戻る



「警報発令!・・・救助信号受信!所定の艦は直ちに緊急発進、全護衛艦は緊急待機!・・・繰り返す、警報発令・・・」


警報と同時にTS9のドックが慌しく動き始める。
「商船より続報あり・・・敵は大型のフェザー砲を発砲しつつ接近中!」
ヘッドセットをつけていたオペレーターが状況をメインパネルに投影していく。
「敵は海賊と思われます」
少し高い位置に座っていた士官は、脇にある専用モニターを目を落としながらいくつかのスイッチを押していく。
「3番艦を・・・急いでにゃ!」そう高い位置にいた士官・・・みけね少尉が叫ぶ。
「了解!・・・3番艦くらいてんに・・・緊急発進です!」
少尉の言葉を復唱しながらオペレーターが指示を出し、護衛艦のひとつが動き始める。
「くらいてんより・・・臨界まであと10!敵位置のデータを」
「座標X278・Y177・・・第5商業航路8ポイントですにゃ!」
「了解!・・・U.S.S.くらいてん、これより発進する!」
ドックを出た瞬間くらいてんは最大出力でTS9を離れると、すぐさまワープ9まで加速していた。
「20秒かにゃ・・・記録もんだにゃ♪」見えなくなったくらいてんを見ながらみけね少尉が呟いている。
「恐らく2分以内に目的地に到着すると思われます」
「ふぅ・・・当直を警戒配置に・・・」みけねはそう言いかけた時に、また脇のモニターがアラートを表示している!
「今度はどこにゃ?」
「座標X255・Y107・・・第17商業航路21ポイントです」
オペレーターは送られてきた情報を解析しながらみけねに報告を続けている。
「稼動艦の状況は?」
「U.S.S.あいくるがアイドル状態です」
「あいくる発進準備にゃ・・・」
「ですが、今待機には5人しか・・・」
「大丈夫にゃ・・・けいんず級ならそれでも十分にゃ!」みけねはそう言い、回線をあいくるに繋いだ。
25秒後、あいくるは目的の星域に向かって飛び立っていた。

みけねはオペレーターから報告されている護衛状況に満足して、ドックで艦体保全を行っているオヤンジュ中尉に回線を繋いだ。
「さすがオヤンジュ中尉ですにゃ・・・しまいには5人しか待機要員がいなくて、救援要請どうしようかと思ったんですにゃ」
「あはは・・・褒めても何もでんよ・・・あれを造った技師にそう言ってあげるべきじゃないかな」
「おろ?けいんず級の設計技師ですかにゃ?」
「いや・・・その礎を創った者達だよ・・・もう若い世代は知らないだろうけどね」オヤンジュはみけねにそう答えると、星の海に目を向けた。




・・・遥かなる未来への礎に・・・


原作かわねぎ様

作:kagerou6


時は20年ほど遡る。
惑星連合は結成以来、初めてといえる大規模な星間戦争の只中にあった。
相手は連合と極近い位置にある星間同盟国家トマークタスである。
当時、いくつかの異人種を抱える連合は、新天地でも異人種との交流は予想されていた。
特に文明を決定づける”高密度エネルギー反応”を近隣の星系で確認してからはなおさらであった。
だが、”同盟”との最初の接触は実りのあるものではなかった。
宇宙に飛び出している両陣営であったが、最大のコミニュケーションである言語が通じない為に、互いに疑心暗偽に陥りどちらが最初に手を出したかは定かではないが戦争になってしまったのだ!
宇宙を覆い尽くすような戦禍が広がり、両国は互いに疲弊していった。
・・・無駄な争い・・・互いの政府はいつ果てる事も無い戦いに、そんな感じを受け取っていた。
特に国境を2国に接している同盟は、惑星連合だけに戦力を割くわけもいかずより深刻な状態だったのである。。
だが、歴史はまだ矛を収める事を認めてはくれないでいた。
星間領土が大きく変わってしまったからだ。
領土に侵攻されてしまった連合は領土の復活を求め、連合を”格下”と見下している同盟は”和平”ではなく”降伏”を求めていた為だ。
互いに和平の接点を見出せないまま、戦争は今日も続いていた。


「・・・全艦照準完了!・・・いつでも撃てます」オペレーターが叫びながら報告し、艦隊司令は手を振った。
「全艦発射開始!・・・同盟艦隊を叩きのめせ!」その言葉を待ちわびていたかのように、全艦が煌いた!
装備している全兵装を敵に向け、間断なくフェザーを撃ちありったけの光子魚雷を発射していく。
相手同盟艦隊でも艦船が煌き、同じようにフェザーと光子魚雷を撃って反撃してくる。
「艦首シールド強化!・・・敵の攻撃に備えろ!」「左舷より敵艦隊・・・こちらに向かって突撃してきます!」
罵声と指示が飛び交い、一瞬の迷いもなく次の行動に移っていく。
「左舷宙雷戦隊・・・敵に向かっていきます」「右舷巡洋・・・直撃、シールドダウン!」
「巡洋を下がらせろ、射界が取れなくなる!」
「今日も長引きそうですね」艦隊司令の脇で状況を纏めながら、参謀は呟いた。
「あぁ」一言呟きモニターを見つめたまま考えている司令。
・・・きっかけを作ってくれ!・・・そう願いながら、左舷で戦っている宙雷戦隊から目を離さないでいた。

「左舷宙雷戦隊より入電・・・左翼敵部隊、戦艦2巡洋1撃破、巡洋2駆逐5大破確実!」報告に旗艦の艦橋が沸き上がる!
同盟との艦隊戦が始まってまだ数時間しか経っていない状況で、敵半個艦隊を潰したのだからだ。
「あいつらが敵でなくて良かったぜ」「そうだな・・・他の宙雷戦隊は半個どころか1隻も戦果を上げてないのもいるからな」
報告を聞きオペレーター達はそんな会話をしていた。
それは戦果を上げた味方に対する嫉妬もあったかもしれないが、多くは心底からの言葉だったのだ。
強い味方は自分の生存を確実にしてくれるからである。
”今日も生き残れる”そんな思いがあるからこそ、戦争という極限状態でも自分を見失わないで済むのだ。

「よし!正面に戦艦をだせ!・・・このまま敵を押しつぶすぞ!」待望の状況に司令は立ちあがって指示を出していく!
「敵艦隊・・・陣形を鶴翼に移行・・・こっちの攻撃を受けとめるようです!」
「包囲など取らせるものか・・・逆に分断する、前方に火力を叩き付けろ!」司令の声に反応して、前方にフェザーの光が収束・宇宙を染めていく。
「敵左舷・・・高速艦艇多数!・・・我が艦隊を半包囲せんとしております!」状況を確認していたオペレーターの声が環境に響く!
「左舷宙雷戦隊に阻止機動を!・・・右翼巡洋戦隊はどうなっているのか?」
うっすらと生えている髭に手を当てオペレータに向かって叫んでいる。
「敵右舷艦隊と交戦中・・・被害4!」
「敵の艦隊は高機動だな・・・だが我が宙雷戦隊のが早い、より外側から包囲する様に伝えろ・・・」
司令が独り言を言いながら、別な指示を出そうとした時
「駆逐艦とーまー・てーつく機関不良・・・脱落していきます!」オペレーターは信じられないモノを見た様に大きい声で叫んでいた。
「なぜだ?・・・敵の攻撃を受けたのか?」椅子から乗り出しながらオペレータに聞き返す司令。
「エネルギー反応無し・・・原因不明です」
「くぅ・・・軽巡はんぷすを援護に廻せ・・・戦力の低下を補うんだ!」
「了解・・・はんぷすに下命、宙雷戦隊に続き突撃せ・・・」そう言いかけたオペレーターは、今度はモニターを見て震え言葉を失った。
「復唱はどうした?」
「宙雷戦隊・・・全艦行動不明!・・・全艦脱落していきます」
「そんなバカな!」オペレーターの声に指揮官は回線を繋ぐ様に命じた。
「こちら第2戦隊司令・・・宙雷戦隊司令どうしたのか?」
「全艦・・・機関不良!・・・出力17%に低下、艦隊機動に付いて行けません!」
「ばかな!・・・君の駆逐艦隊は最新じゃなかったのか?」
「半年前に受領した時には何も問題が無かったのですが・・・高速巡航での不具合かもしれません」
「そんなばかな!」パネルを叩き付けながら拳力をいれる。
「敵を殲滅できるチャンスが・・・悪い夢でも見ているのか・・・」
「・・・いえ、それ以上の悪夢でしょう・・・」宙雷戦隊司令はそう言っていた。

後方に取り残された宙雷戦隊は前方に煌く光を見ながら、自分達がその場所にいられない事に憤りを感じていた。
・・・俺達のいる場所・・・艦に乗っている全員がコブシを握り締め振るえたまま光を見つめている。
色鮮やかな光が舞い、宇宙をキレイに染めていく。
だがその光の中では、艦が燃え人が消えていく。
そして全ての光が消え去ったとき、彼らは自分の持っていた存在価値を失ってしまった事に気付いた。
宙雷戦隊指揮官たくす中佐は消え去った光を見つめながら、残ったエネルギーを使い礼砲を撃っていた。
翌日、たくす中佐に戦隊司令の解任辞令が連合本部から通達された。

「全艦行動不良とは司令の資格などない」参謀はそう言って戦況を書きこんだボードを見つめていた。
「補修を進めていますので次の戦闘には全艦が間に合っている事でしょう」
「しかし・・・今までになかった事だな」参謀長はそうそう言い、報告をしている参謀に目を向けた。
「指揮は優秀だと聞いていたのですが・・・そんな事にあぐらをかいていたのでしょう」そう言って笑いながら答える参謀。
「ふむ・・・司令に推薦したのが間違いだったと?」参謀の言葉に頷いて、司令の処置をどうしようか考えていると
「せっかくの新鋭艦・・・造った我々まで非難される責任を取って欲しいものですなぁ」などと、艦政本部からで向いてきた士官が呟いていた。
艦政1課の課長であるバースベカ大佐である。
「なんだと?」バースベカの言った言葉を聞いて、参謀達は睨むように見つめた。
何故なら参謀達の多くはバースベカと同期であり、彼の事をよく知っていたからである。
「・・・我々艦政1課の造っている艦は、歴史で”名艦”と言われる艦なのです、それに乗れる事を感謝して欲しいですなぁ・・・」その言い様に聞いていた全員が呆気に取られてしまった。
「まあ、君達が頑張って造っているの判るが・・・だが、それを”感謝”とはいささか・・・」
「何を言うのです!・・・艦が無ければ戦闘は出来ないのです・・・つまり我々がいないと戦争は不可能なんです!」バースベカは言いたい事を言って会議室から出て行ってしまった。
残された参謀達はどう対処して良いのか判らず、別な問題を議論し始めた。

「敵艦隊は逃したものの、星系防衛には成功したとの事です」
連合の戦闘指揮情報を纏めている統合センターの士官がそう言って戦闘結果を報告した。
「で・・・艦艇の損耗はどうなんだ?」作戦参謀長に報告に来た中佐に目を向けている。
「我が方の艦艇は・・・戦艦2巡洋1駆逐10が沈没、戦艦1巡洋6駆逐5が大中破との事です・・・」報告をしている中佐は口にしながらも、損耗の大きさに暗い気持ちになっていた。
「敵は?・・・同盟はどうなんだ?」
「戦艦4巡洋2駆逐14を撃沈、戦艦1巡洋・駆逐各3を大破確実、他戦果ありと報告は受けておりますが・・・」
「星系を防衛した分・・・艦艇の回収が出来て損耗は5分と言うわけだな」参謀長は報告をしている中佐に話しかけた。
「戦場での報告が重複していない限り5分と判断されますが・・・」中佐はそう言って頷く。
「やはり、防衛戦が精一杯なのか」
椅子を回転させ、独り言の様に参謀長は呟くと
「各艦隊から戦力の補充要請が続いており、新造艦を廻していますが・・・損耗を埋めるほどは・・・」参謀の一人がそう言い苦い顔で参謀長を見つめた。
「やはりあの戦いでの消耗が大きすぎたか」
「えぇ・・・あの戦闘で2個宙雷戦隊が損耗し、2000人を失いました・・・新任士官を補充はしましたが、古参士官ほどの働きをするには時間が・・・」

「建造はどれだけ前倒しできる?」参謀長はそう言いながら担当の士官を呼んだ。
「損耗した艦艇を中心に建造を進めておりますが、先日の戦闘前の状態に戻すには後数ヶ月必要かと」そう言いながら各艦の建造状態の進度を書き込んだ表を渡した。
表には建造中の艦艇が所狭しと書かれている。
参謀長はその表の最後の数字を見ながらため息を吐いていた。
何故ならそこには参謀長の望んでいたもの・・・完成予定日が書かれていた為だ。
ドックに資材・人材を優先で廻しているが、当初の計画の期間が短縮できないでいる。
むしろ、戦闘結果で装備の追加をした事で期間が延びてしまっている艦もある。
「暫くは戦線を維持すら難しいかもしれんな」
「各星系の旧戦闘艦艇の提出を呼びかけてみてはどうでしょう?」
「旧式艦か」
「えぇ・・・現在就航中の新型には及ばないかも知れませんが、少なくとも防衛戦を行う程度の戦力にはなるかと・・・」
「そうだな・・・星系の警察機構に要請をしておこう」参謀長はそう言っていくつかの艦をリストアップする様に伝えた。
だが一週間後、参謀長の期待とは裏腹に同盟との戦闘が行われていた。

