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魔法の双子
みらくる☆ティンクル

第3話 いにしえの妖精

作:かわねぎ
画:ステレオ様


 ボクは魔法少女のティンクル。魔法のステッキを握り締めて黒い猫と向かい合っていたところなんだけど……

「あ〜ら、ティンクルちゃん。毎回毎回ご苦労様ね」
「シナモン! キミも毎回毎回邪魔に入って〜」

 突然ボクの頭の上からシナモン・アップルの声がかかる。見るとブロック塀に足を組んで座っていて、ボクと目が合うとボクの前にすとん、と着地する。黒いレザーの魔法服に身を包む、見た目は悪い魔法少女。

「言ったでしょ、この子は私が捕まえるって。あなたは引っ込んでなさい」
「そう言って、毎回毎回キミのせいで捕まえられないんだよ」
「あ〜ら、誰かさんが鈍くさいからじゃなくて?」
「ちょっと、それボクの事?」

 ボクとシナモンが捕まえようとしている相手は、見た目は大きめの黒い猫なんだけど、魔法世界の妖精らしいんだ。それも強力な魔法が使える相手。どうしてこの黒猫さんを捕まえなくちゃいけないかは、この前シナモンが簡単に説明してくれたんだ。その理由っていうのが……

「悪者だからよ。理解して?」

 ……ホントに簡単すぎる。ボクが聞きたかったのは、どうして黒猫さんが悪者で、どんな事をしたから捕まえなきゃならないか、って事だったのに、たった一言だけだもん。ボクのそばにいる妖精のエリヤとルフナに聞いても詳しい事は分からないって言うし。

「また汝らの内輪もめか。いい加減うんざりするな」
「好きで言い合いしてるんじゃないよ!」
「私も低レベルの争いなんて好みじゃないの」

 言い合いを始めるボクとシナモンに呆れた口調になる黒猫さん。正直言うと、黒猫さんを捕まえられない原因、ってのはボク達二人にあるんだ。ついつい言い合いしてしまって、その隙に逃げられちゃうんだ。今回も……

「付き合う義理もないな。こいつらの相手でもしてるといい」

 黒猫が魔法の言葉で一鳴きすると、どこからともなく野良猫が集まってきた。その数30匹以上いるんじゃないかな。この路地にこんなに住んでるの、と思うくらい。思わずボクもシナモンも後ずさりしてしまう。

「猫さん?」
「数が多いわね。ティンクル、何とかしなさいよ」
「何とかって言ったって……そうだ。『フォーレン!』」

 ボクが「火」の呪文を唱える。でも猫を焼いたりするつもりは全然無いよ。大体そんな可哀想な事出来ない。シナモンがうまく続けてくれればいいけど。

「なるほどね。それじゃ、『ラティーム!』」

 シナモンは「風」の呪文を唱える。さすがシナモン。ボクの狙い通りだ。風に沿って火が流れ、ボク達と猫たちの間に「炎の壁」が出来上がる。相手は動物だ。火に怖がって近づけないでいる。

 だけど、ボク達の後ろからも野良猫が集まってきた。「フーッ」っと唸りながら、毛を逆立てている。怒ってるよ……何にもしてないのに。大元の黒猫さんはその間に身を翻して立ち去ろうとする。

「あ、ちょっと待ってよ!」
「このままじゃ二人とも猫に全身引っ掻かれるわね。あなたが貴い犠牲者になるつもりない?」
「なるつもりない! 当たり前でしょ」
「そうなの……ティンクルちゃ〜ん。ちょっといいかしら?」

 急に優しい声になるシナモン。大体こう言う時は何か悪巧みを考えてるはず。思わず身構えるボク。そんなボクの頬をそっと手のひらで撫でるシナモン。唇を寄せて来たかと思うと、一言ささやいた。

「あのね……『ヒュー・レリア』」
「な? いきなり何するんだよ」
「猫ちゃんのお相手頼むわね。ほんと悪いわね〜。おほほほほ」

 シナモンがボクにかけたのは香りを作る呪文。魔法にはハーブとかの香りが重要なので、香りの呪文は魔法少女にとって初歩的な呪文なんだ。でも「レリア」って何の香り? 全然何の香りもしないんだけど。

 シナモンって、ボクも知らないいろんな呪文を知ってるから凄いと思う。でも何でボクに向けるのさ。あれ? 猫が全部ボクの方に寄ってくるよ。

「貴い犠牲は忘れないわ。それじゃ、よろしくね〜」
「ちょ、待ってよシナモン」

 ボクの周りにだけ猫が集まってきて、身動きが取れなくなってしまう。その間にシナモンは黒猫さんを追って飛び出していった。ボクの周りの猫たちからは敵意は感じない。むしろ暖かみさえ感じるんだ。そう、じゃれている感じ。

「なんでボクだけ〜。そうだ、ルティーニ!」

 シナモンがボクに呪文をかけたのなら、変身を解いたらどうなるか……そう思って、変身解除の魔法を唱える。ボクの体を光が包み、二人の姿に、僕とれもんの二人の姿に戻る。そう、ティンクルは僕、葉月みるくと双子の妹、れもんが一緒に変身した姿なんだ。

「あ〜ん、お兄ちゃん、猫たち離れないよ」
「シナモンの奴、一体何の呪文をかけたんだよ」
「だから香りでしょ。も〜どうにかしてよ〜」

 僕たちが二人の姿に戻っても、猫たちはじゃれつくのをやめない。どうやら何かの香りが染みついてしまっているようだった。どうにも困っていると、そこへ同じクラスの友達が二人やってきた。僕たちと同じ双子で、家も向かい同士の出水りんごちゃんとけいひ君だ。やばい、もう一度変身解除の呪文を唱えないと……ルティーニ……間に合った。

「何やってるの? みるくちゃん、れもんちゃん」
「……猫にマタタビ……やはり効きますね……」

 僕たち二人が猫とじゃれているんだと思ったんだろう。りんごちゃんが猫の一匹を捕まえて、目の高さまで持ち上げる。可愛らしい猫なら、可愛らしい女の子とセットで絵になるんだろうけど、あいにくドラ猫タイプであんまり可愛いとは言えない猫だった。なるほど、シナモンがかけたのはマタタビの呪文ね。それなら猫も寄ってくるはずだよ。

