の秘密を民間においそれと漏らしていては基地の防衛は難しくなることこの上ない。民間人の中に海賊や同盟のスパイがいるのは確実である。そして、おそらく、軍内部にも。漏れ出す機密をどうコントロールするかが平時における基地の情報戦略の基本である。れも副司令がそれを担っており、それは合格点以上の成果を挙げている。
「しかし、だからといって民間警備会社を常駐させろなんていう無茶が通るわけがありません」
 少なくともTS9は軍事基地なので、その中に警備会社があるというのは、いささか奇妙なのであった。
「他のトランススペースステーションでもあることだ、前例がないわけではないでしょう。それにこっちは軍司令部にも了承を取ってあるのです」
 そういって彼がテーブルに広げた書類は確かに軍司令部の正式な許可証であった。
(軍司令部の連中、逃げたな)
 その許可証を見て、かわねぎ司令は暗澹たる気持ちになったが、表面上は平静を装った。
「クレイソン代表。代表の意見はわかりました。軍としてもできるだけ民間の要望に答えたく考えております。しかしながら、事が事ですので、回答にしばらく時間をいただけませんか?」
「いつまでですか?」
 裏工作の時間は与えないというつもりだろう、クレイソンはちょっと高圧的に訊いた。
「明朝でよろしいですか?」
 それを馬鹿馬鹿しいとも思ったが、言えずにかわねぎ司令は真面目に答えた。
「よいでしょう。それでは色よい返事を期待していますよ、かわねぎ司令」
 クレイソンは大事そうに書類をかばんにしまいこむとわかりやすい勝ち誇った顔で応接室を後にした。
「どうしますか、司令?」
 クレイソンが完全に去ったことを確認するとれも副司令はかわねぎ司令にため息をこめて尋ねた。
「許可証を発行した。ということは、許可はしたけど、実際に許可するのは現地の司令の権限だからな。面倒なことを押し付けて、本部は知らん顔するつもりだろう」
 クレイソンが警備会社を常駐させる最大の目的は脱出用の船舶の確保。警備会社の船をTS9に係留させることである。もしもの時はそれを使って逃げるつもりであろう。
 宇宙港の使用は現地司令の一存で決定される。本部の許可があってもそれに実行力はなく、実行力があるのは『命令書』だけであった。クレイソンはそれを知らないので、許可証を葵の御紋のように考えているのだ。
 しかし、実行力がなくてもクレイソンが許可証を発行させたということは中央にパイプを作ったということである。許可証を無効にすれば、中央から嫌がらせが入るのは必至である。
「司令が真面目に仕事をしていれば、こんなことにはなりませんでしたのにね」
 れも副司令がとげのある台詞でかわねぎ司令をちくちくと突き刺した。
「そうだな。君やワイアード提督が得体の知れない少尉に司令代理をさせなければ、こんなことにはならなかっただろうにな。とにかく、提督にも言っておかなければならないし、その許可された警備会社、えーと……」
「T&R警備保障株式会社ですね? 一応、調べておきます。でも、軍司令本部のチェックもされているはずですから、それほど心配ないかと思いますが」
「そうだな。まあ、念のためにチェックは頼む」
 その数時間後、クレイソンが既に先手を打っていたことが判明した。彼が会合を今日に前倒ししたのは、チェックメイトの手順のためだった。

『宛て:TS9司令 かわねぎ 中佐
 発信:第九方面軍司令 ミッチェル・ワイアード
 件名:かわねこたん存続のためにはいかなる犠牲もいとわん
 内容:かわねこ司令代理を認めさせるためだ。港の一つや二つ、貸してやれ。警備会社がごろつきで治安が悪化したら、大手を振ってたたき出せばいいだけだ。かわねぎ中佐からの反論は許さん。かわねこたんなら聞いてやる。だけど、司令じゃないからなぁ……そういうことだ。以上』

 翌朝、司令部を訪れたクレイソンに疲れきったかわねぎ司令が警備会社の常駐とその所有船の係留了承を伝えた。

 HIKQは昼の忙しさがひと段落して、客が引けた隙を見て食事を取り、新聞を広げた。
「警備会社。TS9に入港から一週間……か。もう、そんなに経つのか。ふーん、警備会社の人々は紳士的で地域の人たちから信頼が寄せられているらしい、か。なんにしても、平和なことはいいことだ」
 新聞をめくりながら記事にざっと目を通した。
「そうだな。平和なことはいいことだ。いけるかい?」
 オヤンジュが暖簾をくぐって入ってきた。
「へい、いらっしゃい。いけますよ」
 HIKQは新聞を畳んで厨房に立った。
「じゃあ、ラーメン一つ。それと、プレラット乾燥麺一つ。その警備会社の連中、うちの保安課にも受けがよくてな。最初は何かと嫌っていたんだが、保安課の方を色々と立ててくれるもんだから、最近は仲良しらしい」
「そんなんで大丈夫かよ、うちの保安部?」
 オヤンジュがカウンターに座ると彼の肩から一人のプレラット、もぐっちがテーブルに降りてきた。
「仲良くするのは悪いことじゃない。いがみ合って、問題起こすよりもよっぽどましだ」
 オヤンジュは水を少し口に含んで一息ついた。
「確かにね。迷惑するのは私ら市民ですからね」
 ラーメンのスープを準備しながらHIKQはオヤンジュに相槌を打った。
「しかし、二人がセットで来るなんて珍しいですね」
「精密部品の旋盤オペレータに引っ張り出されたんだ。ラーメンぐらいはおごってもらわなくちゃ、割に合わん」
「ミケネの腕も悪くないがな。万全を尽くしたかったからな。こういうのは得意だろう?」
「まあ、そうだが。あんな部品を使うってことは、パーソナルレベルのシールドシステムか。海兵隊にでも頼まれたか?」
「変な詮索はしないでくれよ。一応は守秘義務があるから話せないんだよ。が、パーソナルシールドは正解だ。テストも終わって、さっき、引き渡してきた。……そうだな。海兵隊に売り込んでみると面白いかもな。あとで司令に話してみよう」
 オヤンジュは海兵隊が使うのであれば、もう少し大型化してやっても問題なさそうだ、などと次のステップの改造に思いをめぐらしていた。
「しかし、なんだな。そんな便利なシールドがあるなら護身用にうちのかみさんにも持たしてやりたいな。へい、お待ちどう」
「違うだろ? ヘルメットやプロテクター代わりに使いたいんじゃねーのか? HIKQの場合は」
「ばれてたか。まあ、安くなったら、考えてくれよな。売れると思うぞ」
 もぐっちに突っ込まれ、にかっと笑ってHIKQは答えた。
「あ、そういえば、かわねぎ司令がシェリル艦長にバイクを一台用立ててくれといわれたんだがな。スペックが今の手持ちの奴じゃ、間にあわねえんだ。HIKQのバイクを貸してやってくんねーか? 新車が買えるだけの使用料は出すっていってるんだ」
 もぐっちはふとかわねぎ司令に頼まれていたことを思い出して、HIKQに伝えた。
「急ぎなのか?」
 HIKQのバイクと同型なら、取り寄せれば一ヶ月ほどで届く代物である。
「らしいな。バイク乗りが自分のバイクを他人に貸すのがどれだけ嫌かはわかっているが、どうやら遊びじゃないらしい頼まれてくれないか?」
「ふむー。まあ、シェリル艦長になら安心して貸せる。構わないと言っておいてくれ」
 HIKQはしばらく考えたが、快く了承した。あれから何度もシェリル艦長にバイクを試乗させているのでその腕前はわかっていた。バイク乗りはバイクも大事にするが、仲間も大事にするものである。
「ありがとう。恩にきるぜ」
 もぐっちはHIKQの心意気に心の底から感謝した。

