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「どうして・・・どうして貴女達が行かなければいけないの?」後から声を掛けられて少女達は立ち止まった。
「ここにいれば危険な事なんて・・・苦労する事なんて」
「皆だって喜んで貰えるのに・・・わざわざどうして・・・」
「それは違うよ」少女が一人振りかえりゆっくりと口を開いた。
「俺達は苦労だなんて思っていないよ」その顔は年相応の可愛い顔ではあったが、口調は男のようでもあり大人びていて凛々しい雰囲気を纏っていた。
「困っている人がいる、助けを求めている人がいる・・・そんな人達を助けるのが俺達の役目なんだ」
「それに・・・これを見てみて・・・」隣で話を聞いていた別な少女が振りかえりながら胸を指差すと、立ち止まって他の少女も振りかる。
その”5人の少女達”には着ている服に不似合いな”小さな不ぞろいのコサージュ”が胸を飾っていた。
「可愛いでしょ?・・・5つも作るのは大変だったでしょうに・・・」その少女の言葉に相手はなにも言えなかった。
「これはね・・・私達の事を思って一生懸命に作ってくれた”たったひとつのもの!”なのよ」白い指は小さなコサージュを指差し、ゆったりと優しい言葉で答えながら微笑む少女。
「そんなあの子達を守る事が苦労とは思わないにゃよ」頭の耳を動かして別な少女が答える。
話しかけた相手は少女達の”本来の職務”を思い出すと口を噤んだ。
少女達は相手の様子を確認するとゆっくりと口を開けた。
「「「「「転送!!!」」」」」
少女達はまばゆい光に包まれるとその場から消えていた・・・





宇宙いっぱいに微笑を

宇宙にひとつだけの花・3

原案かわねぎ様  MONDO様  さたび―様

作:kagerou6





「「「はぁぁぁ・・・」」」

少女達は大きくため息を付いて廻りからジロっと睨まれてしまった!
睨んだ相手はその少女達が何故ため息を付くのか理解できなかったからだ。
睨まれた少女はにっこりと笑顔を向けるとステージに目を向ける。
それを見て睨んだほうでもステージに目を向け、中央にいる人に神経を集中させていく。

「ふぅ・・・なんでまたこんな格好しなきゃならないんだ?」睨まれた少女・・・頼香はムスっとして小声で隣のかわねこに話掛けた。
「仕方ないにゃ・・・ノミネートされたんにゃもの」かわねこはそう言いながらも同じようにムスっとしているのだ。
「キャンペーンが終わってあの曲が流れなくなっていたんですが・・・」果穂もそう言ってため息をついている。
「あの後人気グループでたから、もう無いと思っていたのにね」来栖ももう人前に出ないで済むと思っていたのだから、この呼び出しはちょっとがっくりするのだった。

「「「はぁ・・・・」」」

5人はまた大きくため息を付きながらステージに目を向けた。
ここはテランから大きく離れた惑星あくあの特設会場・・・そうかわねこ達は連合歌謡大賞(笑)のノミネート会場にきていたのだった。


「「「もう動けない(にゃ〜)」」」かわねこ達は疲れ果てて部屋に戻るなり倒れこんだのであった。
本来の業務から比べると疲れがたまるはずのないもののはずであったが、いかんせん心理的疲労が大きく一曲歌っただけでヘロヘロになっていたのだ。
いくつものキャンペーンをこなしてきた彼女達ではあったが、歌謡大賞などという想像も出来ないでいた舞台ははっきりと”海賊”よりも強敵であった(爆)
「まさか・・・冗談だと思っていたのになぁ」TS9に届いたメールを思い出しため息を漏らす頼香。
いくらなんでも”連合の軍人”である自分達が”まさか”ここまで来るとは思っていなかったのだ。
愛くるしい彼女達は聡明でもあったから、”キャンペーン”で期待されている事を理解していたから、歌を歌う時には精一杯にやっていた・・・その事が逆に拍車を掛ける事になっていたのだ。
裏表の無い笑顔に相手を選ばない行動!・・・その事が”理想のアイドル”等とは自覚していなかったのだから仕方が無い!
どの会場でも変わる事の無い5人・・・その事が今日ここにいる理由なのだった。

「やっと99人目が終わったみたいにゃ」かわねこは部屋のモニターを見ながらそう呟くと起きあがり、置いてあったジュースをコップに移して飲み干した。
「連合各地からノミネートされるんですから・・・99人でも少ないかも知れませんね」そう言いながら果穂も起きあがり人数分コップを取り出すとジュースを入れていく。
「サンキュ」「果穂ちゃんありがと」「いっただっきま〜す」そう言って他の3人もコップを口にしてジュースを飲んでいる。
「果穂ちゃんおかわりくださいにゃ・・・でも、これってどこかで飲んだ覚えあるにゃ?」かわねこはそう言いながらコップを見つめていると
「今朝れも副司令がいらしてこれを持ってきてくれたんです」果穂はそう言ってジュースを指差した。
「するとこれって?」
「えぇ・・・TS9特製です♪」そう言うとみんなの顔に笑顔が浮かんだ。
確かに特産のものも良いけど、疲れているときには慣れているものが良い!
特に自分達の”家”であるTS9!・・・そこの特製ジュースなら尚の事なのだ。
さっぱりした味が疲れていた少女達を優しく包んでほっとした気持ちに変えていく。
少女達はその小さなジュースに確かな想いを感じていた。

