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「…………………………」
 かわねこは硬直していた。それはもう完璧に。
 とはいえ、れも副司令から渡されている仕事の事ではない。大体が、仕事の事であればそれほど悩む事はない。いつもは逃げる事に労力のほとんどを割くのが普通で、仕事自体は彼女にとっては片手間で出来る事なのだから。
 硬直しているのは…現地惑星の『ホビーショップ』というお店の前だった。
「な…な…な………
 何で、12歳以上になってるのにゃ〜〜〜!?」
 そこには、お菓子つきの玩具・いわゆる食玩が並んでいた。
 そしてそれは、かわねこの大好きなシリーズで、発売日を一日千秋の思いで待っていたものだった。そして今日がその発売日………なのだが、その発売された箱にはこう書かれていた。


『対象年齢 12歳以上』
 かわねこは現在、11歳まっただなか。



年齢制限


原案 かわねぎ様 OYAZI様

作:keyswitch



 司令室
「どうすれば手に入れられるのかにゃ…
 スーツを着ていき、文字通り『大人買い』をするのが一番早い手ではあるんだけど…ああいうものは1個1個買って、開けた瞬間に一喜一憂する『プチギャンブル』みたいなところに醍醐味があるわけだしにゃあ…」
 隣に詰まれて…もとい、データーディスプレイの中で待っている書類確認・承認の仕事そっちのけで、頭を抱えながら(ときたま自前の耳をいじりながら)自室で真剣に悩んでいる姿は、態度は不真面目だが可愛らしさが存在する…ある意味不釣合いな姿だった。
 そんな姿を見ながら、
(ああっ、悩んでいるご主人様も素敵♪)
 と、喜んでいるメイドさんがいるとかいないとか…
 ちなみに一瞬ではあるが、メイドさんに頼もうとも考えたのだが、メイドさんも同い年・頼む事は出来ないとすぐにその考えを棄てていた。

「…司令代理、悩むのはおおいに結構ですが、早く書類を仕上げてください。
 大体が、司令代理であれば悩むほど難しい書類はなかったはずですが?」
 そういいながら入ってきたのは、現在この基地管理を一手に任されているれも副司令だった。
 副司令の声を聴いた瞬間、
「そ・そうにゃ!
 れも君、簡単なことなのだけれどとある作業をして欲しいにゃ…お願いできないかにゃ?」
「お願いですか? でしたら溜まっている書類の整理が全て終了したら・という事でいかがでしょう?
 もっとも、かなりの日数分溜まってますので、すぐには終了しないでしょうが」
「にゃ! やる気が出てきたにゃ」

 そして5分後

「さぁ、おわったにゃ♪」
「………あれだけの量をこんな短時間で終わらせるとは………いつもどれほどサボっているのかわかった気がします」
 眉間にくっきりと『#』の文字を描きながらも、とりあえずは司令の仕事が全て終わった事にほっと胸をなでおろす副司令だった。
「で、お願いなんだけどにゃ」
「まぁ、約束ですから。
 で、私に一体何をさせようというのでしょうか?」
「コレを手に入れてきて欲しいのにゃ♪」
 そういって差し出されたパンフレットを見て…そこに印刷されていた金失の写真を見て…
 眉間の『#』がちょっと…いや、かなり大きくなった。

 何故なら、しばらく前に司令がTS9と現地惑星間の往復の回数がかなり多い事に気付いた副司令は、経費節減の為に指令代理専用の小型宇宙船を用意したばかりなのだ。
(もっとも、提督の耳に入るようにちょっと情報を流しただけで、その予算がいつの間にか承認されていたということもあったのだが…それは些細なことだろう)
 これで、予算の大幅な削減が出来る・とほっとした副司令だったのだが、現実には…それほど減っていなかったのだ。
 それを不審に思った副司令は、司令の申請書類をチェックしなおした。すると、極端に減るだろう・と思っていた司令の『交通費』がそれほど減っていないことがわかったのだ。
 しかも、今までは『星間移動費』の欄にかなりの数字が並んでいたのが、近頃は『星内移動費』の欄にかなりの数字がならんでいた。つまり…今まで星間移動に使われていた手当てが、そっくりそのまま星内移動に使われるようになった・ということだった。
 が、そんな事は普通ありえない。何せ作成した小型宇宙船は大気圏内でも運用可能・ステルス機能完備で現地惑星住民に見つかる事はまずありえない。万が一見つかったとしても、現地惑星で使われている乗り物に似せて作られたので、多少は不審がられても『おーばーてくのろじー』には見えないようになっているのだ。

 つまり…星内移動には、今回導入した船は使われていないということ。
 それを問いただしたところ、
「現地での移動は、やっぱり現地の乗り物で移動するのが基本だにゃ♪
 星間移動で余った移動費用は、星内移動に使わせてもらってるにゃ♪」
 と返された。もちろん副司令もこの時点で、司令の趣味や性格は嫌というほど把握している(というか、させられている)。
 ちなみに、ふと副司令が抱いた疑問『小型宇宙船が無かった頃はどうしていたんですか?』との問いに、
「泣く泣く自腹を切っていたのにゃ」
 と答えを返され………副司令は切れた。
 なぜなら、司令時代の星内移動距離よりも、現時点での司令代理になった後の移動距離の方が遥かに多かったからだ。しかも子供料金になっているから単純に考えても倍以上になる。
 つまり現在はそれだけ経費が使われているというわけで………