 ん? ちょっと待って。今けいひ君は、みるく『ちゃん』って言わなかった? ちなみに僕がティンクルに変身するには一度女の子の姿に変身しなくちゃならないし、変身解除の呪文も二度唱えて、女の子から男の子に戻らなくちゃならない。

 今の僕の姿はと言うと、男の子に戻っている。といってもあんまり女の子の時とぱっと見た目は変わらないんだけどね(認めたくないけど)。それを知ってか知らずか、けいひ君が僕にまとわりつく猫を引き離しつつ、抱きついてくる。

「みるくちゃんは猫にも好かれるんだね〜」

 ちょっとドキッとしたけど、悪くない感じ。僕も離れないで……ん? 何やってるんだ、僕。今は男の子の姿。男同士でそんな事をする趣味はない……はずだ。思わず体を離そうとする。

「ね、けいひ君、男同士で『すりすり』するのもどうかと……」
「そうかなぁ? 本当にそう?」

 戸惑っている僕からけいひ君を引き離したのは姉のりんごちゃんだった。けいひ君の首根っこを掴んで、問答無用で引き離していく。

「けいひ……あなたまでマタタビに……惹かれる事はないでしょう」
「そーゆー訳じゃないけど。ほら、友達同士仲良く、ね」
「みるく君は……『一応』男の子……なんですから」

 なんだよ「一応」って。もしかしてこの二人には僕の秘密がバレているかもしれない? でも二人の目の前で変身した覚えもないし、なんでけいひ君は女の子に対するように僕に接してくるんだろう。


  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  


 何とかまとわりついていた猫を振り払い(それでも2匹はついてきた)、家にたどり着く。玄関先でりんごちゃんとけいひ君にさよならを言い、家のドアを開けた。

「「ただいま〜」」
「おかえり。あら、みるく、女の子になるつもりない?」

 お母さんが僕たち二人のただいまの挨拶に応える。お母さんも僕たち兄妹が変身できたり魔法を使ったり出来る事を知っているんだ。それで僕にとって頭が痛いのが、僕の事をすぐに女の子にしたがること。この前だって、その前だって……いや、思い出すのはやめておこう。今だって、いきなり何なんだよ。

「あのね、お母さん。そうそう女の子になるつもりなんてないよ」
「お菓子、チョコサンデーをいただいたんだけど、どうするの?」

 お母さんのタイミング良い言葉に、ちょっと心が動く僕。実を言うと、女の子でいたいな、と思う時もあるんだ。男の時は甘ったるく感じるお菓子も女の子の味覚だと美味しく感じちゃうんだよね。だからこのところ、おやつの時だけは自分から女の子になって食べている。この辺普通の男の子には分からない感覚かな。

「わかった……ルミット……」
「そうそう、素直なのが一番よ。それじゃ二人ともちょっと手伝ってね」
「「はーい」」

 僕とれもんがおやつの準備を手伝って、っと言ってもお皿を並べて紅茶を準備するだけなんだけどね。楽しみ楽しみ。ついつい鼻歌交じりになってしまう。

「ふんふんふ〜ん♪」
「あら、みるく、やけに上機嫌ね」
「お兄ちゃん、女の子になって楽しんでない?」
「いい傾向ね。このまま女の子でいてくれると、ママは嬉しいわよ」

 楽しそうな僕を見て、お母さんとれもんがとんでも無いことを言ってくる。僕は別に好きで女の子に変身している訳じゃないし、楽しいって訳じゃないんだ。まったく冗談じゃないよ。

「そんなこと絶対無いよ! 楽しそうなのはおやつが食べれるから」
「ふ〜ん。毎回女の子になっておやつ食べてるくせに」
「うっ……そ、それは、女の子の方が美味しく食べれるからだよ。れもんも男の子になってみれば違いが分かるって」
「別になりたいとも思わないわよ」

 僕たちが「姉妹」の言い合いをしているところに、お母さんが間に割って入る。さりげなくテーブルにおやつのチョコサンデーを並べていく。まあ、僕もれもんも本気で言い合っている訳じゃないから、素直に言うことを聞くんだけどね。

「さ、二人とも。そのくらいにして席に着きなさい」
「「は〜い」」
「ルフナちゃん〜、エリヤちゃん〜、あなた達もおやつよ〜」

 2階に向かって呼びかけるお母さん。ルフナとエリヤってのは見た目モモンガなんだけど、人間の言葉も分かる……妖精なんだ。僕たちが魔法を使えるようになったのも、この2匹のおかげなんだ。

「はいはい、ママさ〜ん」
「いま降りてきま〜す」

 ルフナとエリヤがふよふよと飛んできたところで、僕もれもんも席について、チョコサンデーを食べ始める。うん、女の子で食べてた方が美味しいな、やっぱり。甘い味わいが口の中に広がって……味覚が違うのかな。

「……だって。ね、お兄ちゃん聞いてる?」
「んんっ?」

 美味しさの幸せに浸っているとき、れもんが僕に話しかけてくる。聞いてなかったや。なんの話だっけ? そんな表情を見て取ったのか、お母さんが話を続けてくれる。

「商店街の裏路地よ。みるくも行った事あるんじゃない?」
「あ、あの空き地に通じるところだね。うん。近道だから友達もみんな通ってるよ」
「そう、でも気を付けなさいね、二人とも」

 商店街の裏路地ってのは、言葉通りなんだけど、よく遊ぶ空き地に通じてるんだ。遊びに行くときとかよく通るけど、何も危ないところじゃないはずだけど。何があったんだろう。れもんも不思議に思っているようだ。

「私もお兄ちゃんもよく通ってるけど、気を付けるって?」
「最近ね、若い女の人が倒れてるって話があったんだって」
「変質者にでも襲われたのかな?」
「詳しくはわからないんだけどね。それが一度や二度じゃないって。商店街でもっぱらの噂よ」

