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「ご主人様〜、ホントに良いんですかぁ?」

 緒耶美は操船しつつも、不安そうな顔をかわねこへと向けた。

「大丈夫にゃ♪ 世間様は『年越しだ、仕事納めだ、忘年会だ〜』とマターリムードなのにゃ。年中無休の軍人さんだって、偶には休まないとやってられないにゃ」

 のほほんとかわねこが答える。偶にはなんて言っているが、しょっちゅう理由をつけては休暇を取るかわねこが言っても説得力は無い。

「なら良いんですけど……副司令が怒ったりしませんかぁ?」

 怒ったときの副司令の迫力を知っている緒耶美としては不安で仕方がないらしい。



 ここはU.S.S.あいくるの艦橋である。この二人は、忙しい年の暮れだと言うのに会議で遠出をしたついでに温泉へ寄っていこうとしているのだ。

 ご主人様のお願いとは言え、サボりに協力したことがバレタらどうなる事か……いや、それよりも二人っきりで温泉なんて抜け駆けをする事の方が怒りは大きいかも知れない。二人で温泉に行く事自体はとっても嬉しいのだが、後の事を考えると気後れする緒耶美なのである。

「だから大丈夫にゃ♪ れも副司令やシェリル少佐、頼香ちゃん達とも現地で合流するんだから心配ないにゃ♪」 

 かわねこはそんな緒耶美の様子に苦笑しながらこう答えた。

「れも君達も仕事だったからにゃぁ。どうせならって事で待ち合わせているにゃ」

 つまりTS9では現在、副司令も司令代理も(ついでに司令も)不在と言うことになる。基地の運営に支障が出る可能性もあるのだが、かわねこは全く気にしていない。もっとも、れも副司令の事だからフォローは万全だろうが。

「……そうなんですか? じゃあ皆さんをお待たせしないようにしないといけませんね♪」

 なら安心だとほっとしながらも、二人っきりじゃ無かったんだぁ……と、ちょっと残念な気もする緒耶美だった。

 


温泉での出来事

作:OYAZI
画:電波妖精 さん



「えーと……此処みたいですよご主人様」

 目的地の看板を見上げながら緒耶美はかわねこに声をかけた。二人分の荷物を持っていながら元気いっぱいである。緒耶美はなにげに力持ちなのだ。

「やっと着いたのかにゃ。ようやく温泉でマターリなのにゃ♪」

 かわねこが『ん〜』と温泉宿の前で身体を伸ばす。

「がお、ご主人様疲れちゃいましたか?」

「大丈夫にゃ、操船してた緒耶美ちゃんこそ疲れてないかにゃ?」

「私は大丈夫ですよぉ。それにこれから温泉ですし♪」

 ニコニコと緒耶美は嬉しそうだ。『敬愛するかわねこや友人達と一緒に温泉』緒耶美にとっては、とても嬉しい一大イベントなのに違いない。なんと言っても名実共に11歳の少女なのだ。そして名実共に11歳の少女がもう一人いる。

「あ〜〜! 来た来た♪ 待ってたよ〜♪」

「こら来栖、はしゃぐな! 他のお客さんの迷惑だろ!!」

 頼香に窘められながら、来栖が飛び出して来る。一泊とは言え、仲の良いお友達と温泉宿泊。来栖は楽しい修学旅行気分を満喫していた。れも副司令とシェリル少佐は引率の先生である。

「まあ少し位なら良いじゃないですか」

 少し遅れて果穂もやって来る。

「今は周りに他のお客さんは居ませんし、来栖さんも人が多い所では騒いだりしないでしょう?」

 後半は来栖へ向けての確認である。

「うん。ごめんね頼香ちゃん」

 来栖は素直な良い娘だった。

「……まあ今回は良いけど気をつけろよ」

 そっぽを向いて頼香が言う。ちょっとぶっきらぼうな言い方ではあったが頬が赤い。乱暴な口調は照れ隠しである。来栖の為を思っての苦言ではあったが、強く言い過ぎたかと反省しているのだろう。