 同盟所属を表すマークを船体に大きく描いた航宙船が連合の領域奥深く、漆黒の宇宙を音もなく進んでいた。
 連合と和平を結び、お互いに行き来するのでさして珍しい光景ではないが、TS2のある第二方面からテラン星系あたりに限った話で、同盟から見て、連合の奥地と言えるTS9の第九方面になると珍しい光景であった。
 かといって、第九方面には同盟所属の船舶が航行していないのかと言うと、そうではない。第九方面でも同盟所属の船舶は多く航行している。しかし、彼らはこの宙域では連合所属の信号を発信しているのである。
 同盟所属の船舶が海賊に襲われても連合軍が全力で助けてくれるという保障はどこにもない。もちろん、ワイアード提督がそのようなことをする人物ではないことは知っていたとしても、その部下全てがそうとは言えない。海賊にしても、同盟所属と連合所属の船舶があったら、心情的に同盟の船を襲う可能性が高い。
 そう言ったことで、一種のお守りのようにこの宙域を航行する船舶は連合所属の識別信号を発信するのであった。連合側もこれをローカルルールとして、暗黙の了解をしていた。
 ちなみに歌恩大使がジーザ船長の貨物船で赴任したのは、輸送で儲ける以外にも、第九方面を熟知しているベテラン航宙船乗りの船の方が百光年先まで同盟所属を宣伝して回るようなチャーター機よりも安全と考えがあったためである。
 したがって、今、第九方面宙域を粛々と航行していながら同盟所属を明らかにしているこの航宙船は『珍しい』のであった。
 しかし、この船を襲う海賊はよほど同盟に恨みを持ったものか、よっぽどの物好きか、バカだろう。なにせ連合軍所属の駆逐艦3隻に護衛された同盟少年少女親善使節団の乗っている巡洋艦ブルステンなのだから。
 巡洋艦ブルステンは軍艦であるから本来なら余分で快適な居住区などは無いのだが、使節団を乗せることが決定し、一部の改良が加えられ、使節団の少年少女たちが比較的快適に連合まで船旅を楽しめるようになっていた。
 その改造された区画でミーティングルームにあたる大きな部屋のソファーに何人かがたむろしていた。
「玉山霊泉院大使ってどんな人かな? この写真だとすごく美人よね♪」
 そのたむろしていたうちの一人、リサールナルの少女が少年少女親善使節団のパンフレットの一ページを観ながらため息をついた。
「最近任命されて、すぐに赴任しちゃったから写真は若い時のだって。確か、前の大戦の頃らしいよ」
 青年といっていい年齢のキャニアスの男の子がその少女に教えた。
「なーんだ、じゃあ、もう、おばんか。期待して損した」
 その青年の後ろを通りかかったキャニアスの少年がリサールナルの少女に聞こえるように大きな声でそう言った。
「おばんなんて失礼ね! きっと素敵に年を取ってるに決まってるわ。ああ、あたし、憧れちゃうなー。名門に生まれながらも男勝りに艦隊を率いて前線で兵士と苦楽を共にして、退役したら家に頼らず財を成した行動力。陛下の直接のお声がかりで特命全権大使……あたしの目標だわ」
 少女は少年に対してきっぱり否定してから、パンフレットを胸に抱いて少し夢見心地になっていた。
「むりむり。なんでも普通のお前に真似できるかよ。あ、でも、一つだけ真似できるぜ、結婚しないこと。これだったら、余裕でクリアーだ」
 その夢をぶち壊すように少年は意地悪そうに指摘した。
「ふーんだ! そういうあんただって、それ以外は真似できないでしょ」
「なんだと!」
「なによ!」
 犬と狐のにらみ合いで一触即発で異種格闘戦が繰り広げられるところであったが、青年が苦笑を浮かべながら二人の間に割って入った。
「まあまあ、キースもベレッタも、二人とも喧嘩はしない。大使はすごい人なんだし、真似するのは確かに難しいけど、お手本にすることぐらいはできるだろ、キース? ベレッタも玉山霊泉院大使を目標にするのなら、こんなことで怒っちゃいけないよ。わかるね?」
 青年の仲裁で二人は渋々ながらも自分の非を認め仲直りの握手をした。
「うん、偉いぞ、二人とも。二人は歌恩大使に興味があるようだけど、僕はかわねぎ司令の方が興味あるなぁ。どんな人なのかな?」
 青年はさり気に話題を変えた。
「連合きっての武将なんだろ? きっと、すごく堂々として兵士からも尊敬されてるんだよ。そうじゃなくちゃ、名将なんて呼ばれないからな」
 少年が憧れの念を含ませながら断言した。
「だけど、名前は間抜けだよな、『かわねぎ』ってさ。おいしそうとは思えても、偉そうには思えないよね」
 いつの間にかやってきたラファースの少年が話に加わった。
「プレラットとテランのパイプ役をしていて、プレラットの信任が厚くて、功績を認められ、プレラットネームを贈られたらしいよ、良明(りょうめい)」
「すげえな。プレラットの人は表面上仲良くしても、なかなか認めてくれないらしいからな。やっぱり尊敬されてるんだ。大使もすごいけど、やっぱり俺は前線指揮官のかわねぎ司令を尊敬しちゃうな」
 キャニアスのキースが手のひらにこぶしを打ちつけた。
「おいおい、あんまり肩入れして亡命するなよ、キース」
「亡命なんてするわけないだろ? そうなったら闘えないじゃないか」
 青年のつっこみにキースはきょとんとした表情で言い返した。
「そうさ。俺とキースで一緒にかわねぎ司令をやっつけるんだからな」
「もちろん」
 いかにも戦闘民族らしい受け答えに青年は思わず苦笑した。
「おーい、君らは一応、親善のための大使なんだからな。戦争なんてしないに越したことはないんだ。学校でも習っただろ? 闘うのは最後の手段だって」
 青年のお説教を不満満面で少年二人は聞いていたが、そんな二人を無視するかのように、リサールナルの少女、ベレッタがパンフレットのかわねぎ司令のページを指差して文句を言った。
「でも、顔写真をプレラットにしちゃうのは反則だと思うわ。これじゃあ、かわいいとは思っても、かっこいいとは思えないじゃない」
 いかにも女の子らしい発言だが、他の女の子たちも同意見だったらしく、ベレッタの周りに集まってきた。
「もしかして、すごくブ男なのかもしれないわね」
「でも、噂によるとTS9の司令官はすごく可愛いらしいわよ」
「かわねぎ司令って、いい年のオッサンでしょ? 可愛いっていうのはちょっと苦しいわよ」
「でも、ちょー童顔で可愛すぎて威厳がないから顔写真を非公開にしてるのかしれないわよ?」
「紅顔の美少年だったら萌えよねー」
「次の祭のネタ決定ね」
「強襲艦の艦長とか、副司令に攻められて……ああん、考えただけでぞくぞくしちゃう」
「お前ら、妄想しすぎだぞ。ベレッタがお前たちみたいな趣味に走ったらどうするんだ」
 キャニアスの青年が顔を赤くしながら集まってきた彼と同世代の女子たちに注意した。
「いいじゃない、昌伸(まさのぶ)。別にこれぐらい。ベレッタも平気よねー?」
 などと同意を求められて、ベレッタもちょっと赤い顔をしながらも「うん」と頷き、青年の注意はあっさりと流されてしまった。
「なんで、女子はこういう時は妙に結託が強いんだ? ――そう言えば、TS9は美少女が多いので有名らしいな。有名なのは10歳の美少女少尉がいるんだって」
 昌伸は軽くため息を突いた拍子に思い出した豆知識を披露したが、その瞬間、周囲が固まった。
「10歳?! ロリコンじゃん。お前、もしかして……」
 昌伸の発言に彼と同年代の男子が疑惑の目を向けた。女子たちは今更ながらベレッタなど小さな女の子を後ろに隠し、汚物を見るような視線を彼に向けた。
「ちがうちがう! 僕はロリコンじゃない! そういう噂なんだよ、なぜか可愛い子が多いらしいって。宇宙の七不思議って言われてるんだ。本当だって!」
 昌伸は必死に誤解を解こうとして大きな身振りで否定したが、その効果は薄かった。
「わかってるよ、昌伸。お前がロリコンだろうと、俺たちの友情は変わらないよ」
 誤解は解けなかった代わりに理解はされたようで、生暖かく見守る視線で肩を叩かれた。
「だから、違うといってるだろ!」
「安心して、昌伸がロリコンでも、ちゃんとしていいことと悪いことがわかっているロリコンだと信じてるわよ」
 女の子たちも理解を示したように優しく微笑を浮かべた。
「だーかーらー!」
 昌伸は顔を真っ赤にして必死で否定した。それを見て、全員が一斉に大爆笑した。その爆笑で自分がからかわれたとわかり、彼は一人むすっとした。
「わるかった、昌伸。しかしまあ、可愛い子が多いのは楽しみだな」
 目に涙を浮かべながら、からかっているとしか思えない慰めの言葉をかけた。
「そういってる、お前がそういう趣味だったのか?」
 彼は失礼な慰めをした友人に仕返しとばかりにやり返した。
「可愛い子が嫌いな人がいて?」
 しかし、友人の方が一枚上手であり、うまくかわされてしまった。
「僕が悪かった」
「わかればよろしい」
 彼が敗北を認めたことで一同が再び笑い声を上げた。今度は彼も一緒に。