「この後の予定ってどうなっていたかな?」頼香はモニターを見ながら果穂に聞いた。
「今日はノミネート曲だけですよ、さすがに99曲ですから一日かかって仕舞いましたからね」果穂は時計を見ながらそう呟くと思い出すように言葉を続けた。
「これから12時間が視聴者の投票、その後集計して結果という事らしいですよ」
「すると明日の午後か?」話を聞いて答える頼香に果穂が頷いて答える。
「となると・・・それまではやる事は無いんだろう?・・・どう・・・」そう言った頼香のだったが、果穂の驚いた顔に言葉を詰まらせた。
「なに言っているんです頼香さんは?」そう言うと果穂はどこからか一枚のパンフレットを取り出してテーブルに置いた。
「これは?」見た事も無いものにみんなが気になって覗き込んでくる。
「ノミネート者のプロダクションブースレイアウトですよ」果穂はそう言って皆に目を向けた。

「ノミネート者のって・・・俺達もこれに行くのか?」突然の事に驚き聞き返す頼香。
「いえ、基本的には”プロダクションブース”ですから・・・広報担当が行くとは聞いていますが・・・」
「つまり、俺達が行かなくても問題無いわけだな」果穂の説明にほっとして頼香は呟くとソファーに座った。
ステージで溜まっていた疲労回復の為ゆっくりと休みたいと思っていたから、”出来るなら行きたくはない”という素直な感情が頼香に言わせたのだ。
「ですが・・・行った方が良いと思うんです」そんな言葉に果穂はそう言って答えると改めて全員を見つめなおした。
「「「どうして(にゃ?)」」」出来るなら休みたいと思っていたから、全員が果穂を見つめ意味を聞き返してた!

「まずは・・・私達は他のところとは違うからです」果穂はそう言っていくつかの資料をテーブルに広げた。
「昨年度の・・・入場者数と来場ブース名?」
「こっちは・・・DVD売上枚数とアンケートにゃよ?」
「これは・・・”サインして欲しいアイドルTOP10”?」
果穂の出した資料を見ながら四人が驚きを隠せないまま首を傾げた。
「なぁ果穂?・・・これが俺達が出なければいけない理由と関係あるのか?」
「えぇ」果穂はそう言いながら資料にいくつかの赤丸をつけて、判らない顔の頼香達に説明を始める。
「昨年の入場者数248万6800名・・・ウチ21万3542名が”DVD売上No,1”ブースを来訪しました・・・」果穂の説明にフムフムと皆が頷く。
「今年通期のDVD売上ですが・・・連合販売売上数36兆9128億7000万余・・・ウチ3348億が私達DVDな訳なんですよ」小さくため息を付く果穂。
「え?まってにゃ??・・・・これを見ると売上一位じゃないにゃよ?」かわねこがさっき言った言葉と違う事に果穂に言い返すと
「確かにプロダクション別ではそうです、10位にも入ってはいません・・・しかし私達は一曲しかリリースしてないんです・・・他のところとは違うんです・・・」
「だ、だけどよ・・・もう半年も前なんだぜ?」
「ですから・・・そこがもう一つの資料に関係があるんです」果穂の言葉にもう一枚に全員の目が注がれる。
「”カ○オケリクエストランキング”?・・・一位?」
「こっちは”再販ランキング”だってにゃよ・・・アメフラードライブがトップにゃ!」
かわねこと頼香の言葉に緒耶美と来栖はなにも言えなかった。
「で、でもよぉ・・・」事実と付きつけられてもいまだに諦めの悪い頼香は何とか果穂に”冗談”といわせたくて食い下がる。
「あ・・・そ、そういえば・・・この間みけねちゃんが”通期TOP10新記録”とか言っていたような・・・」果穂の話に来栖が思い出したように呟き皆の顔が”あっ”という表情に変わった。

[ありがとうございます♪」頼香から色紙を受け取りながら上気した顔で答える少女。
「こちらこそ」頼香は手を差し出し握手をして彼女を見送る。
「なぁ果穂?」少女に手を振りながら頼香は気になった事をぶつけた。
「なんでしょう?」
「これが一位の来訪者数なのか?」
「・・・そのはずなんですが・・・おかしいですねぇ?」果穂も頼香の質問に対して歯切れが悪かった。
もう一時間になろうというのにまだ100人にも達していなく、ここから見える他のブースの盛況さとは大違いであったからだ!
「中佐のデータに間違いは無いんですが・・・?」
「やっぱり大手のプロダクションとは違うんじゃないのかなぁ」頼香の嬉しいような残念のような声に果穂もどう答えて良いのか戸惑っていた。
「そ、それでも・・・まだ来てくれているにゃよ・・・さぁ頑張るにゃ」どこと無く雰囲気が変わった事を察したかわねこがそう言って前を向く。
「おかしいですねぇ」果穂は小声で呟きながら並んでいるファンの為に色紙を取り出した。

実は頼香達の所に人が集まらないのは果穂のデータが間違っていた為ではないのだ!
人気・アンケート共に高い頼香達であったが、こういう事では不慣れな新参者でしかなかった為なのである。
人の集まりやすく判り易い所は大手プロダクションが占領していて隅の小さな判りづらい所に割り当てられていたのだから。
そしてもう一つの・・・いや”最大原因”は・・・ブース直前にいたある一派の存在にあったのだ。
頼香達からは見えないものの、ブース廻りを囲うようにいる男達・・・言わずと知れたかわねこ武装親衛隊である。
彼らの見えない障壁で多くのファンが近寄れないでいたのであ〜る(笑)