 ふうん、だから危ないのかな。まあ明るいときには変な人も出ないだろう。みんなで通れば怖くない、ってね。

「みるくもれもんも女の子なんだから気を付けたほうがいいわね」
「ちょっと、僕は男だってば」
「そうだったっけ」

 さりげなくお母さんがとんでもないことを言い出す。あのね、僕は男だからね。まったく。まあ、その犯人が女の人だけを狙うなら僕には関係ないんだけど、無差別通り魔っていうの? そういうのだったら気を付けなくちゃならないね。

 ま、その話は置いとこう。ルフナもエリヤも気にせずにおやつを食べてるし、僕もれもんもおやつに取りかかるとするか。でも、この話をしっかり聞いておくんだったと、後になって後悔することになるとは、僕もまだ知らないことだった。


  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  


 次の日の学校。授業も終わり、帰りの会になった。今日も一日疲れたなぁ。大人達は「最近の子供は疲れている。体力がない。根性がない」なんてよく言うけど、その子供の立場から言わせてもらうと、ホントに疲れてるんだよ。そんな昔のスポ根アニメじゃないんだから、根性だけで学校生活なんてやってられないよ。

 今日の反省とか、係からの連絡も終わって、最後に先生からの連絡だ。これはきちんと聞いておかないとね。怒られちゃうから。

「みんなも通ったことがあるかな、商店街から空き地に通じる路地。あそこは通らないように」
「「「え〜、なんで〜?」」」
「最近、女の人が倒れている事件が起きているんだ。何か起きると危ないから、通行は禁止。わかったね」

 昨日お母さんが言っていた裏路地の話か。やっぱり遊びに行くにも便利だから、クラスメート達からはブーイングが起きている。ま、ダメって言われてもみんな通ると思う。いくら先生でも、裏路地の入口で監視してる訳じゃないしね。

「みるく、みんなで行ってみようぜ」
「ほら、けいひ君も一緒にどうですか。どうせ先生にはバレやしません」

 だから帰りの会が終わってからこういう話になるんだ。ちなみに誘っているのは友達の裕哉君と一雄君だ。こうしてけいひ君を合わせて4人で裏路地に行ってみようという話があっという間に出来上がるわけだ。

 疲れてたんじゃないかって? 疲れたのは学校の授業。放課後となるとまた別だよ。がぜん元気が出てくる。この辺は女の子モードでおやつを食べてる時の「別腹」な感覚と一緒かな。鞄を持って教室を出る前に、れもんに一言声をかける。れもんちゃんと吾妻美鈴ちゃんと一緒にお喋りしているところに割って入るのは悪い気もするけど、一言だけだからいいよね。

「れもん、ちょっと寄り道してくから」
「まさか裏路地行くんじゃないでしょうね」
「そのまさか。じゃ」
「ちょっとお兄ちゃん!」

 咎めるようなれもんの言葉を背に教室を出ようとすると、裕哉君がれもん達女の子3人に、なんだよ、と言った感じで声をかける。

「おいおい、葉月妹、行くのは俺たちの勝手だろ」
「違う違う。せっかくだから私達もついて行きたいなと思ったの」
「女だと危ないんだぞ。吾妻も出水姉もおとなしく帰ったほうがいいぜ」
「なによ、そんなのわかんないじゃない」

 れもんの文句も聞かないうちに、僕たちは教室を出て行った。許せ、妹よ。だいいち7人もしてゾロゾロ行ったら、それこそ目立つからね。そう言うわけで、結局男子4人で裏路地に行くことになったんだ。


  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  


「……って、何もないじゃん」
「つまんないね」
「でも何かあっても困りますけどね」

 裏路地を通って空き地にやってきた僕たち。その第一声がこれだった。確かに何があるわけでもないし、何かあっても困るんだけど、僕たちには拍子抜けだった。ま、広場で遊べれば何でもないことなんだけど……何でもない訳じゃ……

「みるく、どうした?」
「いや、何かざわざわって感じがしたんだけど……」

 前にも覚えがある感覚。そう、これは魔力。そして知ってる魔力。でもそれを感じ取ることが出来るのはこの中で僕だけみたいだ。

「全然、なんにも感じなかったぞ」
「そうそう、気のせいでしょう」

 裕哉君と一雄君がそう言うのも納得。魔力を持っていないと魔力を感じることは出来ないから。そして普通男は魔力を持っていない。だから僕だけが感じている事も、別に不思議じゃない事なんだ。

 でも魔力を感じたことを口にするんじゃなかったな。変に思われるかも知れないし。まあ気のせいって事にしてもらえば、それに越した事はないや。でも、けいひ君も腕組みをしながら真面目そうな表情をしていた。

「みるく君の言うとおりかも……」
「けいひ君?」
「あ、いや、僕も気のせいかもね。気にしないで」

 僕が聞き直そうとしたら、何事もなかったような表情に戻るけいひ君。裕哉君と一雄君は「変なの」って感じで僕たち二人を見てたけど、それもあっという間のこと。すぐにいつもの表情に戻った。

 さて、何もないって分かったら、急につまんなくなった。何で遊ぼうかな、とみんなが思い始めた時、一雄君が鞄の中からごそごそと何かを取りだした。あ、もしかして、あれかな?

「ここで一つ、手合わせしませんか」

 一雄君が取り出したのは、「スプライト・テック」というカードゲーム。カードにはいろんな妖精(スプライト)が描かれていて、それをチームで戦わせていくゲーム。うちのクラスでも男子の間で流行っているんだ。

「よし、また負かしてやるぜ」
「今日の僕は一味違います。力任せの裕哉君に勝てますか?」
「ふん、昨日は俺が勝ったろ」

 裕哉君の挑発を軽くかわす一雄君。何か自信たっぷりだ。新しいカードを入れて、強いデッキを作ったのかな。あ、デッキって言うのは50枚1セットの自分の持ち札の事ね。入れるカードにはルールが決まってるんだけど……ま、説明はいいか。

