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 注 くすり仕掛けの小さな猫耳関係はすべて読んであることを前提として書いております。







司令の尊厳


作:ノイン








「にゃ!?」
 目覚めた瞬間に、かわねこの緑色の尻尾がピンッと張り詰めた。
 首を左右に動かしても周囲に満ちているのは黒鉛を塗りたくったような黒一色。
 時間間隔が狂いそうなほどに何の音も聞こえない。視覚も同様に何も捉えることができない。
 闇という名の完全密閉空間の中でただ唯一の感覚である触覚で探ると、
 硬い木椅子の感触が背中から伝わり、かわねこは自分の置かれている状況がなんとなくわかった。
 どうやら後ろ手で縛られており、椅子にロープか何かでぐるぐる巻きになっている状態のようだ。
「ここは……どこにゃ」
 かわねこは意識が徐々にはっきりとしてくるに従って、今の状況を理解しようとつとめた。
 もしかするとどこかの謎の敵に捕らえられたのだろうかとも思い、
 自分の手を縛りつけている縄を緩めることができないかを試してみた。
「だめにゃ。この少女の体じゃ無理にゃ。にしても、ここどこなんだろうにゃ」
 記憶がぼんやりとしていていつからこのような状況になったのかわからない。
 かわねこは最後に記憶が残っている昨日のことを思い出そうとつとめた。
「うーん昨日はどうしたんだっけにゃ。記憶があいまいにゃ。ああ……確か」
 一番最初に思い浮かんだのはパーティのどんちゃん騒ぎだった。
 昨日は他のTS基地の提督が数人TS9宇宙基地に来訪し、
 バー・ラウンジカウンターでささやかながらもパーティが開かれることになったのだ。
 このときの来訪は視察といった堅苦しいものではなく、終始、和やかなムードのなかで楽しんでもらった。
 だが、そのあとからの記憶が曖昧だ。
「うーにゃぁ。ラウンジでライカ少尉と談笑したあと……。そう確かボクはちょっとしたスピーチをする予定だったんだにゃ」
「そうですよ。かわねこ司令代理」
「うっ。誰にゃ!!」
 突然降り注いだ光のシャワーにかわねこは一瞬目を伏せ、逆光になっているシルエットに向かって叫んだ。
 影はカツカツと硬い音を響かせながら徐々にかわねこに近づき、
 その姿が完全に現れたときにかわねこの瞳が驚きに見開かれた。
「れも君……いったいこれはどういうことにゃ!」
「何も覚えていらっしゃらないのですか」
 TS9の切れ者とも影の支配者とも噂されているれも副司令は冷淡な眼差しをかわねこに送り、
 かわねこは自分の尻尾がうな垂れていくのを感じた。
 正直なところちょっとだけ恐かったのだ。しかし、自分はまぎれもなく司令である。
 副司令であるれも副司令に気後れしているようでは命令系統に支障が出る。
 また、プライドもそれをゆるさない。
「上官命令にゃ。今すぐこの縄をほどくにゃ」
「ダメです」
「なぜにゃ!」
 れもはそのままかわねこの言葉を無視するかのように悠然とかわねこのそばを横切っていく。
 かわねこはその軌道を首を動かして追った。
 ライトのまばゆい光がかわねこの顔、目、耳、髪と容赦なく照りつけ、身体から汗が吹き出てくる。
「司令。TS9の規則は覚えていらっしゃいますか」
「なんのことにゃ?」
「バー・ラウンジでの規則」
「バー・ラウンジ……はっ、まさかにゃ!?」
 かわねこはれもとの約束を思い出した。
 かわねこ、もといかわねぎ司令は仕事の疲れを癒すためによくバー・ラウンジを利用するのであるが、
 基地司令という激務のためかそのまま朝を迎えることもしばしばあるのだ。
 しかし、司令がバーで寝入っているという事態はラウンジの担当職員にとっても迷惑はなはだしく、
 また基地全体がまったりとした雰囲気になってしまう。
 TS9は前哨基地のような戦闘による危険はほぼ無いと言ってよいが、
 宇宙での仕事は何かと危険がつきまとうものであり、堕落した精神で望むのはよくない。
 そこで、かわねことれもは一つの約束をしたのだ。
 すなわち、バー・ラウンジで寝入ってしまった場合は司令のポケットマネーを公金として使わせてもらう、と。
 その公金は主にプレラットとの外交助成金として組み込まれ、有意義に使用されている。
 かわねことしても財布の中身が寂しくなるのは少々つらいところではあったのだが、
 プレラットとの外交のためならば許容できた。
「確かにボクは昨日寝入ってしまったけど公金はちゃんと払うにゃ。それでいいかにゃ? れも君」
「もちろん公金はちゃんと支出していただきます。ですが今回はそれだけではありません。