 TS9司令本部会議室の入口に海兵隊員を配置し、厳重な警戒の中、会議が開催された。
「情報部からの報告では、テロの決行日は同盟から親善使節団がやってくる日だろうということだが、結局こちらでは何も出ずか」
 シューマッハを泳がせてみたが、テロリストとの接触は見られず、空振りに終わった。
「はい。ですから、ほぼ間違いなくシロでしょう。少尉が妙な動きを見せる直前にメールが届いています。そのメールの内容を読んで動いたのだと思われます、司令」
 れも副司令は少し疲れた表情であったが、どことなく明るい表情でかわねぎ司令に報告した。
「どんな内容だ?」
「はい。TS9で危険な事件がおきる可能性があることを示唆したものです。シューマッハ少尉はその情報を得て、何かしらの手掛かりを掴もうとして動いたのではないかと思います」
「そういう報告は彼から受けていないが?」
 かわねぎ司令は首をひねった。彼なら喜んで報告してきそうなものだと不思議に感じた。
「おそらく少尉は手柄が立てたかったのでしょう。それに、そんな曖昧な情報を持ってくるのは少尉のプライドも許さないと思います」
 れも副司令がかわねぎ司令が少々、過少に見ているシューマッハの人物像をやんわりと訂正した。
「彼らしいな」
 WONDOが困ったと安堵の中間の苦笑を浮かべた。
「どっちにしても、少々叱ってやらなくちゃいけないな。よし、その件はいい。ただし、念のため、警戒は解かずに監視をつけておくように。使節団の来訪中は自室に謹慎しておいてもらおう」
 人手は惜しいが、経験の浅い少尉ぐらいなら不安要素と秤にかけて外すことにはためらいもなかった。
「シューマッハ少尉に気づかれないようにそうしておきます。次にですが、情報工作をしている時に気がついたのですが、プレラット居住区での情報流量が普段よりも多く、それと連動するようにメインフープ3時区画空調管理ユニット周辺でも情報流量が多くなっていました」
 れも副司令が資料を中央の立体ディスプレイに映し出した。
「3時区画はプレラット籍の船が係留してある場所だな。何か問題があったのか?」
 かわねぎ司令は身を乗り出してディスプレイを注視した。プレラットがらみだと真剣みが三倍ほど違う。
「プレラットに関しては司令が知らないことを私たちが知っているわけがありません」
 れも副司令はにべもなくそっけなく答えた。
「そんなに誉めないでほしいな。てれちゃうじゃないか」
 何か嬉しそうにかわねぎ司令は本気で照れて、頭をかいた。
「誉めてません!」
「それはそれとして、問題が起こって居住区の情報量が増えるのは自然と言えるけど、空調管理が増えてるのは変だな」
 シェリルが痴話喧嘩は後でしてもらおうと話を強引に進めた。
「たしか、チック・ミヤア中尉の報告のあった崩壊していた作業通路がそのあたりだな……ふむ。調査させておいた方がいいな。もけ大尉、プレラットで調査隊を組織して調査に当ってほしい」
「了解でしゅ」
 その他の情報といえば、同盟の過激派の活動が今ひとつ鈍いように見える。など、確たるものがない曖昧な情報ばかりであった。
「ところで警備会社の連中はどうだ?」
 オカルト番組で紹介されるような情報ではないが、それでも推測の域を出ない情報ばかりにかわねぎ司令は攻め方を変えることにした。
「特に何もしてませんが……」
 その件に関してはワールウィンドの副長、ネルソンが当たっていたが、彼らしくもなく言葉を濁した。
「何かあるのか?」
「大人しすぎるんですよ。辺境に警備にくるとなれば、はっきりいって、海賊と紙一重の奴らのはずなんですが、奴らは恐ろしく統率が取れてます。ただの警備会社にしてはできすぎです」
 ネルソンは胡散臭さで顔を顰めて自分の感想を含めて報告した。しかし、これといった証拠もないのもまた事実であった。
「軍本部のお墨付きだから、中央でばかり仕事してたんだろう。経歴もそうなっているようだし。しかし、ネルソン副長がそう言うのなら警戒した方がいいだろう。この件は、バルバ少佐、君たち保安課で監視をしてくれ。頼りにしている」
「了解しました、司令。お任せください」
 保安課の課長である少佐が敬礼で答えた。ここのところ海兵隊が幅を利かせていて、それをよく思っていない彼は対抗意識を燃やしている。かわねぎ司令としては、その感情の矛先をちゃんと相手に向けさせることが最大の仕事であった。
 かわねぎ司令は一通り報告を受けると、隣に座っている歌恩の方に向き直った。
「ということです、歌恩大使。ほとんど何もわからない状態で不安は残りますが、当日の警備は万全を尽くしますので、ご容赦ください」
「いえ。皆様の努力、同盟を代表してお礼を申し上げます。ありがとうございます。不明なのは仕方ありませんわ。相手の方が今の時点では絶対的に有利なのですから。できれば、当日の警備計画概要をお聞かせ願えます?」
 歌恩は穏やかな表情でかわねぎ司令にお願いした。
「れも副司令。頼む」
「はい。司令本部はWONDO中佐が海兵隊一個小隊をもって防衛を担当します。WONDO中佐の有線ロボットもこれに参加します」
 WONDOが軽く頷いた。基地の防衛戦は彼の得意な戦いであるから、司令本部の守りを固める意味で当然の抜擢と言えた。
「突破された場合に備え、生命、港湾、火器管制などをすぐに凍結できるようにしておきます」
 れも副司令はその上に念を入れていることを説明した。
「港はテロが発生した時点で全港を封鎖します。艦艇は艦隊要員が乗艦して、各艦船の防衛にあたります。ハッチを閉じて防衛に専念すれば、どの艦でも一個中隊ぐらいの攻撃には耐えられます。民間船は各船長に話をつけてあります。当日は全船、ドッキングベイから分離してドッグ内でTS9と隔離状態にしておきます。それを乗っ取るのは苦労しますし、封鎖した港を強硬突破して出港も民間船では難しいです」
 船に乗り込むために無重力空間を泳ぐだけでもかなりの労力がいる。
「港の警備は海兵隊があたる。指揮は私が執る」
 シェリルがれも副司令の言葉を補足した。
「他の重要な拠点の防御はどうなっています?」
「通信室、転送管理室、ジェネレーター、空調管理室など第一級に加えて、第二級拠点までを保安課が警備します。装備はCT装備をさせます」
 CT装備は上から二番目の重装備で、殺傷能力だけでなく、破壊行動もできる装備であった。今回のような凶悪テロ対策に整えられた装備であるが、使用されることは滅多にない。
「装備はいいが、防衛拠点が多すぎるな。第二級となると、一箇所の人員は十人にもならないぞ」
 WONDOは防衛拠点が多いことを指摘した。兵力の分散は愚者の策である。WONDOの指摘にバルバ少佐は顔を歪めた。この警備計画は彼の立案なのである。
「それでは、保安課員にタグをつけさせます、WONDO中佐。テロが発生しても転送による再編させればよいのですから。それと転送管理室はメイン、サブの二つだけにして、他の予備転送機はロックしておきます。それで拠点はだいぶ減らせます」
 バルバはWONDOの指摘にすぐに修正案を提案した。彼も一応は曲者ぞろいのTS9で保安課を預かっているのである。決して無能ではなかった。
「そうだな。それなら問題ないな。メイン転送管理室には負担がかかるから、とびっきりのオペレータを配備させておいてくれ」
「了解です、司令」
「式典会場の警備の方はどこの部署が?」
「そこも保安課が担当します。給仕係などにも変装させて忍ばせておきます。歌恩大使の護衛も保安課がさせていただきます」
 バルバが自信たっぷりに答えたが、歌恩もココも何の感謝の表情も出さなかった。
「私はココの護衛があれば大丈夫よ。その分を式典会場の使節団の子供たちに回して。かわねぎ司令の護衛も保安課で?」
「当然です」
 バルバは当たり前なことを聞かれて、ややムッとした表情で歌恩の問いに答えた。
「私もついてますし、司令の護衛は万全です」
 れも副司令が自分の腰につけたブラスターのホルダーを叩いて、安全を保障した。
「あー、れも副司令。そのことなんだが、君は司令本部に残ってほしい」
「司令!」
 かわねぎ司令の命令に承服しかねるとれも副司令は腰を浮かせた。しかし、その途中でかわねぎ司令は手をかざして彼女を制した。
「私に何かあった時に指揮を執る人間がいなくてはならない。私と君が同じ場所にいては、敵にとってはかわねぎではなく、カモネギだからね」
 かわねぎ司令は冗談で場を和まそうとしたが、環境ドームの冬山の空気を転送させてしまった。
「……わかりました。司令本部にて待機します。でも、危ないことはしないでくださいよ」
 れも副司令は不承不承で命令を聞き入れた。艦艇に乗っているかわねぎ司令なら安心できるが、陸に上がったかわねぎ司令は軍人としての平均的な水準にはかなり達していない。
「安心してください。副司令。司令は我々がお守りいたします」
 聞き分けよく諦めたれも副司令にバルバは胸を叩いて安全を保障した。
 それを見ていた末席にいた少女士官が手を上げた。
「あの、俺たちも司令の護衛をしていいかな?」
「頼香少尉。君はさんこうで待機だろう?」
 余計な手伝いは無用と突っぱねるような口調でバルバは彼女たちに言い返した。
「でも、来栖のオーラバリアは護衛の役に立つし、俺や果穂なら敵も油断するから役に立つと思うんだ、バルバ少佐」
「しかしだな……確かに、君たちは実戦経験豊富だし、戦力になるとは思うが……司令どうします?」
 頼香の少し見上げるような目線に見つめられ、バルバ少佐は耐え切れずに決定を上官に振った。
「うーん」
 かわねぎ司令は珍しく腕組みをして考え込んだ。今までであれば、こういった時は即決で彼女らの起用を採用するのだが、今回は違っていた。
「司令。私も頼香少尉たちを艦艇の中に閉じ込めておくのはもったいないと思います」
「わかった。頼香少尉と果穂准尉、来栖准尉には式典会場の警備を命じる。だが、無茶はしないこと。いいね?」
 れも副司令の一言でかわねぎ司令は決断したが、それでもまだ迷いがあるようであった。いつにもなく、慎重な行動をするようにと訓戒つきであった。
「はい。ありがとうございます。頑張ります」
 しかし、それを知ってか知らずか、頼香たちは明るい顔でかわねぎ司令に敬礼をした。
「じゃあ、代わりにワシとミケネがさんこうに乗り込みますよ」
「オヤンジュ中尉には爆弾処理で残っていてほしいが」
「なぁに、うちの若いのでも結構やりますよ。果穂も含めてね。それに今回はケース的にワシが解体する爆弾ってことないでしょう」
 爆弾は確実に暗殺するには向かない。となれば、使用される爆弾は陽動のもので、解体するよりも爆発させた方が効率的である。もちろん、物的被害はでるが、そのために人手を割かなくして、テロリストの思惑を外すことができる。
「そうですね。それじゃあ、さんこうをお願いします。もし何かオヤンジュ中尉に用事があれば呼びますので」
「了解」
 頼香たちのシフトチェンジが決定され、議題は次へと進んでいった。
 その件で歌恩はあまり表情を変えなかったが、ココは少し表情を曇らせていた。歌恩は背後にいるココの表情の変化に気がつき、後ろにちらりと視線を向けてすぐに前に向いた。ココはすぐにその視線の忠告を理解し、表情の曇りを消した。
(功を焦らなければいいけど)
 しかし、心の中の不安までは消すことはできなかった。