「これですよ。これに勝てますか?」
「もしかして最強の限定カード? 一雄君、当たったの?」
「全国で250名限定でしたよね。当選したんですよ」

 一雄君が自信満々に取り出したのは、雑誌の抽選で当たる強い限定カード。本当に当たる人がいたんだ。あのカードはこっちのスプライトの物理、魔法攻撃力を限定無しで封じ込める効果がある。だから攻撃主体の裕哉君のデッキじゃ不利だ。

「じゃ、僕と相手してもらえる?」

 ちょっと尻込みしてしまった僕と裕哉君だったけど、けいひ君が勝負を受けて立つ。けいひ君のデッキはちょっと一味違う。弱いスプライトがほとんどなんだけど、なぜか負ける事は少ない。コンボ……カードの効果の組み合わせが決まると、強いスプライトにだって勝ってしまうんだ。

「では、始めましょうか、けいひ君」
「うん。まずはお手並み拝見といくよ」

 そう言ってけいひ君はカードを並べ終えると10円玉をピンッと跳ね上げる。本当はゲーム専用のコインがあるんだけど、そこまで小遣いが回らないんだよね。さ、いよいよ勝負開始だ。

 と思ったら、急に女の子の声が僕を呼んだ。れもんだ。

「あ、いたいた、お兄ちゃん!」
「れもん? どうした?」
「今、美鈴ちゃんが大変なの」

 急にそんな事を言われても何の事か分からない。きょとんとしている僕たちだったけど、れもんは僕の手を引いて、路地裏の方へと連れて行こうとする。

「な、なんなんだよいきなり」
「いいから、早く来てよ。みんなも手伝って」

 いきなりのれもんの乱入に一瞬むっとした裕哉君達だけど、れもんの真剣な表情が通じたのか、カードゲームをする手を止める。

「一雄君、勝負は後でいいよね」
「はい。吾妻さんの所に行ってみましょう。」

 僕たちが裏路地へ駆け込むと、美鈴ちゃんが倒れていた。その側で心配そうに付き添っているりんごちゃん。倒れているけど、苦しそうだとか、そんな感じではないみたいだ。美鈴ちゃんの顔を覗き込む僕たち。

「美鈴ちゃん、どうしちゃったの?」
「いきなり倒れちゃったのよ」

 僕がれもんに尋ねると、どうも、いきなり気を失って倒れたらしい。それまでは何ともなく、一緒にれもん達3人で歩いていたそうだ。何が原因かよく分からないみたい。

「ね、美鈴ちゃんのお家まで送っていくの手伝って」
「わかった。じゃ、吾妻を俺の背中に乗せてくれ」

 れもんのお願いに、裕哉君が美鈴ちゃんを背負って、家まで連れて行こうとする。裕哉君は普段は女の子に憎まれ口を叩いているんだけど、こういうときは人一倍心配する奴なんだ。

「あと葉月か出水、俺と一緒に来てくれ」
「美鈴ちゃんの家は分かるでしょ」
「いや、その、俺だけ行っても変に思われるだろ。だから……」
「……分かりました……私が行きます……」

 よっこいしょ、と立ち上がる裕哉君に、りんごちゃんが一緒について行く形になる。美鈴ちゃんも休めば大丈夫だと思うけど……


  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  


 結局残された僕とれもん。けいひ君も一雄君も一緒に美鈴ちゃんを送っていった。僕たちは帰る方向が逆だからみんなにお願いしたんだけど、本当は別な理由があったからなんだ。だいいち、けいひ君もりんごちゃんも逆方向になるんだけどね。

「お兄ちゃん、美鈴ちゃんが倒れたときに魔力を感じたの」
「僕が裏路地を通ったときも感じた。れもんも感じたんだ」
「うん、あの感じって前にも覚えある」

 れもんも同じように魔力を感じていたみたいだ。れもんの言うとおり、覚えがある魔力。何度も出会っている魔力。いまもその魔力が……だんだん強くなってる?!

「いるね。お兄ちゃん」
「分かってる。ルミット!」
「うん、ルミット!」

 呪文を唱えて魔法のステッキを出現させる僕とれもん。僕の方は同時に女の子の姿へと変わっていく。わずかに膨らんでいく胸、わずかにくびれていく腰回り。さらさらな髪になり、服装も魔法少女服へと変わる。

「「グレース・テノック・プラート・アルナ……」」

 僕とれもんが同時に変身呪文を唱えていく。この辺は双子だからか、呼吸がピッタリ。最後にステッキを高く掲げて、二人のステッキの先を重ね合わせる。

「「みらくる☆グローイン!」」

 呪文と共に二人が光に包まれ、その中で一人のシルエットになっていく。シルエットが成長していくのがわかる。胸、ウエスト、お尻、そして手足。光が収まると、そこには17歳くらいのお姉さんの姿のボク、ティンクルが立っていた。

「妖精界から不思議な事件の謎を追い、ここにティンクル参上♪」

 ステッキを構えて、ポーズを取るボク。誰も見ていないから間抜けかも知れないけど、見ている相手はそこにいるはず。みるくとれもんの時から感じていた魔力の源。それを感じる方向にステッキを向けて、呼びかけてみる。

「わかってるんだよ。出てきたら?」
「さすがに魔力を持つだけあるな。既に知っていたのか」

 細い路地に姿を表したのは、例の黒猫さん。ボク……みるくとれもんが感じていたのはこの魔力だったんだ。

「やっぱりキミなんだね。美鈴ちゃんに何をしたんだよ」
「大したことではない。ただ少しだけ魔力を採らせてもらっただけだ」
「魔力を……採る?どういう事なの?」
「あのシナモンという者に比べて、何も知らないのだな」

 悪かったね。でもルフナとエリヤもこの黒猫さんの事は知らないみたいだし、シナモンは面倒な説明するのは嫌いみたいだし、知らなくても仕方ないと思うんだ。でもその話し方だと、美鈴ちゃんも魔力を持っている訳? 