 バーラウンジにはもう少し一般的抽象的な規範があるでしょう」
「うにゃ、それだけじゃないにゃ? 
 確かに昨日は他の基地のお偉方が来てたけど、ボクが寝てても別に問題ないはずにゃ。
 だいたいこの姿を無理やり強要したのは先方のほうだしにゃ、
 『かわねこ』のときは形式的にはれも君が権限を有することになっているのは相手方もわかっているはずだからにゃ。
 それにこの身体だと夜がきついにゃ……」
「まあ先方の前で寝入ってしまったのは、失敗でしたが大失敗ではありませんから今回は見逃しましょう。
 司令の寝姿をホログラム映像で記録していらしたあと、るんるん気分で帰っていきましたから」
「るんるん気分って、とてつもなく死語にゃ……」
 かわねこは気分が沈んでいくのを感じた。
 それはともかくとして、それではますますこの事態がわからない。
「いったいなんなのにゃ。れも君。ボクも忙しいんだから早く要件を言うにゃ」
「実はそのすぐあとに司令が寝言で大放言をしてしまいましたので、
 その矯正をするようにと他の基地の司令全員一致の通達が送られてきたのですよ」
「全員一致ってボクがいないにゃ。いや、というか決定が早すぎにゃ」
 いつもはああでもないこうでもない、と議会は踊りまくっているのだが、
 なぜか今回だけは数時間で決定されていた。
 まさに基地司令とは強靭な精神力を有しているのだなと少しばかり感心してしまうかわねこ。
 しかしその精神力の使い方が微妙にまちがっているような気がしないでもない。
「ボクをどうする気にゃ」
 れもはなぜかにこやかに笑いながら言う。
「多数決で決定されたものですから、司令は通達に従う義務があります。
 惑星連合所属TS9の司令代理としての当然の責務です」
 かわねこは小さく唸った。確かに連合所属の自分は通達に従う義務はある。
 基地司令の権限裁量としてぎりぎり拒めるかとも思ったが、
 少し前にかわねこは予算について無理を通したためか、今ここで司令たちに逆らうのも気がひけた。
 また、たかだか放言ごとき、どんなことを言ったのかまったく覚えていなかったが、
 どんなに重くても懲罰房に数日入れられるぐらいだろうと思ったのである。
 それならちょっとした休暇になって悪くはないとすら思ったのだ。
「で、ボクは何をすればいいにゃ」
「あら、さきほど言いませんでしたか?
 放言を言っちゃうような悪いお口にはちゃんとチャックをしないといけませんからね。今から矯正しちゃうんです」
「きょ、矯正……にゃ」
 悪い予感がして、かわねこはきょろきょろと辺りをうかがった。
「何をする気にゃ……。いやそもそもボクが何を言ったと言うのにゃ!」
「まったく覚えていらっしゃらないのですね。コンピュータ、記録を出して」
 れも副司令の声に反応して、コンピュータが機械で創られた合成声を発する。
 どうやらかわねこが拘禁されているのはホログラムデッキらしい。
「宇宙歴78686.3。場所、バー・ラウンジ。
 かわねこ司令代理発言。『にゃぁ……ボクは男にゃぁ……』以上です」
 声が終了したあとかわねこは呆然としていた。
 たかだかあれだけの台詞になんの非があるというのか。
「れも君。これは不当にゃ!」
「私はたかだかTS9の副司令ですし、この命令を拒む権限はありませんから」
「や、やめるにゃ……。れも君、今の君はひっじょ〜〜に恐い顔をしているにゃ」
「司令。かわいい女の子が自分のことを男だと言う。これほどの罪がこの世にあるでしょうか」
「知らないにゃ。知らないにゃぁ」
 ぶんぶんと頭を振って、否定するかわねこ。
 と、そのときプシューという音をたててドアが開き、もう一人誰かが入ってきた。
「か、果穂ちゃんにゃ……」
「れも副司令、ほんとにかわねこちゃんをかわいく改造してもよろしいのですか?」
「いやにゃぁ!!」
 まさに最悪なコンビネーションであった。
 年相応の少女らしくがくがくぶるぶると震えているかわねこに、
 果穂がゆったりとした足取りで近づいていく。
「ああうう……。許してにゃ……」
「別に外科的な手術はしませんよ。それに薬品も一切使用しません」と果穂。
 その言葉にほんの少しだけかわねこは安心する。
「いったい、何をするつもりにゃぁ……」
「まあ、ある種の条件づけです。ねえ、果穂さん」
「ですね。まあ司令は優秀ですからすぐに身体で覚えてくれるでしょう。うっふっふっふ」
「どこまで耐えられ――もとい早く覚えてくれるかしら。うっふっふっふっ」
「やめるにゃー!」
 かわねこの顔が思いっきりひきつった。