「ふぅ・・・とりあえず一区切りかな」最後の一人を手を振りながら見送ると頼香が小さく息をついた。
始めてから5時間程たったか、人もまばらになり多くのブースがポスターの掲示に切り替わっていた。
12時間通しでサイン会など無理なのだからどこの所も3,4時間程度で切り上げていて、結局頼香達が最後になってしまったのだ(笑)
「明日は何時からだったかな?」
「会場には9時には入っていて欲しいそうです」
「じゃあ朝8時前には起きないと拙いな」頼香の呟きに果穂が頷くと他の皆も首を振り了解の合図で答える。
「う〜んとじゃあこれで引き上げ・・・?」頼香はそのまま席を立ち軽く背伸びをしていると両目に”箱”が移動しているのが映り目を見張った!
・・・あれ?気のせいだよな??・・・さすがに”箱”が動く事は無いと良く目を凝らし見つめると、箱の脇に小さな手が添えられているのに気が付いて納得した。
体に不釣合いなほどの箱を抱え・・・いや箱に隠れてしまうほど体が小さいというのが正しいのだろう・・・子供が箱を運んでいるのだ。
不安定で右に左にとふらついている子に頼香達はつい見入っていた。
・・・頑張れ!・・・口には出さないけど全員がその子を見つめ応援していたのだ。
だがそのままで済まないのも世の常・・・と言うかお約束(笑)
「あ!」小さな声でそう叫ぶと不意に体が・・・箱が傾いた!
「「「あ!」」」見つめていた・・・予測していた頼香達だったが”期待”していたせいもあり一瞬遅れた。
・・・このままだと・・・甘い判断に唇を噛む頼香の脇をシュッと一陣の影が駆け抜け、床に倒れこむ前に子供を支えたではないか!
「ふぅ危なかったにゃ」優れた瞬発力を誇るキャロラット・・・かわねこの仕事(笑)であった。

「大丈夫?」果穂がしゃがみながら子供の声を掛けると驚いた風できょろきょろと廻りを見渡している。
「どこかに行くの?お姉ちゃん達も一緒に行こうか?」優しく声を掛ける果穂にその子は顔を向け目をぱちくりさせている。
「可愛いにゃぁ♪」一言一言に反応して自分達を見るその子にかわねこは笑顔を向けなでなでしている(笑)
「この子の親もいるだろう?・・・探してみるか」頼香の提案に皆は頷くと子供の手を果穂と頼香がそっと握った。
「じゃあまずは案内に行くにゃ」かわねこは荷物を持つとそう言いながら子供を見て歩き始める。
「じゃ行こうね」果穂にそう言われ歩き始めるといつのまにか両手を大きく振ってはしゃいでいるのだ。
「こんな子が・・・妹なら良いですねぇ」微笑ましい光景に来栖が呟くとなぜか皆の笑顔かやさしい感じに変わっていく。
「確かに・・・妹がいたらこんな感じかもな」
「ですね・・・着せ替えさせたりするのが楽しくなりますね」
「おいおい、いきなりかよ」果穂の言葉に頼香が突っ込み皆に笑顔がこぼれた。
「案内は・・・確か・・・」会場入り口に向いながら目的の所を探していると、入り口から少女が慌てて掛けこんでくる。
「お、女の子・・・小さい女の子は来ませんでしたか?」息をハァハァさせながら案内に掛けこんだ少女に頼香は声を掛けると近付いていった。

「どうもすみませんでした」会場脇の喫茶コーナーで少女は頼香達に頭を下げていた。
「船の調子が良くなくて入港が遅れてしまって・・・機関修理をしていて居なくなってしまったのにさっき気付いて・・・」妹の頭をなでながら少女はホッとした笑顔を見せた。
「船?・・・じゃあ他の星から?」
「えぇ・・・小さな運送会社ですけど・・・」少女はそう言って笑った。
家族で運営している小さな会社なんだろう、”修理をしていて”と言う言葉と油で汚れたつなぎに髪を紐で束ねただけで、この場所には相応しくない服装がそれを物語っていた。
「ホントはゆっくりとしていきたいんですけど・・・運送期日がありますから明日朝には立たなければいけないんです」ちょっと寂しそうに呟く少女。
仕事があるからとはいえ、こういった場に来る機会が少ない事を知っていたからだ。
「この子だけでも・・・楽しませてやりたかったんですけどね・・・」少女はそう言って目を閉じた。

「でも良くここだって判りましたね?」果穂はそう言いながら少女を見つめた。
「それはれなが、この子”れな”って言うんですけどが・・・会いたいって言っていたアイドルがいるはずでしたから」
「アイドルですか?」
「えぇ・・・TS9オールス・・・ター・・・に会いたい・・・って・・・」そこまで呟いて少女は言葉を詰まらせた。
仕事で妹ほど詳しくは無かったけどそれなりにはそのアイドルの事は知っていたからだ。
「5人の女の子で・・・黒髪の凛々しい・・・眼鏡の似合う・・・猫耳が可愛い・・・5人の少女グループ・・・」
慌てていたとはいえ”妹”を大切に扱ってくれた事で会場の職員か何と勘違いしていたのだから。
「その・・・まさか貴女達が・・・ホ・ホンモノの・・・」
驚いている少女を見つめられ、少しだけ照れながら頼香は静かに頷いた。