「司令・・・前方で発砲!・・・敵艦隊撃ってきました!」
脇で計測をしていた部下がたくすにそう報告をしていた。
たくすは宙雷戦隊指揮官を外された後、護衛艦隊の廻され星系間輸送護衛に着いていたのだ。
平時であったなら退役させられていたであろう処分が、戦時の為の人員不足から輸送護衛任務となったのである。
たくすはその処分を受諾して、乗艦の部下と一緒に護衛艦に乗り込んでいたのである。
「敵は巡洋クラス3!・・・通商破壊部隊と思われます」
「艦を前面に!・・・各シールドを最大だ!」
たくすは指揮する艦を躊躇わず、輸送艦の前に展開するように指示を出した。
各艦のシールドを重ね、攻撃を吸収しようと考えたからだ。
艦のシールドが敵の攻撃を吸収し読み通りに展開していったが、それでも守り切れるかたくすは不安でならなかった。
なぜなら、巡洋艦と護衛艦では戦闘力では比較は出来ないほどの差があったからだ。
大きさはともかく、輸送艦を基準に機動性を考えている護衛艦と駆逐艦との共同機動を考えている巡洋艦では比較自体意味がないといえた。
だが、戦争において物資の欠乏が大きな敗因の要素である事をたくすは理解していた。
敵もそれを理解しているからこそ、輸送船を攻撃してくる事を!
たくすは全護衛艦が全滅しようとも、輸送艦を守り目的地に送る事が出来れば良いとさえ考えたから躊躇う事なく艦を展開させたのだ。

敵のフェザーが間断なく降り注いでくる。
「輸送艦に連絡!・・・俺達が盾になる・・・全速で逃げろ!」
「全フェザーを収束する・・・敵の先頭に合わせて撃て!」
立て続けに指示を出し、たくすは逃げ切れる時間を作ろうとしていた。
「4番シールド破損・7番フェザー崩壊・・・このままでは護衛艦隊は・・・」
「まだだ・・・まだ輸送艦は逃げ切れない・・・」
「いくらなんでももう・・・」部下の声を聞いてたくすは目を閉じた。

「よう、たくす・・・随分と難儀しているじゃないか」そう言って宙雷戦隊指揮官のとむどは笑っていた。
彼はたくすと同期で、軍士官学校に通っていた頃からの友人だった。
「まあ、ちと苦労しているがな」そう言っているたくすにとむどは笑う。
「あれは俺の戦隊が引きつけておく・・・お前はとっとと逃げる様に」
「おいおい、軍人にそれを言うのか?」
「良いじゃないか・・・今はお前軍人じゃないんだろう?」
「違いないか」たくすはそう言って笑うと、敵のデータを転送していた。
「そろそろ敵も疲れている頃だろう・・・星に戻ったら自慢話を聞いてやるさ」
「お前の奢りでな」とむどはそう言って笑うと、配下の全艦を敵に向けるように指示を出した。
「それじゃあ明日にな」たくすはそう言って敬礼をし見送った。
だが、たくすはそれが友との最後の挨拶になってしまうことなどこの時点では知る由もなかった。

「キャロラットまで持つかなぁ」艦の被害状況を確認しながら、たくすは宙図を睨んでいた。
「護衛はキャロラットで終りですから、工廠で修理を行えば大丈夫でしょう?」
「そうだな・・・幸いこの護衛艦は”堅牢”だしな」
「えぇ、旧式の重巡なみのシールドがありますね・・・先程の耐久を考えると・・・」
「そうだな・・・この艦の設計者にあってみたいものだな・・・」突然たくすはそう言い、副長は驚かないで頷いた。
たくすは自分で”認めたもの”に拘るタイプで、特に命が掛かっている艦だからなおさらなのである!
たくすは建造工廠がプレラットと知ると、輸送艦がキャロラット惑星圏に入った事を確認すると、そのままプレラット工廠に艦を向け入港した。
「たしか第2艦政本部がここプレラットなんですよ・・・艦政に行けば良いんじゃないですか?」副長の言葉に頷くと、たくすはそのまま機密エリアに入ろうとしていた。
さすがに元軍人でも機密エリアなんて入れるはずも無く、たくすは入り口で追い帰されてしまった。
それでも諦めきれないのか、端末を操作し担当の士官を呼びだす。
「・・・あの艦の担当士官は、ちゃくる大尉ですね・・・」相手の士官はそう教えてくれた。
たくすはその名前を書きこむと、どうやって会えるのか考え出している。
「司令・・・約束忘れるとまたペナルティですよ」考え込んでいるたくすに副長が呆れた声で言った。
「約束?・・・なんだったかな?」
「とむど司令の事忘れているでしょ?」
「あ・・・そうだった・・・」頭を掻きながらたくすは外の宇宙に目を向けた。
そうすると、今すぐにでもとむどの戦隊が帰還するような気がしたからだ。
だが、とむどは旗艦をフェザーで撃ち抜かれ乗艦が爆発し戦死していた。

「中佐・・・飲みすぎは身体に毒ですよ」バーテンがそう言ってたくすの前に水をおいた。
それを一気にあおり、新しいウイスキーを要求するたくす。
「ここのお酒・・・全部飲むつもりなんですか?」
「友人と・・・あいつとならそれも出来たろうからな」そう言って空になったグラスを割れるような勢いでカウンターに置いた。
「あいつはいつも慎重で、だがここという時には大胆に戦える男だった・・・そんなあいつが死ぬなんて・・・」
「・・・中佐・・・」深い悲しみを撒き散らしているたくすにバーテンも告げる言葉が見つからない様だった。
「あいつなら・・・相手が戦艦だって負けるはずがないんだ!」
注がれたコップをあおると、そのままたくすはカウンターに伏していた。


「俺が乗っていた艦が軍艦並の武装さえしているば、あいつを死なすことなんか無かったろうに・・・」
「中佐の艦はそんなにいい艦なんですか?」
「あぁ・・・護衛艦としては理想的だな・・・」たくすの言葉にバーテンは驚いた顔で見つめ返す。
「戦闘目的の艦ではないから火力は最低だけど・・・軍艦としては”ある意味”理想だと思うよ」
「よく判らないですが、中佐が惚れこんでいるのは判りますよ・・・」
「壊し壊されるのが軍艦だ・・・敵からも味方からもな・・・」
「味方・・・からですか?」たくすの言葉にさすがに驚いてしまっている。
「相手を壊す為、味方を守る為に・・・壊してしまうものなんだ」
「そうなんですか」バーテンはそう言うと空いたコップを交換して、別な酒を前に置いた。
「・・・後の・・・中にいるものを・・まも・・・」たくすはそう言うとグラスをあおり、そのままカウンターに伏したまま寝入っていた。
そんな彼を脇から見ていた人物がいる事を彼は知らないでいた。

たくすがバーテンに話していた頃、参謀本部でも混乱が起きていた。
だが参謀本部ではたくすの比ではなかった。
戦闘に負けたのは理解していたのだが、その負け方が異常だった事に衝撃を受けていたのだ。
規模は小さく、宙雷戦隊と巡洋戦隊のぶつかり合いだったのに、戦闘に参加した宙雷戦隊17隻中12隻が破壊撃沈され、残った艦も大きな被害を受けて敗退したのだから。
それでも同盟に打撃を与えていたのならまだ救いもあったが、同盟は3隻中1隻大破したに過ぎなかったのだ。
度重なる艦艇の損耗に、連合では検証を行うべく宙雷戦隊の乗員を集めた。
戦闘記録が提出され、乗員からだけでなく他の士官がそのデータを確認した。
その結果は確認した全てを驚愕させた!
何故なら、誰が艦を操っても”敗北”する事を証明されたからなのだ!
司令部は艦政の士官を緊急召集した。


「不本意ですな!」事情を聞いたバースベカが机を叩きながら反論していた。
「我々は考えうる最高のものを造ったのですよ・・・それが敗北の原因だなんて」
「これは我々を落とし入れようと考えているものの策略だ!」そう言って隣に座っているプレラット人とキャロラット人に視線を向けた。
彼らはそれぞれ艦政2課・3課を纏めている士官であった。
バースベカは艦が能力を発揮できないのは他のやつらの陰謀だと言いたいのだ!
「正確な検分をお願いしたいものですなぁ」
「・・・君がそう言うのならもう一度確認しよう・・・」参謀長はそう言い、いくつかの図面を映し出した。
「専門家の君がいるのだから、せっかくの意見を聞かせてくれ」そう言ってバースベカを見る参謀長。

「宙雷戦隊用に建造した”るくりぷ”級は前”はんぷす”級より速度・火力・シールドこれらを高次元でバランスさせる事に成功した新鋭艦で・・・」バースベカはそう言いながら自慢そうに説明している。
「艦の心臓でもあるリアクターは最新のものを使用し、ワープエンジンにも新型のものを搭載しています」
リアクターもワープエンジンも自分で設計した様にいうバースベカ。
それを聞いていた艦政エンジン部門の課長が彼を睨みつけた。
全てを自分の手柄にでもするかのように言い続け、基礎開発部門の課長まで苦々しい顔になっている。
だがバースベカはそんな事を気にもしないで話を終えた。

「1艦隊主席参謀・・・これについて意見はあるのか?」
「基礎データを見る限り、今までにない高性能艦ですね」
主席参謀の言葉にバースベカは満足顔で頷いた。
「ですが・・・限界データをどの様に計測しているのですか?」
「限界データ?」バースベカの顔に今までとは違う表情が浮かんだ。
「戦闘時には基本状態なんかでは使わないのです・・・いざという時には限界を超える事が当たり前にあるんですよ」主席参謀の言葉に艦隊を指揮している人々が頷く。
誰しもいざという時を乗り越えてきたのだから!
誰もがバースベカの言葉を待っていた。
だが彼の口から出たのは”戦闘を知っていない”ただの傍観者の言葉でしかなかった。
「限界などと言うのは、艦の性能を生かしきれないもののたわごとだ!」
その言葉に会議室に出ていた人全員が睨みつけた!

「限界・・・いや、十分な整備が出来ない状態での性能というべきか」参謀長は全員の気持ちを代弁するかのようにバースベカに向い話し始めた。
「前宙域戦闘では、艦隊集結直後に戦闘が始まり60時間にも及ぶ戦闘だったのだ・・・」
「君はそうした事態を想定していたのかと聞いているのだ!」
「なにをバカな事を・・・」あざけるようにバースベカは笑った。
「そんな状態なんて想定なんかしていない!・・・そんな事は情報部の怠慢がない限り起きるはずはない」
「君は無知だな」参謀長はそう言ってバースベカを見つめた。
「無知だと!」
「あぁ・・・想定できない事を考えられないなんて無知以外のなにものでもない!」
その言葉にバースベカは体を振るわせ参謀長を睨み返していた。

「戦争なのだよ!・・・いざという時に軍艦が動かない・・・それを考えた事はあるのか?」
「我々の造った艦が動かなくしてしまうとは言語道断!・・・そんな兵士になど価値はないわ!」
「いくら我々が優秀でも、使う兵士がなまくらでは艦が不幸だ・・・即刻兵士を処断しろ!」
「ふざけた事をぬかすな!」参謀長は怒鳴り、部屋が揺れた感じを全員がうけていた。
「戦闘力のない兵士を庇うのか?」
「戦闘力の無いのは艦のほうだ!」
「ばかな!・・・我々の造った艦は戦闘力では過去に例の無いほどの・・・」振るえながらそう言っている。
「過去に例の無いほどの?・・・ばかげた艦だよな・・・それは頷いてやる!」
「ばかげただと?」
「一時間全力を出しただけで壊れる機関、1斉射のたびの調整が必要な主砲・・・そんな軍艦が有るのか!」
「そ、それは無能な兵士の扱いに問題があり・・・」
「君は戦場にドックを準備して整備しろとか戦闘中でも定期的に艦を止めて点検しろとでも言うのか?」
参謀長はそう言って睨みつけるとバースベカは何も言えなかった。
「戦争中に必要なのは、競走馬のように気を使う戦闘艦ではない・・・軍馬が必要なんだ!」参謀長はバースベカを睨み、会議室が震えるような大声でそう叫んだ!
「我々の創るものを侮辱するのか?」バースベカは階級を無視してそう参謀長に言い返す。
「そうは言わない・・・だが、現実の戦場を知らない・・・それが無知と言わずになんというのだ?」言い返したバースベカに睨みつけて言う。

「優秀な人材なら、設計通りの戦闘力は発揮したのか?」
参謀長はバースベカを睨みながら、破壊された艦のデータを映し出す。
「軍令艦政で決定した時の図面だ」
「それがなんだ?」
「破壊された艦は全て図面が違うんだ」
参謀長はそう言うと、造船工廠の建造記録に変えた。
「メインフレームが完成しリアクター及びエンジンを取りつけする前まではなにも変わってはいないのだが・・・」そう言って両方の型式を拡大し映し出す。
「それが取りつけ時には変更されていたのだ」
「そんなばかな!」誰しもが参謀長のしている事に驚いて見入っていたが、一人バースベカは黙ったままであった。
「参謀長・・・私が見てもなにが違うのか判りませんが」そう言って艦政の図面処理を担当している士官が呟いた。
「まあそれくらい巧妙だという事さ」そう言って二つの型式の間に、重なっているものを追加した。
誰もがそれを目を皿のようにして見つめ比べている。
だが、誰もが首を傾げ考え込んだままで、参謀長に言っている”違い”を見つけられない!
「あ!」だから一人の士官が声を上げた時、誰もがその士官に目を向けたのは当然の事だったであろう。

