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「うにゃあ…今日は牛丼の気分だにゃあ」

 スキップしながらかわねこは芳野屋へと向かっていた。芳野屋とは『早い安い美味い』がモットーの牛丼チェーン店である。現在のところ日本では諸般の事情により販売停止中の牛丼ではあるが、ここ宇宙のTS9では関係無い。完璧な検疫体制を背景に今日も元気に営業を続けている筈であった。

「牛丼♪ 牛丼♪ 株主優待券で一杯無料♪ 更にサービス券でサラダも無料♪ ついでにお茶とおしんこもサービスにゃ〜♪」

 即興の歌を歌いながら、スキップするかわねこ。まさにご機嫌モード、心は牛丼一色である。

「なんで開かないのかにゃ?」

 店に到着したのだが、何故か自動ドアが開かない。よく見ると目の前には張り紙がしてあるようだ。

「うにゃ?」

 その張り紙に書いてあったのは……。

『本日は営業しておりません』

「なんでなのにゃ〜!!」

 プロムナードにかわねこの絶叫が響き渡った。


400000ヒット記念寄贈作品

牛丼最後の日

作:OYAZI



「申し訳ございません。牛肉の在庫が途切れてしまいまして……」

 汗をかきながら支店長が説明する。涙目の少女に睨まれていれば汗もかきたくなるだろう。必死に事情を説明する支店長こそ泣きたい気持ちだったに違いない。なにしろ、かわねこの絶叫を聞きつけて外に出てきたばかりに質問責めにあっているのだから。

「話を纏めると、倉庫のお肉に問題があった。そーゆー事かにゃ?」

「はい、貯蔵している牛肉すべてに、何かに食われたような痕が……安全を考えて問題の無い商品が入荷するまでは営業を自粛したいと……」

「ううっ、食べたいのにゃあ……」

「そう言われましても……」

「一体原因は何なのにゃ!」

 きつい口調でかわねこが詰問する。イライラしているようだ。

「不明です」

 しかし、支店長はあっさりと答える。

「にゃに〜!!」

 職務怠慢だと怒鳴りかけたかわねこだが……。

「我々だって一刻も早く調査を行い、原因を究明して営業を再開したいですよ! しかし、我々が調査をするのは検疫上問題があるとして、TS9側が独自調査を禁止したんですからどうしようもないでしょうが!!」

 続く支店長のセリフに絶句する羽目になった。支店長の目が『あなた方が命令したことでしょう』と、かわねこを責めていた。形勢逆転である。少女の身ではあるが、かわねこは司令代理の少尉としてTS9を統括する立場にいるのだから仕方がない(かわねぎ司令? それは過去の人物です)

「そんなに牛丼が食べたいのなら、早く調査をしてください! 倉庫の異常が取り除かれないと、入港待ちをしてるお肉がダメになってしまいます! そうなったらどれほどの損害になるか!」

「知らなかったにゃ。ごめんなさいだにゃ。すぐに調査するにゃ〜!!」

 こうして、愛しの牛丼を賞味するために、かわねこは立ち上がった!
 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


 こうして、かわねこは有志を集めて調査に乗り出した。集まった人間は様々である。検疫を任務とする者も混じってはいるが、ただ牛丼を食べたいだけの人間や野次馬根性で参加している者もいる。そして、何故か『かわねこ専属メイド』を自称する緒耶美も参加していたりした。

「一応、軍務なんだけどにゃあ……」

 規律と言う面ではイケナイ事なのだが『ご主人様のお役に立つんです!』と張り切る緒耶美に『民間人はダメ!』と言うのも気が引ける。それに、調査の為に集まった職員が『牛丼を死守せよ!』と書かれた幟や鉢巻きをもって騒いでいるのを見れば注意する気も失せようと言うものだ。芳野屋倉庫調査隊はすっかりお祭り集団と化していたのであった。