「じゃあバイバイしようね」少女に言われたれなちゃんだったけど持ってきた箱をぐいっと頼香に差し出すではないか!
「「「え?」」」いきなりの事に驚く頼香達。
「あ・・・そうだったね」慌てて忘れていたのか少女は微笑みかけながら
「ここが判ったもう一つ理由があったんです・・・これを”渡したい”だよね」と言うとれなちゃんはこくこくと頷く。
「「「?」」」
「この子・・・皆さんにプレゼント持ってきたんです・・・受け取ってもらえますか・・・」
「「「え・・・それはもちろん」」」そう答えるとれなの前にしゃがんだ。
れなは一旦箱を置くと中から小さな箱を取り出し頼香に差し出した。
「これを俺に?」そう言う頼香にこくこくと頷くれな。
「ありがとう」受け取って頭を軽くなでると笑顔で喜ぶ。
れなはちょこちょこと動き果穂・来栖・緒耶美・かわねこと箱を差出し渡していった。

「♪〜♪♪」箱に入っていた”コサージュ”を取りだし見つめながらリズムを口ずさむ果穂。
あの子からのプレゼントは色違いのコサージュ、淡い色のピンク・青・黄・白・紫と5人別々な色合いだったのだ。
「随分とご機嫌だにゃぁ♪」果穂の様子にかわねこがそんな事を言うが、果穂は見つめたままで答えもしないでいる。
「ったく、あの子が可愛かったからって・・・そんなに起きていると明日が大変になるんだぞ」
「そうですよ果穂ちゃん、明日朝お顔が大変ですよ」
「睡眠不足は可愛い子の敵ですからね、大丈夫ですよ・・・ちゃんと睡眠はとりますよ」果穂はそう答えてもまだ見ている(笑)
「手作りにゃよにゃ?・・・やっぱり?」いつのまにかかわねこまでコサージュを見ていてふと思ったのかそんな事を呟いた。
「う〜ん、そうかもなぁ」頼香も二人につられいつのまにか見ていて、かわねこの呟きにそう答える。
良く見ると形は綺麗に出来ているものの花びらの大きさ場まちまちで、工場で出来るフラワーアート等の人工物ではないようなのだ。
その上所々色ムラのあるところを見ると自動制御で色付けしたのではなく一枚ずつ塗り上げたのに間違いといえた。
「あの子が・・・一枚ずつ色を塗ったんですねぇきっと」
「そうですねぇ」
来栖も緒耶美までも取り出して見つめている。
5人はあの子が色を塗っている姿を想像しながら飽きる事無く見つめ続けていた。

「あのまま寝ちまったか」頼香はソファーから体を起こし小さく伸びをする。
「早いですね頼香さん・・・まだ時間はありますよ?」すでに起きていた果穂は端末から顔を上げるとちょっと驚いた感じで声を掛けてきた。
「なんとなくな・・・所で何してんだ?」
「あ・・・昨日の子にお礼しようと思いまして・・・ちょっと確認していたんですよ」果穂はそう言いながら端末に目を向けキーボードを操っていく。
「確認?・・・何の確認だ?」
「船名ですよ・・・判ると思いまして」
「判るのか?」
「ここ惑星あくあは観光惑星ですから・・・観光船ではなくて機関の修理をしている船を探せば良いはずですから・・・」
「なるほど・・・そういう事か」
「それにあの子の写真撮っておきたいじゃないですか♪」その一言に頼香の力が抜けた(笑)

「この船・・・のはずですよね」果穂と頼香は目的の船の寄港ドックを見つけそのまま宇宙港にやってきて目を疑ってしまった。
あの子の様子から古い船とは感じていたが、目の前にあるのは想像もしていないほど古すぎる船であったからだ!
「ま、間違ってはいないよな?」さすがに宇宙船乗りとして頼香は感じる物があったのか果穂に聞き返してくる。
「A−79ドックですから間違い無いです」果穂も小さいため息を付きながら答えた。
「これは確か20年前に多く就航していた輸送船のシリーズで、今はもう殆ど使われて無いと思っていたんだがなぁ」船体を見ながら頼香は呟いた。
「頼香さん・・・詳しいですね・・・これはアメフラード汎用輸送船の第3期製造小型タイプなんです」果穂はドックを調べた際確認した事を頼香に告げた。
頼香が詳しいのも軍艦乗り組みとしては非常時に民間の艦船を操縦を行わなければならないからである。
大手各種輸送船の操縦をマスターしている頼香にとって船の判別などごく当たり前なのである。
「これで星系間輸送するとは・・・機関を換装しているのか・・・」
「おそらくは・・・」船を見ながら果穂と頼香はそんな事を呟きながら歩いていくと、船の外で何かを見つめている少女を見つけた。