「気付いたかな?」参謀長はそう言ってその士官を見たが、不安そうにしていた。
「間違いでもいいから、自分の意見を言ってくれないか?」参謀長にそう言われ、士官はパネル操作盤に歩いていった。
「私が気付いたのは・・・ここの所です」そう言って型式の中央辺りに書いてある記号をポインタで指した。
それは極ありふれた記号であった。
「私も打ち込みで間違いをするのですが・・・」そう言って新しく2つの記号を映し出す。
「上側にある”図面記号”は普通に使われているものですが・・・」
士官はそんな言い方で”図面記号”と言う言葉を強調して言っていた。
参謀長はそれを聞いて頷くと、次を説明する様に言う。
「で・・・下は僅かながら短いですよね・・・これは”図面記号”には使っていないものなんです」
それを聞いて殆どがざわめき始め、参謀長に目をむける。
それが”違い”なのかを知りたかったからだ!
「今説明のあったように、この部分が違う・・・そして同じようにして兵装にまで書換えられている」
参謀長の発言は更にざわめきを増加させた。

「しかし、艦政のものとして言わせてもらえば、そんな混乱する様な型式を使ってはいないはずでちゅが?」
艦政2課のプレラット人が意見した。
「そこが問題なんだよ」参謀長はそう言いながら、別な表を映し出す。
「現在使用しているリアクター・兵装・シールドジェネレーター・・・殆どが軍規格品で混乱を招くようなコードを使ってなんかいない・・・」
「それは造船関係者ならよく知っていることだ・・・だが、知っているからこそ気付かなかったというべきだろう・・・」
そう言って艦政1課バースベカに目を向けた。

「軍工廠が軍令に連絡をするのはどんな時だか知っているのか?」
「そ、それは予定よりも建造が・・・」バースベカは震えるような声で答えた。
「そう・・・建造に問題が起きた時だ・・・」そう言いモニターに工廠からのアクセス記録を映し始める。
「トラブルの際には司令部に連絡を行う手筈なのだが、全てが艦政に行っているのはなぜなんだ?」
「そ、それは・・・我々が設計したのでそのほうが効率がよいと考えたのでしょう・・・」
「そうか?・・・なら、何故に”記録”に残っていないのだ?」参謀長は工廠からの記録と艦政の記録とを映しそう言った!
工廠のアクセスは頻繁に行われているのに、艦政ではそれを受け指示を出した事が残されてはいない。
「しかも全部君が受けて指示を出しているな」
誰しもそれを聞いて不思議に感じていた。
何故なら建造ドックは24時間稼動、特定の人が常に問題を対処する事なんて余りにおかしいからだ!

「参謀長・・・その記録は正しいのでちゅか?」プレラット人技師が参謀長に話し掛けた。
「自分も問題対処した事があるんでちゅ、そんなに重なるなんてありえない事でちゅよ」
「普通じゃないとしたら?」参謀長は艦政2課3課の課長を見て呟いた。
「今の艦は建造時間が正確で、スケジュール通りに進む事は判っているだろう?」その言葉に二人は頷いた。
「もし・・・問題が起こる事が判っていたらどうだろう?」そう言ってバースベカに顔を向けながら呟く。
「自分で連絡があるように・・・問題を起こせば・・・」
「「「まさか!」」」全員、そう言いながらバースベカに目を向けた。
軍人として”事故を作った”と言われ、どう言い返すのかを知りたかったからだ。
だが何も言わないまま参謀長を見つめ返すだけだった。

「君が独断で設計を変更し、造船工廠に介入したのは調べがついている」
本来情報部は対同盟に動くべきなのだが、事の大きさに参謀長は情報部を動かし確認をしていたのだ。
「お、俺は天才なんだ!・・・間違ってなんか・・・」半狂乱で騒ぎだすバースベカ!
「俺の艦が、連合の歴史に残るんだぁ」バースベカは机に乗り叫び出した。
参謀長は憲兵に指示を出し彼を取り押さえさせて、そのまま軍病院に送りこんだ。


「あいつが今回の騒動の原因だったなんて・・・」参謀の一人がぽつり言葉を漏らした。
「あいつは元々参謀本部希望だったんだが、ひとりだけ艦政に廻されたんだよな」
同僚が話を聞いてそう言い、それに数人が頷く。
誰もがバースベカの同期である者達だった。
「あぁ・・・成績は俺達より良かったんだが、独り善がりが多く作戦立案に支障をきたすといわれてな・・・」
「それがそのまま艦政で暴走したのか・・・」
「あぁ・・・同期の多くが艦隊参謀・作戦参謀になって何人か評価され、恐らくはあいつより出世が早いだろう・・・」その言葉に皆が頷く。
「それがあいつには堪えたんじゃないか?・・・見下していた俺達より出世が遅れる事に・・・」
「まさかそんな理由で?」
「それはあいつじゃなければ判らない・・・だが、それ以外には何も・・・」そう言ってため息を吐く同期達であった。

「総司令・・・艦政における艦の洗い出しが急務です、新造している艦の見直しをさせてください」参謀長はそのまま総司令に面会して、今回の”事件”を報告し艦政の不具合を打ち上げた。
「それは良いが・・・それまでどうやって戦線の維持を行うのだ?」
「先日の戦闘と今回の戦闘、更に今回の不祥事で基幹となる高速艦艇が完全に不足します」そう言って損耗及び建造不備の艦艇数を打ち上げる。
「星系治安維持の高速艦艇を各星系から融通してもらう様に、連合主席に掛けあってください!」
「軍部の恥を曝す事になるぞ?」
「ですが、そう言っている最中も敵は侵攻してくるのです!・・・恥だからと言って連合市民を戦火に巻き込む事は出来ません!」
「・・・連合市民か・・・」総司令は腕を組み暫く考えた後、惑星連合主席へのホットラインを手にしていた。

それから数日、総司令部は艦政の不祥事の後始末で混乱していた。
確認した建造途中の艦の全てが常識を逸し、戦闘はおろか航海すら困難な代物になってしまうと判ったからだ!
更に就役していた艦も、多くの不具合が見つかった。
このままではまともに戦う事が出来ない・・・参謀長は確認した時点で、不具合のある全艦を一旦建造中止もしくは除名していた。
対応案が出来、艦の活用が可能とならない限り、このまま建造もしくは艦隊にあっても意味がないと考えたからだ。
艦隊から除名された艦にはまだ就航して一週間も立っていないものもあった。
建造途中で引き出された中には、殆ど建造の済み艦名を入れるだけのものもあったのだ。
参謀長は今更ながら、この不祥事の現実を確認するのが怖くなっていた。
幸い、同盟でも戦闘のキズが癒えていないのか戦闘を仕掛けて来る事は無かったが、それでも余りに大きい痛手であった。
このような事が再発しない様に艦政内部のを一新し、また現有戦力の強化に向けて各艦隊の司令を召集した。

「・・・現状での艦船の建造・就航はこのような予定だ」参謀長から詳しい話を聞き、各艦隊司令は頭を抱えていた。
今までに立てられていた反抗計画が根本的から狂ってしまったためである。
開戦以来、連合は各星系で戦闘を行いながらも、同盟に侵攻・制圧されている星系の奪還の計画を立てていた。
戦闘で消耗しながらも、連合各地では工業力を纏めて消耗を上回る新しい戦闘艦の建造されていたからだ。
各司令は建造日程から今まで以上の艦隊戦力が戦線に登場し、圧倒的戦力で星系の奪還が出来ると思っていたのだ。
特に駆逐艦などは就役まじかな物が多く、後一ヶ月後には4個戦隊が戦線に投入可能だったのだから・・・
「今までの基本戦略としては、守勢防御を行いながら戦力を強化し、徐々に攻勢防御を展開し星域を奪還、敵星系に侵攻し戦争に終止符を打つつもりでいた」そう言って参謀長は艦隊司令に目を向け、異存がないかを確認した。
基本戦略を知っていなければ戦争を行う事なんて出来るはずがなく、司令達は参謀長の言葉に異存はなく頷いた。
「このことは、戦略本部と情報部の試算で敵侵攻速度の算出が出来、それに戦力増強が間に合うと判断したからだが・・・先日の不祥事でそれが危うくなった」
「しかし、参謀長・・・現有戦力での戦線維持は可能と判断しますが?」一人の司令が参謀長に手を上げて言った。
「敵に制圧されている星系の情報員から連絡が入った・・・敵は新たに2個艦隊を前線に投入するつもりらしい・・・」
「しかしそれで新たに星系に侵攻されても、先に判っているのなら住民の避難は可能でしょう?」
司令の言葉を聞き、参謀長は静かの首を振って否定する。
「敵の侵攻が予測されるのはファーザーム星系・・・そして敵の目的は・・・隣接しているTS2の制圧だろう・・・」参謀長の言葉に司令達は衝撃を受けていた。

連合の動脈であるトランススペース。
その中のTS2は連合本部のあるテランから同盟側にある唯一のTS基地で、約300光年離れ近隣のファーザーム星系からは3光年の場所に位置していた。
ファーザームや周辺星系で生産された製品はTS2に集まりトランスチューブを通り連合各地に供給され、また他星域の製品もTS2を通りファーザーム等に供給されている。
またTS2は、ファーザームはもちろん他の周辺星系を纏める役割も担っていた。
地方星系においてTS2は、中央のテランの代りをする役割を担っており、政府の機関はもちろん多くの企業・学校・研究機関が進出していたのだ。
特に戦争が始まってから移動はもちろんのこと、艦隊の補給・修理までもがTS2で行われており、重要度を増すばかりであった。

「現在戦線はファーザームから1.5光年・TS2からも4.5光年の距離にあり連合同盟ともに3個艦隊を展開している」
「ここに新たな2個艦隊が投入された場合、戦線の艦隊は敗北し、最悪TS2が敵に奪われてしまう事になるだろう」
「しかし参謀長・・・敵とて補給無しでは戦えないはず、敵の補給能力を見ると新たに2個艦隊を展開するのは無理なのでは?」
「君のいうように現状の補給能力では、展開している3個艦隊が限界だろう」そう言ってスクリーンに星図を映し出す。
「前線周辺にある敵の補給基地・補給路をこちらで叩いているから、君の言うように3個艦隊が”こに基地”では補給限界だろう」参謀長の言葉にさっき意見を言った司令が頷く。
「しかし・・・敵は基地の代わりとして工作艦・補給艦を多数派遣し、艦隊の補給・休養を行わせつもりらしい・・・敵の後方で多くの艦が移動していると情報がある」参謀長の言葉に全員が驚いて頷く。
「つまり・・・敵は前線近くに艦隊を集結できると?」
「そうだ・・・情報では艦隊は戦線から0.3光年位置・・・つまり、この星系に集結するらしい」星図の敵の集結予想を映しながら言う。
「至近じゃないですか!」
「他の補給基地同様、戦線から3日程度の位置になる」
「「「3日!」」」
「そうだ・・・我々がこれに気付いて各TS艦隊を増援で送ろうにもTS2からは1.5光年・・・14日も掛かる・・・つまり・・・」
「勝敗は決まってしまうと」司令の一人が口にして参謀長を見ている。
「そうだ・・・この艦隊を撃破もしくは行動不能にしなければ、前線の艦隊は破壊されファーザーム及びTS2は敵に占領される」
「もしTS2が攻略されると、テラン周域にどれだけの艦隊があっても戦線に派遣するにも単純に一年掛かってしまう事になるだろう・・・最高速度で向かったとしてもだ!」(当時の最大巡航速度はワープ5である為)
「それはつまり・・・」
「そうだ・・・TS2を失う事はこの戦争の敗北をも意味する・・つまり連合の負けだという事なのだ!」参謀長はそう言いながら各司令の顔を見ていく。
それはどんな反応をするのか確認するそんな風であった。

「アイザック・・・なにか言いたい事でもあるようだな?」
「参謀長・・・星図を映したという事は・・・なにか作戦を考えていると?」
「そうだ・・・敵が艦隊を集結した直後、奇襲部隊でここを奇襲し叩く」
「参謀長・・・敵戦力を削減する事は判りますが、今艦隊を動かす事は不可能では?」
「現在建造中の新造艦で奇襲を行うつもりだ」
「参謀長!・・・いくら新造艦でも今までと同じ性能では、奇襲出来るのですか?」
「君達の言いたい事は判る・・」そう言いながら参謀長はスクリーンに1隻の艦を映した。
「現在建造が進んでいる新型巡洋艦だ・・・呼称NX1038型だ」
「それがいったい?」
「こいつは最高速こそ今までと変わらないが数日間ならワープ5の巡航が可能なのだ」
「この艦を使えばこの星系に3日・・・迂回コースを通ったとしても4日でこの星系に到達出来る」
「迂回コースといっても、敵の監視をくぐるのですから・・・」
「いや、敵の監視には発見させるつもりだ」参謀長の発言に司令達は意味を理解できなかった。
奇襲を行う為の必須条件ともいえる、”敵監視からの未確認”を捨てるというのだ。
自然と目が参謀長に集まってくる。
「連合でも同盟に対して通商破壊戦をしかけている・・・今回はそれを隠れ蓑にするつもりだ」参謀長はそう言って全員を見渡した。

「今までは同盟の基地のある星系を目的に補給路を叩いてきた」参謀長はそう言いながら敵の基地と通商破壊戦の状況を説明している。
「だが、敵が集結に選んだ星系は今までに基地がない・・・これが同盟が集結ポイントに選んだ理由と考えられる」
確かにそれは小さい星系で近隣に大規模な艦隊施設のある星系があるために、普通に考えれば利用する価値のないところだ。
連合では設備のある星系の輸送を重点的に叩いており、戦略価値がないと判断されている星系は対象外になっている。
戦略的に意味がなく、戦力的に余力がない事が理由だ。
「先ほども言った様に工作艦・補給艦を使いの補給と休養を行わせる・・・今まで考えつかない事だがそこが狙い目でもある・・・工作艦・補給艦ともに基地ほどの耐久力がないからな」参謀長の言葉に全員が頷いた。
「主目標をこの2つに設定し、この航路を使い通商破壊を行うと見せかけ奇襲を掛けるのだ」
参謀長の言葉に艦隊司令官は険しい目で見つめ返すだけであった。