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「わかったにゃ。これからはかわねこの姿のときはちゃんと少女としての自覚をもって行動するにゃ。
 だから拘禁を解いてくれにゃぁ」
「それでは本当に大事な場面でのまちがいというものがありますからね」
 れも副司令はホログラムコンピュータにコマンドを出し、部屋の隅に長いすを生じさせた。
 これはレプリケーターを利用して発生させた本物の実在する椅子である。
 れも副司令と果穂はそこに仲良く並んで座り、拘禁されたかわねこの様子をまずはじっくりと観察している。
「うう……何が起こるかわからにゃ……」
 ホログラム映像で作り出した完全なる闇と顔に直接あたる白色光。
 そして部屋の中央にぽつりと存在する猫耳の少女。
 その目が少しずつ潤んできた。
「強烈なかわいさですね。さすがかわねこ司令です」と果穂。
「ボクは司令代理にゃあ。現司令はかわねぎにゃぁ」
「やけにこだわるんですね」
 と、れもは面白そうに笑った。
「当たり前にゃ。ボクはいままでかわねぎとして生きてきた人生があるのにゃ。そんな簡単に否定できるわけないにゃ」
「なるほど。それはよくわかります」
 なぜか果穂はここでは共感の意を表した。
「うにゃぁ……」
 かわねこはこの程度で拘束が解かれるとは思ってもおらず、果穂の笑顔を完璧に怪しんでいる。
 実際かわねこの期待は裏切られなかった。
「男としてのプライドがあるのがいけないのかもしれませんねぇ」
「にゃ……にゃ……」
 かわねこの顔がますます蒼白になっていく。
「かわねこ司令官には実験……げふんげふん、もとい科学の発展の礎になってもらいましょうか」
 果穂がふところから取り出したるは前時代もいいところの、鉄人なんたらが動かせそうなコントローラーだった。
「これは、にゅるっとすっきりかわねこ洗い機です。略して『にゅるっと』です!」
 果穂が力強くその物体を天高くかかげた瞬間に、漫画全開の効果線がホログラフィックに表現された。
 と、同時に『ぴかぴかりん』という怪しげな音がどこからともなく流れ、とてつもなく頭が悪そうだ。
「そのとっても危なそうなコントローラーはなんにゃ……」
「説明するよりも体験していただきましょう。果穂さんお願いします」
「はい。ではかわねこちゃん。我慢してくださいね。ちょっとだけ気持ちよすぎちゃうかもしれませんけど♪」
 れも副司令の一声に果穂はにこやかに微笑み、コントローラーに手をかけた。
 背後にある闇からなにかが蠢いている音がする。
 かわねこは後ろを振り返ってそれがなんであるかを確認したかったのだが、
 いかんせん縛りつけられているためにそれは不可能だった。
「なんにゃ。なんにゃ!?」
 ずずず、ずずずという音。
 じっとりとねっとりとした空気が漂ってきそうで、思わず生唾を飲み込んでしまう。
 どうやら背後で蠢いているのは細長いもののようだ。
「いったい、なんなのにゃぁ!?」
「あと少しでわかりますから、じっとしててくださいね」
 果穂は恐ろしくも笑顔で言い放ったが、かわねこは全力をもって抵抗した。
 なんとしてもここから逃げ出さなければ、何かを失ってしまいそうな気がしたのだ。
 かわねこは左足のつまさきを思いっきり伸ばして、ちょこんとかわいらしく一歩を踏み出した。