「まあ、隠れた名湯ですから。今日はお客さんも少ないようですし」

「そうなんだ、じゃあ少しくらい騒いでも良いよね?」

 来栖が頼香に許可を求めている。

「まあ、程々にな。副司令達も待ってるだろうし早く行こうぜ」

 頼香が仲間達を急かす。こんな所で時間を浪費してはもったいない、なにしろ温泉なのだ。

「楽しみだね頼香ちゃん♪」

 うきうきと楽しそうな来栖の言葉に頼香は黙って頷いた。  

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 服を脱ぎながら緒耶美は試練に耐えていた。耐え忍んでいた。

「がお、みんな発育良いです……」

 小声でポツリと呟く。

「緒耶美ちゃん、早く脱いじゃえよ。とっととお風呂に行こうぜ」

 弾んだ声の頼香。

「大きなお風呂って何だか楽しいね♪」

 楽しそうな来栖。

「やはり、裸のつき合いって素敵です」

 何かが間違っている様な気もするが果穂も楽しそうだ。

「ゆっくり温泉に浸かって、日頃の疲れを吹き飛ばすにゃ♪」

 そして敬愛するご主人様。

 仲間達の声に顔を上げると、それぞれの胸が視界に入る。年齢相応に膨らみ始めた柔らかそうな二つの果実がそろっていた。そしてもう一度、自分の胸を見下ろし比べてみる。

「がお……ぺったんこ」

 膨らむ素振りさえ見えない自分の胸……種族が違うが同じ年頃の少女と比べて余りに小さな自分の胸に緒耶美は悲しくなった。ちょっぴり涙目なのがその証拠である。

「ああっ、どうしたのにゃ!」

 涙を見たかわねこが慌てる。

「いえ、何でもないです」

 そう言いつつも、しっかりとタオルで胸を隠していては何を気にしているのか一目瞭然である。

「気持ちは解るけどさ、成長速度なんて人それぞれなんだから気にしてもしょうがないって」

「そうだよ、大体私たちの成長期ってこれからじゃない」

 頼香と来栖が緒耶美を慰める。しかし、この手の話題になると信念を持って反論する少女が一人居た。

「何を言うんです! つるぺたこそが理想の胸! 青く未熟な果実の魅力、それこそが女性として最高の美!! そもそも女性の胸とは…………」

 一人ヒートアップして演説を始める少女。言わずもがなの果穂である。しかし、周りの反応は……。

「あ〜、こうなると長くなるからほっとこうぜ」

「そうだね、頼香ちゃん。ほら緒耶美ちゃんも早くお風呂に行こう?」

「折角の温泉にゃ、楽しまないと損にゃ♪」

 誰も果穂の事は気にせず、緒耶美を慰めていた。

「……そうですね」

 3人に慰められて緒耶美は気を取り直した。自分はまだ子供なのだ、胸のサイズで悩むのは大人の女性になってからで十分だ。

「良かったな、緒耶美ちゃんも元気出したみたいだ」

「そうだね。でも緒耶美ちゃんの気持ち解るよ。気にするなって言われたってどうしても気になるもん」

 まあ、幼くても女性は女性。周りと自分を見比べるのはある意味当然だと言えよう。小声で話し合う二人に、ちょっぴり勝利感があるのは緒耶美には絶対にナイショだ。

「「「ほらほら、早く〜」」」

「わわっ、押さないでくださいよぉ〜」

 しかし、5年後には彼女達の立場は逆転する事になる。緒耶美はある時期から急成長。シェリル少佐や果穂と並んで、TS9三大巨乳美人とまで言われる様になるのだ。現在の勝利は、頼香達にとってはつかの間の勝利でしかなかった。



「えーと、副司令とシェリル少佐は先に来てるんだよな?」

「そうなのにゃ?」

「うん、そう言ってたよ。ここって露天風呂があるんだよね? 楽しみだなぁ〜」

「楽しみですねぇ〜」



「ですから、私たちはこの短く貴重な宝石の様な時間を……」

 果穂の演説はまだまだ続きそうだった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「きゃう! もう…止めて……お願いです」