「参謀長・・・目標は工作艦・補給艦と言いましたが?」アイザックはそう言いながら、腕を組み参謀長を見つめる。
「我々の艦隊が航行中に補給する際、小型艦で数隻に1隻、大型艦は1隻に1隻・・・一個艦隊を補給するには15隻程の補給艦が要るのです・・・」アイザックの言葉に参謀長は頷く。
「しかし、先ほどの話では2個艦隊分の十分な補給・休養、”ファーザーム及びTS2”侵攻のための工作艦・補給艦の帯同を考慮すると・・・50隻程度になるのではないでしょうか?」アイザックはそう言って参謀長に目を向けた。
「君の懸念する所はもっともだ・・・もし半数の”撃ち漏らし”があれば、敵の侵攻を阻止は出来ないからな」
「そうです、しかし一撃で50隻を叩くには不可能でしょう・・・多ければ敵に見つかり、少なければ2撃・3撃が必要になる・・・」
「投入するのは4隻だ」参謀長はそう言い、司令官達を見つめた。
余りに少ない艦艇数に司令達は困惑を隠せないでいる。
「参謀長・・・50隻もの艦隊です、護衛だけでもかなりの数がいるのにたった4隻なのですか?」
「そうです!・・・もし艦隊が合流していたら2個艦隊を4隻で相手する事になるんです・・・危険過ぎます!」
「作戦の概要は・・・・」そんな司令官とは裏腹に、参謀長は自信を持って話し始めていた。

「確かに・・・その案ならば可能かもしれないですが・・・」アイザックはそう言いながら他の司令に目を向けた。
「余りに危険性が高すぎる!」「状況が流動的過ぎだ!・・・変化に対応するには余りに予定時間がなさ過ぎる!・・・」
参謀長の案は司令官達に混乱を巻き起こしていた。
判断を間違えば4隻は宇宙の藻屑と化す・・・元々、危険が高い事は認識していたが、余りにも投機的だとしか思えないのだ。
このままでは参加した兵員に”死んで来い”と言うようなものだと、司令官達は判断したのだ!
「はっきりしない戦場に少数を送り込むなど自殺行為ではないですか!」廻りの司令達が騒ぐなか、アイザックは考え込んでいた。
「だが、やらなければ戦争を失ってしまう・・・」
「参謀長・・・この作戦は我が艦隊が引き受けます・・・人員手配はお任せ願いたい」アイザックの言葉に参謀長は頷いたが、他の司令達は無理だと言い翻意を促している。
「後方で編成中の艦隊を投入出来るようになるのは時間が掛かるのだ・・・前線から艦隊を移動させる事も無理だ・・・それは誰より君達が知っている事だろう?」
「確かにそうだが、だが君の所だって戦力に余裕があるわけでもないだろう?」
「確かに・・・とむどがいない今、高速艦艇を操って奇襲を行うに適した人物は艦隊にはいない」アイザックはそう言って参謀長に目を向けた。
「参謀長・・・この作戦には・・・」そう言いかけた時、参謀長はアイザックを遮り
「人員はこちらで手配している・・・先日の戦いでの戦果を上げた指揮官だ」参謀長はそう言い、アイザックは新型艦と指揮官を受け入れた。


同じ頃、同盟でも慌しく作戦の為の準備が進められていた。
同盟各地から星間航行可能な艦船が掻き集められ、いくつかの星系に集結していた。
その殆どが戦争と関係ない事に従事していた普通の民間船が多数であった。
同盟本部ではそこまでして艦船を集め、作戦を実行しようとしていたのだ!
なぜ、ここまで強引に作戦を行おうとしているのか訳があった。
それは、連合内に投入した通商破壊艦の報告に始まったのだ。
戦線の後方に廻り込み、補給艦艇を襲撃していた破壊艦は連合の基地の付近で驚くべき光景を見てしまったのだ!
それは、宇宙空間から生み出される様に連合の艦が移動してきた光景・・・トランスワープアウトの瞬間だった!
個艦のワープではない移動方法・・・トランスワープを同盟は知っていなかったのだ。
通常ワープでは航行する際、自艦のエネルギーは大量に消費してしまう。
そこで、補給が必要になってくるのだが・・・艦隊が大きいほど補給が不充分になりやすいのだ。
なぜなら補給艦艇が補給するのは戦闘艦艇だけではない、随伴する補給艦艇にも補給が必要になってくるからだ。
近距離なら自艦のエネルギーだけで行動できるものが、遠距離では補給艦を帯同し補給が必要になり、更には補給艦の為の補給艦が必要になってくるのである。
自己の推進方法しか持たないものの宿命とでもいうべきか。
補給艦の帯同が当たり前・・・そう考えていた艦長達にはトランスワープは脅威でしかなかったのである!
報告を聞いた同盟本部は混乱の渦に巻きこまれていった!

同盟は開戦以来連合内にいくつかの情報網を作り上げていた。
相手の経済・工業力を知らなければ、戦争遂行なんて出来るはずがないからだ。
正面の艦隊と戦っているだけで済むものではないからだ。
相手が経済などが劣っていれば、最悪消耗戦に無理やり引きずり込んで行けば勝てる。
だが、相手が勝っていたら?・・・相手が消耗戦をしかけてきたら?
戦場で勝ったといっても、全数無傷でなにも消費しなわけではない。
少なからず犠牲は出てしまうし、貴重な物資を消耗しているだろう。
その後に起きるであろう戦闘の準備が出来なければ、たとえ完勝してもそれは負けの始まりにしか過ぎないのだ。
同盟に対して連合が経済・工業において勝っている事を彼らは知っていた。
連合の領域の方が大きく、加入惑星が多い事から誰にでも判る事だろう。
だが大きい事は”他国”とも多く接しているという事でもある・・・”外縁”は領域が大きいほど増えるのだから。
優れた経済力で艦隊を揃えていても、警護の為艦隊が必要になって来る。
全艦隊を戦争で・・・戦場で使うわけには行かないのだ。
疲弊し戦力を失った時、今までなにもなかった国が戦争をしかけて来ないとは誰も言えないからだ。
人口辺りの保有戦力を判断した場合同盟・連合でも大差はなく、領域防衛戦力を考えると戦場では互角と結論されていた。
艦隊戦力を増強するには新造艦でしか行えず、移動するには広大な連合内部を航行しなければならずそれだけでの消耗してしまう。
同盟内での移動においても、少なくない艦艇が故障し事故で失われているのだから。
同盟は戦闘種族を多く抱えており古今の戦史に詳しい者が多く、十分な情報収集・研究が行われ連合との戦争は”勝算がある”と続けられていたのだ。
だが、新しいファクター・・・TS2の存在を知った彼らは、このままでは”戦争に負ける”と結論するしかなかった。
連合においてマイナスのファクターだった”広大な領域”が解消されていると判断したからである!

同盟では情報収集を強化し、新しい戦略を組み直した。
その結果、この”基地”は”トランススペース(TS)”と呼ばれる事、各地に数カ所存在しこの星系から主星までは存在しない事が確認された。
幾多のシュミレーションを実施し、戦略を練りなおして判断していく。
その結果、このTSを奪取する事が出来れば戦争に決着できると判断が成されたのである!
拮抗している艦隊戦力を増強し艦隊戦で勝利・TS奪取が出来るか、同盟では全領域で動き始めた。
同盟内の新造・旧式問わずに艦艇が集められ、増強艦隊が編成する事にした。
基地がなくても行動できる様に、通常の2倍近い民間船を徴用し”補給艦隊”をも編成することに国力を注いだのだ。
この”大艦隊”編成を連合情報員が捕らえていたのだった!
二つの国家の命運を決める戦いの序幕は今始まったのだ。

アイザックの目の前を新鋭艦が多くの光を放ちながら進んでいく。
同盟が一週間後に作戦を開始すると情報が入った事での発進だった。
予定だと発進した艦は4日後には目的の星系に辿り着き、集結をしている敵艦船に奇襲を行い多くの損害を与える事が出来るはずだ。
上手くすれば、敵の作戦を頓挫させる事も不可能ではないだろう。
だが、奇襲を掛ければ四隻の巡洋艦は恐らくは帰還する事が叶わない!
相手に作戦不能な損害を与えるには目標の艦船でも多過ぎ、一撃の奇襲ではそれが不可能だからだ!
少数艦での連続攻撃は敵による反撃を生み、生存する事すら難しいと思われてならないのだ。
アイザックはそんな危険な任務についた少数をただ見送るしか出来なかった。

「敵がいないだと!」目的の星系に着いた巡洋艦からは、驚くべき報告が入ってきた。
目的の星系外縁から後方に向かって航行している大規模な船団を見つけたと報告があったからだ。
敵の予想と違う行動に指揮官はすぐ目的の星系を探索し敵の所在不明を総司令部に報告したのだ。
「まさか!」参謀長は自分の討った手が遅れた事を感じ取り、展開している艦隊に後退を命じた。
「全艦隊をTS2近郊まで後退させろ!・・・敵の方が早い!」そう言いながら総司令に顔を向けると
「TS1防衛艦隊の出動を・・・このままでは・・・」そう言う参謀長に総司令は頷いて命令を発した。
「各TSに緊急連絡を!・・・ありったけの戦力を集めるんだ!」
参謀長の言葉にオペレーターが各TSに回線を繋ぎ命令を伝える。
「TS3より、2個宙雷戦隊を発進させたと報告です」「TS4、戦艦戦隊を発進・1個宙雷戦隊補給後発進との事です!」
「1個半の増援か・・・ぎりぎりかもしれんな」参謀長は腕を組みながら考え込んでいる。
「各工廠に!・・・行動可能な全艦をTS2に集結させるんだ!」参謀長の言葉はそのまま各工廠に飛んだ!
そしてそれはプレラット工廠も例外ではなかった。

「なんだ?」突然工廠に鳴り響いているサイレンにたくすは腰を浮かしていた。
緊急の場合直ぐに動きが出来る・・・軍人からのクセである。
「事故のサイレンではないですね・・・軍艦でも緊急入港したのじゃないですか?」たくすとは対称に、お茶をゆっくり飲んでいる副長。
「しかし、なにかあったら・・・」
「良いじゃないですか・・・今は軍属扱いの”民間人”です・・・のんびりしましょうよ」
「そうだな」たくすはそう言いながら冷めてしまったお茶を口にした。
「第135護衛部隊の乗員は至急第32ドックに!」威圧するようなサイレンに負けないほどの音でそんな放送が響き渡った。
「135護衛?」放送を聞いてたくすは考える様に素振りで副長を見返すと、副長は腰を上げていた。
「司令・・・135はウチの部隊です!・・・ドックに来いって言ってますよ」
「なんだっていうんだ?」副長の言葉にブツブツ言いながらたくすは腰を上げた。

「第135護衛のたくす中佐ですね?」立ち上がったのを待ち構えていたかのように、たくす達はそう声を掛けられた。
「そうだが?」そう答えながら振り向くと、大勢がたくす達を囲んでいた。
余りの事に何もいえないたくす達を囲ったまま、工廠内移動カーゴまで移動させていた。
「どういう事なんだ?」急な事に混乱していたたくすであったが、落ちつきを取り戻すと囲っている一人にそう言っていた。
「軍令部より・・・命令が届いております」無理やりに囲っているのだが、言葉使いは丁寧で命令書を読み上げていた。
そんな相手にたくすは何も言えなかった。
たくす達を乗せたカーゴはそのまま工廠を猛スピードで走ると目的にドックに辿り着いた。

「いったい何があるっていうんだ?」訳も説明されずに連れこまれた部下は、ドックの前でぶつくさ文句を言っている。
「さっきにサイレンといい、なにか問題でも起きたのか?」
「そうでしょうね・・・だいたい今は護衛部隊に所属されている我々を呼んだ事自体、異常というしかないですからね」たくすとは対称的に冷静な副長はそう言って辺りを観察していた。
「こちらへ・・・ビジフォンが繋がっています・・・」ドック脇のドアが開くと、たくす達は中に招き入れ、そこには軍上層部とおぼしき人物が立ってたくす達を見ていた。
「プレラット工廠あーくす大佐でちゅ」そう言いながら敬礼をこなす大佐。
「護衛135部隊たくすです」そう言いながら軍とは違い、普通に挨拶をして答える。
「軍令部より緊急電でちゅ・・・」大佐はそう言うとコンソールを操作し、司令部に回線を繋ぐ。
そこには顔色を失っていた参謀長が映し出されていた。

「久しぶりだね・・・たくす」参謀長はそう挨拶をしてたくす達をじっと見つめていた。
「ご無沙汰しております」隣の部下がそう答え、参謀長の顔が少し歪んでいる。
”ご無沙汰している”事になったのは、軍を首になったせいだからといいたいからである。
だが参謀長は直ぐに顔を変えると、たくすに向かい口を開いた。
「戦線が動いた!・・・敵の侵攻が始まったのだ」突然の参謀長の言葉に誰もが息を飲んだ!
退役したとはいえ、軍人であった彼らにはその”意味”がよく判ったからだ。
特に彼らはその戦場で戦い、誰よりも状況を肌で感じていたのである。
”戦線が動く”・・・これは連合戦力を知り尽くしているものにとっては、余りに聞きたくない話でしかないのだから。
たくすは静かに頷くと、参謀長に状況説明を求めていた。

