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 宇宙基地Trans Space Nine。辺境に位置するこの基地も最近は寄港者数も増えていた。人が集まるところにはさらに人が集まる。その好循環が功をなしたのか、辺境といえどもそれなりの賑わいを見せているのであった。

 その基地の中枢を預かる司令部では、今日もまた司令部員達が忙しく働いている。そして、その上位に立つこの二人も例外ではなかった。

「司令、保安部より先週の週報です」
「ああ、ありがとう。どれどれ……」

 れも副司令に差し出されたデータパッドにざっと目を通すかわねぎ司令。基地の現状を把握する事は司令部門の長としては欠かせない仕事である。

「報告にもありますが、最近プロムナードでのトラブルが多発しています」
「でも、保安部が出動するほどの事ではない様だね」
「ええ。そこまで大事ではないのですが、小さな火種を燻らせるのは問題かと」
「う〜ん、我々が動き出すまでもないトラブルか……どうしたものか……」

 データパッド片手に考える表情になる司令官。一通り報告は読み終わったという事を察したれもは、すかさずもう一つのデータパッドを手渡す。

「れも君、これは?」
「今の件についてプロムナード組合からの上申書です」
「ほぅ、現場からのアイデアかね。どれどれ……シビリアン・セキュア?」
「ええ、民間のいわば警備隊とでも言いましょうか」

 先程の週報よりも真剣に目を通している司令官。という事は、プロムナードの保安は大きな関心事だという事だ。不特定多数が出入りする場所だけに、保安部員の巡回だけでは見落としてしまう点も出てくるだろう。

 民間提示の警備計画に目を通し終わった司令官。データパッドを机の上に置き、副司令に向き直る。もう腹の内は決まっているらしい事を表情から読み取ったらしく、副司令が先に問いかける。

「いかがでしょうか?」
「う〜ん、民間の組合が物々しいのはどうかと思うね」
「しかし、組合側からの働きかけは好ましい物と思います」
「それは同意するよ。でも銃を持って犯罪人に対峙するのは我々の仕事だね」
「では……」
「予防措置のみだ。フェイザーを携帯しない、巡回だけを許可しよう」

 司令官の言葉に、了解の意を示す れも。司令官はデータパッドをもう一度取り上げて、承認をして れもに手渡した。

「それでは、組合の方に伝えてくれたまえ」
「はい。早速準備させます」


がんばれ一日警備隊
〜今日は特別プロモーション〜

作:かわねぎ
キャラクター原案:OYAZI様、かわねぎ
画:この市場様




 プロムナード中央広場。ちょっとした舞台が設営され、組合長が群衆に向かって高らかに挨拶文を読み上げている。今日はプロムナード民間警備隊「シビリアン・セキュア」の結成式であり、軍からも司令――司令代理をはじめ、保安部の主だったメンバーが出席していた。

 その長めの挨拶の間、かわねこ司令代理が隣席のれも副司令にそっと話しかける。失礼にならないように、ほんのちょっと首を動かすだけだ。

「れも君」
「何でしょうか」
「なんでボクが狩り出されるのにゃ?」
「司令官ですから」
「それは分かるけどにゃぁ。なんで『かわねこ』にゃ?」
「やはりそこはイベントですから、軍としても宣伝を……」

 れもの言葉にわずかに憮然となる かわねこ。それはそうだ。かわねぎ司令よりも、可愛いという形容詞がピッタリの かわねこ司令代理の方が良いとはっきり言われたも同然なのだから。確かに中年男と少女のどちらが花になるかと問われたら、かわねぎ司令でも同じ答えを返すだろう。

 内心憮然としながらも、表情は明るい物になるように努めるかわねこ。個人の不快感を露わにして、セレモニーを台無しにするような真似はしない。その辺は司令官としての資質の一つであろう。

 組合長の挨拶が終わり、続いて来賓のかわねこ司令代理の挨拶も終わり(なぜかフラッシュの回数が一番多かったが)、式次第は順調に進んでいく。警備隊長の挨拶の後は、警備隊メンバー紹介である。