「ふふっ、まだまだこれからだ」

 扉を開けようとした頼香の手が止まる。

「「今の声って」」

 思わず顔を見合わせる頼香とかわねこ。

「「ねえ(がお)、どうしたの(んですか)」」

 状況がつかめない残り二人、来栖と緒耶美。

「先輩、私怖い……お願い、もっと優しく」

「優しくするから。大丈夫、私に任せろ」

『えーと、コレはれも副司令とシェリル少佐の声だよな? 何をしてるんだろう、そう言えば他にお客が居ないみたいだけど……まさか…ねぇ』

 頼香は硬直していた。かわねこも同じく硬直している。

「置いて行くなんて酷いです! って皆さんどうしたんですか?」

 追いついて来た果穂が文句を言うが、友人が二人も硬直している状況に怪訝な声を上げる。

「ほら、ゆっくり沈めるからな」

「ああっ! 先輩、深いっ! 深いですっ!」

 其処へ聞こえてくる二人の声。お風呂場だからか妙に響いて艶っぽく聞こえた。

「えっ!? まさかこの声って」

 状況を理解した果穂までもが硬直する。硬直する三人とは対照的に、名実共にお子さまな残り二人は訳が解らずにキョトンとしていた。

「暖かくて気持ち良いな……ほら、もっと深く」

「先輩、先輩ぃ。お願い、もうこれ以上は」

 れも副司令の声は息も絶え絶えだ。

「まだまだ、ほらもっと深く……れも、気持ちいいだろう?」

 ピチャピチャと水音が響き渡る。

「もうダメです。お願い許して〜!」

 れも副司令の懇願する声が響き渡った。



「ね〜、早くお風呂入ろうよぉ〜」

「あの、風邪ひいちゃいますよ?」

 硬直して動かない三人に焦れた来栖と、緒耶美が声をかけた事で三人の硬直が解けた。

「「「って硬直している場合じゃ無い(にゃ、です)」」」

 三人はいきなり脱衣所からお風呂場へと突入する。

「「「一体何をして!?」」」

 叫びながら突入した三人が見たモノは……。



「ああ、遅かったな」

「先輩、お湯を揺らさないでぇ」

 並んで湯船に浸かっている、れも副司令とシェリル少佐の二人だった。

「「「あれ?」」」

 困惑する頼香、果穂、かわねこの三人。

「寒いし早く身体を洗ってお風呂に入ろうね♪」

「はいっ♪ お背中流しますね♪」

 来栖と緒耶美はマイペースで身体を洗い出した。

「ほら、れもはちゃんと肩まで浸かれって」

「そんな事言っても……ああっ、急に動かないでぇ! お湯が、お湯がぁ!」

 シェリル少佐がのんびりと温泉に浸かっている。れも副司令はお湯が怖いのだろう、顔に近づいてくる波を嫌がっていた。

 れも副司令は種族の特性で水(お湯)が怖いのだが、かわねこ達と一緒なら不思議と問題なくお風呂を楽しめるのだ。しかし、今回、一緒に居たのはシェリル少佐のみ。ついお湯を怖がって逃げ出そうとしてはシェリル少佐に捕まっていたらしい。

「「「えーとぉ?」」」

「あはは、恥ずかしい所を見られてしまいましたね。どうもお湯が怖くて……あっと、かわねこちゃん、身体を洗ってあげましょうね♪」

 5人が入ってきた事に気付いた、れも副司令は何かをを誤魔化そうとするかのように、いそいそとかわねこへと近寄ってくる。

「あらっ? 三人とも、何を赤くなっているの?」

 頼香達がふと気がつくと、れも副司令が不思議そうな顔で頼香達を見つめていた。

「「「えっ、いやその……」」」

 頼香たち三人のシンクロ率は400%を越えたっぽい。これなら使徒も一撃である(マテ)。

「ふむ……お前達、何を考えた?」

 先ほどまでの自分たちの会話と頼香達の様子を思い出して、シェリル少佐が質問する。ニヤリと笑っている所を見ると解っていて聞いているのだろう。

「「「…………」」」

 頼香、果穂、かわねこの三人は顔を真っ赤にしながら何も答える事が出来なかった。



 この後、大人な二人にはさんざんからかわれ、事情を理解できないお子さま二人には事あるごとに質問されて、三人はとっても困ったそうだ。

「だって仕方ないだろ!」

「そうです! 人間には想像力ってものがですね!」

「あれは誤解するのも無理は無いのにゃぁ」

 頼香ちゃん達のスケベ(ぼそっ)。

「「「うるさ〜い!」」」


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