「おはよう」その子が昨日の少女だと判り気さくに声を掛ける頼香。
「あ、おはよ・・う・・」反射的に返事をしたものの”声”にはっとして顔を上げ更に驚いたのだ。
「あ、でも・・・まさか・・・T・・・」
「「シー!!!」」少女が口にしそうになって慌てて口を押さえる二人。
騒がしいドックとはいえ誰が聞いているとも判らないから、今正体が知られるを恐れた為である。
「でもどうして?・・・今日は発表のある日じゃ・・・」
「なにね・・・ちょっと来てみたくなってね」頼香は小さな紙袋を渡した。
「え?」突然の事に驚く少女!
「れなちゃんから頂いたもののお礼なのよ」
「で、でも・・・あれは渡したかったからでお礼なんてそんな・・・」
「まぁいいじゃない・・・それよりも余り良い具合じゃない様だね」頼香は少女を見ながらそう呟いた。
着ているつなぎは汚れが酷く顔も油で黒くなっているからだ。
「あの後ずっと調整しているんですが・・・リアクターが安定しないんです」
「原因は?」果穂が聞くと少女は頭を振る。
「エネルギー伝導系を調整しているんですが・・・どこが悪いのかまるで・・・」
「整備の方は何か言っていたの」果穂の言葉に少女はびくりと動き何も答えなかった。

宇宙港の中でも場所によって費用が変わってくる。
当然大型で設備の整ったドックは高く、端にある簡易ドックは安いのだ。
係留費用が安い簡易ドックは多く利用されてはいるが、その殆どは大手の輸送関係で自前での整備が出来るから安いところを使うのだ。
小さな輸送業者も簡易ドックを使うがそれは何も問題の無い時であり、故障した際は宇宙港の整備業者を利用するのが一般的であるのだ。
”リアクターの異常”という大きな問題は本来ならきちんとした整備をしなければならないはずなのだが、小さい輸送業者にとって定期整備以外の大掛かりな修理は死活問題であり・・・少女の所はまさに小さかったのだ。

「なぁ果穂・・・」頼香が話しかける前に果穂は小さな端末を取り出すと少女の持っていた端末に繋げる。
「リアクターは・・・一昨年の汎用B−Zdに換装しているのですね」何気ない果穂の呟きに少女は驚いて頼香に目を向ける。
「あ、あの・・・あの人っていったい・・・」
「まぁ見てな・・・で、どうだ?」
「エネルギー伝導管8本のうち5本が・・・基準値の+11〜ー22%ですね・・・なるほど」果穂はそう言いながら何かを打ちこんでいく。
「制御コイルは・・・規定値だから・・・となると・・・」果穂はそう言いながら打ちこみ続け暫くして笑顔になった。
「ビンゴ♪」頼香はそう呟くと果穂に顔を寄せぼそぼそ何かを話している。
「ふむ・・・その3箇所で良いんだな」
「えぇ、制御系は私のほうで調整しますから」
「じゃあ行こうか」頼香は少女に向き直ると手を取って船内に入っていった。

「うそ・・・みたい・・・」自分の端末の映るリアクターの数値とグラフに少女は目を丸くしていた。
あれほど自分が手を加えても安定しなかった物が二人が来て10分もしないうちに解決してしまったからだ。
「リアクターを換装した時伝導管を同じ物に替えないでいたのが原因ですね」
「え?・・・でも最初は・・・」
「換装した後調整はしたんだろう・・・だけど、元の流動が違いすぎる伝導管だからな・・・制御系に無理が掛かっていたんだろうな」
「え、じゃあ暫くしたらまた同じ・・・」
「それは大丈夫です・・・新しい制御系プログラムを書きこんでおきましたから」あっさりと答える果穂に少女は言葉を失った。

「これ美味しい!」果穂は出されたパンケーキを口にしてそう呟いた。
「喜んで頂けて・・・これくらいしかお礼できなくて・・・」
「そんな事無いです・・・俺達ご飯食べたいと思ってましたから」頼香の言葉に少女は苦笑しながら同じように口にする。
少女は立ち去ろうとしていた頼香達に”せめて”と朝食を準備したのだった。
「それになんですかこのお茶・・・凄く香りが良いですね」
「これはウチの星の・・・花びらから作ったお茶なんですよ」少女はちょっと笑顔になりながらお茶の事を答えた。
「へぇ・・・そんなのもあるんだ」カップの液体を見ながら感心する果穂に少女は何かを思い出したのか立ち上がり奥に消え直に戻ってきた。
「あの・・・これを持っていってください」と、小さな缶を二人の前に置く。
「これは?」缶を手にしたもののラベルも何も無い缶に果穂は戸惑いを隠せないのかつい口にしていた。
「このお茶ですよ」そう言って少女は微笑んだ。

「じゃあ俺達はこれで」時計を確認した頼香は余り時間が無い事に気付いて立ち上がった。
「え・・・あ、すみません引き止めてしまって」少女はそう言って頭を下げた。
「良いですよ・・・美味しいお茶を頂いたし」頼香は缶を持ちながらウインクでして答え、少女もその様子に笑顔で答えた。
「あたし達ももう直出なければなりませんので会場にはいけませんが・・・」
「でも・・・きっと大賞を取れるって信じてますよ」
「ありがとう・・・応援に負けないくらい頑張るからね」果穂はそう言って少女の手を握った。