 同盟巡洋艦ブルステン号のライトブルーの船体がTS9の12番ゲートに静かに侵入し、ドッキングベイに接岸するとそれを合図にTS9吹奏楽団の奏でるファンファーレが鳴り響いた。
 ハッチが開き、昇降タラップに現れた少年少女たちは、それぞれの民族の正装に身を包んで立派ないでたちであった。しかし、精一杯立派に見せようと少し背伸びしているような印象は隠せず、その印象が微笑ましく出迎えたTS9のスタッフたちの微笑を誘った。
「ようこそ、TS9へ、親善使節団の皆さん。TS9司令のかわねぎです。惑星連合とTS9を代表して、あなた方を歓迎いたします」
 緋色のじゅうたんを敷いたタラップの階段の下でかわねぎ司令が使節団に軍人らしく敬礼をして出迎えた。
「はじめまして、かわねぎ司令。盛大な歓迎を感謝します。親善使節団代表の珠鞠(しゅまり)です」
 使節団の中では年長者のラファースの青年が落ち着いた様子でかわねぎ司令に敬礼を返した。精悍な整った顔立ちに気品の薫る優雅な立ち居振舞いは連合の女性士官たちの注目を浴びた。
「みなさん、長旅でお疲れでしょう」
「おう。くったくただよぉ」
 使節団最年少の少年がかわねぎ司令の言葉に反応して、場違いな大きな声で返答した。
「ラス!」
 珠鞠のすぐ後ろにいた昌伸が振り返って注意したが、時、既に遅し。周囲に笑いが起こっていた。
「では、すぐにホテルの方へご案内します」
 かわねぎ司令は笑顔で使節団をエアカーへと案内した。