 しばりつけられているために完全に足を伸ばせないのだ。
 ナメクジの行進にも匹敵する遅さで絶望的な逃走を試み、最後まで希望を捨てない。
 その姿はなにか心打たれるものがあったのか、れもと果穂は思わず涙ぐんでしまった。
 無論、謎の物体はかわねこの逃走スピードを若干上回るスピードで、
 少しずつ近づいてきている。
「ああ、もうだめにゃ。足が……足が痛い、にゃあああぁぁ!!」
 ぴとりと首筋に冷たい感触が生じ、かわねこはびっくりして、そのまま前につんのめった。
「うう、痛いにゃぁ」
「抵抗するからですよ。司令」
 れも副司令が優しく呼びかけるも、かわねこは何も聞いていなかった。
 転倒したことで思わず後ろから迫るものの正体がわかってしまったのだ。
 目の前の恐怖にただただ釘付けになっており、視線をそらせない。
 世界の中にソレと自分だけが取り残されたような奇妙な感覚だけがかわねこの神経を支配する。
 時間や記憶もふっとび、ただ空白の思考のままカタカタと小さな歯が小刻みなリズムを刻んだ。
「なんにゃぁ!?」
 闇の中からそれは何本も『生えて』いた。
 いわゆるマジックハンドを想像してもらえれば一番わかりやすいかもしれない。
 本体部分は闇の奥深くに潜んでいるためか直接視認することはできず、
 細長く黒い腕とやけに真っ白な手袋がかくかくとした動きで迫ってきているのである。
「これは『にゅるっと』ですよ」
 果穂が律儀にも応答した。
「名称じゃにゃくて、あああああ……」
「少し大人しくしててください。まだコントロールに慣れてないから危険ですよ。いろんな意味で」
 かわねこが抗議の声を上げる前に、にゅるっと一号機はその何本もの手でかわねこを捕獲し、
 そのまま器用な動きで部屋の中央に戻した。
 あまりにもソフトな感覚だったためか、かわねこはきつねにつままれたような顔をしている。
「いったいにゃんにゃのにゃぁ……それは」
「この機械。全自動で身体の隅々まで洗ってくれるというふうにつくりました。
 にゅるっとレベルが設定してあってレベル1から10まであり、
 レベルが上がるごとに徐々にクリーン度がアップしてくるんですよ」
 果穂が嬉しそうにコントローラーを動かすたびににゅるっとかわねこ洗い機の動きが連動する。
 カクカクッ……。
 するりするり……。
 さわさわ……。
 謎的な音を響かせながら、それはかわねこの制服の中にまで侵入してきた。
「ぎにゃーーーーーーーーーーーっっ!!」
 果穂がニヤリと笑いながら、コントローラーの横についてあるつまみの部分をレベル1からレベル2に引き上げた。
 手の動きはどことなく、えっちぃでやーらしく、見る人が見れば、はあはあしちゃうかもしれない動きである。
 ちなみににゅるっとしているのはマジックハンドの部分から常時にゅるにゅるな謎の液体がでているせいだ。
 これでも一応にゅるっとかわねこを洗っているのである。
「にゃうー。にゃうー」
 かわねこの動きにあわせて、椅子ががったんがったんと音をたてた。
 この場にDOLLがいたら『抵抗は無意味だ』とありがたいお言葉を賜ることができたかもしれないが、
 残念ながらそういう優しい言葉をかけてくれる人はいない。
 かわねこはいいようにもてあそばれ、疲れて動けなくなるまでにゅるにゅるな動きは続いた。