「以上がシビリアンセキュアのメンバーです。二人一チームが6交代で巡回します」

 壇上のメンバーに対して拍手がわき起こる。商店主などの民間人であるせいか、注目を一身に浴びて照れ笑いを隠せない様子だ。司会のアナウンスは更に続く。

「加えまして、本日は一日セキュア隊員を かわねこ司令代理と緒耶美ちゃんにお願いしています」

 そのアナウンスに驚くかわねこ。慌てて立ち上がろうとするが、れもに押しとどめられる。

「ちょ、ちょっと待つにゃ! そんな話聞いてないにゃ!」
「あれ、聞いてませんでしたか?」
「聞いてないから驚いてるのにゃ! そもそも軍が直接関与しては拙いにゃ」
「一日だけのイベントですし、その辺は民間も了解していますよ」
「……組合長も承知の上ってことかにゃ……」

 既に緒耶美が壇上に登っている。早く上がってきてくださいと言わんばかりの表情だ。どうやら、緒耶美はすでに了承済みの事らしい。ここで渋るとイベントに水を差す事になりかねない。公務の一環として、ここは覚悟を決めるしかない。

 組合長から隊員腕章と「一日隊員」のたすきを受け取って、壇上へと上がる。この辺は警備隊というよりも町内会の見回りといった感覚か。手慣れた軍式の略礼をして、マイクに向かう。緒耶美を脇に並ばせて挨拶だ。

「一日隊員として、よろしくお願いするにゃ」
「よろしくお願いします」

 そんな二人に遠慮無くフラッシュが浴びせられる。やはり可愛い女の子の方が絵になるのだろう。明日のTS9スポークスの一面はこの写真で飾られる事だろう。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 プロムナード内を巡回する緒耶美とかわねこの二人組。店の人や道行く人達からいつものように親しげに声をかけられる。今日もTS9は事も無し、だ。

「ご主人様、何も起きないですねー」
「これだけゾロゾロ引き連れて歩いるのに、何かやるバカはいないにゃ……」

 かわねこと一緒に歩いている事でにこにこ顔の緒耶美。それに対する かわねこはどこかうんざりしたような言葉。なにせ報道関係者はもちろん、けも耳娘観測所のメンバーをはじめとする群衆が遠巻きに付いてくるのである。

「せっかく活躍できると思ったのですけど……」
「まぁ、顔見せの様な物だからにゃ。それに活躍がない方が平和な証拠にゃ」
「はい……でもせっかく果穂さんが作ってくださったのに……」
「緊急連絡用携帯電話……可愛らしいデザインは果穂ちゃんならではにゃぁ」

 そんな事を話しながら、果穂から渡された携帯電話を手の中でもてあそぶかわねこ。通信バッジで事足りるのに、何を今更こんな旧世代の物をと疑問に思った物だ。それに少女趣味なデザインは完璧にこの二人にカスタマイズしているのだろう。

「これも残念だけど、役立たない方がいいのにゃ」
「そうなんですよね。残念ですけど」

 そんなのんびりした会話を引き裂くかのように、半ば悲鳴のような叫び声が響き渡る。

「どろぼーーーー!  誰か捕まえてーーー!!」

「早速バカがいたにゃ!」

 さっと真顔に戻る かわねこ。訓練の賜物か、軍人モードへの切り替わりは早い。突然の事に慌てる緒耶美の手を引いて、声のした方に走り出す。

「緒耶美ちゃん、追うにゃ!」
「がお!?」
「あの男よ! お願い!」

 店の人が叫びながら走り去る男を指さす。かわねこと続いて緒耶美がその後を追う。

「待つにゃー!」

 子供の身体だけに、スタートダッシュには優れている。持久力には欠けるので、短期決戦とばかりに逃亡する男に飛びかかるかわねこ。

「キャロラットの敏捷性をなめるにゃ!」
「このガキが!」

 いざ飛びつこうとした瞬間、男はかわねこを思い切り振り払う。腕力が強いのか かわねこが軽いのか、勢いよく振り払われる。壁に背中を打ち付ける恰好になるが、持ち前の敏捷性を生かして、辛うじて受け身を取る。