「こっちでちゅ」説明を聞いたたくす達は、一緒にいたあーくすに連れられ工廠下層にあるドックに向かっていた。
そのドックでは建造中の大型護衛艦があり、それを戦場まで運んでほしいと要請があったからだ。
「でも、なぜ護衛艦を?」向かいながら誰もがその思いを捨てきれなかった。
護衛艦は名前の通り”護衛”の為の艦であり、それは元々海賊などから商船を守るもので戦闘を目的としているわけではないからだ。
商船と一緒に”居る”・・・それだけで、商船を海賊から防ぐ事が出きるからだ。
その戦闘力は艦隊型駆逐艦の半分程度のものでしかないし、商船の速度に合わせておりスピードも余り出ない。
艦隊戦力になるとは思えない艦・・・元々駆逐艦に乗っていた彼らには護衛艦とはそういう認識でしかなかったのだ。
しかし、戦力を集中しなければならない認識から彼らはその”任務”を引き受けたのだ!
「ここちゅ」あーくすは辿り着いたドアを開けながらそう言う。
たくす達はあーくすの後について中に入っていった。
そこは真新しい艦が8隻横たわっていた。

「これが!」艦を見上げながら驚き声を上げているたくす達。
「そうでちゅ・・・やっと完成したNX1039型でちゅ・・・」あーくすの隣にいつのまにか立って居たプレラット技師は呟いていた。
「・・・これが護衛艦なのか?・・・」艦を見上げて驚きをそのまま口にしている。
護衛艦に乗っていた彼らはそこに艦隊用と思えるほどの砲身・砲座に驚いていたのだ。
「量産中の護衛艦を拡大・改良したものでちゅ、スマートとは言えないでちゅが・・・今ある工廠中の艦では最高の戦闘力でちゅ」
「しかし・・・どうしてこんな艦が?」
「戦争が始まって以来、多くの船を沈められたでちゅ」その技師はそう言いながら艦にそっと手を添えた。
「先日の護衛戦でも、護衛艦ではなにも出来なかったでちゅね?」
「まあ、確かにそうだが」
「この艦はそう言った通商破壊からも”護衛”出来る艦として造ったでちゅ」
「なるほど」たくすはそう呟きながら艦にそっと手を触れていた。

「今乗っている護衛艦を強化した艦なら、十分に役に立つだろう」
「ですね・・・あの戦闘だって火力さえあれば、敵の艦を叩けたでしょうし」
「あぁ・・・あれだけ堅牢な艦がベースならな」
「そういって貰えると嬉しいでちゅ」いきなり話を聞いていたプレラット技師が照れながら呟いていた。
「え?」驚いて彼を見つめるたくす達。
「あれはわたちの理想とした艦だったでちゅから」
「じゃああの艦は君が?・・・じゃあ貴方がちゃくる大尉?」その言葉にプレラット技師・・・ちゃくるは頷いた。

慌しくエネルギーを補給すると、一通りの説明を受けた。
「ですが・・・大尉・・・」たくすは説明を受け、仕様書を首を傾げながら呟く。
「確かに・・・仕様ではそうなのですが・・・ホントに大丈夫なんですか?」
「なにがでちゅ?」
「一艦平均で6名ですよ?・・・いくら運送だけとは言え・・・」
「これは護衛艦をベースだと言ったでちゅね・・・中佐」
「えぇ・・・そうですが・・・」いきなりそう呼ばれ戸惑うたくす。
「護衛艦は”在る”ことが大事でちゅ・・・”動ける”ことが大事なんでちゅ」
「ふむ」
「ですから、その人数でも動かせる様に考えたんでちゅ」ちゃくるの言葉にたくすは頷いた。
エネルギーの補給を確認するとたくすはちゃくるに敬礼をして艦に乗りこんだ。

「中佐・・・予定通り先行しているアイザック艦隊と合流出来そうですね」隣で航法を見ていた部下がそう言っている。
「そうだな・・・この調子なら現在急行している他の艦に遅れずに合流できるな」
「予定会合地点まで後20分・・・そろそろアイザック艦隊が確認できるかと・・・」
「そうか・・・これで戦力の”足し”になればいいのだか・・・」
「中佐・・・こちらに来てくれませんか?」そう言ってモニターを見つめている部下がそう言ってたくすを呼んだ。
「艦隊が確認できたのか?・・・予定よりも早いのだが・・・」
たくすが時計に目を向けると、到着予定よりほんの少し早いだけだったからである。
「えぇ・・・前方にアイザック艦隊を確認したのですが・・・それとは別にこれが・・・」そう言ってモニターで輝いている2つの輝点を指差した。
「前方の輝点は敵の艦隊だろう・・・アイザックの艦隊は後退しながら時間を稼いで集結をはかる筈だからな・・・」モニターに目を向けながらたくすは腕を組んでいた。
「するとこれはいったい?」
「敵の侵攻が予想より早かったという事なのだろう」
「では、我々もこのまま戦闘に加わりますか?」
「いや、我々が加わってもアイザックの指揮を混乱させるだけだろう・・・我々は当初の予定通り、他の艦との合流を急ごう」
「ですが・・・敵艦隊の戦力はアイザック艦隊よりも・・・」
「その点は問題ないだろう・・・アイザック艦隊は合流までの時間稼ぎに徹しているし、アイザックが指揮を間違えるとも思えない・・・」
たくすはそう答えながらも、どこかで不安になっている自分に驚いていた。
最初の指示では合流後に敵と当たるはずだったからだ・・・アイザックも当然その計画で動いていたはず。
・・・まさか、我々が”整えた戦力”を敵が判っているとしたら・・・
・・・分散している戦力なら各個撃破されるだけだ・・・
たくすの心に一抹の不安が過っていった中、確認をしていた部下がモニターを見て叫んでいた。
「中佐・・・高エネルギー反応確認!・・・アイザック艦隊、敵と交戦を開始した模様です」
「始まったか」たくすはそう呟くとモニターを見上げた。

連合の艦隊を示す図形が三つ、同盟のものが五つ、モニターに映されている。
互いに牽制し合い、有利な状況を作り出そうと艦隊が生き物の様に動き、モニターにその軌跡を残していく。
敵艦隊は五つの艦隊を活用して、アイザック艦隊を包囲しようと動いているのだが、アイザックは時折効果的に反撃をするらしく、敵の包囲を防いでいる。
アイザックは艦隊数の少ない事を逆に活かし、機動防御に徹しているらしかった。
その為、戦線は動きを見せないまま、たくす達に近付いていた。
・・・このまま戦場に突入しなければならないかも知れないな・・・たくすは今の艦が有効な戦力になり得ない事を知りながらも、そんな考えが浮かんできていた。


「司令!左舷にエネルギー反応!・・・高速でアイザック艦隊に向かっています」
「なんだと!」たくすはモニターを見上げ、言っているものを探した。
確かに輝点が一つ、アイザック艦隊に向かっているのが判る。
・・・この艦隊はいったい・・・たくすは腕を組んで考えると、部下に目を向け
「なにで探知したのか?」と、聞き返していた。
「亜空間振動探知でです・・・この艦隊は超空間レーダーを使用していない様で、逆探には引っ掛かりませんでした」
「そうか」部下の答えにまた腕を組んだ考え込むたくす。
戦況が五分で推移して予定の増援を見込める今、味方なら索敵レーダーを使用しても問題は無いはずだったからだ。
敵に知らせる事で動揺を誘い更に有利な状況にしていく事も出来る。
しかし、気付かれずに奇襲をかけ、戦況を決定づける可能性も否定は出来ない。
たくすは輝点をじっと見つめていた。
「サブにも状況を映してくれ」たくすはそう言うと、椅子に座ってじっとその輝点を見つめていた。
側方より艦隊に迫っている輝点。
速度はそれほどではないものの、アイザック・同盟共に探知していたのか、艦隊に変化はない。
・・・この輝点、どちらのものなんだ?・・・たくすはその輝点の動きに、そんな事を考えだしていた。
輝点は左右に振れて動き、どちらとも奇襲を行う用に見えるのだ。
その動きは艦を動かすときの癖というべきなのだろう・・・特徴のある動きを見せ、確実に近付いていた。
・・・この動きどこかで・・・たくすはなにか引っ掛かるものをそれより感じていた。

艦を人が動かす以上、固有の動きを見せる。
それは艦の数が増え、艦隊になっても変わる事は無い。
アイザックにはアイザック固有の、たくすにはたくす固有の動きがあるのだ。
だから艦名が判らなくても、その機動により艦長・指揮官が判るのである。
有能と言われる指揮官はそれより敵を判断し対応するのである。
たくすは記憶からその”輝点の持ち主”を思い出そうとしていた。

・・・間違いなく同じような動きを見た記憶が・・・たくすは目を閉じ、参加した戦闘を思い浮べていた。
同盟艦艇と初めて戦闘を行った緒戦。
半数の被害を出しながら、敵艦艇を全滅させた追撃戦。
戦艦2隻を沈めた防衛戦。
記憶を探りながら輝点と同じ動きをするものを思い出そうとしているたくす。
だが、それらの戦いに該当するものは無かった。

「記憶違いか?」思い出せずにそんな事を呟いてしまうと
「なにか気になる事でも?」部下はそう言ってきた。
「いや・・・こいつの動き見た覚えがあると思ったんだが・・・」
「記憶バンクに照合させますか?」そう言ってコンソールを叩き、回線を繋げていく。
「そこまでする事も無いだろうけど・・・」たくすはそう言いながらふと気になる事があった。
前回の戦いの記録をまだ確認していなかった事に気付いたのである。
あの時は戦闘直後に解任を受けた為に、俯瞰からの動きを見ていなかったのだ。
今とは違う角度から見ていた事を思い出し、モニターの映っている状況を変えるように指示を出した。
「脇のモニターに映し出します」部下はそう言って、確認状況に手を加えたものを脇にあるモニターに映し出した。
「どれどれ・・・・」たくすはそう言いながら脇のモニターに顔を向ける。
「・・・これは!・・・」たくすはモニターを見て拳を握り締めると
「全艦最大戦速!」と、受信マイクが壊れるくらい大きな声で叫んでいた。
「どうしたんですか?」受けた指示を行いながら突然の事に戸惑って聞き返す部下達。
「前回の海戦にいたやつらだ」たくすはそう言って輝点を指差した。
「敵ですか?」驚いて聞き返す部下に、大きく頷き答えるたくす。
「では、アイザック艦隊に至急連絡を」そう言ってマイクを持つ部下を
「だめだ、前方の敵と交戦中だ・・・廻す戦力など無い!」と、止めた。
「しかし、このままでは奇襲を受けアイザック艦隊が負けてしまうかもしれません!」
「敵を止める事が出来ないならな」たくすは不敵な笑みを浮かべた。
「”司令”・・・まさか・・・」
「”この艦隊”を敵は気付いていない・・・こちらが奇襲を掛ける事が出来るんだ!」
「しかし、本艦・・いや全艦には輸送の為の我々しか乗っていません・・・」そう言ってたくすを見つめる。
「敵と交戦するには・・・」艦橋にいる人を振りかえって躊躇いがちに呟いた。
「それは・・・問題ではない」たくすはそう言い、言い返してきた部下の肩に手をおいた。
「アイザック艦隊を奇襲から防げるのは・・・今”我々”以外にいないという事実だけだよ」たくすはそう言い
「敵艦隊側方左舷に進出!・・・それより最大戦速で敵に突撃する!」と全艦に”下命”していた。

宇宙に光を吐き出し、疾走して行く8隻の戦闘艦!
「全艦、突撃体形A・・一撃で先頭艦を叩くんだ!」たくすはそう言うと、自分は予備の航法席に座った。
ここなら全艦の動きが報告を受けなくても判るからだ。
「敵判明・・・巡洋4駆逐16!・・・敵は宙雷戦隊と思われます!」
たくすは報告を聞きながら頷く。
「全艦光子魚雷を・・・先頭の巡洋1、2番艦に照準しろ」
「司令・・・本艦、いや全艦には各2本の実用魚雷しか搭載されていません・・・今使うのはどうかと・・・」
「どういうことなんだ?」
「合流後に補給を受ける予定だった事と、工廠にも魚雷が無かったためです」その言葉にたくすは何かを考える素振りをしたが、直ぐに1本の装填を命じた。
「空砲だって使い道はある・・・敵がそれを気付かない限りはな」そう言って不敵な笑みを浮かべた。
「1番から4番は右舷を、5番以降は左舷艦を狙え」
「各艦より装填完了・・・発射旗艦に同調・・・司令!」
「全艦発射!」たくすがそう呟き、各艦から光子魚雷が発射された。
後に、この戦争を決めたといわれる一つの戦いが始まったのである。

放たれた8発の光子魚雷は敵に向かって進んでいく!
「照準はやや左にずれています・・・狙った敵より後方に全弾が流れ・・・」
部下が報告をしている最中、モニターが白濁した!
「敵3,4番艦及び駆逐2に直撃・・・敵は爆沈!」
状況を確認していた部下がそう叫び、爆沈した艦を避けようとしている敵艦隊が映し出される。
「やった!」叫び声と同時に浮かれた雰囲気が艦橋に広まっていく。
「偶然だ落ちつけ!・・・全艦に発令、FCS照準誤差を修正、フェザーにエネルギー充填しておけ・・・これからが本番だぞ」たくすは落ちついた声で指令を発し、艦橋の雰囲気を引き締める。
「艦の減った右舷に攻撃を集中・・・フェザー8線を収束して敵を叩くんだ!」
たくすの言葉に全艦が一斉に発砲した!