 使節団の乗ったエアカーには歌恩とココが既に乗っており、かわねぎ司令とれも副司令は使節団のスタッフたちの乗ったエアカーの方に乗車した。
「ようこそ、TS9へ。トマーク=タス同盟TS9大使の玉山霊泉院 歌恩です。はじめまして、使節団の皆さん」
 歌恩は走り出したエアカーの後部座席で少年少女たちに挨拶をした。
(誰だよ、おばさんだっていったのは?)
 使節団の少年たちは歌恩の容姿に、驚きを露わにしていた。それを見たリサールナルの少女たちは勝ち誇ったような顔をしていた。
「みんな、そんなに畏まらなくていいわよ。私はお堅いのが苦手なのよ。大使って言っても、こんな辺境ですもの。気楽にしてちょうだい」
「はい。ありがとうございます。玉山霊泉院大使」
「歌恩でいいわよ。その名前は呼ばれなれてないから。それに大使も禁止♪」
「えっ、でも」
 リサールナルでも名家の生まれ、加えて先の大戦の功労者、現在は全権大使の歌恩を名前で呼ぶのは、いくら物を知らない子供でもさすがに尻込みしてしまっていた。
「言いにくい? じゃあ、みんなで言えば怖くないでしょ? 一斉に言いましょ。ちゃんと呼べたら、プレゼントをあげるわ」
 歌恩はそんな彼らの感情をエンパス無しで読み取って提案した。
「え?! プレゼントくれるの、歌恩様」
 先ほど笑いを起した年若いキャニアスの少年が目を輝かせて身を乗り出した。
「ラス!」
 昌伸が慌てて少年の口をふさいだ。
「可愛いわね」
 歌恩は嬉しそうに目を細めた。普段はあまり見せない母親のような優しい笑顔に使節団のみならず、ココまでも魅了された。
「じゃあ、私の名前をちゃんと言えたから、ご褒美♪」
 一同があっけに取られていることも気がつかず、歌恩は懐からブローチを出してラスの胸元につけてあげた。ブローチは剣に龍が巻きつくようなデザインで同盟で有名な武神の祭文であった。そして、
「ようこそ、TS9へ」
 ラスの額に軽く口付けをした。武運や航海の安全を祈るリサールナルの『おまじない』である。
「女の子の方はこっちね。ブローチにもペンダントにもなるわよ」
 ココが自分の胸を飾っている半透明の桃色水晶で作ったナデシコの花をデザインしたブローチを指差した。
「綺麗……」
 やはり、どこの世界でも女の子たちである。こういったアクセサリー類には目がない。ココの胸元を飾るブローチに熱い視線を注いでいた。
「それじゃあ、みなさん、一斉に♪」
「よろしくお願いします。歌恩様」
 歌恩の音頭にあわせて、口を揃えて彼女の名前を呼んだ。
「はい。よくできました。あ、それから、このアクセサリー、TS9にいる間は肌身離さずつけていてくれる? 約束よ」
 使節団の少年少女たちは「もちろん」と返事して、それぞれブローチを受け取っていった。
 最後の一人、先ほど代表としてかわねぎ司令と挨拶を交わした青年にブローチをつけつつ、歌恩は彼の顔をまじまじと見つめた。
「いかがしました、歌恩様? 私の顔に何か?」
 青年が歌恩に微笑みを浮かべて尋ねた。この青年だけが使節団の中で歌恩に対してごく自然体に振舞っていた。最年少の怖いもの知らずのラスのように幼くもない彼が泰然自若としていられるのは少し意外であった。
「いえ。私の知り合いの若い時にすごく似ているから、ちょっと驚いただけよ。ごめんなさいね」
 歌恩はブローチをつけ終わり、軽く頭を下げて謝った。
「とんでもない。光栄だな。私も歌恩様と同じ世代に生まれていれば、きっとプロポーズしていましたよ」
 彼は心底嬉しそうに微笑を浮かべて、それに少し悪戯っぽく色をつけた。
「ふふふ。愛があれば年の差なんてと言えなくちゃ、女心は掴めないわよ。色男さん」
 歌恩はどこから出したのか扇子を口に当てて口元を隠して笑ってから、その先端で彼のおでこを軽くつついた。
「私もまだまだ修行が足りませんね」
 彼はつつかれた額を大げさにさすると苦笑を浮かべた。そのやりとりにエアカーの中は笑いで包まれた。

 貨物船グルメストンが航路から外れたのは偶然か必然か不明である。しかし、グルメストンが航路を外れてしまい、TS9が船影をロストしたその直後に何者かに襲われたことは間違いなかった。グルメストンはロストから十数分後に発見された。グルメストンの発する救難信号によって。
 グルメストンの船体への被害はそれほど重大ではなかったが、船長をはじめ、多数の乗組員が負傷したという報告が悲痛な叫びと共にTS9の航路管制局に届いた。
『医療用チャンバーが故障しているんだ。このままじゃ、船長たちが死んでしまうんだ、ダリア! 頼む! 入港を許可してくれ! お願いだ』
 管区の制限速度を越えて接近する貨物船を警告する警報が鳴り響いた。貨物船が警告無視しているために自動攻撃プログラムが反応するたびにオペレータたちはそれらを手動で解除していかなくてはならなかった。
「ケン! 落ち着いて。とにかく落ち着いて。できるだけ早く入港できるようにするから。お願い、待っていて」
 海賊に襲われ、乗っ取られた可能性もあったが、船籍暗証番号などを問い合わせても正しい答えが返ってきていた。海賊に乗っ取られた場合、状況を報せる暗証番号を発信することになっていた。
 グルメストンは乗っ取られてはいない可能性が高いが確証はない。
 通常ならば確証を得るために艦艇を派遣するのだが、TS9の艦艇がすべて歓迎式典のために非常時待機体勢となっており、哨戒任務に当っている艦艇がなかった。
『もう待てない! 死んでしまう。死んじゃうんだよ! ダリア! グルメストン、入港する』
 入港のためのトラクタービームがなくても腕がよければゲートさえ開いていれば手動でも入港は可能である。
「ケン! 貨物船グルメストン、停船しなさい! お願いだから、停船して」
 今からTS9で待機中の艦艇を派遣してもグルメストンが船足を止めない限り間に合わない。管制局の局員がグルメストンを操っている航海士と知り合いだったことで、結局、入港管理課の課長の独断でこの船の入港を許してしまった。
 現在、港を警備しているのが連合の精鋭である海兵隊であることから、海賊が乗り込んでいても大丈夫と言う油断があったかもしれない。
「貨物船グルメストン、緊急入港します。火災発生に備えて、ドック内を真空に。海兵隊にも連絡を」
 最低限の配慮はしたが、とにかく手続きの省略という間違いが発生した。
 グルメストンは入港すると、まだハッチが完全に接合していないにも関わらずハッチを開き、空気の流出が発生した。
「バカが! 急ぐにもほどがあるぞ!」
 海兵隊員が吹き荒れる嵐に悪態をついたが、その嵐の中、出てくるはずの怪我人はフル武装した襲撃者であった。グルメストンの出迎えをした海兵隊員は一瞬虚をつかれたが、すぐさま立ち直り、派手な歓迎の花火を打ち上げることとなった。
『バード3、ハッチデッキを破棄しろ。隔壁を下ろして、奴らを下がらせろ』
 シェリルは通常ならば空気の流出を防ぐために展開されるフォースフィールドをオフにして、隔壁による遮断を行った。これで敵は船に戻ってハッチを閉じるか、宇宙服モードで活動することになる。ハッチデッキの隔壁を破らない限り構造的に中には侵入できない。シェリルの命令は彼らにとって貴重な時間を消費させることができるのであた。
「船首部分に高エネルギー反応! グルメストンがデフレクターを作動させています!」
 隔壁を下ろした後にグルメストンをモニターしていた海兵隊員が叫び声を上げた。
「バカな! 急げ、撤退だ!」
 海兵隊員が日頃の落ち着きも捨てて逃げ出したそのあと、隔壁が赤く色を変えて、へこみ、爆発した。
 シェリルはさすがにここまでやられるとフォースフィールドを切っておくわけにはいかなくなり、空気の流出を止めるようにフォースフィールドの設定を戻した。
『バード3。無事か?』
「なんとか。生きてます。クイーン。ですが、申し訳ありません。十人ほど突破されました」
 爆発は気圧差でハッチデッキ方向、つまり船側に向かっていったために海兵隊員にほとんど被害はなかった。が、逃げようとする背中をつかんで引っ張るような、普段とは逆の爆風に引き倒され、体勢を崩してしまった。その隙をつかれ襲撃者の侵入を許してしまった。
「やつら、クレージーですぜ。奴らの方が爆発はひどかったはずなのに、被害は覚悟で船の外で待機してやがった」
 そうでなければ一瞬の隙をついて侵入などできない。事実、爆発で無残な姿になった船の周辺には幾人かの襲撃者のなれの果てが転がっていた。
「どうやら、なりふり構っていられないな。非常厳戒警報だ」
 シェリルはあっさりとそばにいた副長に命令した。
「了解、艦長。やっぱり、あなたはすごい人だ」
 ネルソンはにっこり笑って、警報を発令するボタンを躊躇いなく押した。港を警備していたシェリルの汚点になる警報ボタンを。