「うぐっ…………にゃ」
「ご主人様、大丈夫ですか!?」
「大丈夫……にゃ」

 緒耶美に差し出された手を取って立ち上がる かわねこ。男が逃げてしまって慌てる緒耶美だが、かわねこは落ち着いたものだ。

「この先は袋小路にゃ。保安部に連絡すればいいにゃ」
「でも、逆上して襲ってきたりしたら……」
「そしたらボクのフェイザーで……で……あ、あにゃ?」

 腰のホルスターのあたりをまさぐる かわねこの額に冷や汗が滴る。民間の警備という事でフェイザーは携帯不可と決定した本人だけに、巡回する前にしっかりと司令室に置いてきたのであった。

「まずいにゃ……」

 そんな事情を知ってか知らずか、はたまた行き止まりで進退窮まったのか、やる気満々で戻ってきた男。どうやら追っ手は子供二人。殴り飛ばしでもすれば簡単に逃げる事が出来る。

「このガキ共ぉ、ざけんなぁ!」
「ご、ご主人様ぁ」
「ううっ、まずいにゃ。保安部!」

 さすがにエモノがないと普通の女の子でしかないかわねこ。そして緒耶美は怪力ともいえる位の力の持ち主ではあるが、動転してしまってそれどころではない。慌てて果穂から貰った携帯電話を開く二人。

「えと、保安部は何番かにゃ」
「さあ……そもそも電話番号なんてありましたか?」
「こうなったら適当にゃ! 555-ENTERにゃ!」

 ダイアルボタンを押すのももどかしく感じる かわねこ。番号が正しかったかどうかは知らないが、数回のコールの後に確実にあるところに繋がったのであった。

『はい、技術部ですけど』
「あにゃ、果穂ちゃんかにゃ。ちょうどいいにゃ。どうしたらいいのかにゃ」
『状況は全てモニターしていますので落ち着いてください。カードをスラッシュすれば大丈夫です』
「カードってなんにゃ? どこにあるのにゃ?」
『お渡ししたポシェットに一緒に入っているはずですが……』

 電話口の果穂の言葉に、慌ててポシェットをまさぐる緒耶美。カードはすぐに見つかったのだが、束になっている。見る人が見れば、きちんとコンプされているのが分かるのだが、それは今はどうでもいい事だろう。

「ご主人様、ありました!」
「あったにゃ。だけどいっぱいあるにゃ。どれでもいいのかにゃ?」
『いえ、今はクイーンのカードをスラッシュしてください』
「えーと……クイーンクイーン……あ、これです!」
「見つかったにゃ。果穂ちゃん、ありがとうにゃ」
『頑張ってくださいね♪』

 見つけたクイーンのカードを片手に、携帯電話を握り締める二人。あの果穂が作った物だけに、効果は期待できそうだ。おそらく武器は持たないというコンセプトもきちんと押さえていることだろう。

「よーし、これでファイナルベントにゃ」
「ご主人様……それ違うような……」

 期待を込めてカードをスラッシュすると、自然と かわねこと緒耶美の手から携帯電話が離れ、お互いに引き合う。

「え!?」
「って、これは何にゃ!」

 すると、突然光に包まれる緒耶美とかわねこ。無意識のうちに携帯を高く掲げて同時に叫ぶ。その様子に、男もつい逃げる足を止めてしまう。

「「デュアルオーロラウエーブ!」」

 光の奔流の中、お互いに手を繋いで握り合っていると、着ていた士官服とメイド服が別な衣装に変わっていくのだが、本人達は気が付いていないようだ。そして 光が収まると、そこからは黒基調の衣装の かわねこと白基調の衣装の緒耶美が現れたのだった。

「警備の使者、セキュアブラック!」
「警備の使者、セキュアホワイト!」
「「ふたりはビリキュア!」」
「世間を騒がす不埒者よ!」
「とっととおうちに帰りなさいにゃ!」