「人の魔力……それが私の糧だ」
「糧って、魔力を食べてる訳? でもなんで美鈴ちゃんなわけ?」
「魔力は誰しも持っている。だが魔法を使えるほどの魔力がある者は少ない」

 要するに、女の人がこの路地で倒れていたのは、黒猫さんがその魔力を採っていたから。普通の人は魔力の量が少ないから、倒れてしまう訳なんだね。そして、採った魔力は黒猫さんの食事。でも、よりによって美鈴ちゃんを狙うなんて。

「それなら美鈴ちゃんじゃなくてボクを……れもんの魔力を採ればよかったじゃないか」
「汝らの場合、二人一緒になったところを採らないと意味がない。このようにな」

 黒猫さんが魔法の言葉で一鳴きすると、ボクの右腕が急に熱くなった。前に黒猫さんに引っ掻かれた傷。消えないで残っているんだけど、そこを思わず左手で押さえるボク。

「なっ! 一体?」
「このように一気に採る事も出来る。気づいていなかったのか? 徐々に魔力を採られている事を」

 腕に付けられた傷。三角形を二つ重ねたような……何か魔法陣に描いてあるような感じの形だ。普段から黒猫さんに魔力を採られていたって事? だからシナモンはこの黒猫さんを捕まえようと……止めさせようとしてたんだ……。

「ボクはキミの食事じゃないよ!」
「……御馳走は後に取っておく主義なのだがな。邪魔だてするなら仕方ない」

 そう言い終わるやいなや、ボクに飛びかかってくる黒猫さん。ボクは虚をつかれて一瞬対応が遅れてしまった。呪文を唱えている暇はないから、反射的に拳を突き出そうとする。でも、簡単に避けられてしまう。ダメか……

「リーシュ!」

 ボクと黒猫さんの間に、氷のつぶてが降り注ぐ。間合いを取り直す黒猫さん。ボクもステッキを構えて、いつでも呪文を唱えられるようにする。でも誰が呪文を?

「おーほほほほほ。ティンクル、何やってるのよ」
「シナモン!」
「邪魔が入ったか。だがたいした邪魔ではないな」

 裏路地のブロック塀の上から、すとん、と地面に降り立つシナモン。シナモンのお陰で助かったよ。素直に感謝するよ。

「シナモン、ありがと」
「貸し一よ」

 訂正。やな奴。目が笑っているから冗談なんだろうけど、シナモンが言うとどうも本気に聞こえてしまう。

「あなたの魔力をあの猫ちゃんに黙って渡す訳には行かないわね」
「でもどうするつもりだよ。キミだってただ出てきた訳じゃないでしょ」
「当たり前じゃない。猫の敏捷性を甘く見ちゃいけないわよ。こうするの。『クォリュ・ターマイズ!』」

 いいっ!? 普通そんな呪文を唱える? 呪文に応じて、目の前の地面が土とは違った物に、粘着性のシートへと変わっていく。なるほど、足場を悪くしたわけだ。でもなぁ、あんまり気持ちよい物じゃないなぁ……だってシナモンの唱えたのは、いわゆる、その、「ゴキブリホイホイ」と同じなんだよね。あ、黒猫さんの足と毛が粘り着いている。効くんだ。

「所詮一時しのぎよ。逃げるわよ」
「いつものように捕まえないの?」
「今はあなただけを狙っているのよ。ちょっとでも傷つけられたら終わりね」

 いつもの余裕たっぷりの表情と違って、真面目な表情のシナモン。だからいつもと違うって事は分かる。でもちょっとだけの傷でも魔力を採られるって、どうして?

「いいこと? 説明は後でしてあげる」
「説明なんか今までした事なかったくせに……」
「ふん、この程度は邪魔のうちに入らぬな」
「無効化される前に逃げるわよ!」

 シナモンと共に走り出すボク。裏路地を抜けて、広場に出たところで、視界の端を黒い影がさっと横切る。まさか。

「くっ、足止めにもならないわね」

 ボク達を追い越す様に飛び出す黒猫さん。空中を蹴って、そのままの勢いでボク達の方へ飛びかかってくる。いや、ボクの方にだ。走っているボクに向かってくるから、避ける事が出来ない。思わず、腕で防ごうとしてしまう。

「ティンクル、右腕はダメ!……『チャティル!』」
「きゃっ、何するん……」
「どきなさい!」

 シナモンの唱えた「蔦」の呪文に、足を絡め取られるボク。よろけながら文句を言おうとするボクを突き飛ばすシナモン。そして、黒猫のツメが深々とその肩に突き刺さる。本当ならボクの腕に突き刺さるはずだったツメが。

「うぬ……ティンクルとやらの魔力に合わせていた物を……」
「あ〜ら、おあいにく様。あんたなんかにティンクルの魔力は渡さないわよ」
「不十分とはいえ、汝の魔力も採れるのだがな……このように!」

 黒猫さんが一鳴きすると、シナモンの体がビクリと震え、手にしている鞭ステッキを取り落とす。まるで力が吸い取られているような感じだ。実際魔力を吸い取られているんだろう。ボクの代わりに……

「うぅっ!」
「シナモン!」

 ちょっとでも黒猫さんの注意を引ければ、シナモンから引き離す隙を作れればいいんだけど、攻撃魔法を叩き込むわけにはいかないし。使うなら補助魔法……そうだ! 黒猫さんが猫だったらばこれが使えるかも。ステッキを黒猫さんに向け、短い呪文を唱えるボク。

「ヒュー・レリア!」

 昨日、シナモンがボクにかけた魔法。マタタビの香りの魔法。妖精とはいっても猫ならば効くかも知れない。じゃれつく必要はないんだ。ちょっとだけ気を引くだけでいいんだ。

「ん?」

 よし、注意を引けた。ボクはすかさず次の呪文を唱える。

「ラティーム!」

 「風」の呪文で黒猫さんを吹き飛ばす。というか、シナモンから引き離せればいいんだ。その間にボクは崩れるように倒れるシナモンの体を慌てて支える。シナモンはボクの腕のなかで、息も荒げに言葉を紡ぎ出す。

「ティンクル……私がいないと……だから……鈍くさいのよ……」
「喋らないで!」

 苦しそうに軽口を叩こうとするシナモンをそっと横たえて、黒猫さんからシナモンを守るようにステッキを構える。

「これで余計な邪魔も入るまい。我が爪も汝の魔力に合わせてあるからな。採らせてもらおう」

 正直言って、ボクだけなら逃げられる。でもボクを助けてくれたシナモンを放って逃げるなんて事は出来る訳がない。ボクまで魔力を採られてしまったら、ボクもシナモンも助からない。だから使う魔法は……使った事無いけど……詠唱が長いけど……これしかないんだ。