「ここが倉庫かにゃ? 寒いにゃあ……」

「そうですね、ご主人様。でも仕方ありませんよ、お肉を保存するところなんですから、巨大な冷蔵庫と同じです」

 目の前の棚には処理された牛肉が所狭しと並べられていた。

「と言っても緒耶美ちゃんは普段着なのにゃ。説得力が無いのにゃ」

 そう言う、かわねこは防寒着でブクブクに着膨れている。

「がお? そうでもないですよ、実は寒いんで毛糸のパンツ履いてます♪」

「わー、見せなくても良いにゃ!!」

 照れくさそうに笑いながら、見ますか? とばかりにスカートをまくり上げようとする緒耶美をかわねこが慌てて止める。

「ともかく、牛肉の状態を調べるのにゃ!」

「そーですねー、見た感じあちこちが丸く抉れてますよ? 何ででしょうね?」

「うにゃ、ホントにまん丸なのにゃ! 抉ったと言うより、溶けたようにも見えるにゃあ?」

 大きなブロック肉の中心に開いた丸い穴を見つめながら、何なんだろう? と二人は首を傾げる。そうやって少女二人が真面目に仕事をしている横で……。

「ふふふ、こーゆー時には動体センサーが役に立つのだよ!」
「何を言う! 暗がりではノクトビジョンの方が役立つに決まっている!」
「まてまて、武器が無くては話になるまい? 俺はスタンロットを装備しているぞ!」

 いい年をした男性職員達が玩具(装備)自慢をしていた……。

「おっ? 動体センサーに反応があるぞ?」

「ん? どうした?」

「いや、センサーに反応があったんだ。生き物かな? かなり小さくてすばしっこいヤツだ。大きさから言って……ハムか?」

 男性職員AとBの会話ににかわねこの耳がピクンと反応する。

「ハムなのにゃ!? 急いで保護するのにゃ〜!!」

 そう叫んだ次の瞬間には『脱走なのにゃ、こんなところじゃ凍死するにゃ』等とブツブツ呟きながら、必死にハムスターの捜索を開始していたりする。

「司令代理……まだハムスターと決まった訳じゃ…………」

 そう諫める職員Bのこめかみには汗が一滴伝っていた。勿論、防寒着で外からは見えない事なのだが。

「あうぅ……でもハムだったら…………」

「がお? ハムスターさんだったらとっくに動けなくなってると思いますよ? 少なくても冬眠しちゃうと思いますけど?」

 まあ、緒耶美の言うとおり、ここにいるのはハムスターでもプレラットでも無いだろう。ここは牛肉の貯蔵庫なのだから……ひま種の貯蔵庫と言うなら潜り込む不心得者がいないとも限らないが。

「うにゃ? じゃあ、ハムに似た生物かにゃ? どっちにしても断固保護するのにゃ!!」

 困惑する緒耶美や職員達を後目に、ハム大好き、プレラットまんせーなかわねこは燃えていた。萌えてもいるようだが。

「いや、生き物かどうかも未だ判りませんし、もし生き物でもハムに似てるとは限らないんですが……」

 そう言ってかわねこを窘めようとする、職員Aだったが、その努力は無意味であった。何故なら緒耶美がこんな事を言い出したのだから。

「えーと……似てるって言っても良いと思いますよ? ちっちゃいし、毛がフカフカそうですし、まん丸なお目目は可愛いし」

「うにゃ? 緒耶美ちゃんどういうことにゃ?」

「だって、ご主人様達が探しているのってあの子ですよね?」

 そう言って緒耶美が指さしたその先には、つぶらな瞳(点目)を持つ、ハムスターサイズの毛玉が居た。


「あっ、アレは!!」

 それを見た職員Cが叫ぶ。

「なにぃ! 知っておるのか、らいでん!」

 すかさずボケたのは職員Bだ。

「誰がらいでんじゃい!」

「らいでん? 相撲取りだっけ?」

「違うぞ、旧日本軍の戦闘機だ」

 怒る職員Cに対しても職員AとBは動じない。どんな時でもボケを忘れないのがTS9職員の心意気である。

「それも違うにゃ、倶知安-札幌間を走ってた急行だにゃ」

 ボケにボケを重ねるかわねこもさすがだった。

「さすがご主人様です! 博識ですね♪」

 残念ながら、この場にはツッコミが一人しかいないようだ。緒耶美は天然だし。

「「「…………」」」

「そっ、それはともかく知っているなら教えてくれい。職員Cよ」

「むう、記号で呼ばれるよりは、らいでんの方がマシだったかもしれん……それはともかく、アレはドリブルだ!」

  