「そんなもの絶対に買って来ませんーーーーーー!!!!!!」
「うにゃ〜〜〜っ」
 ちなみにその後、かなりの長い時間副司令の説教が続いたという…
 




 次の日・お店の前。
 かわねこは頭を抱えて悩んでいた。
(ネコミミ悪魔:年を1歳・たった1歳ごまかしさえすれば、コレを手に入れる事が出来るにゃ♪)
(ネコミミ天使:だめです! あなたは司令官という要職についているのですにゃ!)
(ネコミミ悪魔:単なる自分の趣味の世界だけ♪ たった一度だけだから無問題にゃ♪)
(ネコミミ天使:軍人としての自覚が無いのですかにゃ!)
 ………頭の中で、せめぎあいがあるようだ………

 と、
「何悩んでるんだ? かわねこ」
「何か問題でもあるんですか?」
「どうしたの?」
 そこに顔を出したのは、よく知っている3人組みだった。まぁ、地元だから会う可能性もなきにしもあらずなのだが。
「にゃ? 3人はどうしてここにいるのにゃ?」
「実は、果穂が今日発売のフィギュアを注文しているから、一緒に行かないかと誘われて…」
「そうなんです! ついに発売なんです! コレを手に入れずに…」
「あー、わかったわかった。わかってるから熱く語るな。
 で、かわねこは一体どうしてここにいるんだ?」
「あにゃ…実は…」
 かわねこは(本人曰く)『切実な問題』を打ち明けた。

 しばらくの沈黙

 ………3人は、ちょっとあきれた表情になっていた。
「…本当にそんな事で悩んでいたのか?」
「そんな事とは何にゃ!!! 重要な問題なのにゃ!!!
 コレは期間限定だから、ボクが12歳になるころには既に手に入れることが不可能になっているのにゃ!!!
 切実でなくてなんだというのにゃ!!」
 かわねこの言葉には、かなりの怒気が含まれていた。

 …が、そんなかわねこをよそに、果穂はレジの前へと進んでいった。そして(どうやら顔見知りらしい)店長らしき人と話を始めた。
「店長さん。予約しておいた限定フィギュア、入荷してますか?」
「あ、ああ。ちゃんと入ってるよ。限定なのに3個も仕入れるのは大変だったがね」
「いつもながら無理難題を言ってしまって申し訳ありません」
「なに、お得意さんだから気にしない気にしない」
「ありがとうございます。
 それと…あそこの食玩、在庫はいくつあります?」
「あ、あれかい? まだ昨日入ったばかりだから充分残ってるよ。それに注文すれば幾らでも入るし…
 果穂ちゃんもアレを集めてるのかい?」
「…いえ、友人がどうしても手に入れたいって言ってまして…」
 そういいながら、かわねこの方を見る。

「にゃにゃっ!? 果穂ちゃん、だめにゃ!?
『12歳以上』って書いてある以上、11才のボクや果穂ちゃんは購入できないにゃ!!!」

 その言葉に、店長さんは唖然として…果穂と頼香は含み笑いを始めた。
「何がおかしいのにゃ!?」
「おじょうちゃん。
 アレは『推奨年齢』であって、確かに『12歳以上』って書いてあるけれども、お酒やタバコとは違って別にその歳以下の人が絶対に買ってはいけないって訳じゃないんだ。
 あくまで目安なんだよ」
 その一言に………真っ白になるかわねこであった。

(昨日の苦労や苦痛は一体なんだったのにゃ………)



 その後…
 司令室から嬉しそうな声が声が聞こえてきたのは余談だろう。






「ところで…」
「なんにゃ? れも君」
「この、司令室いっぱいにあるお菓子の山は一体何なんですか!?」
「ああ、これにゃ。
 ぢつは、今回のシリーズは世界最高と謳っているだけあって、ニホンという国の全ての金失道模型を網羅しているという超大作なのにゃ♪
 しかも、同じ形でも走る路線によって彩色が異なっている所まで再現されてるのにゃ。彩色違いやシークレットを含めて、全てを揃えるのにほんっとうに苦労したにゃ〜♪」
「………ということは………」
「模型は自室に全て飾れたのはよかったけど、それ以外の付いていたお菓子までは自室に入りきらなかったのにゃ。
 だから此処においてあるのにゃ♪」
「ちなみに、お幾らほど使われたのですか?」
「えーっと………司令代理としての今年のお給料+ボーナスで足りなかったから…司令としてのボーナスもじぇんぶつぎ込んだにゃ♪」
「………………」
 もう何も言っても無駄だろうという表情をしながら…
「以後、星内移動は小型宇宙船を使ってください。宇宙船の維持費・燃料費以外の移動手段に対する支給は今後一切ありませんから」
 その一言でかわねこは完全に硬直する。
 しばらくして…再起動を果たした瞬間、現実と向かい合い、
「うにゃ〜〜〜!!! 今月は既にお小遣いまで完全に使い切ってるにゃ〜〜〜!!!
 今度の『海外視察渡航』の時の移動費はどうすればいいのにゃ〜〜〜!!!」
「勿論、専用の船がありますからそれで…」
「ボクは某国のパスポートしか持ってないにゃあ! そんな事で入ったら不法入国になってしまうにゃあ!!!」



『金』を『失』う『道』と書いて………
 今回はちゃんとそう書いてあるでしょう?



 とある食玩に書かれていた『推奨年齢12歳以上』というところでふと浮かんだ1発ネタ。
 最初は廃棄するつもりだあったのですが………あれ?


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