突然の味方の爆発!・・・それに敵が慌てたのか艦隊を崩して機動をしている。
混乱した敵は撃破するのが容易いはずであったが、必殺のフェザーは敵に触れる事はなかった。
「「「そんな!」」」撃ったたくす達は信じられない気持ちになっていた。
光子魚雷に合わせて修正を行ったはずだから、敵をさっきと同じ位は叩けるつもりだったのだ。
的外れな反撃に敵は艦艇を纏めると、反撃を開始した。
「敵、密集隊形で突っ込んできます!」それをスクリーンで見ていた部下がそう言って叫んでいる。
「今の攻撃で叩けなかったのは何故だ?」
「フェザーが設定照準に向いていません・・・砲撃は散布の限界を超え、有効な攻撃とは・・・」
「ちぃ・・・FCSではなかったのか・・・」吐き出す様に言ってたくすは敵艦に目を向ける。
「全艦密集!・・・敵の砲撃に備えろ!」たくすの言葉と一緒に敵の砲撃が襲ってきた。
こちらの攻撃とは段違いの精度を持って集中豪雨のようなフェザーを浴びせてくる。
「くぅ」白濁するシールドにたくすは口から漏らすだけだった。

全艦を高速移動させ、敵の砲火を交わすたくす。
だが敵は、反転してもう一度射線に乗せようとしている。
「FCS・・・調整終了・・・今度は外さない」そう言ってトリガーに手を掛ける部下。
「待て!」そう言って部下を止めると、たくすは全艦の回線を開いた。
「全艦・・・敵を外して撃て」
「「「なんですって?」」」
「そうだ・・・僅かに外して撃つんだ」
驚いてたくすを見つめる彼ら!
だが、見上げたたくすの顔を見て頷くと、敵に対して撃ちはじめる。
しかも有効射程”外”から・・・
正確に敵を外して通過するフェザー・・・その上、当たっても効果などない!
敵は体制を立て直し、二組の3隻の集団になって突き進んでくる。
そして、フェザーを余裕で交わしながら進んでくる。
「そのまま外して撃ちまくるんだ」
たくすはそう言いながら敵の動きを見ながら何かを計っている。
敵は”偶然”な着弾に備えて密集し、どんどん近付いてくる。
そして、敵は”完全に外さない距離”まで発砲しないで近付いていた。

「ふっ、過信し過ぎだな、自分の判断を・・・」たくすはそう呟くと全艦に発砲を指示した。
空間を白く染め、敵に向かって伸びていくフェザー!
敵艦の艦長はそれを確認し笑いながら発砲の指示を出した。
だが、敵のフェザーが光る事は無かった!
敵艦より早く、たくす達のフェザーが撃ち抜いていたからだ!
僚艦の爆発に驚き、動作が乱れる同盟艦。
「判らない様だな」そう呟くたくすの艦を僚艦のフェザーが通過していく。
8条のフェザーは相互防御シールドからはみ出していた敵艦を撃ち抜く。
爆発し四散する敵艦。
突然優位を失った敵は、小さく2隻が固まって反転していく。
「2隻ずつで防げるのか?」たくすは敵の動きに口元を歪ませ腕を振り下ろす。
艦が震え、敵にフェザーが向かって伸びていく。
そして、敵艦を白く染め蒸発させていた。

「司令・・・敵は回頭してこちらに向かってきます!」
「よし・・・このまま味方がアイザックに合流するまで引きつけるぞ」
「司令は最初からそのつもりで・・・」
「そうだよ・・・味方が合流するまで、これ以上アイザックに負担をかけるわけには行かないからな」そう呟くたくすに艦橋にいた部下は頷いた。
戦力が比較出来ない程に差・・・倍する敵に戦いを始めたのは撃滅ではなかったと知ったためだ。

「敵は2つに分散・・・こちらを包囲するつもりの様です!」
残っていた敵は元の配置なのだろうか、巡洋艦を中心に駆逐艦が廻りを囲んでいる。
「右翼に巡洋1駆逐8、左翼同じく巡洋1駆逐3です」
「元の宙雷戦隊に組替えたか?」
「その可能性は大きいですね」モニターを見ていた部下が付け加える様に言う。
「左翼と右翼では展開の速度に差がありました・・・恐らくは訓練での違いなんだと思います」
「ふむ」たくすも同じ事を見て取っていたのか、部下の言葉に頷く。
「よし、敵左翼に攻撃を集中する・・・陣形を固めろ」
たくすはモニターを見ながら指示を出していく。
「まずは最端の艦だ・・・フェザー準備」そう言い敵の動向を見ていると、こちらに対応するかのように陣形を変えていた。
「・・・多数の方が動きが良い、こっちを包む動きだ・・・」不意にたくすは独り言を言い、自分の言っている言葉に混乱しかけていた。
・・・というか、少ないほうが動きが遅い、まるで撃たれる事を知っているように・・・
そんな想いが浮かんでいた。
・・・まさか?・・・モニターを見つめると敵は密集体形に陣形を固めている。
「全艦、模擬魚雷装填し”外して”撃つんだ!」そう叫ぶと急速回頭を命じた。
「司令・・・模擬弾、それを外せだなんていったい・・・」
「敵右翼・・・恐らくは駆逐艦が・・・」そう答えるたくすの目には、右翼から飛び出してきた駆逐艦4隻が映っていた。
・・・思いの外、敵の動きが速い・・・そう感じ取ったたくすは5番艦に回線を繋いだ。
「副長・・・5から8の4隻を取りまとめて密集で砲撃をしてくれ・・・私は4隻で敵を引きつける」
突然の事に副長は驚いたが、反論を許さない雰囲気に頷いて答えた。

敵にしてみれば、弱いほうに攻撃を集中している所を襲いかかるはずだったのだろう。
急速に反転してきた敵・・・連合艦艇に動揺してしまった。
それでも、覆う様に襲いかかってくる4隻の連合艦艇に、適時火力で迎え撃ち包囲されるのを防いだ。
そのまま紡錘形に陣形を変え、中央の1隻に火力を集中して撃破するように機動している。
だが、それを予想していた連合4隻は2隻ずつに判れ中央を空けた。
同盟に一瞬、どちらを叩くかの戸惑いが生じ、動きが止まった。
そこに5番艦以下4隻がより密集した陣形で突っ込んでいく!
慌てて砲火を集中する敵!
だが、その集中砲火を上回るシールドの集中に、同盟の攻撃はなんの効果もあげてはいなかった。
止まらない連合艦艇にただ闇雲に砲火を集中しているだけの同盟艦艇。
だが、それこそたくすの望んだ瞬間でもあったのだ!
「・・・敵を上下より挟撃する!・・・」たくすは指示を出し、分散した2艦ずつで敵に上下からフェザーを浴びせていく。
「敵1,2番沈黙・・・3番大破4番爆発!」
正面の攻撃にシールド集中していた敵艦は、フェザーに切り裂かれ沈黙していった。
・・・このまま上手く行けば・・・たくすがそう考えた時、巡洋艦のフェザーが乗艦を捕らえていた!

響き渡る警報と爆発音!
「くぅ、右半分を持っていかれたか!」赤く染まったモニターを見ながらたくすは呟いた。
「右エンジンレッド!・・・緊急放出!」脇で状態を確認した部下がそう言って右エンジンを切り離した。
直後に艦を大きい揺れが襲う!
切り離したエンジンがそれほど離れていない所で爆発したのだ!
「ぎりぎり助かったか・・・」エンジンの破片を見て呟くと、今度はカーゴルームをフェザーが通過していく。
「ちぃ」口を歪ませ、敵の艦隊を睨むたくす。
「他の艦は?」
「本艦と2番艦を狙った様です・・・2番艦は本艦の陰で直撃を免れています」
「そうか・・・幸いというべきだな」たくすはモニターに手を置き、状況を映し出す。
そこには反転していく敵駆逐艦7隻と留まっている巡洋艦2隻が映される。
・・・敵は我々を巡洋で留めるつもりなのか・・・たくすの脳裏には敵の作戦が正確に描かれていた。

小細工無しの火力を集中してくる敵に、シールドを重ね対抗するのが精一杯な状況!
近付くと遠ざかり離れると近付く。
敵は完全に時間稼ぎに徹し、分派した駆逐艦を目的通りにアイザック艦隊に突入させるつもりなのだ。
・・・・少数が決定戦力になるほど拮抗しているのか・・・たくすは敵の動きにそう考えるしかなかった。
しかし、たくすの艦には動力が残っていなかった。
リアクターを破壊され敵に近付く事が出来ないのだ。
それどころか艦がいつ爆発四散してもおかしくないまでに破壊されていたのだ。
一部が爆発し、ふいに動きを変え壁に肩をぶつけるたくす。
ふらつき迷走している乗艦のメインコンピューターに、たくすは指令を出し始めた。
いくつかのキーを叩き、目的の場所を指示するたくす。

「司令・・・艦が持ちません!・・・早く退艦してください」部下はそう言ってパネルを操作している。
「君こそ早く退艦しろ」
「ダメです!・・・転送装置を維持しているのは私なんですから」部下はそう言って笑うとたくすは苦笑いした。
「司令は最後まで指揮をとってくれないと」
「判った・・・先に行くから・・・」そう言い転送装置に入ってたくすはボタンを押した。
「じゃあ5番艦で待っているからな」
「判りました・・・すぐに行きますよ」
部下はたくすが消えた事を確認して、残っていた全員を5番艦に転送した。
だが、たくすは5番艦にはいなかったのだ。
「司令は?」転送してきた部下に副長が声をかけた。
「え?」驚いて聞き返す部下達。
「先にこちらに来ているはずです・・・我々より先に転送したのですから」
「ばかな!・・・司令は来てはいないぞ」
言い争いをしながら、ふと副長は1番艦に目を向けた。
そこにたくすがいる気がしたからだ。
「「「まさか」」」
迷走している1番艦に大きな爆発が起きると、その艦首は敵巡洋艦を向いていた。
・・・偶然なのか?・・・そんな事を思って見ている副長達。
だが1番艦は発射口を開けると敵に向かって光子魚雷を発射した!

爆発し迷走している艦に残っていたたくすは、残存兵器である光子魚雷・・・模擬弾を含め5本を発射管に装填していた。
艦橋なら模擬弾でも十分な損害を与えられると判断したからだ。
その為には至近距離まで近付かなければならない。
そう考えたからこそ、爆発直前で”敵の攻撃を受けないであろう”1番艦に乗っていたのだ。
離れていく僚艦に敬礼をしながら、たくすは制御装置を動かした。
艦首に取り付けてあった爆薬が爆発し、揺れながら迷走していた艦を止めた。
そしてゆっくり開いていく発射管。
「・・・後を頼む・・・」たくすは呟き、静かに発射スイッチを押したのだ。

「「「!」」」1番艦が光子魚雷を発射するのを見て、副長達は全てを悟った!
あの爆発している艦にたくすが残っていた事に・・・敵巡洋艦を叩く唯一のチャンスに光子魚雷を使う為に!
「「「司令・・・」」」誰も見ている前でたくすの艦に敵の砲火が集中した。
一瞬で艦体を貫き爆発し光に包まれる1番艦。
そして、光が消えた後には破片すら残ってはいなかった。
だが、たくすの意思を受け継いだ5発の魚雷は、迷うことなく敵艦を貫いていた。
模擬弾とはいえ4発を艦橋に受けた敵艦は砲火がばらばらになり、一方光子魚雷の直撃を機関部に受けた艦は全てが沈黙してしまったのだ!
「「「司令!!!」」」泣き叫ぶ声が艦橋を覆い尽くし、誰もが失ったものの大きさを感じていた!