ペット生物ドリブル

 全長5〜8cmほどの非常におとなしい小動物。
 有機物ならば何でも餌にする食欲旺盛な生物ではあるが、スカベンジャーであり生きているモノは襲わない。
 飛び跳ねる様に移動する姿が愛らしく、生ゴミを無くす上に排泄物が肥料になる為、辺境ではペットとして飼われている事もある。
 なお、英雄“怒利振”がこの生物を操る事で野営地の衛生状態を保っていたのは有名な歴史的事実であり、彼の勝利の一因とされている。
 また、英雄“怒利振”の偉業にあやかって、球状の物体を操ることを「ドリブル」と呼び、この生物の名称の由来となったことは戦場の常識である。

眠瞑書房刊『謎の宇宙生物、その歴史』より抜粋


「なるほど、こいつが紛れ込んで、牛肉を餌にしていたんだな」

「って事はアレを捕まえたら、仕事は終わりか?」

「そうだな、ちょっと面倒だが危険は無さそうだし、とっとと片づけるか」

「……かわいいのにゃ」

「がお? どうしたんですか、ご主人様?」

「かわいいのにゃ♪ 保護するのにゃ〜♪」

「おおっ? かわねこちゃんが燃えている!」

「と言うより、萌えているんじゃないか?」

「「「でもまあ、かわねこちゃんが喜ぶなら……」」」

 美少女にお願いされればやる気も出ようというものだ。

「がんばって保護するのにゃ〜♪」

「「「お〜っ!」」」
「はーい、ご主人様の為にも頑張りますよ〜♪」

 芳野屋倉庫調査隊は急遽ドリブル保護隊に変更されたらしい。

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「あっ、そっちに逃げちゃいました〜!」

 全員で捕まえようとするのだが、ドリブルは素早くなかなか捕まらない。

「よし、みんな動くな! センサーで調べるからな!」

 職員Aが自慢の動体センサーを使って居場所を探していく。

「よーし、近いぞ……職員C! そこだ!」

「判った! ていっ!」

 職員Aの指示で職員Cがスタンロッドを使用する。勿論、ショック死しないように電圧その他は調整済みだ。

「うにゃあ!! 尻尾つついた! 電撃棒で尻尾つついた〜!!」

「あわわわわ、ご主人様大丈夫ですか〜」

 動体反応を示していたのはかわねこの尻尾だった。期待にピクピクと勝手に動いていたらしい。

「かわねこちゃんごめん! っとセンサーに反応あり! こっちだ!!」

「がおっ! それは私の尻尾ですよ〜!」

 今度は物陰から見えた、緒耶美の尻尾をつついたらしい。スタンロッドは緒耶美の反撃を受けてお亡くなりになった(ついでに職員Cも(爆))「おっ俺は未だ生きてるぞ……」

「ぴこっ?」

 珍妙な鳴き声をあげて、ドリブルが逃げ出す。

「ああぅ、ピコピコ跳ねてる……かーいいにゃ♪」

 かわねこの声がとろけていた。追いかける事も忘れて見入っている。

「あ〜〜〜! ご主人様、逃げちゃいますよ〜! 捕まえないと!!」

「はっ! そうだったにゃ!! まてまて〜♪」

「がおっ! ドリブルさん待つですぅ〜♪」

 二人の少女が小動物と戯れている。それは見る者の心を和ませる光景だった。

「うむうむ、和やかで良いねえ……」

「薄暗くてよく見えないのだがな」

 にやける職員Bとは対照的に職員Aは不満顔だ。

「ふふふ、やはりノクトビジョンを装備して正解だったな♪ 小動物と戯れる美少女達……うむ、素晴らしい光景だ!」

「くくうっ、俺も見たい……」

 職員Aが血涙を流して悔しがる。しかし、職員Bがノクトビジョンを貸してくれない事は判っているので、諦めるしかない。

「ふふっ、では俺も混ざってくるか♪ ドリブル待て〜!」

「おにょれ……」

 悔しがっても、暗がりが良く見えない職員Aは参加する事が出来なかった。なにしろ、暗がりを逃げるドリブルの姿が見えないのだから仕方がない。

「ドリブルちゃん待つのにゃ〜♪」

「待つです〜♪ あきゃん!」

 二人はドリブルを追いかけることに夢中だった、そのため注意力が低下していたのだろう。床の氷に気付かずに緒耶美が滑って転んでしまった。

「おおっ♪」

 それを見て思わず喜びの声を上げてしまったのは職員Bである。何故なら緒耶美のスカートが捲れていたからだ。どうやらこの男ロリっ気があるらしい(今更って気もするが)