 ちょうどグルメストンが港に突っ込んできた時刻と同時にメイン転送管理室はパニックになっていた。
「ウィルスですぅ!」
 DOLLのコスプレをしたオペレータのエレク・トリックが叫び声を上げた。
 画面に絶え間なく流れる『うにょん ぷにっ』の文字。その表示が現れてから全ての機能が使用不可能となってしまっていた。
 機能を回復するためにありとあらゆる手段を試す転送管理室のオペレータたちを嘲笑うかのように、時々、間抜けな顔文字が画面に浮かび上がり、邪神の如く彼らを見下ろした。
「どうしよう? ウィルス駆除の『ニュートン先生』でも駆除できないよ」
 絶望的な状況の中、それに追い討ちをかけるように警報が鳴り響き、転送室に詰めていたオペレータたちのパニックに拍車がかかった。
『転送室。式典会場にバード2を転送してくれ。座標は――どうした? 何かあったか?』
 そこへシェリルから通信が入った。
「シェリル艦長ぉ! ウィルスに風邪うつされて転送できませんですぅ!」
『ちっ。そうきたか。エレク少尉。おそらく、港を突破した敵がそこを襲撃しに来る』
 敵の狙いに気がついて、シェリルは舌打ちした。襲撃者たちは転送機を使えなくして、こちらが再編するのを妨害し、転送室を奪取後、ワクチンを打ち込み、自分たちが転送機を掌握するつもりなのであった。
「ええ?! 困るですぅ。シェリル艦長、そんなの、いやですぅ」
 エレクは駄々っ子のように半泣きの声を上げた。
『落ち着け。今から副長を行かせるから、それまで持ちこたえるように保安課員に伝えておけ。気を抜くな。相手はプロだ』
「わかったですぅ。早く来てくださいですぅ」
『できるだけ早く行く。それまで誰が来ても中に入れるな』
 通信が終わったエレクがドアを開けて外の保安課員にシェリルの話をそのまま伝えた。
「なんでぇ、海兵隊の連中も不甲斐ないな。偉そうにしている割には、役立たずだ。自分たちのミスをこっちに押し付けるなんてな」
 保安課の一人が嘲笑すると他の課員たちも同意して笑った。
「任せておけよ。俺たちは海兵隊よりも頼りになるんだぜ。大船に乗ったつもりで中に隠れてろ」
 ひとしきり笑うとエレクの頭をひとなでして部屋に戻るように言った。
「うん……何か来るです!」
 エレクが不安に思いながらも部屋に戻りかけて、その時に廊下の向こうに人影を認めた。保安課員はその声に反応して、銃を構えて妖しい人影に照準を合わした。
「おおい。撃つな。T&R警備のものだ。人手が足りないから手伝ってくれとかわねぎ司令に頼まれて来たんだ」
 パワードスーツを着た警備会社の男はフロントガードを上げて、保安課員たちに顔を見せた。
「なんだ。スミスか。そうか、悪いな。うちのゴタゴタに巻き込んでしまって」
 保安課員たちは銃の照準を外して安堵の息を漏らした。
「いや、いいってことよ。うちのゴタゴタでもあるからな」
 スミスと呼ばれた男はにやりと笑った。エレクはその笑いを直感的に「危ない」と判断して、急いでドアを閉めてロックをかけようとした。そうすればドアを破壊しない限り、司令か副司令しか中にはないれなくなる。そして、ドアは多少の攻撃にも耐えられる設計である。
 エレクの判断が正しかったことがその次の瞬間に証明された。が、行動は一瞬遅かった。鼓膜を破らんとする轟音と共に締まりかけたドアが衝撃でひしゃげ、締まりきらずに斜めに半分開いた状態であった。硝煙の鼻につく空気が廊下から転送室に流れ込んできた。
「あ、あわわわ」
 硝煙に煙る中、外にいたはずの人たちの声がエレクの耳に聞こえないのは轟音で耳をやられたわけではなかった。その証拠に彼女の耳にはパワードスーツの無感情な作動音が聞こえていた。
「う、うぇーん、ネルソンさん、早く来てよぉー」

 同時刻。歓迎式典会場にけたたましい警報が鳴り響き、人々の動きを止めた。
「皆様。落ち着いてください。当基地は海賊の襲撃を受けました。ですが、ご安心ください。海賊はすでに大部分を捕縛しております。残っているのは少数です。現在、我々が全力を持ってこれを排除に当っておりますので、すぐに警報は解除されます。しかし、万一の場合に備え、皆様には避難していただきます。係員の誘導に従ってください」
 かわねぎ司令がざわつく会場を鎮めるのに壇上に上がり、来賓に説明をした。
「TS9を襲うなんて、猫の耳かしら?」
「さあ? それにしても命知らずな連中ですね」
「海賊キラーのかわねぎ司令がいるというのに」
「まったくですわ」
 さすがに海賊に関することだけには勇名をはせているかわねぎ司令であった。その言葉は普段の彼を知らない来賓の人間たちには効果があったらしく、パーティーの余興を楽しむように素直に避難の誘導にしたがっていった。
 かわねぎ司令はその様子を見ながら、来賓たちから離れたところでTS9の現状を報せる報告を受けていた。
「メイン転送室をウィルス感染させて、サブ転送室はバックアップに起動しようとした途端、爆発か。爆弾が仕掛けられていたのに気がつかなかったのは迂闊だったな。これで転送システムは沈黙だな。他をロックしたのが裏目に出た」
 かわねぎ司令は砂糖と塩を間違えて入れたコーヒーを飲んだような顔をした。
「ネルソン副長が防御に向かっています。もちろん他の課員も向かわせています、司令」
 バルバは空調の効いた室内だったが、汗を吹きながら報告をした。しかし、現状メイン転送室は風前の灯であることには変わりなかった。
「散々ね」
 その二人の会話に歌恩がココを伴って加わった。
「歌恩大使、困ります。ターゲットに集まられたら、守れるものも守れません」
「とりあえず、ここには殺気はないし、ココにも周りを見張らせてあります、バルバ少佐」
 歌恩はバルバに感情のこもっていない笑顔を向けると、すぐにかわねぎ司令の方を見た。艦隊戦では後れを取らない彼であっても、やはりこういった戦いでは少し精彩を欠くところがあった。とはいっても、充分に並以上なのだが。
「しかしですね」
「しかしもいいが、やることは山積だぞ。使節団の何人かが避難していないらしい」
 かわねぎ司令は弁明を始めるバルバに最新の報告を見せて、それを打ち切らせた。
「何ですって?!」
「巡洋艦ブルステンのランドル艦長も行方がわかっていないようだ。――あ、待った。ランドル艦長は使節団の珠鞠くんと一緒にいるらしい。下手に動き回ると危険だから適当なところに身を潜めておくと言っているようだ」
「ランドルが一緒なら大丈夫でしょう」
 歌恩は安堵の息を漏らすように断言した。
「知っているのですか? ランドル艦長のことを」
「ええ。もちろん。ココの剣の師匠ですから」
 歌恩がにこやかにかわねぎ司令の質問に答え、ココが頷いてそれを肯定した。
「そうでしたか! それなら安心です。ですが、キース君というキャニアスの少年とベレッタちゃんというリサールナルの少女が行方不明らしいです」
「散々ね」
 歌恩が今度はバルバに向かってはっきりと先ほどと同じ台詞を繰り返した。
「捜索に当たります!」
 歌恩の冷たい視線を受けてバルバは氷水を浴びせられたように真っ青になり、保安員を組織して捜索を開始した。
「歌恩様。さっき、そこでこれを拾ったのですが」
 バルバ少佐と入れ違いでココが二人のところにやってきた。その手にはココが胸につけているブローチと同じ形のブローチが乗せられていた。
「かわねぎ司令。避難している使節団の少女でブローチを落とした人がいないか聞いてみてくださる?」
 歌恩の切迫した質問にかわねぎ司令は何も聞かずに調べさせ、すぐにブローチを落とした少女はいないという答えを返した。
「まずいことになったわね。巻き込まれていなければいいけど」
 歌恩はブローチを握りながら二人の安全を祈るしかなかった。