「逃げないか。いい覚悟だな」
「ファーム・トーラス・ディム・ターナ……」

 ステッキを構えて初めて唱える呪文を口にする。体を通り抜ける魔力の風に身を任せる。ボクが唱え終わるのが早いか、黒猫さんがボクを捕らえるのが早いか。今はそんな事は考えずに、呪文に集中していた。

「その魔力を我に捧げよ!」
「そうはいかないよ! 『ヴェスリーア!!』」

 黒猫さんがボクに飛びかかり、爪先がボクに届く瞬間、呪文の完成と共に光に包まれるボクとシナモン。高位魔法のテレポートの発動だ。ボクの視界も光に満たされていく。なんとか呪文が間に合ったんだ。

 そして光がおさまったとき、周りの景色は一変していた。毎日見慣れたボクの……みるくとれもんの部屋。二人とも逃げられたんだ。ふう。緊張が緩んでその場にへたり込んでしまったんだ。


  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  


 とりあえず、気を失ったシナモンをベッドに寝かせるボク。ルフナとエリヤが看てくれたところ、魔力の急激な消耗が起きているらしい。そりゃ分かるよ。ボクだってその場面を見ていたんだから。でもこのまま休ませておけばいいのかな?

「こいつ、魔力の消耗が激しいな」
「このままじゃ、魔法少女としてじゃなく、本体の娘が危ないわよ」
「本体……変身前の体まで?」

 ルフナとエリヤが、眠っているようなシナモンの顔を覗き込みながら様子をうかがっている。どうやら深刻なようだ。シナモンの正体は気になるけど、今はそれどころじゃない。体を張ってボクを助けてくれたシナモン、今度はボクが助けてあげたい。

「どうすれば助けられるの?」
「あなたの魔力を直接シナモンに注ぎ込むの」
「どうやって?」
「それはね……」

 エリヤがその方法を説明しようとしたとき、窓をコツコツと叩く音がする。誰だよ、こんな時に。あれ、でもここ2階……

「開けなさいよ、あんたたち。ルフナ、エリヤ、聞いてるでしょ!」

 窓を開けようと窓に近づくと、外にモモンガがふよふよと浮いていた。そう、ルフナやエリヤと同じような感じ。とすると、妖精さん?

「この声は、まさか?」
「記憶が正しければ、聞きたくない声のベスト5に入る奴だな……」

 窓を開けると、さっとモモンガが入ってきて、戸惑ってるエリヤと苦虫を噛み潰したような表情のルフナの前に、ふわりと降り立つ。その姿を見るやいなや、頭を抱えるルフナ。

「やっぱりこいつか……」
「キャンディ!」

 エリヤの上げた声に、仰々しく応じるキャンディと呼ばれたモモンガ……もとい、妖精さん。

「ええ、いかにも。こうして王家の者があんた達の所に来てるんだから、もう少し礼儀を持って迎えたらいかがかしら?」
「な〜にが王家だ。王位継承権第86位、王族本家の従姉妹の再従姉妹(はとこ)の又従姉妹。よ〜っぽど俺たち『庶民』に近いじゃないか」
「あんたも継承順までよく覚えてるわね……それでも! れっきとした王族なのよ。私は」

 キャンディとルフナが言い合っているけど、妖精界での知り合いなのかな。王族っていう位だから偉いんだろうけど、ルフナはタメ口だよ。

「はいはい、で、何しに来たんだ? 俺たちはそれどころじゃないんだぞ」
「用があるのはあんた達じゃないのよ。この娘。シナモンの回収」
「ふ〜ん。もしかして、こいつに魔法を与えたのってお前か?」
「そう言う事よ。魔力を追ってきたんだけど、こんな近くにいたのね」

 どうやら、シナモンはこのキャンディという妖精から魔法をもらったらしい。ボクがルフナとエリヤに魔法をもらったようにね。だからシナモンを助けられるかも知れないんじゃないかな。

「ねえ、キャンディさん。シナモンを助けられないの?」
「そこな小娘。王族にはもう少し口の利き方という物があろう」

 開口一番、偉そうな口調でボクに言い放つキャンディ。誰だよ、さっきまでルフナとタメ口で話してたのは。でも仕方がないな。王族なんてドラマか小説の世界みたいだよ。れもんが読んでたファンタジー小説だと、王族にはこういう感じで話すんだっけ。

「えっと、王女様におかれましては……」
「そうしゃちほこばるなよ、王位継承権第98位のお嬢様。ティンクルも普通に話せ」
「いちいち継承順位まで言わなくてもいいでしょ! しかも増えてるし。まったく昔からあんたは腹立わね」

 ボクがキャンディに対して絵に描いたような、というか小説に書いたような話し方を始めると、呆れたようにルフナが引き留める。キャンディも仕方ないわね、という表情でボクへの話を続けた。口調がルフナに話すときと違うんだけど。

「まあいいけどね。この娘、シナモンを助けるためには、あなたの力が必要なの」
「ボクの力……魔力?」
「そう、魔力を分けてあげれば助かるの」
「どうやれば魔力を渡せるの? 呪文?」
「願いを込めて手を握るだけでいいの。最後にちょっとした儀式をするんだけどね」

 そうか。さっそくキャンディの言うとおり、シナモンの手を握りしめる。ボクの魔力を……受け取って……そしてまた言い合いしようよ……だから……

「ルフナもエリヤも。この娘……ティンクルに何も話してないのね」
「話すって言っても、あの黒猫は何なんですか? 私達も知らないんですよ」
「確かにあんた達がこっちの世界に来てからの話なのよね。無理ないか」
「それじゃ私達にも話してくれますね」
「いいわ。ティンクル、あなたも聞いてて。あなたにも関わっているのだから」

 びしっ、てボクを指さすキャンディ。魔力を分けると言っても、ただシナモンの手を握っているだけだから、話はイヤでも耳に入ってくるよ。でもボクにも関係するって、どういう事?