「果穂さん。そろそろいいでしょう」
 れもが果穂に指示をだし、いったん手の動きを止めさせる。
 そしてこれまでかわねこが聞いた中でも一番冷酷無比な声で、れもは言った。
「司令……。司令は中年のむさくるしいおっさんですか、それとも麗しい猫耳な少女ですか」
 白いライト。
 その凄まじく鮮烈な光が、れもの横顔を逆光で暗く際立たせる。
 かわねこは顔をあげ、れもの姿を仰ぎみた。
 ここまで陵辱まがいのことをされて少女と認めることは絶対にプライドが許さない。
「ボ……ボクは男にゃ」
「そう……果穂さん。レベル3まであげて」
「はい♪」
 れもの指示に従い、果穂はつまみをもう一段階あげた。
「そ、そんにゃところまで洗うにゃあー。ひゃにゃっ! やめ、にゃ……むり、みゃ……」
 永遠とも思えた責め苦のあと、かわねこがぜえぜえとむさぼるように息を吸う。
 呼吸の乱れにより肺から息を吸うのさえもどかしく、体力はもはや限界を超えている。
 汗まみれの身体。
 そして、磨耗した精神。
 かわねこの顔がにゅるっとなハンドにつかまれて、無理やり上を向かせられる。
 またもや白いライトの列。
 まぶたを開けてはいられないほどの痛烈な痛みをともなう光。
 そしてれもはかわねこのそばまで近づき優しく囁く。
「さて……。司令、もう一度聞きます。今度はちゃんと答えてくださいね。司令は男ですか女ですか」
「いわにゃぃにゃ……絶対いわにゃいにゃ……」
「強情な娘ね。いいわ。果穂さん。レベルマックスよ」
 れもの非情の宣告に果穂はいくぶん顔をゆがめた。
「いいんですか。レベルマックスはちょっと精神崩壊を起こしちゃうかもしれないレベルですよ?」
「かまいません」
「や……やめるにゃぁ」
「おや、では認めるんですね。自分は女の子だと」
「それは……いやにゃ」
「やってください♪」
 あまりにも素敵な言い方にかわねこの精神が奈落へ落ちる。
「も、もうだめにゃーっ!!」
 レベルマックスのにゅるにゅる攻撃は筆舌に尽くしがたいものであった。
 それはすでに『手』という形状から第二段階に進化しつつあるのだ。
 すなわち薄紅色をした本体部分。
 そして、これまたピンク色の少々ざらつきのあり、それでいて癖になりそうな生暖かさを持つモノ。
 いわゆる『口』と『舌』の巨大な化け物だ。
 かわねこはべろんべろんと身体中を嘗め回され。いままさに洗浄の段階に移行しつつある。
「にゃはははああ。にゃははははは」
 ライトの白い光をその身に浴びながら、かわねこは笑う。笑う。笑う。
 狂ったように笑う。
「司令。認めなさい。あなたは今女の子でしょう」
「にゃはっははははは……。にゃははははは。はぁはぁ……」
 かわねこは笑いながら、涎をたらし、目はうつろに天上を見つめ、
 どこか別世界のようにすべてを感じていた。
 れもの焦燥にかられたような表情も声も何もかもがフィルターにかけられたかのように霞む。
 精神回路はすでに焼ききれ、かわねこは狂ったように笑い続けながらも、まだプライドを捨てていなかった。
「にゃはははあは……にゃははははは……れも君だって……れも君だって……にゃははは…のくせに……にゃははははははは」
 れもがお気に入りの自分の帽子をなぜか深くかぶりなおし、なんとも言えない微妙な表情になった。