 リサールナルの少女とキャニアスの少年が息を弾ませながら誰もいない廊下を走っていた。
「一人で行けるから、大丈夫だって。キースはみんなのところに戻りなさいよ」
 リサールナルの少女が振り返りながらキャニアスの少年に怒鳴った。
「バカ言うな! お前一人じゃ、心配なんだよ。すぐ道に迷うし、泣き虫だし、どんくさいし」
 キャニアスの少年も負けずに怒鳴り返した。全力疾走しながら怒鳴れるのは若い証拠である。
「なによ。私のどこがドンくさいのよ!」
「ブローチを落としただろうが! それで充分、どんくさい」
 キースの反論にベレッタは何も言い返せなかった。避難の時に人ごみにもまれ、気がついたらブローチがなくなっていた。
「せっかく、せっかく、歌恩様からいただいたのに。TS9にいる間はつけておきなさいって言われたのに」
 ベレッタは走りながら涙声になった。
「だから、泣くなって。俺が一緒に探してやるから。見つからなかったら、俺が歌恩様に一緒に謝ってやるから」
「ありがとう、キース」
 二人がよそ見していると目の前に急に人が現れ、ぶつかって転倒した。
「いたたたた。ごめんなさい。急いでたから――」
 キースが謝ろうと見たその人物は、二人の激突でひっくり返っていたが、その手には銃を持っており、連合の兵士や士官でも、ましてや同盟の人間でもないことは一目瞭然であった。
 キースは強引にベレッタを抱き起こすと、野性の勘に従って今来た通路を全力で駆け戻り、最初の脇の通路に飛び込んだ。
「どういうこと?!」
 ベレッタの苦情が言い終わるか終わらぬうちに熱線が彼らの後ろを通過していった。
「例の海賊だ! ベレッタ、逃げるぞ」
「ちょっと、ま――つっ!」
 ベレッタは足首を押さえてうずくまった。
「ごめん。さっき転んで、ひねったみたい。キースだけで逃げて」
「くっ! そんなのできるか! 一緒に逃げるんだ。お前だけ、おいていけるか!」
 キースはベレッタを背中に背負おうとした。しかし、さっきは相手が倒れている隙に何とか逃げられたが、ベレッタを背負って逃げられる可能性はほとんどない。
「坊主。こっちだ!」
 いつの間にやら敵がいる通路をはさんで反対側に連合士官の制服を着た男が二人に声をかけた。
「援護してやるから、こっちに来い、坊主」
「ボーズじゃない。俺はキースって言うんだ!」
 キースはこんな非常時だが自分を子ども扱いしていることに腹を立てて、むすっとした。
「そりゃ、偶然だな。俺もキースって言うんだ。で、俺が知る限り、キースって名前の奴に臆病な奴はいないんだがお前はどうだ?」
 それをおかしく思ったか、連合士官はくすりと笑って問いかけた。
「俺も知らない」
「よし。じゃあ、こっちに来い」
 一撃必殺のフェザーが行きかう通路をたかだか6メートルとはいえ、横断するのはかなり怖い。しかも、人を背負ってである。キースの膝が不意に震えだした。
「キース、一人で行って」
 背中のベレッタが泣きながらキースに頼んだ。その一言で、キースは覚悟を決め、援護にあわせて通路に飛び出した。
 キースはたった6メートルがこれほど長いとは夢にも思わなかった。一歩一歩がスローモーションのようで、空気が粘っこいように感じながらも必死で前に進もうとした。
(あと少し!)
 そう思った瞬間、足がもつれ、キースは地面に突っ伏した。彼はフェザーのまぶしい光が彼らの方へやってくるのが見えたような気がした。とっさにベレッタを後ろにし、彼が盾になるように寝返りを打った。
「くそ! まだ、ベレッタに好きだって言ってないのに!」
 キース少年の最後になるはずの叫びであったが、必殺のフェザーは彼の1メートルほど手前ではじけるように消えうせた。
 呆然としかけたが、そのチャンスを逃さず、キース少佐のいる通路にベレッタを抱きかかえながら転がり込んだのは少年としては上等といえただろう。
 キース少佐はキース少年の頭を軽くなでて、にかっと笑い。
「男前だったぞ、キース。俺ぐらいにな」
「当たり前だ。俺はキースの中でも一番の勇者だからな」
「ちっちっち。残念だな。お前は二番目だ」
 舌打ちしながら指を振って、キース少年の一番を否定した。
「じゃあ、一番は?」
「うちのかみさんだ」
 キース少佐はしれっと答えると、敵をけん制する射撃をした。
「うー、じゃあ、三番だ。それならうちの母ちゃんが一番だから」
「だな。じゃあ、三番と四番の勇者は勇気ある撤退だ。この通路を進めば司令本部にいける。そこまでその子を背負っていけるな?」
「余裕だよ、それぐらい」
「ところで、その胸のかっこいいブローチは誰にもらった?」
「え? 歌恩様だよ」
(なるほど。歌恩大使がオヤンジュに頼んでいたのは、これだったか。確かに、子供たちにつけさせるんじゃ、パーソナルシールドシステムもこんだけ小型じゃないとな)
 キース少佐はブローチにトリコーダーをかざして、さっき撃たれたはずの彼らが無事だった理由を知った。
「どうかしたの?」
「いや。歌恩様にもらったのなら、ご利益ありそうだ。じゃあ、行くぞ!」
 そう言って、キースは爆薬を敵のいる通路に投げ込み、司令本部へと撤退した。
 ちなみに、少年は土壇場のドサクサで忘れてしまっていたが、背負われている少女は思わぬ告白に顔を真っ赤にして、何も言うことができなくなってしまい、さらには自分の心臓の鼓動が相手にばれないように背中から胸を離そうとして何度も彼に「しっかりつかまってろ」と注意されることになっていた。
 そんな非常時だが微笑ましいこともありながらも、無事に司令本部に避難したキース少佐は、れも副司令たちに迎え入れられた。使節団の行方不明の二人を無事に保護したことがかわねぎ司令と歌恩に伝えられ、二人を安堵させた。