「「「ずるい(にゃ)」」」

かわねこ達はお茶を飲みながら頼香と果穂に文句を言っていた。
「「あははは・・・や、やっぱり」」
「朝起きたらいないからどうしたかと心配していたんにゃよ」
「それを・・・こんなにも美味しいお茶をご馳走になってお土産に頂いたなんて」普段めったに怒らない来栖ではあったけど今日は例外らしかった。
「ホントに美味しいお茶ですね」お茶を飲みながら静かに緒耶美が呟く。
「と・に・か・く!」かわねこはそう言って睨むとお茶の缶を手にしながら
「内緒で出かけたバツにゃよ!・・・これはぼくが預かるにゃ!」と言った。
「ず、ずるいよかわねこちゃん」来栖がそれに慌ててかわねこから缶を奪い取る。
「あたしが預かるの!」
「ぼくにゃ!」「あたしなの!」いつのまにか缶を預かる事で睨み合っている二人。
「あとで・・・買ってくるから」頼香はそう言って二人を止めた。
「ホント(にゃ)に?」二人に視線に挟まれ頷いて答える頼香。
「か、果穂・・・あのお茶どこで買えば良いんだ?」
「あ・・・星の名前聞き忘れました!」果穂の言葉に頼香がこけた(笑)

「いよいよだな」ステージの入り口に頼香達は立ち、名前を呼ばれるのを待っていた。
「なんだかどきどきしてきちゃった」来栖はそう言い胸に手を当てている。
「待っている事が辛いなんて・・・初めてだわ」
「そうだね・・・俺もこんな感じで待つのはちょっと苦手だな」
「えぇ頼香ちゃんが?」ちょっと驚いたように聞き返す来栖。
「なんだよ、俺だってねぇ」軽く笑いながら言い返す頼香。
来栖を落ち着かせようとしていた果穂と頼香は、いつものような笑顔の戻った来栖に安心した。

「皆さんは次ですから・・・このランプが点きましたら入場してください」係りの人がそう言って頼香達を入り口間際に案内していく。
「じゃ・・・今の内に着けておかないと・・・」
「え?・・・頼香さん?」不意に呟いた頼香の言葉に果穂が目を向けると、どこから出したのか頼香はコサージュを手にしていたのだ。
「せっかくにプレゼントだからな」そう言って一人微笑む頼香。
「抜け駆けしようだなんて・・・そんなの許さないですからね♪」
「抜け駆けだなんて・・・俺はただ・・・」
「ただ・・・なんですか?」果穂はそう言いながらコサージュを取り出すと胸に着けた。
「あぁ・・・人の事言っておいて」
「頼香さんの考えなんてお見通しですから・・・ね、皆♪」
「「「はぁ〜い♪」」」そう答えるとコサージュを取りだし胸に着け頼香に笑った。
「なんだよ・・・結局考える事は・・・」
「そうですにゃ♪・・・一緒です・・にゃにゃ??」頼香に勝ち誇るかわねこであったが不意のシグナルに顔を歪ませる。
「・・・海賊か?・・・」頼香はかわねこの表情を見てそう呟くと無言でかわねこは頷いた。
「小型船が襲われたらしいにゃ」かわねこの言葉を聞いて頼香は頷いた。
「大賞を見に来た観光客だろうね・・・入港する船が多すぎて海賊が紛れたのを見落としたか?」
「直に行きましょう・・・星系外縁なら時間が掛かるわ」
「違う、違うにゃよ・・・この星から出た輸送船にゃよ!」シグナルを確認していたかわねこの言葉に一瞬で皆が凍りついた!

惑星あくあ・・・観光惑星のそれは多くの人が出入りする為、航路保全には多大な努力を行っていた。
”不安”と言う言葉が観光をメイン事業にしている惑星では致命傷になってしまうからだ。
その努力は実り、事故のない安全な観光星として連合中に認知されたのだった。
だがその努力も歌謡大賞が惑星で決まろうとしている事に限界を向えてしまった。
想定を大きく上回る船の入港に管制のキャパシティを大きく超えてしまったのだ。
キャパシティを超えた管制・・・それを海賊が見逃すはずがなかった。
多くの艦船が集中し混乱している”一瞬”に海賊は襲ってきたのだ。

「まさか・・・そんな・・・」全員が昨日の少女を思い出し顔に不安の色を浮かべた。
信じたくない!・・・心は否定しようとしていた、だけど出来なかった。
出航する船が少ない事を知っていたのだから。
「・・・俺達が慌ててどうする!・・・」頼香は一瞬目を閉じると鋭い声で一言呟き、その一言が何を意味するのか誰もが理解していた。
頼香の視線に頷いて答えるともう目には迷いは消えていた。
「俺達は大賞を辞退します」頼香はそう言うと出口に向って走り始め、それを合図に全員が同じ様に走り出した。


「・・・以上98の歌手・グループで本年度の大賞が決定されます!」会場にアナウンスが流れ、埋め尽くしていた観客は一瞬静まりそしてざわめきが起こった!
昨日居たはずのグループ・・それもお目当てのグループが居ないからだ。
「何があったんだ・・・・説明しろ!」観客は係員を捕まえるとそう言って掴みかかろうとしている。
「エントリー45、TS9オールスターズは辞退しました」
「そんなばかな!」誰もが自分の耳を疑っていた。
今回の”目玉”とも言うべきTS9オールスターズが辞退した・・・とても信じられない、いや信じたくない事だったからだ!
彼女達の受賞を信じて集まったファンは”陰謀だ”と、主催者審査委員に罵声を言い始めた!
だが、罵声を浴びせられた大会主催者も苦虫を噛み潰した顔になっていたのだ。
この賞は、連合のアイドル達にとってもっとも欲しい賞・・・最高の賞なのだからだ!
スターと言われても多くはエントリーすら出来ない・・・その賞の候補として”選んでやった”という意識かもしれない。
「もう顔も見たくないですな」罵声を浴びている主催者は目を閉じそう呟いた。