(作者注:みんな忘れているかもしれないけれど、れもたんもTSっ娘だったりするわけでして……)

「もう、これ以上は被験者の身体が持ちません。副司令」
 果穂がかわねこの限界を示唆し、かわねこのにゅるにゅる、もとい実験の停止を求める。
 だが、れもは非情にも続けろとのサインを出した。
 見間違いかと果穂はもう一度確認する。だが。
「かまわないわ。続けて」
「れも副司令!」
 果穂が独断で機械を止め、かわねこはようやく快楽と苦痛の責め苦から解放された。
 ガクンと糸が切れた人形のようにかわねこの身体が力なく弛緩する。
 そのお肌はすでにぴっかぴかのつるつるだ。
「も……う……だめ……にゃ……」
 かわねこの意識が闇に溶けた。


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 暗闇の中に燦然と光が輝いた。
 聞き覚えのある張りのある力強い声。
「おいお前ら。いじめか!?」
 言わずもがな。頼香少尉である。
 頼香は逆光でかわねこを拘禁している人物の顔が見えなかったのだろう。
 部屋の中に入り、二人の顔を見て驚きの声をだした。
「副司令!? って果穂もか。何やってるんだ?」
「こ、これはですね。えっと、そうそう……。
 かわねこちゃんがお風呂のときにシャンプーが目にしみて痛いらしいので、そのための機械の試運転をしてたんですよぉ」
 とこれは果穂。
 微妙に冷や汗がたらりと垂れているのを頼香は見逃さない。
「副司令。いったいどういうことなんですか」
「……」
 れもは沈黙を保ったまま顔を伏せ何も言わない。頼香がさらに問い詰めようとれもに歩みよる。
「副司令。答えてください」
「なんでも……にゃいにゃ。副司令は上からの命令に従っただけにゃんだからにゃ……」
「どういうことだ?」
「秘匿にゃ。頼香ちゃんには言えないにゃ……。でもれも副司令は全然悪くないにゃ。誤解しないで欲しいにゃ」
「かわねこ司令……代理」
 れもは胸に右手を添えてかわねこを見つめる。
 かわねこは力なく微笑んだ。
「ん〜。よくわからないけど、任務ってことならしょうがないのかなぁ」
 頼香はいまいち納得がいかないようで、頭をぽりぽりとかいた。
「まあまあ。ともあれ、これでかわねこちゃんの任務は終了したみたいですから、そろそろ私達も任務に戻りましょう」
「って、わかったから押すな。果穂」
「それでは。みなさまおつかれさまでした」
「おい、わかったから押すなって」
 頼香は果穂に背中を押されて部屋の外に連れ出されていった。
 
 無音の部屋。
 かわねこはようやく普段の体力が回復したのか恥ずかしそうにれもに訊ねた。
「そろそろ解放してくれるかにゃ」
「は、はい。ごめんなさい司令……今回は調子に乗りすぎました」
「別にいいにゃ。司令官の仕事は激務だからにゃ。けれど」
 とかわねこは念を押す。
「ボクは男にゃ!」
「さすが司令と言うべきですね」
 れもが帽子を脱いでかわねこに敬意を表した。
 これは彼女にとってはかなり勇気と決断の伴う行為であることには留意しなければなるまい。
 かわねこは微笑みながら、自分の優秀な部下を見つめた。
「で、ロープをほどいてくれるかにゃ」
「はい。ただいま」
 れもはフェイザーのレベルを1にセットすると、その熱でロープを焼き切った。
「ようやく解放にゃぁ……」
 つるつるなお肌になったかわねこは肩をぐるぐるまわして、自由を謳歌する。
「では、次の予定にボクは向かうにゃ」
 かわねこはすぐにホログラムデッキを飛び出した。
 これからプレラット大使館にでも出かけて外交活動をするつもりなのだろう。
 司令官とはかくもすさまじい精神力を有しているものなのだ。かわねこも例外ではない。
「で……結局、私が実務のすべてを行うわけね」
 ホログラムデッキでただ一人取り残され、れも副司令は毎度のことながら溜息をついた。
 ほんの少しだけ寂しそうに。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
 おまけ

「ということがあったのにゃぁ」
「それは災難だったな」
「そうにゃぁ。ドクターも同じようなことがあるかもしれないにゃぁ。気をつけるといいにゃ」
「はは、私は少し違うだろう。それに、れも副司令は対象が司令だったからこそ暴走したのかもしれんぞ。いわゆる愛情の裏返しというやつかもな」
「ばかにゃ……!」
「ふふん。まあ、今のは冗談だ。彼女は真面目だから任務を忠実に遂行したに過ぎんと見るのが一般的な見方だろう」
「うーむん。そうだろうにゃぁ……。でもあのときのれも君は真に迫ってた気がするにゃ……」
「人間、意地というものがあるからな。彼女も引くに引けないところまでいってしまったのだろう」
「そうだにゃ。プライドだにゃ……」
「プライドか。司令は副司令に屈することなく高潔さを守り抜いたことになるな。さすがだよ」
「いや……そうでもないにゃ。ボクは最後のとき、もう女の子でもいいかにゃぁ、なんて思ってたのにゃ……」
「うむん。女の子はいいぞぉ。かわねこよ」
「ど、ドクターまで陵辱嗜好にゃぁ」
「違う! 少女がにゅるにゅるされるのが好きなだけであって、断じて陵辱が好きなわけではない。誤解しないでもらおう」
「もう、どうでもいいにゃ……」


 おまけその2

「上への報告はどうしましょうか」
「適当にでっちあげとくにゃぁ」
「早く、データをアップせよ。アップせよとうるさくて」
「うにゃぁ……」


 おまけその3

「やっとTS9から、かわねこたんの陵辱ホログラムが届いたぞぉ」
「早く再生しろぉ! ダビングもさせてもらうからな!」
「左様!」
「年寄りには刺激が強すぎるわい」
「お前達、ちょっとは仕事しろよ……」



 終劇





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