 アームストロングは自室で趣味のプログラムを作り、有意義な休日を過ごしていたが、突然の非常警報に休日を楽しむどころの話ではなくなった。
 すぐに訓練どおり司令本部に連絡すると何が起こっているのか手短に説明をされ、そのまま待機を命じられた。
「ちくしょうめ」
 彼は通信を終えてから、現場のわかっていない少尉は邪魔者というのが待機の本音といったところだろうと推測し、司令部の自分に対する扱いを罵った。
 彼はコンピュータに関してはスペシャリストであった。ネットワーク上でも知る人ぞ知る人物であった。それがこういう事態に何もせずにじっとしているわけもなく、端末に向かおうとしたその時、天井のダクトの金網が外れた。
「?!」
 外れた金網から姿を現したのはバックを持った埃だらけのシューマッハであった。
「司令を見習って、天井裏の散歩か? シューマッハ」
「まさか! よくわからんが、僕は監視されているようだ」
 シューマッハは部屋に下りて、身体についた埃を払った。
「は? なにやったんだ、お前?」
 アームストロングは自分の部屋で埃を巻き散らかせる彼に眉をひそめた。
「何もしていない。強いて言うなら、お前に教えてもらったソフトで中央のコンピュータを覗こうとしたぐらいだ。まあ、二週間前のことだし、アクセスも失敗したけどな」
 シューマッハはことなげもなくアームストロングに思い当たる節を語った。
「あんなおもちゃでハッキング? 充分だよ。お前もテロの一味と思われているんだよ」
「くそっ! また濡れ衣か。また同じことをするしかないのか!」
 シューマッハは自分の推測と同じになった彼の意見を聞いて、吐き捨てるようにそう言って、怒りを身体に充満させた。
「なんだよ?」
 アームストロングはシューマッハが何をいいたいのかよくわからず、怪訝な、そして苛つくように訊いた。
「すまん。話す前にシャワーを借りるぞ。話はそれからだ」
 シューマッハは有無も言わせずにシャワー室に入って、ソニックシャワーを浴び、埃まみれの体を綺麗にして、腰にタオルを巻きつけて出てきた。
「とりあえず、俺の服を貸してやるよ」
「いや、服は」シューマッハはそう言って、随分と長い間をとって、何かを決断するかのように、
「ある」と言った。
「用意がいいな。これか?」
 アームストロングはシューマッハの葛藤など意識的に無視して、彼の抱えてきたバックを開いた。
「あ、まて!」
「……」
 シューマッハの制止は一歩遅かった。アームストロングが開いたバックの中から出てきたのはワンピースと黒いストッキング、ローヒール、変声機能付きチョーカー、ウィッグ、そして、化粧道具と女性用下着の一式だった。
「……まあ、人の趣味に口を挟むつもりはないが、カミングアウトするTPOぐらいはわきまえてくれ、シューマッハ」
 アームストロングはバッグの中身を凝視しながら半ば固まりつつ、なんとかそれだけ言うことに成功した。
「違う! これは、頼香少尉が作戦成功の記念品だといって嫌がらせで送ってきたものだ。俺の趣味じゃない!」
 それは、シューマッハは先日の海賊船アビスの事件で現地の潜入調査を頼香と共に行ったのだが、その時に敵の姦計により犯罪者に仕立て上げられ、警察の追っ手をまくために女装した時に使った道具であった。
「だが、服はあるといったのは、これを着るつもりなんだろ?」
 アームストロングはワンピースを広げて見せた。
「仕方ないだろう! 変装しなければ、外に出られないんだ」
 シューマッハは八つ当たりで彼に怒鳴り返した。
「で、外に出て、どうするつもりだ?」
「外に出て、かわねぎ司令のところに行く。狙われているのはかわねぎ司令と歌恩大使だ。テロリストたちは二人のところへ必ずやって来る。そこを叩く」
 シューマッハは手の平に拳を打ちつけた。
「できるのか? 武器もなしに」
 護身用のハンドガンはあるが、それでどうにかできる相手でないことは現状から容易に推測されている。
「どこかで調達すればいい」
「なあ、シューマッハ。少し落ち着け」
「僕は落ち着いている」
 シューマッハはいらだたしげに爪を噛んだ。彼が落ち着かない時にする幼く悪い癖であった。しかし、それを注意するものはアカデミーの教官にもいなかった。これは彼がシューマッハであった悲劇の一つだろう。
「俺はお前の射撃の腕は知っている。海兵隊員たちにも引けは取らないと思う。だけど、乱戦の中で使えるか?」
「ダイノンで実戦は経験済みだ」
 海賊船アビス事件で実戦を経験した。それが彼の今のところ唯一の勲章で、拠りどころであった。
「たった一度な」
「一度でも無しじゃない。何がいいたいんだ? はっきり言え!」
 シューマッハはアームストロングのハッキリしない態度に苛立ちを爆発させた。
「ええい! くそ! はっきり言ってやる! お前に前線は似合わない」
 アームストロングもその爆発に誘発して、シューマッハ相手に怒鳴り返した。
「それは僕がシューマッハかだからか?」
 シューマッハは彼の言葉に恐ろしく静かに聞き返した。その目には怒りよりも軽蔑が浮かび、裏切りものを見るように冷たく重いものであった。
「違う! お前が、カール・シューマッハだからだ」
 アームストロングはその視線の意味するところを感じ取り、大きく首を振った。シューマッハは何も言わずに目に怪訝な色を浮かべた。
「いいか? ここにプラスドライバーと万能ドライバーがある。あるところの機械が壊れた。修理にドライバーがいる。どっちを持っていく?」
「今はそんな話をしている時間はない」
 突然のたとえ話にシューマッハは不快な表情を思いっきり浮かべ、女装に取り掛かろうとした。
「いいから答えろ!」
「万能ドライバーだ。プラスがいるか、マイナスがいるかわからないからな」
 シューマッハはアームストロングの方を向かずに答えて、黙々と自分の作業を進めた。
「じゃあ、その機械がプラスドライバーで修理できると知っていたら?」
「それならプラスだ。こんな話に何の意味がある」
 いい加減にしつこいアームストロングにシューマッハは彼の方に振り返り、無能者に対する蔑みの表情を露わにして怒鳴って答えた。
「理由は?」
「アームストロング。僕はお前と無駄な話をしているひまはないんだ」
 シューマッハは頭をかきむしった。こうしている間にも貴重な時間は刻一刻と過ぎていく。
「理由は!」
 アームストロングはそれまで一度も見せなかった気迫でもう一度訊いた。
「万能を持っていってもその他の機能は遊ぶことになる。それに使用中に他の機械が故障した時にプラスじゃ駄目だと困るからだ。話は終わりだ、アームストロング」
「だから、お前は万能ドライバーなんだって言っているんだ。いいか? お前はなんでも器用にこなすんだ。慌てて、前線に出てももったいないだろう。かわねぎ司令がお前を後方に回すのは、お前がシューマッハだからじゃない。司令はお前の適性をそこに見ているんだ」
 アームストロングはやっと結論に達して、ほっとしたようにシューマッハを見た。言われたシューマッハは少しぽかんとしていたが、すぐに顔を顰めて頭を掻いた。
「ちっ! 切り札と言われたら喜ぶと思っているなんて思われているなら、安く見られたもんだ」
 シューマッハはアームストロングに再び背を向けた。
「カール!」
「他の誰かなら、そう思っただろうが、お前に言われたら信じるじゃないか」
 シューマッハはアームストロングに背中を向けたままそう続けた。
「……心臓に悪いことはやめてくれよ。俺の両親はお前の親父さんの会社の系列で働いているんだ。お前がシューマッハ家の朝食の時にぽろりと俺の名前でも漏らしたら、俺の稼ぎで両親を養わなくちゃいけなくなる」
 アームストロングはいつものおどけた口調に戻して、肺の中のシリアスな空気を吐き出した。
「安心しろ。お前の名前なんて、絶対、朝食の時に言ってやらん」
「恩に着るよ。だけど、よく言うのはいいんだぜ」
「それも絶対に言わないことにしておく」
「それは残念」
「で、現状を教えてくれ。僕が一番役に立つ方法を考える」
「ああ、わかった」
 アームストロングは彼がシャワーを浴びている間に収集した情報を彼に教えた。

――つづく――


次回予告

 TS9を襲撃し、次々と拠点を占拠していくテロリストたち。
 初動のミスにより後手に回るTS9の面々。
 襲撃者たちを無事に撃退することができるのか?
 かわねぎ司令、歌恩大使の命は無事守れるのか?

かわねぎ司令――
   「貴官の行動の自由とあらゆる破壊活動をTS9司令、かわねぎが保障します。思う存分、暴れてください」
      彼の決断は吉と出るのか凶となるのか?
れも副司令――
   「誰が修理をするんですか! じゃなくて、現在の海兵隊の装備では二十分はかかります。間に合いません」
      彼女の仕事はまた増えるのか?
謎の美少女――
   「ネルソン副長。ご無事ですか?」
      ネルソン副長についにまともな春が到来か?!
シェリル艦長――
   「人でなしが!」
      彼女の怒りに燃える瞳が敵を射抜く。
ココ――
   「はい。お任せください、歌恩様」
      
歌恩大使――
   「それが戦争よ。ライカ・フレイクス少尉」
      歌恩の決心が解決を呼ぶのか?

 疾走する黄金の獣。
 唸りを上げる鉄の馬。
 深紅に染まるドレスと煌く光刃が乱舞する通路。
 戦場となったTS9に再び平和の旗がはためく時が訪れるのか?

次回――

ちーぷすぺーすないん 5

平和の旗を織しもの達 後編

乞う ご期待!!

「何事も思い通りにならないことは不自由だが、なんとも退屈しないことだな」





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