「このままだと暴動になりかねませんね」大会役員がそんな事の心配を始めた時、不意に照明が暗い非常灯に変わった。
「どうしたんだ?・・・早く照明を!」会場がどよめき始め段々と騒ぎが大きく変わっていく。
「皆さん落ち着いてください・・・照明は直復旧しますから・・・」
その言葉を合図にしたのか会場は明るくなった・・・だがそれ照明が復旧したからではなかった。
会場の壁一杯に何かの映像が映し出されたからなのだ。
「こんな時に・・・映画か何かで誤魔化そうというのか?」誰もが不満を持ちながらも明るくなって落ち着いたのか、何とはなしにその映像に目を向けていた。
8隻ほどの宇宙船が映っているらしいのだが構図も何も無く遠距離で撮ったとしか思えない粗い映像。
2隻の船を囲うように6隻が追いかけていく・・・そんな感じの映像が映し出されているのだ。
・・・でもおかしくないか?・・・暫く見つめていた彼らだったが、映画だというには程遠いただの映像でしかない”それ”をおかしいと感じだしていた。
字幕もテロップも無くそして”音”が無い事にである。
・・・ではこれはいったい?・・・その不思議な映像に誰しもがそう思い始めたときスピーカーから音が流れ出し、逆に会場から音が消え去った!

”どうして、あなた達がいるのよ?”

女の子の悲痛な叫び声に会場が水を打ったように静まり返る。
映画にしては余りに生々しいその声に誰も圧倒されてしまったのだ。
「映画ではないのか?・・・だとしたらこれはなんなんだ?」そう思いながら映像から目が離せなくなっている。

”あたし達・・・貴女達に迷惑を掛けたくないの”
”迷惑だなんて・・・思ってないさ”

どうやら逃げている2隻の方の交信なんだろう・・・さっきとは違う声がスピーカーから流れていた。
「あれ?・・・この声聞いた事あるよ?」
「あ・・・そういえばぼくも・・・」一人の言葉がきっかけになったのか会場のあちこちでそんな風に言われはじめた。
「どっかで聞いた事あるよねぇ」「いつも聞いている気がするわ」知り合いでもない多くの人が口々に言い、その不思議さに誰しもが首を傾げる。
「「「何故?」」」誰もがスピーカーに神経を集中し不思議な声を思い出そうと次の声を待っていた。

”何故!皆だって貴女達がいたほうが喜ぶのに”
”でも貴女は悲しんでしまうでしょ”
”そうにゃよ、貴女の笑顔が消えちゃうにゃよ”

先ほどの声の他に何人かの少女の声が聞こえた。
どの声も聞き覚えがあり親しんでいた声・・・聞いている誰もがそう感じていたのだ。
見ず知らずの他人同士が見詰め合い首を傾げる・・・そんな人々だったが次の声を聞いて言葉を失った。

”私達は貴女の笑顔を守りたいの・・・守る事も私達には幸せなのよ”

守る事も幸せ・・・そんな言葉を口にする人はそうはいない・・・いや限られていると言って良い!
「女の子で・・・守る事が幸せな・・・そんな子達って」俯きがちにぼそぼそと呟く人達。
「あぁ・・・あの娘達しかないよな」誰しもがここにいない少女達を心に浮かべていた。

”賞とか貰えたら確かに嬉しいさ・・・でもね”
”でも、貴女の笑顔はもっと素敵な事だと思うわ”
”そんな笑顔を守れる事・・・それは最高に素敵な事にゃんよ♪”
”頼香ちゃん・・・果穂ちゃん・・・かわねこちゃん・・・”

「そう・・・だったよな・・・」
「あぁ、あの娘達の事可愛いからじゃなくて・・・」
「そう・・・いつも皆の事を、皆の幸せを願っている・・・だから私達はあの歌を・・・」
会場にいる皆が・・・いや、中継を見ていた皆が思い出していた。
どうしてあの歌を好きになったのかを!
珍しいからじゃない、可愛いアイドルだからじゃない・・・その歌が気持ちが好きだった事に。

「が、頑張れ!」会場の片隅での小さな言葉が生まれた。
ありふれた言葉ではあったが、誰しもが思い願っている事を表現している言葉でもあったから瞬く間に会場全部を広がる!
「そうだ!ガンバレ!」「頑張って!」歓声とも悲鳴とも思える声が会場を覆い尽くしていた。
もう賞の発表なんて関係無かった。
誰もが・・・ライバルである他のアイドル達も主催者も誰もが映像を応援していたのだ。
そして、誰が始めたのか判らないがいつのまにかそれは・・・一つの歌に変わっていた・・・