「全艦・・・光子魚雷の・・・」・・・破口に・・・副長がそう言う前に、全艦の砲火がたくすの作った破口にフェザーを集中させていた!
弱い所を叩く!・・・全員が忠実にそのセオリーに従っていたのだ。
たくすの弔いの意思もあったのかもしれない。
全員の意思が艦を敵に向かって突進させ、無謀と思える至近距離からフェザーを発射したのだ!
破口に降り注ぐフェザーの豪雨!
装甲を引き裂き、内部を蒸発させていく。
そして、内部に爆発が発生した。
内部から光が漏れ、内側から吹き飛んでいく巡洋艦。
「全艦離脱!・・・このまま残りを叩きのめす!」もう爆発間違いのない巡洋艦は放置して、副長は駆逐艦を追撃するために指示を出していた。
「副長・・・このままでは機関が持ちません!」機関を確認していた部下が振り向きながらそう副長に言っている。
「これ以上速度を上げると艦自体行動不能になりかねません!」
「それがなんだというのだ?」副長は響くような声で呟いた。
その言葉に全員の視線が副長に集まっていた・・・いや、艦内だけでなく全艦がモニターを通じて副長を見ていたのだ。

「この艦は確かに十分なほど戦った・・・これほど戦果を上げた艦もそうは無いだろう・・・」副長はそう言ってモニターを指差した。
そこは残骸すら残ってはいない、一番艦が最後に存在した場所だった。
「司令はなぜ、一番艦に残っていたんだ?」その言葉に何も返せないでいる部下。
「・・・十分戦ったのに、もう動くことすら出来ないのにだ!」パネルと叩きつけ部下を睨んでいる。
「俺達があの敵を叩くと信じたからじゃないのか?」
「俺は司令のように、最後まで戦う!」そう言って椅子に座ると手を振り下ろした。
それを待っていたかのように、全艦が眩い光を出しながら速度を上げ追撃の為に動き始めた。
「司令・・・貴方の意思は必ず・・・」副長は離れていく残骸に向かって敬礼をしていた。

「前方に反応!・・・敵艦です!」監視システムを見つめていたオペレーターが副長に報告をする。
副長たちはアイザック艦隊の前で敵残存駆逐艦を捕らえたのだ。
副長たちに慌てて光子魚雷をアイザック艦隊に向かって撃つ敵駆逐艦。
「遠いな・・・かなり混乱しているようだ」副長はそう独り言を言うと、全艦を密集させたまま敵駆逐艦に向かって突っ込んでいく!
前方をアイザック艦隊に塞がれた敵は慌てて反転し始めたが、副長達はその前にフェザーの射程まで接近していた。
「撃て!」短い命令に各艦が反応し、フェザーを叩きつけていく!
集中されたフェザーは敵の半数を爆発させ、残存艦をバラバラにしてしまっていた。
「2番から4番は左を・・・残りは俺について来い」副長はマイクを取り命令を出すと、残った敵を包囲して殲滅していた。

・・・やつらの本隊は・・・敵を殲滅した副長は改めてモニターに目を向けた。
略式記号で映されたそこには、アイザック艦隊の正面に位置している5個艦隊が映っていた。
防衛を行っているアイザックの3個艦隊とぶつかり合い、激しい砲撃戦を行っている様子が映し出されていた。
「・・・こいつらさえ来なければ・・・」副長の言葉に誰もが頷き、全艦が弧を描き敵に向かって変針していった。
誰しも司令の仇を見つけた今、殴りかかろうとしていたのだ!
「行くぞ!」迷いのない声で副長が呟くと敵に向かって突撃を開始した!
アイザック艦隊に正対していた敵艦隊は、天井方向よりの急襲をかけた副長達に対応が遅れた。
味方が連合の艦隊に奇襲を掛けるつもりだった為に、戦場全域に広いジャミングを掛けていた事が災いしてしまったのだ!
副長達の艦は、フェザーの砲身が赤く変わりながらも砲撃を止めなかった。
前方にいるのが全て敵であるのだから止める必要などないのだ。
余りに多い敵に目標など合わせずにフェザーのエネルギー充填をして直ぐに発射し続け、敵艦隊を一気に下まで突き抜けていった。
その後方では数艦が火を吹き、その数倍が装甲に傷を負い、戦線から脱落していく。
敵艦隊は副長達の攻撃で隊列を乱し、混乱が広がっていった!
その混乱で正面火力の減少したことに乗じて、アイザックは豪雨のような砲火を叩き付け、敵艦隊を切り崩しはじめた。
拮抗していた戦力が崩れたとの判断から、アイザックは反撃を始めたのだ。

「回頭!もう一撃を掛けるぞ!」副長がそう指令を出すと、艦は揺れ副長は慌てて椅子で体を支える事になってしまった。
「どうしたんだ?」
「艦重力制御に異常が見られます・・・急速回頭は危険です」
「ちぃ」副長は苛立ちを口にしながら僚艦に目を向けると、一瞬自分の目を疑っていた!
その艦のスラスターは形が判らないほどに破壊されふらつきながら随伴しているのだ。
別な艦は、砲身が焼け落ち戦闘力があるのか怪しいままで追従している。
全艦がもう戦闘力が枯渇していたのだ。
だがそれでも、一人として離脱を考えていなかった。

「・・・もう一撃だ!・・・」回頭が終り反転した副長達は突き上げる様に敵艦隊に突っ込んでいく。
半分なまでに減少したフェザーだったが一点に集弾し敵を破壊し、敵からは数倍のフェザーが降り注いで、同行していた艦を傷つけていく!
「全艦密集崩すな!エネルギーをシールドに」やもすると、接触して事故を起こしそうな距離を保ったまま、敵艦隊の中央を突き進んでいた!
「3番艦砲塔損壊、7番艦フェザー焼失!」僅かに残っていた火力が段々と失われていく。
・・・ここまでか・・・副長はモニターを見つめながらそんな考えが浮かんだとき、敵中央に見た事のない大型艦の存在を認めた。
「敵の旗艦か?」
「判りません・・・しかしあれがそうなら・・・」
「全砲門照準合わせ!光子魚雷全弾装填!・・・全てを叩きつけろ!!!」副長はそう指示し、全艦は密集したまま敵大型艦に近付いていく。
そんな突撃してくる副長達を脅威に思ったのか、敵艦からは今まで以上にフェザーが降り注いでくる!
「2番艦フェザー消失、6番艦右舷スラスター破損脱落・・・」豪雨のような反撃に全艦が傷つき多くのフェザーは沈黙していた。
だが傷つきながらも全艦は突撃が衰えずに、残っていたフェザー・光子魚雷の照準を合わせていった。
そして全艦が全てのフェザー・光子魚雷を発射した!
副長達が狙った艦、それは敵の旗艦ではなく新型の輸送艦であった。
それを知ったら副長達は悔しがったかもしれない。
だが、副長達がこの艦を攻撃した事がこの戦いを決める事になっていった。

至近距離から放たれたフェザー・光子魚雷を敵艦が交わす時間など存在しない。
全てのフェザー・光子魚雷が目標の艦の腹部に纏まって襲いかかったのだ!
敵艦の腹部に広がっていく白い光・・・フェザーと光子魚雷のエネルギーがそのまま敵艦のシールドに襲い掛かり剥ぎ取っていく!
莫大なエネルギーにシールドは瞬時に崩壊し、艦の地肌・・・装甲が剥き出しになってしまった。
敵艦は新型艦だったせいか、それまでの攻撃をシールドの崩壊”だけ”で耐えていた・・・しかし、そのタイミングで着弾した”模擬弾”には耐えられなかった!
模擬弾・・・爆発することのない練習用の光子魚雷であったのだが、質量は軽く1tを超え超光速!で突き進んでくる・・・それだけに運動エネルギー兵器としての力は凶悪であった。
地表に着弾したなら軽く2000Mを超えるクレーターを作った事だろう!その”豪腕”を叩きつけられ、装甲を徐々に歪ませていく。
それでも1発ならばしのいだであろうが、これを最後とばかりに全弾を集中され装甲はとうとう耐えきれず亀裂を生じさせた。
その僅かな亀裂に数本の模擬弾が着弾しその凶悪な”力”を秘めたまま内部奥深くに入り込んでいった。

通常の光子魚雷は、衝突した際に持っているエネルギーを開放し敵を破壊する。
その圧倒的なエネルギーにより大多数の艦は戦闘不能になるのだが、表面での開放の為に大型艦の場合は内部にまで影響が及ぶ事が少ない。
重層化された装甲で内部の影響を押さえている為である。
だが、着弾したのは模擬弾であった。
衝突しても爆発しない為に、外部に比べ薄い装甲を食い破って内部を突き進んでいたのだ。
それは艦の中心まで突き進み、連合艦艇に叩きつけられる予定であった光子魚雷を爆発させる事になったのだ!
搭載していた数百本の光子魚雷の誘爆!・・・それは連合の攻撃を”子供のいたずら”程度にしか思えないほどの破壊を同盟に振り撒くことになった!
そしてそれは同盟にとって最悪の結果を招いていた。

密集していた艦隊の中心で起きたそれは、巨大な”死神の刃”となって廻りの艦に襲いかかっていた。
強大なエネルギー波に小型艦は耐えきれずに爆発し、”砲弾”と化した破片が大型艦をも突き破り破壊していく。
爆発した艦は死神の”シモベ”と変わり、更に多くの艦を死の世界に誘っていく!
誰しも理解できないままに艦の爆発連鎖は続き、瞬く間に艦隊はその戦力を消失していた。

副長たちの艦は敵艦隊を駆け抜けた時、突然艦全体を揺さぶられていた・・・敵艦隊の爆発の余波を受けたのだ。
「何事だ?」
「敵艦隊にて爆発!・・・その衝撃波で艦が!」姿勢をコントロールしていた部下が、パネルを操作しながら叫んだ。
「左エンジン加熱!・・・コイルに損傷しています」
「くそ・・・戦速維持はダ・・・」モニターに顔を向けた副長は言いかけた言葉を続ける事は出来なかった。
5個あったはずの敵艦隊・・・その中央1個艦隊が消失していたからだ。
「何があったというのだ?」副長達は突然消え去った敵艦隊に混乱していた。
しかし敵の混乱はそれどころの比ではなかったのだ!

突然の爆発により1個艦隊が消失したが、それ以上に指揮系統が失われたのだ!
混乱に拍車が掛かり、戦闘状況がまるでの把握が出来なくなり個艦で戦うしかない状況に追いこまれてしまったのだ。
戦隊単位の指揮系統は生きてはいたが、それでも混乱させる情報しかながれずに意味を失っていた。
まだ連合に対して有効な戦力を持っているはずが、情報に欠落混乱により子犬程度の反撃力にまで低下していたのだ。
混乱に乗じてアイザックは艦隊を全面攻勢に切替え敵を切り反撃を開始した。
統制され集団で襲い掛かる連合!・・・対称的に効果的な反撃の出来ない同盟。
先ほどまでの勢いはもうどこにもなく、同盟は戦線を崩壊させ”狩り取られる”のをまつだけの獲物になっていた。
残っていた4個艦隊は今までのうっぷんをはらすかのようなアイザック艦隊の攻撃の前に半数の艦艇を失い包囲され降伏した。

塗装が剥げ落ち、ボロボロになった艦を操艦して、目的にアイザック艦隊に合流を果たした副長たち。
どう考えても使え物になるか怪しい”それ”を見た参謀達は、そのまま追い返そうとした。
「たくす中佐はどうしたんだ?」アイザックは報告すべき人物がいない事に、副長に話し掛けた。
「中佐は敵宙雷戦隊との戦闘で戦死されました」赤い目で答える副長。
「なんだと?」驚くアイザックに副長は今までの事を報告した。
全ての報告を聞き目を閉じるアイザックと参謀達。
「2個宙雷戦隊か・・・君達がいなかったら危ない所だったというわけだな・・・」目を押さえ呟くアイザックに副長は頷いた。
「中佐は・・・敵の宙雷戦隊を押さえようとしておりましたが、戦力の違いにとうとう・・・」
「ご苦労だった」アイザックはそう呟くと、副長たちに後方に戻る輸送艦に乗るように告げた。
副長は戦闘データをアイザック艦隊参謀に渡すと、7隻の乗員を集め輸送艦に乗りこみ、乗艦を置いてあるプレラットに向かった。
その途中誰もが口を貝の様に閉じていた。

プレラット工廠に着いた副長達をちゃくるは出迎えていた。
既に戦闘の報告はここにも届いており、帰還を聞いて設計部からそのまま来たのであった。
戦闘を勝利に導いた英雄・・・のはずだが、ちゃくるには敗残した兵士にしか見えなかった。
「たくす中佐は?」艦を降りて来る副長達に見てちゃくるは話し掛けていた。
その問いに誰もが答えられず、ただ俯いたままでいた。
「・・・そうでちゅか・・・」軍人として、その静寂が何を意味するのかちゃくるには判った。

「ぼくの造った艦のせいなんでちゅね」肩を落としながら呟くちゃくる。
「護衛艦しか造ったことないでちゅね・・・この艦が出来ていれば中佐だって・・・」ちゃくるは手にしていたICカードを握りながらそう呟いていた。
そんなちゅくるの大きな目からは悔やんでいるのか、涙が溢れ手は震えていた。
「違いますよ・・・大尉」最後に降りてきた副長は責任を感じて落ちこんでしまったちゃくるに話掛けた。
「大尉の艦のおかげで我々は今ここにいるのですよ?」
「それは・・・でも・・」
「・・・司令はそんな大尉を見ても喜ばないですよ・・・」
「どういう意味でちゅ?」ちゃくるは副長の言葉が理解できないで聞き返した。
「あの時、貴方の艦で無かったら我々は・・・いや、艦隊が負けていたのです」
そう言って見つめている副長にちゃくるはやっと頷いていた。

「いくら同じ人が設計したからといっても、あれ程扱う事が出来なかったら・・・」
「それは・・・貴方達の技術がでちゅね・・・」
「違いますよ大尉・・・あれは自分の目のつくところに全てがあったから、何とかなったんです・・・」
「目に付く所でちゅか・・・」
「そうです・・・少ない時間でしたが、自分のアパートにいるような感じでなんでも出来たからですよ」
「自分のアパート・・・」そういうちゃくるに副長は頷いた。
「司令がたった一人で傷ついた艦を動かせたのも、そんな風に全てが理解できる船だったからです!」
「だから・・・我々は傷つきながらも、戦う事が出来たんです」
「副長・・・」
「大尉・・・我々は貴方の造った艦に乗って戦った事を永遠に忘れないでしょう」副長はそう言ってちゃくるの手を取るとドックから出て行った。
ちゃくるは持っていたICカードをゴミ捨てに投げ込んでいた。