「あんた達ニルギリって知ってるわよね」
「うん、昔話……セーロンが統一される前の伝記に出てくる妖精ですね」
「なんだよ、いきなりお伽話か」
「そいつなのよ、あの黒猫は」
「「はぁ?」」

 キャンディの話にちょっと間の抜けた返事を変えるルフナとエリヤ。セーロンってのはルフナ達の住む妖精界の事。そこに伝わる昔話に出てくる妖精が黒猫さん……ニルギリっていうらしい。ルフナ達が信じられないって声を出しているのは、ボク達の感覚で言えば、桃太郎に出てくる鬼が現れた、ってところなのかな。

「ちょっと待てよ。セーロン統一って何百年前も昔の話だろ」
「宮廷の伝記ではニルギリは生きたまま封印された。その封印が解かれたのよ」
「だからといって、何で人間界に来るんだよ」
「完全な復活を目指すためじゃない? わざわざこっちに来るくらいだし」

 昔から妖精さん達は人間界に来ていたんだ。でも封印している妖精って事は、悪い妖精なの? キャンディにその辺を尋ねてみる。

「どうして、そのニルギリって妖精は封印されていたの?」
「セーロンの妖精と、人間とが協力して封印したって記録にあるわ」
「ボク達人間にとっても敵なの?」
「そうね、昔の私達妖精とあなた達人間との関わりを教えないといけないわね」

 キャンディの話だと、昔は妖精が当たり前のように人間の前に姿を現していたそうなんだ。魔法も当たり前にあった時代……お伽話のような世界だったんだ。

「昔は妖精と人間ってどういう関係だったと思う?」
「妖精の存在を信じてたから、仲良くしていたんじゃないかな」
「ふぅん、今の人間って妖精を軽く見るのが相場だと思ったんだけどね」
「そんな事ないよ! ルフナだってエリヤだってボクの友達だもん」

 言葉に力が入るボクを微笑んで見つめるキャンディ。そりゃ最初は妖精だなんてびっくりしたよ。でも今じゃ大切な友達なんだ。だから妖精を信じていた昔はもっと仲良かったんだろうと思うんだ。

「でも違うの。影で妖精が人間を支配していたの」
「どういう事?」
「魔力を持つ人間……それが昔の妖精の糧だったから」

 黒猫さん……ニルギリもそんな事を言っていた。魔力は妖精の食事だって。魔力を採って、それを食事にしているって。でもそんな事を言ったら、ルフナやエリヤだって魔力を必要としているの?

「俺たちセーロンの妖精はちょっと違うんだ」
「自然の魔力、草花や動物たちの持つ自然の力を少しだけ分けてもらっているんです」
「だから、昔の妖精とは意見が合わなかったと伝記にはあるんだ」
「そして、最強の魔力の持ち主がニルギリなんです」
「セーロンと人間達の軍勢が、ニルギリを追いつめたが、魔力の強さ故、殺す事は出来なかったんだ」
「だから封印したのね。それが伝わっているお話です」

 ルフナとエリヤの話に納得するボク。ニルギリってのは人間にとっても妖精達にとっても厄介なんだ。強い魔力を持っているボクやシナモンなんかは格好の獲物ってわけなんだ。でもどうして立て続けに女の子を襲っているわけ? 最初からボク達を狙えばいいのに。それにはキャンディが答えてくれた。

「あの黒猫の姿だと強い魔力は吸収できないの。今日だってシナモンの魔力を採って、相当無理してるはずね」
「でもボク達からも魔力を吸収してるって言ってたよ」
「刻印ね。あなたの右肩に引っ掻き傷があるでしょう」
「あ、これね」

 ボクの肩に付けられた引っ掻き傷にそっと手を当てるボク。最初に出会ってから何週間も消えないから、変だとは思っていたんだけど、魔法に関連する物なんだ。

「そう、六芒星の刻印。ニルギリが目を付けた魔力の持ち主に付けるのよ。そこから徐々に魔力を採ってるの」
「徐々にって、放っておくとどうなるの?」
「最後には魔力を全部吸い取られるわ。そうなったら、魔法少女としても、人間としても使い物にならないわね」
「だからシナモンはニルギリを捕まえようとしてたんだ」
「あの娘も話してなかったのね……変身前は素直なのに、まったく」

 呆れたように話すキャンディ。そういえばシナモンの元の姿ってどんな女の子なんだろう。素直って言ったって、あのシナモンでしょ。

「シナモンの変身前って?」
「そのうち分かるわよ。それよりシナモンに魔力が十分に行き渡ったみたいね」
「もういいの? 大丈夫なの?」
「最後に、魔力を混ぜ合わせなきゃならないの。方法はね……」

 最後の仕上げについてキャンディが説明してくれる。性質の違う魔力、つまりボクとシナモンの魔力を混ぜ合わせないと、シナモンの魔力補給にはならないらしいんだ。でもその方法っていうのが……

「ええっ、キスぅ?」

 口移しで魔力を渡すんだって。ちょっと待ってよ。シナモンとキスしなきゃならないって事じゃない。そりゃシナモンを助けたいけど、ちょっとためらってしまう。だって、女の子とキスだよ。まあ、ボクの半分はみるくだから、全然イヤって訳じゃないけど、半分はれもんだし……

「どうしたの? 早く」
「だって、女の子どうし……」
「人工呼吸だってあるでしょ! つべこべ言わないの!」

 問答無用とばかりに、ボクの背中を蹴るキャンディ。分かったよ……やればいいんだよね、やれば。人工呼吸のような物だから、ボクのファーストキスは別だからね。ん? この場合れもんのファーストキス? みるくのファーストキス? みるくなボクにとってはいいんだけど、れもんなボクとしては複雑……

「いい加減に観念なさい!」

 あ、キャンディが切れた。ルフナとエリヤは黙ってみている。ええ、覚悟を決めて。シナモンの顔を両手で抱えるようにして、顔を近づける。こうしてみるとシナモンってかわいい……って何考えてるんだボクは。う〜ん、恥ずかしいから目をつぶるね。

「……」

 ボクの唇にシナモンの唇が触れるのを感じる。柔らかいな。こんな感じだったら、シナモンとのキスだって悪くないな……このまま……

「そのまま自然に、魔力が流れるに任せて……」

 キャンディが声をかけてくるんだけど、なんか遠くに聞こえる感じ。魔力が流れるって、このままでいいのかな? ボクはこのままいたいんだけど……

「そう、お互いの魔力を感じればいいのよ」

 ボクの魔力と……シナモンの魔力……普段のタカビーな態度とは違った優しい魔力……そうか、シナモンって……

「ティンクル、もういいわよ」

 え?