「ご迷惑をおかけしました」救援で駆け付けたわいるどきゃっとと共に海賊を撃退した頼香達は輸送船を送り届けると、そのままあくあに取って返し会場に来て主催者に頭を下げたのである。
非常事態とはいえ会場を混乱をさせてしまった責任を感じていたからだ。
だが主催者は穏やかな顔で首を振り頼香の肩に手を置いた。
「無事でなによりでした」そう言って会場に入るように促す。
「ですが・・・私達は」
「もう誰もいませんよ」
穏やかな口調で心内を言われて戸惑ってしまう頼香達。
「・・・これは大賞とは関係無いんです・・・ただ皆さんには見ていただきたいものがあるんですよ」さすがにそう言われては入らないわけには行かなかった。
それでも期待を裏切ってしまった感情からか、主催者の後に隠れるように小さくなりながら会場に入る頼香達。
会場は薄暗く人の気配はない。
たとえ居たとしても顔が見えないほどの暗さで少しだけホッとする。
「・・・あの、いったい何を見たら・・・」ホッとして落ち着いたせいか、この暗さが気になりそう呟くと少しだけライトが照らされる。
「・・・衝立?・・・」暗くて見えないでいた会場には衝立が設置されていて、それはまるで絵画展示場のようなにかが貼り付けられているようだった。
「あの・・・これを見れば良いんでしょうか?」案内してくれた主催者にそう話しかけると笑顔で頷いて答えた。
「えぇ、ぜひとも」そう言うと会場から出ていってしまう。
「見て欲しいも・・・」頼香は独り言を言いながら一番近くの衝立に目を向け言葉が途切れていた。
果穂がかわねこが緒耶美が来栖が衝立の前で身動きができなくなっていたのだ。
貼られていたのはただの紙だった・・・ただ字が隙間なく書かれていただけだったのだ。

”いつもありがとう、私は幸せです”
”お姉ちゃんありがとう”
”笑顔の素敵な皆さんが好きです”

極ありふれた普通の言葉、でも自分達が守ろうと守りたいと思っていた言葉・・・それを感じて動けなくなったのだ。
「こういうのって嬉しいですね」涙を少し浮かべながら果穂が呟く。
同じように感じていた四人も今更口にする事ではないのかハンカチを当てながら小さく頷いたのみであった。

会場を出ると主催者が待っていた。
「あの・・・あつかましいかも知れないですけど・・・」
「いいえ、あれは”貴女方”の物ですから」そう言って合図をすると数名の作業員が会場に入っていく。
「あ、そうそう・・・もう一つ大切な事を忘れていましたよ」そう言うと一枚のディスクを鞄から取り出し頼香に手渡した。
「な、何ですかこれは?」
「見ていただければ判りますよ」主催者はそう言って歩き出した。


「なんなんだろうなこれは」TS9に帰る途中頼香は主催者から受け取ったディスクを見ながらそう呟く。
「市販とは違うようですが・・・なんなのでしょうね?」果穂はそう言いながら気になって頼香からディスクを受け取ると再生ボタンを押した。
モニターには薄暗い何かの会場が映し出されているが、音は割れていて雑音にしか聞こえなかった。
「なんだろう?・・・見たこともない会場だけどなぁ」頼香は見覚えのない映像に首を傾げ、果穂も考え込んでいる。
映像も音も状態が悪く多くの人がいるとしか判断できないだ。
・・・あの人はどうしてこれを俺達に・・・頼香は目を閉じると主催者の顔を思い浮かべた。
訳の判らない映像ではあったが、手渡してくれたあの人が”嫌がらせ”をするとは思えなかったからだ。
「あ!・・・なにこれ?」不意に叫んだ来栖の声に頼香は目を開けると顔を見つめた。
「なに?・・・なにか?」
「頼香ちゃん・・・・なにかが映ってる、ここんとこ!」来栖が指した指先を目で追うと、なにか光が瞬いているのが判った。
「映画の試写会かしら?」同じように見つめ呟く果穂だったが、それからはなにも判らないのかじっと見つめているだけだ。
「ホントに・・・これは・・・」じっと見つめている皆であったが、急に雑音が消えた事に驚き小さな歌が流れている事に気付き口を閉じた。
それは歌という物ではなかった・・・ただ人々が口ずさんでいるそんな物だったのだ。
だけど、そのリズムは・・・良く知っている物だった・・・だってそれは
「俺達の・・・歌だよな・・・」頼香が呟くと皆が頷いた。




知らない誰かを守っている
笑顔の貴女はNo1



貴女が笑顔で笑ってる
”元気でいてよ”と笑ってる
あたしにぼくに微笑んで
素敵な笑顔を向けている
危ない時でも微笑んで
悲しまないでというように
星々渡り駆けつけて
素敵な笑顔を向けている


貴女の笑顔にぼく達は
大事な物をもらったよ
貴女の笑顔がいうように
平和が一番さ


そうさぼくらは


貴女と一緒に笑顔でいよう
心の笑顔を教えてくれた
素敵な貴女に恥じないように
手を取り微笑み頑張ろう

小さな笑顔も大きな笑顔も
素敵な笑顔に変わりはないから
貴女の笑顔に負けないように
ぼくらも笑顔で生きていこう


再生が終わっても誰も動かなかった。
頼香が果穂がかわねこが来栖がそして緒耶美が、涙を溜めた目で暗くなったモニターを見つめていて動かなかったのだ。
「・・・俺達の・・・方こそ皆に支えられているのにな・・・」頼香は上を向き涙が零れるのを我慢している。
「そうですね・・・皆の笑顔がある・・・から頑張っていられるんですよね」果穂は俯きながらそう言いハンカチを当てている。
「また・・・皆に貰っちゃったな・・・」赤い目で頼香はそう言ってもう一度再生ボタンを押した。


その年、大賞はなかった。
受賞する筈の人は”放棄したので資格がない”と言い、他のものは辞退したのだ。
だがその事に苦情を言う者はいなかった。
”あの娘達”の笑顔を誰もが知っているから。
笑顔でいればいつでも一緒にいられると思ったから。

そして今日も歌が流れていた・・・優しいあの歌が・・・街角で宇宙で皆が口ずさみ流れていた。





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