翌日、緊急に召集をかけた艦隊に後を任せ、アイザック艦隊はテラン・プレラット・キャロラットの各工廠に寄港していた。
戦いに勝利したとはいえ、5個艦隊との戦いに殆どの艦が何かしらの修理が必要になっていた為である。
アイザックは乗艦の修理にプレラット工廠を選び、艦を工廠に横たえていた。
アイザックがなぜこの工廠を選んだかというと、自分の艦隊を救ったたすくの乗艦の設計者に会うためであった。
同じように報告を聞いた参謀長がプレラット工廠にやって来ていた。
二人は設計室前で会うと同じ扉に手をかけた。
ちゃくるはさすがに二人の訪問に驚きを隠せなかった。
「たすくの乗っていた艦の設計者に会ってみたくてね」アイザックはそう言いながらちゃくるを見つめていた。
「君の艦が間に合ったおかげでなんとか戦闘に勝つ事が出来た・・・まずはそれを言いたかった」参謀長がそう言ってちゃくるに目を向けると、ちゃくるの頬が僅かに引きつっていた。
「その功績を踏まえて君に次の」
「功績ってなんでちゅか!」参謀長の言葉にちゃくるは叫び返していた!
「あれは・・・たくす中佐達のものでちゅ・・・わたちのじゃないでちゅよ!」
「しかし・・・君の艦じゃなかったら・・・」参謀長の言葉にちゃくるはたくす達の乗っていた艦のスペックを映し出した。
「少佐が乗っていた艦のスペックでちゅよ、これを見てなにも想わないのでちゅか?」ちゃくるの言葉に参謀長はその表をじっと見つめていた。
「現行の”るくりぷ”級はもちろん、前”はんぷす”級よりも火力はないんでちゅ」その言葉にアイザックも驚いてちゃくるを見つめた。
「じゃあたすくは何故?」
「中佐の副長は言っていたでちゅよ、”自分の目のつくところに全てがあったから”と・・・」ちゃくるはそう言いながら、自分の私見を二人に向かって話し出していた。
「明日にでもあいつらを交えてもう一度話をしたほうがいいなぁ」参謀長はそう言ってアイザック・ちゃくるに同意を求めていた。
だが、それが叶う事はなかった。
その頃話題になっていたあいつら・・・副長達は敵通商破壊艦と戦闘の最中であったからである。

「ちぃ」護衛艦の艦橋から僚艦が爆発するさまをみて、副長は息を漏らしていた。
護衛本部に帰還中だった副長達は、突然の信号をキャッチしてこの宙域に急行してきたのだ。
その信号は軍も護衛も、当然民間も共通な信号・・・救難信号であったからだ。
この宙域は戦闘宙域からはもちろん、敵通商破壊のエリアからも大きく離れている宇宙空間であったから、事故か故障・海賊としか考えられなかった。
護衛艦は先の護衛の際に多くの艦が傷ついており、航行こそ問題が無かったが”ただ浮かんでいるだけ”という状況にあったが、戦闘に勝利した事から、敵が海賊としか考えていなかったのである。
だが駆けつけた副長達の前には、敵の通商破壊艦が輸送艦に攻撃をしていたのである。
護衛も出来そうにない艦しかなかったが、誰もが迷わずに敵に向かって突進していた!
僅かなフェザーを相手に発砲し、敵との間に割り込んでいく。
その攻撃で今まで一方的に攻撃をしていた敵は突然の攻撃の動揺していた。
攻撃効果を上げるためにシールドを減衰していた事が裏目に出て、メインノズルを破損してしまったのだ。
もう帰還する事が叶わなくなった敵は、道連れを増やそうと射程にいた輸送艦に攻撃を集中し始めていた。
副長は輸送艦を逃がす為に敵との間に艦を割りこんだまま敵の攻撃を受けていた。
降り注ぐ敵の攻撃の僚艦は破壊され数を減らしていたが、どの艦も動こうとはしないで敵を攻撃し続けていた。
「輸送艦はどうなんだ?」
「まだ20隻ほどが射程に残っています!」
「2番艦爆発!・・・本艦以外にはもう・・・」
その報告を聞きながら副長は目を閉じた。
「全エネルギーをシールドに、全速前進!」
副長の指令に一瞬誰もが躊躇したが、命令はそのまま実行された。
敵の攻撃を受けながらも副長の乗った護衛艦は敵艦に向かって進んでいく。
敵も意図を察したのかあらん限りの攻撃をかけ、艦を破壊しようとしていた。
護衛艦のシールドは崩壊し艦の形も無く、鉄くずの塊に変わり果てていた。
だが、副長達の意思はその塊になった艦を最後まで動かし続けていたのだ!
動きがとれず回避する事が出来ない敵はその塊を正面から受けて爆発した。
その様子は輸送艦から工廠に伝わり、ちゃくるの耳に入っていた。
「しばらく一人にして欲しいでちゅ」ちゃくるは同僚にそう言うとそのまま自室に入って出て来なかった。

「・・・大佐・・・」数日後、よれよれになったちゃくるはあーくすに面会を求めていた。
先日の事以来、どこにも顔を出していなかったちゃくるを心配していたあーくすは直ぐに彼に会う事にした。
「だいじょうぶでちゅか?」彼を見たあーくすはそう叫ぶと軍医の手配を指示した。
「ぼくは大丈夫でちゅ・・・それよりもこっちのが大事でちゅ!」ちゃくるはそう言うと、持っていたICカードをあーくすに差出しながら
「あの艦を見直した図面でちゅ・・・それと、戦闘結果から出した艦の指針でちゅ」そう呟くとちゃくるの身体がぐらりと傾いていった。
「ちゃくる!」慌てて支えるあーくすにちゃくるはゆっくり首を振りながら
「戦いは前線だけの兵士の問題では・・ないんでちゅ・それを次の・・・艦に・・・」
「判ったでちゅ・・・だからなにもいわないで・・・」あーくすは抱えながらちゃくるの答えると、静かな笑顔を見せた。
「・・・大・・佐・・・」あーくすの耳元で微かに呟くと彼は息を引き取った。
「大佐!」ドアを開けて入って来た軍医にあーくすは首を振るしか出来なかった。

「・・・これが構想でちゅか・・・」あーくすはちゃくるを軍医に手渡した後、報告書を持って自室に引きこもり読んでいた。
翌朝まで掛かってそれを読破した彼は、報告書に自分の意見を付け加えると参謀長に転送していた。
参謀長はあーくすからちゃくるの事を聞くと、他の仕事を廻りにまわして報告書を読み始めていた。
いくつか唸りながらちゃくるの報告書を一読すると直ぐに艦政会議を行う事を告げ、全工廠に召集を指示していた。
その席で参謀長は先の戦闘での結果を伝えると、あーくすに壇上に立つように告げた。
「艦政2部プレラットのあーくすでちゅ」あーくすはそう言うとちゃくるの纏めた報告の中であった言葉を口にしていた。
「我々が前線を理解しないから多くの艦・兵士が犠牲になったんでちゅ」と・・・
その言葉に全員が怒色をあらわにあーくすを睨み返していた。
「専門の士官しか扱えない兵器、維持するのに数人が必要な機関・・・僅かな数値を追いかけたのが今までの艦でちゅ!」睨んできた士官を逆に睨みつけそう叫ぶあーくす!
その小さな身体からの迫力に誰も言い返す事が出来ないでいた。
「先の戦闘で貴重な戦訓を得た・・・その事を君達も理解して欲しい」場が静まった頃、参謀長はあーくすの隣でそう言って廻りを見渡した。
「ウチのものが纏めたものでちゅ・・・これを参考にして欲しいでちゅ」あーくすはちゃくるの纏めた報告書のコピーを各士官に配布した。
表紙をめくった士官はそこに書いてある文字に目が釘図けになっていた。

”戦場の散った兵士に捧ぐ・・・ちゃくる”

その短い字が何を意味しているのか数人は気付き、あーくすに目を向けた。
その視線に首を振って答えるあーくすに、顔を落として書類を読み出す仕官。
「今建造及び設計中の艦船をこの視点で見直しをして欲しい」参謀長はそう言うと部屋から出て行った。

数ヶ月後、設計変更・改修の終わった艦が進宙していた。
艦隊の中核を担ったそれらの艦は戦線で今までとは違う戦いを見せていた。
戦闘前の長時間の航行でも行動不能になる艦は無く戦闘力の低下が激減していた。
更には以前の艦ならば行動不能な被害でも、艦速を維持しそのまま戦い続ける。
そして、艦が動かなくなってもエネルギーが続く限り支援攻撃を行っていたのだ!
それは、あのたすく達の戦いそのものであった!
新たな艦隊を得て連合は徐々に同盟を押し返していた。


「戦争が終わるかもしれないな」数年後、プレラット工廠にやって来た参謀長はあーくすにそう話しかけた。
「ホントでちゅか?」さすがに参謀長の言葉に驚くあーくす。
「あぁ・・・同盟でも戦力の低下から講和の気運が高まっていくと聞く、それにこちらも当初の国境線まで奪還できたから問題は無いだろう」
「それがそうならいいでちゅね」話を聞いていたあーくすは素直に喜びを声にしていたが、参謀長の顔が暗い事に気付いた。
「なにか問題でちゅか?」
「あぁ・・・君の所に関係する事でもあるんだ」参謀長はそう話しはじめた。
「とりあえず、こちらへ」あーくすはなにやら良からぬ雰囲気に参謀長を自室に招き入れた。

「戦争が終結する事自体反対ではないのだが・・・」参謀長はそう言ってあーくすを見つめた。
「連合内でも戦争での混乱があると聞きまちゅ・・・それに多くの人が犠牲になってまちゅし・・・」
「そうなんだ・・・だから終りになるのは良い、だが・・・」
「”だが”?」さすがに語感の異常を感じて聞き返すと
「内部には艦隊戦力の削減で新たな戦いが起きることを懸念するものがいてね」
「抑止力でちゅか?」あーくすの言葉に参謀長は頷いた。
「今の状況を保持していれば同盟が戦いを仕掛けて来る事はないというのだ」
「でちゅけど、今の艦艇を維持しゅると同盟での戦力強化の口実になるのでは?・・・」
「君の言う通りだ・・・戦争が終わっても平和にならないのでは意味がない・・・」
「でちゅねぇ」腕を組んであーくすは考えこんでいた。

「参謀長・・・聞きたい事がありまちゅ」突然あーくすは参謀長を見つめ話し始めた。
「なにかね?」
「削減するのは”艦隊用”だけでちゅか?」突然の質問に驚きながらも
「国内治安の艦艇は戦争と関係なく必要だからな」参謀長は頷きながらそう答えた。
「それなら・・・出来るかもしれないでちゅ」
「何か案があるのか?」あーくすは参謀長に頷くと、コンソールの前に立っていくつかのキーを押す。
「現在就役中の駆逐艦の”人員数”でちゅ」あーくすはそう言って”艦隊用”駆逐艦を呼び出して映していた。
「艦隊用は約80名の人員で運用されていまちゅ」
「ふむ」
「でちゅが、治安用艦艇は約50名でちゅ・・・最悪は5名でも運用は出来まちゅ」
「まさか、君はつまり・・・非常時にはその人員を振り分けて・・・」
「はいでちゅ、治安維持艦艇を何割か艦隊に廻して戦線維持しまちゅ・・・あの間に新造艦に余剰人員を廻して戦力増強するんでちゅ」
「なるほど・・・そうすれば3倍の艦艇を確保できると・・・しかし、同盟がその点を指摘してきたらどうする?・・・戦争の口実のなるんじゃないのか?」
「・・・我々にはちゃくるの設計があるでちゅ・・・」あーくすがそう言うと参謀長も首を振って頷いた。
二人の忘れる事の出来ない戦い・・・あの、たくすの戦いを言っているのであった。
ちゃくるの設計した艦は最小の人数での運用ができ、戦力として成り立った事を。
たった50人が8隻を操り、敵に壊滅的な打撃を与えた戦いの事実を!
「つまり・・・君は・・・」
「はいでちゅ・・・あの設計をベースに新しい艦艇に変えていけばいいんでちゅ」
「ふむ」あーくすの言葉に参謀長は頷いた。
数ヶ月後、戦争が終結したその日2隻の駆逐艦が進宙した。

2隻のうち1隻は艦隊用の艦で強火力を誇り、新世代の艦として公表されていた。
しかし、もう1隻は汎用艦としてのものでありなにも公表される事はなかった。
しかし、この汎用艦こそが望んでいたものであったのだ。
あーくすはあの時、参謀長の指令を受け”汎用型”の艦種の研究をしていた。
いくつかをブロック化し汎用規格にする事で、人員を減らしながらも十分に戦力化可能な艦として建造することが可能となったのだ。
その最初の艦が、この艦なのである。
あーくすと参謀長ははでに進宙した艦をわき目で見ながら、この艦を見守っていた。



「ほな、それがけいんず級なのかにゃ?」みけねはスクリーンに映っているオヤンジュに話しかけた。
「いや、その前世代の艦だよ・・・兵装が変わって新しく設計したのがけいんず級だったと言う事だからね」
「そうにゃんだぁ、だからあんな人数でも大丈夫にゃんだね」みけねの言葉にオヤンジュは頷いた。
「少尉!・・・非常信号です、座標X202・Y029・・・第3商業航路51ポイント!」
「待機している艦はなんだにゃ?」
「強襲艦わいるど・きゃっとがアイドルです」
「ほな、わいるど・きゃっとに回線を繋ぐにゃよ」みけねの言葉にわいるど・きゃっとの艦橋が映し出される。
「ばっくす少佐・・・非常事態ですにゃ!」
「場所は?」それだけを聞き返して来るばっくすに手短に連絡をするみけね。
「了解・・・また海賊だろう、ちょっとお仕置きして来る♪」ばっくすはそう言うと部下に指示を出しみけねに敬礼をして映像を切っていた。
「あはは」さすがに相手がかわいそうな気になってくるみけね。
みけねはその視線を窓に向けると、遠く宇宙を疾走しているであろうけいんず級を思っていた。
”先輩達、今も貴方達の艦は頑張っているにゃよ”彼女はそっと呟くとまたモニターに目を戻し、わいるど・きゃっとの状況を確認していた。




戻る