「緒耶美ちゃん、スカートにゃ!」

「がおっ!!」

 かわねこに教えられた緒耶美は赤面してスカートを直す。そして、自分を見ている職員Bに気付いた。職員Bの不幸は少女達二人ともが夜目の効く種族だったことだろう。職員Bはにやけた表情と伸びた鼻の下をしっかりと目撃されてしまったのだ。

「いやらしいにゃ……」

「ううっ、見られちゃったんですね……」

「いやその、えーと……事故っ! これは事故なんだよ!!」

「言い残す事はそれだけかにゃ?」

 かわねこはある事情により、男の気持ちが良く判るのだが……。

「じゃあ、記憶を失うにゃ!!」

 強烈な一撃がいい感じにテンプルにヒットする。かわねこ少尉は緒耶美の保護者でもあるためか緒耶美の事となると情け容赦が無かった。

「ごふう……」

 こうして職員Bは大地に沈んだ(二人目の死亡者である(爆))「勝手に殺すな……」

「ふっ、悪は滅びたにゃ」

「あの、ご主人様?」

「うにゃ?」

「見られたと言っても毛糸のパンツですし、そこまでしなくても……」

「あ゛……まあ、済んだことは忘れるにゃ! そんな事よりドリブルにゃ!」(薄情者)

「あっ、そうでした! 待て待て〜♪」(薄情者その2)

「ぴこぴこっ♪」

 楽しそうな追いかけっこが再開された。心なしかドリブルも楽しんでいるように見える。

「なんか、俺がいる意味無い気がするな」

 職員Aは寂しそうに呟くと、同僚二人の足を掴んで退場していった「「引きずるるんじゃねえ!!」」

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 ようやくドリブルを捕まえた二人は芳野屋の支店長に結果を報告し、営業再開の許可を出すことが出来た。かなり時間がかかったのだが、二人にとっては楽しい時間でもあったようだ。

「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」

「うにゃ、これもお仕事なのにゃ。当たり前の事しただけにゃ」

 と言いつつもかわねこは赤面していた。照れているのだ。

「えと、何時から営業を再開するんですか?」

緒耶美の質問に店長が答える。

「そうですね、今ある肉の量だと……通常業務に戻るのは来週からでしょうね」

「うにゃ? 来週まで営業しないのかにゃ!?」

 牛丼を食べたいが為に必死で頑張ったかわねこがあせった声で訪ねる。

「いえ、営業は明日から再開します。ただ、今ある肉の量だと、次の入荷までは一日限定500食くらいが限度ですね」

「そうなんにゃ……でも早く並べば食べられるのかにゃ?」

「はい、勿論ですとも! ご来店をお待ちしております♪」

「良かったですね、ご主人様♪」

 店長の説明にほっとしたかわねこであった。




 そして次の日。

「牛丼♪ 牛丼♪ 今日こそ牛丼♪」

 スキップしながらかわねこ少尉が芳野屋へ向かう。なにしろ一日限定500食! 早くしないと売り切れてしまう。

「かわねこ少尉、何処へ行こうと言うんです?」

 そんなかわねこを引き留める冷たい声。おそるおそる振り向くと、そこには修羅がいた。

「あう、れも副司令。ちょっと食事なのにゃ……」

「まだ、勤務は始まったばかりです。食事なら休憩時間にしてください!」

「そんにゃ! そんな事してたら売り切れるにゃ!」

「そんな事とはなんですか! ちゃんとお仕事しなさい! だいたい昨日も勝手に検疫を手伝いに行って……昨日の分の仕事も溜まってるんですからね!」

 れも副司令はかわねこの襟首を捕まえると、ズルズルと引きずって司令部へ連れ戻そうとする。

「うにゃあ! 牛丼、ボクの牛丼〜!」

 かわねこの涙ながらの訴えもれも副司令には届かない。かわねこ自身が悪いんだし仕方ないけど。

 こうなったら早く仕事を終わらせるしかないぞ!

 頑張れ、かわねこ! 急げ、かわねこ! 牛丼完売まで、後365食! 365食しかないのだ! あっ、もう残り300食を切ってる……とっ、とにかく頑張れ! 無理そうだけど……。

「ボクのぎゅうどん〜〜〜!」





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