 ポーズを決めて見得を切る かわねこと緒耶美、いや、セキュアブラックとセキュアホワイト。完璧に決まっているその心の内では、慌てふためいていたりもする。

(がお……セリフが勝手に……)
(これはどういう事にゃ……ぶっちゃけありえないにゃ……)

 落ち着いて自分たちの恰好を見てみると……盛大なため息をつくブラック。

「なんて恰好にゃ……」
「警備服を開発したって果穂さんが言ってましたね」
「相変わらず趣味に走りすぎにゃ……本当は頼香ちゃんと来栖ちゃん用なんだろうにゃぁ……」
「シビリアンセキュアでビリキュアですか……」
「ベタなネーミングにゃ」
かわねこブラックにゃ
 そんなやり取りをしている脇で、男ははっと我に返ると、自分の置かれた立場を再認識した。この追いかけてきた少女達を何とかしてやり過ごして逃げ切らなければならないのだった。

「ガキの遊びか。付き合ってられるかよ。どけ!」
「ガキで悪かったにゃ!」
「ぐわっ!」

 自分を突き飛ばそうとした男を払いのけただけなのに、簡単に吹き飛ばしてしまったのに驚く かわねこ。自分の小さな手を握ったり開いたり。いつもと違う感じが何なのかに思い当たったかわねこは、その製作者に感謝の気持ちを抱いた。

「なるほど、これはオーラ増幅衣なのかにゃ。さすが果穂ちゃんにゃ」
「私にもオーラ能力が使えるんですか?」
「そうにゃ。これはイイ感じにゃ。どんどん行くにゃ!」
「はいっ」
緒耶美ホワイトっ♪
 キャロラット人やポリノーク人はオーラ能力が低く、頼香達が使うオーラ兵器を使いこなすのは困難であり、それに対する防御力も無しに等しい物であった。だが、今着ている(デザインも特殊な)特殊警備服はオーラ増幅能力が高く、武器こそ装備していないが、自分の拳そのものにオーラを込められるという物であった。

 もちろん男も抵抗するのだが、それ以上にパンチやキックで攻撃を仕掛けるブラックとホワイト。少女の力とはいえ、オーラも込めているので半端な攻撃ではない。武器が使えない故の肉弾戦。それもいつしかタコ殴り状態になっていった。

「とどめにゃ。ブラックサンダー!」
「ホワイトサンダー!」

 お互いに手を握りあい、片手を高く掲げるブラックとホワイト。お互いのオーラが流れ込み、そして増幅し合う。

「ビリキュアの美しき魂が」
「邪悪な心を打ち砕くにゃ」
「「ビリキュア・マーブルスクリュー!」」

 オーラを直接相手にぶつける必殺技。反動を全身で受けるものの、堪える二人。男はオーラの奔流に飲み込まれていったのであった。

「凄いにゃ……」
「……ですね」

 男を無事捕まえた(やりすぎという感もなきにしもあらずだが)二人は、男を保安部に引き渡した。ここから先は保安部の仕事である。この段階で警備隊にとっては初仕事で初手柄となったのである。

「これにて一件コンプリートにゃ。プロムナードは日本晴れにゃ♪」
「ご主人様……それ違うような……」

 その活躍の一部始終が報道と観測所によって撮影され、翌日の9スポの一面を飾った事は、言うまでもないだろう。


<おしまい>



 妖精さんのあるばむにUPされました、この市場さんと電波妖精さんとHIGE/Jさんの「かわねこキュアブラック」なイラストのサイドストーリーです。ふたりはプリキュアのパロディ作品ですね。お祭り支援ストーリーという事で♪ ブラックがかわねこということでホワイトを緒耶美ちゃんにしてみました。作中では一日限りの「一日隊員」でしたけど、果穂ちゃんが絡んでいる以上、これで終わりになるとは思えず…… (´ー`)




<おまけ>

「ご主人様、ついに食玩まで出来てますよ」
「うにゃぁ、でもこれはちょっと……」
「どうしましたか?」
「なんでブラックの出来が……いや、何も言うまいにゃ」
「……お気持ちはわかりますけど……ドールの方は出来が良いですから……」



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