「もういいの。いつまでやってるのよ、まったく」

 キャンディの声にシナモンから離れたけど、なんか頭がぼーっとしてきちゃってる。どうしちゃったんだろう、ボク。何も考えられないや。急に眠くなってきたような気がする。

「あーあ、この娘たち、長く口づけしてるから……」
「ティンクルは大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫よ。でもちょっと魔力をシナモンに与えすぎたわね。一晩寝れば回復するわよ」
「しかしニルギリとはまた厄介な話だな」
「そうね。この娘達には荷が重いかも……もう一人くらい欲しいわね」
「俺たちはそこまで面倒見られないぞ」
「セーロンだってただ見てるだけじゃないのよ。いずれ分かるわ」

 キャンディとルフナが何か話しているけど、ボクの頭には入ってこない。このまま寝ちゃいそう……ボクの魔力も少なくなってるんだ……


  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  


『ちゅんちゅん……』

 うん……もう朝? 昨日僕……ティンクルがシナモンを助けるために魔力をあげたんだっけ。それで今朝ティンクルからみるくに戻っちゃったんだ。隣ですやすや寝てるのは、れもん。するとシナモンは? 体を起こして周りを見渡すけど、もちろんシナモンはいない。

「シナモン……」

 開け放たれた窓。たぶん妖精のキャンディと一緒に出て行ったんだ。結局元の姿は分からなかったけど、まあいいや。そっと自分の唇に手を当ててみる。シナモンの魔力はどこかで感じた事があるんだ。身近に感じてる魔力。

「おはようございます、みるくさん」
「あ、エリヤ、おはよう。あれから僕たちどうなったんだい?」
「シナモンさんに魔力を分けたせいで、ティンクルも疲れちゃったんです」
「そのまま寝ちゃった訳か。そのシナモンはどこ行ったか知ってる?」
「出て行ったみたい……ですね」

 遅れてれもんとルフナが起きてきた。れもんの肩の上にちょこんと乗っているルフナ。それにれもんが話しかける。

「昨日の話……あのニルギリって黒猫を捕まえなきゃ、私たち……ティンクルが危ないんでしょ」
「ああ、キャンディの話通りならな」
「信じられない話ってわけ?」
「俺たちだって驚いてるんだ。言ってみればいにしえの妖精なんだぜ」
「そういえばシナモンは?」

 今更ながらシナモンがいない事に気が付くれもん。僕は無言で開いている窓を指さした。れもんが身を乗り出したところで、シナモンが見つかる訳じゃない。見えるのは通りを挟んでけいひ君達の家くらいかな。

「お礼の一つも言っていけばいいのに」
「でも悪気があるやつじゃないよな、シナモンも」
「そうね。感じたのは優しい魔力だったし。でもあの魔力ってどっかで感じたのよね」

「れもんもそう思うか。でも二つの魔力が混じってるみたいで、よく思い出せないんだよな」
「私も思った」

 シナモンの魔力について考えていた僕たちを呼ぶ声がする。お母さんだ。

「みるくー、れもんー、ごはんよー。降りてらっしゃーい」
「「はーい」」


  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  


「「いってきまーす」」

 朝ご飯を食べ終えて、学校へと向かう僕とれもん。行ってきますの挨拶をしながら玄関のドアを開けると、りんごちゃんとけいひ君が待っていた。

「おはよー、みるく君、れもんちゃん」
「おはよう……ございます」

 玄関先で待ってたのは、向かいに住む出水りんごちゃんと出水けいひ君。最近引っ越してきたんだけど、僕と同じクラスに転校してきたんだ。それでいつも一緒に登校してるって訳。

「おはよ、けいひ君にりんごちゃん」
「おはー」

 朝のあいさつも済ませて、さあ学校に行こうとしたところで、けいひ君がさりげなく僕の手を取る。あ、ちょっと……

「さ、学校行こうよ」
「けいひ君、手を繋いで学校行くのもちょっと……」
「イヤなの? よく仲のいい女の子同士でよくやってるじゃない」
「イヤって訳じゃ。だいいち僕達は男同士だし……」

 戸惑っている僕にれもんとりんごちゃんが声をかける。あ、先に行っちゃったみたいだ。けいひくんと取り残される僕。

「お兄ちゃん、早く!」
「けいひ……置いてきますよ……」

 ちょっとだけ名残惜しそうに、ちょっと強く僕の手を握ってから放すけいひ君。今、握られたときの感じ……どこかで感じたような……

「お姉ちゃん、わかってるよ。さ、みるく君、行こうよ」
「う、うん……」

 もう手は握ってないけど、感覚が残ってる。この感覚、いや魔力って……けいひ君……



あとがき

 お待たせしました。間があいてしまいましたが、みらくる☆ティンクル第3話です。今回でやっと黒猫の正体と目的が明かされました。でも、ただ魔力を集めているだけじゃないんです。それはティンクル達との関わりで明らかになってきます。それにしてもシナモンの正体、みるく達もそろそろ気づきかけているかも。



<次回予告>

 れもんです。久しぶりにパパが海外出張から帰ってくるんだ。空港へ迎えに行ったらそこである事件が。そこで出会った男の子が私達のクラスに転校してきたんだけど、実はそっくりな女の子だったの。なんか拳法道場の子で、体験入門なんてやらされちゃうのよね。そして私達の前に新たな魔法少女が? 次回第4話「そんな魔法の使い方(仮)」に、みらくる☆グローイン!

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